添付一覧
○公共事業の実施に伴う用地取得等に関する行政監察結果に基づく勧告について
(昭和六一年一二月二五日)
(衛計第一四五号)
(各都道府県知事あて厚生省生活衛生局水道環境部長通知)
昭和五九年度に実施調査が行われた標記について、昭和六一年七月一二日に総務庁長官から厚生大臣に別添の内容で勧告が行われたところであるが、環境衛生施設整備事業の実施に当たつては、左記の事項に留意のうえ、損失補償の的確な執行と、用地取得の効率化が図られるよう、貴管下の関係市町村長及び関係水道事業者等に対しよろしく指導されたい。
記
一 土地価格、建物移転料、営業補償、立木補償、残地補償及び漁業補償に係る額の算定に当たつては、公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱に基づく基準及びこれに基づく運用上の諸規定に基づき的確に実施するよう努めること。
二 工事振動及び地盤変動の事業損失については、「公共事業に係る工事の施行に起因する地盤変動により生じた建物等の損害等に係る事務処理要領」(昭和六一年四月一日付け建設省経整発第二二―二号)を参考として統一的な運用に努めること。
三 用地取得業務のうち、物件調査業務、補償額算出業務及び登記業務について、可能な範囲で民間委託の実施に努めること。
四 用地取得業務が難航している事業については、詳細な原因分析を行い、用地取得の効率化を図るための的確な対応に努めること。
別添
公共事業の実施に伴う用地取得等に関する行政監察結果に基づく勧告
―損失補償を中心として―
(昭和六一年七月)
(総務庁行政監察局)
前書き
公共事業の円滑な実施により社会資本の整備を推進していくためには、効率的な用地の取得等が必要であり、その用地取得等に際しては、的確かつ公平な補償が実施されなければならない。
公共用地の取得等に伴つて生ずる損失に対しては、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和三七年六月二九日付け閣議決定。以下「補償基準要綱」という。)に基づき補償を行うこととされているが、同要綱及び公共事業施行者(以下「起業者」という。)の損失補償基準(以下「補償基準」という。)が制定されて以来、二○年以上も経過し、この間、用地取得を取り巻く情勢も変化してきており、より的確かつ公平な補償を実施するためには、補償基準等の整備、用地取得業務の合理化等が必要となつている。
また、第二次臨時行政調査会の基本答申(昭和五七年七月三○日)においても、社会的に妥当と認められる範囲を超えるような補償が行われることのないよう適正な補償の在り方について検討することが求められるなど公共事業に伴う用地取得に当たつては、適正な補償を実施することが要請されている。
この監察は、このような状況を踏まえて、公共用地の取得等に伴う損失補償業務を中心に調査を実施したものである。
目次
一 補償基準等の整備
(一) 一般補償基準の整備等
ア 土地価格の評価基準の整備等
イ 土地の取得等により通常生ずる損失補償基準の整備等
(二) 事業損失処理基準の整備
(三) 生活再建措置に係る要領等の整備
二 用地取得業務の合理化
(一) 民間委託の推進等
(二) 用地取得業務の効率化
一 補償基準等の整備
(一) 一般補償基準の整備等
ア 土地価格の評価基準の整備等
公共用地の取得等に伴つて生ずる損失については、公共事業の円滑な遂行と適正な補償の確保を図るため、補償基準要綱に基づき、各起業者は、それぞれ補償基準を制定し、個々の補償を実施している。
損失に対する補償は、土地等の取得等に係る補償と土地等の取得等により通常生ずる損失の補償とに大別されるが、この補償額算定業務の中でも、適正な土地価格を求めるための評価事務が重要なものとなつており、今回、各起業者における土地評価の実施状況等を調査した結果、次のような問題がある。
(1) 補償基準要綱等では、土地評価の基本を規定しているだけで土地評価のための具体的手続等が規定されていないことなどから、調査対象起業者の多くは、土地評価の基準等を整備していない状況となつている。このこともあつて、起業者の中には、土地価格の評価手続等を的確に行つていないものがみられる。
また、土地の取得に係る補償額の算定に際して、土地の取引事例等の時点修正、奥行、形状等の個別的要因の比準等が土地評価の基準等からみて的確に実施されていないものがみられる。
(2) 起業者の中には、建設省が自己の直轄事業に適用するために制定した「土地評価事務要領」(昭和四一年一○月二八日付け建設省厚発第五九号)等によつて、土地評価のための基準等を整備しているものがあるが、この「土地評価事務要領」等においては、土地の取引事例等の時点修正を行う際に必要な変動率の指標及び土地の種別を宅地見込地として評価する場合の指標が明確となつていない。このため、時点修正に必要な変動率の指標の適用及び宅地見込地としての評価が的確に行われていないものがみられる。
したがつて、関係省庁は、土地価格の評価、算定を的確に実施するため、建設省の「土地評価事務要領」等を参考として、相互の協議の下に、共通の土地評価のための基準等を策定し、さらに、関係起業者に対しこれに準拠した基準等を整備するとともに、土地価格の評価、算定を的確に実施するよう指導する必要がある。
(建設省、農林水産省、運輸省、郵政省、通商産業省、厚生省、文部省)
また、建設省は、現行の「土地評価事務要領」等について、土地の取引事例等の時点修正を行う際に適用する変動率の指標及び土地の種別を宅地見込地として評価する場合の指標を明確化する必要がある。
イ 土地の取得等により通常生ずる損失補償基準の整備等
取得対象地に家屋、立木等の物件が存在していたり、当該地において営業、農業等の活動が営まれている場合には、土地の取得に伴つて移転等を余儀なくされること又は経済活動を休廃止することにより損失を受けることが多く、このような場合において、起業者は、通常生ずる損失額等の補償(以下「通常損失補償」という。)をするものとされており、また、事業施行区域内において漁業権等の権利が設定されている場合には、その消滅、制限に係る損失額等の補償(以下「漁業補償」という。)をするものとされている。
今回、調査対象とした起業者における通常損失補償等に係る基準及び同基準に基づく補償額算定の状況について調査した結果、次のような問題がある。
(1) 建物移転料算定に用いる諸経費率、移転先選定補償日数及び就業不能日数に係る算定基準が起業者間で区々となつている。
また、建物移転補償について、起業者の中には補償基準等からみて移転料等の算定方法が的確なものとなつていないものがみられる。
(2) 営業休止補償額の算定に用いる建物移転工法別工期及び得意先喪失の補償期間に係る算定基準が起業者間で区々となつているほか、赤字営業等の場合における収益額の把握方法及び補正方法については、補償基準要綱等に明示されていないため、その取扱いは区々となつている。
また、営業休止補償について、起業者の中には補償基準等からみて補償額の算定方法が的確なものとなつていないものがみられる。
(3) 立木補償及び残地補償について、起業者の中には補償基準等からみて補償額の算定方法が的確なものとなつていないものがみられる。
(4) 漁業補償について、起業者の中には補償基準等に定める補償額算定の基礎的事項である漁獲高、収益額等を的確に把握した上で、補償額の算定を行つていないものなどがみられる。
したがつて、関係省庁は、的確かつ公平な補償を実施するため次の措置を講ずる必要がある。
(1) 建物移転補償については、相互の協議の下に、諸経費率、移転先選定補償日数及び就業不能日数に係る共通の算定基準を策定すること。また、関係起業者に対して、それに準拠した基準を整備するとともに、補償基準等に基づき補償額の算定を的確に実施するよう指導すること。
(2) 営業休止補償については、相互の協議の下に、建物移転工法別工期、得意先喪失の補償期間及び赤字営業等の場合における収益額の把握・補正方法に係る共通の算定基準を策定すること。また、関係起業者に対して、それに準拠した基準を整備するとともに、補償基準等に基づき補償額の算定を的確に実施するよう指導すること。
(3) 立木補償及び残地補償については、補償基準に基づき補償額の算定を的確に実施するよう関係起業者を指導すること。
(4) 漁業補償については、補償基準等に基づき補償額算定の基礎的事項である漁獲高、収益額等を的確に把握して、補償額の算定を行うよう関係起業者を指導すること。
(建設省、農林水産省、運輸省、郵政省、通商産業省、厚生省)
(二) 事業損失処理基準の整備
公共事業の実施により事業用地の周辺地域において発生する日照阻害、電波障害、工事振動、水枯渇等による不利益又は損害であるいわゆる事業損失は、近年、都市化の進展と土地利用の高度化、公共事業の規模拡大、地域住民の権利意識の高揚などに伴つて表面化し、また、問題化する例も依然として少なくない。このように、公共事業が周辺住民の生活環境に与える影響も看過することができないものとなつており、また、各種の事業損失を巡る問題が公共事業施行上の障害となつており、これらを解決することが重要な課題となつている。
事業損失については補償基準要綱では損失補償として取り扱わないこととされているが、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱の施行について」(昭和三七年六月二九日付け閣議了解)により、損害等が社会生活上受忍すべき範囲を超えるものである場合には、あらかじめ賠償することは差し支えないものとされており、このような場合においては各起業者が個々に対応し、処理しているのが現状である。起業者の対応としては、まず周辺住民等に対して、可能な限り、この事業損失の防止、軽減のための計画上又は工法上配慮することが必要となり、また、事業施行に伴い不可避的に損害等が発生する場合には、公平、的確な対応措置がとられなければならず、そのためには、各種損失の認定等の基準を可能な限り明確にしておくことが必要である。
今回、各起業者における事業損失処理の状況を調査した結果、事業損失類型のうち、日照阻害、電波障害及び水枯渇については、それぞれの事業損失に関する処理基準が国において定められ、統一的に運用されているが、処理基準のない事業損失類型、特に損失処理件数の多い工事振動及び地盤変動については、各起業者の処理内容が統一的でないことから公平性を欠く結果となつているとともに、起業者の中には、事前調査を実施しなかつたため、工事と損害等との因果関係を究明できないまま費用負担を行つているものなど事業損失に係る処理が的確に実施されていないものがみられる。
したがつて、関係省庁は、公共事業の円滑な実施と事業損失に係る処理を公平、的確に行うため、相互の協議の下に、特に損失処理件数の多い工事振動及び地盤変動の事業損失類型について処理基準を策定するとともに、これを基に統一的な運用を行うよう関係起業者を指導する必要がある。
(建設省、農林水産省、運輸省、郵政省、通商産業省、厚生省)
(三) 生活再建措置に係る要領等の整備
近年における公共事業の実施に伴う用地取得に当たつては、土地の提供により生活の基礎を失うこととなる者等から、現行の補償基準要綱等に規定されている補償以外の措置として、代替地の提供を始め、就業あつせん、融資助成等のいわゆる生活再建措置についての要求が強く出されており、これらの適切な措置なくしては用地取得も円滑に進ちよくしない状況にある。
この生活再建措置についての取扱いは、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱の施行について」により、必要により、生活再建のため土地又は建物の取得のあつせん及び職業の紹介又は指導の措置を講ずるよう努めるものとされ、また、公共用地の取得に関する特別措置法(昭和三六年法律第一五○号)等の個別事業法においても、閣議了解と同内容の努力義務規定となつているため、各事業においては、それぞれ個別に判断し措置されている実情にある。
今回、公共事業の実施に伴う各種の生活再建措置の実施状況を調査した結果、各種の措置のうち代替地対策が圧倒的に多く、公共事業全般においてこの対策がとられており、また、ダム建設事業においては、長年生活してきた土地から移転を余儀なくされるだけでなく、就労の場を失うこととなるため、各種の生活再建措置が広範にとられている。
しかし、(1)代替地対策については、具体的措置に際し、指針となる要領等がないこともあつて、その措置主体、措置内容等は各事業により区々となつており、また、被補償者に対して的確な対応ができない場合には、当該用地の取得が難航し、事業が遅延するなど所期の目的の達成が遅れているものも認められる、(2)ダム建設事業においては、他の公共事業と異なり、集落全体が水没するということも少なくなく、関係住民の生活再建をどのように図るかが用地取得を円滑に進める上で重要な課題となつている。ダム建設事業においてとられている各種の生活再建措置については、起業者のみで実施し得ない場合が多く、地元地方公共団体、関係機関等との協力体制を十分に図ることなしには、総合的に各種の対策がとれない状況となつているが、起業者等がこれらの対策を具体的に実施する場合の指針となる要領等が整備されていないこともあつて、起業者等の中には被補償者等に対し的確に対応できず、用地取得が遅延しているものや他の事業箇所における措置内容を先例とした要求につながる傾向も認められる。
したがつて、関係省庁は、公共事業の円滑な実施と公平、的確な措置を図るため、相互の協議の下に、各公共事業の実施に伴い必要となる代替地対策等の生活再建措置について、措置要領等を策定するとともに、これを基に的確な運用を図るよう関係起業者を指導する必要がある。
(建設省、農林水産省、運輸省、郵政省、通商産業省、厚生省、国土庁)
二 用地取得業務の合理化
(一) 民間委託の推進等
近年、用地取得業務は、公共事業の大規模化等に伴い、単に物件の調査、評価、補償額の算定及び交渉並びに用地取得契約の締結にとどまらず、事業損失の処理、被補償者の生活再建対策等広い分野にわたる総合的な対策が必要とされるとともに、地域住民の権利意識の高揚等に伴い、複雑、多様化してきている。
これに対し、各起業者における用地取得業務の体制は、用地担当職員が減少傾向にあり、特に専門的な知識、技能を有する職員が不足しているなどの状況にあり、用地取得の困難性は増大している。一方、用地取得業務に関し深い知識を備え、公平な観点から業務を処理することのできる民間の補償コンサルタント業者が全国的に育成されてきており、このような用地取得の困難な状況に的確に対応し、業務を円滑かつ効率的に進めていくためには、用地取得業務の一部を民間に委託する必要性が一層高まつている。
用地取得業務の民間委託については、従来から建設省を中心として積極的な取組が行われ、既に用地測量や土地の鑑定評価業務はかなり民間委託が進んでいるが、今回、各起業者における用地取得の業務別委託状況を調査した結果、起業者自らの責任で実施した方が効率的である用地交渉を除き、次のとおり、更に民間委託を推進する余地が認められる。
(1) 補償額算出業務は、物件調査(建物、工作物、立木等)業務に比し全般的に民間委託が低調となつている。
また、最も民間委託になじむと認められる物件調査業務については、市町において特に低調となつている。
(2) 登記業務は、各起業者とも民間委託が低調となつている。
また、調査対象起業者のうち、日本道路公団及び本州四国連絡橋公団については、都道府県等の機関に原則として用地取得業務全般を委託しているが、起業者として公団自ら行う必要がある事業損失処理等の事務のほか、委託に伴う審査等の事務を行うために、出先の建設局及び工事事務所に相当の用地担当職員を配置しているところもあり、必ずしも委託に伴う合理化が図られていない状況にある。
したがつて、関係省庁は、用地取得業務の合理化を図るため、民間委託が十分に進んでいない業務について、次のような措置を講ずる必要がある。
(1) 補償額算出業務については、物件調査と一体的に委託を行い、業務の効率化を図るなど民間委託の推進を図るよう関係起業者を指導すること。
また、物件調査業務については、民間委託の推進を図るよう市町を指導すること。
(2) 登記業務については、その業務量等を考慮して漸次民間委託の推進を図るよう関係起業者を指導すること。
(建設省、農林水産省、運輸省、郵政省、通商産業省、厚生省)
また、建設省は、日本道路公団及び本州四国連絡橋公団に対し、用地取得業務の都道府県等の機関への委託に伴い、出先の建設局及び工事事務所における用地事務分担の見直し等合理化を一層図るよう指導する必要がある。
(二) 用地取得業務の効率化
近年、公共事業の実施に伴う用地取得業務は、補償額や代替地等について土地所有者等から多様な要求が出されるなど、従来にも増して困難となつているのが実情である。公共用地の取得交渉が難航し長期化すると、事業の着手が遅延するばかりでなく、工事に一部着手している場合は早期の事業完成、供用が見込めなくなり、また、既に投下している公共投資が遊休化することともなる。
今回調査対象とした起業者において用地取得が難航している例を抽出してその原因をみると、補償額に不満があるもの、代替地の要求に係るものが多くなつており、中には交渉期間が著しく長期化し、事業着手が大幅に遅延している例も少なくない。これらの用地取得が難航している事案について、通常、起業者は解決が困難であるにもかかわらず任意交渉を続けており、起業者が土地収用法(昭和二六年法律第二一九号)を活用し解決を図つているものはわずかであり、難航事案の中には収用手続の機会を失い、工事が中断するなど支障が生じている例も認められる。
したがつて、関係省庁は、用地取得業務の効率化及び公共事業の計画的な実施を図るため、用地取得が難航している事案については詳細な原因分析を行い、事業の性格、現地の状況等に即して、例えば、土地収用法に基づく事業認定手続に移行するなど、的確な対応に努めるよう関係起業者を指導する必要がある。
(建設省、農林水産省、運輸省、郵政省、通商産業省、厚生省)
別添
建設省経整発第二二号
昭和六一年四月一日
殿
建設事務次官
公共事業に係る工事の施行に起因する地盤変動により生じた建物等の損害等に係る事務処理要領の制定について
地盤変動により生じた建物等の損害等に係る「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱の施行について(昭和三七年六月二七日閣議了解)」の第三の運用について、別紙のとおり定めたので、通知する。
(別紙)
公共事業に係る工事の施行に起因する地盤変動により生じた建物等の損害等に係る事務処理要領
(趣旨)
第一条 建設省の直轄の公共事業に係る工事の施行により不可避的に発生した地盤変動により、建物その他の工作物(以下「建物等」という。)に損害等が生じた場合の費用の負担等に関する事務処理については、この要領に定めるところによるものとする。
(事前の調査等)
第二条 公共事業に係る施設の規模、構造及び工法並びに工事箇所の地盤の状況等から判断して、工事の施行による地盤変動により建物等に損害等が生ずるおそれがあると認められるときは、当該損害等に対する措置を迅速かつ的確に行うため、工事の着手に先立ち、又は工事の施行中に起業地及びその周辺地域において、次の各号に掲げる事項のうち必要と認められるものについて調査を行うものとする。
(一) 地形及び地質の状況
(二) 地下水の状況
(三) 過去の地盤変動の発生の状況及びその原因
(四) 地盤変動の原因となるおそれのある他の工事等の有無及びその内容
(五) 建物等の配置及び現況
(六) その他必要な事項
(地盤変動の原因等の調査)
第三条 起業地の周辺地域の建物等の所有者又は使用貸借若しくは賃貸借による権利に基づき建物等を使用する者(以下「使用者」という。)から地盤変動による建物等の損害等(以下単に「地盤変動による損害等」という。)の発生の申出があつたときは、地盤変動による建物等の損害等と工事との因果関係について、速やかに調査を行うものとする。
2 前項の調査は、次の各号に掲げる事項のうち必要と認められるものについて行うものとする。
(一) 工事着手時の地形及び地下水位と地盤変動による損害等の発生時の地形及び地下水位との比較
(二) 工事着手前、工事中又は工事完了後における地形及び地下水位の変化
(三) 工事の工程と地盤変動による損害等の発生の時間的関連性
(四) 工事による湧水の発生時期及びその量
(五) 工事箇所と地盤変動による損害等の発生地点との平面的及び立体的な位置関係
(六) 地盤変動の原因と見込まれる他の工事等の影響の有無及びその程度
(七) その他必要な事項
(損害等が生じた建物等の調査)
第四条 前条の調査の結果等から建物等の損害等が公共事業に係る工事の施行に起因する地盤変動により生じたものであると認められるときは、当該損害等が生じた建物等の状況について、速やかに調査を行うものとする。この場合において、地盤変動が継続しているときは、その状況を勘案して継続して調査を行うものとする。
(応急措置)
第五条 地盤変動が発生したことにより、建物等の所有者に第六条第二項に規定する社会生活上受忍すべき範囲(以下「受忍の範囲」という。)を超える損害等が生じ、又は生ずると見込まれる場合において、前三条の調査の結果等から当該損害等の発生が当該工事による影響と認められ、かつ、緊急に措置を講ずる必要があると認められるときは、合理的かつ妥当な範囲で、応急措置を講ずるものとする。
(費用負担の要件)
第六条 第三条及び第四条の調査の結果等から公共事業に係る工事の施行により発生したと認められる地盤変動により、建物等の所有者に受忍の範囲を超える損害等が生じた場合においては、当該損害等をてん補するために必要な最小限度の費用を負担することができるものとする。
2 前項に規定する「受忍の範囲を超える損害等」とは、建物等の全部又は一部が損傷し、又は損壊することにより、建物等が通常有する機能を損なわれることをいうものとする。
(費用の負担)
第七条 前条第一項の規定により負担する費用は、原則として、損害等が生じた建物等を従前の状態に修復し、又は復元すること(以下「原状回復」という。)に要する費用とするものとする。この場合において、原状回復は、建物等の使用目的及び使用状況、損害等の発生箇所及び発生状況並びに建物等の経過年数等を総合的に判断して、技術的及び経済的に合理的かつ妥当な範囲で行うものとする。
2 前項の規定により負担する原状回復に要する費用は、次の各号に掲げる方法のうち技術的及び経済的に合理的と認めるものによる費用とし、付録の式によつて算定するものとする。
(一) 建物等の損傷箇所を補修する方法(建物等に生じた損傷が構造的損傷を伴つていないため、主として壁、床、天井等の仕上げ部を補修することによつて原状回復を行う方法)
(二) 建物等の構造部を矯正する方法(建物等に生じた損傷が構造的損傷を伴つているため、基礎、土台、柱等の構造部を矯正したうえ前号の補修をすることによつて原状回復を行う方法)
(三) 建物等を復元する方法(建物等に生じた損傷が建物等の全体に及び前二号に掲げる方法によつては原状回復することが困難であるため、従前の建物等に照応する建物等を建設することによつて原状回復を行う方法)
(応急措置に要する費用の負担)
第八条 第五条に規定する場合において、建物等の所有者又は使用者が応急措置を講じたときは、当該措置に要する費用のうち適正に算定した額を負担するものとする。
(その他の損害等に対する費用の負担)
第九条 前二条の規定による費用の負担のほか、建物等が著しく損傷したことによつて建物等の所有者又は使用者が仮住居の使用、営業の一時休止等を余儀なくされたことによる損害等については、その損害等の程度に応じて「建設省の直轄の公共事業の施行に伴う損失補償基準(昭和三八年三月二○日付け建設省訓第五号)」に定めるところに準じて算定した額を負担することができるものとする。
(費用負担の請求期限)
第一○条 費用の負担は、建物等の所有者又は使用者から当該公共事業に係る工事の完了の日から一年を経過する日までに請求があつた場合に限り行うことができるものとする。
(費用負担の方法)
第一一条 費用の負担は、原則として、建物等の所有者又は使用者に各人別に金銭をもつて行うものとする。ただし、他の法令の定めがある場合においては、当該法令の定めるところによるものとする。
2 前項の負担は、渡し切りとするものとする。
(複合原因の場合の協議)
第一二条 地盤変動による損害等が他の工事等の施行に係るものと複合して起因していることが明らかな場合は、当該工事等の施行者と損害等に係る費用の負担の割合等について協議するものとする。
附 則
1 この要領は、昭和六一年四月一日から適用する。
2 費用の負担について、既に協議を行つているものについては、この要領によらないことができるものとする。
3 建設省の直轄の公共事業に係る工事の施行により生じた工事振動により建物等に損害等が生じた場合の費用の負担については、当分の間、この要領に準じて処理するものとする。
付録
一 建物等の損傷箇所を補修する方法
費用負担額=仮設工事費+補修工事費+諸経費
イ 仮設工事費は、建物等の補修工事を行うために必要と認められる足場の架設、清掃跡片付け等に要する費用とする。
ロ 補修工事費は、建物等の補修工事を行うために必要と認められる亀裂の目地詰め、建具の調整等に要する費用とする。補修の方法と範囲については、別表修復基準に準拠するものとする。
ハ 諸経費は、建物等の損傷箇所の補修に伴い必要となるその他の経費とする。
二 建物等の構造部を矯正する方法
費用負担額=仮設工事費+矯正工事費+補修工事費+諸経費
イ 仮設工事費は、建物等の矯正工事及び補修工事を行うために必要と認められる遺形墨出し、足場の架設、清掃跡片付け等に要する費用とする。
ロ 矯正工事費は、土台、柱等の構造部又は基礎の傾斜、沈下等の矯正工事に要する費用とする。ただし、土台、柱等の構造部又は基礎に係る従前の損傷が拡大した場合で、従前の状態、拡大の程度等を勘案して必要と認められるときは、適正に定めた額を減額するものとする。
ハ 補修工事費は、建物等の補修工事を行うために必要と認められる亀裂の目地詰め、建具の調整等に要する費用とする。補修の方法と範囲については、別表修復基準に準拠するものとする。
ニ 諸経費は、建物等の構造部の矯正に伴い必要となるその他の経費とする。
三 建物等を復元する方法
費用負担額=仮設工事費+解体工事費+復元工事費+諸経費
イ 仮設工事費は、建物等の解体工事及び復元工事を行うために必要と認められる遺形墨出し、足場の架設、清掃跡片付け等に要する費用とする。
ロ 解体工事費は、従前の損壊した建物等の解体、撤去及び廃材処分に要する費用とする。
ハ 復元工事費は、従前の建物等に照応する建物等を建設する工事に要する費用とする。
ニ 諸経費は、建物等の復元に伴い必要となるその他の経費とする。
別表
修復基準
損傷の発生箇所 |
修復の方法と範囲 |
|
損傷が新たに発生したもの |
従前の損傷が拡大したもの |
|
外壁 |
発生箇所に係る壁面を従前と同程度の仕上げ材で塗り替え、又は取り替える。ただし、ちり切れにあつては、発生箇所を充てんする。 |
発生箇所を充てんし、又は従前と同程度の仕上げ材で補修する。 |
内壁天井 |
発生箇所に係る壁面を従前と同程度の仕上げ材で塗り替え、又は張り替える。ただし、発生箇所が納戸、押入れ等の場合又はちり切れの場合にあつては、発生箇所を充てんする。 経過年数が一○年未満の建物及び維持管理の状態がこれと同程度と認められる建物で発生箇所が納戸、押入れ等以外の居室等の場合は、当該居室等のすべての壁面を従前と同程度の仕上げ材で塗り替え、又は張り替えることができるものとする。 |
発生箇所を充てんし、又は従前と同程度の材料で補修する。ただし、ちり切れにあつては、原則として、補修しないものとする。 |
建具 |
建付けを調整する。ただし、建付けを調整することが困難な場合にあつては、建具を新設することができるものとする。 |
建付けを調整する。ただし、建付けを調整することが困難な場合にあつては、建具を新設することができるものとする。 |
タイル類 |
目地切れの場合にあつては、発生箇所の目地詰めをし、亀裂又は破損の場合にあつては、発生箇所を従前と同程度の仕上げ材で張り替える。ただし、浴室、台所等の水を使用する箇所で漏水のおそれのある場合は、必要な範囲で張り替えることができるものとする。 玄関回り等で亀裂又は破損が生じた場合は、張り面のすべてを従前と同程度の仕上げ材で張り替えることができるものとする。 |
発生箇所を充てんする。ただし、発生箇所が浴室、台所等の水を使用する箇所で損傷の拡大により漏水のおそれのある場合は、必要な範囲で張り替えることができるものとする。 |
コンクリート叩 |
コンクリート又はモルタルで充てんし、又は不陸整正する。ただし、損傷が著しい場合は、必要な範囲で解体し、新たに打設することができるものとする。 |
コンクリート又はモルタルで充てんし、又は不陸整正する。 |
屋根 |
瓦ずれが生じている場合は、ふき直し、瓦の破損等が生じている場合は、従前と同程度の瓦を補足し、ふき直す。 |
瓦ずれが生じている場合は、ふき直し、瓦の破損等が生じている場合は、従前と同程度の瓦を補足し、ふき直す。 |
衛生器具 |
従前と同程度の器具を新設する。 |
器具の種類及び損傷の状況を考慮して必要な範囲を補修する。ただし、補修では回復が困難と認められる場合は、従前と同程度の器具を新設することができるものとする。 |
その他 |
発生箇所、損傷の状況等を考慮して従前の状態又は機能に回復することを原則として補修する。 |
発生箇所、損傷の状況等を考慮して従前の状態又は機能に回復することを原則として補修する。 |