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○建築物における衛生的環境の確保に関する法律等の施行について

(昭和四六年三月一一日)

(環衛第四四号)

(各都道府県知事・各政令市市長あて厚生省環境衛生局長通達)

建築物における衛生的環境の確保に関する法律(以下「法」という。)は、第六三国会において成立し、昭和四五年四月一四日法律第二○号をもつて公布、同年一○月一三日から施行されたが、(建築物における衛生的環境の確保に関する法律の施行期日を定める政令(昭和四五年一○月一二日政令第三○三号))、これに基づき建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令(以下「令」という。)が昭和四五年一○月一二日政令第三○四号をもつて公布、一○月一三日から施行され、建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則(以下「規則」という。)が昭和四六年一月二一日厚生省令第二号をもつて公布、即日施行された。

なお、昭和四五年一○月一二日に厚生省令第五三号をもつて公布、一○月一三日から施行された建築物における衛生的環境の確保に関する法律に基づく特定建築物についての届出に関する省令は、規則に吸収され、規則の公布施行に伴い廃止された。

本法は、多数の者が使用し又は利用する建築物の維持管理に関し環境衛生上必要な事項を定めることにより、その建築物における衛生的な環境の確保を図り、もつて公衆衛生上の向上及び増進に資することを目的とするものである。

従来は興行場法、旅館業法等の営業取締法規に基づく衛生措置の規制、労働基準法に基づく労働衛生面の規制、学校保健法に基づく学校環境衛生の維持等を除いては、建築物内の環境衛生の確保に関する一般的な法規制を欠いており、そのため環境衛生上の配慮に欠けていた状況にかんがみ、建築物の環境衛生上の維持管理に関する一般法としての性格を持つ本法が制定されたものである。

また、その規定内容についても、維持管理に関して直接的な規制を行なうというよりはむしろ、環境衛生上良好な状態の実現をめざすことに重点を置いている点に本法の特色がある。

このように、本法は建築物衛生行政に一般的な法律的根拠を与えたものであり、その運用の適否は建築物における生活環境の改善に影響するところがきわめて大きいので、次の事項に御留意のうえ、これが運用に遺憾のないようにされたい。

第一 法制定の趣旨

近年建築物の高層化、大型化とともにその数も益々増加する傾向にある。しかしながら、従来これらの建築物における環境衛生上の維持管理については、必ずしも十分な配慮が払われていたとはいえず、空気調和設備や給排水設備の管理の不適による生理的障害や伝染性疾患の発生、ねずみ、こん虫等の発生、その他環境衛生上好ましくない事例も指摘されてきた。このような実情にかんがみ、多数の者が使用し、又は利用する建築物の維持管理に関し環境衛生上必要な事項を定め、その建築物における衛生的な環境の確保を図り、公衆衛生の向上及び増進に資するため、本法が制定されたものであること(法第一条)。

第二 特定建築物について

法の規制を受ける特定建築物は、令第一条各号に掲げる用途(以下「特定用途」という。)すなわち興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場、店舗、事務所、学校(研修所を含む。)又は旅館の用途に供される部分の延べ面積(建築基準法施行令(昭和二五年政令第三三八号)第二条第一項第三号に規定する床面積の合計をいう。以下同じ。)が八○○○m2以上の建築物とされたが、これに該当する建築物であつても、もつぱら特定用途以外の用途に供される部分の延べ面積が特定用途に供される部分の延べ面積の五パーセントをこえるものは除くこととされたこと(法第二条、令第一条)。

一 建築物について

建築物の定義については、建築基準法(昭和二五年法律第二○一号)第二条第一号に掲げる建築物をいうこととされており、土地に定着する工作物であつて屋根及び柱若しくは壁を有するものはほとんどすべてが建築物であるが、次に掲げるものは建築物ではないこと。

(一) 鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設(信号装置、転てつ装置、列車運転用通信装置等に直接関係する施設をいい、駅の事務室、待合室、荷扱所等は含まない。)並びに跨線橋、プラットホームの上家、貯蔵槽、その他これらに類する施設

(二) 地下街(地下工作物内に連続して又は一団として設けられる店舗、事務所その他これらに類する居室を有する施設で、公衆の歩行の用に供される地下道に面するものをいう。)の地下道又は広場

なお、二棟以上の建築物が渡廊下等で連結されている場合は、その棟ごとに別に建築物となるものであること。

二 特定建築物に係る用途について

(一) 令第一条各号に掲げる特定用途は、それぞれ次に掲げるところによるものであること。

第一号関係

イ 興行場

興行場法(昭和二三年法律第一三七号)第一条第一項に定義する興行場をいうこと。

ロ 百貨店

百貨店法(昭和三一年法律第一一六号)第二条に定義する百貨店業を営むための店舗をいうこと。

ハ 集会場

会議、社交等の目的で公衆の集合する施設をいい、公民館、市民ホール、各種会館、結婚式場等がこれに該当すること。

ニ 図書館

図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して公衆の利用に供することを目的とする施設をいうこと。

ホ 博物館、美術館

歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集、保管、展示して公衆の観覧利用に供することを目的とする施設をいうこと。

ヘ 遊技場

設備を設けて公衆にマージヤン、パチンコ、卓球、ボーリング、ダンスその他の遊技をさせる施設をいうこと。

第二号関係

店舗とは、公衆に対して物品を販売し又はサービスを提供することを目的とする施設をいい、一般卸売店、小売店のほか、飲食店、喫茶店、バー、理容所、美容所その他サービス業に係る店舗を広く含むものであること。

事務所とは、事務をとることを目的とする施設をいうこと。なお、人文科学系の研究所等そこにおいて行なわれる行為が事実上事務と同視される施設については名称のいかんを問わず、事務所に該当するものであること。

また、一般の銀行等については、店舗の用途と事務所の用途とを兼ねている場合が多いが、このような場合には店舗及び事務所の用途に供されるものとして一体的に把握されるものであること。

第三号関係

第三号には、学校教育法(昭和二二年法律第二六号)第一条に規定する学校、同法第八三条に規定する各種学校のほか、各種学校の認可を受けていない施設であつて各種学校類似の教育を行なうもの及び国、地方公共団体、会社等がその職員の研修を行なうための施設(研修所)が含まれること。

第四号関係

旅館とは、旅館業法(昭和二三年法律第一三八号)第二条第一項に定義する旅館業を営むための施設をいうこと。

(二) 主たる用途に附属する用途は、その主たる用途に包含されるものであること。例えば、百貨店内の倉庫、銀行内の貸金庫、事務所内の書庫及び主として当該事務所の用に供される駐車場等は、それぞれ百貨店、銀行又は事務所という用途に包含されるものであり、倉庫又は駐車場として独立した用途部分としては取り扱わないものであること。

(三) 大規模な建築物の用途であつて特定用途以外の用途としては、具体的には、工場、作業場、病院、共同住宅、寄宿舎、駅舎、寺院及び教会(これらに附属する施設を含む。)等が考えられること。

三 延べ面積の算定について

(一) 特定用途に供される部分の延べ面積が八○○○m2以上の建築物を特定建築物とすることとされているが、この延べ面積の算定は、建築物ごとに行なうものであり、同一敷地内に数棟の建築物がある場合においても、これらを通じて延べ面積を算定するものではないこと。その延べ面積の算定に当たつては特定用途に附随する部分(廊下、機械室、便所等)及び附属する部分(附属の倉庫、駐車場等)の床面積は合算されるものであること。

なお、床面積は、建築基準法施行令(昭和二五年政令第三三八号)第二条第一項第三号に規定するところにより算定するものであるが、延べ面積については、当該用途に供される部分の床面積の合計をいうこととされており、これは建築基準法にいう延べ面積とは定義を異にするものであることに留意されたい。(建築基準法施行令第二条第一項第四号参照)

(二) (一)に該当する建築物であつても、もつぱら特定用途以外の用途に供される部分の延べ面積が特定用途に供される部分の延べ面積の五パーセントをこえるものは特定建築物としないこととされているが、この規定の適用に当たつては、特定用途とそれ以外の用途とで共用される部分(廊下、機械室、便所等)の床面積は、特定用途に供される部分の延べ面積にのみ算入されるものであること。

(三) 地下街については、地下道(広場を含む。)の部分は建築物ではないので、特定用途に供される部分の延べ面積及びもつぱら特定用途以外の用途に供される部分の延べ面積のいずれについても、地下道の部分の面積を算入しない取扱いとすること。また、建築物内に鉄道及び軌道の線路敷地内の運転、保安に関する施設、プラットホーム等が設けられている場合のこれらの部分の面積についても同様であること。

(四) 電気事業者がその事業の用に供するために特定用途と供される建築物の地階に設置したいわゆる地下式変電所や当該建築物の地階等に設置される公共駐車場は一般に当該建築物の他の部分とは管理主体及び管理系統を全く異にしており、他の部分と一体として把握することは適当でないので、これらを当該建築物の一部をなすものとしては扱わず、それらの部分の面積は、特定用途に供される部分の延べ面積及びもつぱら特定用途以外の用途に供される部分の延べ面積のいずれにも算入しないこととされたいこと。

第三 建築物環境衛生管理基準について

特定建築物の所有者、占有者その他の者で当該特定建築物の維持管理について権原を有するものは、建築物環境衛生管理基準(以下「管理基準」という。)に従つて当該特定建築物の維持管理をしなければならないこととされ、空気環境の調整、給水及び排水の管理、清掃及びねずみ、こん虫等の防除について管理基準が定められたこと(法第四条第一項、令第二条)。

管理基準は、環境衛生上良好な状態を維持するうえで必要な措置として定められたものであり、興行場法や労働基準法等の規定に基づく基準のように基準違反に対して直ちに法的措置がとられることとなる性格のものとは趣旨を異にしているが、法律上、その遵守が義務づけられることにかわりはないこと。

管理基準を遵守しなければならない者は、特定建築物の維持管理について権原を有する者であるが、これには、特定建築物の所有者、占有者のほか、これらの者との契約により維持管理業務の委託を受けた業者、法令に基づき維持管理の権原を有するものとされた者等が含まれること。したがつて、重畳的に義務者が存在することがあること。なお、所有者であつても、賃借人等との契約により、維持管理の権原を賃借人等に移譲しているような場合には、管理基準の義務者とならないこともあること。

管理基準の遵守は、特定建築物について義務づけられるものであるが、特定建築物以外の建築物で多数の者が使用、利用するものについては、管理基準に従つて維持管理をするように努めなければならないこととされたこと(法第四条第三項)。この規定は、多数の者が使用、利用しないもの(例えば、小規模の事務所、倉庫等)について適用がないことは条文上明らかであるが、これらのほか、法の趣旨からみて工場、病院等特殊環境にある建築物にも及ばないものと考えられること。

管理基準その他建築物の維持管理に関する技術的事項の詳細については、別途通知する予定であるが、当面、次の諸点について留意されたいこと。

一 空気環境の調整について

中央管理方式の空気調和設備(空気を浄化し、その温度、湿度及び流量を調節して供給(排出を含む。)をすることができる設備をいう。)を設けている場合は、居室においておおむね次の(一)から(六)までの基準に適合するように、中央管理方式の機械換気設備(空気を浄化し、その流量を調節して供給することができる設備をいう。)を設けている場合は、居室においておおむね次の(一)から(三)まで及び(六)の基準に適合するようにそれぞれ空気を浄化する等して供給をしなければならないこととされたこと(令第二条第一号イ及びロ、規則第二条)。

中央管理方式とは、各居室に供給をする空気を中央管理室等で一元的に制御することができる方式をいい、空気調和設備の場合でいえば、中央機械室からダクトにより各居室に空気を供給する方式(ダクト方式)のほか、中央機械室において浄化、減湿等の処理をした空気を供給し、さらにこれを各階、各居室等に設けた二次空気調和機械により冷却等の処理をして各居室に供給する方式(各階ユニツト方式、フアンコイルユニット方式等)がこれに含まれること。居室とは、建築基準法第二条第四号に定義されているものと同義であり、住居、執務、作業、集会、娯楽その他これらに類する目的のために継続的に使用する室をいうこと。

基準を適用する場合における測定の方法については、通則的事項として、当該特定建築物の通常の使用時間中に、居室の中央部の床上七五cm以上一二○cm以下の位置において測定することとされた(規則第三条第一号)が、「通常の使用時間中」とは、当該建築物が正常な使用状態にある時間帯内においてという意味であり、例えば残業等のために当該建築物を使用する場合等は除かれるものであること。

測定方法については、このほか、各基準事項ごとに、用いるべき測定器その他の事項が定められた(規則第三条)が、その内容は、次の(一)から(六)までに示すとおりであること。

なお、法令上所有者、占有者その他の特定建築物の維持管理について権原を有する者又は建築物環境衛生管理技術者のいずれについても、直接、測定義務は課されていないが、維持管理について権原を有する者の管理基準遵守義務及び建築物環境衛生管理技術者の職務内容からみて、これらの者が定期的に又は必要に応じて測定を行なうことが要請されているものであること。

(一) 浮遊粉じんの量

基準は、空気一m3につき○・一五mg以下とされたこと。この場合、浮遊粉じんとは、測定方法から明らかなように相対沈降径がおおむね一○ミクロン以下のものをさしていること。

この基準に適合しているかどうかの判定は、一日の使用時間中の平均値と基準とを比較して行なうものとされたこと。この平均値は、連続測定によつて算定することが建前であるが、実際には、始業後から中間時及び中間時から終業前の適切な二時点において測定しその平均値をもつて当該平均値として差し支えないこと。

測定器は、グラスフアイバーろ紙(○・三ミクロンのステアリン酸粒子を九九・九パーセント以上捕集する性能を有するものに限る。)を装着して相対沈降径がおおむね一○ミクロン以下の浮遊粉じんを重量法により測定する機器又はこれを標準として較正された機器とされたが、標準となる測定器であるろ紙捕集による重量濃度測定器により較正することができる測定器としては、光散乱法による測定器、反射率法による測定器及び透過率法による測定器があること。これらの測定器は、あらかじめ一定の方法により標準となる測定器と較正しておくことにより、それぞれの測定値を重量濃度に換算できるものであること。

(二) 一酸化炭素の含有率

基準は、一○ppm以下であるが、特例として、大気中における一酸化炭素の含有率がおおむね一○ppmをこえるため、居室における当該含有率をおおむね一○ppm以下とすることが困難な建築物については、二○ppm以下とされたこと。

特例基準の適用を受ける建築物は、具体的には、当該建築物の主たる外気の取入口周辺における外気の一酸化炭素の含有率がおおむね一○ppmをこえていることであり、この場合における含有率とは、当該建築物の通常の使用時間と同じ時間中における一日の平均値をいうこと。

この基準に適合しているかどうかの判定は、(一)の同様の方法により行なうものであること。

測定器は、検知管方式による一酸化炭素検定器又はこれと同程度以上の性能を有する測定器とされたこと。同程度以上の性能を有する測定器としては、五酸化ヨウ素法による測定器、ホプカライト法による測定器、赤外線分析計などがあるが、精密測定を要する場合を除き、通常は、検知管方式によるのが簡便であること。

(三) 炭酸ガスの含有率

基準は、一○○○ppm以下とされたこと。

この基準に適合しているかどうかの判定は、(一)と同様の方法により行なうものであること。

測定器は、検知管方式による炭酸ガス検定器又はこれと同程度以上の性能を有する測定器とされたこと。

同程度以上の性能を有する測定器としては、簡易定量法による測定器、水酸化バリウム法による測定器、ガス干渉計法による測定器等があるが、通常は、検知管方式によるのが簡便であること。

(四) 温度

基準は、一七度以上二八度以下(摂氏)とし、かつ、居室の温度を外気の温度より低くする場合は、その差を著しくしないこととされたこと。居室の温度を外気の温度より低くする場合の許容し得る温度差は、七度以内として指導されたいこと。

この基準に適合しているかどうかの判定は、浮遊粉じんの量等の場合と異なり、一日の平均値によつて行なわず、居室の使用時間中は、常に基準に適合しているかどうかにより行なうものであること。

測定器は、○・五度目盛の温度計又はこれと同程度以上の性能を有する測定器とされたこと。これに該当すれば、いずれの温度計によつてもさしつかえないが、一般的には、同時に相対湿度の測定ができる乾湿球湿度計によることが便宜であること。

(五) 相対温度

基準は、四○パーセント以上七○パーセント以下とされたこと。

この基準に適合しているかどうかの判定については(四)と同様であること。

測定器は、○・五度目盛の乾湿球湿度計又はこれと同程度以上の性能を有する測定器とされたが、一般的には、アスマン通風湿度計又はアウグスト乾湿計があげられること。

(六) 気流

基準は、○・五m毎秒以下とされたこと。

この基準に適合しているかどうかの判定については(四)と同様であること。

測定器は、○・二m毎秒以上の気流を測定することができる風速計又はこれと同程度以上の性能を有する測定器とされたが、これに該当するものとしては、カタ温度計、熱線風速計、熱体風速計等があげられること。

二 給水及び排水の管理について

(一) 給水の管理については、水道法(昭和三二年法律第一七七号)第三条第八項に規定する給水装置以外に給水に関する設備を設けて飲料水を供給する場合は、同法第四条の規定による水質基準を適合する水を供給することとされたこと(令第二条第一号イ)。水道法に規定する給水装置とは、需要者に水を供給するために水道事業者の施設した配水管から分岐して設けられた給水管及びこれに直結する給水用具をいうものとされており、井戸等自己の水源によつて建築物内に飲料水を供給する設備はもとより、市町村等の水道事業者から供給された水道水を建築物内に供給する場合であつても、水道水を受水槽に受けて、これを供給する場合には、その受水槽以下の設備は、給水装置以外の給水に関する設備に該当すること。

水質基準については、検査方法を含め、水質基準に関する省令(昭和四一年厚生省令第一一号)が適用されること。

管理基準に関する衛生上必要な措置として、給水せんにおける遊離残留塩素の含有率を通常は○・一ppm(結合残留塩素の場合は○・四ppm)以上、病原生物に汚染されるおそれ等がある場合には○・二ppm(結合残留塩素の場合は一・五ppm)以上に保持するようにしなければならないこととされたこと(規則第四条)。このためには、塩素滅菌を行なうこととなるが、水道事業者から給水を受ける水には既に残留塩素が含まれており、これを建築物内に供給して、なお給水せんにおいて規定量以上の残留塩素が残存する場合には、塩素滅菌をすることを要しないこと。なお、遊離残留塩素の含有率を○・二ppm(結合残留塩素の場合は一・五ppm以上)とすべき場合は、具体的には、当該建築物内において消化器系伝染病が流行しているとき、建築物内の全部にわたるような広範囲の断水後給水を開始するとき、給水に関する設備の大規模の工事が行なわれたとき、その他給水に関する設備又は供給される水が著しく汚染されたか、又はそのおそれのあるときなどであること。

(二) 排水の管理については、排水に関する設備の正常の機能が阻害されることにより汚水の漏出等が生じないように、当該設備の補修及び掃除を行なうこととされたこと(令第二条第二号ロ)。これは、排水に関する設備は、その本来の機能として、汚水が建築物内に滞流することなく、適切に排除し得るものでなければならないが、その維持管理が適切に行なわれない場合には汚水の飲用水の配管系統への吸引混入、臭気の発生、衛生害虫の発生等環境衛生上好ましくない事態が生ずるので、当該設備の適切な補修及び掃除を義務づけることとしたものであること。

なお、し尿処理施設については、従来どおり、清掃法(昭和二九年法律第七二号)第一三条第二項(廃棄物処理及び清掃に関する法律(昭和四五年法律第一三七号)第七条第二項)の規定によつて維持管理するものであること。

三 清掃及びねずみ、こん虫等の防除

清掃及びねずみ、こん虫等の防除については、これを統一的かつ計画的に行なうべきものとされたが、これは、管理基準が、建築物内全体の環境衛生状態を良好にすることをねらいとするものであることにかんがみ、これらの作業を統一的、計画的に行なうこととする趣旨であること。

また、清掃及びねずみ、こん虫等の防除の方法については、「適切な方法」により行なうものとされたが、これは、目的達成のために有効な方法によることを意味するにとどまらず、環境衛生上適切な状態をもたらすような方法によつてはならないことを要求するものであること。したがつて、例えば、これらの作業のために薬剤を用いる場合には、それによつて健康障害をもたらすことのないように十分な配慮をすべき旨を規定したものであること(令第二条第三号)。

第四 特定建築物についての届出について

特定建築物所有者等は、特定建築物について、都道府県知事に対し一定事項を届け出なければならないこととされたが、これについて留意すべき事項は、次のとおりであること(法第五条、規則第一条)。

一 届出義務者について

届出義務者は、原則として特定建築物の所有者であるが、当該特定建築物の全部の管理について権原を有する者があるときは、その者が届出義務者となること。

「特定建築物の全部の管理について権原を有する者」とは、特定建築物の全部について民法第二五条等に規定する管理行為(保存、利用及び改良行為)をすることができる法律上の地位にある者をいい、民間の建築物にあつては、いわゆる丸借り人、事務管理者、破産管財人等が、国、地方公共団体等の建築物にあつては、それぞれ国有財産法、地方自治法等に規定する者がこれに該当すること。

しかしながら、届書の受理時においてこのような権原の有無について都道府県知事等が判断を下すことは困難であると思われるので、一応特定建築物の所有者又はその全部の管理について権原を有すると推定される者から届書が提出されたときは、これを受理して差し支えないこと。

なお、共有又は区分所有に係る特定建築物については、各共有者又は区分所有者がそれぞれ届出義務者となるが、この場合には、連名で届出るよう指導されたいこと。

二 届出事項について

(一) 特定建築物の名称

一般に標傍されている名称があればその名称を、これがない場合には、当該特定建築物を特定するに足る適宜の名称を記載すること。

(二) 特定建築物の所在場所

特定建築物の所在の都道府県、郡、市、区、町村字及び地番を記載すること。

(三) 特定建築物の用途

特定用途については、令第一条各号に掲げる区分による用途を記載し、特定用途以外の用途については、当該用途を具体的に記載すること。この場合において複数の用途に供されている場合においては、当該用途を例記すること。

(四) 特定用途に供される部分の延べ面積及びもつぱら特定用途以外の用途に供される部分の延べ面積

第二の三により算定した延べ面積を記載すること。

(五) 特定建築物の構造設備の概要について

おおむね次に掲げるような事項を記載すること。

ア 階数並びに各階の床面積、居室数及び用途

イ 中央管理方式の空気調和設備又は機械換気設備を設けている場合には、機械名、型式、性能、台数及び設置の場所並びに各居室への空気等の供給の方式

ウ 飲料水の水源の種別(水道事業者からの受水、井戸等)並びに受水槽、高架水槽、ポンプ、滅菌機等の給水に関する設備の容量、能力及び設置の場所

エ 排水槽等排水に関する設備の容量及び設置の場所

オ ダストシユート、汚物の集積所、焼却炉等汚物の処理に関する設備の集積容量又は処理能力及び設置の場所

(六) 特定建築物の所有者等の氏名及び住所等

共有又は区分所有に係る特定建築物の場合にあつては、当該共有者又は区分所有者の氏名及び住所を連記する方法を原則とすること。

なお、この方法によつた場合には、連記された共有者又は区分所有者の変更があつた場合は、新たな共有者又は区分所有者から法第五条第三項の規定による変更の届出を行なうこととなること。

(七) 建築物環境衛生管理技術者の氏名等

建築物環境衛生管理技術者(以下「管理技術者」という。)の氏名、住所及び免状番号のほか、その者が他の特定建築物の管理技術者である場合には、当該特定建築物の名称及び所在場所を記載することとされたこと。なお、昭和四七年一○月一二日までに提出される届書であつて、管理技術者の選任されていない特定建築物に係るものには、管理技術者の氏名等を記載することを要しないが、当該特定建築物について管理技術者を選任したときは、その日から一か月以内に管理技術者の氏名等を届け出なければならないこととされたこと。

(八) 特定建築物が使用されるに至つた年月日

特定建築物が使用されるに至つた年月日をいうものではなく、特定建築物の一部についてその用途のために使用されるに至つたときは、その年月日を記載すべきものであること。

なお、規則第二条において、法第五条第二項において準用する同条第一項の規定による届出について読み替えて行なうこととされている「特定建築物に該当する」に至つた年月日とは、用途の変更、増築による延べ面積の増加等が行なわれた後、特定建築物として全部又は一部の使用が始められた年月日をいうものであること。

三 届書の様式等について

届書の様式については、各都道府県等において、その実情に応じて定められたいこと。

なお、届出を受理するに当たつては、その窓口である保健所において当該特定建築物の用途、延べ面積の算定等について誤りがないことを確認のうえ処理するように留意されたいこと。

第五 建築物環境衛生管理技術者について

特定建築物所有者等は、特定建築物の維持管理が環境衛生上適正に行なわれるように監督させるため建築物環境衛生管理技術者(以下「管理技術者」という。)を選任しなければならないこととされたこと(法第六条第一項)。なお、経過措置として、昭和四七年一○月一二日までは、管理技術者を選任しないことができることとされたこと(法附則第三項)。

一 管理技術者の職務

管理技術者の職務は、当該特定建築物の維持管理が環境衛生上適正に行なわれるように監督をすることであること。その監督の範囲は、管理基準に従つて維持管理がなされているかどうかのほか、照明その他当該特定建築物の環境衛生上の維持管理に関することがらが含まれること。また、特定建築物所有者等による選任によつて当該特定建築物における環境衛生上の維持管理を監督する権限が附与されるものであること。

なお、管理技術者は、当該特定建築物の維持管理が管理基準に従つて行なわれるようにするため必要があるときは、維持管理の権原を有する者に対して意見を述べることができ、維持管理の権原を有する者は、法律上の義務として、その意見を尊重しなければならないこととされたこと(法第六条第二項)。

二 管理技術者の選任

管理技術者は、建築物環境衛生管理技術者免状(以下「免状」という。)を有する者のうちから、特定建築物ごとに選任しなければならないこととされたこと。その選任を行なうに当たつては、原則として、二以上の特定建築物の管理技術者を兼ねさせてはならないこととし、一定の場合にのみ兼任を認めることとされたが、この例外規定の運用に当たつては、当該二以上の特定建築物の距離、用途の類似性、中央管理方式の空気調和設備又は機械換気設備の有無、延べ面積、特定建築物所有者等又は維持管理について権原を有する者の同一性などを具体的かつ総合的に勘案して、兼任を認めても管理技術者の職務遂行に支障がないと判断される場合に認めるようにされたいこと(規則第五条)。

三 免状の取得要件

免状は、厚生大臣が指定した講習会の課程を修了した者又は厚生大臣が行なう建築物環境衛生管理技術者試験(以下「試験」という。)に合格した者に交付することとされ、講習会の受講資格、講習会の指定基準、試験の受験資格、試験の科目その他講習会及び試験に関する事項並びに免状の交付に配する事項について必要な規定が定められたこと(法第七条から法第九条まで、令第三条から第五条まで及び規則第六条から第一九条まで)。

講習会の受講資格については、医師又は一級建築士である者を除いては、所定の学歴又は他の法令に基づく資格を取得した後一定期間以上、特定用途その他これに類する用途に供される部分の延べ面積がおおむね三○○○m2をこえる建築物の当該用途に供される部分において業として行なう環境衛生上の維持管理に関する実務(自らこれらの実務に従事する場合には、掃除その他これに類する単純な労務は含まれず、これらの実務に従事する者を指導監督する場合には、被監督者の実務には単純労務が含まれる。)に従事した経験を有することが必要とされたこと。ここでいう特定用途に類する用途には、特殊環境に置かれるもの(工場、病院等)、多数の者が使用、利用しないもの(倉庫、駐車場等)など、法が本来、規制の対象外としているものを除く他の用途が含まれること。また、環境衛生上の維持管理に関する実務とは、空気調和設備、給水設備、排水設備、照明設備などの管理(運転、点検及び環境測定等を含む。)、清掃及び汚物処理、ねずみ、こん虫等の防除などの技術的作業又は技術的立場におけるその管理業務をいうが、これらに類するものであつても、修理専業、アフターサービスとしての巡回サービスなど当該建築物における維持管理業務とみることのできないものは除かれること。

試験の受験資格については、受講資格の場合と異なり、学歴の要件はなく、二年以上、特定用途又はこれに類する用途に供される建築物の当該用途に供される部分において業として行なう環境衛生上の実務(単純労務も含まれる。)に従事した者であれば足りることとされたこと。

第六 帳簿書類の備付けについて

特定建築物所有者等は、当該特定建築物の維持管理に関し環境衛生上必要な事項を記載した帳簿書類を備え付けなければならないこととされ、その帳簿書類の具体的な範囲及び保存期間について規定されたこと。なお、規則第二○条第一項第三号に掲げる帳簿書類には、照明、騒音その他建築物の環境衛生上の維持管理に関する事項であつて管理基準に規定のないものの維持管理の状況を明らかにする帳簿書類などが該当すること(法第一○条、規則第二○条)。

第七 報告、検査、改善命令等について

特定建築物の立入り検査、維持管理方法の改善の命令等都道府県知事の権限について規定されたこと。

一 報告、検査等

都道府県知事は、法の施行のため必要があるときは、特定建築物所有者等から報告を求め、その職員に立入検査させ、関係者に質問させることができることとされたが、この権限の行使は、当該特定建築物が法第五条第四項の政令で定める特定建築物である場合は、都道府県労働基準局長から当該権限を行使するよう要請があつた場合に限ることとされたこと。ただし、現在は、法第五条第四項に基づく政令は制定されていないので、都道府県知事は、国又は地方公共団体の公用又は公共の用に供されているものを除くすべての特定建築物について、自ら必要があると認めるときは、その権限を行使することができること。なお、国又は地方公共団体の公用又は公共の用に供されている特定建築物については、立入検査、改善命令等に替えて、必要な説明又は資料の提出を求めることができることとされたこと。

立入検査又は質問をする職員は、環境衛生監視員と称することとし、その携帯すべき身分証明書等は別に定めることとされたが、その身分証明書等は当分の間、各都道府県において現に用いられている環境衛生監視員の身分を示す証票に準じた様式により作成することとされたいこと(法第一一条、法第一三条第一項及び第二項、規則第二一条)。

二 改善命令等

都道府県知事は、前記一の権限を行使した場合において、当該特定建築物の維持管理が管理基準に従つて行なわれておらず、かつ、環境衛生上著しく不適当な事態が存すると認めるときは、維持管理について権原を有する者に対し、維持管理の方法の改善その他の必要な措置をとることを命じ、又は当該特定建築物の一部の使用若しくは関係設備の使用の停止又は制限の処分をすることができることとされたこと。この命令又は処分を行なうことができる場合は、単に、管理基準違反があるだけでなく、それによつて当該特定建築物を使用、利用する者の健康が現にそこなわれているか又はそこなうおそれが具体的に予見される場合等著しく不適当な状態にある場合であること。維持管理について権原を有する者に対する命令の内容は、維持管理方法の改善その他の必要な措置をとるべきこととされているが、これには、関係設備の補修、取替えが含まれること。

第八 その他

前記のほか、保健所における建築物衛生に関する指導業務、罰則等について規定されたこと(法第三条及び第一四条から第一八条まで)。

法附則第三項においては、建築基準法の一部が改正され、建築主事が特定建築物に該当する建築物に関して建築確認申請書を受理したときは、これを当該建築物の所在地を管轄する保健所長に通知し、保健所長は、建築主事等に対して意見を述べることができることとされ、また、昭和四五年政令第三三三号による建築基準法施行令の改正によつて中央管理方式の空気調和設備の構造について、管理基準に準じた基準が定められるなど、法の運用に関しては、建築基準法の運用ときわめて密接な関係を有するので、建築行政機関との連絡調整を密にするようにされたいこと。

本法は、建築物衛生の規制及び指導に関する一般法であり、その運用の適否が環境衛生の向上に影響するところは大なるものがあると考えられるので、その施行に当たる各都道府県及び政令市においては、環境衛生監視員その他の関係職員の確保及び研修並びに監視指導に必要な機材の確保等について格段の配慮を払い、法施行のための態勢整備に努められたいこと。