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○室内空気中化学物質の室内濃度指針値及び標準的測定方法について

(平成一二年六月三〇日)

(生衛発第一〇九三号)

(各都道府県知事・各政令市市長・各特別区区長あて厚生省生活衛生局長通知)

近年、住宅の高気密化や化学物質を放散する建材・内装材の使用等により、新築・改築後の住宅やビルにおいて、化学物質による室内空気汚染等により、居住者等の様々な体調不良が生じていることが指摘されている。症状が多様で、症状発生の仕組みをはじめ、未解明な部分も多く、また様々な複合要因が考えられることから、「シックハウス症候群」と呼ばれている。

厚生省では、平成九年六月に「快適で健康的な住宅に関する検討会議」小委員会報告により、ホルムアルデヒドの室内濃度指針値を設定したほか、「快適で健康的な住宅に関するガイドライン」の作成、室内空気汚染の実態調査、研究の推進など、この問題に取り組んできたところである。

現在、関係省庁と連携して、シックハウス対策の総合的な推進に取り組んでいるところであるが、今般、「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」(座長:林 裕造 前北里大学客員教授)の中間報告を踏まえ、左記のとおり、室内空気化学物質の室内濃度指針値及び標準的な測定方法を定めたので、各都道府県、政令市、特別区におかれては、建築物衛生その他の生活衛生対策の推進に活用するとともに、市町村、関係団体、住民等への周知を図るようお願いする。

また、保健所及び地方衛生研究所において、シックハウス症候群及び室内空気汚染の問題に関する相談及び測定等の体制の充実に努めていただくよう、特にお願い申し上げる。

なお、今後、その他の個々の揮発性有機化合物の室内濃度指針値の策定、総揮発性有機化合物(TVOC)の指針値の策定、簡易測定法を含め目的に応じた測定方法の目録作成と検証、保健所・地方衛生研究所における測定・相談マニュアルの作成などを行うこととしていることを申し添える。

一 室内濃度指針値について

左表の四物質の室内濃度指針値は、それぞれ同表に示すとおりとする。

これらの物質は、実態調査の結果、一部の家屋で非常に高い汚染が認められたことを受けて、最初の指針値策定の対象として選定したものである。

このうち、ホルムアルデヒドの指針値は、三〇分平均値としての数値であり、短期間の暴露によって起こる毒性を指標として策定したものであるのに対し、トルエン、キシレン、パラジクロルベンゼンの指針値は、長期間の暴露によって起こる毒性を指標として策定したものである。

また、この指針値は、原則として、全ての室内空間を対象とするものである。住宅以外の空間への適用の在り方については、引き続き検討することとしているが、オフィスビル、病院等の医療機関、福祉施設、学校等の教育施設、官公庁施設、車両等、比較的長時間にわたって居する可能性のある空間への適用も考慮することが望まれる。工場その他の特殊な化学物質発生源のある室内空間は、別途検討されることが必要である。

なお、この指針値は、現状において入手可能な科学的知見に基づき設定された値であり、今後新たな知見や、国際的な評価作業の進捗を踏まえ、必要があれば変更され得るものである。

揮発性有機化合物

室内濃度指針値※

指針値の毒性指標

ホルムアルデヒド

一〇〇μg/m3(〇・〇八ppm)

ヒト暴露における鼻咽頭粘膜への刺激

トルエン

二六〇μg/m3(〇・〇七ppm)

ヒト暴露における神経行動機能及び生殖発生への影響

キシレン

八七〇μg/m3(〇・二〇ppm)

妊娠ラット暴露における出生児の中枢神経系発達への影響

パラジクロロベンゼン

二四〇μg/m3(〇・〇四ppm)

ビーグル犬暴露における肝臓及び腎臓等への影響

※両単位の換算は、二五度の場合による

ホルムアルデヒドの指針値の設定の根拠は、別添一参照。

トルエン、キシレン及びパラジクロルベンゼンの指針値の設定の根拠は、別添二参照。

二 標準的測定方法について(詳細については、別添三参照)

(一) 対象となる室内空気化学物質

ホルムアルデヒド、及びトルエン、o-,p-,m-キシレン、p-ジクロロベンゼン等のその他の揮発性有機化合物

(二) 採取方法

新築住宅における室内空気中化学物質の測定は、室内空気中の揮発性有機化合物の最大濃度を推定するためのもので、三〇分換気後に対象室内を五時間以上密閉し、その後概ね三〇分間採取して測定した濃度(μg/m3)で表す。採取の時刻は揮発性有機化合物濃度の日変動で最大となると予想される午後二時から三時頃に設定することが望ましい。

居住住宅における室内空気中化学物質の測定は、居住、平常時における揮発性有機化合物の存在量や暴露量を推定するためのもので、二四時間採取して測定した濃度(μg/m3)で表す。

空気試料の採取場所は、居間、寝室及び室外の計三ケ所とする。室内濃度の値は、居間又は寝室のうち高い方の値を記載し、評価の対象とする。

(三) 測定方法

ホルムアルデヒドは、DNPH誘導体化固相吸着/溶媒抽出―高速液体クロマトグラフ法によるものとする。

その他の揮発性有機化合物は、固相吸着/溶媒抽出法、固相吸着/加熱脱着法又は容器採取法とガスクロマトグラフ/質量分析法の組合せによるものとする。

(四) その他

上記については、同等以上の信頼性が確保できる方法であれば、設定した標準的な方法に代えて用いても差し支えない。また、簡易測定法を含め目的に応じた測定方法の目録作成と検証を、今後行っていくこととする。

なお、スクリーニングの目的で簡易な方法を用いる場合等には、化学物質濃度の過小評価が行われないよう配慮するとともに、測定値が指針値に適合しているか否かの最終的な判定をする場合には、設定された標準的な方法により行うよう留意するべきである。

(別添1)

ホルムアルデヒドの室内濃度指針値について

1 ホルムアルデヒドの健康影響評価の考え方

ホルムアルデヒドの健康影響評価については、WHOの欧州地域専門家委員会が既に膨大な毒性データを基に各分野の専門家を集めて検討し、その見解がほぼまとまりつつある。このため、我が国の居住環境におけるホルムアルデヒドの室内濃度指針値の検討に当たっては、WHOの欧州地域専門家委員会におけるこれまでの評価結果の妥当性について考察することとし、独自に文献を収集してその評価を行った。

2 WHO欧州地域専門家委員会の健康影響評価

WHO欧州地域専門家委員会が行っているホルムアルデヒドの健康影響評価の概要は、以下のとおりである。

1) WHO欧州地域専門家委員会におけるガイドライン値の設定

短期間の暴露でヒトが鼻やのどに刺激を感じる最低の濃度は0.1mg/m3である。ただし、さらに低い濃度でホルムアルデヒドの臭気を感じる人達もいる。

一般的な人達における明らかな感覚刺激を防ぐために、30分平均値で0.1mg/m3の空気ガイドライン値を勧告する。

このガイドライン値は鼻腔粘膜の細胞毒性の推定閾値より1桁以上高い値であるので、ヒトにおける上部気道のがんのリスクを無視しうる暴露レベルである。

2) WHO欧州地域専門家委員会におけるガイドライン値の設定根拠

ヒトがホルムアルデヒドに暴露された時の主な症状は目、鼻及び咽頭の刺激であり、濃度依存性の不快感、流涙、くしゃみ、せき、はきけ等呼吸困難で、高度の場合には死に至る。

気道上皮の扁平上皮化生や軽度の異形成がヒトで報告されているが、これらの所見にはホルムアルデヒド以外の物質に同時に暴露された影等が含まれている可能性がある。

高濃度のホルムアルデヒド暴露によりラットに鼻腔がんが発生することは明瞭な知見であり、マウスにも同様の影響のあることが予想されるホルムアルデヒドはいくつかのin―vitro及びin―vivoの試験系で遺伝的毒性が示されている。また、高濃度のホルムアルデヒドによる職業的暴露と鼻咽頭腔及び副鼻洞がんとの間に関連性を示す疫学的知見がある。

ホルムアルデヒドに対するヒトでの反応には大きな個体差がある。健康な被験者では0.1mg/m3を超える濃度で刺激の兆候が明らかに増加する。1.2mg/m3以上で症状の増大が引き起こされる。健康な非喫煙者及び喘息患者の肺機能では、3.7mg/m3までのレベルのホルムアルデヒドに暴露された場合でも変化がなかった。WHOのワーキンググループでは、これらの研究で観察された作用は、平均値よりもピーク値の濃度が関係すると推測した。

ヒトの鼻腔粘膜においてホルムアルデヒドが細胞増殖的な変化を引き起こすとする知見がある。報告されている平均暴露レベルは、0.02から2.4mg/m3にあり、短時間でのピーク値は、5から18mg/m3の間にあるがホルムアルデヒド暴露と鼻咽頭腔のがんとの関連については、観察症例数や期待症例数が少ないため結論には至っていないが、疫学的研究からは因果関係のあることが示唆されている。また、ホルムアルデヒドにある比較的高濃度の職業的暴露と副鼻洞がんとの関連については疫学的な観察がある。最近のIARCワーキンググループは、現在入手できる発がん性のデータではホルムアルデヒドのヒトでの発がん性に関する知見は限定的であると解釈し、ホルムアルデヒドは、“ヒトに対し恐らく発がん性がある(2A)”と分類された。

ホルムアルデヒドはラットの鼻腔発がん物質である。16.7mg/m3レベルで暴露されたラットでは鼻腔がんが明らかに発生したが、用量反応曲線は非直線的であり、低濃度では、リスクは比例的ではなく極めて低いものであった。また、鼻腔気道上皮における非腫瘍性及び腫瘍性病変を分析したところ、用量反応曲線は、腫瘍性病変、細胞回転、DNA―蛋白質の交叉結合、および過剰増殖のいずれもほとんど同じであった。このように一致の度合いが近いことは、観察された細胞毒性、遺伝子毒性および発がん効果が密接に関係することを示している。結論として、細胞毒性によって引き起こされた過剰増殖が、ホルムアルデヒドによる鼻腔腫瘍の形成に重要な役割を果たしていることが推察される。

ラットとヒトでは呼吸経路の解剖学的、生理学的な違いが認められるが、呼吸経路の防御機構は類似している。したがって、ホルムアルデヒドに対するヒトでの呼吸経路の粘膜の反応がラットのそれと同様であると考えても間違いではないであろう。即ち、呼吸経路の組織が繰り返し障害を受けなければ、ヒトが低濃度かつ細胞毒性の起こらない濃度のホルムアルデヒドに暴露されたとしても、発がんリスクは無視しうると考えることができる。これは約1mg/m3を超える濃度で鼻咽頭腔及び副鼻洞がんのリスクが大きくなるという疫学的な結果と一致している。

3 ホルムアルデヒドの毒性評価

ホルムアルデヒド毒性評価ワーキンググループにおいて調査したホルムアルデヒドの毒性の概要は次の通りである。

① 遺伝毒性

・DNA損傷、DNA鎖切断、不定期DNA合成試験では、陽性との報告例が多い。1)

・in vitro遺伝子突然変異試験および染色体異常試験では、陽性とする報告が多い。2),3)

・DNA―protein cross―linksを形成する。2)

・変異原性は、細胞毒性が生じる比較的高濃度で発現する。1)

・in vivo動物試験による変異原性は陰性である。(IARC 1987)

これらの結果より、in vitro遺伝子毒性は明らかであるが、in vivo遺伝子毒性は明らかではない。

② 発がん性

・Monticelloらの長期発がん性試験では、ラットに扁平上皮がんを主とする鼻腔腫瘍が18mg/m3(15ppm)群で147例中69例に、12mg/m3(10ppm)群で90例中20例に、7.2mg/m3(6ppm)群で90例中1例にみられている。しかしながら、これらの濃度で認められた鼻腔における扁平上皮がんの発生部位は、いずれも鼻腔粘膜で最も傷害性が高く現れる部位である。一方、2.4mg/m3(2ppm)ではなんら変化も認めない。4)

・発がんメカニズムの研究報告によると、7.2mg/m3以上では鼻腔上皮細胞の細胞増殖活性が認められるが、2.4mg/m3では変化を認めず、明らかな閾値を認めている。5)

・Kernsらによれば、7.2mg/m3以上ではDNA合成の有意な増加を認めるが、2.4mg/m3では増加が認められない。6)

・(細胞傷害)修復性の細胞増殖および過形成は、7.2mg/m3では認められるが、2.4mg/m3以下では認められない。7)

・多数の用量―反応関係の研究から、腫瘍の出現する濃度は明確で発生部位が定まっており、その局所における分布・代謝及び細胞増殖活性から、閾値が明確に示されていると判断される。4),5),8)

・また、細胞増殖において非線形的反応を示す。4),5),8)

以上のように、ホルムアルデヒドは、いくつかの実験において遺伝子毒性が見られ、長期吸入暴露試験において鼻腔上皮細胞に増殖~腫瘍発生(がん)がみられることから、発がん性のあることは否定できない。しかしながら、このがん発生は鼻腔上皮の粘膜において傷害性(細胞毒性)を引き起こす高濃度での発がんであること、変異原性試験においても細胞毒性を起こすレベルで陽性結果が認められること、ヒトでの疫学調査で暴露グループに必ずしも発がんリスクが明らかでないこと9),10),11),12)13),14)、in vivo動物試験では変異原性は陰性であることなどから、閾値の存在が明確に示唆されているものと考えられる。

③ 刺激性、その他の毒性

・ヒトにおいて刺激感覚が生じる1.2mg/m3で、動物での刺激性による回避行動がみられる。15)

・ホルムアルデヒド喘息(疑)患者の試験では3.6mg/m3の暴露では喘息症状の誘発はみられず、呼吸機能にも変化は認められていない。3)

4 我が国の居住環境におけるホルムアルデヒドの室内濃度指針値の検討

これらの考察により、WHO欧州地域専門家委員会の評価は、我が国においても妥当なものと考えられる。したがって、一般的な人達における明らかな刺激感覚を防ぐことを指標として、30分平均値で0.1mg/m3を指針値とすることが適当である。

しかしながら、さらに低い濃度暴露レベルでもホルムアルデヒド臭を感じる人もいることに留意する必要がある。

参照文献

1) Feron V.J.,Til H.P.,de Vrijer F.,et al.:Aldehydes:occurrence,carcinogenicpotencial,mechanism of action and risk assessment.Mutation Res,259:363―385(1991)

2) Ma T―H.,Harris M.:Review of the genotoxicity of formaldehyde.Mutation Res,196:37―59(1988)

3) Ellenhorn M.J.,Barcelloux D.G.:Formaldehyde,in ”Medical Toxicology”,Elsevier,New York(1988),1001―1004,Chapter 36

4) Monticello T.M.,Swenberg J.A.,Gross E.A.,Leininger J.R.,KimbellJ.S.,Seikop S.,Starr T.B.,Gibson J.E.,and Morgan K.T.:Correlation of regional and nonliNeaR fORM aLdehYde―iNdUced NaSaL caNceR WiTh PROLifeRaTiNg POPULaTiONOf ceLLS.:CaNceR ReS.56:1012―1022(1996)

5) Monticello T.M.,Miller F.J.,and Morgan K.T.:Regional increase in rat nasal respiratory epitherial cell proliferation following acute and subacute inhalation of formaldehyde.:Toxicol.Appl.Pharmacol.111,409―421(1991)

6) Kerns W.D.,Pavcov K.L.,Donofrio D.J.,Gralla E.J.,and SwenbergJ.A.:Carcinogenecity of formaldehyde in rats and mice aftar long―term inhalation exposure.:Cancer Res.,43;4382―4398(1983)

7) Starr T.B.,Gibson J.E.,and Swenberg J.A.:Chapter9.:Anintegratedapproach to the study of formaldehyde carcinogenecity in rats and mice.In:D.B.Clayson,D.Krewski,and I.Munro(eds)Toxicological Risk Assessment Vol.Ⅱ,General Criteria and Case Studies.,200―209,CRC Press,Inc.Boca Raton,Florida(1986)

8) Woutersen R.A.,and Feron V.J.:Localization of nasal tumorsinratsexposed to acetaldehyde or formaldehyde.In:V.J.Fern and M.C.Bosland(eds),Nasal Carcinogenesis in Rodents.Relevance to Human Health Risk,70―75,Wageningen,the Netherlands:Pudoc Press(1989)

9) Ellenhorn M.J.,and Barcelloux D.G.(eds) Medical Toxicology.―Diagnosis and Treatment of Human Poisoning.,1003,Elsevier,New York/Amsterdam/London(1988)

10) Halperin W.L.,Goodman M.S.L.,et al.:Nasal cancer in a worker exposed to formaldehyde.JAMA 249:510―512(1983)

11) Wald N.,and Richie C.:Formaldehyde processworkersandlungcancer.Lancet 1:1066―1067(1984)

12) Acheson E.D.,Barnes H.R.,Gardner M.J.,et al.:Formaldehyde in the British chemical industry.Lancet 1:611―616(1984)

13) Stayner L.,Smith A.B.,Reeve G.,et al.:Proportionate mortality study of workers in the garment industry exposed to formaldehyde.Am.J.Ind.Med.,7:229―240(1985)

14) Olsen J.H.,and Asnaes S.:Formaldehyde and the risk of squamous cell carcinoma of sinonasal cavities.Br.J.Ind.Med.43:769―774(1986)

15) Wood R.W.,Coleman J.B.:Behavioral evaluation of the irritant properties of formaldehyde.Toxicol.Appl.Pharmacol.130:67―72(1995)

(別添2)

トルエン、キシレン及びパラジクロロベンゼンの室内濃度に関する指針値

1 トルエン

ごく最近までのトルエンに関する毒性研究報告について調査したところ、次のような結論を得た。

(1) 遺伝子傷害性については、in vitroでの細菌、酵母及びほ乳類の細胞を用いた変異原性試験が行われているが、いずれについても陰性の結果が得られている1)。

昆虫、ラット及びマウスを用いたin vivo試験では一定した結果が得られていない。例えば、ラットでは骨髄細胞に染色体異常が認められているが、不純物として混入していたベンゼンの影響が疑われており、マウスでは赤血球の小核の増加が見られているが、確かなものではないと評価されている1)。

職業的なトルエン暴露群を対象に行われた細胞生物学的研究では、染色体異常、小核及びDNA鎖切断の増加が報告され、同様の変化はラット及びマウス、並びにほ乳類培養細胞でも認められているが、いずれにおいてもDNA付加物は検出されていない2)。印刷工などトルエンの暴露を受けた作業者に染色体異常が高頻度で誘発されるなどの知見はあるものの3),4)、評価の対象となる人数が少ないことと、トルエン以外に染色体異常を誘発させる化学物質の情報が不十分であることから、トルエンの遺伝子傷害性については明確に評価できないとしている5)。

遺伝子傷害性に関し、他に注目すべき知見を示唆する最近の研究報告は、特に見いだされていない。

(2) 発がん性については、ヒトでの疫学的研究がいくつか行われているが、そのほとんどにおいて多数の化学物質に暴露されており、また、認められた所見についても一貫性に乏しいことから、トルエン暴露がヒトに対する発がん性を有すると結論づけるには十分な根拠とは言えない2)。

マウス、ラットを用いて行われたいくつかの発がん性試験では、いずれの結果も腫瘍発生頻度の有意な増加を示していない1),2)。また、マウスの皮膚に繰り返し塗布した場合でも、皮膚がんの発生頻度が増加したとの結果は示されていない2)。

以上により、実験動物においてはトルエンの発がん性がないことを示唆する知見があるものの、ヒトにおけるトルエンの発がん性については十分な知見がないことから、国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer:IARC)では、ヒトに対してトルエンが発がん性であるとは分類できない(グループ3)と評価されている2)。

発がん性に関し、他に注目すべき知見を示唆する最近の研究報告は、特に見いだされていない。

(3) これらのことから、世界保健機関(World Health Organization:WHO)では、ヒトに対してトルエンが発がん性であるとは分類できず、遺伝子傷害性も示さないとみなされることから、トルエンの室内濃度に関する指針値については非発がん性影響を指標とし、耐容一日摂取量(Tolerable Daily Intake:TDI)を求める方法で算出するのが適当と判断されている1)。

(4) 一般毒性については中枢神経系への影響が挙げられる2)。トルエンの暴露によって小脳及びプルキンエ細胞が障害を受け、平衡感覚が失調することに伴い、目眩や起立時の転倒などが引き起こされる。また、動物実験でも、100又は500ppmのトルエンに生後28日間暴露されたラット仔動物において、海馬に病理組織学的変化が認められている6)。

(5) ヒト及び動物において、視聴覚に代表される感覚器官への異常を引き起こすことが認められている7),8)。また、動物実験では肝臓及び腎臓への軽微な影響も報告されている1)。

(6) ボランティアによる実験的研究から、キシレンとの混合吸入によって、外部刺激に対する反応時間の遅延などが引き起こされるとの報告がある9)。

(7) ある電子機器組立工場において、トルエンを含有する接着剤を使用して作業に従事している30人の女性労働者を対象に、8種類の神経行動学的検査が行われている。8時間の作業中に時間荷重平均(Time Weighted Average:TWA)で332mg/m3(88ppm)のトルエンに暴露されていた女性労働者(平均作業従事年数は5.7年)は、対照群として設定された、同一工場でトルエン含有接着剤を使用せずに作業に従事していた30人の女性労働者(8時間TWAで49mg/m3(13ppm)に暴露。平均作業従事年数は2.5年)に比べて、6種類の検査結果が統計学的に有意に劣っていたことが見いだされている。なお、暴露群には臨床症状は何も認められなかった。神経行動機能に影響するトルエンの作業環境暴露の最低濃度は332mg/m3(88ppm)である10),11)。

(8) 一般毒性に関し、他に注目すべき知見を示唆する最近の研究報告は、特に見いだされていない。

(9) 生殖発生毒性については、2000ppmのトルエンに暴露されたラット母動物及び仔動物で体重増加抑制、摂餌量減少、胎児死亡率の上昇、胎児の発育遅滞などが認められているが、600ppm暴露群では認められていない12)。

(10) ヒトにおいては、妊婦がトルエンを乱用した事例で、新生児の発育異常とトルエン暴露との関係が指摘されている13)。また、前記(7)と同一工場の女性労働者について調査したところ、8時間の作業中にTWAで332mg/m3(88ppm)のトルエン暴露を受けていた女性労働者(平均作業従事年数は10.0年)の自然流産率(12.4%)は、対照とされた暴露群(8時間TWAで49mg/m3(13ppm)に暴露。平均作業従事年数は9.7年)における自然流産率(2.9%)及び当該工場の外部対照として設定された女性群における自然流産率(4.5%)に比べて、統計学的に有意に高かったことが見いだされている14)。

(11) 生殖発生毒性に関し、他に注目すべき知見を示唆する最近の研究報告は、特に見いだされていない。

(12) 以上の知見から、ヒトに対するトルエンの毒性影響を考慮するに当たっては、ヒトの暴露に関する研究報告がより重要なものと考えられることから、前記m3及び(10)における神経行動機能への影響及び自然流産率の上昇が認められた332mg/m3(88ppm)が、ヒトでの最小毒性量(Lowest Observed Adverse Effect Level:LOAEL)となる。なお、無毒性量(No Observed Adverse Effect Level:NOAEL)は特定されていない。

(13) 前記(7)及び(10)における暴露条件は、8hr/day、5days/weekであるので、これが1日24時間、1週7日間に平均化して暴露されたと考えると、1週間平均のLOAELは、

332(mg/m3)×40/7(hr/day)/24(hr/day)=332/4.2mg/m3となる。

(14) 不確実係数(Uncertainty Factor:UF)については、個体差として10、NOAELの代わりにLOAELを用いたことから10、また、ヒトの中枢神経系及び生殖発生に与え得る影響として3を考慮し、これらを乗じると300になる。

(15) LOAELをUFで除すことによって、

332/4.2(mg/m3)/300=332(mg/m3)/1260=0.26mg/m3=260μg/m3となる。

よって、ヒトにおける神経行動機能及び生殖発生への影響に基づき、トルエンの室内濃度に関する指針値は260μg/m3(0.070ppm)と設定することが適当とされた。

2 キシレン

ごく最近までのキシレンに関する毒性研究報告について調査したところ、以下のような結論を得た。

(1) キシレンには、o―キシレン、m―キシレン及びp―キシレンの3種の構造異性体が存在し、多くの場合、これらは混合物として市販されている1)。

(2) 遺伝子傷害性については、細菌及びほ乳類の細胞(in vivo及びin vitro試験)を用いた変異原性試験が行われているが、いずれの結果も陰性であった1)。

In vivo試験においては、ショウジョウバエに対する劣性形質致死試験で疑陽性の結果が見られたのみであった1)。

遺伝子傷害性に関し、他に注目すべき知見を示唆する最近の研究報告は、特に見いだされていない。

(3) 発がん性に関しては、ヒトでの疫学的研究において、キシレン暴露による発がん性を明確に裏付ける知見は認められていない15)。

また、マウス及びラットを用いた強制経口投与による発がん性試験では、いずれの結果も、動物への発がん性ありと結論づけるに足るデータを示していない15),16)。

なお、個々の異性体に着目したデータはない15)。

以上により、ヒト及び実験動物におけるキシレンの発がん性については十分な知見がないことから、IARCでは、ヒトに対してキシレンが発がん性であるとは分類できない(グループ3)と評価されている15)。

発がん性に関し、他に注目すべき知見を示唆する最近の研究報告は、特に見いだされていない。

(4) これらのことから、WHOでは、ヒトに対してキシレンが発がん性であるとは分類できないものの、遺伝子傷害性を示さないとみなされることから、キシレンの室内濃度に関する指針値については非発がん性影響を指標とし、TDIを求める方法で算出するのが適当と判断されている1)。

(5) 一般毒性については、ヒトがキシレンに暴露された場合、眼や咽喉への刺激、呼吸抑制、肝臓及び腎臓の変化、脳への影響などが引き起こされる17)。眼や咽喉への刺激性については、2000又は3000mg/m3(460又は690ppm)のキシレンに15分間暴露された6人のボランティアのうち4人と、1000mg/m3(230ppm)に暴露された1人が眼刺激性を訴えたことが報告されている一方、423,852又は1705mg/m3(98,196又は392ppm)のキシレン混合物に30分間暴露されても、眼、鼻又は咽喉への刺激性は認められなかったとの報告もなされている16)。

(6) 動物実験データとしては、Mongolian gerbils(ラットの一種)を用いて3ケ月間の吸入暴露を実施したところ、その後4ケ月目の時点で、被験動物の脳領域の大部分にastroglial proteinの濃度上昇が認められ、gliaの増殖が示唆された。gliaの増殖は種々の神経障害の発現に特徴的である可能性があり、トリクロロエチレン、エタノール、テトラクロロエチレンなど他の溶剤に暴露された動物にも同様の所見が認められていることから、キシレンの潜在的な神経毒性を示すことが示唆される16)。

(7) キシレン暴露によって、中枢神経系における感覚系、運動系及び情報処理機能が影響を受ける可能性のあることが、ボランティアによる実験的研究の結果として報告されている16)。4時間以上にわたって435~870mg/m3(100~200ppm)のキシレン暴露を受けると、外部刺激に対する反応にわずかな異常が生ずるとしている研究もある16)が、p―キシレン300mg/m3(69ppm)を4時間暴露させても何ら異常は認められなかったとする報告もある18)。

以上により、4時間暴露のNOAELは300mg/m3(69ppm)とされている16)。

(8) 前記(7)における暴露条件は、4hr/dayであるので、これが1日24時間に平均化して暴露されたと考えると、1日平均のNOAELは、

300(mg/(m3))×4(hr/day)/24(hr/day)=300/6mg/m3となる。

(9) UFについては、個体差として10を採る16)。

(10) NOAELをUFで除すことによって、

300/6(mg/m3)/10=300(mg/m3)/60=5.0mg/m3となる16)。

これが、一般毒性の観点からの、ヒトにおける1日平均の耐容気中濃度となる。

(11) 一般毒性に関し、他に注目すべき知見を示唆する最近の研究報告は、特に見いだされていない。

(12) 生殖発生毒性については、キシレンが胎盤経由で母動物から胎児へ移行することがヒト及び実験動物によって示されている16)。

催奇形性試験の結果、キシレンは、母動物への毒性を引き起こさない濃度か、わずかに引き起こす濃度でも、胎児の体重減少と骨形成の遅延を引き起こし得る。齧歯類各種におけるLOAELは、一日当たりの暴露時間の長さ(6~24時間/日)によって500~2175mg/m3(115~500ppm)が報告されているが16)、胎児の体重減少に関するLOAELは、マウスでの500mg/m3(115ppm)が最小値である19)。なお、骨形成の遅延については、骨形成に関する評価基準が明確化されていないことから、この変化を適切に評価することは不可能であった16)。

一方、870mg/m3(200ppm)のキシレンにラット母動物を暴露させ(1日6時間、妊娠4日目から20日目まで)た後に生まれた仔ラットの出生後発育に関する研究報告では、特に雌の仔ラットで、中枢神経系発達への影響を示唆する行動異常(Rotarod performanceの低値)が認められた20)。

(13) 生殖発生毒性に関しては、ヒトでの研究報告を含め、他に注目すべき知見を示唆する最近の研究報告は、特に見いだされていない。

(14) 以上の知見から、ヒトに対するキシレンの毒性影響を考慮するに当たっては、ヒトの暴露に関する研究報告がより重要なものと一般的には考えられ、前記(7)における暴露濃度300mg/m3(69ppm)がNOAELとされるところである。

しかし、この数値は4時間暴露という短時間の暴露に基づくものであり、長期間暴露される状況に外挿するには適切とは考え難い。

よって、他にヒトでの研究報告が見いだせないことを踏まえ、前記(12)におけるラットでの中枢神経系発達への影響が示唆された870mg/m3(200ppm)が、ラットでのLOAELと考えられる16)。なお、NOAELは特定されていない。

(15) UFについては、種差として10、個体差として10、及びNOAELの代わりにLOAELを用いたことから10となり、これらを乗じると1000になる16)。

(16) LOAELをUFで除すことによって、

870(mg/m3)/1000=0.87mg/m3=870μg/m3となる16)。

よって、妊娠時に吸入暴露されたラットの母動物から生まれた雌の仔動物の中枢神経系発達への影響に基づき、キシレンの室内濃度に関する指針値は870μg/m3(0.20ppm)と設定することが適当とされた。

3 パラジクロロベンゼン

(1) パラジクロロベンゼンについては、平成9年8月に家庭用品専門家会議(毒性部門)においてリスク評価が行われ、耐容平均気中濃度を590μg/m3(0.10ppm)と設定している。この時の評価の骨子については次のとおりである21)。

① 得られているデータによれば、パラジクロロベンゼンの発がん性はマウスの種特異的な高感受性の結果によるものであり、ヒトへのリスク評価に反映させることは困難である。パラジクロロベンゼンは齧歯類での非遺伝子傷害性発がん物質であり、その発がん性には閾値があると考えられる。

② ラット及びマウスを用いた吸入によるがん原性試験が実施されたところ、それぞれの試験におけるNOAELは次のとおりである。

・マウスにおいて肝臓腫瘍及び非腫瘍性の肝細胞肥大が300ppm群のみに認められた。したがって、これらの肝臓障害に関するNOAELは75ppmである。

・マウス雄の300ppm群で、近位尿細管上皮の空胞発生頻度が増加した。また、ラット雄の300ppm群で腎乳頭部集合管への鉱質沈着、腎盂の尿路上皮の過形成の増加がみられた。したがって、これらの腎臓障害に関するNOAELは75ppmである。

特に雌ラットにおいて、300ppm群では鼻腺の呼吸上皮化生が認められ、鼻腔上皮のエオジン好性変化が75ppm群まで認められた。この変化は、雌では用量に依存して、その変化の程度も強くなっているが、雄ではこの傾向は低かった。これらから、慢性鼻腔粘膜組織変化のNOAELは20ppmである。

③ ラットを用いた経口による二世代繁殖試験の報告によれば(N.Bornatowiez,eTaL.,WieN.KLiN.WOcheNSchR.,106,345―353(1994))、両世代の生殖器系に変化はみられなかったが、親動物の雄の270mg/kg群で腎毒性と肝・腎重量の増加、仔動物(F1)では肝臓重量の増加が90mg/kg群で観察された。また、90及び270mg/kg群で出産時の生存仔数の減少、授乳期間における死亡仔数の増加、生存仔の体重減少、仔の発育観察項目での変化、両世代における腎変化が観察された。以上の結果から、生殖試験でのNOAELは270mg/kg/day、F0、F1の親動物のNOAELは30mg/kg/day、発育に関するNOAELは30mg/kg/dayと結論された。なお、著者らは、経口での30mg/kg/dayは気中暴露ではおよそ450mg/m3(75ppm)に該当するとしている。

④ これらの値から耐容平均気中濃度を求めるにあたって、次のUFを採用した。

UF=100:種差(10)×個体差(10)

⑤ 以上のNOAEL、UFと実験条件を考慮して、耐容平均気中濃度を次のように算出した。

・肝臓・腎臓障害及び二世代影響を基礎とした場合:

NOAEL=75ppm(450mg/m3)

動物実験条件は、6hr/day、5days/weekであるので、これが1日24時間、1週7日間に平均化して暴露されたと考えると、平均化した暴露濃度は、

450(mg/m3)×30/7(hr/day)/24(hr/day)=80.4mg/m3となる。

ラットの呼吸量は0.29m3/dayなので、ラットの一日あたりの摂取量は、

80.4(mg/m3)×0.29(m3/day)=23.3mg/dayである。

雌ラットの体重は0.35kgであるので、体重1kgあたりでは、

23.3(mg/day)/0.35(kg)=67.0mg/kg/dayとなる。

これをUF=100で除し、TDIを求めると、

TDI=67.0/100=0.67mg/kg/dayとなる。

日本人の平均体重を50kg、一日あたりの呼吸量を15m3とすると、耐容平均気中濃度は、

0.67(mg/kg/day)×50(kg)/15(m3/day)=2.23mg/m3となる。

ppm換算では、0.37ppmということになる。

・鼻腔粘膜組織変化を基礎とした場合:

NOAEL=20ppm(120mg/m3)とUF=100を基に、同様に計算した耐容平均気中濃度は、0.10ppm(0.59mg/m3)である。

⑥ これらのうち小さい数値を選び、耐容平均気中濃度を0.10ppm(0.59mg/m3)とした。

(2) 今般、パラジクロロベンゼンの室内濃度指針値を設定するにあたり、ごく最近までのパラジクロロベンゼンに関する毒性研究報告について調査したところ、前回のリスク評価の際には入手できなかった文献データ22)を新たに入手した。当該文献データの毒性評価の概要は、次のとおりである。

ビーグル犬を用いた強制経口投与による反復投与毒性試験が実施された。対照群及び3投与群(10,50及び75mg/kg/day群)を設け、各群雌雄5匹に対し、週5日、1年間の投与を行ったところ、75mg/kg/day投与群(投与開始時点では150mg/kg/dayであったが死亡例が認められたことから、3週間目に100mg/kg/dayに、6週間目に75mg/kg/dayに投与量を変更している)では雌雄に貧血、脾臓の髄外造血、胆管増生、腎尿細管上皮空胞化(10mg/kg/day投与群でも1例)が、雌に血小板数の増加、ALT及びGGTの上昇、副腎相対重量の増加、赤血球過形成が、雄に肝門脈性炎症が認められた。また、50mg/kg/day以上の投与群では、雌雄に肝重量の増加、ALPの上昇、肝細胞肥大(一部の動物で肝細胞色素沈着を伴う)が、雌に腎重量の増加が認められ、50mg/kg/day投与群では雌に甲状腺重量の増加が認められた。

以上により、NOAELは10mg/kg/dayとされた。

(3) 毒性に関しては、ヒトでの研究報告を含め、他に注目すべき知見を示唆する最近の研究報告は、特に見いだされていない。

(4) 以上の知見から、ヒトに対するパラジクロロベンゼンの毒性影響を考慮するに当たっては、本来であれば望まれるヒトの暴露に関する研究報告が見いだせないことにかんがみ、上記(2)におけるビーグル犬の肝臓や腎臓などへの投与影響が示唆された10mg/kg/dayが、ビーグル犬でのNOAELと考えられる。

(5) 上記(2)における暴露条件は、5days/weekであるので、これが1週7日間に平均化して暴露されたと考えると、1週間平均のNOAELは、

10(mg/kg/day)×5(days/week)/7(days/week)=7.14mg/kg/dayとなる。

(6) UFについては、種差として10、個体差として10となり、これらを乗じると100になる23)。

(7) NOAELをUFで除すことによって、

7.14(mg/kg/day)/100=0.0714mg/kg/dayとなる。

(8) 日本人の平均体重を50kg、一日当たりの呼吸量を15m3とすると21)、

0.0714(mg/kg/day)×50(kg)/15(m3/day)=0.24mg/m3=240μg/m3となる。

これをppmに換算すると、0.040ppmとなる。

(9) 以上の結果を考慮すると、ビーグル犬における強制経口投与で認められた肝臓や腎臓などへ影響を与える用量を吸入暴露に換算した値が最も低いことから、パラジクロロベンゼンの室内濃度に関する指針値は240μg/m3(0.040ppm)と設定することが適当とされた。

参照文献

1) WHO飲料水水質ガイドライン(第2版) 第2巻 健康クライテリアと関連情報(日本語版)1999年5月18日(原題:Guidelines for drinking―water quality,2nd edition,Volume2,Health criteria and other supporting information.1996)

2) IARC(International Agency for Research on Cancer).Toluene(inRe―evaluation of Some Organic Chemicals,Hydrazine and Hydrogen Peroxide).IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans.1999;71:829―864

3) Pelclova,D.,Rossner,P.and Pickova,J.Chromosome aberrations inrotogravure printing plant workers.Mutation Research 1990;245:299―303

4) Bauchinger,M.et al.Chromosome changes in lymphocytes afteroccupational exposure to toluene.Mutation Research 1982;102:439―445

5) IPCS(International Programme on Chemical Safety).Toluene.Environmental health criteria 1985;52

6) Slomianka,L.et al.The effect of low―level toluene exposure onthedeveloping hippocampal region of the rat:histological evidence and volumetric findings.Toxicology 1990;62:189―202

7) 石川 哲 他.シンナーの視覚毒性―その臨床と実験―.日本医事新報1985;3208:26―32

8) Johnson,A.et al.Effect of interaction between noise and tolueneonauditory function in the rat.Acta oto―laryngologica 1988;105:56―63

9) Dudek,B.et al.Neurobehavioural effects of experimental exposuretotoluene,xylene and their mixture.Polish journal of occupational medicine1990;3:109―116

10) Foo,S.C.,Jeyaratnam,J.and Koh,D.Chronic neurobehaviouraleffectoftoluene.British journal of industrial medicine 1990;47:480―484

11) Foo,S.C.et al.Neurobehavioural effects in occupational chemicalexposure.Environmental research 1993;60:267―273

12) Ono A.,Sekita K.,Ohno K.,Hirose A.,Ogawa Y.,Saito M et al.Reproductive and developmental toxicity studies of toluene I.Teratogenicity study of inhalation exposure in pregnant rats.Journal of toxicological science 1995;20:109―134

13) Donald,J.M.,Hooper,K.and Hopenhayn―Rich,C.Reproductive anddevelopmental toxicity of toluene:A Review.Environmental health perspectives 1991;94:237―244

14) Ng,T.P,Foo,S.W.and Yoong,T.Risk of spontaneous abortion inworkersexposed to toluene.British journal of industrial medicine 1992;49:804―808

15) IARC.Xylenes(in Re―evaluation of Some Organic Chemicals,Hydrazine and Hydrogen Peroxide).IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans.1999;71:1189―1208

16) IPCS.Xylenes.Environmental health criteria 1997;190

17) ATSDR(Agency for Toxic Substances and Disease Registry).Xylene.Tox

FAQs 1996;Internet address:http://www.atsdr.cdc.gov

18)  Anshelm Olson B.,Gamberale F.and Iregren A.Coexposuretotolueneandpxylene in man.British journal of industrial medicine 1985;42:117―122

19) Ungvary G.and Tatrai E.On the embryotoxic effects of benzene and its alkyl derivatives in mice,rats and rabbits.Archives of Toxicology 1985;8(Supplement):425―430

20)  Hass U.and Jakobsen B.M.Prenatal toxicity of xylene inhalation in the rat:A teratogenicity and postnatal study.Pharmacology and Toxicology.1993;73:20―23

21) 厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室.「パラジクロロベンゼンに関する家庭用品専門家会議(毒性部門)報告書」.平成9年8月28日

22) OECD SIDS(Screening Information Data Set)Initial Assessment Report(draft).Organisation for Economic Co―operation and Development,Paris

23) IPCS.Assessing Human Health Risks of Chemicals:Derivation of Guidance Values for Health―based Exposure Limits.Environmental health criteria 1994;170

(別添3)

室内空気中化学物質の採取方法と測定方法

これは、室内空気中化学物質の標準的な採取方法と測定方法を示したものである。

室内空気中化学物質は、ホルムアルデヒド、及びトルエン、o―,p―,m―キシレン、p―ジクロロベンゼン等の揮発性有機化合物を対象とする。また、その採取は新築住宅(入居前、改築後等生活行為の行われていない住宅)と居住住宅を対象とし、それぞれに条件を設定する。

新築住宅における室内空気中化学物質の測定は、室内空気中の揮発性有機化合物の最大濃度を推定するためのもので、30分換気後に対象室内を5時間以上密閉し、その後概ね30分間採取の濃度(μg/m3)で表す。(注1)採取の時刻は揮発性有機化合物濃度の日変動で最大となると予想される午後2時~3時頃に設定することが望ましい。居住住宅における室内空気中化学物質の測定は、居住、平常時における揮発性有機化合物の存在量や暴露量を推定するためのもので、24時間採取の濃度(μg/m3)で表す。

空気試料の採取場所は、居間、寝室の2カ所、および室外1カ所の計3カ所とする。(注2)室内濃度の値は居間あるいは寝室における高い室内の値を記載し、評価の対象とする。

ホルムアルデヒドは、DNPH誘導体化固相吸着/溶媒抽出―高速液体クロマトグラフ法によるものとする。

揮発性有機化合物は、固相吸着/溶媒抽出法、固相吸着/加熱脱着法及び容器採取法とガスクロマトグラフ/質量分析法の組み合わせによるものとする。

スクリーニングの目的で簡易な方法を用いる場合には、当該条件により化学物質濃度の過小評価が行われないよう配慮すると共に、ガイドラインに適合しているか否かの最終的判断は、設定された標準的な条件により行うよう留意すべきである。また、同等以上の信頼性が確保できる条件であれば、設定した標準的な条件に代えて用いても差し支えない。

1. 試料採取方法

本法は、室内空気中のホルムアルデヒド、及びトルエン、o―,p―,m―キシレン、p―ジクロロベンゼン等の揮発性有機化合物の採取方法を示したものである。

室内空気中化学物質の採取で対象とする住宅は、新築住宅と居住住宅とを区別して採取する。新築住宅における室内空気中化学物質の測定は、室内空気中の揮発性有機化合物の最大濃度を推定するためのもので、30分換気後に対象室内を5時間以上密閉し、その後概ね30分間採取の濃度(μg/m3)で表す。(注1)採取の時刻は揮発性有機化合物濃度の日変動で最大となると予想される午後2時~3時頃に設定することが望ましい。居住住宅における室内空気中化学物質の測定は、居住、平常の生活条件下における揮発性有機化合物の存在量や暴露量を推定するためもので、24時間採取における濃度(μg/m3)で表す。

室外の空気についても室内と同様の条件で並行して採取する。(注2)

1.1 新築住宅

入居前、改築後等の生活行為が行われていない住宅内における換気後の密閉5時間以上後における空気試料を採取する条件を示すものである。(注3)

改築した住宅も、新築住宅と同様の採取方法で評価する。ただし、家具等からの対象化合物の放散が多い場合も考えられるので、その発生については考慮する。(注4)

1.1.1 試料採取場所の選定

試料採取は、室内では居間、寝室、および住宅の外気の各1カ所の計3カ所を試料採取場所として設定する。室内にあっては、部屋の中央付近の少なくとも壁から1m以上離した高さ1.2~1.5mの位置を試料採取位置として設定する。外気の試料採取は外壁及び空調給排気口から2m~5m離した、室内の測定高さと同等の高さの所を試料採取位置として設定する(室外においてこの条件を満たすことが困難である場合は、適宜設定しても良いが、その場合は結果に外気の測定位置を特定できるように明確に記載すること。)。

1.1.2 室内空気試料採取の条件

(1) 居室の常時換気システムを有しない住宅(注5)

1) 換気:試料採取にあたっては、対象家屋の窓、扉、建具、備え付け品の扉等の全てを開き、30分間換気を行う。

2) 密閉状態の確保:換気後、外気に面した窓及び扉等の開口部を閉鎖し、5時間以上この状態を維持させる。この場合、建具は開放する。また、キッチンの戸棚、クローゼット等の備え付け品の扉も開放する。小窓等の換気口は閉めることとする。(注6)

3) 試料の採取:密閉後に所定の流量で概ね30分間試料空気をそれぞれの採取方法に従って採取する。原則としてそれぞれ2回ずつ採取する。(注7)

以下に、試料採取における試験計画の時間的経過の例を示す。

試料採取(14:30―)←5時間以上閉鎖(~9:30―14:30)←換気(~9:30)

(2) 居室の常時換気システムを有する住宅(注8)

居室の常時換気システムを有する住宅にあっては、次の方法による。

1) 換気:試料採取にあたっては、対象家屋の窓、扉、建具、備え付け品の扉等の全てを開き、30分間換気を行う。

2) 密閉状態の確保:換気後、外気に面した窓及び扉等の開口部を閉鎖し、換気システムを稼動させた状態を5時間以上維持させる。この場合、建具は開放する。また、キッチンの戸棚、クローゼット等の備え付け品の扉も開放する。小窓等の換気口は閉めることとする(ただし換気システムの機能のため必要なものを除く。)。

3) 試料の採取:密閉後に所定の流量で概ね30分間試料空気をそれぞれの採取方法に従って採取する。その他は居室の常時換気システムを有しない住宅の場合と同じ。

1.1.3 記録事項

空気試料の採取にあたっては次の点を記録する。

(1) 建物種別 戸建:構造(木造、2x4、木質プレハブ、鉄骨プレハブ、RC、その他)

階数(平屋、2階建、3階建、その他)

集合:階建、階部分

(2) 規模 1階(m2)、2階(m2)、3階(m2)、延面積(m2)

(3) 建築年数 竣工年月日、引渡し年月日

(4) 改修の有無 有 無

改修時期(年月日)可能な限り

家具購入時期(年月日)可能な限り

試料採取日の気温、湿度は同時に計測する。結果には最低限、採取時の気温、湿度の平均値を記載する。これに影響を与える可能性のある雨戸、カーテン等の使用状況についても記載する。

また、換気量の測定が可能な場合、これを測定する。

その他、天候、建物及び住宅環境、化学物質発生が懸念される情報を記載する。

測定結果については個々の値と各採取場所における平均値をそれぞれ記載する。

揮発性有機化合物を測定した場合、後掲の3種の方法のいずれで行ったのかを記載する。

1.1.4 試料の採取

ホルムアルデヒド及び揮発性有機化合物の空気試料は概ね30分間、所定の場所でそれぞれ2回ずつ採取を行う。(注9)

(1) ホルムアルデヒドの試料の採取

ホルムアルデヒドの試料採取の項に従って、室内2カ所、外気1カ所について2回ずつ採取する。同時にトラベルブランクも同様に持ち運ぶ。(注10)

(2) 揮発性有機化合物の試料の採取

揮発性有機化合物の試料の採取は、固相吸着/溶媒抽出法、固相吸着/加熱脱着法及び容器採取法における各々の試料採取の項の何れかの方法に従って、室内2カ所、外気1カ所についてそれぞれ2回ずつ採取する。

1.2 居住住宅

居住状態(日常生活状態)における化学物質濃度を把握する為の試料採取方法である。

測定対象の室、試料採取場所は新築と同じとする。試料採取は所定の流量で室内外とも24時間連続採取する。原則として所定の場所でそれぞれ2回ずつ採取を行う。

1.2.1 採取場所の選定

試料採取は、室内では居間、寝室、および住宅の外気の各1カ所を試料採取場所として設定する。室内にあっては、部屋の中央付近の少なくとも壁から1m以上離した高さ1.2~1.5m位置を試料採取位置として設定する。外気の試料採取は外壁及び空調給排気口から2m~5m離した室内の測定高さと同等の高さの所を試料採取位置として設定する(室外においてこの条件を満たすことが困難である場合は、適宜設定しても良いが、その場合は結果に外気の測定位置を特定できるように明確に記載すること。)。

1.2.2 室内空気試料採取の条件

居室の常時換気システムを有する住宅、有しない住宅のいずれにおいても日常生活における状態での空気を採取する。

試料採取開始時刻は任意に設定し、24時間採取する。

1.2.3 記録事項

(1) 住宅に係わる項目

空気試料の採取にあたっては次の住宅に係わる項目を記録する。

1) 建物種別 戸建:構造(木造、2x4、木質プレハブ、鉄骨プレハブ、RC、その他)

階数(平屋、2階建、3階建、その他)

集合:階建、階部分

2) 規模 1階(m2)、2階(m2)、3階(m2)、延面積(m2)

3) 建築年数 竣工年月日、引渡し年月日

4) 改修の有無 有 無

改修時期(年月日)可能な限り

家具購入時期(年月日)可能な限り

(2) 測定時間の生活状況に係わる項目

測定時間における生活状況について次の項目を記録する。

1) 1日の窓の総開放時間

2) 1日の換気扇の総使用時間

3) 1日の暖房器具の総使用時間

4) 暖房器具の種別(石油ストーブ、石油ファンヒーター、FF型石油ストーブ、ガスストーブ、ガスファンヒーター、FF型ガスストーブ、電気ストーブ、床暖房、その他)

5) 1日のエアコン、クーラーの総使用時間

6) 1日の喫煙本数

7) 芳香剤の使用状況

8) スプレー等の使用状況

9) 殺虫剤・防虫剤の使用状況

10) 調理の状況(ガスコンロ、電気コンロの使用時間等)

11) 防蟻処理を行ったか否か

12) 室内の温度、湿度(日平均値、最高、最低)

13) 天候

14) その他、室内濃度に影響を与える各種環境因子や生活行為等を可能な限り記載する。

測定結果については個々の値と各採取場所における平均値をそれぞれ記載する。

1.2.4 試料の採取

ホルムアルデヒド及び揮発性有機化合物の空気試料は24時間、所定の場所においてそれぞれ2回ずつ採取を行う。(注11)

(1) ホルムアルデヒドの試料の採取

ホルムアルデヒドの試料採取の項に従って、室内2カ所、外気1カ所について2回ずつ採取する。同時にトラベルブランクも同様に持ち運ぶ。(注10)

(2) 揮発性有機化合物の試料の採取

揮発性有機化合物の試料の採取は、固相吸着/溶媒抽出法、固相吸着/加熱脱着法及び容器採取法における各々の試料採取の項の何れかの方法に従って室内2カ所、外気1カ所についてそれぞれ2回ずつ採取する。

注1:換気回数が極端に少ない住宅の場合には、5時間の密閉後でも揮発性有機化合物の室内濃度が最大に至らない場合もある。

注2:室外の値は、室外の汚染の有無を確認するものであって、室内濃度から差し引くものではない。

注3:原則として生活行為はない状態とする。希望する場合は、現在使用している、または過去に使用していた住宅についてもこの条件で採取を行うこともできるが、その場合は採取中生活行為を行うことは出来ない。

注4:家具等が多く存在する場合は、改築前の状況を把握しておくのが望ましい。

注5:居室の常時換気システムには、トイレ換気扇、浴室換気扇、レンジフード等の連続換気を原則としない局所換気システムは含まない。

注6:小窓等のパッシブ型の換気システムは原則的には閉めて試料採取する。パッシブ型の常時換気システムは自然条件の影響を受けることが多いので、本件で使用を認める換気システムは、強制換気システムと同等の性能を有する場合例外的に設定できることとする。

注7:試料採取中の配管の外れ、その他のミスを考慮し、同一試料を2回ずつ採取する。同時に2重測定(n=2)の意味を持たせる。測定値平均とそれぞれの測定値との間に±15%以上の開きがある場合には、原則として欠測扱いとし、再度試料採取を行う。

注8:常時の計画機械換気を指す。24時間の連続運転が確保できるもので、間歇的に運転される局所換気はこれに含まれない。

注9:試料採取中に配管の外れ、その他のミスを考慮し、同一試料を2回ずつ採取する。原則として平行して採取することが望ましいが、30分づつ2回連続して採取した場合も同じ操作と解釈してもよい。測定値平均とそれぞれの測定値との間に±15%以上の開きがある場合には、原則として欠測扱いとし、再度試料採取を行う。

注10:室内と室外空気における化学物質の種類と量は異なるので、ホルムアルデヒドの試料の採取にあたっては、異なる器具を用いてもよい。室外にはオゾンが多く存在するので捕集管の前にオゾンスクラバーを装着してもよい。室内でもオゾンの発生が疑われる場合は装着してもよい。いずれの場合も使用の際には湿度を考慮する必要がある。

注11:試料採取中の配管の外れ、その他のミスを考慮し、同一試料を2回ずつ採取し、同時に2重測定(n=2)の意味を持たせる。測定値平均とそれぞれの測定値との間に±15%以上の開きがある場合には、原則として欠測扱いとし、再度試料採取を行う。

2. ホルムアルデヒドの測定方法

2.1 測定の概要

空気中ホルムアルデヒドをDNPH捕集剤に吸着すると共に誘導体化させる。これをアセトニトリルで溶出させ、高速液体クロマトグラフで測定する。空気の採取と同時に気温・湿度を測定し、冬季など気温が低い場合等、必要が認められる場合には温度・湿度による濃度の補正を行うこととする。

2.2 試薬

(1) アセトニトリル:高速液体クロマトグラフ用のアセトニトリルを用いる。

(2) 水:蒸留水を超純水製造装置を用いて精製したもの。

(3) ホルムアルデヒド標準原液:市販のホルムアルデヒド2,4―ジニトロフェニルヒドラゾン70.0mgを秤り、アセトニトリルに溶かし、100ml全量フラスコに移し、アセトニトリルで標線に合わせ、これを標準原液とする。1ml=100μgHCHO

(4) ホルムアルデヒド標準溶液:ホルムアルデヒド標準原液10mlを100ml全量フラスコにとり、アセトニトリルで標線に合わせる。これを標準溶液とする。1ml=10μgHCHO

2.3 器具及び装置

(1) 捕集管:市販のDNPH捕集管を用いる。

(2) オゾンスクラバー:市販のオゾンスクラバーを用いる。

(3) 流量計:100~1000ml/minの流量が測定できるもの。

(4) ポンプ:100~1000ml/minの流量が24時間確保できるもの。

(5) ガスメータ:空気量が積算計測できるもの。

(6) 液体シリンジ:容量100μlのもの。

(7) マイクロシリンジ:容量50~100μlのもの。

(8) 保存用バイアル:容量2mlの共栓付きのもの。

(9) 温湿度連続測定器:24時間連続してモニターできるもの。

(10) 高速液体クロマトグラフ

1) 送液ポンプ:定流量で、必要な圧力が確保され、且つ脈流の少ないもの。また、流量が調節できるもの。

2) 試料導入装置:試験液の10~30μlをカラムに入れられる構造であること。

3) カラム:内径3~5mm、長さ15~25cmのステンレス管にオクタデシルシリル基(ODS)を化学結合させたシリカゲル(粒径5~10μm)を充てんしたもの、またはこれと同等の性能を有するもの。

4) 移動相:アセトニトリル:水(6:4)

5) 検出器:UV360nm

測定の一例として以下の分析条件がある。

流量:1.0ml/min

試料導入量:20μl

カラム温度:40℃

2.4 試料採取方法

(1) 新築住宅の場合

捕集管(市販のDNPH補集管)のキャップをはずし図1の如く接続する。試料空気の採取は1L/minの流速(流速は破過が懸念される場合は十分な量が捕集できる範囲でこれより遅くしてもよい)で30分間行う(2回ずつ採取)。試料採取後は捕集管を密栓し、活性炭入りの容器に保存する。採取した捕集管はなるべく速やかに抽出操作を行う。(注1)

なお、室内外にオゾンの発生やその存在が懸念される場合は捕集管の前にオゾンスクラバーを取り付けて採取してもよい。なお、同時に外気も採取する。図1及び図2に室内及び外気の試料採取装置の一例を示す。(注2)(注3)

図1 室内ホルムアルデヒドの試料採取装置の一例

図2 外気ホルムアルデヒドの試料採取装置の一例

(2) 居住住宅(日常生活)

捕集管のキャップをはずし図3の如く接続する。試料空気の採取は100ml/minの流速(破過が懸念される場合は十分な量が捕集できる範囲でこれより遅くしてもよい)で24時間行う。外気も同条件で行う。次の操作はminと同じ。(注4)(注5)

図3 室内ホルムアルデヒド(日常生活)の試料採取装置の一例

2.5 試験溶液の調製

(1) 新築住宅

試料採取の終わった捕集管に注射筒(10ml)を装着し、この注射筒にアセトニトリル5mlを入れ、毎分1ml程度の流速でアセトニトリルを滴下しヒドラゾンを溶出する。溶出液を5mlの全量フラスコ又は目盛り付き試験管に受ける。アセトニトリルで標線に合わせる。これを分析用試料溶液とする。

(2) 居住住宅(日常生活)

試料採取の終わった捕集管(第1管及び第2管)にそれぞれ注射筒を装着し、この注射筒にアセトニトリル5mlを入れ、毎分1ml程度の流速でアセトニトリルを滴下しヒドラゾンを溶出する。溶出液は5mlの全量フラスコ又は目盛り付き試験管にそれぞれ受ける。次に、第1管目の場合は溶出液の中から1mlを分取し、5mlの全量フラスコ又は目盛り付き試験管に入れアセトニトリルで標線に合わせる。一方、第2管目の場合はアセトニトリルで標線に合わせる。これらを分析用試料溶液とする。

(3) 外気

試料採取の終わった捕集管(第1管及び第2管)に注射筒を装着し、この注射筒にアセトニトリル5mlを入れ、毎分1ml程度の流速でアセトニトリルを滴下しヒドラゾンを溶出する。溶出液は5mlの全量フラスコ又は目盛り付き試験管に受ける。アセトニトリルで標線に合わせる。これを分析用試料溶液とする。(注6)

2.6 試験操作

(1) 分析用試料溶液の測定

2.5で調製した試料溶液をマイクロシリンジにより20μl分取し、高速液体クロマトグラフ(HPLC)に導入しクロマトグラムを記録する。ホルムアルデヒドの保持時間のピークについて、ピーク面積又はピーク高さを求める。あらかじめ作成しておいた検量線(2.7参照)からホルムアルデヒドの重量を求める。(注7)

(2) 操作ブランク

未使用のDNPH捕集管について、2.6(1)の操作を行い、得られた溶液を操作ブランク試験溶液とする。この試験溶液をマイクロシリンジにより20μl分取し、HPLCに導入し操作ブランク値を求める。

(3) トラベルブランク

トラベルブランク試験としては、試料の採取に際し、密栓した捕集管を、試料採取操作を除いて、試料採取管と同様に持ち運び取り扱う。(注8)

2.7 検量線の作成

ホルムアルデヒド標準溶液(1ml=10μg HCHO)を0―5ml段階的に5mlの全量フラスコ又は目盛り付き試験管に取り、アセトニトリルで5mlに合わせ、検量線作成用標準系列とする。調製した標準系列溶液をマイクロシリンジにより20μl分取し、高速液体クロマトグラフ(HPLC)に導入しクロマトグラムを記録する。ホルムアルデヒドのピーク面積又はピーク高さを求め、ホルムアルデヒドの導入量(μg)とピーク面積又はピーク高さとの関係線を作成し、検量線とする。

2.8 検出下限値及び定量下限値

同一ロットの未使用捕集管について分析操作を行い、ホルムアルデヒドのブランク値(A)を求める。2.9の式に(As―A)を代入し濃度を算出する。但し、V=30L、t=20℃、P=101.3とする。5本以上の捕集管を測定した時の標準偏差(s)から次式により検出下限及び定量下限値を算出する。

検出下限値=3s(μg/m3)

定量下限値=10s(μg/m3)

2.9 濃度の算出

次式により試料空気中のホルムアルデヒド濃度を算出する。

C=(((As―A)×D×E×1000)/(v×V×(293/273+t)×p/101.3))

C:20℃における試料空気中のホルムアルデヒド(HCHO)濃度(μg/m3)

As:検量線より求めた試料溶液中のHCHOの質量(μg)

A:検量線より求めた操作ブランク試験溶液中のHCHOの質量(μg)

D:希釈係数

E:試料溶液の液量(ml)

v:HPLCへの導入量(μl)

V:ガスメーターで測定した試料空気の捕集量(L)

t:試料採取時の平均気温(℃)、湿式型の積算流量計を使用している時には積算流量計の平均水温(℃)

p:試料採取時の平均大気圧(kPa)、湿式型積算流量計の場合には(P―Pw)を用いる。

ここで、Pwは試料採取時の平均気温tでの飽和水蒸気圧(kPa)

室温が25度に満たない場合には以下の式により濃度の補正を行うことを推奨する。

C’=C×1.09(25―t)×100/(50+rh)

t:試料採取時の平均気温(℃)、湿式型の積算流量計を使用している時には積算流量計の平均水温(℃)

rh:試料採取時の平均湿度(%)

2.10 結果の報告

(1) 測定対象建物の概要

(2) 測定年月日、気温、湿度(採取時の平均を記載)

(3) 測定結果(個々の値及び各場所の平均値)

(4) 定量下限値

(5) 建物及び生活行為に関する情報

注1:直ちに抽出操作が出来ない時、捕集管は冷暗所(4℃以下)に保存すれば1週間程度は保存可能である。抽出液で保存すれば3週間は保存可能である。

注2:オゾンスクラバーを使用する時は湿度を考慮する。また、スクラバー部分を室温よりやや高めに保温し水分の凝縮を防ぐ。

注3:試料採取時の気温が10℃以下の場合は捕集管の部分を10℃以上に保温する。

注4:試料採取開始時刻は任意設定する。

注5:24時間試料採取の場合、拡散型(パッシブサンプラー)のサンプラーを使用してもよい。但し、使用するサンプラーは第三者機関等で測定精度が保証されたもの。或いは標準測定法との換算が可能なもの。

注6:外気の場合は第1管及び第2管とも5mlにメスアップしたものを分析用試料溶液とする。第2管は破過の確認のためのもの。

注7:室内空気中の各対象化合物の濃度は範囲が広いことが予想されるため、定量上限を明確に把握しておくことが必要である。試料空気の測定値が作成した検量線の直線範囲からはずれている場合は、分析の諸条件を検討したうえで検量線を作成し直し、再度測定する。

注8:本試験は一連の試料採取において試料数の10%程度の頻度で、少なくとも3試料以上測定する。

トラベルブランク値が操作ブランク値と同等(等しいか小さい)とみなせる時には、移送中の汚染は無視出来るので、試料測定値から操作ブランク値を差し引いて濃度を算出する。移送中の汚染がある場合には、3試料以上のトラベルブランク値を測定した時の標準偏差(s)から求めた定量下限値(10s:大気濃度への換算値)が目標定量下限値(注8)以下の時、及びトラベルブランク値による定量下限値が目標定量下限値より大きくても、試料の測定値がトラベルブランク値による定量下限値以上の時には、試料測定値からトラベルブランク値を差し引いて濃度を計算する。しかし、移送中に汚染があり、また、トラベルブランク値による定量下限値が目標定量下限値より大きく、しかも、試料の測定値がトラベルブランク値による定量下限値より小さい時は原則として欠測扱いとする。この場合には汚染の原因を取り除いた後、再度試料採取を行う。

注9:目標定量下限値はガイドライン値の1/10とする。

3. トルエン、o―、p―、m―キシレン及びp―ジクロロベンゼン等揮発性有機化合物の測定方法

ここに掲げる測定方法は、室内空気中のトルエン、o―、p―、m―キシレン及びp―ジクロロベンゼンを対象とする。室内空気の採取は、新築住宅における場合と居住住宅における場合は二つの異なる方法による。室内空気採取は、居間(リビング)および寝室で採取し、いずれかの高い値を記載し、評価する。また外気の影響を考慮するため、同時に外気も採取する。試料の採取方法は、固相吸着―溶媒抽出法、固相吸着―加熱脱着法及び容器採取法の3種の方法がある。いずれの採取法もガスクロマトグラフ/質量分析計と連動した装置によって測定する。

3.1 第1法 固相吸着―溶媒抽出―ガスクロマトグラフ/質量分析法

3.1.1. 測定方法の概要

吸着剤を充てんした捕集管に室内空気及び外気を一定流速で吸引して、測定対象物質を捕集する。捕集管から測定対象物質を溶媒で溶出させ、これをキャピラリーカラムに導入してGC/MSにより分離、定量することを基本とする。(注1)

3.1.2. 試薬

(1) 二硫化炭素:1μlをGC/MSに注入したとき、測定対象物質及び内標準物質のクロマトグラムに妨害を生じないもの。

(2) 過塩素酸マグネシウム:元素分析用(粒径300~700μm)

(3) 標準物質:トルエン、o―、p―、m―キシレン及びp―ジクロロベンゼンは純度98%以上のJIS規格試薬特級、またはこれと同等以上のもの。

(4) 標準原液(1000μg/ml):各メスフラスコ100mlに標準物質100mgを精秤し、二硫化炭素を加えて100mlとする。この溶液1mlは各々の標準物質1000μgを含む。(注2)(注3)

(5) 標準溶液(100μg/ml):標準原液の一定量を二硫化炭素を用いて10倍に希釈する。この溶液1mlは各々の標準物質100μgを含む。(注2)(注3)

(6) 混合標準溶液(100μg/ml):各標準原液のそれぞれの一定量(1ml)をメスフラスコ(10ml)に入れ、二硫化炭素を用いて10倍に希釈する。この溶液1mlは各々の標準物質100μgを含む。(注2)

(7) 高純度窒素ガス:測定対象物質及び内標準物質のクロマトグラムに妨害を生じないもの。(注4)

(8) 標準原ガス(1μg/ml):(注5)

1) 標準原ガス:ボンベ入りの標準ガスを使用してもよい。流量比混合法もしくは容量比混合法のいずれの加湿混合標準ガス作成法でもよい。(注6)(注7)(注8)

2) 真空瓶による方法:ここで調製した標準原ガスは混合法による混合標準ガスの作製に用いることができる。真空瓶(1㍑)を高純度窒素ガスで置換して大気圧に戻し、これに、単独または混合で標準物質の100mgを精秤して液体シリンジを用いて注入口から注入し、真空瓶を60℃以上に加熱して標準物質を気化、混合し、100μg/ml標準原ガスとする。100μg/ml標準原ガス10mlを高純度窒素で置換して大気圧に戻した別の真空瓶の注入口から注入して100倍に希釈し、1μg/ml標準原ガスを調整する。(注2)(注7)(注8)

(9) 混合標準ガス(0.1μg/ml):以下に示すいずれかの方法によって調整する。(注2)

1) 標準原ガスを用いた真空瓶による方法:高純度窒素で置換して大気圧に戻した別の真空瓶の注入口から各標準原ガスの一定量(100ml)を注入して10倍に希釈し、混合標準ガスを調整する。(このガス1mlは各標準物質0.1μgを含む。)

2) 標準原液を用いた真空瓶による方法:高純度窒素で置換して大気圧に戻した真空瓶の注入口から各標準原液(10mg/ml)の一定量(10μl)を注入して混合し、混合標準ガスを調整する。(このガス1mlは各標準物質0.1μgを含む。)

2) 標準原ガスを用いた混合法

1) 流量比混合法による方法:図1に示すように高純度窒素ガスと標準原ガスにマスコントローラをそれぞれに接続し、さらにこれらを混合させて、その先に真空にした採取容器または真空瓶等で混合ガスを採取できるよう接続する。標準原ガス1に対して加湿高純度窒素ガスを一定の割合になるように両方のマスコントローラで流量を調節して、真空にした採取容器または真空瓶に採取して調製する。

2) 容量比混合法による方法:a)またはb)の方法による。

a) T字管法:図2に示すように高純度窒素ガスにバルブ、ガスタイトシリンジが注入できるガス希釈用T字管を接続させ、その先に真空にした採取容器または真空瓶等に混合ガスが採取できるように接続する。流路内の空気を高純度窒素ガスで置換した後、窒素ガスを止め、バルブを閉じる。ついで、採取容器の栓を開け、ガス希釈用T字管からガスタイトシリンジを用いて複数の測定対象物質の標準原ガスを所定量づつ真空にした採取容器に注入する。さらに、高純度窒素ガスを大気圧まで加圧して混合標準ガスを調製する。

b) 直接法:標準原ガスの一定量をガスタイトシリンジを用いて真空瓶に直接注入し、さらに高純度窒素ガスで10~200倍程度まで希釈する。

図1 流量比混合法による混合標準ガス調製の例

図2 容量比混合法による混合標準ガス調製の例

(10) 内標準原液(1000μg/ml):内標準物質(トルエン―d8)の100mgを精秤し、二硫化炭素100mlに溶解する。(注2)

(11) 内標準溶液(100μg/ml):内標準原液を二硫化炭素で10倍に希釈する。この溶液1mlは内標準物質100μgを含む。(注2)

(12) 内標準ガス:高純度窒素ガスで置換して大気圧に戻した別の真空瓶の注入口から内標準原液(10mg/ml)の一定量(10μl)を注入して混合し、内標準ガスを調整する。(このガス1mlは各標準物質0.1μgを含む。)(注2)

3.1.3. 器具および装置

(1) 抽出瓶:スクリューキャップバイアル(容量 2ml)

(2) 真空瓶:図3に示すような、1Lのガラス製の真空瓶で内容積が正確に計算されたもの。瓶の中には混合用テフロン粒を数個入れておく。高純度窒素ガスで置換して60℃に加熱して1時間放置した後、真空にする。この操作を数回繰り返した後、高純度窒素ガスで置換して保存する。使用にあたっては、新しい高純度窒素ガスで置換した後、真空にして使用する。

図3 真空瓶

(3) マイクロシリンジ:容量1~10μlまたは10~100μlが計りとれるもの。

(4) ガスタイトシリンジ:容量1~10mlまたは10~100mlが計りとれるもの。

(5) 検量線作成用T字管:図4に示すように、注入口のセプタム、捕集管及び高純度窒素ガスが接続できるもので、高純度窒素ガスを30~50ml/minの流速で3~5分間通気させることができるもの。

図4 検量線作成用T字管

(6) 試料採取装置:試料採取装置は、除湿管、捕集管、マスフローコントローラ、ポンプ、ガスメータとを連結したものから成り、その例を図5に示す。

試料採取装置に使用する器具類は十分に洗浄して汚染に注意する。試料採取に当たって装置を組み立てた後、漏れのないことを確認する。

図5 試料採取装置

1) 捕集管

内径3~4mm程度のガラス管に活性炭約300mg程度を充てんしたもの。または測定対象物質に対して十分な捕集能力を有するもの。

2) 除湿管:捕集管と雨よけを接続できるようなガラス管に過塩素酸マグネシウムを約15g充てんし、両端を石英ウールで押さえたもの。両端を密栓し、使用時まで活性炭入りの密閉容器に保存する。

3) マスフローコントローラー:流量を100~1000ml/minの範囲で制御でき、設定流量に対して±10%以内の制御精度を有するもの。または、これと同等以上の性能を有するもの。

4) ポンプ:ダイヤフラム型等の密閉式のポンプで捕集管をつけた状態で100~1000ml/minの捕集流量が確保できるもの。または、これと同等以上の性能を有するもの。

5) ガスメータ:湿式型のもの、またはこれと同等の能力のあるもので、積算測定が可能であり、マスフローコントローラの流量制御範囲で精度よく作動する性能を有するもの。

(7) ガスクロマトグラフ―質量分析計(GC/MS)

1) GC/MS装置

a) 試料注入口:スプリット/スプリットレス注入が可能なもの。

b) カラム恒温槽:恒温槽の温度制御範囲が35~300℃であり、測定対象物質の最適分離条件に温度制御できるような昇温プログラムが可能なもの。

c) 分離管:内径0.25~0.32mm、長さ25~60mの溶融シリカ製のものであって、内面にメチルシリコンまたは5%フェニルメチルシリコンを0.5~1.5μmの膜厚で被覆したキャピラリーカラム、またはこれと同等の分離性能を有するもの。

d) インターフェース部:温度を200~300℃程度に保つことができるもの。

e) イオン源:温度を160~300℃に保つことができ、イオン化電圧は70eV程度のもの。

f) 検出器(MS):EI法が可能で、SIMもしくはScan検出法が可能なもの。

g) キャリヤーガス:ヘリウム(純度99.999vol%以上)。1ml/min

h) 測定質量数:各測定対象物質の測定用質量数は表1による。

表1 各測定対象物質の測定用質量数