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○理容業及びクリーニング業の適正化基準の認可について
(昭和三四年一二月二八日)
(衛発第一二八七号)
(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省公衆衛生局長通達)
理容業及びクリーニング業の適正化基準は、昨年全国理容環境衛生同業組合連合会及びクリーニング業環境衛生同業組合連合会から厚生大臣に対し設定認可の申請が行われたので、これを中央環境衛生適正化審議会に諮問したが、爾後中央審議会は慎重審議を重ねた結果、さる一○月二○日最終的な結論を得、直ちに厚生大臣に対し答申を行つた。これにより厚生大臣は公正取引委員会に協議し、同意を得た後一○月二一日発衛第五九二号及び発衛第五九三号をもつて認可した。
適正化基準は、両業種の環境衛生同業組合が設定する適正化規程の基本的な内容を定めたものであるから、今後貴都道府県における両業種の適正化規程の設定認可及びその運営の指導にあたつては、次の諸点に留意し、遺憾なきを期せられたい。
記
第一 適正化基準の設定の意義
適正化基準とは、適正化規程の基本となるものをいい(法第五四条第一項第一号)、環境衛生同業組合が適正化規程を設定する場合に準拠すべき事項を定めたものであるから、これをもつて直接に環境衛生同業組合の組合員を拘束することとはならないが、実質的には、適正化規程の基本的方向を規定したものである点において、関係業界に対してはもとより、一般国民に対しても極めて大きな意義を有するものであること。
第二 理容業及びクリーニング業の適正化基準の内容
一 料金の制限
(一) 料金の制限は、理容業の適正化基準では大人調髪、大人丸刈、顔そり、子供調髪及び子供丸刈の五種目の料金の全部又は一部について、クリーニング業の適正化基準ではワイシャツの水洗(ランドリー)料金並びに背広上衣、チヨツキ、ズボン、冬オーバー、婦人服上衣、タイトスカート及びワンピースのドライクリーニング料金の八種目の全部又は一部について行うことができるものとしたこと。
(二) 料金の制限の方式としては、理容業及びクリーニング業の適正化基準のいずれにおいても、各企業のサービス・能率競争を阻害することなく、また消費者への不利な影響をも除去するため、計算カルテル方式を採用すべきこととしたこと。
ここに計算カルテル方式とは、合理的な自由競争が行われる基盤を確立するため、原価プラス正常利潤以下の料金を抑制しようとする方式であつて、具体的には、一定の基準料金を定め、一般的にはこれによらしめるが、基準料金以下であつても企業がこの原価プラス正常利潤を下廻るものでないことを証明したときはその料金で営業することを認めていくものであること。
(三) 適正化規程において定められる基準料金について、その算出の前提となる経営規模、操業度、能率、利潤率等の各要素のとり方及びこれらの数値を基礎として基準料金を算出する方式を示すとともに、全国的にみた場合の平均的な基準料金を算出していること。この全国的にみた場合の平均的な基準料金は、適正化規程の基準料金の算出の前提となる各要素のうち、全国的に一定の数値を定めたものはその数値により、各地域ごとに数値を定めることとされたものはその全国平均の数値により、基準料金の算出方式に従つて算出したものであつて、適正化規程の基準料金を決定する際の目安としての意味を有するとともに、各地域ごとに数値を定めることとされた要素について標準的な数値を示し、地域ごとにこの数値を決定する場合の目安としての意味も有するものであること。
(四) 計算カルテル方式においては、基準料金以下であつても原価プラス正常利潤を下廻つていないことを証明した場合にはその料金で営業することが認められるが、この原価プラス正常利潤を下廻つていないかどうかの審査を行う機関の構成及び審査の基準を定めたこと。すなわち、審査を行う機関は、中立、公正な立場を確保するため組合員のほか学識経験者を加えるべきこととし、また審査の基準については料金の低廉であることがサービス・能率の向上によるものであるかどうかを判断することを基本的態度として基準料金の算出の前提となる各要素ごとに審査方針を明らかにしたこと。
(五) 環境衛生同業組合の組合員である消費生活協同組合、農業協同組合等の各種協同組合や会社、工場の購買会などのいわゆる福利厚生施設について、その経営の特殊性にかんがみ、一率に料金の制限を行うことなく、割引又は割戻等の特例的な取扱を行うべきことを定めたこと。
二 営業方法の制限
(一) 営業方法の制限は、理容業の適正化基準では、休日及び営業時間の制限並びに過剰サービスの禁止の全部又は一部について、クリーニング業の適正化基準では、休日及び営業時間の制限、過剰サービス、誇大な宣伝又は偽まん的な宣伝の禁止並びに不当な信用供与の禁止の全部又は一部について行うことができるものとしたこと。
(二) 休日及び営業時間の制限については、労働基準法の規定を尊重しつつ、また業界の現状をも勘案して、理容業の適正化基準では、週休制及び一一時間営業の実施を、クリーニング業の適正化基準では、週休制及び一○時間営業の実施を定めたこと。
(三) 過剰サービスの禁止、誇大な宣伝又は偽まん的な宣伝の禁止及び不当な信用供与の禁止について、業態の特質を考慮し、それぞれの業界に一般的に行われている営業方法を公正ならしめるため、これらの制限を行うことができるものとしたこと。
第三 適正化規程の設定の認可に当つての留意事項
(一) 中央環境衛生適正化審議会において理容業及びクリーニング業の適正化基準の設定認可に関する答申を行うに当り、別紙のような要望が厚生大臣に対しなされたが、各都道府県においても適正化規程の設定認可及び運営に際しては、この要望事項の趣旨を十分に尊重されたいこと。
(二) 料金及び営業方法の制限は、法の目的に照らしても明らかなとおり、その窮極的な目的である公衆衛生の向上及び増進のための手段として認められていることにかんがみ、徒らに料金の値上げの方向に走ることとならないよう留意されたいこと。また、理容業及びクリーニング業法はいずれも国民生活と密接な関連を有するものであるから、料金及び営業方法の制限によつて消費者に対し不当に不利益を与えることとならないよう留意されたいこと。
(三) 適正化規程は、過度の競争により、組合員が適正な衛生措置を講ずることが阻害され、又は阻害されるおそれがある場合(以下「過度の競争による衛生措置阻害の事態」という。)を克服するため、必要最少限度の範囲内においてその設定が認められている(法第九条)のであるから、過度の競争による衛生措置阻害の事態の存しない地域についてまで適正化規程を設定して料金及び営業方法の制限を行うことは認められないこと。
この場合において、過度の競争による衛生措置阻害の事態が存するかどうかの判定は、組合の区域に関係なく当該業種ごとに存する経済的な競争圏について行うこととなるので、換言すれば過度の競争による衛生措置阻害の事態が存する競争圏内においてのみ適正化規程を設定しうるものであることに留意されたいこと。
(四) 料金の制限は、過度の競争による衛生措置阻害の事態が存する競争圏ごとに行われるべきものであり、従つて基準料金も各競争圏ごとに算出されるもので、一都道府県内においても数個の基準料金が設定されうるものであることに留意されたいこと。
(五) 営業方法の制限は、適正化基準で定められた種類のうちから都道府県組合における競争の実情を考慮して選択されるべきであるが、特に休日及び営業時間の制限については、業界の現状において可能なかぎり労働基準法の趣旨に合致した内容とするよう指導されたいこと。
第四 その他運用上留意すべき事項
(一) 削除
(二) 適正化基準において料金の制限の方式として採用された計算カルテル方式は、理容業界及びクリーニング業界においてはもとより、わが国においても初めて実施されるものであることにかんがみ、この方式の趣旨、内容等について両業界の組合員に対して十分周知徹底せしめるよう指導し、その適正かつ円滑なる運営がなされるよう努められたいこと。
(三) 適正化規程が設定されても、非組合員の活動如可によつてはその実効を期待しえないこととなるばかりか、これが更に員外者規制命令の発動につながることも考えられるので、非組合員であつても適正化規程の趣旨を体し、これに協力するよう指導されたいこと。ただこの場合において、法第五条第二号に定める加入脱退の自由を拘束することとならないよう十全留意されたいこと。
(四) 適正化規程の設定の認可に関する事務は関係業界の経営内容に関するものであり、従前の事務に対し異質的な性格を有するため、この事務の処理上必要となる資料も大部分が新たに調査、整理を必要とすると考えられるので、都道府県においてはあらかじめ実態調査を行う等によりできるかぎりその整備に努められたいこと。
(五) 適正化規程は、都道府県ごとに設定されることとなるが、隣接都道府県間において異なつた内容の適正化規定が設定された場合には十分な効果を期待しえないこととなるので、審議の途中においても関係都道府県は相互に十分連絡し、調整を行つておかれたいこと。
(六) 指定都市をその区域内に含む都道府県においては、適正化規程の設定の認可は、都道府県知事が指定都市の市長の意見を求めたうえ行うこととされているが、理容業及びクリーニング業に対する指導監督権限が指定都市の市長にあるため、実態調査の実施をはじめとして適正なる事務処理を行うには両者の協調が特に必要と考えられるので、相互に十分連絡協調されたいこと。
(七) 料金の制限は、本来環境衛生同業組合の自主的活動によつて行われるのが最も望ましいのであつて、自主的活動のみによつては十分な効果を期待しえない場合において初めて員外者規制命令が発動されるべきものであることに留意するとともに、環境衛生同業組合に対しても適正化規程の実施に十分なる努力を払わずに、徒らに員外者規制命令の発動を申請することのないよう指導されたいこと。