添付一覧
○乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチンの接種について
(昭和六三年一二月一九日)
(健医感発第九三号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省保健医療局疾病対策課結核・感染症対策室長通知)
標記については、本日厚生省保健医療局長から予防接種実施規則の一部を改正する省令の施行について通知されたところであるが、乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチンの接種の実施に当たっては次の事項を了知の上、その積極的な活用が図られるよう貴管下市町村長の指導に遺憾なきを期されたい。
記
第一 接種に当たっての留意事項
1 今回の改正は麻しんワクチンに風しん及びおたふくかぜのワクチンを混合したワクチンが開発されたので麻しんの接種のときにこれを希望者には使ってもよいこととするものであること。
2 法律に基づく風しんの定期予防接種については、風しん及びインフルエンザの予防接種の実施について(昭和五二年八月二九日付け衛情第二二号保健情報課長通知)において示したとおり中学生女子を対象として実施するものであり、従来どおり実施されたいこと。
3 乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチンを使用して行う麻しんの予防接種の接種回数、接種量、接種方法については、乾燥弱毒生麻しんワクチンを使用する場合と同様であること。
4 乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチンを使用して麻しんの予防接種を受けた者に対して予防接種法施行規則第七条の規定により予防接種済証を交付するに当たっては、当該接種済証に乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチンを使用した旨を明記すること。
5 麻しんの予防接種については個別接種方式で実施することとしているが、接種率の一層の向上を図るためさらに接種体制の整備に努めること。
6 なお、接種に当たっては、MMRワクチン研究会の作成した「乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン使用の手引き」(別添)が公表されているので参考とされたいこと。
(別添)
乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン使用の手引き
〔MMRワクチン研究会〕
序
乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合(Measles・Mumps・Rubella;MMR)ワクチンは、わが国で開発され、それぞれ単独で使用されてきた3種類の弱毒生ワクチンを混合して、1回の接種により3種類のウイルスの全てに対する免疫を与えることを目的として製造されたものである。
3種類のワクチンを混合して接種しても、それぞれのワクチンによる副反応を強くしたり、免疫効果を弱くしたりするおそれは全くない。
米国において開発されたMMRワクチンは、既に20年間にわたって用いられており、これら3疾患の制圧に大きく貢献してきた注1)。また、1980年代になってからは、欧州においてもMMRワクチンを採用する国が増加しつつある。本ワクチンが普及すれば、わが国においてもこれら3疾患は激減するものと期待される。
上述のように、本ワクチンは3種類のワクチンを混合したものであるので、この手引きもまた基本的には既に発行されている個々の「ワクチン使用の手引き」注2)を合わせたものである。個々の「ワクチン使用の手引き」との間の若干の差異は、主としてこれらワクチンに対する理解の変化によるものである。
1988年11月
MMRワクチン研究会
注1)Measles prevention:Recommendations of the lmmunization Practice Advisory Committee.Morbidity and Mortality Weekly Report,36:409~425,1987.
Mumps vaccine:Recommendations of the lmmunization Practice Advisory Committee.Morbidity and Mortality Weekly Report,31:617~625,1982.
Rubella prevention:Recommendations of the lmmunization Practice Advisory Committee.Morbidity and Mortality Weekly Report,33:301~318,1984.
注2)風しんワクチン研究会:乾燥弱毒生風しんワクチン使用の手引き
社団法人 細菌製剤協会(1977. 1)
麻疹ワクチン研究協議会:乾燥弱毒生麻しんワクチン使用の手引き
社団法人 細菌製剤協会(1978. 7)
ムンプスワクチン研究会:乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン使用の手引き
社団法人 細菌製剤協会(1981. 2)
使用の実際
1 ワクチンの製造法、外観、保存法
1) 製造法
弱毒麻しんウイルス(AIK‐C株)及び弱毒ムンプスウイルス(占部AM‐9株)をいずれもニワトリ胚初代培養細胞で、また弱毒風しんウイルス(TO‐336株)をウサギ腎初代培養細胞でそれぞれ増殖させてウイルス浮遊液(ワクチン原液)を得る。
3種類の原液を混合し、これにゼラチン、ヒト血清アルブミン、アミノ酸類、糖等の安定剤を加えた後、乾燥してワクチンの最終製品とする。
ワクチンには少量の抗生物質、即ちカナマイシン及びエリスロマイシンが含まれる。ペニシリンは含まれない。
2) 外観
容器中には乾燥状態で存在し、添付の溶剤(日本薬局方注射用水)を加えると、速やかに溶解して帯黄色または帯赤色の澄明な液剤となる。
3) 保存法
乾燥製剤は遮光状態で5°以下に保存する(凍結しても良い)。温度は低いほどウイルスの感染価は良く保たれる。
有効期間は1年である。
麻しん、ムンプス及び風しんウイルスは、いずれも液状では不安定であるので、一旦溶解した後は速やかに使用することが望ましい。
2 ワクチンの使用方法
1) 接種対象及び接種年齢
(1) 麻しんの定期接種時に本ワクチンを使用することが出来る。
定期接種の場合には、生後12~72箇月に行うよう定められている。接種開始時期は早期にはじめ麻しんの流行がない場合でも遅くとも集団生活に入る前に接種を完了することが望ましい。
注3) 生後12箇月までは小児の体内に母親からの移行抗体が存在しているので、ワクチンによる免疫の賦与が妨げられることがある。ただし、付近にこれら疾患の流行がある場合等には本ワクチンの接種を行うことが望ましい。
この場合には生後18箇月以降に本ワクチンの再接種を行う必要がある。
注4) 免疫保有者に対するワクチン接種
麻しん、おたふくかぜあるいは風しんのいずれかに対して免疫を有する人に接種しても、特に問題はない。副反応を増強することもなく、抗体価が低ければ抗体価の上昇も得られる。
注5) 暴露後のワクチン接種
麻しんに暴露後72時間以内に本ワクチンを接種すれば発症を防ぎうる場合もある(Nicoll,A.The Practitioner,230:593~597,1986)。風しん及びおたふくかぜに対して同様の効果があるか否かは不明である。
注6) 潜伏期間中のワクチン接種
麻しん、おたふくかぜあるいは風しんの潜伏期間中に本ワクチンを接種しても、これらの症状が軽くなることはあっても増強することはない。
(2) 定期接種対象者以外であっても、麻しん、おたふくかぜあるいは風しんに対して免疫のない人には年齢に関係なく使用出来る。
2) 接種時期
年間を通じて随時行うことが出来るが、盛夏及び麻しんの流行期を避けて接種することが望ましい。
注7) 夏期及び流行期の接種
夏期は小児の発熱し易い時期であるのでこれを避ける。また、麻しんの流行期に接種しても差支えないが、自然麻しんの同時感染がワクチンの臨床反応ととり違えられることがあるので注意する(同時感染で特に症状が重篤になることはない)。
3) 接種量
0.5mlを皮下に1回注射する。年齢によって接種量を変える必要はない。
4) ワクチンの副反応
(1) 発熱
主として麻しんワクチンによるものである。被接種者の約20%に37.5°以上、5%以下に39°以上の発熱がみられる。接種後5~14日に始まり、2日以内に解熱する。ときに一過性の発しんを伴う。
(2) 関節痛
風しんワクチンによるものであり、接種後5~25日に始まり、数日間続く。小児よりも成人に起きやすい。
(3) 脳炎または脳症
麻しんまたはおたふくかぜワクチン接種後に脳炎または脳症が発生したという報告があるが、最近の頻度は背景値、即ち健常人における原因不明の脳炎または脳症の発生率以下であり、ワクチン接種との因果関係は明らかでない。
3 禁忌及び接種に当たっての注意
1) 妊娠していることが明らかな者
これらのウイルス、特に風しんウイルスはたとえ弱毒化していても胎児に感染しうるので、妊婦は禁忌である。妊娠可能年齢の婦人においては妊娠していないことを確かめた上で接種を行う。ワクチン接種後はさらに2箇月間避妊することが必要である。ただし、これまでに風しんワクチンの接種を受けた妊婦から先天性風しん症候群児が出生した報告はない(Morbidity and Mortality Weekly Resort,36:457~461,1987)。
2) 発熱している者または著しい栄養障害者
ただし、軽い上気道感染等は禁忌にはならない。
3) 本剤の成分によりアレルギーを呈するおそれがあることが明らかな者
本ワクチンは、極めて微量ながらニワトリ胚細胞及びウサギ腎細胞成分並びに少量の抗生物質(カナマイシンあるいはエリスロマイシン)を含んでアレルギーの原因となりうる。
米国において麻しんワクチン接種後に鶏卵成分に対する過敏性によるアナフィラキシー反応を起こした例が数例報告されている。鶏卵成分を摂取した後のアナフィラキシー反応(じんましん、口腔あるいは咽頭粘膜の腫脹、呼吸困難、低血圧あるいはショック等)の既往のある者には接種を避ける注8)。
アナフィラキシー反応以外のアレルギーの既往の場合には、通常のとおり接種を行ってもよい。
含まれている抗生物質に対してアナフィラキシー反応の既往がある場合には禁忌である。
4) 接種前1年以内にけいれんの症状を呈したことがあることが明らかな者
本ワクチンの接種により、ある割合の被接種者に発熱が見られる。その結果、熱性けいれんが起こることもある。
5) 免疫機能に異常がある疾患の者及び免疫抑制的な作用を持つ薬剤の投与を受けている患者で免疫機能に異常をきたしているおそれがある者
先天性または後天性免疫不全症、白血病、リンパ腫その他の悪性腫瘍により免疫不全状態にある者及び大量のステロイド投与あるいは放射線療法等免疫機能の抑制をきたす治療を受けている者は禁忌である。
6) 輸血またはガンマグロブリン製剤投与との関係
既述の母体からの移行抗体と同様に、受動的に与えられた抗体がワクチンによる免疫の賦与を妨げることがあるので、輸血またはガンマグロブリン製剤投与後は3箇月以上経過してから本ワクチンの接種を行う。
7) ツベリクリン反応との関係
本ワクチン接種後1箇月間は、ツベリクリン反応が弱くなることがある。
8) 他のワクチン接種との接種間隔
生ワクチン接種後は1箇月、不活化ワクチン接種後は1週間以上の間隔をあける。
注8) 鶏卵成分等に対してアナフィラキシー反応を起こした既往を有する者に接種しなければならない場合には、次の順序に従ってワクチン接種を行うことが提案さている。
[様式ダウンロード]
*Herman JJ,Radin R,Schneiderman BS:Allergic reactions to measles (rubeola) vaccine in patients hypersensitive to eggprotein.J.Pediatrics,102:196 ~ 199,1983.
**被検液を皮表にたらして1回刺し、15~20分で判定する。
4 ワクチンの効果
本ワクチンの接種により被接種者の95%以上が麻しん及び風しんに対して、また80~90%がムンプスに対して免疫を獲得する。この免疫は少なくとも10年、おそらくそれ以上の長期間持続する。