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○予防接種等の接種器具の取扱いについて

(昭和六三年一月二七日)

(健医結発第六号・健医感発第三号)

(各都道府県衛生主管部局長あて厚生省保健医療局結核難病感染症課長・感染症対策室長連名通知)

予防接種法に基づく予防接種の実施に当たり、接種器具の取扱いについては、予防接種法及びこれに基づく政省令並びに昭和五一年九月一四日衛発第七二六号厚生省公衆衛生局長通知「予防接種の実施について」により実施することとされているところであるが、昨年一一月一三日、WHOより肝炎ウイルス等の感染を防止する観点から予防接種の実施に当たつては、注射針のみならず注射筒も取り替えるべきであるとの意見が出されたので、今後の予防接種の実施に当たつては、注射筒も被接種者ごとに取り替えるよう貴管下市町村を指導されたい。

なお、本件については、おつて予防接種実施規則及び関係通知の改正を予定しているので、その旨了知されたい。

また、結核予防法に基づくツベルクリン反応検査のための一般診断用精製ツベルクリン溶液の注射についても、被検査者ごとに注射針及び注射筒を取り替えることが望ましいと思われるので、関係者に対し指導されたい。

WHO

EPI:予防接種拡大計画

EXPANDED PROGRAMME ON IMMUNIZATION

危険な慣行:注射針は換えても注射器はそのまま

WEEKLY EPIDEMIOLOGY RECORD:1987,62,345―352。

危険な慣行が、特に開発途上国において一般に行われている。それは、注射器の針を換えても注射器そのものは何度か続けて使用していることである。この報告は針を換えるだけでは注射による感染のリスクを回避できないということを示す事実をまとめたものである。WHOのEPIは一回ごとに注射器とその針を換えるように勧告する。

1940年代に始まつた肝炎発生に関する研究で、汚染された注射器による肝炎の感染の疑いが指摘された。その感染は、現在明確になつたウイルス性肝炎の潜伏期間と、再利用注射器による接種から発病の時期までの間にはつきりとした因果関係が成立することを示した。これらの症例はいずれも二次感染を伴つた証拠はなく、他の感染経路の論拠も見つかつていない。現在では、これらの症例はB型、及び非A非B型肝炎ウイルスによるものである可能性が高いと考えられる。

在英王立空軍の軍人を対象に、1957年1月から1962年7月の5年半に発生した急性肝炎に関する研究が、大規模に行われ、その結果が1964年に発表された。これは注射と予防接種(歯科治療を含む)の関係及び他の皮膚からの感染(例えば刺青)を全て網羅したもので、肝炎の臨床症状の出現から6か月間の間隔をおいて、全対象者895人の93%について検討が行なわれた。結果は表に示す。

この中で、「Unrelated:相関のない」群とは、散発的に発生した事例、発病と発病の間が60日以上の間隔をおいて発生したものを言う。

この群の症例は、注射を打つて1―2か月して(これは非A、非B肝炎の潜伏期)、あるいは4―5か月して(これはB型肝炎の潜伏期)黄疸が起こつた可能性が高く、「Related:相関がある」群あるいはコントロール群に比べて、統計学上有意の差が認められた。

研究対象が受けた腸チフス、パラチフス、破傷風及び黄熱のワクチンの接種はいずれも注射針のみを換えるmultiple―dose、すなわち注射器の複数回利用方式によるものである。この結果、特に発病に関する報告から(非経口的な)予防接種と肝炎感染の因果関係が、この(multiple―dose)方式で認められた。

動物実験もこの疫学的分析結果を裏書きしている。1950年代の初めのころに発表された研究で、注射器による汚染の可能性が証明されている。その中の一つの実験を取り上げる。

10匹の健康な実験用ネズミに同一の注射針で1.0ml入りの注射器から0.1mlずつ腹腔内に注射をし、さらに同一の注射針、注射器を用いて同量を肺炎球菌に罹患したネズミに注射し、次に注射針を新しい消毒済みの針に換え、別の20匹の健康なネズミにやはり0.1mlずつ注射した。

48時間後に、最初の健康なネズミ10匹が一匹も死亡しなかつたのに対して、後で注射した20匹のネズミの内16匹が死亡した。

別の報告では、body compartments(参考図参照)に対する生理学的圧力と注射器の影響が研究された。

一方が閉じたゴム製の管の、他の一方にL字型の両端が開いているガラス管をつないだもの(参考図参照)をいくつか準備し、赤痢菌を含んだ培養液でその管内を満たす。そして別に殺菌した培養液を一組の注射器と注射針を使つて、このゴムの管を通して赤痢菌のはいつた培養液の中に注入した。次に針だけを換えて殺菌した培養液を同じ注射器中に入れ、これを用いて赤痢菌の培養をしたところ、16本中13本の注射器の中から赤痢菌が分離培養された。

この実験結果は、大多数の保健の専門家に、「複数の人に対する注射を行う場合には、注射針だけを換えて、注射器は同一のものを使用している現在の慣行をやめるべきである。」ことを納得させるに足るものである。注射用品が不足している諸国では、消毒しないで注射器を用いるか、注射自体を行わないことで事態に対処してきた。現在でも限られた数の注射器と針しか無い診療所も存在している。

使い捨ての注射器と、プラスティック性で安価な再利用可能な注射器が備えられれば、全ての保健施設で、安全に注射を行うことができる。

注射をする立場にある全ての保健医療従事者に対し、その為に必要なものを早く利用可能とするとともに、適切に使用できるよう訓練・指導する必要がある。

表 注射の時期と発病までの時期(患者100人当たりの予防接種率)

グループ

人数

間隔

0―1

1―2a

2―3

3―4

4―5b

5―6

Unrelated:非相関c

376

21.8

30.5d

13.8

15.4

24.9d

13.0

Related:相関

453

20.1

12.4

19.8

18.6

13.2

14.5

コントロール

245

18.7

11.4

13.1

13.1

8.9

10.6

a 非A、非B肝炎の潜伏期:6―9週間

b B型肝炎の潜伏期:1.5―6か月

c 本文中に定義が記載

d P<0.05対象実験に比べて

※EPIジュネーブ事務局は要請に応じて、参考文献を配布する用意がある。

参考図 略