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○腸チフス対策の推進について

(昭和四一年一一月一六日)

(衛発第七八八号)

(各都道府県知事・各政令市市長あて厚生省公衆衛生局長通達)

わが国における腸チフス患者の発生は、近年減少の一途をたどつて来ていたところであるが、最近になつて青森、東京、静岡、姫路と集団発生が全国各地で相次ぎ、本年九月一七日現在七六九名を数え、前年同期に比べ約二倍増を示し、再び増加の傾向がみられる。また、質的な面からみて、抗生物質の普及等に伴い致命率は激減したが、一方チフス菌検出の困難性、定型的症状の変化等を招来したため、発病から診定までの期間の延長、診断の困難性をきたし、流行の発生、拡大の要因となつている。このような現状に鑑み、今般別紙の通り腸チフス防疫対策実施要綱を定めたので、今後はこれにより本対策の適確な実施を期されたい。

なお、パラチフスについても本通知に準じて防疫対策を実施されたい。

別紙

腸チフス防疫対策実施要綱

一 目的

腸チフスは赤痢と同様、経口伝染病であり、腸チフスの防疫対策を実施する際に赤痢の防疫対策が参考となる面も多々あるが、腸チフスの特殊性から、流行における永続保菌者の意義が赤痢に比べて大きい。従つて、防疫対策の重点は平常時における腸チフス回復者、病原体保有者、特に永続保菌者の完全な把握と長期間の管理にあり、一方、患者発生時においては、流行の早期認知、流行の規模の把握、感染経路の究明、感染源の確認に必要な疫学調査の適正な実施にある。かかる観点から、その防疫対策の徹底を期するため、本要綱を作成したものである。

なお、パラチフスについてもこれに準じて防疫対策を実施されたい。

二 平常時における防疫措置

(一) 腸チフス回復者に対する措置

退院後六ケ月は毎月一回、その後は必要に応じて健康診断を実施するものとし、得られた検査成績等必要事項を記入した「患者管理カード」を作成し保存すること。

(二) 病原体保有者に対する措置

病原体保有者に対する収容隔離及び従業禁止等の措置は次により実施すること。

(1) 病原体保有者のうち、食品取扱者で仕事場に居住しているため食品に接する機会の多いもの、密集生活をしているため他に感染させるおそれのあるもの、治療及び指導監督の徹底を必要とするものに対しては伝染病予防法(明治三○年法律第三六号。以下「法」という。)第七条及び同法施行令(昭和二五年政令第一二○号)第四条のただし書きの規定により収容隔離の措置をとること。

(2) 食品取扱者で病原体を保有するもののうち、法第七条による収容、隔離の必要のないものについては法第八条の二の規定により従業禁止が励行されるよう十分な監督を行なうこと。

(3) 在宅病原体保有者については伝染病予防法施行規則(大正一一年内務省令第二四号)第一一条の遵守事項につき指導監督すること。

(4) 流行をおこす恐れのある職種の永続保菌者については、特に根治手術(たとえば胆のう切除術等)を受けるよう指導すること。しかし、なお排菌するものについては、転職するなどしかるべき措置をとるよう十分指導すること。

(5) 食品取扱者、水道関係者等の病原体保有者は、潜在感染源となり腸チフスまん延の重要な一因となる危険性が大であるところから、その発見に努めること。

(三) 定期の予防接種

(四) 衛生教育の徹底

食品取扱者、水道関係者、家庭の主婦、学童等を重点的に衛生教育の対象とし、地区組織、関係機関、学校教育等の活用により、腸チフスについての予防思想を全国民に滲透させるよう努めること。

特に有熱患者の早期受診、早期診断を困難にする転医の防止、便所内の手洗設備の設置、便所の消毒、水洗化の促進、用便後、調理と食事前の手洗励行、生水、生物の危険性等について、十分指導し周知徹底を図ること。

三 患者発生時における防疫措置

(一) 「腸チフス患者発生報告」の作成と送付

別添1「腸チフス患者発生報告作成要領」により「腸チフス患者発生報告」を作成、送付すること。

(二) 患者の隔離、収容

患者は早期に隔離収容し、永続保菌者とならぬよう治療に万全を期するよう指導すること。

(三) 地域及び接触者に対する健康診断の実施

実施にあたつては、昭和四一年一一月一六日衛防第六○号「患者の検索について」及び衛防第六一号「腸チフスの集団発生における疫学調査の実施について」を参考とし、万全を期すること。

(四) 「腸チフス患者管理カード」の作成と送付

別添2「腸チフス患者管理カード作成要領」により「腸チフス患者管理カード」を作成、送付すること。

(五) 患家周辺の清潔方法、消毒方法実施の指示

(六) そ昆駆除の実施

(七) 臨時予防接種の実施

(八) 疫学調査の実施

疫学調査の目的は感染系統の究明、流行の規模とその原因を把握することにある。感染源となつている患者、保菌者及び感染経路をみつけることができないと同様な流行のおこる危険があり、また、流行の規模又は範囲が把握できないならば、科学的、合理的な防疫活動の実施が不可能であることから、疫学調査を強力に実施する必要がある。

まず、疫学調査を実施するためには、専門的な調査班を編成すること。疫学調査は都道府県が責任をもつて実施し、その調査班には、医師、保健婦、防疫担当者のみならず、予想される発生原因に応じ、食品衛生、環境衛生担当者をも含め調査に万全を期するとともに、敏速適確な防疫対策の樹立につとめ、あわせて調査結果を今後の集団発生防止対策の資料とすること。

なお、調査の実施にあたつては、前出の「腸チフスの集団発生における疫学調査の実施について」を参考とされたい。

(九) 検出菌株の送付

腸チフスの伝播についての解析はチフス菌フアージ型別分類の利用によりその精度を増し、一地方の散発例が時には他の地方の多発流行事例の解明に寄与することも少なくないので検出された菌株を、別添3「フアージ型別のためのチフス菌送付要領」によりすみやかに国立予防衛生研究所細菌第一部フアージ型別室に送付すること。

別添1

腸チフス患者発生報告作成要領

目  的  流行の早期認知と広域防疫対策の資料にするため。

報告対象  伝染病予防法第三条(以下「法第三条」という。)により届出られた全届出患者。

報告期間  昭和四一年一二月一日から別途指示あるまで。

報告項目  (一) 病名  1腸チフス  2パラチフス

(二) 1患者 2保菌者

(三) 発病年月日

(四) 死亡年月日

(五) 診定年月日

(六) 診定方法

(七) 氏  名

(八) 性  別

(九) 生年月日

(一○) 住  所

(一一) 職業、勤務先

(一二) 世帯主の職業、勤務先

(一三) 報告保健所名、所在地

報告様式  別記様式に示した報告項目を印刷した封緘ハガキによること。

用紙は都道府県において作成のこと。

報告作成  保健所長は昭和四一年一二月一日以降法第三条により医師から届出られた腸

及び送付 チフス患者届出票から必要事項を別記様式に示した「腸チフス患者発生報告」

要領   にそれぞれ転記し、患者届出票を受理してから一週間以内に厚生省防疫課に必着するよう送付すること。

別記様式

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別添3

フアージ型別のためのチフス菌送付要領

チフス菌、パラチフス菌と同定された菌株はすべて、同定後できるだけ早い時期に、フアージ型別のために国立予防衛生研究所細菌第一部フアージ型別室(東京都上大崎長者丸二八四)宛送付すること。

大学病院や臨床検査機関等で検査がなされ、チフスの診定をうけた患者が伝染病院に収容されたような場合には、その間に使用された抗生物質の影響によつて伝染病院での検査ではもはや菌が検出されないことがある。したがつてチフス菌の同定が行なわれうるすべての機関に連絡をとり、分離菌株の収集に努力されたい。

フアージ型別の結果はできるだけ早期に菌の提出者あて報告すること。報告をうけた提出者は早急に関係者に連絡されたい。

菌株送付上の注意事項

一 Viで抗原を欠くチフス菌菌株はフアージ型別できないから、凝集反応でVi抗原を証明できるような集落を選ぶよう留意されたい。保菌者から分離される菌はVi抗原を欠くものが混在する場合が多いから特に注意を要する。たまたまVi抗原を欠く集落をひろう危険をさけるためには、分離培地から釣菌する時にできるだけ多くの集落を集めて一本の培地に接種して送付するのも一つの方法である。

二 菌株はできるだけ継代をさけること。

三 菌株送付のための使用培地はDorsettの卵培地が最適であるが、普通寒天高層培地でもよい。糖加培地、半流動寒天培地は用いないこと。

四 菌株を接種した培地の乾燥を防ぎ、危険を防止するために試験管にはゴム栓またはコルク栓をすること。

五 送付する菌株については次の資料を添付すること。

(1)患者の氏名、生年月日、住所 (2)患者保菌者別、チフス、パラチフスの別 (3)発病年月日 (4)診定年月日 (5)菌検出材料の種類(血液、便、尿、胆汁等) (6)菌検出材料の採取年月日 (7)収容施設名 (8)所轄保健所名

六 郵送する場合は書留便とし、試験管が破損しないよう包装に留意し、外部からの圧力に耐える堅固な容器に納めること。