添付一覧
○地域における栄養改善業務の推進について
(平成七年六月二九日)
(健医発第八三二号)
(各都道府県知事・各政令市市長・各特別区区長あて厚生省保健医療局長通知)
地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律は、平成六年七月一日法律第八四号をもって公布され、その一部はすでに施行されているところであるが、住民に身近で頻度の高い保健サービスについては、生活の場である市町村において一元的かつきめ細かな対応を図ることとされた。
これに伴い、栄養改善法(昭和二七年法律第二四八号)の一部が改正され、従来都道府県等が行っていた栄養改善業務については、平成九年四月一日から原則として市町村に移譲されることとなった。
このため、平成九年度より新たな体制により地域における栄養改善業務が進められることとされたところであるが、これに関し、当職の考え方は左記のとおりであるので、ご了知の上管下市町村及び関係団体等に周知徹底し、当該業務の実施に遺憾なきよう特段の御配慮を願いたい。
おって、「保健所における栄養改善業務の運営指針について」(昭和三六年八月一日衛発第六三〇号)は廃止するものとする。
記
一 栄養改善法の主な改正内容について(権限移譲関係)
(一) 栄養相談・一般的栄養指導業務の都道府県等から市町村への移譲について
栄養改善業務の一層の推進を図るため、平成九年度より、地域住民を対象とする栄養相談業務及び一般的栄養指導業務の実施主体を、都道府県、保健所を設置する市及び特別区(以下「都道府県等」という。)から、地域住民により身近な行政主体である市町村に移譲し、多様化する住民のニーズに対し、きめ細かな対応を図ることとしたこと。
(二) 市町村における栄養相談・栄養指導業務に係る職員について
市町村は、住民の健康の保持増進を図るため、管理栄養士、栄養士をして、栄養改善に関する事項につき住民からの相談に応じ、また、必要な栄養指導を行わせるとともにこれらに付随する業務を行うものとしたこと。
(三) 都道府県等における栄養改善業務について
都道府県等においては、住民の健康の保持増進を図るために必要な栄養指導のうち、特に専門的な知識及び技術を必要とするものを行うものとしたこと。また、栄養効果の十分な給食の実施、給食担当者の栄養に関する知識の向上及び調理方法の改善等について、特定多数人に継続的に食事を供給する施設に対して、必要な援助及び指導を行う業務については、都道府県等において引き続きこれを行うものとしたこと。
(四) 栄養指導員の設置について
栄養指導員は、従来のとおり医師又は管理栄養士の資格を有する者を任命するものであること。
(五) 都道府県による市町村への援助等について
都道府県は、市町村が行う栄養指導業務等の実施に関し、市町村相互間の連絡調整を行うとともに、市町村の求めに応じて、保健所による技術的事項に対する必要な援助等を行うものとしたこと。
二 「都道府県等及び市町村における栄養改善業務指針」について
従来栄養改善行政は、都道府県等の栄養指導員により保健所を拠点として展開されてきたところである。しかし、高齢化が急速に進展する中で、今後、住民の健康の保持増進を図るためには、住民の生涯を通じライフサイクルに沿った一貫した栄養指導等がなされるべきこと、及び個人の食生活をその対象とする栄養指導は生活の場である地域社会の中で取り組むことがより適切であることを勘案すれば、今後の栄養改善行政は、住民により身近な行政主体であって地域の実態を十分に把握することのできる市町村を拠点として、母子保健、老人保健等関連保健衛生行政と相俟って展開して行くことが求められている。
こうした観点から、今回の栄養改善法の改正に伴い、今後の栄養改善業務の推進を図るための参考として別紙のとおり、本指針を定め、新たなニーズに対応したものである。
別紙
都道府県等及び市町村における栄養改善業務指針
第一 市町村における栄養改善業務について
一 企画・実施体制の調整
(一) 健康づくり・栄養改善に関する計画・施策の立案
市町村は、生涯を通じた健康づくりを推進する一環として、地域における食生活改善事業を合理的、効果的に推進するため、各市町村の地域保健の計画・施策には健康づくり・栄養改善に関する事項も含めて立案すること。なお、立案に当たっては、地域特性、社会資源及び専門技術者等の実態把握のもと、必要に応じて都道府県の支援を受けるなど連携し、事業の分析及び評価を行い、新しい事業計画の方向をさぐること。
(二) 栄養士の配置の促進
市町村は、健康づくり・栄養改善に関する事業が円滑かつ適切に実施できるように、保健所、関係団体等と連携を図りながら、栄養士の確保及び計画的配置の促進に努めること。
(三) 医療・福祉関係機関等との連携・協力体制の整備
市町村は、健康づくり・栄養改善に関する事業を円滑かつ効果的に実施するため、市町村健康づくり推進協議会を活用するとともに、地域の医療・福祉関係機関、職能団体及び市町村食生活改善推進協議会等と連携を図り、事業の実施体制などに関し十分な連絡調整を行いつつ事業を実施すること。
二 栄養相談・一般的栄養指導について
市町村は、栄養相談・一般的栄養指導について、保健所との役割分担等の調整(対象者の種類、指導の内容及び指導の方法等)を行うこと。特に市町村は、広域的又は専門的な知識及び技術を必要とする栄養指導(別添)以外の栄養指導を実施することとなるので、対応する保健事業範囲を明確化し、それを越える部分については、保健所等諸機関との協力体制の確保を図ること。
なお、市町村で行う栄養相談指導は概ね次のようなものであるが、その具体的内容については、市町村が自らの能力を勘案して第一次的に判断するものであること。
(一) 母子に関するもの
(二) 学童期・思春期に関するもの
(三) 成人に関するもの
(四) 老人に関するもの
(五) その他各種関係機関との連携によるもの
これらの栄養相談指導を行うに当たっては、保健センター等の施設において実施するのみならず、健康・栄養巡回指導の実施、地域団体等の依頼による講習会の開催等、住民に身近な行政主体としての特性を生かし、住民にとって利用し易い形での指導の実施に努めること。
三 住民の健康づくりの一環としての栄養改善
(一) 健康増進事業(栄養・運動・休養)の実施
市町村が健康づくり及び疾病予防対策を進めるに当たっては、住民が自ら健康づくりに取り組んでいくよう個々人に自覚を促し、日常生活において栄養、運動及び休養のバランスに配慮した生活習慣の確立を図って行けるようにすることが重要であること。
このため、健康増進事業に当たっては、栄養改善指導のみならず医師、栄養士、保健婦及び健康運動指導士等が連携しながら、総合的な健康づくり事業として実施することが適切であること。
(二) 婦人の健康づくり推進事業の推進
市町村は、家庭の主婦や自営業の婦人等を対象に、肥満、高血圧、貧血、骨粗鬆症等の健康診査並びに事後指導が必要な者に対して、医師、栄養士、保健婦及び健康運動指導士等専門職による健康・栄養指導に努め、また、食生活改善推進員による地区組織活動及び食生活改善推進員教育事業などを通じて地域住民の健康づくりの推進に努めること。
四 地区組織育成について
市町村は、栄養改善事業を円滑に推進するとともに、住民の自主的、相互協力的な栄養改善に資するため、食生活改善推進員等の養成及び住民参加型の地域ボランティア組織の育成に努めるとともに、その自主性を尊重した活用を図ること。
五 啓発普及について
栄養改善事業を進めるに当たっては、住民に対する動機づけが極めて重要であることから、各種健康づくり・栄養関連情報の提供や健康的な生活習慣の改善につながる行事等の積極的な開催に努めること。
六 人材の育成・活用について
市町村は、住民の健康づくり、栄養相談、一般的栄養指導等を円滑かつ適切に進めるため、職員の研修等に努め、また、在宅栄養士の教育研修及び活用を図ること。なお、この場合栄養専門分野に限らず、健康づくり全般にわたるコーディネーターとしての資質の向上にも努めること。
第二 都道府県等における栄養改善業務について
一 地域保健栄養体制の整備について
(一) 企画・調整・参画
都道府県等は、住民の生涯を通じた健康づくり推進のため、健康づくり推進協議会等を活用し、市町村、医療・福祉関係機関等と連携して地域保健の計画・施策への参画及び当該計画・施策に添った栄養改善事業を企画すること。
なお、企画した事業を円滑かつ適切に推進するためには、活動を効果・効率的視点に照らして評価を行うとともに、市町村に管理栄養士等の設置を積極的に働きかけるなど、円滑かつ効率的な業務運営体制による事業の展開に努めること。
(二) 調査・研究
都道府県等は、国民栄養調査を実施するとともに、管下の地域の健康・栄養に関する課題に照らし合わせながら、健康・栄養実態の調査・研究並びに健康づくり・栄養指導技法に関する研究を、大学及び研究機関等との連携を図りながら実施すること。また、地域性や住民ニーズに即した栄養指導媒体等の作成・提供に努めること。
(三) 情報の収集・提供
都道府県等は、広範な健康づくり・栄養関連情報及び健康関連施設情報等を積極的に収集・精査し、市町村等に提供するとともに、自らが行う栄養改善業務の推進に活用すること。また、保健所の広域的・専門的機能をより果すために、民間を含めた健康関連施設やマンパワーの活動状況等情報の収集・提供にも努めること。
(四) 関連機関及び団体等との連携の強化
都道府県等は、総合的・効果的な健康づくり・栄養改善業務を実施するため、管下市町村とともに、各種の栄養改善事業と関連の深い医療機関、福祉施設、専門職能団体、食生活改善推進協議会などのボランティアグループ等との連携を密にすること。
さらに関連民間機関の創意工夫を取り入れた事業展開が図られるよう留意すること。
二 市町村に対する支援について
(一) 都道府県等は、管内市町村の地域特性を生かした模範となる事業を市町村と連携して実施すること。
(二) 都道府県等は、市町村における地域栄養改善活動が円滑かつ適切に実施できるよう、市町村栄養士及び在宅栄養士等を対象に教育研修を実施し、その研修の内容については、栄養改善指導を中心としつつ健康づくり全般にわたる幅広いものとなるよう配慮すること。
(三) 都道府県等は、新たな栄養指導技術の提供、市町村の求めによる栄養士未設置市町村への直接指導等の技術的支援を行うこと。この場合の技術的支援に当たっては、その対象者に応じ保健衛生部局に限らず福祉部局とも連携を密にするよう配慮すること。
三 広域的又は専門的栄養指導について
都道府県等は、広域的又は専門的な知識及び技術を必要とする栄養指導(別添)を行うこと。また、保健所は、難病患者、精神障害者及び未熟児等についての栄養指導を行うこと。
四 集団給食施設等の栄養管理指導及び連携の強化について
都道府県等は、特定多数人(一回五〇食以上又は一日一〇〇食以上程度をいう。)に対して継続的に食事を供給する施設に対し、計画的に巡回指導や集団指導を実施すること。また、管理栄養士又は栄養士が配置されていない施設については、配置指導の強化を図ること。
さらに、栄養効果が十分な給食の提供、給食担当者の栄養に関する知識の向上及び調理方法の改善等について、必要な教育研修や情報交換等を給食施設自ら行えるよう、管内給食施設連絡協議会(仮称)を設けるなど、給食施設間のネットワークづくりを図ること。
五 栄養関連企業等への指導について
都道府県等は、関係食品企業や民間団体等と連携して、栄養面に配慮した食品の提供及び調理技術の向上に対する意識の向上に努めるとともに、加工食品や外食の栄養成分表示の推進及びその普及・啓発に努めること。
六 人材の育成・活用について
(一) 栄養士の教育研修
都道府県等は、二の(二)の教育研修の他、職員の教育研修を行い、最新の栄養学等に関する知識の習得及び栄養指導技術の向上に努めるとともに、健康づくり全般にわたるコーディネーターとしての資質の向上を図ること。
(二) 食生活改善推進員リーダー等ボランティアへの育成、支援
都道府県等は、食生活改善や健康づくり関連の事業のより一層の効果的な実施を図るためには、住民参加型の地域のボランティアの活動が積極的に展開されることが重要であるので、食生活改善推進員リーダー等のボランティアの育成を図り支援すること。
(三) 調理師の教育研修
都道府県等は、調理師の資質向上及び調理技術の合理的な発達を図るための研修会を開催するとともに、調理関係団体等が行う研修事業を支援すること。
(四) 栄養士等養成への協力
都道府県等は、栄養士等養成施設の学生実習に対する指導を行い、資質の高い栄養士の養成に努めること。
別添
特に専門的な知識及び技術を必要とする栄養指導等について
市町村において個別に相談を受けた結果、あるいは集団指導の場において、市町村においては対応することが困難であり都道府県の指導が必要であると判断された者について、個々人の特質に応じて食生活のあり方等について助言・意見を示す個別指導をその内容とする。
具体的には、地域の実情に応じその内容は定まってくるが、次のような業務を行うことが望ましいと考える。
一 特に専門的な指導
栄養指導技術は担当程度確立しているが、対象者が一般的でないことから、市町村で行うよりも管轄範囲がより広域的な保健所等において、専門技術職員等の協力を得つつ統一的に行う方が効率的である栄養指導をいう。
(例)
① 糖尿病、心疾患、高脂血症、高血圧、肥満、貧血、脂肪肝、高尿酸血症、腎疾患及び胃腸障害等のうち三つ以上の危険因子を有している者
② 体重が標準体重を大きく上回る者(中等度以上の肥満者)
③ アレルギー疾患であるために、アレルゲンとなる食品を除去した食生活を余儀なくされる者
④ 先天性代謝異常(フェニールケトン尿症等)である者
二 モデル的な指導
新しいケース、発症が稀である等により、関係機関等の協力を得つつモデル的、先駆的に実施する指導をいう。
(例)
① 食物を主要原因として発症するアトピー性皮膚炎などをもった者に対し、栄養指導をモデル的に実施すること。
② 健保組合等職域団体等との連携による栄養指導のあり方についてモデル的に実施すること。