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○健康づくりのための食生活指針の指導要領について

(昭和六〇年六月二八日)

(健医発第八二〇号)

(各都道府県知事・各政令市長・各特別区長あて厚生省保健医療局長通知)

近年、わが国においては、人口構造の高齢化、社会経済環境の変化等に伴い、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病等のいわゆる成人病が増加しており、今後の本格的な高齢化の進展に伴い、これらの成人病は一層増加していくことが予想される。

また、国民の栄養状態は平均的には良好なものとなつているが、個々の世帯、個々人についてみた場合には、食生活をとりまく環境の急激な変化に伴い、エネルギーの過剰摂取、栄養素摂取の偏り等の新たな問題が生じてきている。

このような状況を踏まえ、国民の食生活を改善するため、昭和六○年五月一六日「健康づくりのための食生活指針」を策定したところである。

この食生活指針は国民ひとりひとりに食生活改善に対し自覚を持つてもらうためのものであり、今後はこれを食生活改善対策の根幹に据えるとともに積極的に活用して、国民に広く浸透を図つていくことが大切である。

このため、別紙のとおり「健康づくりのための食生活指針指導要領」を作成したので、この指導要領で示した事柄を十分に踏まえて食生活指針の啓発普及に努められたい。

別紙

「健康づくりのための食生活指針」指導要領

一 食生活指針の指導方法について

「健康づくりのための食生活指針」は国民の健康を維持増進する観点から、国民ひとりひとりに食生活改善についての自覚を持つてもらうことを目的として作成されたものであり、食生活指針の各項目の趣旨、内容などを、個々の世帯及び個々人に十分理解してもらうことが大切である。

したがつて、食生活改善事業はもちろんのこと、健康づくりに関連する各種事業を実施する機会をとらえて積極的に食生活指針の啓発普及に努めることが必要である。

なお、啓発普及のためにポスター、リーフレット等の資料を作成するに当たつては、絵やイラストをとり入れるなどして、できるだけわかりやすい内容のものを作成するように配慮しなければならない。

二 食生活指針の構成と取扱いについて

「健康づくりのための食生活指針」は五つの大項目から構成されており、各項目ごとに二つの小項目がある。大項目は日本人の食生活において特に留意すべき事柄について、国民の健康を維持増進する観点から健康に及ぼす影響度、改善の必要性等を考慮して設定されたものである。

小項目は大項目のそれぞれについて、具体的に気をつけるべき重点項目を示したものである。

なお、小項目のうち「脂肪はとりすぎないように」という項目については、将来における過剰摂取を予防する観点から設定されたものであるので、脂肪の摂取水準の低い地域にあつては、他の適当な内容の表現に改めるなどの方法により、誤解を生じさせることのないように十分留意する必要がある。

三 各項目のねらいと指導の要点

一 多様な食品で栄養バランスを

<背景とねらい>

最近、わが国では、かつてないほど多種多様な食品が豊富に出回つているが、一方において、不規則な食事や加工食品にたよりすぎた食生活をする者が多く、また、誤つた栄養知識に基づき、特定の食品の効果を過信して摂取している者も少なくない。

今回、食生活指針の最初に「多様な食品で栄養バランスを」という項目を掲げたのは、このような状況を踏まえ、健康を維持増進するための食生活の条件として最も基本的かつ重要なことは、からだに必要な栄養素を過不足なくとることであり、そのためには多様な食品を摂取することが不可欠であることを国民ひとりひとりに認識してもらうためである。

小項目「一日三○食品を目標に」は、一日に摂取することが望ましい食品の品目数の目安を具体的に示したものである。三○食品という食品数は、栄養素のバランスを確保するためには、一般的に、同種の食品に偏ることなく、少なくとも三○種類の食品を料理の素材とすることが適切であろうと考えられることに基づくものである。ただし、三○食品を上回つても食品の種類に偏りがある場合には必要な栄養素を充足できないので、六つの食品群をもれなく組み合わせて食べることが重要である。

小項目「主食、主菜、副菜をそろえて」は、ふだんの食生活で食品の多様性を確保するためには、食事の内容について「主食」、「主菜」、「副菜」をそろえて構成することが望ましいことから設定したものである。

――指導上の留意点――

(一) 「一日三○食品を目標に」について

(1) 一日三○食品は世帯を単位とした目標ではなく、個々人を単位とした目標であることについて正しく指導を行う。

(2) 食品の数え方は次のとおりとする。

・同じ食品は一日のうちに何回食べても一品目として数える。

・外食をした場合や、既製の調理食品などを食べた場合は、素材として使われている食品の品目をわかるだけ数える。

・素材として使われている食品の内容がわからない場合は、全体を一品目として数える。

・栄養素の補給につながるマヨネーズ、ドレッシングなどを除き、摂取量がきわめて少ないその他の調味料や香辛料は数えない。

(3) 現在、二○食品程度しかとつていない人にあつては、当面二五食品にするなど段階的に増やして三○食品に近づける。また、既に三○食品とつている人の場合にあつては、その内容を一層充実させるなど、ひとりひとりの現在の食生活に即した指導を行う。

(二) 「主食、主菜、副菜をそろえて」について

(1) 主食として用いられる穀類は単にエネルギーの給源となるばかりでなく、摂取エネルギーに占める炭水化物の割合を健康上適正なレベルに維持する役割も果たすので、毎食一定量を摂取する必要があるということについて指導を行う。

(2) 主菜として用いられる動物性食品及び大豆製品は、たん白質や脂肪の主たる給源となるばかりでなく、ビタミンやミネラルの給源としても重要であるので、できるだけどれか一品は摂取することが大切であるということについて指導を行う。

(3) 副菜は主菜を引きたてるとともに、「六つの基礎食品」の第二類、第三類、第四類、第六類の食品を組み合わせることにより主食及び主菜のみでは不足する栄養素を補う役割をもつていることについて指導を行う。

二 日常の生活活動に見合つたエネルギーを

<背景とねらい>

最近の国民栄養調査結果からみた国民の肥満傾向は横ばい状態であり、欧米諸国に比較すれば問題は少ないといえる。しかし、国民のエネルギー摂取量は全国平均で所要量を一○%も上回つており、今後も職場における省力化の一層の進展や運動不足の傾向により、ますますエネルギー過剰摂取の傾向になる危険性がある。また、近年、運動量の不足は肥満及び高血圧症、糖尿病、心疾患などの各種成人病の誘因として重要視されてきている。

この大項目は、このような状況を踏まえて日常の生活活動に見合つたエネルギーを摂取することの必要性と具体的な方法について正しく理解してもらい、かつ、日常の食生活で実践に努めてもらうことを目的としたものである。

小項目「食べすぎに気をつけて、肥満を予防」は、エネルギーを過不足なく適正に摂取することの必要性を、肥満予防の観点から正しく理解し、かつ、実践してもらうために設定したものである。

小項目「よくからだを動かし、食事内容にゆとりを」は、エネルギーは活動量に見合つた量をとることが大切であるが、活動量の少ない人がエネルギー摂取量をそれに見合つた量に迎えると、食物の選択の幅が狭くなり、食生活が窮屈で味気ないものになる。したがつて、活動量の少ない人は、よくからだを動かして食生活において多様な食品をとるゆとりを持つことが大切であるということを理解し、かつ、実践してもらうために設定したものである。

――指導上の留意点――

(一) 「食べすぎに気をつけて、肥満を予防」について

(1) 個々人が自分の性、年齢、身長及び日常の生活活動強度に対応した適正なエネルギー摂取量の範囲について正しく理解し、食生活においてエネルギーをとりすぎることのないよう、個々人に即した指導を行う。特に、成人については、加齢につれて一般的に代謝活動は低下し、エネルギー消費量は次第に減少してくるので、これにあわせてエネルギー摂取量を調整する必要があることの指導を行う。

(2) ふだんから自分自身の体重に関心を持つようにして体重の増加に気をつけることが大切であることについて指導を行う。

(3) そのほか日常の食生活における注意、例えば、(一)一日の食事は朝、昼、夕の三食をきちんととるようにすること、(二)間食を減らすこと、(三)夜遅くの飲食は避けることなど、具体的な例をあげてわかりやすく指導を行う。

(二) 「よくからだを動かし、食事内容にゆとりを」について

(1) 「食事内容にゆとりを」という表現の意味するところは、多様な食品をとるゆとりを持つことであるということについて十分に指導を行う。

(2) エネルギー消費量を増やした方がよい場合は、日常の生活内容をどのように変えればよいのか具体例を示して指導を行う。

(3) アルコール飲料もエネルギー量として必ず算入すること。また、とりすぎると食事の内容にゆとりがなくなるため、飲みすぎに注意するように指導を行う。

三 脂肪は量と質を考えて

<背景とねらい>

国民の脂肪摂取量は長い間低水準にあつたが、昭和三○年代から昭和四○年代にかけて大幅な増加を示し、最近一○年間においてもその増加率にやや鈍化がみられるものの、依然として増加傾向にある。また、摂取脂肪の増加内容をみると、主として畜産食品からの動物性脂肪の増加が著しい。したがつて、このまま推移した場合、近い将来、脂肪エネルギー比率及び動物性脂肪の摂取比率が適正な範囲を越え、健康上多くの問題を抱える欧米諸国の水準に近づくことが予想される。

この大項目は、脂肪を適正に摂取することの必要性について正しく理解し、かつ、実践してもらうことを目的としたものである。

小項目「脂肪はとりすぎないように」は、最近(昭和五八年)における国民の全国平均脂肪エネルギー比率二四・六%は、一応は適正な範囲にあるとはいうものの既に上限に近いレベルにあるので、脂肪の過剰摂取から派生する健康上の諸問題を未然に防止するため設定したものである。

小項目「動物性の脂肪より植物性の油を多めに」は、飽和脂肪酸とコレステロールの過剰摂取を予防するためには動物性食品(魚類を除く)由来の脂肪と植物性食品・魚類由来の脂肪との摂取比を「日本人の栄養所要量」で示されているように一:二から一:一までの範囲に維持し、前者が過剰摂取とならないようにすることが重要であることから設定したものである。

――指導上の留意点――

(一) 「脂肪はとりすぎないように」について

(1) 脂肪を適正に摂取することの重要性について、正しく理解をしてもらうとともに脂肪をとりすぎない方法について具体的に指導を行う。

なお、日本人の脂肪摂取量は全国平均的には適正なレベルにあるものの、地域別にみた場合や個々の世帯、個々人についてみた場合には摂取量が不足している者もいるので、指導に際しては、これらの者について脂肪の摂取をひかえるようなことがないよう十分に留意する必要がある。

(2) 脂肪の適正摂取量を脂肪のエネルギー比率で示すことは、一般的に理解が困難であり、具体性に欠けるので、各個人のエネルギー所要量を基礎に算定した脂肪量として示すようにする。この場合、油脂及び脂肪を多く含む食品について、一日当たりの望ましい摂取量の目安を具体的に示して指導を行う。

(二) 「動物性の脂肪より植物性の油を多めに」について

(1) 動物性の脂肪には、飽和脂肪酸やコレステロールが多く含まれているので、特に脂肪の多い脂身の部分は過剰に摂取しないように指導する。

(2) 動物性食品の中でも魚類に含まれる脂肪は一般的に多価不飽和脂肪酸を多く含み、植物油と同じような作用を持つものであるので、動物性脂肪と植物性脂肪の摂取比をみるときは、魚類由来の脂肪は動物性脂肪であつても植物性脂肪と同類として扱うよう指導を行う。

四 食塩をとりすぎないように

<背景とねらい>

ナトリウムの過剰摂取は高血圧症、心疾患などの循環器疾患に対して悪影響を及ぼす可能性があるので、ナトリウム又は食塩(塩化ナトリウム)を適正に摂取することはこれらの疾患を予防するためにも重要である。

日本の従来の食生活は、食塩の摂取量が諸外国に比較して多いという特徴があつたが、東北地方や北関東地方を中心として食塩の摂取を減らす指導が長年続けられてきたことや、食生活の洋風化による米の摂取量の減少などに伴い、塩分の多い食品の摂取も減少し、国民の平均的な食塩の摂取水準は減少傾向を示してきた。

しかしながら、近年、食塩の減少傾向は鈍化しており、いまだ「日本人の栄養所要量」で示されている目標摂取量(成人で一日一○グラム以下)に及ばない状況にある。また、地域ブロック別、世帯業態別にみた場合には、過剰に摂取しているところも少なくない。この大項目はこのような現状を踏まえ、食塩摂取量を目標摂取量まで減らすことの必要性について正しく理解し、かつ、実践してもらうことを目的としたものである。

小項目「食塩は一日一○グラム以下を目標に」は、「日本人の栄養所要量」で示されている食塩の成人一人一日当たり目標摂取量は一○グラム以下であることについて広く国民に知らせるとともに、食塩の摂取量を目標摂取量のレベルまで減らすように努めてもらうために設定したものである。

小項目「調理の工夫で、むりなく減塩」は、国民の一日に摂取する食塩摂取量の五○%以上は調味料から摂取しているという実態にあるので、食塩の摂取量を減らすためには食塩の多い食品の摂取を減らすだけでなく、調理に工夫をこらすことによつて塩分の多い調味料を過剰に摂取しないようにすることが大切であるということから設定したものである。

――指導上の留意点――

(一) 「食塩は一日一○グラム以下を目標に」

(1) 長年の食習慣で濃い塩味に慣れた人に対しては、急激に塩分の摂取を減らすように指導しても長続きしないので、最初から一○グラム以下を目標摂取量とするのではなく、徐々に塩分の摂取を減らすよう指導を行う。

(2) 食塩の摂取量は地域特性の違いにより、かなりの地域差がみられるところである。したがつて、減塩の指導に当たつては、地域住民の食塩摂取量及び食塩の食品群別摂取構成の実態を把握したうえで、特に食塩摂取割合の高い食品に重点をおいて指導を行う。

(二) 「調理の工夫で、むりなく減塩」

(1) 調味料をひかえめにすることによつて食事がまずくなつたのでは減塩が長続きしないので、おいしく食べて減塩の効果が期待できるように調理の工夫についても具体的、かつきめ細かな指導を行う。

(2) 食物の嗜好は幼児期にその基礎が形成されるので、子どもの時から「うす味」を好むようにしむけることが大切であることについて指導を行う。

五 こころのふれあう楽しい食生活を

<背景とねらい>

最近、家族そろつて食事をすることが少なくなり、子どもの一人食べの増えていることが国民栄養調査結果によつて明らかにされている。また、家族が一緒に食事をしている場合であつても、テレビを見ながら、新聞を読みながらというように食卓での団らんに欠け、個々人が勝手に食べるケースが見受けられる。

一方、食料消費の内容についてみれば、近年、食生活の簡便化に伴つて加工度の高いインスタント食品や調理済み食品の需要が増大しており、これらの食品だけで食事をすませる場合には栄養素の摂取が偏ることが危惧される。

今回、食生活指針の第五項目として家族の食生活のあり方について掲げたのは、このような現状を踏まえ食事の仕方について見直しを求めたものである。

小項目「食卓を家族ふれあいの場に」は、食卓は本来、家族のコミュニケーションを深めるうえで重要な役割を果たすものであり、食事を楽しいひとときとすることが大切であることの認識を深めてもらうために設定したものである。

小項目「家庭の味、手づくりのこころを大切に」は、家庭の味、手づくりの料理をとおして家族の心のふれあいを高めるといつた観点から見直してみる必要があることから設定したものである。

――指導上の留意点――

(一) 「食卓を家族ふれあいの場に」について

(1) 家族そろつて食事をすることが困難な者については、例えば一日のうち朝食だけでもそろつて食べるようにする。また、休日はできるだけそろつて食べるようにすすめる。

(2) 家族そろつて食事をする場合にあつても、テレビや新聞を見ながら食事をすることはやめて、楽しい会話のある食卓の雰囲気づくりを心がけるようにすすめる。

(二) 「家庭の味、手づくりのこころを大切に」について

(1) 副食を調理済み食品や既製のそうざいだけですませるといつたことは避けて、少しでも手を加えるか、一品でも手づくりの料理をそろえるようにすすめる。

(2) 季節の素材を上手に生かした料理や材料をむだなく合理的に使う料理などを見直し、昔から伝えられてきた食事づくりの知恵、家庭の味をふだんの食生活にとり入れるようにすすめる。