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○健康づくりのための食生活指針

(昭和六〇年五月一四日)

(厚生省保健医療局健康増進栄養課)

資料一 「健康づくりのための食生活指針」報告書

当検討委員会は、国民の健康の現状と食生活の実態を踏まえ、国民の健康増進を図るために、今後、国民が食生活において特に留意すべき事柄について食生活指針としてとりまとめるよう厚生省から要請を受け、昭和五九年一一月以降慎重に検討を重ねてきた結果、「健康づくりのための食生活指針」を別紙のとおり取りまとめたので、報告する。

別紙

健康づくりのための食生活指針

(昭和六〇年五月七日)

(厚生省保健医療局長あて日本人の食生活指針策定検討委員会座長報告)

趣旨

1 我が国の平均寿命は、経済発展に伴う生活水準や栄養状態の改善、保健医療施策の充実等により大幅に伸長し、人生八〇年時代を迎えようとしている。今後の本格的な高齢化の進展に伴い、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病等の成人病の一層の増加が予想されるが、成人病については、日頃の健康管理、特に適正な食生活の実践によつて相当程度予防することができることから、国民ひとりひとりが自覚をもち、食生活の改善に努めることが重要である。

2 現在の我が国の食生活をみると、平均的には栄養状態は良好なものとなつているが、個々の世帯、個々の人についてみた場合には、食生活をとりまく環境の急速な変化に伴い、次のような問題が生じている。

○ 交通機関の発達、職場の機械化、家事の省力化等により、消費エネルギーが減少しているため相対的にエネルギーを過剰に摂取する者が増加している。

○ 食事の洋風化に伴い、脂肪の摂取量が増加傾向にあり、適正量の上限に近づいている。

○ 加工食品に過度に依存することにより、栄養のバランスに偏りのある者が増加している。

○ こどもの一人食べが多くみられるなど、食卓を中心とした家族の団らんが失われつつある。

現在のような状態が継続すれば、こうした傾向は一層強まるものと考えられる。また、食塩の摂取量については減少傾向にあるが、まだ、とりすぎているという問題がある。

3 こうした状況を踏まえ、国民の健康を保持増進する観点から健康に及ぼす影響度、改善の緊急性、将来に備えての過剰摂取予防の必要性等を考慮し、日本人の食生活において特に留意すべき事がらとして次の五項目を設定し、食生活改善のめやすを示すものである。

なお、この食生活指針は「日本人の栄養所要量」(昭和五九年八月公衆衛生審議会答申)で示された基本的考え方と「疾病予防と栄養に関する検討委員会報告」(昭和五六年健康づくり特別研究)による知見を基礎資料として策定したものである。

健康づくりのための食生活指針

1 多様な食品で栄養バランスを

○ 一日三〇食品を目標に

○ 主食、主菜、副菜をそろえて

2 日常の生活活動に見合つたエネルギーを

○ 食べすぎに気をつけて、肥満を予防

○ よくからだを動かし、食事内容にゆとりを

3 脂肪は量と質を考えて

○ 脂肪はとりすぎないように

○ 動物性の脂肪より植物性の油を多めに

4 食塩をとりすぎないように

○ 食塩は一日一〇グラム以下を目標に

○ 調理の工夫で、むりなく減塩

5 こころのふれあう楽しい食生活を

○ 食卓を家族ふれあいの場に

○ 家庭の味、手づくりのこころを大切に

資料2 参考資料

健康づくりのための食生活指針 内容の説明

昭和六〇年五月七日

1 多様な食品で栄養バランスを

健康を保持増進するための食生活の条件として最も基本的なことは、からだに必要な炭水化物、脂肪、たん白質、ビタミン、ミネラルといつた栄養素を過不足ないようにとることです。一方、食品に含まれる栄養素の種類と量は、個々の食品ごとに異なります。どのような食品であつても、ただ一種類の食品ですべての栄養素を必要なだけ含んでいるものはありません。数多くの食品を種類の異なる食品群から幅広くとることによつて、栄養素をバランスよく摂取することができます。

また、最近における日本人の食生活では、主食としての穀類の摂取が減少し、動物性食品の摂取が増加する傾向がみられます。今後もこの傾向が続けば、現在の欧米諸国のように心臓病や糖尿病、がん等の疾病が増加するなどの問題を生じることになります。したがつて、主食として穀類を摂取することの必要性を見直して、毎食適量を摂取することが必要です。

(1) 一日三〇食品を目標に

からだに必要な栄養素は毎日過不足なくとるよう心がけることが大切です。

このためには、次の六つの食品群をもれなく組み合わせて食べることが、食品のとり方のめやすとなります。

また、料理の素材として使用する食品の数としては一日三〇食品を目標とすれば、自然に必要な栄養素をバランスよくとることができます。

第一群 魚、肉、卵、大豆製品……………………主として良質たん白質の供給源

第二郡 牛乳・乳製品、骨ごと食べられる魚……主としてカルシウムの供給源

第三群 緑黄色野菜…………………………………主としてカロチンの供給源

第四群 その他の野菜、果物………………………主としてビタミンCとミネラルの供給源

第五群 米、パン、めん、いも……………………主として糖質性エネルギーの供給源

第六群 油脂…………………………………………主として脂肪性エネルギーの供給源

(2) 主食、主菜、副菜をそろえて

主食は、米、パン、めん類などの穀類で、主として糖質性エネルギーの供給源となります。

主菜は、魚や肉、卵、大豆製品などを使つた副食の中心となる料理で、主として良質たん白質並びに脂肪の供給源となります。また、副菜は主菜につけあわせる野菜などを使つた料理で、主食と主菜に不足するビタミン、ミネラルなどの栄養素を補う重要な役割を果たします。

食事は、主食と主菜それに副菜をそろえることにより栄養素のバランスもとれ、バラエティーに富んだものになります。

2 日常の生活活動に見合つたエネルギーを

近年、交通機関の発達、職場の機械化、家庭における省力化の進展により、日常生活のなかで、からだを動かして消費するエネルギーは減少する傾向にあり、このことが結果的にエネルギーの過剰摂取をもたらしています。このようなエネルギーの過剰摂取は肥満を招き、やがては心臓病、糖尿病などのいわゆる成人病になる危険があります。

また、運動不足は体力を低下させるだけでなく、成長や健康維持の上からも好ましくないので、運動不足の状態のまま摂取エネルギーを減らして収支バランスをとるより、むしろ、積極的にからだを動かした上で、それに見合つたエネルギーを摂取して収支バランスをとることが大切です。

(1) 食べすぎに気をつけて、肥満を予防

肥満を予防するために大切なことは、エネルギーを余分にとらないことです。一日の量としてみれば、わずかなとりすぎであつても、長期にわたれば肥満につながります。また、加齢に伴つて、代謝活動や日常生活での消費エネルギーが減少するので、相対的に過食におち入らないよう注意が必要です。

昔から腹八分目ということがいわれていますが、食べすぎに注意し、ふだんから自分の体重にも関心をもつように心がけることが大切です。

(2) よくからだを動かし、食事内容にゆとりを

エネルギーは、活動量に見合つた量をとることが大切です。活動量の少ない人がエネルギーをそれに見合つた量に迎えると、食物の選択の幅が狭くなり、食生活が窮屈で味気ないものになります。また、活動量が極端に少ない人の場合には、摂取エネルギーを減らすことだけにとらわれると、たん白質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素の不足をきたす心配があります。

したがつて、活動量の少ない人は、日頃から積極的にからだを動かすようにして、食事内容にゆとりをもたせることが大切です。

3 脂肪は量と質を考えて

脂肪摂取量はかつては低水準にありましたが、経済発展に伴う食生活の著しい変化により、着実に増加傾向をたどつてきました。昭和五十年以降その増加率はやや鈍化したものの、脂肪摂取量は依然として増加傾向を示しており、このまま推移すると、近い将来欧米諸国のように過剰摂取になる危険性があります。脂肪については、不足状態が続くと、脳卒中や高血圧を起こしやすいなどの問題が生じ、反対に、過剰摂取が続けば、高脂血症、心臓病、糖尿病などの原因となるので注意が必要です。

また、脂肪摂取の増加の内訳をみると、動物性の脂肪(魚類の脂肪を除く)の増加が目立ちます。植物性の油および魚類の脂肪は動脈硬化を予防する作用があるのに対して、動物性の脂肪は逆に動脈硬化を促進する作用があるので、脂肪は量だけでなく、質についても十分考えてとることが大切です。

(1) 脂肪はとりすぎないように

「日本人の栄養所要量」では、一日に摂取することが望ましい脂肪の量について、総摂取エネルギーに占める脂肪エネルギーの割合として定められています。すなわち、一般成人の場合は二〇~二五%、発育の盛んな青少年や重い生活活動で多量のエネルギーを必要とする人の場合は二五~三〇%が適当であるとされています。

この割合は、てんぷら油やバターなど油脂だけでなく、肉や魚などの食品中の脂肪をも含んだものですから、食品の選択にも気をつけて脂肪をとりすぎないようにすることが大切です。

(2) 動物性の脂肪より植物性の油を多めに

脂肪は種類によつてその性質と健康におよぼす影響が異なります。動物性の脂肪(魚類の脂肪を除く)は、一般に飽和脂肪酸とコレステロールを多く含んでおり、過剰に摂取すると血清コレステロールを上昇させ、動脈硬化を促す原因になるのに対し、植物性の油および魚類の脂肪は、一般に多価不飽和脂肪酸を多く含んでおり、動脈硬化を抑制する作用のあることが認められています。

したがつて、脂肪の種類としては、動物性の脂肪より植物性の油および魚類の脂肪を多くとることが大切です。

4 食塩をとりすぎないように

ナトリウムは体内で体液の浸透圧を維持したり、水分代謝などに重要な役割を果たしています。

したがつて、一定量のナトリウムまたは食塩(塩化ナトリウム)をとることは、必要なことであります。

しかし、食塩のとりすぎは、高血圧や脳卒中などを起こしやすいという問題があります。日本人は昔から食塩を多くとる習慣がありました。近年、平均的には食塩摂取量は減少傾向を示していますが、依然として「日本人の栄養所要量」で示されている一日一〇グラム以下という目標を上回つています。特に、地域別にみた場合、東北地方や北関東地方などでは目標をかなり上回つています。

健康のため、食塩はとりすぎないようにすることが大切です。

(1) 食塩は一日一〇グラム以下を目標に

食塩のとりすぎを防ぐことは、欧米諸国でも重要視されており、たとえば、西ドイツでは成人一日当たり五~八グラム、アメリカでは五グラム以下が目標にされています。

我が国の場合は、欧米諸国と比べて昔から食塩を多くとる習慣があることから、「日本人の栄養所要量」では、当面成人の食塩摂取量を一日当たり一〇グラム以下とするよう定めています。これを目標に食塩の摂取を減らすよう努めることが大切です。

(2) 調理の工夫で、むりなく減塩

食塩の摂取は単に塩分の多い食品の摂取を減らすだけでなく、調理の上でもいろいろ工夫することによつて無理をしないで減らすことができます。

たとえば、新鮮な材料を選んでその持ち味をいかす。みつばやレモンなど香味、酸味のある食品を上手に使つて塩分の多い調味料の使用を控えめにするなど、調理に工夫をこらし、おいしく食べて食塩の摂取を減らすように努めることが大切です。

5 こころのふれあう楽しい食生活を

近年、生活水準の向上に伴い、食事の内容は大変豊かになりましたが、反面、食卓を家族団らんの場にして楽しく食べるという点では、問題のある家庭が多いことが指摘されています。たとえば、以前は家族そろつて食事をしていましたが、生活環境の変化などにより、家族が別々に食事をすることが多くなつています。

また、そのまま食べられる食品だけで食事をすませるなど、食事軽視の風潮がみられたり、昔から伝えられてきた食事づくりの知恵、家庭の味も失われつつあります。

食事を生活の楽しいひとときとして、また、家族のコミュニケーションの場として見直すことが大切です。

(1) 食卓を家族ふれあいの場に

楽しい雰囲気のもとでおいしく食べることは、心を和やかにし、ストレスの解消にもつながります。

家族そろつて食卓を囲むことによつて、心のふれあいも深まります。生活時間のずれなどから、家族そろつて食事をすることが難しくなつてきていますが、食卓を家族団らんの場とするよう努めたいものです。

(2) 家庭の味、手づくりのこころを大切に

近年、各種の加工食品の消費が著しく伸びています。これらの食品は、大変便利なものですが、その便利さに頼りすぎると食卓が味気ないものになり、栄養のバランスも偏りがちになります。家庭の味を大切にするため、また、栄養のバランスをとるために、忙しいときにも手づくりの料理を取り合わせるよう心がけたいものです。