○精神科病院に対する指導監督等の徹底について
(平成一〇年三月三日)
(障第一一三号・健政発第二三二号・医薬発第一七六号・社援第四九一号)
(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省大臣官房障害保健福祉部長・厚生省健康政策局長・厚生省医薬安全局長・厚生省社会・援護局長通知)
精神病院に対する指導監督等については、従来から適正な実施をお願いしているところであるが、最近、精神病院における不祥事が相次いで発生し、精神病院に対する国民の不信を招き、今後の精神保健福祉施策の推進を阻害しかねない事態となっている。
今般、精神病院に対する指導監督等について見直しを行い、左記のとおりまとめたので、今後の指導監督等の実施に当たっては遺憾なきよう留意されたい。
また、本通知(二(四)から(六)まで、三(三)ア(ア)第三段落(法第一九条の八に規定する指定病院である場合の措置に係る部分)及びオ、五並びに別紙様式一から三までを除く。)は、地方自治法(昭和二二年法律第六七号)第二四五条の九第一項及び第三項に規定する都道府県及び指定都市が法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準であることを申し添える。
なお、昭和三一年六月八日衛発第三五七号厚生省公衆衛生・医務局長連名通知、昭和四三年三月二五日衛発第二三〇号公衆衛生局長通知、昭和四五年衛発第一七〇号公衆衛生・医務局長連名通知、昭和五九年六月二二日衛発第四二五号・医発第五八三号・社保第六二号厚生省公衆衛生・医務・社会局長連名通知、昭和五九年六月二二日社保第六三号社会局長通知及び平成元年五月九日健医精発第二二号精神保健課長通知は廃止する。
記
一 適正な精神医療の確保等について
精神保健福祉施策の推進については、人権に配慮した適正な精神医療の確保、精神障害者の社会復帰・社会参加を促進するという観点から、地域において社会復帰施設等との連携を図りつつ、より良い精神医療を目指していくことが必要である。
特に、入院患者の処遇については、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「法」という。)等に基づき、行動制限、面会、信書、電話、金銭管理等にかかる処遇が適切に行われ、社会復帰に向けた様々な環境整備を積極的に推進していく必要があることから、管下精神医療機関に対して指導の徹底を図られたい。
二 入院制度等の適正な運用について
都道府県及び指定都市においては、以下の点に留意し、適正な運用を図られるようお願いする。
(一) 措置入院制度について
ア 入院手続について
入院に当たっては、精神保健指定医二名以上の診察により適切に行い、その診察を行う際には、保護者等の立ち会いが必要となるので、保護者等の所在を確認し、診察の通知を行うとともに、入院措置を採る場合には、法第二九条第三項に基づく書面告知を患者に対して行うこと。
なお、精神保健指定医の選定に当たっては、原則として同一の医療機関に所属する者を選定しないこととするとともに、措置決定後の入院先については当該精神保健指定医の所属病院を避けるよう配慮すること。
また、都道府県立精神病院については、法律の趣旨に照らし、進んで措置入院患者を受け入れること。
イ 通報申請等の取扱いについて
法第二三条から第二六条の二までの規定による通報申請等がなされた場合においては、速やかに法第二七条の規定による所要の措置を講ずること。
ウ 病状報告について
各都道府県及び指定都市においては、精神病院の管理者(以下「病院管理者」という。)に対し、常時措置入院患者の病状把握に努めるとともに、当該措置入院患者が自傷他害のおそれがないと認められるに至った場合には、直ちにその旨を最寄りの保健所長を経由して都道府県知事又は指定都市市町に届け出るよう指導するとともに、都道府県及び指定都市については、速やかに退院の手続をとること。
また、病状報告は、六カ月の範囲内で定期的に求めるとともに、それ以外にも必要に応じ随時これを求めること。
なお、患者台帳等を作成するなどにより措置入院患者についての現状把握に努め、病状報告が確実に提出されているかどうかについても確認すること。
エ 仮退院について
仮退院は、精神保健指定医による診察の結果、入院患者の症状に照らし、その者を一時退院させて経過を見ることが適当であると認める場合に限り行えるものであり、決して目的外に仮退院させることのないようにすること。
オ 緊急措置入院について
緊急措置入院は、急速を要し、通常の措置入院の手続によることができない場合において、その指定する精神保健指定医をして診察をさせた結果、直ちに入院させなければならないと認めたときに行うものであり、七二時間を超えて入院させることのないようにすること。
カ 措置入院患者の診察について
措置入院患者については、入院後概ね三カ月を経過した時に精神保健指定医による診察を行うこととする。
また、これ以外の場合にも必要に応じ積極的にこれを行うよう努めること。
キ 退院手続について
都道府県知事及び指定都市市長においては、措置入院患者が措置入院を継続しなくてもよいと認められたときは、直ちにその者を退院させること。
また、措置入院患者を退院させるに当たっては、保護者との連絡や医療機関、保健所、福祉事務所等との連携を密にし、その後の医療、保護及び社会復帰に支障が生じないよう十分配慮すること。
(二) 医療保護入院制度について
ア 入院手続について
病院管理者は、入院の要否について法第二二条の三の規定による入院が行われる状態にないことを必ず精神保護指定医に判断させるとともに、入院に際しての同意者が配偶者又は親権者以外の扶養義務者である場合には、家庭裁判所の選任を受けた者であることを確認するよう指導すること。また、扶養義務者の同意による入院については、四週間以内に家庭裁判所の選任を受け選任書を速やかに送付するよう指導すること。なお、家庭裁判所の選任がやむを得ず遅れる場合には、選任が行われるまでの間は市町村長が保護者となるので、市町村長の同意を得るよう病院管理者に指導するとともに、かかる場合において迅速な対応がなされるよう日頃から市町村長との連携を密にしておくこと。
なお、保護者となった市町村長においては、患者の病状を常に把握するとともに、退院後のフォローアップについても十分に配慮するよう指導すること。
イ 届出について
法第三三条第四項の規定に基づく届出については、必ず法定の一〇日以内に行われるよう指導するとともに、入院に際しての同意者が家庭裁判所により選任された者であるときは届出書に選任書の写しを添付させること。
また、届出内容から判断して入院手続、入院の要否等に疑問があると認められるときは、法第三八条の六に基づく報告徴収等を行うなど必要な措置を講ずること。
ウ 病状報告について
病状報告については、入院が行われてから一年ごとに報告するよう病院管理者に対し指導するとともに、患者台帳等を作成するなどにより医療保護入院患者の現状把握に努め、病状報告が確実に提出されているかどうかについても確認すること。
エ 退院手続について
病院管理者に対し、医療保護入院患者を退院させたときは、一〇日以内に最寄りの保健所長を経て都道府県知事又は指定都市市長の届け出るよう指導すること。
また、医療保護入院患者の退院に当たっては、病院管理者が保護者や医療機関、保健所、福祉事務所等との連携を十分に行い、退院後の患者の医療、保護及び社会復帰に支障が生じないよう指導すること。
(三) 任意入院制度について
ア 入院手続きについて
人権に配慮しつつその適正な医療及び保護を確保するため、本人の同意に基づいて入院が行われるよう努めることは極めて重要なことであり、その旨を病院管理者に対して徹底させるとともに、その入院手続きについては、法に基づき適正に実施されているかどうかを確認すること。
イ 精神障害者が自ら入院する任意入院の場合においては、基本的に開放的な環境で処遇されるものである。これを制限する場合には、法第三七条第一項の規定に基づく基準により適正に実施されているかどうかについても確認すること。
(四) 指定病院及び応急入院指定病院について
ア 厚生省告示に定める基準を満たす病院を三年の期限を付して指定することとし、三年ごとに見直しを行い更新すること。
イ 病床に余裕があるにもかかわらず、理由なく措置入院患者又は応急入院患者の受入の拒否を行っているような事実があった場合には、病院に対する指導を強化すること。
ウ 作業療法士、精神保健福祉士等の職種を配置し、入院患者の社会復帰に向けた努力を行うよう指導すること。
(五) 地方精神保健福祉審議会について
地方精神保健福祉審議会は、精神障害者の人権に配慮しつつその適正な医療及び保護を確保するため、定期的に開催するのみならず、精神病院の不祥事があった場合には、積極的にこれを審議することとし、審議内容については、可能な限り公開するようにすること。
また、精神病院に対する効果的な指導監督等のあり方を検討するに当たっては、地方精神保健福祉審議会を積極的に活用すること。
(六) 精神医療審査会について
ア 精神医療審査会は、精神障害者の人権に配慮しつつその適正な医療及び保護を確保するため、病状報告等については、必要と認める場合においては、病院管理者等に対し意見を聴くことに加え、委員による診察、関係者に対して報告や意見を求めること、診療録その他の帳簿書類の提出、出頭を命じて審問するなど、慎重かつ速やかに審査を行うこと。
イ 都道府県知事及び指定都市市長は、病状報告の審査の過程、入院の必要性等につき問題があるという報告を受けた場合、法第三八条の六による報告徴収等を行い、必要な調査・診察を行うこと。
ウ 精神病院に入院中の者又は保護者から退院請求又は処遇改善請求があったときは、速やかに請求に関する審査を行い、都道府県知事及び指定都市市長においては、請求者に対し、遅滞なく審査結果を通知するようにすること。
エ 精神病床数、審査案件の数等地域の実情に応じて委員の増員等を行い、審査が迅速かつ適切に行われるよう所要の合議体数を整備すること。
オ 審査会の運営については、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第一二条に規定する精神医療審査会について(平成一二年三月二八日障第二〇九号本職通知)の別添「精神医療審査会マニュアル」の考え方に沿って適切な運営を図ること。
三 実地指導等の実施方法について
(一) 実地指導の実施時期について
原則として一施設につき年一回行うこととするが、法律上適正を欠く等の疑いのある精神病院については、数度にわたる実地指導を行うこと。
(二) 実地指導の方法について
ア 実地指導は、原則として都道府県及び指定都市精神保健福祉担当部局職員及び保健所の精神保健福祉担当職員とともに、精神保健指定医を同行させ実施することとし、病院間で指摘内容に格差が生じないよう、都道府県及び指定都市において実地指導要領等を作成して実施するよう努めること。
また、法律上極めて適正を欠く等の疑いのある精神病院に対しては、国が直接実地指導を実施することもあり得ること。
イ 法律上適正を欠く等の疑いのある精神病院に対して実地指導を行う場合には、最長でも一週間から一〇日間の予告期間をもって行うこととするが、場合によっては予告期間なしに実施できること。
ウ 実地指導の際、措置入院患者については、原則として各患者に対して診察を行うものとする。また、医療保護入院患者については、病状報告や医療監視の結果等を踏まえるとともに、患者の入院期間、病名等に十分配慮して計画的、重点的に診察を行うようにすること。
エ 人権の保護に関する聞き取り調査については、病院職員に対するものだけでなく、入院患者に対しても適宜行うようにすること。
また、診療録を提出させ、内容が確認するとともに、定期病状報告と関係書類等の突合を行い、未提出の書類等がないかについても確認すること。
オ 医療監視を実施する際に併せて実地指導を行うなど医療監視との連携を十分に図ること。
また、生活保護法による指導等の実地との連携も図ること。
(三) 実地指導後の措置について
ア 実地指導の結果、入院中の者の処遇等の状況について次に掲げる度合いに応じて、法第三八条の七に基づき病院管理者等に対して必要な措置を講じること。
(ア) 著しく適当でないと認められる場合
措置を講すべき事項及び期限を示して、適切な処遇等を確保するための改善計画書の提出を求め、必要に応じ提出された改善計画書の変更を命じ、又は、その処遇の改善のために必要な措置を採ることを命じ、その改善結果報告を書面により求めるとともに、その結果を検証するものとする。
また、命令に従わない時は、精神障害者の入院に係る医療の提供の全部又は一部を制限することを命じること。
さらに法第一九条の八に規定する指定病院である場合には「指定の取消し」、精神保健指定医に関して法第一九条の二第二項に該当すると思慮される場合には「その旨を厚生大臣あて速やかに通知」する等厳正なる措置をとること。
(イ) 適当でないと認められる場合
措置を講すべき事項及び期限を示して、その改善結果報告を書面により求めるとともに、その結果を検証するものとする。
イ 当該精神病院の構造設備・人員配置が医療法に定める基準に著しく違反し、又はその運営が著しく不適当であると認められる場合は、改善指導を行うとともに医療監視の実施機関や保健・福祉等関係部局に必ず連絡をとること。
ウ 公費負担医療費が不当に超過して支払われている事実を発見したときは、速やかに返還を命ずること。
エ 実地指導で指摘事項が多いか重大な問題があるような精神病院については、確認のため再度実地指導を行うこと。
オ 実地指導を行った際には、その都度別記様式一による報告書を作成すること。また、別記様式二及び三により四月一日か翌年三月三一日までを一括して取りまとめ、同年四月末日までに厚生省大臣官房障害保健福祉部精神保健福祉課長あてに報告すること。
ただし、法律上適正を欠く等の疑いが発見された場合には、速やかに連絡するとともに、別記様式一による報告書についても早急に提出すること。
四 実地指導の指導項目について
実地指導を行う際には、左記の項目について十分留意し実施すること。
(一) 過去の行政指導等に対する改善状況について
(二) 精神病院内の設備等について
(三) 医療環境について
(四) 精神保健指定医について
(五) 指定病院について
(六) 措置入院について
(七) 医療保護入院について
(八) 応急入院について
(九) 任意入院について
(一〇) 入院患者の通信面会について
(一一) 入院患者の隔離について
(一二) 入院患者の身体拘束について
(一三) 入院患者等のその他の処遇について
(一四) 通院公費負担について
(一五) その他
五 医療法第二五条の規定に基づく立入検査の実施に当たっての技術的助言について
医療監視については、従来から厳正な実施をお願いしているところであり、特に、医療法上適正を欠く等の疑いのある医療機関については、平成九年六月二七日指第七二号厚生省健康政策局指導課長通知「医療監視の実施方法等の見直しについて」により厳正な対処が必要である旨通知しているところであるが、精神病院についても同様とすることが適切であること。また、実際に際しては、①医療従事者の充足、②超過収容の解消、③無資格者の医療行為の防止といった事項について、特に留意すること。
六 生活保護指定医療機関に対する指導の強化徹底等について
(一) 一般指導等の活用について
生活保護の指定医療機関に対する指導は、昭和三六年九月三〇日付社発第七二七号社会局長通知に基づき行われているところであるが、一般指導、個別指導の機会を活用し、特に精神病院に対しては、被保護者の適切な処遇の確保及び向上、自立助長並びに適正な医療が行われるよう、生活保護制度の趣旨、医療扶助の事務取扱方法、適切な入院患者日用品費等の管理などについて周知徹底を図ること。
(二) 患者委託に当たっての留意事項について
民主主管部局は、衛生主管部局と連携を密にして、医療監視や実地指導の結果を参考にしながら、管下指定医療機関の状況について実態の把握に努め、医療従事者が著しく不足している場合又は使用許可病床を著しく超過して患者を収容している場合には、原則としてその状態が解消されるまでの間、当該指定医療機関に対する患者委託を差し控えるよう、管下実施機関を指導すること。
七 精神医療に関する苦情等の適正な処理について
精神医療に関する苦情等については、精神保健福祉センター、保健所等において積極的に相談に応じるとともに、相談者と連携をとりながらそれぞれの事案の性質に応じた迅速、的確な処理を行い、その結果を相談者に通知すること。
別記様式1
別記様式2
別記様式3