添付一覧
○覚せい剤の慢性中毒者等に対する精神衛生法に基づく医療保護措置等の徹底について
(昭和五六年八月一一日)
(衛精第五八号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省公衆衛生局精神衛生課長通知)
覚せい剤等の薬物の乱用等によるとみられる、いわゆる「通り魔犯罪」が各地で頻発し、大きな社会問題となつている。このため政府は、総理府を中心とする薬物乱用対策推進本部において覚せい剤問題を中心に、その対策を検討してきたところであるが、去る七月二四日「覚せい剤問題を中心として緊急に実施すべき対策」を別添のとおり決定し、八月七日薬物乱用対策推進地方本部全国会議においてその伝達を行つたところである。
覚せい剤の慢性中毒者及びその疑いのある者に対する医療保護については、従来より精神衛生法に基づいて行われているところであるが、此度の薬物乱用対策推進本部の決定に伴い、特に次の諸点に留意の上、その取扱いについて今後とも遺漏のないよう適正な運用を計られるよう特段のご配慮をお願いいたしたい。
記
一 覚せい剤の慢性中毒者の定義
覚せい剤の慢性中毒者とは、自発的には覚せい剤の使用を止めることができないようなものをいうこと。
但し、これらの者でも精神衛生法第三条の規定による精神障害者である場合は、精神障害者として取り扱うものであること。
なお、「精神衛生法の一部改正について」(昭和二九年九月七日衛発第六三九号各都道府県知事あて厚生省公衆衛生局長通知)の2を参照のこと。
二 申請・通報・届出制度の運用の強化
(一) 精神衛生法第二三条から第二六条の二に定める申請・通報・届出制度につき、関係機関との緊密な連携の上、その円滑な運用を図ること。
(二) 特に、薬物乱用対策推進本部の決定に基づき、覚せい剤の慢性中毒者及びその疑いのある者について、警察官、検察官の通報がより一層強化されることとなるため、対象者の処遇に遺漏が無いよう留意するとともに、通報に基づく調査、精神衛生鑑定医への診察の委嘱等の事務を迅速かつ的確に行うこと。
(三) 夜間及び日曜・休日における通報等の受理体制の確保について、警察・検察等関係機関及び一般市民に対して周知徹底を図ること。
三 覚せい剤の慢性中毒者等に対する措置入院制度の適正な運用
(一) 貴職管下職員及び精神保健指定医に対して、精神保健法第二九条に定める措置入院の要件について、その徹底を図ること。
なお、昭和六三年四月厚生省告示第一二五号を参照のこと。
(二) 措置入院中の覚せい剤の慢性中毒者等につき、適正な措置解除を行うこと。なお、「精神障害者措置入院制度の適正な運用について」(昭和五一年八月一九日衛発第六七一号各都道府県知事あて厚生省公衆衛生局長通知)及び「精神障害者措置入院制度の適正な運用について」(昭和五一年一○月二六日衛精第二五号各都道府県衛生主管部(局)長あて、厚生省公衆衛生局精神衛生課長通知)を参照のこと。
四 覚せい剤の慢性中毒者等の実態把握と訪問指導及び精神衛生相談体制の強化
(一) 貴職管下の医療を要する覚せい剤の慢性中毒者及びその疑いのある者について医療機関とも連携を図り、その実態の把握に努めること。
(二) 前記(一)の者について、適正な医療保護を行うとともに、精神衛生法第四三条に基づく訪問指導を励行し、又、衛生主管部局又は保健所の相談体制を早急に整備すること。
別添
覚せい剤問題を中心として緊急に実施すべき対策
昭和五六年七月二四日
薬物乱用対策推進本部
昭和四五年ごろから再び顕著となつてきた覚せい剤乱用者の増加傾向に対処するため、昭和四五年六月閣議決定をもつて薬物乱用対策推進本部を設置し、その乱用防止に取り組んできたところであるが、その後においても依然として乱用者の増加傾向が続き、かつ、一般市民層へのまん延、なかんずく青少年層への浸透等の傾向も現われ、また乱用者等による事件事故も多発するという憂慮すべき状況が続いている。特に最近においては、覚せい剤乱用者等による凶悪事件が連続して発生するという異常な事態が現われている。
このような事態に対処するため、当本部は、本年四月「覚せい剤乱用対策実施要綱」及び「昭和五六年度薬物乱用防止対策実施要綱」を決定したところであるが、今般更に両要綱の線に沿つて、覚せい剤乱用防止対策を中心とし、その他の異常者等による事件の防止に関連する事項を含め緊急に実施すべき対策として左記事項を決定した。
当本部は、関係省庁の緊密な連携協力の下、これら諸対策の早急な実施により、覚せい剤問題等の速やかな絶滅を期するとともに、これらの事項の実施状況を常時点検し、今後必要な措置について更に検討を進めることとする。
記
第一 国民に対する啓発活動の強化
(一) 各種広報活動の推進
ア 覚せい剤乱用の弊害について広く国民への周知を図るとともに、防止対策について国民一般の理解と協力を得るため、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌等の広報媒体による政府広報を集中的に行う。この場合、都道府県、市町村その他関係機関の広報紙(誌)の活用にも配意する。なお、資料提供、取材その他の機会を通じ、報道機関に積極的に協力するよう留意する。
イ 覚せい剤乱用の弊害を訴える映画、ポスター、パンフレット、リーフレット等を作成し、集中的に掲示、頒布等を行う。特に、多人数がい集する施設等において、重点的にこれらの啓発活動を行う。
(二) 教育委員会、保護司等を通じての啓発活動の推進
ア 生徒によるシンナー等有機溶剤の乱用防止対策及び青少年による麻薬・覚せい剤の乱用防止対策に関して都道府県教育委員会等関係機関へ通知し、中学校及び高等学校学習指導要領等で示されている事項の一層の推進を図る。
教育委員会事務局指導部課長会議、生徒指導主事講座及び生徒指導連絡協議会において重ねて指導及び協議を行い、趣旨の徹底を図る。
覚せい剤乱用防止について、地域の実情に合つた指導資料の作成を推進するとともに保健指導に係る指導資料の充実を図る。
イ 保護司、更生保護婦人会員、少年補導員、BBS会員等青少年関係指導者層に対して、覚せい剤等乱用の弊害についてのスライド、パンフレット等啓発用資料を作成、活用して、集中的に啓発を行うとともに、これらの者の活動を通じて乱用防止のキャンペーンを行う。
ウ 覚せい剤乱用防止推進員制度の充実強化を図るとともに、これら推進員等の日常活動を通じて、覚せい剤の乱用の弊害等に関する知識の国民一般への普及を図る。
(三) 各種団体の協力等による啓発活動の推進
ア 各種労働災害防止団体に対し、覚せい剤乱用問題について認識を深めるよう指導する。
イ 中小企業団体に選任されている勤労青少年福祉員及び事業場に選任されている勤労青少年福祉推進者に対し、指導を行つて、覚せい剤乱用問題についての認識を深めさせるとともに、これらの者を通じて、事業主及び勤労青少年に対して知識の普及を図る。
ウ 土木建築関係業界に対し、覚せい剤乱用問題について認識を深めるよう指導する。併せて、建設事業場に選任されている雇用管理責任者に対する研修において、覚せい剤乱用問題についての認識を深めさせるとともに、これらの者を通じて、同事業内の勤労者に対して知識の普及を図る。
エ 自動車運送業界に対し、覚せい剤乱用問題について認識を深めるよう指導する。併せて、自動車運送事業におかれた運行管理者に対する研修において、覚せい剤乱用問題についての認識を深めさせるとともに、これらの者を通じて、同事業内の乗務員に対して知識の普及を図る。
オ 海事、漁業関係者に対する講習会において、覚せい剤乱用問題についての認識を深めさせ、防止対策についての協力を要請する。
カ 旅客船、フェリー及び漁船の船主等に対して、覚せい剤乱用問題についての認識を深めさせ、船員雇入等に当たつての配慮について協力を要請する。
キ 風俗営業等関係団体に対し、協議会を開催するなどして覚せい剤乱用問題についての認識を深めさせ、防止対策について協力を要請する。
ク 防犯協会等防犯関係団体に対し、平素の防犯活動や防犯広報誌(紙)を活用して、覚せい剤乱用防止が図られるよう協力を要請する。
ケ 運転免許証更新時講習、安全運転管理者講習等に際し、覚せい剤施用運転の防止の指導を通じて、覚せい剤乱用の弊害について啓発に努める。
コ 各省庁において、各省庁部内に覚せい剤乱用対策について趣旨の徹底を図るとともに、それぞれ所管の関係団体に対しても、覚せい剤乱用問題の重要性について認識を深め、防止対策について協力してもらうべく働きかけるよう要請する。
(四) 各種運動を通じての啓発活動の推進
ア 一○月及び一一月を麻薬、覚せい剤禍撲滅運動期間とし、覚せい剤、麻薬の恐ろしさ、乱用の弊害について、国民一般に対するキャンペーンを集中的に行う。
イ 社会を明るくする運動、防犯運動等に際しては、覚せい剤乱用防止について国民一般に対する広報、啓発を行う。
ウ 全国交通安全運動において、覚せい剤・シンナー等薬物を使用しての運転の防止を重点として取り上げ、覚せい剤乱用防止について広報、啓発を行う。
第二 取締りの強化、厳正な処分
一 覚せい剤関係諸事犯に対する取締りの強化と厳正な処分
(一) 密輸の取締り
ア 密輸入事犯の水際検挙を図るため、情報収集を強化して容疑者等の視察内偵を強化するとともに、覚せい剤密輸出仕出要注意地域からの直入港船に対する立入検査、同地域からの入国者に対する携帯品検査、密輸ルート海域における巡視船艇による洋上パトロールと立入検査、巡視船艇・借上船等による夜間警戒、航空機による洋上警戒の強化等を行う。
イ 覚せい剤密輸・密売事犯の増加及び広域化に対処し、広域的組織捜査を推進するなどのため、薬物事犯捜査共助官制度、特別捜査事件制度及び登録事件制度を新設するなど広域的犯罪捜査体制の整備を図る。
ウ 管区本部警備担当課長会議、全国薬物事犯共助官会議及び地区麻薬取締官事務所長会議を開催し、これらの趣旨の徹底を図る。
エ 一般商業貨物及び外国郵便物利用による覚せい剤等の密輸入に対処するため、覚せい剤密輸出仕出要注意地域を仕出地とする一般商業貨物及び郵便物については、一層現品検査を強化する。また、郵便物については、覚せい剤の発見の効率化を図るためのX線装置の導入など資器材の整備強化を推進し、検査能力の向上に努める。
オ 覚せい剤等密輸事犯に対処するため、一○月に取締強化月間を設定するとともに、秋の行楽期、年末年始等の時期に重点を置いて特別取締りを実施する。
カ 覚せい剤不法所持者等の上陸拒否、覚せい剤取締法違反者の強制退去を定めた出入国管理令の一部改正法の施行(昭和五七年一月一日)を控え、同法の円滑な実施に必要な準備を行うとともに、その適切な運用を図る。
(二) 密売等の取締り
ア 覚せい剤事犯の取締りを強化するため、一○月を取締強化月間として設定するとともに覚せい剤の密売ルートを握る暴力団の根絶を期すため、同時期に暴力団取締月間を設定し、集中的な取締り、検挙を行う。
イ 取締りの強化に伴い、増大する薬物鑑定業務に対処するため、鑑定技術の開発及び鑑定体制の充実強化を図る。
(三) 国際協力
ア 覚せい剤乱用防止対策について、関係国と意見を交換し、協力要請を行う。
イ 覚せい剤事犯については、国際刑事警察機構及び国際捜査共助の積極的活用を図るなどして、関係国取締機関との連携を強化し、情報交換、捜査共助等の国際捜査協力を推進する。
(四) 厳正な処分
ア 覚せい剤事犯の危険性等にかんがみ、この種事犯の悪性に関する捜査を徹底した上、厳正な処分の実現を図る。
(五) シンナー等乱用防止
ア シンナー等有機溶剤乱用事犯の取締りを強化する。
イ シンナー等有機溶剤関係業界に対し、シンナー等の保管管理・販売等に関して、乱用防止についての協力の要請を行う。
ウ シンナー等有機溶剤の乱用に対する規制を強化するため、毒物及び劇物取締法の罰則の見直しを行うとともに、同法施行令による乱用規制対象物の合理的な拡大を検討する。
二 いわゆる通り魔事件に対する捜査の徹底と厳正な処分
ア 事件発生の際には、初動捜査を一層徹底し、犯人の早期検挙に努めるとともに、被害が軽微な事件であつても、この種事件については検挙を徹底することによつて連続犯行の防止、被害の抑止を図る。
イ この種事件については、犯罪事実はもとより犯行の動機、原因及び犯人の特性等についても捜査を徹底して真相を究明した上、厳正な処分の実現を図り、事件の再発防止に努める。
第三 覚せい剤乱用者等に対する徹底した措置等
一 関係機関相互の連絡の緊密化、不審者の発見の励行等による乱用者等に関しての実態のは握の徹底
ア 警察官等は、職務を通じて不審者の発見に努める。警察官、検察官、矯正施設の長及び保護観察所長は、精神衛生法等に定める場合の同法による通報を励行する。
イ 精神衛生法等による通報に基づく措置について関係機関との緊密な連携を図る。
二 矯正施設収容中の覚せい剤中毒者等に対する処遇方策の充実強化
ア 矯正施設収容中の覚せい剤中毒者等に対しての覚せい剤等乱用の弊害等についての教育及び指導を強化するとともに、覚せい剤中毒者等に対する医療の充実を図る。
イ 覚せい剤中毒者等に対する教育、指導等の技法の研究に努める。
三 保護観察中の覚せい剤中毒者等に対する保護観察の充実強化
ア 覚せい剤事犯対象者については、保護観察官の直接処遇を強化するとともに、保護観察官と保護司との処遇協議等両者の連携を一層緊密にして効果的な処遇に努める。
イ 覚せい剤事犯対象者に対する指導監督及び補導援護を強化するとともに、成績不良者については、刑の執行猶予取消申出等の措置の適正な実施を図る。
ウ 保護司の覚せい剤に関する知識の向上と事犯対象者の処遇技術の充実を図るため、必要な教材、資料等を作成、活用して、指導訓練の強化を図る。
エ 覚せい剤事犯対象者、特にそのうちの若年対象者に対する新しい処遇方法の開発を行い、その実施を図る。
オ 覚せい剤事犯対象者に対する処遇活動を強化するため、全国保護観察所観察課長会同を開催し、必要な指示及び協議を行い、趣旨の徹底を図る。
四 覚せい剤中毒者等に対する医療保護の充実
ア 覚せい剤中毒者等に関する精神衛生法に基づく通報制度の周知徹底、都道府県職員及び精神衛生鑑定医に対する措置要件の徹底、的確な鑑定事務の励行、適正な措置解除等により、措置入院制度の適正な運用を図るとともに、入院医療体制の充実を図る。
イ 特に覚せい剤中毒者に対しては、退院後の通院医療、カウンセリング体制、訪問指導等の充実強化によつて、地域精神衛生活動の拡充を図る。
ウ 覚せい剤の薬理作用、中毒者に対する医療等の問題について、研究を推進する。
五 相談体制の強化
ア 警察本部の覚せい剤相談電話の増設、警察本部、麻薬取締官事務所、精神衛生センター、保健所等における相談窓口の設置など覚せい剤相談体制の充実とその一般への周知徹底に努める。
六 保安処分(刑事治療処分)の新設
覚せい剤中毒などによる精神の障害のため殺人等の重大な犯罪を行つた者で同様の再犯のおそれがあるものに対しては、刑事裁判により、必要な治療を施しつつその者の更生と社会の安全を確保する保安処分(刑事治療処分)制度が有効な方策であることにかんがみ、その要件等に関し法務省において関係機関と協議を進め、刑法全面改正の一環として同制度の実現を図る。
第四 薬物乱用対策推進本部の拡充強化等
(一) 薬物乱用対策推進本部の拡充強化を図る。
(二) 覚せい剤等取締関係情報の交換、対策の協議等薬物乱用取締機関相互間の緊密な連携を図るため、薬物乱用対策推進本部に取締対策協議部会を設置し、定期的(必要によつて適時)に協議を行う。
(三) 薬物乱用対策推進地方本部においても、当本部の決定に倣つて乱用防止対策について協議検討を行い、速やかに実施を行うよう要請する。このため、薬物乱用対策推進地方本部全国会議を開催する。