添付一覧
○精神保健法の一部を改正する法律の施行について
(平成七年六月一六日)
(発健医第一九〇号)
(各都道府県知事あて厚生事務次官通知)
「精神保健法の一部を改正する法律」は、平成七年五月一九日法律第九四号をもって公布されたところであるが、今回の改正の基本的な考え方及び主な内容等は、左記のとおりであるので、十分に御了知の上、改正の趣旨を踏まえ、貴管下市町村を含め関係者、関係団体に対し、その周知徹底を図るとともに、適正な指導を行い、その実施に遺憾なきを期されたく、命により通知する。
記
第一 改正の趣旨等
精神障害者施策については、昭和二五年制定の精神衛生法を、昭和六二年に「精神保健法」に改正し、精神障害者の人権に配意した適正な精神医療の確保や、精神障害者の社会復帰の促進を図るための所要の措置を講じ、また、平成五年には、その趣旨を更に推進する法律改正を行うなど、その推進に努めてきたところである。
一方、平成五年一二月には障害者基本法が成立し、精神障害者が、身体障害者や精神薄弱者と並んで基本法の対象として明確に位置付けられたこと等を踏まえ、精神障害者についても、これまでの保健医療対策に加え、福祉施策を明確に位置付けて積極的に推進していくことが求められている。また、平成六年七月には、地域保健法が成立し、国、都道府県及び市町村の役割分担を始め、地域保健対策の枠組みの見直しが行われており、地域精神保健の施策の一層の充実が求められている。
今回の改正は、こうした状況を踏まえ、法律の題名を「精神保健法」から「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下「精神保健福祉法」という。)に改め、法律の目的等に、精神障害者の自立と社会参加の促進のために必要な援助を行うという福祉施策の理念を加えるものである。また、「保健及び福祉」の章を新たに設けて、精神障害者保健福祉手帳制度を創設し、精神障害についての正しい知識の普及を図るとともに、精神障害者及び家族に対する保健福祉の相談、各種の社会復帰施設や事業等の充実など、今後の福祉施策や地域精神保健施策の推進の前提となる枠組みを確立するものである。貴職におかれては、今回の改正の趣旨を踏まえ、他分野に比べて遅れがみられるこの分野の施策について、一層積極的な推進に努められたい。
また、今回の改正は、あわせて、昭和六二年改正の趣旨を一層進め、精神保健指定医制度の充実など、適正な精神医療の確保を図るための所要の措置を講ずるとともに、精神医療の公費負担制度について、医療保険制度の充実や、精神医療を取り巻く諸状況の変化を踏まえ、これまでの公費優先の仕組みを保険優先の仕組みに改めることを内容としており、その適正な運用に努められたい。
第二 精神障害者の保健福祉対策の充実に関する事項
一 法律の題名及び総則等に関する事項
(一) 法律の題名の変更
「精神保健法」から、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に改めたこと。
(二) 法律の目的規定の充実
これまでの「精神障害者等の医療及び保護」、「その社会復帰の促進」及び「国民の精神的健康の保持及び増進」に加え、「精神障害者等の自立と社会経済活動への参加の促進のための必要な援助」という福祉の目的を位置付けたこと。
(三) 責務規定の充実
国及び地方公共団体の義務、国民の義務、施設の設置者等の責務に、「精神障害者等の自立と社会経済活動への参加の促進」を位置付けたこと。
(四) 法律の章構成の充実
新たに「保健及び福祉」の章を設け、これまでの「医療及び保護」の章と併せて、二本の柱からなる法体系に改めたこと。
二 精神保健センター、地方精神保健審議会及び精神保健相談員に関する事項
(一) 精神保健センターの名称の変更及び業務の拡充
精神保健センターを「精神保健福祉センター」に改称し、精神障害者の福祉に関する知識の普及、調査研究及び相談指導の業務を加えたこと。
(二) 地方精神保健審議会の名称の変更及び業務の拡充
地方精神保健審議会を「地方精神保健福祉審議会」に改称し、精神障害者の福祉に関する事項及び精神障害者保健福祉手帳の申請に関する事項を審議事項に加えるとともに、委員及び臨時委員の要件に、精神障害者の福祉に関し学識経験のある者等を加え、委員の定数の上限を一五人以内から二〇人以内に引き上げたこと。
(三) 精神保健相談員の名称の変更及び業務の拡充
精神保健に関する業務に従事する職員(精神保健相談員)を「精神保健福祉相談員」に改称し、新たに精神障害者の福祉に関する相談及び指導を業務に加え、知識及び経験の要件に精神障害者の福祉に関することを明記するとともに、保健所のみならず精神保健福祉センターにも置くものとしたこと。
三 精神障害者保健福祉手帳に関する事項
(一) 精神障害者保健福祉手帳の交付
精神障害者は、その居住地の都道府県知事に精神障害者保健福祉手帳の交付を申請することができ、都道府県知事は、申請者が政令で定める精神障害の状態にあると認めたときは、精神障害者保健福祉手帳を交付しなければならないこととしたこと。
この制度は、これまで、身体障害者については身体障害者手帳が、精神薄弱者については療育手帳が制度化されており、関係各方面の協力により様々な福祉的な配慮が行われていることにかんがみ、精神障害者についても手帳制度を設け、各種の支援策を推進し、もって精神障害者の社会復帰及び自立並びに社会参加の促進を図ることとしたものであり、今後、関係各方面と協力の上、その積極的な活用に努められたいこと。
(二) 手帳交付の手続等
都道府県知事は、手帳の交付の決定に際し、申請者が精神障害を支給事由とする年金給付を受けているときを除き、地方精神保健福祉審議会の意見を聴かなければならないこととしたこと。
また、手帳の交付を受けた者は、二年ごとに、その精神障害の状態について都道府県知事の認定を受けなければならないこととしたこと。
手帳の交付を受けた者は、政令で定める精神障害の状態でなくなったときは、速やかに手帳を返還しなければならないこととしたほか、手帳は譲渡し、又は貸与してはならないこととしたこと。
四 地域精神保健福祉施策に関する事項
(一) 正しい知識の普及に関する事項
都道府県及び市町村は、精神障害についての正しい知識の普及のための広報活動等を通じて、精神障害者の社会復帰及びその自立と社会経済活動への参加に対する地域住民の関心と理解を深めるように努めなければならないこととしたこと。
(二) 相談指導等に関する事項
① 都道府県、保健所を設置する市又は特別区は、必要に応じて、精神保健福祉相談員その他の職員又は医師をして、精神保健及び精神障害者の福祉に関し、精神障害者及びその家族等からの相談に応じさせ、及びこれらの者を指導させなければならないこととしたこと。
② 都道府県等は、医療を必要とする精神障害者に対し、必要に応じて、その精神障害の状態に応じた適切な医療施設を紹介しなければならないこととしたこと。
③ 精神保健福祉センター及び保健所は、精神障害者の福祉に関する相談及び指導を行うに当たっては、福祉事務所その他の関係行政機関との連携を図るように努めなければならないこととしたこと。
④ 市町村は、都道府県が行う事務に必要な協力をするとともに、必要に応じて、精神障害者及びその家族等からの相談に応じ、及びこれらの者を指導するように努めなければならないこととしたこと。
⑤ 保健所長は、精神障害者保健福祉手帳を受けた者から求めがあったときは、精神障害者社会復帰施設並びに精神障害者地域生活援助事業及び精神障害者社会適応訓練事業の利用について相談に応じ、並びに斡旋及び調整を行うものとし、精神障害者社会復帰施設の設置者及びこれらの事業を行う者は、これに対して協力しなければならないこととしたこと。
五 精神障害者社会復帰施設に関する事項
精神障害者社会福祉施設の目的として、これまでの社会復帰の促進に加え、精神障害者の自立と社会参加の促進を位置付けたこと。
また、これまで精神障害者生活訓練施設又は精神障害者授産施設の一類型として整備されてきた精神障害者福祉ホーム(現に住居を求めている精神障害者に対し、低額な料金で、居室その他の設備を利用させるとともに、日常生活に必要な便宜を供与することにより、その者の社会復帰の促進及び自立の促進を図ることを目的とする施設)及び精神障害者福祉工場(通常の事業所に雇用されることが困難な精神障害者を雇用し及び社会生活への適応のために必要な指導を行うことにより、その者の社会復帰の促進及び社会経済活動への参加の促進を図ることを目的とする施設)についても、法律上に明記したこと。
六 精神障害者社会適応訓練事業に関する事項
都道府県は、精神障害者の社会復帰の促進及び社会経済活動への参加の促進を図るため、精神障害者社会適応訓練事業(通常の事業所に雇用されることが困難な精神障害者を、精神障害者の社会経済活動への参加の促進に熱意のある者に委託して、職業を与えるとともに、社会生活への適応のために必要な訓練を行う事業)を行うことができることとしたこと。
なお、これは、これまで予算上の事業として行ってきた通院患者リハビリテーション事業を法定化したものであること。
第三 適正な精神医療の確保等に関する事項
一 精神保健指定医に関する事項
(一) 指定医の研修制度に関する事項
指定医は、五年度ごとの研修を受けなかった場合には、当該研修を受けなかったことについてやむを得ない理由が存すると厚生大臣が認めたときを除き、指定医の指定は効力を失うものとしたこと。
(二) 精神病院の常勤の指定医の必置に関する事項
措置入院、緊急措置入院、医療保護入院、応急入院又は仮入院を行う精神病院(任意入院のみを行う精神病院を除く。)には、厚生省令で定めるところにより、常時勤務する指定医を置かなければならないものとしたこと。
二 指定病院に関する事項
指定病院について、厚生大臣が定める基準に適合するものを指定する旨を法律上規定し、指定病院がその基準に適合しなくなったときは、その指定を取り消すことができるものとしたこと。
三 通院医療に関する事項
法律上の名称を「一般患者に対する医療」から「通院医療」に改めるとともに、通院公費負担医療の認定の有効期間を六カ月から二年に延長したこと。
また、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者については、通院医療の公費負担の申請に当たっては、医師の診断書の提出及び地方精神保健福祉審議会における判定を要しないものとしたこと。
四 医療保護入院に関する事項
医療保護入院の際の告知義務について、精神障害者の症状に照らして告知を延期できる旨の例外規定に、四週間の期間制限を設けることとしたこと。
五 用語の適正化に関する事項
精神病院への「収容」の用語を「入院」に改めたこと。
第四 精神医療に要する費用の負担に関する事項
一 措置入院に要する費用の公費負担に関する事項
措置入院に要する費用については、引き続き公費負担とするとともに、その精神障害者が、医療保険各法又は老人保健法の規定により医療に関する給付を受けることができる者であるときは、都道府県は、その限度において負担することを要しないものとし、いわゆる公費優先の仕組みから保険優先の仕組みに改めたこと。
二 通院医療に要する費用の公費負担に関する事項
精神科の通院医療に要する費用については、都道府県は、その一〇〇分の九五に相当する額を負担することができるものとするとともに、その精神障害者が、医療保険各法又は老人保健法の規定により医療に関する給付を受けることができる者であるときは、都道府県は、その限度において負担することを要しないものとし、いわゆる公費優先の仕組みから保険優先の仕組みに改めたこと。
第五 その他
一 施行期日等
この法律は、平成七年七月一日から施行するものとしたこと。ただし、第三の一に関する事項については平成八年四月一日から施行するものとしたこと。
また、この法律の施行に関し必要な経過措置を定めるとともに、関係法律について所要の規定の整備を行うこととしたこと。
二 麻薬及び向精神薬取締法の改正に関する事項
麻薬及び向精神薬取締法の麻薬中毒者を精神病院に措置入院させる制度についても、第四の一に準じた改正を行い、いわゆる公費優先の仕組みから保険優先の仕組みに改めたこと。
三 その他
精神保健福祉法の施行に当たっては、別途通知するものを除き、精神保健法(あるいは昭和六二年改正前の精神衛生法)の施行に関してこれまで発出し、なおその効力を有する通知によられたいこと。この場合において、法律の名称等については、必要に応じて読み替えるものであること。