○精神衛生法等の一部を改正する法律による改正後の精神保健法の運用上の留意事項について
(昭和六三年五月一三日)
(健医精発第一六号)
(各都道府県精神保健担当部(局)長あて厚生省保健医療局精神保健課長通知)
精神衛生法等の一部を改正する法律(昭和六二年法律第九八号)の施行については、昭和六三年四月六日付け厚生省発健医第一〇八号をもって厚生事務次官及び同日付け健医発第四三三号をもって厚生省保健医療局長よりそれぞれ通知されており、また、精神衛生法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(昭和六三年政令第八八号)により同法の施行期日が昭和六三年七月一日と定められたところであるが、同法による改正後の精神保健法(昭和二五年法律第一二三号)(以下「法」という。)の運用に当たっては特に左記に掲げる事項に十分留意の上、関係制度の円滑、適正な実施につき遺憾なきを期されるとともに、貴管下市町村を含め関係者、関係団体に対する周知方につき配慮されたい。
なお、厚生省保健医療局長より、本日付け健医発第五七五号をもって、精神衛生法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係通知の見直しが行われたものであるので併せて十分留意の上制度の運用にあたられたい。
記
第一 削除
第二 精神医療審査会に関する事項
(1) 精神医療審査会(以下「審査会」という。)の運営については、平成一二年三月二八日付障第二〇九号厚生省大臣官房障害保健福祉部長通知「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第一二条に規定する精神医療審査会について」によって示されている事項に十分配慮して、その適正な運営を図るものであること。
(2) 特に、審査を行う合議体については各都道府県の審査事務量に応じ適正な数を設けるとともに、委員については一部委員の欠席等により合議体の運営に支障が生じないよう余裕をもった任命を行うなど、円滑な審査が行われるよう十分配慮すること。
(3) 合議体の審査の場における意見の陳述が、患者の代理人たる弁護士によって行われる場合においては、当該弁護士に対して、その氏名、所属弁護士会名及び代理する患者の氏名が明らかである書面並びに弁護士バッジにより確認を求め、退院等の請求の審査が適正に行われるよう十分留意すること。
(4) 審査会から措置入院患者につきその入院が必要でない旨の審査結果が通知された場合には、都道府県知事は、法第三八条の三第四項及び法第三八条の五第五項の規定に基づき当該患者に係る入院措置を解除しなければならないが、この場合においては、法第二九条の四第二項の規定にかかわらず、改めてその指定する指定医の診察を要しないものであること。
(5) 審査会は、当該都道府県内の精神病院(精神病院以外の病院で精神病室が設けられているものを含む。以下同じ。)に入院している患者に係る退院等の請求、入院時の届出及び定期の報告を取り扱うものであること。したがって、他の都道府県知事の措置により入院している措置入院者について、措置入院の継続が必要とは認められない旨の審査の結果が出された場合には、その通知を受けた都道府県知事は、当該審査結果を入院措置を行っている都道府県知事に連絡するものであること。また、連絡を受けた都道府県知事は、法第二九条の四の規定に基づき、当該患者に係る入院措置を解除するものであること。
第三 精神保健指定医に関する事項
1 精神保健指定医の指定要件たる精神科実務経験について
(1) 法第一八条第一項第二号に規定されている「精神障害の診断又は治療に従事した経験」(以下「精神科実務経験」という。)については、今回新設された精神保健指定医制度の趣旨にかんがみ、自ら精神障害者の診断又は治療に当たるなかで、患者の人権や個人としての尊厳に配慮した精神医学的経験を有することを精神保健指定医(以下「指定医」という。)の指定要件とすることとしたものであり、その期間については三年以上とされていること。
(2) 精神科実務経験は、精神科又は神経科を標榜している医療機関において行った精神障害者の診断又は治療(デイ・ケアを含む。)をいうものであること。
ただし、当分の間、精神科の診療に相当の経験を有する医師の配置が法律等により定められている施設において常勤の医師として行った診断又は治療についても、これに含まれるものであること。なお、この施設について問合わせ等があった場合には、本職と十分調整されたいこと。
(3) 精神科実務経験の期間については、以下に示した算定方法により算定するものとすること。
ア 精神科実務経験の期間については、一週間に四日以上精神障害者の診断又は治療に当たっている期間を算定対象とするものとすること。
イ アにいう「四日以上」の算定は、外来又は病棟において、精神障害者の診断又は治療に一日おおむね八時間以上当たった日について行うものであること。
なお、診断又は治療に関して通常行われる症例検討会、抄読会等への参加は、これに算入できるものであること。
ウ 精神保健福祉センター、保健所におけるデイ・ケアに従事した時間及び期間については、これに算入できるものであること。また、これらの機関で嘱託医として精神障害者に対する相談業務に従事した時間についても、これに含まれるものであること。
エ 夜間当直のみをする時間及び期間については、精神科実務経験として算定できないものであること。
オ 動物実験等に携わる時間及び期間は、精神科実務経験として算定できないものであること。
カ 精神医学を専攻する大学院生にあっては、副科目及び選択科目の履修や研究のために、精神障害者の診断又は治療を行わない時間及び期間が生じるが、この時間及び期間は、精神科実務経験として算定できないものであること。
キ 外国留学等外国において精神障害者の診断又は治療に当たった場合においては、この時間及び期間は、精神科実務経験に算入できるものであること。
2 指定医の指定申請時に提出するケースレポートについて
(1) 法第一八条第一項第三号及び同号に基づく厚生省告示(昭和六三年四月厚生省告示第一二四号)(以下「精神科実務経験告示」という。)に規定する「診断又は治療に従事した経験」については、指定医の指定申請時に提出するいわゆるケースレポートにより、指定医として必要とされる法的、医学的知識及び技術を有しているかについて確認するものとすること。このケースレポートについては、(2)に定める事項に従い記載し、指定医申請書に添付して、申請するものとすること。
なお、精神科実務経験告示は、指定医としての指定要件として必要最小限の症例数を定めたものであり、指定医の指定を受けようとする者は、三年間の精神科実務経験の中においては任意入院者を含めてこれ以上の症例を積極的に取り扱うことが望ましいものであること。
(2) ケースレポートの対象となる患者については、以下によるものとすること。
ア 精神科実務経験告示に定める八例以上の症例については、精神病床を有する医療機関において、当該医療機関に常時勤務する指定医(以下「指導医」という。)の指導のもとに自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例について報告するものであり、少なくとも一週間に四日以上、当該患者について診療に従事したものでなければならない。
イ 原則として、当該患者の入院から退院までの期間、継続して診療に従事した症例についてケースレポートを提出するものとすること。
注1 入院形態の変更は、変更前の入院形態については退院と、変更後の入院形態については入院とみなすものとする。
注2 同一の入院形態のままの転院は退院とみなさないものとする。(「中毒性精神障害」及び「症状性又は器質性精神障害」については、オを参照すること。)
ウ 入院が長期にわたる場合は、入院から三ヶ月以上継続して当該診療に従事した症例、既に入院している患者については新たに担当として診療に従事して退院まで引き続き当該診療に従事し、その期間が三ヶ月以上である場合において、それぞれケースレポートの対象とすることができるものとすること。
エ 医療保護入院若しくは措置入院(以下「医療保護入院等」という。)の途中から担当し、任意入院に入院形態が変更された後も退院まで引き続き診療に従事した症例については、当該医療保護入院等の担当開始から入院形態の変更までの期間が一ヶ月を経過し、さらに任意入院の期間を足して三ヶ月以上になる場合において、ケースレポートの対象とすることができるものとすること。
また、措置入院の途中から担当し、医療保護入院に入院形態が変更された後も退院まで引き続き診療に従事した症例についても、当該措置入院の担当開始から入院形態の変更までの期間が一ヶ月を経過し、さらに医療保護入院の期間を足して三ヶ月以上になる場合において、措置入院の症例としてケースレポートの対象とすることができるものとすること。
オ 「中毒性精神障害」及び「症状性又は器質性精神障害」については、イの注2の規定に関わらず、入院から三ヶ月以内に同一の入院形態のまま転院した症例であっても、ケースレポートの対象とすることができるものとすること。
カ イからオについては、別紙「ケースレポートの対象となる診療期間の条件」を参照すること。
キ 同一症例について、同時に複数の医師がケースレポートを作成することは認められないものであること。
ク 指定医の申請時から六年以前に診療に従事した症例についてケースレポートを作成することは認められないものであること。ただし申請時から六年以前に診療に従事した症例であっても、申請時から六年前以降退院まで引き続き当該診療に従事し、その期間が三ヶ月以上ある症例については、ケースレポートの対象とすることができるものであること。
3 指導医について
(1) 指導医は以下の役割を担うものとすること。
ア ケースレポートに係る症例の診断又は治療について申請者を指導すること。
イ ケースレポートの作成に当たり、申請者への適切な指導及びケースレポートの内容の確認を行い、指導の証明を行うこと。
(2) その他
ア 診療期間の途中で指導医が交代した場合、当該ケースレポートに係る全ての指導医の氏名と指導期間をケースレポートの別添様式3の10の(1)に記載すること。
イ その場合、原則として、最終的に指導した指導医が当該ケースレポートの内容について確認を行い、指導の証明を行うこと。
4 指定医の指定に係るその他の事項について
(1) 指定医の指定申請を行おうとする者は、別添様式1に定める精神保健指定医指定申請書に、次に定める書面(写真を含む。)を添付して、住所地の都道府県知事を経由して、地方厚生局長に提出するものであること。
① 履歴書
② 医師免許証の写し
③ 五年以上診断又は治療に従事したことを証する施設管理者による実務経験証明書(別添様式2)(大学院生又は文部科学教官については、学長又は学部長の証明によるものとする。④において同じ。)
ただし、大学院に籍を置き、研修等のため他の施設で診断又は治療に従事した場合は、当該施設の管理者の証明でも認めることとする。
④ 三年以上の精神科実務経験を有することを証する施設管理者による実務経験証明書(別添様式2)
⑤ 精神科実務経験告示に定める程度の診断又は治療に従事した経験を有することを証するケースレポート(文字数(数字、アルファベット、カッコ、句読点は字数に含め、空白は字数に含めない。)は一二〇〇字以上二〇〇〇字以下とし、原則としてワードプロセッサーで作成すること。また、別添様式3により四通提出すること。)
⑥ 法第一八条第一項第四号に規定する研修の課程を修了したことを証する書面の写し
⑦ 写真(縦五〇ミリメートル、横四〇ミリメートルとし、申請六ヶ月以内に上半身脱帽で撮影されたもの。なお、裏面に撮影年月日及び氏名を記載しておくこと。)
⑧ ⑥が交付された後に氏名が変更された場合は、本人であることを証明する書類(戸籍抄本等)の写し
(2) 法第19条第2項の規定により指定の効力が失効した日から起算して1年を超えない期間に指定医の指定に係る申請を行おうとする者は、(1)にかかわらず、別添様式1―2に定める精神保健指定医指定申請書(失効後一年未満)に、(1)①、②、⑥、⑦、⑧に定める書面(写真を含む。)及び失効した指定医証(失効した日から1年を超えないものに限る。)を添付して、住所地の都道府県知事を経由して、地方厚生局長に提出するものであること。
(3) 指定医の指定は、医道審議会医師分科会精神保健指定医資格審査部会の意見を求め、その結果に基づいて行うこととされているが、申請者から提出されたケースレポートの内容が十分ではなく、精神科実務経験告示に定める「診断又は治療に従事した経験」を満たしているか否かについて適正な審査が行えない旨の意見が医道審議会医師分科会精神保健指定医資格審査部会から示された場合においては、当該「診断又は治療に従事した経験」のうち具体的な症例(例えば児童・思春期精神障害に係る症例)について、申請者自らが担当した他の症例のケースレポートの提出を求めることがあること。
5 研修について
法第一八条第一項第四号及び第一九条に規定する研修については、厚生労働大臣が指定するものが行うこととしていること。
6 指定後における事務取扱いについて
(1) 指定医に対して精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則(昭和二五年厚生省令第三一号)第七条に規定する精神保健指定医の身分を示す証票(以下「指定医証」という。)を交付した都道府県知事は、受領書を受けるなど交付した旨が明らかになるようにしておくこと。また、都道府県知事は、医療機関の管理者に対して、各年度当初に当該医療機関に勤務する指定医の指定医証の有効期限について確認をするよう促すこと。さらに、都道府県知事は、指定医の公務員としての職務行為に係る行政処分を行う立場にあることを踏まえ、公務員としての職務を行う可能性のある指定医について、各年度当初に指定医証の有効期限を確認するよう努めること。なお、都道府県知事が受領書を受けた場合においても、これを厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長に対して提出することは必要がないこと。
(2) 指定医は自らの責任のもと指定医証を管理することとし、指定医の有効期限についても十分注意すること。なお、指定医の有効期限が切れた後(4(2)に規定する申請を行い、再度指定医として指定されるまでの間を含む。)、指定医であるものとして行った職務は取り消しうるものとなること。
(3) 指定医は措置入院を行うに当たっての判断や行動制限など、私人に対する権限の行使にたずさわる立場にあることを踏まえ、精神科病院等においてその職務を行う際には常時、指定医証を提示できる状態にしておくよう努めること。
(4) 指定医は、指定医証の記載事項に変更のあるときは、指定医証を添えてその旨を都道府県知事を経由して地方厚生局長に届け出るものとすること。
(5) 指定医は、指定医証を紛失し又はき損したときは、その旨(き損のときは指定医証を添付)を都道府県知事を経由して地方厚生局長に届け出るものとすること。
(6) 指定医は、指定医の指定を取り消されたときは、速やかに指定医証を都道府県知事を経由して地方厚生局長に返納するものとすること。
別紙「ケースレポートの対象となる診療期間の条件」
○いずれの場合においても、担当医として診断や治療等への関わりが十分認められることが必要である。
1 基本的条件
2 入院形態の変更が関わる場合
(1) 医療保護入院(措置入院)から任意入院の場合
(2) 措置入院から医療保護入院の場合
3 転院が関わる場合(入院形態を変更した場合を除く)
(1) 同一の入院形態のままの入院
(2) 中毒性精神障害、症状性及び器質性障害の場合は、次の事例についても対象
第四及び第五 削除
第六 行動の制限その他の入院患者に係る処遇について
1 精神病院入院患者の処遇については、これまでも昭和六〇年一〇月一九日付け健医発第一、二六〇号厚生省保健医療局長通知「精神病院入院患者の通信・面会に関するガイドラインについて」により、その適正が図られるよう管下の精神病院の指導に当たられているところであるが、今般、法第三六条及び第三七条並びにこれらの規定に基づき定められた昭和六三年四月厚生省告示第一二八号、同第一二九号及び同第一三〇号により行動の制限その他の処遇について定められたところであるので、今回の法律改正の趣旨を十分に踏まえ、今後とも関係機関及び関係団体に対し適切に指導を行なわれたいものであること。
2 昭和六三年四月厚生省告示第一二八号第三号に規定する「患者の代理人となろうとする弁護士」が患者との面会を求める場合においては、当該弁護士は、その氏名及び所属弁護士会名、代理人になろうとする患者の氏名、並びに患者本人又は保護義務者の依頼を受けて代理人になろうとするための面会である旨を書面をもって明らかにしなければならないものであること。ただし、どのような方法により依頼を受けたか(依頼ルート、依頼書類等)については明らかにする必要はないこと。
第七 その他の事項
これまでの本職通知のうち、「精神衛生」、「精神衛生法」「精神衛生センター」、「地方精神衛生審議会」、「精神衛生鑑定医」及び「精神衛生相談員」とあるのは、本年七月一日をもって、「精神保健」、「精神保健法」、「精神保健センター」、「地方精神保健審議会」、「精神保健指定医」及び「精神保健相談員」とそれぞれ読み替えるものであること。
(別添)
様式1
様式2
様式3