添付一覧
○精神衛生法の一部を改正する法律の施行について
(昭和四〇年八月二五日)
(発衛第一八四号)
(各都道府県知事あて厚生事務次官通達)
「精神衛生法の一部を改正する法律」は、昭和四○年六月三○日法律第一三九号をもつて公布され、一部を除き即日施行された。また、これに伴う「精神衛生法施行令の一部を改正する政令」は、昭和四○年六月三○日政令第二三○号をもつて、「精神衛生法施行規則の一部を改正する省令」は、昭和四○年六月三○日厚生省令第三六号をもつてそれぞれ公布され即日施行された。
今回の法改正は、都道府県に精神衛生センターを設け、精神障害者に関する申請通報制度の整備を図り、精神障害者の通院医療費の公費負担制度を新設する等の改正を行なつたものであり、その運用について特に左記事項に留意の上遺憾のないよう配慮願いたく、命によつて通知する。
なお、この通知においては、「精神衛生法」を「法」、「精神衛生法施行令」を「令」と、「精神衛生法施行規則」を「則」とそれぞれ略称する。
おつて、昭和四○年一○月一日施行予定の通院医療公費負担制度に関する令及び則の改正については、今後改正のあり次第別途通知する予定である。
記
第一 都道府県の精神病院等の設置等に係る厚生大臣の承認制度の廃止
一 従前次の各号に掲げる場合には、厚生大臣の承認を必要としたのであるが、今回許認可事務簡素化の趣旨から、この承認制度を廃止したものであること。
ア 都道府県が精神病院を設置し、廃止し、又はその施設を増築し、若しくは改築しようとする場合(法第四条)
イ 都道府県が指定病院を指定しようとする場合(法第五条)
二 都道府県知事が指定病院の指定をする際の指定基準については、別途公衆衛生局長通知をもつて示す予定であること。
第二 精神衛生センターの設置
一 従前は、都道府県又は政令市が精神衛生相談所を任意に設置することができることとされていたのを改め、都道府県に限り、精神衛生センターを任意に設置することができることとしたこと(法第七条)。
二 精神衛生センターは、都道府県における精神衛生に関する総合的技術センターたる性格を有する施設であつて、その担当すべき業務は、第一に一般社会に対してはもちろん、精神障害者対策に関連のある民生部及び警察、検察学校衛生、産業衛生関係者等に対して知識の普及を図り、第二に精神衛生施策の実施に関して必要な精神障害者の実態、その医療保護、特に訪問指導についての技術的方法等に関する調査研究を行ない、第三に精神障害者等に関する相談及び訪問指導業務を衛生行政の第一線機関たる保健所の業務としたことに伴い(第九参照)保健所で取扱つたケースのうち複雑困難なものについて保健所に対して技術的援助を行なうものであること、従つて、精神衛生センターは、直接一次的な訪問指導等は行なわないものであること。
三 改正前の法第七条の規定に基づいて設置されていた精神衛生相談所については、改正法施行と同時に精神衛生法上設置する根拠のない任意施設となるものであること。
従つて、従前保健所に併設されており、十分な活動実績をもたない程度のものについて、これを直ちに精神衛生センターとすることは厳に避け、別途すみやかに独立の施設たる精神衛生センターの整備計画を樹立する等の措置を講ずべきものであること。
四 精神衛生センターに関する運営の細目については別途公衆衛生局長通知をもつて指示する予定であること。
第三 地方精神衛生審議会の設置
一 新たに都道府県に精神衛生に関する事項を調査審議させるための地方精神衛生審議会を設け、都道府県知事の諮問に答えるほか、精神衛生に関する事項に関して都道府県に意見を具申することができることとしたこと(法第一六条の二)。
二 地方精神衛生審議会の委員は、法により一○人以内とされているが、精神医学に関し学識経験のある医師、一般学識経験者、人権擁護関係行政機関の職員、裁判官、精神衛生行政機関の職員等のうちから適宜任命すべきものであること。
三 地方精神衛生審議会を設けることとなつたことに伴い、従前の精神衛生審議会を中央精神衛生審議会と改称することとしたこと(法第一三条)。
第四 精神障害者に関する申請通報制度の改正
一 従前、警察官が精神障害者を通報するのは、改正前の法第二四条に規定する警察官職務執行法第三条に基づく保護を行なつた場合に限られていたが、警察官は、職務質問、捜査、逮捕その他職務執行中に通報を要すべき精神障害者を発見することもあるので、これにつき通報範囲の拡大を行なつたものであること(法第二四条)。
二 検察官についても、警察官と同様の趣旨から通報範囲を拡大し、不起訴処分前又は裁判確定前であつても、特に必要があると認めたときは、精神障害者又はその疑いのある被疑者又は被告人について通報することとしたこと(法第二五条)。
三 保護観察に付されている者のうちには、精神障害者で通報を必要とする者も多いので、保護観察所の長にも通報義務を課することとしたこと(法第二五条の二)。
四 法第二九条その他の規定による都道府県知事の権限による措置入院以外の入院(同意入院又は自由入院)においては、保護義務者による入院に関する同意の撤回又は本人からの退院の申出があれば、法的にこれを拘束できない建前であるが公安上の見地から、新たに精神病院の管理者に対し、措置症状に該当する状態にある入院患者から退院の申出があつたときには、直ちにその旨をもよりの保健所長を経て都道府県知事に届け出る義務を課することとしたこと(法第二六条の二)。
五 以上の改正に伴い、従前よりも申請通報等が増加することが予想されるので、従来以上にその受理体制の整備及び精神衛生鑑定義務の迅速かつ円滑な実施体制の確立に努力されたいこと。
第五 緊急措置入院制度の新設
一 緊急措置入院制度は、自傷他害のおそれの著しい精神障害者の特殊な事情にかんがみ、今回新たに設けたものであり、その運用に当たつては、特に精神障害者の人権保障に欠けることのないよう、慎重に行なわれたいこと。
二 都道府県知事は、急速を要し、正規の措置入院のための手続をとることができないような症状急激な精神障害者について、精神衛生鑑定医の診察を得た場合には、四八時間を限り、これを緊急に措置入院させることができること(法第二九条の二)。
三 緊急措置入院は、精神衛生鑑定医一名の診察をもつて足りるものであり、通常の措置手続中省略し得る手続は、次に掲げるものであること。
ア 他の一名の精神衛生鑑定医の診察
イ 診察の際の当該吏員の立合い
ウ 家族等に対する診察の通知等
四 緊急措置入院をさせることができる精神障害者は、「直ちに入院をさせなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人を害するおそれが著しいと認め」られる場合に限られるものであり、具体的には、他人を殺傷し、自殺を企図し、自傷の行為に及び、又は著しい程度に暴行を行なう等現実に危険を生ずる状態にあることが要件とされるものであること。
五 緊急措置入院のための精神衛生鑑定は、急速を要するものであるから、都道府県知事は、当該精神衛生鑑定の命令を発する権限をあらかじめ保健所長に委任して置く等の措置を講ずる必要であるものであること。
六 都道府県知事は、緊急措置入院期間中の四八時間のうちに正規の入院措置をとるかどうか決定しなければならないものであるから、精神衛生鑑定医の確保、立会吏員の配置等については、今後一層万全を期すべきものであること。
七 緊急措置入院に要する経費については、通常の措置入院の場合と同様全額公費をもつて支弁することとしたこと(法第三○条)。
第六 入院措置の解除
一 従前は、入院措置の終期については、改正前の法第四○条の規定に基づき精神病院の長からの申請に対し都道府県知事が退院の許可を与える場合以外には明文の規定がなかつたのであるが、今回都道府県知事の行なう措置解除について明定したものであること。
二 都道府県知事は、措置入院者につき措置症状がなくなつたと認められるときは、その措置を解除しなければならないこととしたこと(法第二九条の四)。
三 措置解除の規定は、措置入院者の人権保障の趣旨から設けられたものであり、この趣旨から、都道府県知事の措置解除権の適切な発動を促すため、措置入院者を収容する精神病院の管理者は、措置入院者につき措置症状がなくなつたと認められるときは、直ちに都道府県知事に届け出なければならないこととしたほか、措置入院者又はその保護義務者から措置入院者につき、なお措置症状があるかどうかの調査を求めることができる旨の規定を置いたものであること(法第二九条の五)。
四 他方において、措置入院者を措置解除することは、社会公安上の見地からみれば十分慎重に取り扱うべきものであるから、都道府県知事は、随時措置入院者の症状につき報告を求め、又は精神衛生鑑定医をして措置入院者を診察させることができ、かつ、措置解除を行なう際は、当該病院の管理者の意見を聞かなければならないこととしたものであること(法第二九条の四及び第二九条の五)。
五 従前の精神衛生診査医制度は、昭和三六年から措置制度の適正な運用等を図る目的をもつて実施されてきたものであるが、都道府県知事の行なう措置解除を明定した今回の法改正により、十分所期の目的を達成したので、今回これを廃止するものであること。
なお、措置入院患者に関する症状報告書の徴取は、従前どおり行なうものとし、当該報告書の診査は、別に都道府県知事の指定する精神衛生鑑定医にこれを行なわせることとすること。
第七 精神障害者に対する通院医療費の公費負担制度の創設
一 通院医療費の公費負担制度に関する改正法は、昭和四○年一○月一日から施行されるものであること。
二 新たに、精神障害に関する適正な医療を普及するため、精神障害者の通院医療費の二分の一の公費負担を行なうこととしたこと(法第三二条)。
三 公費負担医療を担当する医療機関は、法第三二条に定める医療機関であるが、その開設者が診療報酬の請求及び支払に関し、法第三二条の二の規定によらない旨の申出をしたものについては、その限りでないこと。
四 公費負担の対象となる医療費は、精神障害の治療上必要と認められる医療全部に係る費用をいうものであること。
五 公費負担される費用の額の算定並びに審査及び支払の事務の委託については、健康保険の例によることとしたこと。
六 公費負担の申請に関する審議機関として設けられた精神衛生診査協議会の委員については、関係行政の機関の職員のうちから任命される委員以外の委員は、精神医学の専門家をもつてあてることとすること。
七 通院医療費の公費負担に関する手続等の細目については、別途公衆衛生局長通知をもつて指示する予定であること。
第八 無断退去者に対する措置の改正
一 従前、精神病院からの無断退去者のうち自傷他害のおそれのあるものについては、精神病院の長は、警察当局に対し探索を求め得ることとされていたが、今回これを義務制とし、無断退去者の発見に遺漏のないようにしたこと(法第三九条)。
二 病院から探索を求められた警察当局については、発見した者を病院に通知する義務を課すとともに、病院側がその者を引き取るまで、二四時間を限り保護する権限を新たに付与したものであること(法第三九条)。
第九 精神障害者に対する訪問指導制度の改正
一 新たに保健所長に対し精神衛生に関する相談に応じ、又は精神障害者の訪問指導を行なうことを義務づけ、かつ、その対象者に保健所長が必要と認める精神障害者を加えてその徹底を期することとしたこと(法第四三条)。
二 法第四三条に規定する精神障害者であつて相談又は訪問指導を必要と認めるものとは、おおむね次のものを指すものであること。
ア 法第三二条の通院医療費の公費負担を受けている者
イ 通院医療を受けている者(アに該当する者を除く。)又は仮退院中の者であつて、主治医等から訪問指導等の依頼があつたもの
ウ 前記以外の者であつて家族等から訪問指導等の依頼があつたもの
三 新たに、保健所に精神衛生に関する相談及び訪問指導を行なうための職員(以下「精神衛生相談員」という。)を配置したこととしたので、その確保に万全を期せられたいこと(法第四二条)。
四 精神衛生相談員の任用資格については、法第四二条第二項及び令第四条に規定するところであるが、これらの規定中「精神衛生に関する経験」とは、おおむね精神衛生センター(改正前の精神衛生相談所を含む。)、保健所、精神病院等において精神障害者に係る指導、相談、看護等に関して行なつた三月以上の実務経験を指すものであること。
五 令第四条第三号にいう「厚生大臣の指定した講習会」に関する指定基準等については、別途公衆衛生局長通知をもつて示す予定であること。
第一○ 保護拘束制度の廃止
最近における精神衛生施策の進展に伴い、自傷他害のおそれがあると診断された精神障害者については、すべて措置入院制度によつて遺憾なきを期するものであるから、今回保護拘束制度を廃止することとしたものであること。
第一一 精神衛生関係者の守秘義務規定の設置
一 この規定は、公布の日から二○日を経過した日から施行されるものであること。
二 精神衛生鑑定医等については、その性質上職務に関し、人の秘密を知る機会の多いので、これらの者に対し職務の執行等に関して知り得た事項につき守秘義務を課し、かつ、義務違反者に対しては、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処することとしたこと(法第五○条の二)。
第一二 その他の改正事項
一 緊急入院措置制度による場合との均衡上、都道府県知事は、自傷他害のおそれが明らかである者については、その者につき申請通報等がされていなくても精神衛生鑑定医にその者を診察させることができることとしたこと(法第二七条)。
二 自傷他害のおそれのある精神障害者につき入院措置をとるに当たつては、制度の趣旨からみて、患者本人又は関係者の当該措置に対する同意の有無に拘束されるものでないことはいうまでもないので、今回所要の整理を行ない、この点を明確にしたこと(法第二九条)。
三 同意入院又は仮入院患者につき入院を継続する必要があるかどうかに関する都道府県知事の審査権を随時行使することができるようにしたこと(法第三七条)。
四 精神障害者に関する申請通報範囲の拡大に伴い、従前と比較して刑事手続続行中等の者が措置入院する等の事例が増加することが予想されるので、これらの者については刑事事件に関する手続が先行することを明確にしたこと(法第五○条)。
五 措置入院中の者等に対する医療保護と刑事手続等の調整をはかるため、別途関係各省名をもつて取扱いの細目に関して通知を行なう予定であること。
六 従前、法の規定中に用いられていた精神病院の長という用語は不明確であるので、今回すべてこれらを精神病院の管理者に改め、医療法第一○条にいう管理者であることを明確にしたこと。