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○精神衛生法の施行について

(昭和二五年五月一九日)

(発衛第一一八号)

(各都道府県知事あて厚生事務次官通達)

精神衛生法(昭和二五年法律第一二三号)は、五月一日から施行され、これに伴う政令は、五月二三日政令第一五五号、省令は、六月二四日厚生省令第三一号をもつて制定されたのであるが、この法律は、従来精神障害者に対する発病後の事後措置を中心としていた精神病者監護法並びに精神病院法を廃止し、新たに精神衛生の根本理念を明示し、強力に国民の精神的健康の保持向上を図ろうとするものであつて、この法律の運用の適否は、わが国精神衛生事業の成否に影響するところがまことに大きいのであるから、左記事項に留意の上、この法律の趣旨の普及徹底に努めるは勿論更に法律に規定する諸措置をとるに当つては、別紙精神衛生法施行留意事項に周到な注意を払い、以つてこの法律の所期する目的を達成されるよう努められたい。

旧法(精神病者監護法及び精神病院法)との主なる相違点

(一) 精神病院の設置を都道府県の義務としたこと。

従来は主務大臣の命令がある場合だけ都道府県が設置するだけであつたが、この法律で設置を都道府県の義務としたこと。

(二) 精神障害発生の予防、国民の精神的健康の保持向上の理念を大きく取り入れ、それを具体化する手段又は方法である精神衛生相談所や訪問指導の規定等を明示したこと。

(三) 精神障害者拘束の要否を決定するための診断を行う精神衛生鑑定医の制度を設けたこと。

従来は単に医師の診断書だけに基き、精神障害者を拘束したり、又は都道府県の指定医(鑑定医のように特に厳選された専門医ではない)の診断だけに基き、精神障害者を入院させたりしていたのみであつたが、この法律で厚生大臣の指定する鑑定医の制度を設け、強制的な入院、保護拘束及び保護義務者の同意による入院の場合にそれぞれの要否を判定するため二人以上の鑑定医に診断させることにしたこと。

(四) 医療保護の必要が緊迫している精神障害者に医療保護がゆきわたるよう国民の誰でもが知事宛に診察及び必要な保護を申請することができることにしたこと。

(五) 仮入院、仮退院等精神障害者に対する医療として特殊的な措置である仮入院、仮退院の制度を設けたこと。

(六) 私宅監置制度を廃止したこと。

この法律においては、長期拘束を必要とする精神障害者は、精神病院、精神病室その他の法(児童福祉法、監獄法、少年法等)によつて収容することを定められた施設に収容することとし、医療と保護に不適正であつた私宅監置の制度を廃止したこと。

別紙

精神衛生法施行留意事項

第一 一般事項(なお、この通ちよう・・・において、精神衛生法を「法」と、精神衛生法施行令を「令」と、精神衛生法施行規則を「則」と略称する。)

一 この法律は、精神障害者(以下「障害者」という。)の医療、保護、その発生の予防及び国民の精神的健康の保持向上等、精神衛生に関する綜合法規であつて、法第一条に規定する国及び地方公共団体の義務の履行においては勿論、法を施行するに際しての行政庁及び法の適用を受ける国民の上に指導理念として適用されるものであること。

二 この法律は、単に現在発生している障害者のみを対象とするものでなく、積極的に精神障害(以下「障害」という。)の発生の予防及び国民の精神的健康の保持向上を図ることを努めるものであるから、特に後述の精神衛生相談所を積極的に活用すること。

三 この法律は、児童福祉法、医療法、保健所法、麻薬取締法、少年法、刑法、人身保護法、労働基準法等との関係が極めて密接であるから、常に関係機関との連絡を図り、法施行の円滑を期すること。

四 精神病者監護法及び精神病院法並びにこれらに関する命令等は廃止されそれらに規定されていた趣旨の一部をこの法律に吸収されたが、これらの法律による処分は一部この法律による処分とみなされるものもあり、又一部にはこの法律によりその効果を一時延長されたものもあるので、その間の処置につき過誤のないようにすること。

第二 精神障害者

精神医学上いうところの精神に障害のあるものとは、精神病者(中毒性精神病者を含む。)精神薄弱者及び精神病質者の三種であり、この法律の趣旨の一端が、精神に障害のあるものについての医療及び保護の洩れない普及にあることに鑑み、法第三条において右の通りに障害者の範囲を明確に規定したものであるので、法の対象である障害者の解釈については過誤のないようにすること。

第三 精神病院

一 精神病院に関する一般事項

医療法の規定による病院であつて、主として精神障害者を収容する病院を、この法律の条文の中で精神病院と称しているのであるが、精神病院の医療及び保護の内容がはなはだ特殊的であり且つこの法律によつて精神病院の長には一般病院の長にはみられない権限が与えられている事情に鑑み、精神病院は最も特殊な専門化された施設でなければならないので、医療法の規定は、勿論更に加えるに次の条件が守られることが望ましいこと。

(一) 則第一条第一項第七号に示す事項のうち、少くとも保護室、障害者であつて伝染のおそれある結核その他の疾患ある者を隔離する病室、特殊な治療を施した患者のための病室、検査室、不潔患者室及びできれば手術室を有すること。

(二) 病院管理者は、精神医学の専門家であるか、或いは多くの他の診療科を併置する等の理由によりそのことが望まれないときは、少くともその病院内での障害者医療主任者は精神医学の専門家であること。

(三)・(四) 廃止(第一次改正)

(五) 障害者収容定員はなるべく五○人以上であること。

(六) 施設内においては、補助者は勿論免許を有する看護婦(人)に対しても常時精神医学(当然正常心理学及び病的心理学を含む。)について講習指導を行うこと。

(七) 他の診療科を併置しても差し支えないこと。

(但しこの法により国庫の補助を受けることになる施設についての補助は、令第一条に規定するように特別な算定基準のもとになされるので、他の診療科の設置並びに運営については補助は行われないこと。)

(八) 他の診療科を併置しない場合といえども入院中の精神障害者の精神障害以外の疾病の治療についても遺憾のないよう措置すること。

二 都道府県の設置する精神病院

(一) 精神病院の設置は、法第四条の規定により都道府県の義務となつたのであるが、このことは法第二九条の入院及びこの法律の趣旨に基く障害者の適正する医療、保護の普及を図ることを目的とするものであるので、これが設置並びに運営に当つては医療法の規定を遵守するは勿論、一般精神病院の模範となるように努めること。

(二) 都道府県が法第六条の規定により精神病院以外の病院に設置した精神病室については、法第二九条の規定より、都道府県が法第四条の規定により設置する精神病院と同様法第二九条、第三三条、第三四条、第三六条、第三七条、第三八条、第三九条、第四○条及び第四八条の規定の適用を受けるものであるとともに、則第一条、第五条及び第六条の規定が適用されるものであること。

従つてこれらの施設も一に記するように、精神病院としての条件を具備するものであること。

(三) 法第六条に規定する国の補助については、その補助の方法を令第一条に規定してあるが、その年度において精神病院又は精神病室の設置及び運営に要した経費から控除すべき額は、その年度における事業収入及びその年度におけるその他の収入であつて、篤志家による自由なる寄附金は、その他の収入の中に含むものであること。

なお、国の補助は、厚生大臣が内閣総理大臣及び大蔵大臣と協議して定める算定基準に従つて定めるものであるので都道府県は予算の編成にあたつては基準を考慮せられたいこと。

なお、法第八条に規定する相談所についての国の補助も右同様の趣旨と了解すること。

三 指定病院

法第五条に規定する指定病院については、都道府県知事(以下「知事」という。)は、則第二条に規定する申請書を提出し、厚生大臣の指定の承認を得なければならないが、承認を得た後においても、則第六条の規定による指定承認の取消をされることがあるので、当該病院に対し医療法の規定の遵守、法による指定の趣旨の徹底等都道府県の設置する精神病院の場合に準じてこれが指導を行うこと。

第四 精神衛生相談所

一 精神衛生相談所に関する一般的事項

精神衛生相談所(以下「相談所」という。)は、国民の精神的健康の保持向上を図る指導機関としての位置にあるのであるから、その機能の発揮について格別の工夫を加えること。

なお、相談所の基準、職務の内容及び運営の要領等については、別途通達の予定であること。

二 公立相談所

都道府県又は保健所法第一条に基く政令で定める市が設置する相談所(以下「公立相談所」という。)は、とりあえず保健所又は公立精神病院に併置しその普及に努めること。

三 公立相談所以外の相談所

精神衛生指導事業の普及を図るため、公立相談所以外にも、法第九条の規定により相談所設置の途を開いたのであるが、この趣旨に従つて適切な指導を行うこと。

第五 精神衛生鑑定医

(一) 精神衛生鑑定医(以下「鑑定医」という。)は、その任務が人身保護上極めて重要な位置を占めるものであり、且つは鑑定医となり得る資格のある医師が遍在し、又鑑定医の資格が全国的に統一されたレベルでなければならない関係上その指定を行うものを厚生大臣としたものであること。

(二) 鑑定医がこの法律による診察を行うのは、法第二七条、第三七条及び第四三条の規定により行う三つの場合であり、そのいずれも重要であるが、ことに第一の場合と第三の場合は緊急な場合が多いので、鑑定医派遣等の事務に遅滞のないようにすること。

(三) 鑑定医は、知事の監督のもとにこの法律に基く診察の業務並びに必要によつては強制立入及び強制検診を行うものであり、この際法第十八条に規定するところに基き公務員に関する法令で規制されるのであるが、一般に鑑定医の執務状況の如何は当該都道府県の精神衛生行政の成否に影響するところが大きいので、知事は鑑定医の把握と監督指導に遺憾のないようにすること。

第六 保護義務者

一 保護義務者についての一般的事項

保護義務者は、障害者に対し重大な保護の義務をおわねばならないので、法第二一条第一項但し書きの規定により、障害者の利益代表者となり得ないものについてはこれを除外したものであること。

二 保護義務者(以下「義務者」という。)と家庭裁判所

保護義務を行うべき者の順位は、法第二○条第二項に規定する通りであるが、民法第八三八条より第八四六条までに規定する後見人以外のものについては、家庭裁判所が順位の変更又は選任を行うことになつていること。

三 義務者の保護義務内容

(一) 義務者の障害者に対する保護義務は法第二二条に規定するように

一 障害者に治療を受けさせること。(但し、その障害に対する医療であること。)

二 障害者が自身を傷つけ又は他人に害を及ぼさないよう監督すること。

三 障害者の財産上の利益を保護すること。

四 障害者の診断、医療に当つては医師に協力すること。

の四つであつて生活保護法に規定する保護とはその意義が違うものであること。(なお二の「障害者が自身を傷つけ又は他人に害を云々」のことを以下略して「公安上云々」と云う。)

(二) 法第二一条の規定により市町村長が保護義務者となる場合は、法第二○条に規定する義務者がないか又はあつても特別の事由により前項の一に記するような義務を履行し得ない時であつて、義務者が障害者に対して経済的に援助する能力を有しないことは市町村長が直ちに義務者となる理由にはならないこと。従つてこの様な場合その障害者に対する最低生活及び最低医療(法第二九条の措置による場合を除く。)について保護は生活保護法の規定するところによること。

第七 医療及び保護

一 医療及び保護についての一般事項

障害者に対する精神医学的医療の効果は、最近見るべきものがあるので、医療保護を要する障害者であつて、いやしくもその医療保護が与えられないものがないよう、又その医療保護が私宅等において不適正に行われることがないよう規定されているものであること。

二 障害者の所在の把握

知事は、障害者及びその疑いあるものについて、職務上それらの者を取り扱うことの多い公職にある者から法第二四条、第二五条及び第二六条の規定による通報並びに法第二三条の規定による一般からの診察及び医療保護の申請により、医療保護を必要とする障害者の所在を広く知ることができることになつていること。

三 障害者の自由の拘束又は不法拘束の予防措置

(一) 障害者の中には、その障害のため理非を弁えず公安上害を及ぼす等の行動により社会の福祉と公安を乱す者があることと、公安上害を及ぼす問題はないとしても自身に疾病があつて医療を受けなければならないということを自覚し得ない者があることとの二つの理由により、障害者は自由を拘束されて次に掲げる措置を受けることになること。

一 法第二七条の規定による強制立入り並びに強制検診の措置及び法第二九条の規定により関係者の同意なくしてとられる強制的な入院措置

二 保護義務者の同意を得るだけで精神病院の長が行う法第三三条の入院措置、及び後見人、配偶者、親権を行うもの又は扶養義務者の同意を得るだけで精神病院の長が行う法第三四条の仮入院の措置

三 法第三八条の規定により精神病院の長が行う行動制限の措置

四 法第四三条の規定により保護義務者が行う精神病院以外の場所における保護拘束

(二) 障害者が社会の福祉と公安を乱し又は自身の障害を自覚し得ない状態になることが多いことを理由として障害者の自由を不法又は不当に拘束する者がないよう次の場合のようにその予防又は廃止の措置等が講ぜられていること。

一 当該障害者に対して訴訟をしている者又はした者並びにその配偶者及び直系血族は、法第二○条の規定によりその障害者の義務者となれないこと。

二 法第二九条の規定により知事が行う入院措置は鑑定医二人以上の診察の結果が一致してその措置の必要を認めた障害者に対して限ること。

三 法第二九条の措置といえども不服があれば法第三二条の規定により訴願ができること。

四 法第三三条の規定による入院又は法第三四条の規定による仮入院の措置が講ぜられた場合、知事は法第三六条の規定による届出並びに法第三七条の規定による診察の結果に基き精神病院の長に対してその者を退院させることを命ずることができること。

五 法第四八条の規定により、この法律又は他の法律により障害者を収容できる施設以外の場所に障害者を収容してはならないこと。

四 入院による医療保護

障害者はその疾病の特殊性のために、医療並びに保護のため入院措置が次に示すように三通りであるので、その取扱に遺憾のないようにすること。

(一) 知事による入院措置(措置入院)

一 法第二九条の規定による知事の行う入院措置は、公安上必要とする強制的な措置であるので、同条第二項に規定するように二人以上の鑑定医の診察の結果の一致に基くものであるが、なお法第二八条の規定による診察の通知等取扱上遺漏のないようにすること。

二 国又は都道府県が設置した精神病院の長及び指定病院の長は、法第二九条第三項の規定により、知事が行う入院を全面的に(指定病院については、その指定にかかる病床に対して全面的に)受け入れなければならないので、他の措置による入院と知事の行う入院との関係を慎重に考慮し、知事の行う入院が遅滞なく行われるよう協力する。

(二) 精神病院の長による入院(同意入院又は仮入院)

一 精神病院の長は病覚なき障害者の医療保護のため、障害者本人の同意がなくても法第三三条に規定する入院の措置又は法第三四条に規定する仮入院の措置を講ずることができるのであるが、前者の場合は義務者の同意を必要とし、後者は仮入院であつて緊急な場合もあるので義務者の選任をまたず後見人あるときは後見人のその他の場合は配偶者、親権を行うもの又はその他の扶養義務者のいずれかの同意を得るだけでよいこと。

二 右の一に記述する同意をする者が後見人である場合即ち保護を受ける者が禁治産者である場合は、その者の財産、身分上の保護の万全を期するため、後見人は、民法第八五八条第二項の規定により家庭裁判所の許可を得て法第三三条の入院又は法第三四条の仮入院の同意をしなければならないこと。

(三) 自由な入院(自由入院)

障害者の中には、その障害の種類と程度によつては病覚があり、理非を辨別し、社会公安上何等の害なきものも勿論あるのであつて、それらの者の入院及び退院については一般疾患の入院及び退院の場合と同様であるので法に別段の規定はないこと。

五 既に入院又は仮入院をしている者に対する措置

(一) 法第三六条の規定により精神病院の長が入院又は仮入院中の者につき行う知事宛の届出に基き、法第三七条の規定が適用されることになるが、この場合鑑定医の診察による判定すべきことは、法第二九条第二項の場合と異なり、当該障害者が入院又は仮入院を継続する必要があるか否かということであるので、その者が医療保護上入院が必要である限り公安上害を与える者でなくても法第三七条の規定による退院命令は適用されないものであること。

従つてこのような場合その者が仮入院中のものであれば、その者の保護者の同意を得て法第三三条の規定による入院に切り換える措置が必要であること。

(二) 法第三八条の規定による精神病院の長の行う行動の制限は、医療又は保護に欠くことのできない限度をこえてはならないのであつて、大部分の障害者については医学上からも不必要と考えられる体罰に類する処置を施してはならないこと。

(三) この法律施行の際、現に精神病院法第二条の規定により入院中の者は、法第二九条第四項の規定により同条第一項の規定によつて入院したものとみなされるものであるが、これらの者につき、法第二九条第一項の規定を適用する必要がないと認められる場合は、その者をなるべく速やかに退院させ又は他の措置による入院に切り換えることが必要であること。

六 退院の措置

(一) 法第二九条の規定により知事が行う入院を受け入れた精神病院の長は、法第四○条の規定によりその者を知事の許可を得て退院又は仮退院させることができることになつていること。

(二) 法第三三条の規定により入院している者については、退院の認定は一にかかつて精神病院の長にあるので、障害者であつて既に治癒又は症状に照して入院の継続の必要のなくなつた者が引きつづき不当に拘束されることがないよう知事はその指導を厳にするとともに必要あれば法第三七条の規定による措置を講ずること。

七 現に入院していない障害者に対する措置

(一) 現に入院していない障害者に対しても精神医学的指導を行うため、退院者、仮退院者及び全然入院していないもので障害が継続又は存在している者並びに保護拘束を受けている者に対し、法第四二条に規定する訪問指導の徹底を図ること。

(二) 法第四三条並びに第四四条に規定する保護拘束は、旧精神病者監護法の規定による所謂座敷牢を残置せしめようとする趣旨ではなく、やむを得ざる暫定的な措置であるので、なお拘束の必要が継続する場合は、知事は速やかにそれらの者を精神病院に収容する措置を講ずるとともに、保護拘束を行うものに対しては、その措置が暫定的なものであるとはいえ法第四五条の規定による指導監督並びに法第四六条の規定に基く監督を厳にすること。

(三) 法第三九条の規定による無断退去者についての探索の請求及び法第四七条の規定による行方不明者についての届出並びに探索の請求は、それらの事の性質上急を要するが、ことに後者の場合にあつては、それらの事務処理を急ぐ外知事は更に速やかな入院の措置を講ずるよう努めること。

第八 保健所における精神衛生業務

(一) 法第二三条又は法第二四条の規定による保健所長の行う申請又は通報についての受付、進達の業務は、その処理の遅速如何が、これに引きつづき知事が行う行政事務の開始の遅速にそのまま影響するので公安上これらの事務が一刻も速やかに運営されねばならないことに鑑み、指定市の設置する保健所の長といえども、進達業務の実施に当つては、直接上級庁である市長を経ることなく知事宛に行うものとすること。(但し当該保健所長は市長に対し事後にその報告をなすべきは当然であること。)

(二) 法第四三条、第四六条及び第四七条の規定する進達業務についても、右の(一)と同じ趣旨の下に同様に取り扱うこと。

(三) 法第四二条及び第四五条に規定する当該吏員については、なるべく法第二七条に規定する当該吏員と同じであることが望ましいが、必要に応じては指定市に設置する保健所の精神衛生担当者を当該吏員として法第四二条及び第四五条に規定する指導を行わせるようにすること。

第九 児童福祉法との関係

一 一般的事項

精神衛生法は年令に制限なく国民全般を対象とするものであることは当然であるが、児童福祉法においては、児童の福祉の立場からその法律の第一条から第三条までに規定されるように児童の心身を健やかに育成しなければならないこととなつているので、これら両法律の関係は極めて密接であつて、これら各法律の主管行政当局又は各法律に基く機関、施設が相互に協力することにより児童の福祉も増進し、又国民の精神的健康も保持向上することになる。

以上のことに十分留意し両法律の施行並びに各法律に基く機関又は施設の連繋を密にすること。

二 施設収容等

児童(児童福祉法による一八才未満の)である精神障害者については、先づ児童福祉法が適用され(但し、精神衛生法第二三条及び第二四条の規定も適用される。従つて法第二七条、第二八条及び第二九条の規定も適用されるが、児童福祉施設に入所している児童については原則としてこれを除外する。)同法第二五条から第二七条までの規定により、児童福祉司又は児童委員による指導に附し或いは精神薄弱児施設又は教護院への収容等の措置をとることになるが、児童福祉法の指導原理からいつても、これらの者に医療を加えて精神的健康を恢復又は保持向上すべきであるので、このようなことを目的とする精神衛生法は当然その必要ある場合には児童についても適用され精神病院への入院医療が加えられなければならないこと。

従つて精神薄弱児施設及び教護院の長及び児童を扱う福祉職員は、精神衛生法第二九条又は三三条の規定によるそれらの者の入院の途が開かれていることを承知し、児童相談所長とも協議し必要な措置を講ずること。

三 精神衛生相談所と児童相談所

児童福祉法第二五条の規定による場合であると否とに拘わらず児童相談所において児童の問題を取り扱う場合、児童福祉法第二三条及び第二七条又は第一五条の規定が適用され、児童相談所は本来の事業である児童の福祉のための保護、措置及び指導をする時より科学的に的確な診断のもとにこれを運ぶためにその資質の鑑別を行うのであるが、この場合児童相談所は、児童福祉法の理想に沿いなるべく科学的にその指導を行うため精神衛生相談所の専門的技術を活用し、その指導を取り入れることが望ましいので、精神衛生相談所は児童相談所に対して精神医学上の協力を十分に行うこと。

なお、精神衛生相談所は児童について精神衛生上の指導を行うときは、児童相談所の有する児童福祉指導に関する専門的技術を活用しなければならない場合もあるので、必要ある時は児童相談所から児童福祉上の協力を受けること。

第十 その他

一 麻薬取締法との関係

精神衛生法第三条に規定する精神病者は中毒性精神病者を含むものであるが、これらの者の中麻薬取締法第四条に規定する禁止行為を犯すものがある場合は、それらの者は先づ同法第五七条又は第六○条に規定する罰則が適用され、しかる後精神衛生法の適用を受けるものであること。

二 刑又は保護処分の執行との関係

障害者又はその疑いある者が刑又は保護処分の執行を受けるべきものであるときは、精神衛生法第五章に規定する医療並びに保護に関する規定があるに拘わらずその者を矯正保護施設に収容することを妨げることはできないし、又現に当該施設に収容中のものについては、法第二六条及び第二七条の規定を除き、第五章に関する規定は適用されないものであること。