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○医療ソーシャルワーカー業務指針普及のための協力依頼について

(平成元年三月三〇日)

(健政発第一八八号)

(各都道府県知事・各政令市市長・各特別区区長あて厚生省健康政策局長通知)

医療ソーシャルワーカーの業務については、昭和三三年七月二八日衛発第七○○号厚生省公衆衛生局長通知「保健所における医療社会事業の業務指針について」で保健所における業務についての指針を示しているところですが、長寿社会の到来、疾病構造の変化、医療の高度化、専門化等の状況の下、保健所のほか、病院、老人保健施設、精神障害者社会復帰施設等において、社会福祉の立場から患者や家族の抱える経済的、心理的・社会的問題の解決、調整を援助し、社会復帰の促進を図る医療ソーシャルワーカーに対する期待は大きくなつており、その数も年々増加してきています。

医療ソーシャルワーカーについては現在のところ法律上の資格制度はありませんが、保健所のみでなく病院等に設置されている者も含めて医療ソーシャルワーカー全体について資質の向上を図る必要性は高いことから、昭和六三年七月厚生省健康政策局に医療ソーシャルワーカー業務指針検討会(座長 金田一郎社会福祉・医療事業団理事長)を設け検討を行つておりました。同検討会において、本年二月別添のとおり医療ソーシャルワーカー業務指針がとりまとめられ、報告書の提出を受けましたが、厚生省としても、同指針の普及により医療ソーシャルワーカーの資質の向上を図るとともに、関係者の理解を促進したいと考えております。貴職におかれましても、管下の医療ソーシャルワーカーの団体を始めとし、保健医療関係者や保健医療機関への同指針の普及にご協力をお願いします。

〔別添〕

医療ソーシャルワーカー業務指針検討会報告書

(平成元年二月)

(医療ソーシャルワーカー業務指針検討会)

本検討会は、昨年七月より、医療ソーシャルワーカーの資質の向上を図るため、業務指針の作成について検討を重ねてきたが、ここにその結果がまとまつたので報告する。

医療ソーシャルワーカー業務指針

一 趣旨

長寿社会の到来、疾病構造の変化、一般的な国民生活水準の向上や意識の変化に伴い、国民の医療ニーズは高度化、多様化してきている。また、科学技術の進歩により、医療技術も、ますます高度化し、専門化してきている。このような医療をめぐる環境の変化を踏まえ、日常的な健康管理や積極的な健康増進、疾病予防、治療、リハビリテーションに至る包括的、継続的医療の必要性が指摘されるとともに、高度化し、専門化する医療の中で患者や家族の不安感を除去する等心理的問題の解決を援助するサービスが求められている。さらに、老人や精神障害者、難病患者等が、疾病をもちながらもできる限り地域や家庭において自立した生活を送るためには、医療・保健・福祉のそれぞれのサービスが十分な連係の下に、総合的に提供されることが重要である。

このような状況の下、保健医療の場において患者のかかえる経済的、心理的・社会的問題の解決、調整を援助し、社会復帰の促進を図る医療ソーシャルワーカーの果たす役割に対する期待は、ますます大きくなつてきている。

しかしながら、医療ソーシャルワーカーは、病院等において、他の職種が対応しきれない相談業務をいわばよろず相談的に引き受けて行つていることから、その範囲が必ずしも明確とはいえないきらいがあること、前述のような新しい医療の流れを踏まえて保健医療の場において患者に対しソーシャルワークを行う場合の方法について、十分確立していない面があること、医療関係者や患者等からの理解も十分でないこと等の問題があり、このような期待に、必ずしも応えきれているとはいい難い。

この業務指針は、このような実情に鑑み、従来、精神科ソーシャルワーカーと呼ばれてきた者も含め、医療ソーシャルワーカー全体の業務の範囲、方法等について指針を定め、資質の向上を図るとともに、医療ソーシャルワーカーが専門性を十分発揮し業務を適正に執行することができるよう、関係者の理解の促進に資することを目的とするものである。

総合病院、精神病院、老人病院等の病院を始めとし、老人保健施設、精神障害者社会復帰施設、保健所、精神保健センター等様々な保健医療機関に設置されている医療ソーシャルワーカーについて標準的業務の定めたものであるので、実際の業務を行うに当たつては、それぞれの機関の特性や実情に応じた業務のウェート付けを行うべきことはもちろんであり、また、学生の実習への協力等指針に盛り込まれていない業務を行うことを妨げるものではない。

二 業務の範囲

医療ソーシャルワーカーは、病院等において管理者の監督の下に次のような業務を行う。

(一) 経済的問題の解決、調整援助

入院、入院外を問わず、患者が医療費、生活費に困つている場合に、保険、福祉等関係諸制度を活用できるように援助する。

(二) 療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援護

入院、入院外を問わず、生活と傷病の状況から生ずる心理的・社会的問題の予防や早期の対応を行うためこれらの諸問題を予測し、相談に応じ、次のような解決、調整に必要な援助を行う。

① 受診や入院、在宅医療に伴う不安等の問題の解決を援助すること。

② 患者が安心して療養できるように療養中の家事、育児、教育、職業等の問題の解決を援助すること。

③ 老人等の在宅療養環境を整備するため、在宅ケア諸サービスについての情報を整備し、関係機関、関係職種等との連係の下に患者の生活と傷病の状況に応じたサービスの活用を援助すること。

④ 傷病や療養に伴つて生じる家族関係の葛藤に対応し、家族関係の調整を援助すること。

⑤ 患者同士や職員との人間関係の調整を援助すること。

⑥ 学校、職場、近隣等地域での人間関係の調整を援助すること。

⑦ がん、エイズ、難病等傷病の受容が困難な場合に、その問題の解決を援助すること。

⑧ 患者の死による家族の精神的苦痛の軽減・克服、生活の再設計を援助すること。

⑨ 療養中の患者や家族の心理的・社会的問題の解決援助のために家族会等を指導、育成すること。

(三) 受診・受療援助

入院、入院外を問わず、次のような受診、受療の援助を行う。

① 生活と傷病の状況に適切に対応した医療の受け方について援助すること。

② 診断、治療を拒否するなど医師等の医療上の指導を受け入れない場合に、その理由となつている心理的・社会的問題について情報を収集し、問題の解決を援助すること。

③ 診断、治療内容に関する不安がある場合に、患者、家族の心理的・社会的状況を踏まえて、その理解を援助すること。

④ 心理的・社会的原因で症状の出る患者について情報を収集し、医師等へ提供するとともに、人間関係の調整、社会資源の活用等による問題の解決を援助すること。

⑤ 入退院・入退所の判定に関する委員会が設けられている場合には、これに参加し、経済的、心理的・社会的観点から必要な情報の提供を行うこと。

⑥ その他診療に参考となる情報を収集し、医師、看護婦等へ提供すること。

⑦ デイケア等の指導、集団療法のための断酒会等の指導、育成を行うこと。

(四) 退院(社会復帰)援助

生活と傷病や障害の状況から退院・退所に伴い生ずる経済的、心理的・社会的問題の予防や早期の対応を行うため、これらの諸問題を予測し、相談に応じ、次のような解決、調整に必要な援助を行う。

① 転院のための医療機関、退院・退所後の社会福祉施設等の選定を援助すること。

② 在宅ケア諸サービスについての情報を整備し、関係機関、関係職種等との連係の下に退院・退所する患者の生活と傷病や障害の状況に応じたサービスの活用を援助すること。

③ 住居の確保、傷病や障害に適した改造等住居問題の解決を援助すること。

④ 復職、復学を援助すること。

⑤ 転院、在宅医療等に伴う患者、家族の不安等の問題の解決を援助すること。

⑥ 関係機関、関係職種との連係や訪問活動により、社会復帰が円滑に進むように転院、退院後の心理的・社会的問題の解決を援助すること。

(五) 地域活動

関係機関、関係職種等と連係し、地域の保健医療福祉システムづくりに次のような参画を行う。

① 他の保健医療機関、市町村等と連係して地域の患者会、家族会、断酒会等を指導、育成すること。

② 他の保健医療機関、福祉関係機関等と連係し、保険・医療に係る地域のボランティアを指導、育成すること。

③ 保健所保健・福祉サービス調整推進会議、市町村高齢者サービス調整チーム等を通じて保健医療の場から患者の在宅ケアを支援し、地域ケア・システムづくりへ参画すること。

④ 関係機関、関係職種等と連係し、老人、精神障害者等の在宅ケアや社会復帰について地域の理解を求め、普及を進めること。

三 業務の方法

保健医療の場において患者やその家族を対象としてソーシャルワークを行う場合に採るべき方法は次のとおりである。

(一) 患者の主体性の尊重

保健医療の場においては、患者が自らの健康を自らが守ろうとする主体性をもつて予防や治療及び社会復帰に取り組むことが重要である。したがつて、次の点に留意することが必要である。

① 業務に当たつては、傷病に加えて経済的、心理的・社会的問題を抱えた患者が、適切に自己決定ができるよう、患者自身の状況把握や問題整理を援助し、解決方策の選択肢の提示等を行うこと。

② 問題解決のための代行等は、必要な場合に限るものとし、患者の主体性を損なわないようにすること。

(二) プライバシーの尊重

一般に、保健医療の場においては、患者の傷病に関する個人情報に係るので、プライバシーの尊重は当然とされているものであるが、医療ソーシャルワーカーは、傷病に関する情報に加えて、経済的、心理的、社会的な個人情報にも係ること、また、援助のために患者以外の第三者との連絡調整等を行うことから、次の点に特に留意することが必要である。

① 個人情報の収集は援助に必要な範囲に限ること。

② 面接や電話は、独立した相談室で行う等第三者に内容が聞こえないようにすること。

③ 記録等は、個人情報を第三者が了解なく入手できないように保管すること。

④ 第三者との連絡調整を行うために本人の状況を説明する場合も含め、本人の了解なしに個人情報を漏らさないようにすること。

⑤ 第三者からの情報の収集自体がその第三者に患者の個人情報を把握させてしまうこともあるので充分留意すること。

⑥ 患者からの求めがあつた場合には、できる限り患者についての情報を説明すること。ただし、医療に関する情報については、説明の可否を含め、医師の指示を受けること。

(三) 他の保健医療スタッフとの連係

保健医療の場においては、患者に対し様々な職種の者が、病院内あるいは地域において、チームを組んで関わっており、また、患者の経済的、心理的・社会的問題と傷病の状況が密接に関連していることも多いので、医師の医学的判断を踏まえ、また、他の保健医療スタッフと常に連係を密にすることが重要である。したがつて、次の点に留意が必要である。

① 他の保健医療スタッフからの依頼や情報により、医療ソーシャルワーカーが係るべきケースについて把握すること。

② 対象患者について、他の保健医療スタッフから傷病や治療の状況等必要な情報を得るとともに、診療や看護、保健指導等に参考となる経済的、心理的・社会的側面の情報を提供する等情報や意見の交換をすること。

③ ケース・カンファレンスや入退院・入退所の判定に関する委員会が設けられている場合にはこれへの参加等により、他の保健医療スタッフと共同で検討するとともに、保健医療状況についての一般的な理解を深めること。

④ 必要に応じ、他の保健医療スタッフと共同で業務を行うこと。

(四) 受診・受療援助と医師の指示

医療ソーシャルワーカーが業務を行うに当たつては、(三)で述べたとおり、医師の医学的判断を踏まえ、また、他の保健医療スタッフとの連係を密にすることが重要であるが、なかでも二の(三)に掲げる受診・受療援助は、医療と特に密接な関連があるので、医師の指示を受けて行うことが必要である。特に、次の点に留意が必要である。

① 医師からの指示により援助を行う場合はもとより、患者、家族から直接受診・受療についての相談を受けた場合及び医療ソーシャルワーカーが自分で問題を発見した場合等も、医師に相談し、医師の指示を受けて援助を行うこと。

② 受診・受療援助の過程においても、適宜医師に報告し、指示を受けること。

③ 医師の指示を受けるに際して、必要に応じ、経済的、心理的・社会的観点から意見を述べること。

(五) 問題の予測と計画的対応

① 実際に問題が生じ、相談を受けてから業務を開始するのではなく、生活と傷病の状況から生ずる問題を予測し、予防的、計画的な対応を行うこと。

② 特に退院(社会復帰)援助には時間を要するものが多いので入院、受療開始のできるかぎり早い時期から問題を予測し、病院内あるいは地域の保健医療スタッフ、社会福祉士等との連係の下に、計画的、継続的な対応を行うこと。

(六) 記録の作成等

① 問題点を明確にし、専門的援助を行うために患者ごとに記録を作成すること。

② 記録をもとに医師等への報告、連絡を行うとともに、必要に応じ、在宅ケア、社会復帰の支援等のため、地域の関係諸機関、保健婦、社会福祉士等への情報提供を行うこと。

③ 記録をもとに、業務分析、業務評価を行うこと。

四 その他

医療ソーシャルワーカーがその業務を適切に果たすために次のような環境整備が望まれる。

(一) 組織上の位置付け

規模等にもよるが、できれば組織内に医療ソーシャルワークの部門を設けることが望ましいこと。医療ソーシャルワークの部門を設けられない場合には、診療部、地域医療部、保健指導部等他の保健医療スタッフと連係を採りやすい部門に位置付けることが望ましいこと。やむをえず、事務部門に位置付ける場合には、診療部門等の諸会議のメンバーにする等日常的に他の保健医療スタッフと連係を採れるような位置付けを行うこと。

(二) 患者、家族からの理解

病院案内パンフレット、院内掲示等により医療ソーシャルワーカーの存在、業務、利用のしかた等について患者、家族等からの理解を得るように努め、患者、家族が必要に応じ安心して適切にサービスを利用できるようにすること。

(三) 研修等

医療・保健・福祉をめぐる諸制度の変化、諸科学の進歩に対応した業務の適正な遂行、その向上を図るため、研修及び調査、研究を行うこと。