○痴呆介護研修事業の円滑な運営について
(平成12年10月25日)
(老計第43号)
(各都道府県・各指定都市民生主管部(局)長厚生省老人保健福祉局計画課長通知)
痴呆介護研修事業については、「痴呆介護研修事業の実施について」(平成12年9月5日老発第623号厚生省老人保健福祉局長通知。以下「局長通知」という。)により通知されたところであるが、次の事項について留意のうえ、事業の適正かつ円滑な実施を図られたい。
1 痴呆介護実務者研修
痴呆介護実務者研修については、局長通知の別紙「痴呆介護研修事業実施要綱」(以下「要綱」という。)4(1)で定められているところであるが、本研修の実施にあたっては、都道府県又は指定都市(以下「都道府県等」という。)の実情に応じ、次の「基礎課程」と「専門課程」をそれぞれ必要な回数行うこととする。
(1) 基礎課程
ア 基礎課程は、痴呆介護の基本理念、基本的知識を修得させることをねらいとする。
イ 研修対象者は、原則として身体介護に関する基本的知識・技術を修得している者とする。
ウ 研修は、講義・演習形式で行うものとする。
エ 標準的な研修時間は、20時間とする。
オ 標準的な研修カリキュラムは、別紙1(1)アのとおりとする。都道府県等は、これを参考として、それぞれの地域の実情に応じて、研修カリキュラムを作成するものとする。
カ 実施要綱4(1)⑤アの修了証書の様式を別紙2(1)のとおり定めたので、これに準じて交付することとする。
(2) 専門課程
ア 専門課程は、基礎課程で得られた基本的知識をさらに深め、施設・事業所において、ケアチームを効果的・効率的に機能させる能力を有した指導者を養成することをねらいとする。
イ 研修対象者は、基礎課程を修了しているか又はそれに相当する知識・技術を有しており、介護保険法第7条第19項に規定する介護保険施設又は介護保険法第41条に規定する指定居宅サービス事業者等(以下「介護保険施設・事業者等」という。)において介護業務に概ね5年以上従事した経験を有している者とする。
ウ 研修は、講義・演習形式と実習形式で行うものとする。
エ 標準的な研修時間は、講義・演習40時間及び実習80時間の計120時間とする。
オ 標準的な研修カリキュラムは、別紙1(1)イのとおりとする。都道府県等は、これを参考として、それぞれの地域の実情に応じて、研修カリキュラムを作成するものとする。
また、実施にあたっては、研修生の受講可能な日程を組む等の配慮を行うものとする。
なお、都道府県等の実情に応じ、実習時間を増減させることは差し支えないこととするが、最低40時間の実習時間は確保するものとする。
カ 実習施設については、要綱4(1)③に定められているところであるが、具体的には、痴呆性高齢者に対するサービス提供に関し熱意と経験を有する介護保険施設、痴呆対応型共同生活介護事業所(痴呆性高齢者グループホーム)及び通所介護事業所(デイサービスセンター)等とする。
研修の実施にあたっては、当該施設に研修責任者を配置するとともに、研修の意義、心構え、日課表等を内容とする研修要項を作成し、研修生の指導にあたることとする。
キ 実施要綱4(1)⑤アの修了証書の様式を別紙2(1)のとおり定めたので、これに準じて交付することとする。
2 痴呆介護指導者養成研修
痴呆介護指導者養成研修については、要綱4(2)に定められているところであるが、その詳細については次によることとする。
ア 本研修は、痴呆介護実務者研修を企画し、講義、演習、実習を担当することができる能力を身につけるとともに、介護保険施設・事業者等における介護の質の改善について指導することができる者を養成することをねらいとする。
イ 研修対象者について、要綱4(2)①アの「これに準ずる者」を選定する際には、厚生省に事前に協議することとする。
ウ 高齢者痴呆介護研究センターにおける標準的な研修期間は、30日間とする。さらに、一連の研修期間の途中あるいは研修期間終了後に、約4週間程度の職場研修期間を設定し、別紙1(2)に定める「職場研修」の課題①、②について、レポートを作成・提出させることとする。
エ 標準的な研修カリキュラムは、別紙1(2)のとおりとする。
オ 要綱4(2)⑤アの修了証書の様式は、別紙2(2)のとおりとする。
3 痴呆介護研修推進計画
痴呆介護研修推進計画については、要綱5に定められているところであるが、その詳細については次によることとする。
ア 計画の策定にあたって
都道府県等は、
① 痴呆介護実務者研修については、それぞれの研修を受講すべき対象者の職種や人数、専門課程の実施が可能な実習施設の状況等、
② 痴呆介護指導者養成研修については、各都道府県等における構築すべき痴呆介護実務者研修の実施体制等を考慮し、中長期的な見通しを立てたうえで、痴呆介護研修推進計画を策定すること。
イ 計画の内容
計画に記載すべき事項とその内容を別紙3のとおり定めたので、これに準じて策定すること。
ウ 計画の期間
平成12年度を初年度とする5年間とし、以後5年ごとに策定するものとする。
(別紙1)
(1) 痴呆介護実務者研修 標準的なカリキュラム
ア 基礎課程 講義・演習20時間(1,200分)
教科名 |
目的 |
内容 |
1 高齢者の理解(講義120分) |
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(1) 高齢者保健福祉制度の理解 (講義60分) |
高齢者保健福祉制度における痴呆介護の理念や実際について、基本的な方向性やしくみを理解する。 |
・高齢者保健福祉の歴史的変遷(基本理念と制度の経緯) ・高齢社会の背景と高齢者保健福祉施策の現状と動向 ・痴呆介護に関する施策 ・人権擁護と法制度(成年後見制度、地域福祉権利擁護事業、苦情解決のしくみ、介護保険サービスの運営基準等) |
(2) 高齢者に対する理解 (講義60分) |
痴呆性高齢者の理解の前提として、高齢者の特徴について理解する。 |
・加齢による心身の変化 ・高齢者の社会的関係の特徴 ・高齢者の持つ文化的側面(教育、価値観、風土、若い頃の風俗習慣等の生活歴等) ・高齢期に罹りやすい疾患に関する知識(身体的疾患と精神疾患) |
2 痴呆性高齢者の基本的理解(講義240分、演習100分) |
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(1) 痴呆に関する基本的知識 (講義150分) |
痴呆に関する正しい知識を修得し、痴呆性高齢者の様々な生活上の課題を理解する。 |
・痴呆の原因と基本的特徴、診断、治療に関する理解 脳血管性痴呆、アルツハイマー型痴呆 その他の痴呆に関する基本的知識(ピック病、前頭葉 型痴呆等) 中心症状(記憶障害に起因する諸症状) 周辺症状(周囲の環境に起因する諸症状) 合併症や他の精神疾患との違いに関する知識 痴呆の進行過程 ・痴呆性高齢者の体験や生活像の理解 痴呆の初期症状と生活上の障害 痴呆の進行と生活上の障害 痴呆による主観的体験 |
(2) 痴呆性高齢者の家族の理解 (講義90分) |
痴呆性高齢者を抱える家族の心理や行動を理解する。 |
・家族介護の現状の理解 ・痴呆性高齢者を抱える家族の心理 ・家族への対応に関する基本的な考え方 |
(3) 演習1(100分) |
(1)(2)の講義内容について、内容の理解を深めるために、モデル事例を用いて演習形式で議論し内容の確認等を行う。 |
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3 痴呆介護の基本理念と方法(講義240分、演習100分) |
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(1) 痴呆介護の基本理念 (講義60分) |
痴呆介護の基本理念を理解する。 |
・痴呆介護の基本理念、原則 ・痴呆介護に関わる専門職の役割 人権擁護、個別性、家族との関係、環境による影響、自尊心、拘束しない介護、基本理念に照らした実践のチェック等 |
(2) 痴呆介護の基本的理解 (講義90分) |
痴呆介護にあたって、痴呆性高齢者の諸症状に対する対応の考え方を理解する。 |
・記憶障害、見当識障害等とその対応 ・痴呆に伴う諸症状の理解と対応 ・心理的特徴(不安、焦燥、抑うつ等)の理解と対応 |
(3) 痴呆介護の基本技術 (講義90分) |
痴呆介護の実践にあたって、必要となる基本的な技能、技術について理解する。 |
・観察と記録 ・コミュニケーションの方法 ・生活環境づくり ・チームケア ・アセスメントとケアプラン |
(4) 演習2(100分) |
(1)(2)(3)の講義内容について、内容の理解を深めるために、モデル事例を用いて演習形式で議論し内容の確認等を行う。特に、基本理念と実践的な対応の関係について議論を深め、基本理念の重要性を理解させる。 |
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4 痴呆介護の展開(講義300分、演習100分) |
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(1) 痴呆性高齢者に対する日常生活の援助 (講義90分) |
痴呆性高齢者の身体介護を中心とした援助について、ニーズの特徴と対応方法を考える。 |
・食事、排泄、入浴に関する介護ニーズと対応 ・介護サービスと医療的ケアの連携 ・合併症の予防 |
(2) 痴呆性高齢者の問題となる行動と対応 (講義120分) |
行動の障害について、その特徴と原因について理解し、対応の方法について考える。 |
・行動の障害の種類と特徴 ・行動の障害の原因の理解(症状による行動の障害、心理的な原因による行動の障害) ・行動の障害に対する対応 |
(3) 痴呆性高齢者に対するリハビリテーション・介護方法 (講義90分) |
痴呆性高齢者に対するリハビリテーション的な介護方法(アクティビティプログラムやレクリエーション等)について理解を深める。 |
・リハビリテーション・介護方法の基本的考え方 ・生活リハとアクティビティプログラムの実際 |
(4) 演習3(100分) |
(1)(2)(3)の講義内容について、内容の理解を深めるために、モデル事例を用いて演習形式で議論し内容の確認等を行う。特に、問題行動への対応と基本理念の関係について議論を深め、基本理念の重要性を理解させる。 |
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イ 専門課程 講義・演習40時間(2,400分)、実習80時間(4,800分)
教科名 |
目的 |
内容 |
1 講義・演習40時間(2,400分) |
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(1) 痴呆の専門的理解 (講義360分) |
痴呆に関する生理的、医学的知識を含め、理解を深める。 |
・痴呆の症状と診断、治療に関する理解 ・間違えやすい他の精神疾患の特徴 ・薬剤の効用と服用の留意点 ・医療との連携 ・様々な事例の理解 |
(2) 痴呆介護の理解と実践 (講義・演習360分) |
痴呆性高齢者の介護について、理解を深める。 |
・痴呆による記憶障害等の理解と対応 ・心理的理解と対応 ・行動の障害の理解と対応 ・身体介護のニーズの理解と対応(失禁ケア、口腔ケア、転倒防止等) ・演習による理解と対応の思考訓練(モデル事例を用いた演習) |
(3) アクティビティプログラムの理解と実践 (講義・演習360分) |
痴呆性高齢者を対象として行われているアクティビティプログラムや心理療法的手法について理解を深める。 |
・リアリティ・オリエンテーション、回想法、音楽療法等のうち2種類程度の理論的背景、実際の手法の理解 ・アクティビティ等に取り入れる際の留意点(療法とアクティビティの違い等) ・演習によるアクティビティプログラムの立案(モデル事例による演習) |
(4) 家族への相談援助 (講義・演習240分) |
痴呆性高齢者を抱える家族の困難、ストレスを理解し、適切な支援方法を理解する。 |
・痴呆性高齢者を抱える家族の理解 ・家族への対応と支援の方法 ・演習による支援方法のプランニング(モデル事例を用いた演習) |
(5) アセスメントとケアプラン (講義・演習360分) |
ここまで得た知識を活用し、痴呆性高齢者のアセスメント技法やケアプラン作成のプロセスを学習する。 |
・アセスメントの実際 認知・記憶障害、問題行動等に関するアセスメントの方法 ・ケアプラン作成の方法 アセスメント結果に基づくニーズ、目標、ケア内容の 設定・選定の仕方 ・演習によるケアプラン作成(モデル事例を用いた演習) |
(6) チームアプローチとリーダーシップ (講義・演習360分) |
多様な職種によるチームアプローチの重要性を理解し、チームにおけるリーダーシップの取り方について学習する。 |
・チームアプローチの基本理念と実際の運用の理解(リーダーとしての役割の理解) ・痴呆介護の質を向上させるための取り組み(スタッフ教育、スーパーバイズ、チーム会議等) ・スタッフのストレス緩和 ・演習によるスーパーバイズの実践(モデル事例を用いた演習) |
(7) 事例検討演習(360分) |
ここまでの研修で得た知識を活用し、各自が持ち寄った事例について、グループで検討を図り、痴呆性高齢者に対する態度、知識、技術等について評価して、実習及び自分の職場における課題を確認する。 |
・小グループによる事例に関するケアプラン及び実際の対応の検討、評価 |
2 施設・事業所における実習80時間(4,800分) |
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施設・事業所における実習 |
・講義内容を実践に活用する。 ・研修生が培ってきた痴呆介護の基本理念と介護の知識、技術を実習の場で確認し、再構築する。 ・痴呆性高齢者の個別性を理解し、個別対応をするためのプランの立案と、それに対する介護方法の実際の活用を学ぶ。 ・自分の施設や事業所におけるリーダーとして、痴呆介護の質の向上に対して果たすべき役割を理解する。 |
○実習の課題 ・アセスメントを活用し、ケアプランを立案できること。 ・精神症状、行動の障害の原因を理解し、対応方法を立案できること。実践上の留意点をチームに指示できるようになること。 症状の原因と対応の理解 コミュニケーションの取り方 抑制しないための介護方法 ・アクティビティプログラムの立案ができること。 実際のプログラムへの参加と評価 プログラムの立案 ・チーム運営の重要性とリーダーシップの取り方を理解できること。 カンファレンスに参加し、リーダーシップ、チーム ケアの実際の理解・評価 リーダーとしての役割意識の獲得 ○実習の進め方 ・実習の重点テーマを定め、1人の利用者のケース記録をレポートとしてまとめる。 ・実習とともに、事前、途中、事後の演習による指導を必ず行う。 ○留意点 ・実習の実施方法としては、 ①実際の介護チームにアドバイザー的立場で参加し、実際のケアの展開に参加する。 ②チームにはオブザーバーとして参加し、実際のケアの展開には参加しない。→指導者やグループとで議論を行い、レポートとしてまとめる。 の2つの方法が考えられるが、可能な限り①のような 実際の介護サービスの展開に関わる方法が望ましい。 |
(2) 痴呆介護指導者養成研修 標準的なカリキュラム
講義・演習5日間(40時間)、実習等25日間(200時間)
教科名 |
目的 |
1 痴呆介護研修の体系的理解(講義・演習26時間) |
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(1) 痴呆介護研修総論 (講義2時間) |
実務者研修の基本的な目的、方向性を確認し、実務者研修の全体を構成する能力を修得する。 |
(2) 教育・研修方法論 (講義4時間) |
受講者像に配慮した教育指導に必要な基本的知識を学習し、多岐にわたる痴呆介護研修を企画していくための知識を修得する。 |
(3) 講義・演習指導方法論 (講義・演習12時間) |
実務者研修(基礎課程、専門課程)の講義・演習科目の内容と方法について理解し、講義・演習科目の指導法を修得する。 |
① 実務者研修(基礎課程)の講義・演習科目の理解 (講義・演習4時間) |
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② 実務者研修(専門課程)の講義・演習科目の理解 (講義・演習8時間) |
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(4) 実習等指導方法論 (講義・演習8時間) |
実務者研修(専門課程)の実習の内容と方法について理解し、実習教育の指導法を修得する。 |
2 痴呆介護に関する方法・研究法の理解(講義・演習14時間) |
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(1) 痴呆介護方法論 (講義・演習8時間) |
痴呆介護に関するテーマについて、各分野からの専門的アプローチを学習し、痴呆介護に関する学際的な理解を深める。 |
(2) 痴呆介護に関する研究法 (講義・演習6時間) |
痴呆介護に関する各専門分野の研究について理解し、研究の基本的な方法論を修得する。 |
3 痴呆介護の実践に対する指導(実習等40時間) |
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痴呆介護の実践に対する指導 |
ケアプランを活用したチームケアに対する指導者の役割を認識し、その指導能力を修得する。 |
4 実習等指導方法の実践的理解(実習等120時間) |
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(1) 演習指導の方法 (実習等24時間) |
演習指導者の役割を認識し、その指導能力を修得する。 |
(2) 実習指導の方法 (実習等40時間) |
実習指導者の役割を認識し、その指導能力を修得する。 |
(3) 教育実習 (実習等56時間) |
実際に教育指導を実施することを通して、講師としての実践的な役割を認識し、その指導能力を修得する。 |
5 教育成果の評価(40時間) |
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教育成果の評価 |
これまでの研修で行ってきた内容について成果を発表し、評価を行う。 |
※職場研修(約4週間) |
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自らの職場等において、研修を通して修得した理念や方法を活用して次の2つの課題に取り組み、レポートを作成する。 ① 介護の質の改善に向けた取り組みを行うこと。 ② 痴呆介護に関する研究課題を自ら設定し、研究活動に取り組むこと。 |
※1 演習とは、討論、模擬的実践(実技)を行う研修をいう。
2 実習とは、実際の場面における研修をいう。
(別紙2)
(別紙3)