添付一覧
○介護保険法の施行について
(平成九年一二月二六日)
(厚生省発老第一〇三号)
(各都道府県知事あて厚生事務次官通知)
平成九年一二月一七日をもって、介護保険法(平成九年法律第一二三号)及び介護保険法施行法(平成九年法律第一二四号)がそれぞれ公布された。これらの法律は、平成六年三月に「二一世紀福祉ビジョン」(高齢社会福祉ビジョン懇談会報告)において誰もが必要な介護サービスを受けることができる新たな仕組みの構築が提言されて以来、高齢者介護・自立支援システム研究会の報告や社会保障制度審議会の勧告などを踏まえ、老人保健福祉審議会における検討、与党三党による市町村を始めとした幅広い関係者の意見の集約の上に、昨年一一月に法案として国会に提出され、一年余にわたる国会審議を経て、今般成立の運びとなったものである。その施行は、一部を除き平成一二年四月一日であり、今後、必要な政省令等について順次検討の上制定することとしているが、今般、法制定の趣旨及び主な内容を以下のとおり通知するので、十分御了知の上、管下市区町村を始め関係者、関係団体、関係機関等に対し、その周知徹底を図るとともに、適正な指導を行い、本法の施行準備に遺憾のなきを期されたく、命により通知する。
記
第一 法律制定の趣旨
我が国においては、人口の高齢化の進展に伴って、寝たきりや痴呆などにより介護を必要とする者が急速に増加している。このことは、核家族化の進展等による家族の介護機能の変化等とあいまって、介護問題をより深刻化させる一因となっており、今日、介護問題は国民の老後生活における最大の不安要因となっている。
高齢者に対する介護サービスは、現在、老人福祉と老人保健の二つの異なる制度の下で行われているが、利用手続や利用者負担の面で不均衡となっていること等、利用者の立場に立った総合的なサービス提供、サービスの利用しやすさ、効率的なサービス提供の観点等から様々な問題が指摘されている。
長寿社会となって、誰もが相当程度の確率で、自らが介護を必要とする状態になり、又は介護を必要とする状態となった老親を持つ可能性があり、加えて、今後とも急速に高齢化が進むことから、介護を必要とする者のさらなる急増が見込まれている。
これらを踏まえ、今般、現行制度の再構築を図り、国民の共同連帯の理念に基づき、社会全体で介護を必要とする者の介護を支える新たな仕組みとして介護保険制度を創設することとしたものである。
介護保険制度は、利用者の選択により、保健・医療・福祉にわたる介護サービスを総合的に利用できる仕組みを創設するものであり、また、従来、市町村自ら又はその委託を受けた者に限られてきた福祉サービスの提供主体を広く多様な主体に拡げることにより、サービスの質の向上と地域の実情に応じた介護サービス基盤の拡充を図ろうとするものである。さらに、社会保険制度とすることにより、給付と負担の関係について国民の理解を得ながら、今後増加が見込まれる介護費用を支えていこうとするものである。
第二 法律の内容
1 総則事項
(1) 介護保険法の目的
この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により常時介護を要すると見込まれる状態(以下「要介護状態」という。)となり、介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行い、国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図るものであること。
(2) 基本的理念
介護保険制度の保険給付は、被保険者の要介護状態又は要介護状態となるおそれがある状態に関し行うものであるが、以下の事項について配慮して行われなければならないものとしたこと。
ア 被保険者の要介護状態の固定化につながることのないよう、サービス提供が迅速に行われる必要があること。また、保険給付は、要介護状態の軽減若しくは悪化の防止又は要介護状態の予防に資するよう行われるとともに、医療との連携に十分配慮して行われなければならないこと。
イ 介護保険制度は、我が国に、初めて本格的な介護支援サービス(ケアマネジメント)の仕組みを制度的に位置付けるものであり、適切な介護サービス計画(ケアプラン)の策定等を通じ、被保険者の心身の状況、その置かれている環境等に応じて、被保険者本人の自己決定を最大限尊重し、その選択に基づき、個々人に適した保健・医療・福祉にわたるサービスが、多様な事業者又は施設から、総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して行われなければならないこと。
ウ 高齢者の多くは、要介護状態となっても、住み慣れた地域や環境の中で親しい家族や隣人とともにそれまでの生活を継続することを望んでおり、保険給付の内容及び水準は、そうした高齢者自身の選択が実現できるよう、被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならないこと。
(3) 保険者
市町村及び特別区(以下単に「市町村」という。)は、介護保険を行うものとしたこと。
(4) 国民の努力及び義務
ア 国民は常に健康の保持増進に努めるとともに、要介護状態となった場合においても、適切な保健医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとしたこと。
イ 国民は、共同連帯の理念に基づき、介護保険事業に要する費用を公平に負担するものとしたこと。
(5) 国、都道府県等の責務等
国は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるよう保健医療サービス及び福祉サービスを提供する体制の確保に関する施策その他の必要な各般の措置を講じなければならないものとし、都道府県は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるよう、必要な指導及び適切な援助をしなければならないものとしたこと。また、医療保険者は、介護保険事業が健全かつ円滑に実施されるよう協力しなければならないものとしたこと。
2 被保険者に関する事項
(1) 介護保険の被保険者を以下の者としたこと。
ア 市町村の区域内に住所を有する六五歳以上の者(以下「第一号被保険者」という。)
イ 市町村の区域内に住所を有する四〇歳以上六五歳未満の医療保険加入者(以下「第二号被保険者」という。)
なお、介護保険法施行法において、当分の間、身体障害者福祉法(昭和二四年法律第二八三号)の規定により身体障害者療護施設に入所している者その他特別の理由がある者で厚生省令で定めるものは、介護保険の被保険者としないこととされたこと。
(2) 介護保険施設(指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設及び指定介護療養型医療施設(療養型病床群及び老人性痴呆疾患療養病棟並びに介護力強化病院(施行日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日までの間に限る。))をいう。以下同じ。)に入所することにより当該介護保険施設の所在する場所に住所を変更したと認められる被保険者であって、当該介護保険施設に入所した際他の市町村の区域内に住所を有していたと認められるものは、当該他の市町村が行う介護保険の被保険者とする等の特例が適用されること。
3 保険給付に関する事項
(1) 通則
ア この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付としたこと。
(ア) 被保険者の要介護状態に関する保険給付(以下「介護給付」という。)
(イ) 被保険者の要介護状態となるおそれがある状態に関する保険給付(以下「予防給付」という。)
(ウ) その他、要介護状態の軽減若しくは悪化の防止又は要介護状態となることの予防に資する保険給付として条例で定めるもの(市町村特別給付)
イ 市町村の認定等
(ア) 介護給付又は予防給付を受けようとする被保険者は、要介護者又は要支援者に該当することについて、市町村の認定(要介護認定又は要支援認定)を受けなければならないこととしたこと。要介護認定等の申請を受けた市町村は、申請に係る被保険者の心身の状況等についての調査結果及び主治の医師の意見等を基に介護認定審査会において審査判定を行った結果に基づいて、要介護認定等を行うこととしたこと。
なお、被保険者の心身の状況等の調査は、指定居宅介護支援事業者又は介護保険施設に委託することができることとしたこと。
要介護認定等は、その申請のあった日に遡ってその効力を生ずることとしており、要介護認定等を受けた被保険者が申請日以降に受けたサービスについては保険給付の対象とし、必要なサービス利用が可能な仕組みとしていること。
要介護認定等には有効期間があり、要介護者等が継続してサービスを受けるためには要介護認定等の更新が必要であり、また、要介護者等の状態が変更した場合には、要介護状態区分の変更の申請を行うことができること。
(イ) 要介護者及び要支援者
① この法律で要介護者とは、次のいずれかに該当する者をいうこと。
Ⅰ 要介護状態にある六五歳以上の者
Ⅱ 要介護状態にある四〇歳以上六五歳未満の者であって、その要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病であって政令で定めるもの(以下「特定疾病」という。)によって生じたものであるもの
② この法律で要支援者とは、次のいずれかに該当する者をいうこと。
Ⅰ 要介護状態となるおそれがある状態にある六五歳以上の者
Ⅱ 要介護状態となるおそれがある状態にある四〇歳以上六五歳未満の者であって、その要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が特定疾病によって生じたものであるもの
(ウ) 市町村は、被保険者が要介護状態に該当すること及びその該当する要介護状態区分等の審査及び判定等(審査判定業務)を行わせるため、要介護者等の保健・医療・福祉に関する学識経験を有する者から成る介護認定審査会を置くこととしたこと。
(エ) 都道府県は、市町村が行う認定の業務に関し、福祉事務所等による技術的事項についての協力等を行うことができることとするとともに、市町村の委託を受けて審査判定業務を行う都道府県に都道府県介護認定審査会を置くこととしたこと。
(2) 介護給付
ア 居宅介護サービス費の支給
(ア) 市町村は、要介護者が都道府県知事の指定を受けた指定居宅サービス事業者が提供する指定居宅サービスを受けたときは、居宅介護サービス費を支給すること。
なお、居宅サービスとは、訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、痴呆対応型共同生活介護、特定施設入所者生活介護及び福祉用具貸与をいうものであること。
(イ) 居宅介護サービス費の額は、居宅サービスの種類ごとに、内容、地域等を勘案して算定される平均的な費用の額を勘案して厚生大臣が定める基準により算定した費用の額の一〇〇分の九〇に相当する額等としたこと。
イ 特例居宅介護サービス費の支給
市町村は、要介護者が、
(ア) 要介護認定の効力が生じた日前に、緊急その他やむを得ない理由により指定居宅サービスを受けた場合
(イ) 基準該当居宅サービス(指定居宅介護サービスの事業に係る基準のうち厚生省令で定めるものを満たすと認められる事業を行う事業所により行われるものをいう。以下同じ。)を受けた場合
(ウ) 離島その他の地域で指定居宅サービス及び基準該当居宅サービス以外の居宅サービス又はこれに相当するサービスを受けた場合
において、必要があると認めるときは、特例居宅介護サービス費を支給すること。
ウ 居宅介護サービス費等に係る支給限度額
居宅介護サービス費の額の総額及び特例居宅サービス費の額の総額の合計額は、厚生大臣の定める居宅介護サービス費区分支給限度基準額の一〇〇分の九〇に相当する額を超えることができないこと。
エ 居宅介護福祉用具購入費及び居宅介護住宅改修費の支給
市町村は、要介護者が、入浴又は排せつ等の用に供する福祉用具(特定福祉用具)を購入したときは、現に要した費用の額の一〇〇分の九〇を居宅介護福祉用具購入費として支給し、手すりの取付け等の住宅改修を行ったときは、現に要した費用の額の一〇〇分の九〇を居宅介護住宅改修費として支給すること。
なお、いずれの給付費についても、厚生大臣の定める支給限度基準額の一〇〇分の九〇に相当する額を超えることができないこと。
オ 居宅介護サービス計画費の支給
市町村は、要介護者が、指定居宅介護支援事業者から居宅サービス計画の作成等の居宅介護支援を受けたときは、居宅介護サービス計画費を支給すること。この場合において、居宅介護サービス計画費の額は、地域等を勘案して算定される平均的な費用の額を勘案して厚生大臣が定める基準により算定した費用の額とし、利用者負担はないこと。
カ 特例居宅介護サービス計画費の支給
市町村は、要介護者が、基準該当居宅介護支援(指定居宅介護支援の事業に係る基準のうち厚生省令で定めるものを満たすと認められる事業を行う事業所により行われるものをいう。以下同じ。)を受けた場合等において、必要があると認めるときは、特例居宅介護サービス計画費を支給すること。
キ 施設介護サービス費の支給
(ア) 市町村は、要介護者が、介護保険施設から指定施設サービス等を受けたときは、施設介護サービス費を支給すること。
(イ) 施設介護サービス費の額は、施設サービスの種類ごとに、要介護状態区分、地域等を勘案して算定される平均的な費用の額(日常生活に要する費用を除く。)を勘案して厚生大臣が定める基準により算定した額の一〇〇分の九〇に相当する額と介護保険施設における食事提供に要する費用の額から食費の標準負担額(低所得者に対する必要な配慮を行う。)を控除した額の合計額としたこと。
ク 特例施設介護サービス費の支給
市町村は、要介護者が、要介護認定の効力が生じた日前に、緊急その他やむを得ない理由により指定施設サービス等を受けた場合等において、必要があると認めるときは、特例施設介護サービス費を支給すること。
ケ 高額介護サービス費の支給
要介護者が受けた居宅サービス又は施設サービスに要した費用の合計額から、当該費用につき支給された居宅介護サービス費、特例居宅介護サービス費、施設介護サービス費及び特例施設介護サービス費の合計額を控除して得た額が、著しく高額であるときは、当該要介護者に対し高額介護サービス費を支給すること。この支給の要件については、低所得者に対して配慮する予定であること。
(3) 予防給付
予防給付は、居宅支援サービス費の支給、特例居宅支援サービス費の支給、居宅支援福祉用具購入費の支給、居宅支援住宅改修費の支給、居宅支援サービス計画費の支給、特例居宅支援サービス計画費の支給及び高額居宅支援サービス費の支給とし、それぞれ介護給付と同様に所要の事項を定めたこと。
(4) 保険料滞納者対策等
保険料滞納者に係る支払方法の変更、保険給付の支払の一時差止、保険料の未納があり、消滅時効にかかった期間がある場合の給付率の引下げ等の措置等に関し、所要の規定を設けたこと。
4 事業者及び施設に関する事項
(1) 指定居宅サービス事業者及び指定居宅介護支援事業者
都道府県知事は、厚生大臣が定める人員、設備及び運営に関する基準等に従い、居宅サービス事業又は居宅介護支援事業を行う者の申請により、事業所ごとに、指定居宅サービス事業者又は指定居宅介護支援事業者の指定を行うこととしたこと。この場合において、病院、診療所又は薬局によって行われる居宅療養管理指導、訪問看護等以外の申請については、申請者が法人である必要があること。
(2) 介護保険施設
都道府県知事は、厚生大臣が定める介護保険施設の人員、設備及び運営に関する基準等に従い、特別養護老人ホーム又は療養型病床群等を有する病院の開設者の申請により、指定介護老人福祉施設又は指定介護療養型医療施設の指定を行い、介護老人保健施設を開設しようとする者の申請により許可を行うこととしたこと。
この場合において、介護老人保健施設及び介護療養型医療施設については、都道府県介護保険事業支援計画において定める圏域の入所定員総数に既に達している場合等には、それぞれ許可及び指定をしないことができること。
なお、介護老人福祉施設については、介護保険事業支援計画で定める区域における入所定員の総数が都道府県老人福祉計画において定める当該区域の必要入所定員総数に既に達している場合等には、老人福祉法(昭和三八年法律第一三三号)において特別養護老人ホームの開設の認可をしないことができること。
(3) 都道府県知事は、指定居宅サービス事業者、指定居宅介護支援事業者又は介護保険施設等に対し、必要な報告等を求めることができるとともに、指定等の基準に合致しなくなったと認める場合等については、指定等の取消しができることとしたこと。
5 介護保険事業計画に関する事項
(1) 厚生大臣は、介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本指針を定めるものとし、当該指針には、市町村介護保険事業計画において介護サービスの種類ごとの量の見込みを定めるに当たって参酌すべき標準等を定めるものとしたこと。
(2) 市町村は、市町村が行う介護保険給付の円滑な実施を図るため、基本指針に即して、あらかじめ、被保険者の意見を反映させるために必要な措置を講じた上で、三年ごとに五年を一期とする介護保険事業計画を定めるものとし、当該計画には、当該市町村の区域における要介護者等の人数等を勘案して、各年度における介護サービスの種類ごとの量の見込み、当該見込量の確保のための方策等を定めるものとしたこと。また、この計画は、市町村老人保健福祉計画等と調和が保たれたものでなければならないこと。
(3) 都道府県は、介護保険給付の円滑な実施の支援を図るため、基本指針に即して、三年ごとに五年を一期とする介護保険事業支援計画を定めるものとし、当該計画には、圏域ごとに各年度の介護保険施設の種類ごとの必要入所定員総数その他の介護サービスの量の見込み、施設整備、介護支援専門員等の介護サービスに係る人材の確保等に関する事項等を定めるものとしたこと。また、この計画は、都道府県老人保健福祉計画、医療計画等と調和が保たれたものでなければならないこと。
6 費用等に関する事項
(1) 費用の負担
ア 国、都道府県及び市町村の負担
(ア) 国は、市町村に対し、介護給付及び予防給付に要する費用の額の一〇〇分の二〇に相当する額を負担するとともに、介護保険の財政の調整を行うため、市町村に対して、介護給付及び予防給付に要する費用の額の総額の一〇〇分の五に相当する額の調整交付金を交付し、また、要介護認定等に係る事務費の二分の一に相当する額を交付することとしたこと。
(イ) 都道府県は、市町村に対し、介護給付及び予防給付に要する費用の額の一〇〇分の一二・五に相当する額を負担することとしたこと。
(ウ) 市町村は、その一般会計において、介護給付及び予防給付に要する費用の一〇〇分の一二・五に相当する額を負担することとしたこと。
イ 市町村の介護給付及び予防給付に要する費用の額に第二号被保険者負担率(すべての市町村に係る被保険者の見込数の総数に対するすべての市町村に係る第二号被保険者の見込数の総数の割合に二分の一を乗じて得た率を基準として設定するものとし、三年ごとに、当該割合の推移を勘案して政令で定めるものをいう。)を乗じて得た医療保険納付対象額については、社会保険診療報酬支払基金(以下「支払基金」という。)が市町村に対して交付する介護給付費交付金をもって充てることとしたこと。
(2) 第一号被保険者に係る保険料
ア 市町村は、介護保険事業に要する費用に充てるため、第一号被保険者から政令で定める基準に従い条例で定めるところにより算定された保険料率に基づき、保険料を徴収しなければならないこととし、この保険料率は、概ね三年を通じ財政の均衡を保つことができるものでなければならないこととしたこと。
イ 保険料の徴収については、年金保険者による特別徴収の方法による場合を除くほか、市町村が第一号被保険者等から保険料を徴収する普通徴収の方法によらなければならないこととしたこと。この場合において、第一号被保険者が属する世帯の世帯主及び第一号被保険者の配偶者は、保険料の連帯納付義務を負うこととしたこと。
(3) 財政安定化基金等
ア 財政安定化基金
都道府県は、市町村の介護保険の財政の安定化に資するため、国、都道府県及び市町村(第一号被保険者の保険料)の三分の一ずつの負担により財政安定化基金を設け、一定の事由により市町村の介護保険の財政に不足が生じた場合に、資金の交付又は貸付けを行うものとしたこと。
イ 市町村相互財政安定化事業
市町村は、介護保険の財政の安定化を図るため、介護給付等に要する費用の財源について、市町村相互間において調整する事業を行うことができるものとし、都道府県は、市町村の求めに応じ、当該事業に係る必要な調整等を行うものとしたこと。
(4) 医療保険者の納付金
医療保険者は、年度ごとに、支払基金に対する介護給付費納付金(以下「納付金」という。)の納付に充てるため、医療保険各法等の規定により保険料等を徴収し、納付金を納付する義務を負うこととし、この納付金の額は、当該年度におけるすべての市町村の医療保険納付対象額の見込額の総額をすべての医療保険者に係る第二号被保険者の見込数の総数で除して得た額に、当該医療保険者に係る第二号被保険者の見込数を乗じて得た額を基本とすることとしたこと。
7 社会保険診療報酬支払基金の介護保険関係業務に関する事項
支払基金は、医療保険者から納付金を徴収し、市町村に対し介護給付費交付金を交付することとしたこと。
8 保健福祉事業に関する事項
市町村は、保健福祉事業として、要介護者を現に介護する者等の支援事業、被保険者が要介護状態となることを予防するための事業等を行うことができることとしたこと。
9 国民健康保険団体連合会の介護保険事業関係業務に関する事項
国民健康保険団体連合会は、次に掲げる業務等を行うこととしたこと。
(1) 市町村から委託を受けて行う居宅介護サービス費等の請求に関する審査及び支払
(2) 指定居宅サービス等の質の向上に関する調査並びに指定居宅サービス事業者等に対する必要な指導及び助言(苦情処理的業務)
(3) 介護保険事業の円滑な運営に資する事業
10 審査請求に関する事項
保険給付に関する処分(要介護認定等に関する処分を含む。)又は保険料等の徴収金(納付金等を除く。)に関する処分に不服がある者は、各都道府県に設置された、被保険者を代表する委員、市町村を代表する委員及び公益を代表する委員で組織される介護保険審査会に審査請求をすることができることとしたこと。
なお、要介護認定等に関する不服については、迅速な権利救済を図る等の観点から、公益代表委員のみで審査する等の措置を講じたこと。
11 経過措置に関する事項
(1) 居宅介護サービス費等支給限度基準額等に関する経過措置
市町村は、当該市町村が行う介護保険の保険給付に係る居宅サービス等の必要量の見込み、当該居宅サービス等を提供する体制の確保の状況等を考慮して、特に必要と認める場合においては、施行日から起算して五年を経過した日以後の政令で定める日までの間は、介護保険法に規定する法定居宅給付支給限度基準額に代えて、当該額を下回る額を、当該市町村における経過的居宅給付支給限度基準額とすることができることとしたこと。
なお、これにより、当該市町村の保険料の水準は、法定居宅給付支給限度基準額の場合に比して低額となること。
この場合、当該市町村は介護サービスを提供する体制の確保に必要な措置を講ずるよう努めるものとし、国、都道府県等は、当該市町村に対する支援等を行うよう努めるものとしたこと。
(2) 介護保険施設等に関する経過措置
介護保険法の施行の際現に老人保健法(昭和五七年法律第八〇号)に規定する規定老人訪問看護事業者であるもの並びに介護保険法の施行の際現に存する特別養護老人ホーム及び老人保健施設のそれぞれについて、介護保険法の居宅サービスに係る指定並びに介護老人福祉施設の指定及び介護老人保健施設の開設の許可がそれぞれあったものとみなす等所要の経過措置を設けたこと。
(3) 特別養護老人ホームの旧措置入所者に関する経過措置
介護保険法の施行の際現に特別養護老人ホームに入所している者については、施行日以後引き続き当該特別養護老人ホームに入所している間は、当該措置をとった市町村が行う介護保険の被保険者とするとともに、施行日から起算して五年間に限り、要介護被保険者とみなして、施設介護サービス費を支給することとし、これらの者の利用者負担については、所得の状況に応じて一定の減免を行うこととしたこと。
(4) 老人保健施設の入所者に関する経過措置
介護保険法の施行の際現に老人保健施設に入所している者について、施行日以後引き続き当該施設に入所し、施設療養に相当するサービスを受けている間は、老人保健法に基づく医療費を支給する経過措置を設けたこと。
(5) その他介護保険法の施行のため所要の経過措置を設けたこと。
12 関係法律の一部改正に関する事項
(1) 老人福祉法の一部改正
市町村は、要援護老人がやむを得ない事由により、介護保険法に規定するサービスを利用することが著しく困難であると認めるときは、居宅における介護、特別養護老人ホームへの入所等の措置を採ることができることとする、痴呆対応型老人共同生活支援事業を独立の在宅サービスとして位置付けることとする等、所要の改正を行うこととしたこと。
(2) 老人保健法の一部改正
老人保健施設、指定老人訪問看護事業者等に関する規定を整理するほか、介護保険の給付が行われる場合は、これに相当する医療等を行わないこととし、指定介護療養型医療施設に入院している者については、厚生大臣が定める療養に係るものを除き、老人保健法による医療を行わないこととする等、所要の改正を行うこととしたこと。
(3) 健康保険法の一部改正
健康保険法(大正一一年法律第七〇号)に基づく給付は、これに相当する介護保険法に基づく給付を受けることができる場合には、これを行わないこととしたこと、健康保険の保険料の徴収目的に介護納付金の納付に要する費用に充てることを加え、介護保険の第二号被保険者である被保険者の保険料額は、一般保険料額(被保険者の標準報酬月額に一般保険料率を乗じて得た額)と介護保険料額(被保険者の標準報酬月額に介護保険料率を乗じて得た額)との合算額とすること等、所要の改正を行うこととしたこと。
ただし、健康保険組合については、規約により、介護保険の第二号被保険者である被扶養者がある四〇歳未満の被保険者の保険料額を一般保険料額と介護保険料額の合算額とすること等ができることとしたこと。
介護保険料率は、各年度において医療保険者が納付すべき介護納付金の額(政府管掌健康保険については国庫補助額を控除した額)を当該年度における当該保険者の管掌する介護保険の第二号被保険者(規約により、介護保険の第二号被保険者である被扶養者がある四〇歳未満の被保険者の保険料額を一般保険料額と介護保険料額の合算額とする健康保険組合については、介護保険の第二号被保険者である被扶養者がある四〇歳未満の被保険者も含む。)である被保険者の標準報酬月額の総額の見込額で除して得た率を基準として当該保険者が定めるものであること。また、一般保険料率と介護保険料率を合計した保険料率に上限が設定されていること。
なお、保険料額は事業主と折半であり、健康保険組合については、規約により事業主の負担割合を増加させることができること。
(4) 船員保険法の一部改正
健康保険法の改正に準じた改正を行うこととしたこと。
(5) 国民健康保険法の一部改正
保険料の徴収目的として介護納付金の納付に要する費用を加え、介護納付金の納付に要する費用に充てるための保険料は介護保険の第二号被保険者である被保険者について賦課するとともに、その費用を国庫負担の対象としたこと。また、保険料を滞納している世帯主等に対する措置を強化する等、所要の改正を行うこととしたこと。
(6) 生活保護法の一部改正
保護の種類として介護扶助を創設する等、所要の改正を行うこととしたこと。
(7) その他
(1)から(6)までに掲げる事項のほか、関係法律について所要の改正を行うこととしたこと。
13 施行期日
介護保険法及び介護保険法施行法は、一部を除き平成一二年四月一日から施行することとしたこと。
14 検討
(1) 介護保険制度については、要介護者等に係る保健医療サービス及び福祉サービスを提供する体制の状況、保険給付に要する費用の状況、国民負担の推移、社会経済の情勢等を勘案し、並びに障害者の福祉に係る施策、医療保険制度等との整合性及び市町村が行う介護保険事業の円滑な実施に配意し、被保険者及び保険給付を受けられる者の範囲、保険給付の内容及び水準並びに保険料及び納付金(その納付に充てるため医療保険各法の規定により徴収する保険料等を含む。)の負担の在り方を含め、この法律の施行後五年を目途としてその全般に関して検討が加えられ、その結果に基づき、必要な見直し等の措置が講ぜられるべきものとしたこと。
(2) 政府は、制度の見直し等に係る検討をするに当たって、地方公共団体等から意見の提出があったときは、当該意見を十分に考慮しなければならないものとしたこと。
第三 施行に当たっての留意事項
1 介護保険制度は、国民の共同連帯の理念に基づく制度であり、すべての被保険者に負担能力に応じた保険料負担を求めることにより、必要な保険給付の費用を賄っていこうとする制度であることから、制度創設の趣旨及び内容について、市町村、被保険者その他関係者の十分な理解を得ることが極めて重要であり、その周知徹底に努められたいこと。
2 介護保険制度は、平成一二年四月一日が主たる施行日とされているところであるが、速やかに介護保険事業計画等の策定の準備等を開始する必要があるとともに、平成一一年度には、新たな事務である要介護認定等に係る事務等の具体的な事務処理が実質的に開始されることとなるなど、施行日前の比較的短期間において相当量の準備事務を行うことが、都道府県、市町村それぞれについて必要となる。こうした点や、本制度が完全に実施される将来の体制を勘案して、十分にこれに即応できる事務機構その他の事務処理体制の確立が図られるよう努められたいこと。