添付一覧
○有料老人ホームの設置運営に対する指導の徹底(広告等に関する表示の基準)について
(平成四年四月一日)
(老振第二四号)
(各都道府県民生担当部(局)長あて厚生省大臣官房老人保健福祉部老人福祉振興課長通知)
有料老人ホームの設置運営については、「有料老人ホーム設置運営指導指針」(平成三年三月二八日老福第七二号老人保健福祉部長通知別添)、「有料老人ホームの設置運営に対する指導の徹底について」(平成三年一一月一一日老振第三五号老人福祉振興課長通知)等により、その指導が行われているところである。
今般、(社)全国有料老人ホーム協会では有料老人ホームの広告、宣伝活動の適正化を図るため、別添のとおり、「有料老人ホームの広告等に関する表示の基準」を作成した。
ついては、今後この基準を参考にパンフレット、入居案内書等における誇大広告等の不適当な記載について改善指導の徹底を図られたい。
なお、(社)全国有料老人ホーム協会加入の有料老人ホームに対しては、本日付けで同協会から基準が送付され、その改善の指導が行われているところである。
〔別添〕
有料老人ホームの広告等に関する表示の基準
〔社団法人全国有料老人ホーム協会〕
はじめに
わが国の有料老人ホームは、社会の高齢化の進展とともに、その数も次第に増え、社会的関心も近年急激に高まっている。
こうした有料老人ホームに対する社会的関心の高まりにつれて、一部ではあるが、介護サービス体制等について、入居後におけるホームの現実の対応とパンフレット等の表示内容とが異なっているとの指摘がなされる事態も生じている。また、この業界における用語も必ずしも統一されているとはいえず、このことも、前述のような問題の一因となっているものと考えられる。
このような状況認識に基づいて、入居者の保護と有料老人ホーム事業者の健全な育成とを二大使命とする当協会が、会員ホームのみならず、広く会員以外のホームでも役立てられるよう、会員ホームの協力を得てまとめたものが、この「有料老人ホームの広告等に関する表示の基準」である。
一般に商品あるいは事業体についての広告等は、その役割からいって当然に消費者にその商品あるいは事業体を強くアピールすることを意図するものであるが、「有料老人ホーム」については、その社会的意義から考えて、そこにはおのずと節度があって然るべきものである。
有料老人ホームの入居案内書、パンフレット、募集広告等、販売のための説明用図画文書は契約書と同等の重みを持つものであり、慎重に扱うべきものである。とりわけ、この事業は、高齢者を対象とするものであること、またその故に「介護」と「医療」とを抜きにしては考えられず、しかも、この介護と医療行為との境界があいまいになりやすいという面がある。よって、広告等は、これらの点を明確にするとともに、高齢者に分かりやすく具体的に表示することが求められるのである。
この表示基準は、当協会としては初めて具体的に取りまとめたものである。各有料老人ホーム事業者においては、この基準に従って広告・表示することは社会的責務である、との認識に立って、事業の社会的評価の向上に努められたい。
なお、この基準は社会的関心の急激な高まりを踏まえ限られた期間内にとりまとめられたものである。したがって、今後、必要事項を捕追するとともに社会的・制度的な環境の変化に伴う見直しを行っていく必要がある。
最後に、この表示基準は各委員の貴重な意見をもとに作成したものであり、昨年一○月以来一○回余りにおよぶ委員会に、ご多用中を快くご出席頂いたことにつき厚くお礼申し上げる次第である。
平成四年三月
社団法人 全国有料老人ホーム協会
理事長 長谷川 力
広告等検討委員会構成
(順不同・敬称略)
(委員)
大久保 重 義 北水会病院院長・株式会社ケアレジデンス代表取締役
木 下 幹 郎 中銀マンシオン株式会社 常務取締役
竹 内 俊 介 財団法人千代田生命健康開発事業団 広報部長
玉 田 弘 毅 明治大学法学部教授
松 原 悠紀雄 株式会社サンビナス 常務取締役
三 田 道 弘 宗教法人国柱会理事・申孝園ロータスヴィラ施設長
山 本 清 夫 社会福祉法人黎明会熱海ゆとりあの郷 支配人
(協会事務局)
中 本 賢 事務局長
三 谷 寿 一 事務部長
五十嵐 さち子 総務部長兼経理部長
宮 島 敏 事務部次長
山 口 博 之 企画課長
目次
1 表示に対する基本的考え方
2 表示用語
(1) 特定用語の使用基準
① 絶対語
② 最上語
③ 優位語
(2) 用語の意味
① 終身利用権
② 終身介護
③ 看護と介護
④ 常駐と常勤
3 事例
(1) 実際のものよりも優良であると誤解される、ま
たは、誇大な表現例
(2) 介護に関する表現例
(3) 介護と医療・看護の混同した例
(4) 医療に関する表現例
(5) 各種サービスに関する例
(6) 老人福祉施設との関係についての例
1 表示に対する基本的考え方
パンフレット・リーフレット等販売のための説明用図画文書等は契約書と同等の重みを持つものであり、有料老人ホームについてその広告等に関し次の基本的考え方により表示するものとする。
(1) 有料老人ホームの施設・設備・サービス・人員等について実際よりも優良であると誤認されないように表示する。
(2) 有料老人ホーム内での介護体制(場所・人・費用・レベル・規定外介護)について明確にし、入居者の誤解をまねかないように表示する。
(3) 介護と医療・看護の意味を混同せずに表示する。看護という用語は医療行為がともなうと受け取られるので注意すること。
(4) 医療設備及び医療面について医師法等の法令に抵触するなどの誤解をされないように表示する。
(5) 提携医療機関又は提携介護施設と表示する場合は有料老人ホームと提携契約が結ばれていることが必要である。提携医療機関を表示する場合には、提携内容を具体的に表示すること。(例えば、緊急時の対応、日常の健康管理の方法等)
(6) 各種サービス及び共用施設・設備の利用についてその内容及び費用負担を明確にする。広告等に表示するサービスは必ずできることを表示する。(「詳細については別途規定による」としている場合は必ずその旨表示すること。)
(7) 老人福祉施設との区別・関係を明確に認識し誤解をうけないように表示する。
(8) 最寄りの交通機関からの案内を徒歩で表示する場合は、高齢者の歩行を考え距離を表示すること。(不動産業界の広告表示では八○mを一分としているが高齢者の歩行速度は個人差が大きい)
2 表示用語
パンフレット等の表示用語は、次の点に留意して使用するものとする。
(1) 特定用語の使用基準
① 全く欠けるところがないことを意味する用語は断定的に使用しない。
例:「完全」「完璧」「絶対」「万全」等
② 最上級を意味する用語は客観的・具体的に説明できる根拠がない限り使用しない。
例:「最高」「最高級」等
③ 他の事業者よりも優位に立つことを意味する用語は客観的・具体的に説明できる根拠がない限り使用しない。
例:「日本」「業界」「当社だけ」「他に類を見ない」等
(2) 用語の意味
① 終身利用権
終身利用権という用語は同一施設内介護型と提携施設介護型の二つの終身利用型ホームで使用される。
同一施設内介護型でいう終身利用権は、入居者が入居契約を結び、入居金及び利用料を支払うことにより、契約書に基づいた施設・設備・サービス等を終身にわたり利用できる権利である。
提携施設介護型でいう終身利用権も、入居者が入居契約を結び、入居金及び利用料を支払うことにより、契約書に基づいた施設・設備・サービス等を終身にわたり利用できる権利である。ただし、入居者が提携介護施設に移った場合には、その権利は、提携介護施設の施設・設備・サービス等を利用する権利にかわるものである。
これら終身利用型ホームにあっては、医療などのため医療機関等に移ることがあっても当初の入居契約は存続し、元の施設での生活が可能な程度に回復したときは当然元の施設に復帰できるものである。
② 終身介護
終身にわたり介護をする、ないしは介護を受けるという事。
従って、終身介護という言葉をパンフレット等に表示するという事は、
(a) 施設側としては、入居者に対し、終身にわたり介護を行う義務を負うことであり、
(b) 入居者側としては、終身にわたり介護を受ける権利を有しているということである。
「終身介護です」といった表現がなされて契約が結ばれている場合、
(a) 施設側としては、終身にわたり介護を行うという義務を放棄することはできないし、
(b) 入居者側としては、終身にわたり、介護を受ける権利を保持していることになる。
介護にかかわる費用についてはそれぞれの施設の契約により徴収方法が異なるので、具体的基準についてはそれぞれの契約書及び管理規程に明示しておくこと。
※前記①及び②の補足
〔1〕 医療機関において加療を受けることは、あくまで一時的なものである。したがって医療機関と提携することをもって、終身介護であることを標榜することはできない。
〔2〕 医療機関は、有料老人ホームにおけると同様の意味での終身介護の場ではなく、あくまでも治療の場である。
〔3〕 終末期における必要な医療は一般的には医療機関が行うものが通例となっている。
③ 看護と介護
「看護」は、一般には、傷病者等に対する療養上の世話または診療の補助をすることをいい、「介護」は、精神または身体の不健全な状態にある者の行為を補助することをいう。
参考:老人福祉法第一○条の四
「身体上又は精神上の障害があるために日常生活を営むのに支障があるものにつき……入浴、排泄、食事等の介護」
④ 常駐と常勤
常駐とは二四時間その職務にたずさわる者がいることであり、常勤とはその職務に専任の者がいることで、その場合必ずしも二四時間職務に携わることを要するものではない。ただし、この場合勤務時間の明示が必要である。
3 事例
現実に使用されているパンフレット等を検討した結果、不適当と考えられる事例は次のとおりである。今後、本事例を参考として適切に表示するものとする。
(1) 実際のものよりも優良であると誤解される、または、誇大な表現例
① 「充実した医療のための総合施設」
有料老人ホームは医療施設ではないし、診療所を併設しているとしても「充実した医療のための総合施設」は誇大表示のおそれあり。
② 「温泉・病院・ハイツが一体化」
一体化という表現は多義的(同一経営者なのか、同一敷地内にあるのか、どういう提携内容なのか等)で不明確なので、好ましくない。
③ 「夢の城郭」
有料老人ホームを表現するものとしては好ましくない。
④ 「万全の医療体制」
「万全」というような断定的な表現をしてはならない。
(2) 介護に関する表現例
① 「医療スタッフが二四時間体制で見守ります」
医療スタッフが直接介護を行うことは通常ないので、介護の項目で医療スタッフという表示をするのは適当でない。
② 「寝たきりになった場合や、老人性痴呆になった場合などに、身元引受け人や家族と相談し、本人にとって一番よい方法をご一緒に考えさせていただく」
このような表現では具体性に欠ける。入居者にとって不利益とならないように、介護の方法・場所・費用等の対処方法について具体的に表示しておくこと。
③ 「費用は介護保証金をとりくずして充当します。」
介護保証金は月々どれくらいとりくずすのか、また、不足した場合どうなるのか不明
④ 「寝たきりになった時、最高八万円の介護料を頂き…」
基準期間(一日当り・一月当り等)が不明
※前期③及び④の補足
介護が必要になった場合の費用負担が不明確な例や、費用負担は記載していても不充分な表示のものがある。別途明確な資料を用意しパンフレット等にその旨表示しておくこと。
(3) 介護と医療・看護の混同した例
① 「看護介護サービス」「医療介護サービス」「治療介護」等
有料老人ホームでの「介護」には医療・看護は含まれないので、用語は厳密に使いわけて表示すること。ホームが医療行為も含め前記のすべてのサービスを行うと誤解される。
② 「病状により看護が必要な方のために、専門設備を整えた介護室もご用意しました。」
看護のための介護室という表現は変更すべきである。例えば、「体調により介護が必要な方のために介護室をご用意しました」とか、施設内に診療所を併設しているホームの場合は「治療が必要な方のために診療所を設置している」等。
(4) 医療に関する表現例
① 「ホームドクター」
有料老人ホームの嘱託医などの意味か、入居者の家庭医としての意味か、まぎらわしいので好ましくない。
② 「定期的に」
定期的と表示する場合、日時や回数等を明記すること。例えば毎日一回とか、週に一回など。
③ 「医師・看護婦・ヘルパーが二四時間体制で」
「医師(非常勤)・看護婦・ヘルパーを二四時間配置して」
このような表示は医師・看護婦・ヘルパーの三人が常駐していると受け取られるので二四時間体制の内容を具体的に表示すること。後者の例では、非常勤の医師が二四時間いるはずなく、不当表示のおそれあり。
④ ホーム内の「健康管理室」「医務室」「診察室」と医療法上の「診療所」とは制度上異なるので明確に表示すること。有料老人ホームは医療機関ではないので、医療機関と誤解されるような表示はしない。
・医療法第三条
「疾病の治療(助産を含む)をなす場所であって、病院又は診療所でないものは、………病院又は診療所に紛らわしい名称を附けてはならない。」
・医療法第七条〔病院等の開設の許可〕、第八条〔診療所等の開設の届出〕も参照のこと
⑤ 「隣接する〇〇病院に入院できます。」
このような表示は、優先的に入院できるようにとられかねないので、提携・協力・たんなる隣接などの区別をして、有料老人ホームと病院との関係を明確にしておくこと。
⑥ 「優先的に診察や入院加療を受け」
優先的に治療を受けられるという表現は不適当。
⑦ 「総合病院と提携ベッドを確保していますので入院治療は直ちに行います」入院治療は医師が行うもので、ホームが行うものではない。この表現はホームが主体となって行うような誤解を受けるおそれがある。
(5) 各種サービスに関する例
① 「ご病気などの場合には、ホームヘルパーが特別食をあなたのお部屋までお運びいたします。」
「在宅の家事サービスや生活援助サービスを行います。」
「居室でのメイドサービス(掃除、洗濯、繕いものなど)がご利用になれます」
前記の例では、その費用負担について無料か有料かを明記していない。毎月の食費・管理費以外の負担となるのか否かの表示は必要。
② 「ホーム内の専従の看護婦が毎日定期的に予防・健康管理に努めます」
この表現は一般健康型のホームの例であるが、「毎日定期的」に行えない場合には入居者より苦情がでるおそれがあるので注意すること。また、予防・健康管理とはどのような事をするのか不明であり、具体的に表示すること。
③ 医療が必要となった場合の治療費の費用負担を表示していない例が多い。
健康保険診療の自己負担分及び保険診療外の自己負担分は入居者負担であることを明記しておくほうが誤解をまねかない。
(特に病院に入院した際の付添い費、差額ベッド代、おむつ代等)
(6) 老人福祉施設との関係についての例
① 「提携施設特別養護老人ホーム○○」
「特別養護老人ホーム○○○が隣接にあり、ご利用も可能です」
特別養護老人ホームへの入所は、措置権者(都道府県、市及び福祉事務所を設置する町村)が行うもので、有料老人ホームの入居者に入所の優先権があるものではない。
② 「有料老人ホーム○○○は、……が設立した老人福祉施設です。」
根本的な誤り。有料老人ホームは老人福祉施設ではない。
参考:法人福祉法第二九条第一項
有料老人ホーム(常時一○人以上の老人を入所させ食事の提供その他日常生活上必要な便宜を供与することを目的とする施設であって、老人福祉施設でないものをいう。……)