添付一覧
○老人保健法による健康診査について
(平成四年四月一三日)
(老健第八八号)
(各都道府県・各指定都市老人保健主管部(局)長あて厚生省大臣官房老人保健福祉部老人保健課長通知)
標記については、平成四年四月一三日付け老健第八六号厚生省大臣官房老人保健福祉部長通知により実施の要領が改正されたところであるが、さらに左記事項について留意の上、事業の円滑な実施に遺憾なきを期されたい。
あわせて、貴管下市町村及び関係団体等に対する周知徹底をお願いする。
おって、本通知は平成四年四月一日から適用し、昭和六二年六月一日付け健医老老第一九号本職通知「老人保健法による健康診査について」は廃止する。
記
一 基本健康診査
(一) 判定方法等
基本健康診査の検査項目の判定方法等は以下のとおりである。
ア 身体計測
判定に当たっては、「肥満とやせの判定表・図」(厚生省)等を参考とする。
イ 血圧測定
測定手技については、「循環器疾患診断手技」(社団法人日本循環器管理研究協議会(以下「日循協」という。)編)を参考とし、判定に当たっては、WHOの本態性高血圧分類を参考とし、判定区分は、「正常血圧」、「境界域高血圧」及び「高血圧」とする。
ウ 検尿
測定手技及び判定については、「循環器疾患診断手技」(日循協編)等を参考とする。
エ 心電図検査
判定に当たっては、「心電図判定基準」(日循協編)等を参考とする。
オ 眼底検査
手技については、「循環器疾患診断手技」(日循協編)等を参考とし、判定に当たっては、「眼底所見判定基準」(日循協編)を参考とする。
なお、散瞳剤の点眼を行う場合には、緑内障、伝染性眼疾患等を問診によって確認し、副作用等の事故防止を図る。
カ 貧血検査
判定に当たっては、検査値より算定した平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球血色素量(MCH)及び平均赤血球血色素濃度(MCHC又はMCC)を参考とする。
キ 血糖検査(グルコース)
測定手技及び判定については、平成八年六月二八日付老健第一七一号本職通知の別添「糖尿病に関する検査の取扱要領」を参考とする。
ク ヘモグロビンA1C検査
測定手技及び判定については、平成八年六月二八日付老健第一七一号本職通知の別添「糖尿病に関する検査の取扱要領」を参考とする。
(二) 選択実施項目の選定
選択実施項目の選定に当たっては、次の基準に該当する者について特に配慮するとともに、受診者の性、年齢等についても配慮する。
ア 心電図検査
(ア) 最大血圧一四〇mmHg以上又は最小血圧九〇mmHg以上の者
(イ) 循環器系疾患の自覚症状、既往歴又は家族歴を有する者
(ウ) 喫煙歴(概ね一日二〇本以上)又は飲酒歴(概ね一日日本酒二合、ビール二本、ウイスキーダブル二杯以上)を有する者
(エ) 肥満
(オ) 不整脈又は心雑音の認められる者
(カ) 尿糖陽性又は尿蛋白(+)以上の者
イ 眼底検査
心電図検査の対象者のうち医師が必要と認める者
ウ 貧血検査
貧血の既往歴を有する者又は視診等で貧血が疑われる者
エ ヘモグロビンA1C検査
(ア) 原則として、血糖検査の結果が以下の①又は②のいずれかの基準に該当する者に対して実施すること。
①空腹時血糖値が次に該当する者
一一〇mg/dl以上一四〇mg/dl未満(血漿又は血清)
九五mg/dl以上一二〇mg/dl未満(全血)
②随時血糖値が次に該当する者
一四〇mg/dl以上二〇〇mg/dl未満(血漿又は血清)
一二〇mg/dl以上一八〇mg/dl未満(全血)
(イ) 前記基準に該当しないが、糖尿病の自覚症状、既往歴又は家族歴を有する者、肥満の認められる者及び尿糖陽性の者等医師が必要と認める者についても、ヘモグロビンA1C検査を実施すること。
(三) 指導区分
「要指導」及び「要医療」と区分された者については、循環器疾患、貧血、肝疾患、腎疾患及び糖尿病のいずれの疾患に関連して区分されたものであるかを明確にしておく。
二 子宮体部がんの検診
(一) 検診の実施
ア 対象者
子宮体部の細胞診(子宮内膜細胞診)の対象者は、原則として最近六カ月以内の不正性器出血を訴えたことのある者で、
(ア) 年齢五〇歳以上の者
(イ) 閉経以後の者
(ウ) 未妊婦であって月経不規則の者
のいずれかに該当する者とする。
イ 問診の留意点
問診時に聴取する不正性器出血は、いわゆる不正出血、閉経後出血、不規則月経、下着に付着したしみ程度の赤色斑点(スポッティング)、一次的な少量の出血、褐色帯下等出血に起因する全ての状態を含む。従って、問診の際にはこのような状態を正しく把握するよう留意する。
ウ 細胞採取の留意点
子宮体部の細胞診においては、吸引法又は擦過法によって子宮内膜細胞を採取するが、対象者は主として更年期又は更年期以後の婦人であることから、子宮頚管が狭くなっていること等を考慮し、吸引法及び擦過法の両器具を準備しておくことが望ましい。
検診車や保健所等で検診を実施する場合であって、吸引法又は擦過法のいずれかの方法を用いても器具の挿入ができないときには、速やかに医療機関を受診するよう受診者に指導するとともに、医療機関における細胞診の結果等の把握に努める。
(二) 指導区分等
原則として、子宮体部の細胞診の判定結果が「疑陽性」及び「陽性」の者は「要精検」とし、「陰性」の者は、その他の臨床症状を勘案し精密検査受診の要否を決定するが、精密検査受診の必要がない場合は「精検不要」とし、それぞれ次の内容の指導を行う。
ア 「要精検」と区分された者
医療機関において精密検査を受診するよう指導する。
イ 「精検不要」と区分された者
翌年の検診受診を勧めるとともに、日常生活において不正性器出血等に注意するよう指導する。
三 肺がん検診
(一) 喀痰細胞診の実施
ア 対象者
喀痰細胞診の対象者は、問診の結果、原則として
(ア) 五〇歳以上で喫煙指数(一日本数×年数)六〇〇以上の者(過去における喫煙者を含む。)
(イ) 六カ月以内に血痰のあった者
のいずれかに該当することが判明した者とする。
イ 喀痰採取の方法
喀痰細胞診の対象者に有効痰の採取方法を説明し、保存液の入った喀痰採取容器を配布し、喀痰を採取する。喀痰は、起床時の早朝痰を原則とし、最低三日の蓄痰、又は三日の連続採痰とする。
採取した喀痰(細胞)の処理方法は以下のとおりである。
(ア) ホモジナイズ法又は蓄痰直接塗抹法により、二枚以上のスライドグラスに擦り合わせ式で塗抹する。塗抹面積はスライドグラス面の三分の二程度とする。
(イ) 蓄痰直接塗抹法では粘血部、灰白色部等数カ所からピックアップし、擦り合わせ式で塗抹する。
(ウ) パパニコロウ染色を行い顕微鏡下で観察する。
ウ 判定
喀痰細胞診の結果の判定は、「肺癌集団検診の手びき」(日本肺癌学会集団検診委員会編)の「集団検診における喀痰細胞診の判定基準と指導区分」によって行う。
(二) 胸部エックス線検査に用いる適格な写真
胸部エックス線検査に用いる肺がん検診に適格な胸部エックス線写真とは、肺尖、肺野外側縁、横隔膜、肋骨横隔膜などを十分に含むようなエックス線写真であって、適度な濃度とコントラスト及び良好な鮮鋭度をもち、縦隔陰影に重なった気管、主気管支の透亮像並びに心陰影及び横隔膜に重なった肺血管が観察できるものであり、かつ、次により撮影されたものとする。
ア 間接撮影であって、一〇〇mmミラーカメラを用い、定格出力一五〇KV以上の撮影装置を用いた、一二〇KV以上の管電圧による撮影。
イ 間接撮影であって、定格出力一二五KVの撮影装置を用い、一一〇KV以上の管電圧により、縦隔部の感度を肺野部に対して高めるため希土類(グラデーション型)蛍光板を用いた撮影。
ウ 直接撮影であって、被験者一管球間の距離を一・五m以上とし、定格出力一五〇KV以上の撮影装置を用い、原則として一二〇KV(やむを得ない場合は一〇〇~一二〇KVでも可)の管電圧及び希土類システム(希土類増感紙及びオルソタイプフィルム)を用いた撮影。
(三) 胸部エックス線写真の読影
胸部エックス線写真は、二名以上の医師によって読影し、それぞれの読影結果に基づき比較読影する。その方法は次のとおりとする。
ア 二重読影
二名以上の医師が同時に又はそれぞれ独立して読影するものとするが、このうち一名は十分な経験を有すること。読影結果の判定は、「肺癌集団検診の手びき」(日本肺癌学会集団検診委員会編)の「肺癌検診における胸部X線写真の判定基準と指導区分」によって行う。
イ 比較読影
二重読影の結果、「肺癌集団検診の手びき」(日本肺癌学会集団検診委員会編)の「肺癌検診における胸部X線写真の判定基準と指導区分」の「d」及び「e」に該当するものについては比較読影を行う。比較読影は、過去に撮影した胸部エックス線写真と比較しながら読影するもので、地域の実情に応じて次のいずれかの方法で行う。
(ア) 読影委員会等を設置して比較読影を行う方法
(イ) 二重読影を行った医師がそれぞれ比較読影を行う方法
(ウ) 二重読影を行った医師のうち、指導的立場の医師が比較読影を行う方法
読影結果の判定は、「肺癌集団検診の手びき」(日本肺癌学会集団検診委員会編)の「肺癌検診における胸部X線写真の判定基準と指導区分」によって行う。
(四) 指導区分等
指導区分は、「要精検」及び「精検不要」とし、それぞれ次の内容の指導を行う。
ア 「要精検」と区分された者
医療機関において精密検査を受診するよう指導する。
イ 「精検不要」と区分された者
翌年の検診受診を勧めるとともに、禁煙等日常生活上の注意を促す。
なお、指導区分の決定及び精度管理等については、「肺癌集団検診の手びき」(日本肺癌学会集団検診委員会編)等を参考にする。
また、胸部エックス線写真の読影の結果、結核等肺がん以外の疾患が考えられる者については、受診者に適切な指導を行うとともに、結核予防法第四条第三項に規定する定期の健康診断等の実施者又は医療機関に連絡する等の体制を整備する。
(五) 記録の整備
精密検査の結果がんと診断された者については必ず個人票を作成し、組織型、臨床病期、治療の状況(切除の有無を含む)等について記録する。
また、がんが否定された者についてもその後の経過を把握し、追跡することのできる体制を整備することが望ましい。
(六) 検診の実施体制
肺がん検診に必要な実施体制は、次のとおりである。
ア 検診実施市町村の所在する都道府県に、成人病検診管理指導協議会肺がん部会が設置されていること。
イ 胸部エックス線写真の読影及び喀痰細胞診の両方が実施できる体制にあること。
ウ 一定の研修・講習等を受ける等胸部エックス線写真の読影に習熟した検診担当医が確保されていること。
エ 二重読影及び比較読影のための写真等の管理保管体制が整備されていること。
オ エックス線検査受診者数(経年受診者再掲)、エックス線検査受診者中の高危険群所属者数、採痰容器提出者数、要精検者数、精検受診者数及び発見原発性肺がん患者数(「早期の肺がん」数及び切除数再掲)等について、性・年齢五歳階級別に表章し、成人病検診管理指導協議会肺がん部会に報告される体制にあること。
カ その他精度管理に関する事項が適切に実施できること。
四 乳がん検診
(一) 検診の実施
ア 視診の留意点
視診に当たっては、対座位で、乳房の対象性、大きさ及び形、乳房表面の皮膚の発赤、浮腫、陥凹、膨隆、潰瘍及び静脈怒張の有無、乳頭の牽引(ひきつれ)及び異常分泌の有無並びに腋窩の異常の有無について観察する。
イ 触診の留意点
触診時の体位は仰臥位又は対座位とし、平手触診及び指触診により、乳房、次いで腋窩リンパ節及び鎖骨上窩リンパ節並びに乳頭について行う。
触診を仰臥位で行う場合は、原則として被検者の検側肩下に薄い枕か小座布団をいれて、乳房が平らになった状態で行う。大きい乳房や下垂乳房の時は、必ずこの体位が必要であるが、中小乳房では枕をいれなくてもよい。乳房の内側を触診するときは上肢は挙上位、外側の場合は上肢下垂位で行うのが原則である。
(ア) 乳房の触診
腫瘤、結節及び硬結の有無並びに数、大きさ、形、位置、硬度、表面の性状、境界、可動性、固定、圧痛、えくぼ症状(ディンプリング)等について行う。
(イ) リンパ節の触診
腋窩リンパ節及び鎖骨上窩リンパ節の腫脹の有無並びに数、大きさ、硬度、表面の性状、固定、圧痛等について行う。
(ウ) 乳頭の触診
乳頭からの異常な分泌物の有無及び性状等について行う。
(二) 指導区分等
指導区分は「要精検」及び「異常認めず」とし、それぞれ次の内容の指導を行う。
ア 「要精検」と区分された者
医療機関において精密検査を受診するよう指導する。
イ 「異常認めず」と区分された者
翌年の検診受診を勧めるとともに、乳房の自己検診に関する指導をする。
(三) 記録の整備
精密検査の結果がんと診断された者については、必要に応じて個人票を作成し、医療機関における確定診断の結果、治療の状況等について記録する。
また、がんが否定された者についてもその後の経過を把握し、追跡することのできる体制を整備することが望ましい。
(四) 検診の実施体制
乳がん検診に必要な実施体制は、次のとおりである。
ア 検診実施市町村の所在する都道府県に、成人病検診管理指導協議会乳がん部会が設置されていること。
イ 成人病検診管理指導協議会乳がん部会に届出がなされ、かつ、乳がん検診に関して一定の研修・講習等を受ける等乳がん検診に習熟した外科医師、産婦人科医師等が検診担当医として確保されていること。
ウ 乳がん検診の結果「要精検」とされた者について、精密検査の受診結果等が記録され、その記録が成人病検診管理指導協議会乳がん部会に報告される体制にあること。
エ その他精度管理に関する事項が適切に実施できること。
五 大腸がん検診
(一) 大腸がん検診の精度管理
大腸がん検診の精度は、採便方法、検体の保管、測定・判定方法等検査に関する要因と精密検査受診率、精密検査の精度等検診システムに関する要因の両方に影響される。従って、市町村及び受託実施機関は、検診実施に当たっては、検体の取り扱いに特に留意するとともに、要精密検査となった者の把握とその追跡調査を行うこと。なお、精度管理の指標としては、要精密検査率(便潜血検査陽性率)、精密検査受診率、大腸がん発見率、早期がん発見率等が挙げられるが、さらに感度、特異度等を算出し、精密検査を含む全検診システムの評価を行うとともに、その維持、向上に努めること。
(二) 検診の実施体制
大腸がん検診に必要な実施体制は、次のとおりである。
ア 検診実施市町村の所在する都道府県に成人病検診管理指導協議会大腸がん部会が設置されていること。
イ 成人病検診管理指導協議会大腸がん部会が、市町村の作成した検診計画について、精密検査の円滑な実施の観点から十分調整できる体制にあること。
ウ 検診実施市町村が次の項目について成人病検診管理指導協議会大腸ガン部会に、毎年、報告できる体制にあること。
(ア) 検診対象者数、受託実施機関名、測定キット名、一日分のみの検体提出者数
(イ) 受診者数(受診率)、要精密検査者数(要精密検査率)、精密検査受診数(精密検査受診率)
(ウ) がん発見数(がん発見率)、早期がん発見数(早期がん発見率)
エ 一定の研修・講習を受ける等大腸がん検診に習熟した臨床検査技師が確保されていること。
オ その他精度管理に関する事項が適切に実施できること。