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○老人保健法による保健事業について

(昭和五七年一一月一七日)

(衛発第九二七号)

(各都道府県知事・各指定都市市長・各保健所設置市長あて厚生省公衆衛生局長通知)

標記については、今般昭和五七年一一月一日厚生省告示第一八五号をもつて実施の基準が公布された。保健事業の実施による総合的な保健対策の推進が本法制定の眼目であり、国民のこれに寄せる期待は極めて大きいものがある。貴職におかれては、更に左記事項に十分御留意の上、管下市町村、保険者、関係団体等に対する周知徹底及び適切な指導を行い、実効ある保健事業の推進に格段の努力を煩わしたい。

第一 保健事業の趣旨等について

1 本法の保健事業は、脳卒中、心臓病、がん等の成人病が、国民の死因の過半数を占め、国民医療費においても大きな割合を占めていることに鑑み、壮年期からの健康づくりとこれらの成人病の予防、早期発見、早期治療を図るとともに、脳卒中の後遺症等を有する者ができるだけ寝たきりの状態にならずに家庭で生活できるようにし、その自立を促進、援助することを主眼とするものであること。

しかしながら、保健事業が真にその効果をあげるためには、自分の健康は自分で守るという自己責任の意識の普及涵養を図ることが最も大切であることに留意されたいこと。

2 医療保険の保険者(国民健康保険の保険者である市町村を含む。)が現在行つている成人病検診等のいわゆる保健施設活動は、本法の保健事業とともに国民の老後における健康の保持を図るための保健サービスの重要な一翼を担うものであり、保険者は従来以上にこれらの活動を積極的に推進する責務を有するものであること。

3 本法の保健事業は、原則として市町村が実施するものであるが、これは従来各種の公私の団体等が地域の住民等を対照に独自に実施してきた成人病検診等の事業を排除したり、これらの事業によつてこれまで確保されてきた保健サービスの水準を実質的に低下させるものとなつてはならないこと。したがつてこれらの事業については、本法の保健事業と密接な連携調整を図りつつ今後更に一層の拡充が図られるよう指導されたいこと。

4 住民の健康及び福祉を保持することは、地方公共団体の基本的な責務であり、本法の保健事業は、地域の実情に即して住民の一人一人にきめ細かく行うべきものであることから、この実施主体を原則として市町村としたものであるが、都道府県も管下市町村の保健事業の健全な発展と地域の保健水準の向上を図るため独自に各般の施策を推進されたいこと。

5 厚生省としては、別紙計画により、法施行後おおむね五年をかけて保健事業の実施に必要な要員の確保、施設の整備を進め、昭和六一年度には全市町村において本格的な保健事業が実施されるようにすることとしたいので、都道府県、市町村においても、その実現に向けて計画的、段階的な実施体制の整備と事業の推進を図られたいこと。

第二 保健事業の対象者について

1 本法の保健事業は、脳卒中、心臓病、がん等の成人病が壮年期以降の日常生活及び健康管理と密接なかかわりがあり、その発生が四○歳代から急速に増加すること、また、従来の成人病対策が四○歳以上の者を対象に行われてきたことから、四○歳以上の者を対象として行われることとされたものである。しかし、このことは、四○歳未満の者の疾病の予防や健康管理の意義を否定するものではないこと。なお、子宮がん検診については、予算措置により、従来どおり三○歳から三九歳までの者についても行うこととしていること。

2 医療保険各法の保険者が行う成人病検診等のいわゆる保健施設活動や労働安全衛生法に基づき事業者の行う健康診断等の保健サービスであつて保健事業に相当するものを受けた者又は受けることができる者については、市町村は重ねて本法の保健事業の対象とする必要はないものである。したがつて、市町村は、家庭の主婦、自営業者等の地域住民を主たる対象として保健事業を実施することとなるものであること。ただし、被用者本人であつても必ずしも本法の保健事業に相当する保健サービスを受けることができる者とは限らないこと、一方の被用者の家族であつても健保組合等の保健施設活動の対象とされる場合もあることから、実際の運用に当たつては、画一的な取扱いとならないよう留意されたいこと。

第三 市町村における保健事業の進め方について

1 市町村は、保健事業の実施に当たつては、保健事業の実施の基準を基に、市町村の人口規模、年齢構成、地理的状況、住民の健康及び疾病の状況、保健事業の実施に必要な要員、施設の状況、財政事情等に配意し、具体的な実施方法、事業量等に関し、地域の実情に即し、その特性を生かした実施の計画を作成すること。

2 市町村は、保健事業の実施の計画の作成その他保健事業の企画及び運営に関し、保健所その他の関係行政機関、医師会、歯科医師会その他の保健医療関係団体、社会福祉協議会その他の福祉関係団体等から成る協議会において、これらの者の意見を聴き、その協力を得るとともに、保健事業相互間及び保健サービスと福祉サービスとの有機的な連携及び調整を図ること。

3 市町村は、保健事業の実施に当たつて、自ら必要な要員、施設を確保することが困難である場合又は他に委託することによつて事業をより効果的に実施することができると認められる場合には、地域の関係機関、関係団体等に対し、その実施を委託することができるものであるが、委託先は原則として都道府県の設置する保健所等の公的機関又は公益法人等の公的団体とし、委託に当たつては個々にその適格性に十分配意すること。

4 市町村は、保健事業の一部について当面は行わず逐次実施することもやむを得ないが、これは原則として健康診査の事業のうち特定の種類、項目に係るもの及び機能訓練又は訪問指導の事業であつて都道府県の援助を受けてもなお要員、施設の確保等ができない場合に限られるものであること。

5 保健事業のうち健康診査については、本法による医療を受けることができる者及び低所得者を除き、原則として受診者から費用の一部を徴収することができるものとされる予定であること。

第四 都道府県の役割について

1 都道府県は、市町村における保健事業の円滑かつ効果的な実施を図るため、その設置する保健所を中心に市町村に対する技術的協力その他必要な援助等を積極的に行う責務を有するものであり、市町村における保健事業の実施の計画に関する指導及び調整、関係団体への協力の依頼、保健婦等の要員の派遣、保健所等の施設、設備の提供等を行うほか、保健婦等関係者に対する研修、検診の精度管理等の実施により保健事業の技術水準の向上に努めるとともに、地域の潜在保健婦等に関する情報の把握及び提供その他保健事業に関する調査等に積極的に取り組まれたいこと。このため、保健所に管内市町村、関係団体等からなる老人保健連絡協議会を設置し、市町村における保健事業が円滑かつ効果的に実施されるようこの協議会において十分に協議、指導及び連絡調整を行われたいこと。

2 都道府県は、市町村と協議の上、市町村の委託を受けて保健事業の一部を行うことができるものであるが、これをもつてしてもなお市町村の人口規模、財政事情等からみて相当長期間にわたつて当該保健事業の一部を実施できる見込みがない場合には、当該市町村に代わつて、都道府県がこれを行うことができるものであること。ただし、この都道府県の代行が認められるのは、健康診査、機能訓練又は訪問指導の事業であつて、かつ、都道府県が現に有する要員及び施設をもつて実施できる場合に限られるものであること。

第五 保健事業の実施体制の整備について

1 保健婦は本法の保健事業の中心的な役割を担う重要な要員であるので、未設置の市町村及び老人人口が多く、かつ、人口に比し保健婦が少ない市町村にあつては、すみやかに設置及び増員を図ることはもとより、各市町村は現員の活用及び計画的な増員に特段の努力をするとともに、地域における潜在保健婦等の雇上げ等により必要な保健婦の確保を図られたいこと。このほか、都道府県の設置する保健所の保健婦の協力援助を受ける等により、保健事業の効果的な実施を図られたいこと。

また、医師、歯科医師、理学療法士、作業療法士、栄養士等の要員については、保健所等の公的機関、地域の医師会、歯科医師会、医療機関等関係機関、関係団体の協力を得てその確保を図られたいこと。

2 市町村は、保健事業の実施の拠点となる市町村保健センターの整備を一層促進するとともに、保健事業の実施に当たつては、健康増進センター、成人病予防センター、農村検診センター、老人福祉センター、特別養護老人ホーム、公民館等地域における各種施設の有効な活用を図られたいこと。

3 本法の保健事業が円滑かつ効果的に実施されるためには、保健所の果たす役割はきわめて大きく、その活動、機能の強化が不可欠である。

このため特に大都市及びその周辺地域等あるいは過疎地域等を管轄する保健所を中心に、保健婦の増員、精神保健相談員、理学療法士、作業療法士の設置を進めるとともに、胃がん及び子宮がん検診機器、機能訓練機器等の整備を計画的に行われたいこと。

また、胃がん検診車及び子宮がん検診車の効果的な活用を図るため、都道府県は、管下市町村、関係団体等に対する指導及び調整を行い、これらの検診車の計画的、重点的な整備を推進されたいこと。

別紙 略