添付一覧
○老人保健法における医療について
(昭和五七年一〇月八日)
(衛老第三号)
(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省公衆衛生局老人保健部長通知)
標記については、昭和五七年九月一○日付け厚生省発衛第一六三号貴職あて厚生事務次官通知「老人保健法の施行について(依命通知)」により示されたところであるが、さらに、左記事項につき御留意の上、この法律の適正な施行に遺憾なきを期せられたい。また、保健事業及び拠出金に関する事項については別途通知する。
なお、今後とも毎年相当の老人医療費の増加が予想されるなかで、できる限りそのむだを排し、支出の適正化を図ることが極めて重要である。貴職におかれても、このことを十分御認識の上、格段の御努力をお願いする。
記
第一 医療の対象者について
一 本法の医療の対象者を原則として七○歳以上の者としたのは、老齢人口の数と今後の推移、老人の疾病の状況、制度運営のための国民の負担等を総合的に勘案し、従来の老人医療費支給制度の対象年齢に合わせたものであること。また、六五歳以上七○歳未満の者であつて政令で定める程度の障害の状態にある旨の市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の認定を受けた者を医療の対象としたのは、従来、予算措置で行つてきたいわゆる寝たきり老人等に対する措置を法定したものであること。
二 医療の対象者に医療の給付が開始されるのは、七○歳以上の者となつた日又は前記の程度の障害の状態にある旨の市町村長の認定を受けた日の属する月の翌月(それらの日が月の初日であるときは、その日の属する月)からであること。
三 医療の対象者について医療保険の加入者であることを要件としたのは、従来の老人医療費支給制度に合わせたことのほか、医療保険の保険者に医療に要する費用の拠出を求めることとしていることによるものであること。したがつて、国民健康保険法の適用除外となつている生活保護世帯に属する者等は本法の医療の対象とはならない反面、従来の老人医療費支給制度と異なり、被用者保険の被扶養者のみならず、被保険者本人及び組合員本人も本法の医療の対象となり、被用者保険からは医療の給付は行われないものであること。
四 本法の医療は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)の区域内に居住地を有することを要件としているが、医療保険の加入者である限り、国籍要件は必要ではないこと。
五 本法の医療は、社会福祉制度の一環として医療保険の自己負担分を公費で支給することとしていた従来の老人医療費支給制度とは異なり、本人又はその属する世帯の所得による受給資格の制限はないものであること。
第二 医療の実施について
一 本法の医療は、従来の老人医療費支給制度と同様に、市町村長が国の機関として実施するいわゆる機関委任事務であり、市町村長は本法の定めるところに従つてこれを実施しなければならないものであつて、市町村長は、医療の内容、一部負担金の減免等医療の実施について本法と異なる取扱いはできないものであること。
二 医療に関する事務のうち費用の審査及び支払に関する事務は、社会保険診療報酬支払基金(以下「基金」という。)、国民健康保険団体連合会等に委託できることとされているが、これらの委託については、従来の老人医療費支給制度におけると同様に、被用者保険加入者分については基金等に、国民健康保険加入者分については国民健康保険団体連合会に、それぞれ委託することを予定しているものであること。
三 医療の実施に当たつては、健康手帳の交付、健康教育、健康診査、機能訓練、訪問指導等の他の保健事業との連携を保ちつつ、総合的一体的運営に配意するとともに、医療費通知、レセプト点検の実施等により医療費の適正な支出に努めること。
なお、市町村長は、医療に関して必要があると認めるときは、医療を受ける者又は当該医療を担当する者に対し、照会や文書の提出等を求めることができるものであること。
四 都道府県知事は、本法の医療の実施について前記の趣旨に従つて、市町村長に対して適切な指導を行うとともに、保険医療機関等及び保険医等に対しても法律の定めるところにより厳正な指導、監査を行われたいこと。また、保険者と市町村の間に立つて、その連絡調整にも配意されたいこと。
第三 医療の給付について
一 医療は、疾病又は負傷に関して診察、薬剤又は治療材料の支給、処置、手術その他の治療、病院又は診療所への収容等医療保険各法による医療の給付と同種類の給付のほか、本法では、政令で定める給付を行うこととしているが、現在、この給付を政令で定めることは予定していないこと。
二 本法による医療は、保険医療機関等においていわゆる現物給付として行うことが原則とされているが、保険医療機関等における医療が困難である場合その他一定の場合には市町村長が現物給付たる医療に代えて医療費の支給を行うことができることは、医療保険各法と同様であること。
三 本法の医療と労働者災害補償保険法の規定による療養補償給付若しくは療養給付その他政令で定める補償的性格を持つた法令に基づく医療に関する給付が同時に行われ得る場合には、医療保険各法の場合と同様に、これらの法令による医療に関する給付が優先すること。
四 精神衛生法、結核予防法等によるいわゆる公費負担医療と本法の医療との関係は、本法の医療が医療保険各法による療養の給付に相当する性格を持つていると考えられるので、従来のいわゆる公費負担医療と医療保険各法による療養の給付との関係に倣うものであること。したがつて、精神衛生法及び結核予防法による医療給付が本法の医療に優先し、また、原子爆弾被爆者の一般疾病については、本法の医療が優先するものであること。
第四 医療の取扱機関等について
一 健康保険法による保険医療機関及び保険薬局、国民健康保険法による療養取扱機関並びに保険者の直営病院等厚生省令で定める病院、診療所及び薬局(以下「保険医療機関等」という。)は、都道府県知事の指定等の特段の手続きを経ることなく、本法の医療を取り扱うことができるものであること。
また、保険医療機関等において療養を担当する医師若しくは歯科医師又は薬剤師も、都道府県知事への登録等の特段の手続きを経ることなく当然に、本法の医療を担当することとなること。
二 保険医療機関等及び保険医等は、本法の規定に基づく医療の取扱い及び担当に関する基準に従い、本法の医療を取り扱い、又は担当しなければならない責務を有し、これに違背した場合には、健康保険法及び国民健康保険法の規定により、保険医療機関、療養取扱機関等の指定、登録又は申出の受理を取り消すことができることとされていること。
また、医療に関する費用の請求に関し、不正があつた場合も同様であること。
三 本法による医療の取扱い及び担当に関する基準並びに医療に要する費用の額の算定に関する基準は、厚生大臣が中央社会保険医療協議会の意見を聴いて定めることとされているが、現在、厚生大臣の諮問により中央社会保険医療協議会において審議が進められており、年内に答申を得る予定であること。
第五 一部負担金について
一 本法の外来時一部負担金は、健康保険法等における初診時一部負担金と異なり、同一の疾病若しくは負傷であるか、又は初診であるか再診であるかの別とは関係なく、保険医療機関等ごとに各月において初めて医療を受ける際に支払うものであること。
また、総合病院の各診療科にまたがつて受診した場合は各科ごとに一部負担金を支払うこととなるが、歯科を除く各科をまたがつて受診した場合でもそれが医師の指示によるものであるときには、各科ごとに一部負担金を支払うことを要しないものであり、この取扱いについては、なお別途通知する予定であること。
なお、医科と歯科を併せ行う保険医療機関等において医科と歯科をまたがつて受診した場合には、医科と歯科においてそれぞれ一部負担金を支払うこととなること。
二 入院時一部負担金を支払うことを要しなくなる入院継続二ケ月間の要件は、同一の保険医療機関等に継続して二ケ月間入院しているという事実をいうものであり、同一の疾病又は負傷に係るものであることを問わないこと。
なお、被用者保険本人の本法の入院時一部負担金の特例は、健康保険法等において七○歳未満の被用者保険本人の入院時一部負担金の負担が一日五○○円で一ケ月を限度とされていることとの均衡を考慮して設けられたものであるので、その趣旨にかんがみると本法における被用者保険本人の入院時一部負担金は、五○日間を限度として支払うものであること。
三 市町村長は、厚生省令の定めるところにより、特別の理由により一部負担金を支払うことが困難であると認められる者に対し、一部負担金を減額し、又はその支払いを免除することができるが、この措置は、現行国民健康保険法による一部負担金の減免措置と同様、災害等により実際に一部負担金の支払いが困難であると認められる者について、市町村長が個々に認定して行うものであり、一定の所得水準以下の者について一律に減額又は免除することは認められないものであること。
また、本法の医療の対象者に対する一部負担金を老人医療に関するいわゆる単独事業として地方公共団体が肩代わりすることは、本法の趣旨に反し厳に慎まれたいこと。
第六 医療の実施に要する費用について
一 医療に要する費用は、国が一○分の二、地方公共団体が一○分の一(都道府県及び市町村が各々一○分の○・五)を負担するほか、その費用の一○分の七に相当する額は、基金から交付される交付金をもつて充てることとされており、また、市町村が行う医療の事務の執行に要する費用のうち、診療報酬の審査支払の事務に要する費用(審査支払機関に対する委託手数料を含む。)については、基金から交付される交付金をもつて充て、その他の医療の事務の執行に要する費用は国及び市町村が各々二分の一ずつ負担することとされていること。
二 市町村は、医療に要する費用の一○分の七に相当する額及び診療報酬の審査支払の事務に要する費用について基金から交付される交付金を市町村の一般会計と区分して経理するため、医療に関する収入及び支出について、特別会計を設けるものとされていること。
第七 地方単独事業の取扱いについて
従来、多くの都道府県又は市町村が独自の判断で行つている年齢の引下げ又は所得制限の緩和等による老人医療に関するいわゆる単独事業あるいは上乗せ福祉については、本法の趣旨、内容を十分御理解の上、本法との整合性、単独事業実施による医療保険財政や国及び他の地方公共団体の財政に対する影響等を十分配慮しつつ、その存続の必要性等について再検討し、本法実施までに適切な対応をされたいこと。
なお、臨時行政調査会の第一次答申は、「地方公共団体は、単独事業としての老人医療無料化ないし軽減措置を廃止すべきである」とし、また、基本答申は、「いわゆる上乗せ福祉については、徹底した見直しを早急に行い、全体としてその財政支出の合理化を推進すべきである」としており、これらの趣旨にも沿うものであること。