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○老人保健法の施行について

(昭和五七年九月一〇日)

(発衛第一六三号)

(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生事務次官通知)

老人保健法は、昭和五七年八月一七日法律第八○号をもつて公布され、同年八月三○日及び本九月一○日からその一部が施行されるとともに、明年二月一日から全面的に施行されることが予定されている。また、昭和五七年八月三一日法律第八四号をもつて厚生省設置法の一部を改正する法律が公布され、本九月一○日、公衆衛生局に老人保健部が設置された。

この法律による法人保健制度は、本格的な高齢化社会の到来に対応し、疾病の予防、治療、機能訓練等の保健事業を総合的に実施することにより、健康な老人づくりを目指すとともに、老人の医療費を国及び地方公共団体が負担するほか、医療保険制度の各保険者が共同で拠出することにより、国民皆が公平に負担することを目的とするものであり、今後、医療保険制度及び年金制度と並んで我が国社会保障の中核的制度となるとともに、保健医療対策の上でも保健と医療を一体的に推進する新たなる施策の展開の制度的よりどころとなるものである。

ついては、左記により、この法律制度の趣旨及びその内容を十分御理解の上、管下市町村、保険者はじめ関係団体、関係機関等にその周知徹底を図るとともに、適切な指導を行い、国民の理解と協力を得て制度の円滑な発足と健全な発展に万全を期せられたい。

以上、命によつて通知する。

第一 法律制定の趣旨及び背景

我が国の社会保障制度は、既に西欧諸国に比べてほぼ遜色のない水準に達しているが、現在我が国は、諸外国に例をみない速さと規模で人口構造の高齢化が進んでいる。このような人口構造の急速な高齢化と経済の低成長、国の財政事情の悪化など社会保障を取り巻く厳しい環境の変化の中で、既存の制度を見直し、人間尊重の精神と社会的公正を確保しつつ、活力ある福祉社会を実現するための社会保障制度を確立することが急務となつている。

我が国の老人保健医療対策は、昭和四八年以来、医療保険各法による医療保険制度、老人福祉法による老人医療費支給制度等により推進されてきたが、老人医療費はその後年々急激な増嵩を続け、一方、対策が全体として医療費の保障に偏り、疾病の予防から機能訓練に至る保健サービスの一貫性に欠けていること、医療保険各制度間特に被用者保険と国民健康保険の間に老人医療費の負担に著しい不均衡があるなどの問題が指摘されるに至り、制度の基本的見直しが強く要請されることとなつた。厚生省は、このような要請に応え、長期的な展望に立つて制度の基本的な在り方について鋭意検討を続けた結果、疾病の予防や健康づくりを含む総合的な老人保健対策を推進するとともに、老人の医療費は国民皆が公平に負担するという新しい制度を創設することとし、そのために老人保健法を制定することとしたものである。

なお、老人保健法案は、社会保険審議会及び社会保障制度審議会に諮問し、その答申を得て、昭和五六年五月一五日第九四回国会に提出されたが、第九五回国会で一部修正の上衆議院を通過し、第九六回国会で参議院においても一部修正の上昭和五七年八月一○日衆議院で可決され、成立したものである。

第二 一般的事項

一 法律の目的及び基本的理念

この法律は、国民の老後における健康の保持と適切な医療の確保を図るため、疾病の予防、治療、機能訓練等の保健事業を総合的に実施し、もつて国民保健の向上と老人福祉の増進を図ることを目的とするものであること。

また、国民は自助と連帯の精神に基づき、自ら加齢に伴つて生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、老人の医療に要する費用を公平に負担するものとし、年齢、心身の状況等に応じ、職域又は地域において、老後における健康の保持を図るための適切な保健サービスを受ける機会を与えられるべきことが、基本的理念とされていること。

なお、これは老人福祉法に定める法人福祉の基本的理念にも沿い、これを具体化しようとするものであること。

二 国、地方公共団体及び保険者の責務

この法律による保健事業が健全かつ円滑に実施されるよう、国は必要な各般の措置を講じるとともに、この法律の目的の達成に資するため、医療、公衆衛生、社会福祉その他の関連施策を積極的に推進すべきこと、また、地方公共団体はこの法律の趣旨を尊重し、住民の老後における健康の保持を図るため、保健事業が健全かつ円滑に実施されるよう適切な施策を実施すべきこととされているほか、医療保険各法の保険者は加入者の老後における健康の保持のために必要な施設又は事業を積極的に推進するよう努めるとともに、保健事業が健全かつ円滑に実施されるよう協力しなければならないとされていること。

第三 老人保健審議会に関する事項

保険者の拠出金等に関する重要事項を調査審議するため、厚生省に保健事業の関係者及び老人保健に関する学識経験者二○名以内で構成される老人保健審議会が設置されること。

第四 保健事業に関する事項

一 保健事業の種類

この法律では、疾病の予防から治療、機能訓練に至る対策を総合的に実施し、国民に年齢、心身の状況等に応じ一貫した保健サービスを提供するという見地から、健康手帳の交付、健康教育、健康相談、健康診査、医療、機能訓練及び訪問指導の各種保健事業を総合的一体的に市町村において実施することとされていること。

二 医療以外の保健事業

(一) 医療以外の保健事業(以下「保健事業」という。)は、壮年期からの疾病の予防及び健康管理が老後の健康保持のために極めて重要であることにかんがみ、四○歳以上の住民を対象に市町村が行うものであること。なお、被用者本人その他職域等において事業主又は保険者が実施する保健サービスでこの法律の保健事業に相当するものを受けることができる者については、市町村は事業の対象としないこととされていること。

(二) 保健事業の実施の基準は、事業の種類ごとに市町村の人口規模等地域の諸事情に配意して厚生大臣が定めることとされていること。また、市町村が行う保健事業の実施に関し、都道府県は保健所を通じて市町村に対し必要な協力援助等を行うほか、市町村がこれを行うことが困難と認められる場合には、市町村に代わつて自らその一部を行うことができるものであること。

なお、市町村は、保健事業の実施に必要な要員及び施設の状況その他の事情により、厚生大臣が定める基準によることができない場合には、特例として逐次事業を実施することができるものであること。

(三) 保健事業が円滑かつ効果的に実施されるためには、保健婦等の要員の確保、市町村保健センター、保健所等の施設機能の整備充実が不可欠である。厚生省としては、この法律の施行後五カ年計画をもつてこれら要員の確保、施設と整備等保健事業実施のための基盤を整備しつつ事業規模の拡大を図り、おおむね五年後には、この法律が期待する保健事業が全市町村において本格的に実施されるようにすることとしたいので、都道府県及び市町村においてもその実現に向けて最大限の努力をし、行財政両面で所要の措置を講じられたいこと。

三 医療

(一) 医療は、従来の制度と同様に医療保険に加入している七○歳以上の者及び六五歳以上七○歳未満で一定の障害がある者を対象に、市町村長が行うものであること。

(二) この法律による医療は、健康保険法による保険医療機関、国民健康保険法による療養取扱機関等が取り扱うものであり、医療の取扱い及び担当に関する基準(診療方針)並びに医療に要する費用の額の算定に関する基準(診療報酬)は、厚生大臣が中央社会保険医療協議会の意見を聴いて定めることとされていること。

(三) この法律においては、医療を受ける者は、外来の場合一月四○○円、入院の場合一日三○○円、二カ月間(被用者保険本人については、一万五、○○○円を限度とする。)の一部負担金を支払うこととされている。これは、従来のいわゆる無料化制度が、老人の受療を容易にした反面、老人の健康への自覚を弱め、行き過ぎた受診を招いていることなどの弊害が指摘されてきたことから、健康についての自己責任の観点に立つて、老人に健康についての自覚を求め、適切な受診を願う趣旨のものであり、老人が真に必要とする受診を抑制するものではないこと。

また、このような一部負担金は、老人の負担能力の上で無理のない範囲の額であつて、老人の医療費を国民皆が公平に負担するというこの法律の基本的理念にも沿うものであること。

第五 費用に関する事項

一 保健事業に要する費用

保健事業に要する費用については、従来の類似の諸施策における負担割合と同様に、国、都道府県及び市町村がそれぞれ三分の一ずつを負担することとされていること。

なお、健康診査など厚生大臣が定める保健事業の一部については、その対象となつた者等から費用の一部を徴収することができるものであること。

二 医療に要する費用

(一) 医療に要する費用については、この制度に対する国及び地方公共団体の公的責任と従来の制度における負担割合等を勘案し、国が一○分の二、地方公共団体が一○分の一(都道府県及び市町村が各々一○分の○・五)を負担し、医療保険各法の保険者が一○分の七を拠出するものとされていること。

(二) 保険者の拠出金については、各保険者の老人加入率の差が医療保険各制度間の老人医療費負担の著しい不均衡の原因になつていることにかんがみ、各保険者ごとの実際の老人医療費の額と各保険者の加入者数の両方の要素を基準として各々二分の一の割合で各保険者に按分することとされていること。

なお、昭和五八年度以降の拠出金については、老人保健制度の実施に伴う保険者の負担増が年々著しく大きくならないよう、加入者数で按分する割合は毎年の老人人口の増加率等を勘案して特例的に二分の一以下の範囲内で政令で定める率によることとされており、その率を定めるに当たつては、厚生大臣は老人保健審議会の意見を聴くこととされていること。また、この措置は、この法律施行後三年以内を目途に見直すこととされていること。

第六 社会保険診療報酬支払基金の老人保健関係業務に関する事項

保険者から拠出金を徴収し、市町村に対し交付する業務(以下「老人保健関係業務」という。)は、社会保険診療報酬支払基金が特別の会計を設けて行うものであること。

第七 関係法律の改正

一 老人福祉法の改正

この法律により老人に対する医療及び健康診査が行われることとなつたことに伴い、老人福祉法の老人医療費支給制度及び老人健康診査に係る規定が整理されたこと。

二 医療保険各法の改正

(一) 医療保険各法の加入者で七○歳以上の者及び六五歳以上七○歳未満で一定の障害がある者については、この法律の医療が行われることとなつたことに伴い、医療保険各法においては、これらの者について医療の給付は行わないこととされたこと。

なお、この法律の施行後においても七○歳以上の者及び六五歳以上七○歳未満で一定の障害のある者の医療保険各法の加入資格(被保険者、組合員又は被扶養者資格)には変わりはないものであること。

(二) この法律による保険者の拠出金の納付に要する費用の財源については、この拠出金が従来と同様医療に要する費用に充てられるものであることにかんがみ、被保険者又は組合員が納付する保険料又は掛金をもつて充てることとされている。また、これまで医療給付費について定率の国庫補助が行われている政府管掌健康保険、日雇労働者健康保険及び国民健康保険の保険者にあつては、この法律による拠出金についても医療給付費に対すると同率の国庫補助を行うこととされていること。

第八 施行期日等

一 施行期日

この法律は、中央社会保険医療協議会及び老人保健審議会に係る部分、社会保険診療報酬支払基金の老人保健関係業務に係る部分並びに保健事業の実施に係る部分の三段階に分けて各々政令で定める日から施行することとされている。このうち、中央社会保険医療協議会及び老人保健審議会に係る部分は、昭和五七年八月二○日政令第二二六号により同年八月三○日から、社会保険診療報酬支払基金の老人保健関係業務に係る部分は同年九月七日政令第二四二号により本九月一○日から、それぞれ施行され、保健事業の実施に係る部分は明年二月一日から施行することが予定されていること。

二 組織機構

厚生省設置法の改正により新たに設置された老人保健部は、計画課、老人保健課、計画課指導調査室の二課一室から成り、厚生省公衆衛生局各課、医務局、社会局、保険局、社会保険庁、関係省庁の共済組合所管部局等との連携を密にしつつ、老人保健制度の一元的な実施を図ることとしていること。

なお、保険医療機関等に対する指導監督の実施の事務は、老人保健法施行後においても、引き続き保険局で行う予定であること。

都道府県においても老人保健法の最も円滑かつ効果的な実施を図る観点から組織機構を整備し、関係部局間の連携を密にするとともに、市町村の組織機構の整備等についても、同様の観点に立ち適切な指導を行われたいこと。