添付一覧
○死産の届出制実施に関する件
(昭和二一年九月三〇日)
(発衛第一五六号)
(各地方長官あて厚生次官通達)
本年三月一四日連合軍最高司令官の指令「人口動態統計の整備案に関する件」に基き公衆衛生特に母子保健の向上を図るため、死産の実情を明らかにする目的をもつて、今般死産の届出制を実施することとなり、本日これに関する規定が厚生省令第四二号をもつて公布され、一〇月一日より実施せられることとなつたについては、本制度の趣旨に鑑み特に左記事項御留意の上これが施行の徹底と目的達成に遺憾のない様格別の御配意を願いたい。
記
一 一般的留意事項
(一) 本届出制実施の趣旨の徹底を図ると共にその励行を期すること。
従来、我国では埋火葬の認許を得るため死産証の提出を必要としたが、出生、死亡等の場合の様な届出を必要としていなかつたため、その届出は必ずしも励行されていない憾があつた。今回本省令の施行により、母子保健の向上を図るため死産の実情を統計的に明らかにする積極的な目的を以つて、一件も残らず届出を必要とすることとなつたので、一般は勿論医師、産婆、市区町村吏員等本件実施に重要な役割を為す者にその趣旨の徹底を図り、ややもすれば陥り易い故意、怠慢等の過失を厳に一掃するようその励行方に注意すること。
(二) 妊娠四箇月以上の死産児に対する墓地及び埋葬取締規則(明治一七年一〇月太政官布達二五号)による埋火葬の認許については本令により届出された死産届及び死産証書により之を処理すること。
(三) 市区町村長は、この届出事項を記載する死産台帳を作成すると共に関係記録の整備を図ること。
(四) 市区町村長は予め、配布してある死産届出用紙が不足したときは都道府県庁を通じ、厚生省衛生局に申し込むこと。
(五) 市区町村吏員、医師、産婆等の講習、経費その他届出事項の整備事項の整理後対策等必要な事項については追つて通知すること。
(六) 本届出に関連する出生、死亡、死産、婚姻、離婚届並びに統計的取扱については、別途司法省及び内閣統計局より通牒ある筈につき注意すること。
二 死産の届出及び様式記載上の注意事項
(一) 死産届は、通常の医学的計算方法による妊娠第四か月(第一三週)、(四か月を含む)以後にあつたすべての死産について届出でなければならないこと。
(二) 死産の届出は、死産の届出義務者が死産のおきた日の翌日又は死産の事実を知つた日の翌日から計算して(死産が午前零時にあつたときはその日から数えて)七日以内になさなければならないこと。
(三) 市区町村長が届出を怠つている者のあることを知つたときは、相当の期間を定めて届出義務者に対し、その期間内に届出をなすべきことを催告しなければならないこと。
(四) 市区町村長が届出を受取つた場合、届書の様式に欠ける所があつた場合は、届出義務者にその補正追究を為さしめること。
(五) 届出期間経過後の届出であつても、市区町村長は届出を受理しなければならないこと。
(六) 届出人が署名捺印すべき場合に印鑑を有しないときは、署名するだけで良い。署名することができないときは、氏名を代署させて捺印すれば良い。署名することができず且つ、印鑑を有しないときは、氏名を代署させて拇印すればよい。但し、以上の場合には書面にその事由を記載して置かなければならない。
(七) (六)の「職業」欄の職業は、なるべく具体的に記載させ母の「産業種別」は、昭和五年一二月内閣訓令第三号「国勢調査の結果表章に用うべき産業分類及び職業分類」を参照の上適宜記入方市区町村に於いて指導すること。
(八) 多胎の際、二胎以上死産の場合は、各児毎に死産届をなさねばならない。
三 死産証書の記載注意
(一) (一八)「分娩場所」の下欄「病院、診療所、妊産婦預り所」は、病院の場合は「病院」を線にて囲み、診療所の場合は「診療所」を線にて囲み、産婆の管理する施設の場合は「妊産婦預り所」を線にて囲み、他を線にて抹消し、右余白にその施設の名称を書くこと。但し、妊産婦預り所にて特別の名称を持たない場合は、主管する産婆の氏名を書くこと。病院と同格を持つ産院(例日本赤十字社産院)に在つては「病院」の字を囲むこと。
例 [病院]診療所 妊産婦預り所
病院[診療所]妊産婦預り所
病院 診療所[妊産婦預り所]
病院 診療所[妊産婦預り所]
(二) (二〇)「妊婦月数」は、四週を以つて一月とする通常の医学的計算方法によること。最終月経初日より計算する通常の計算方法の他、医学的に一般に認められた他の方法によるも差し支えない。妊婦月数は、在胎期間による。従つて稽留流産等の場合で胎児三か月以前に死亡したときでも在胎期間が四か月(一三週)(四か月一三週を含む)以後のときは届出が必要である。
(三) 「死産の原因」は死産と関係ありと推定されるものをすべて書くこと(二つ以上あるときはこれを列記すること)。当該原因が果して真に死産の原因なりや否や若干の疑義があつても差し支えない。諸般の症状より或る原因の存在が推定されるもその存在に就いて確証を得ない時は、原因を書いた後に(推定)と記入すること。(例血清検査の結果不明の黴毒)人工妊娠中絶の適応は、「死産の原因」欄に記入すること。
(四) (二四)「妊娠分娩中の前項以外の合併症」が二つ以上ある時は、之を列記すること。但し、二二「死産の原因」に必然的に附随する症状等は書く必要はない。胎位異常其の他重要な合併症はすべて「死産の原因」欄に記入すること。
(五) (イ)妊娠中毒症の様な総括的名称は成る可く避け、子癇、常位胎盤早期剥離(単に胎盤早期剥離を書くも可)妊娠腎、悪阻等と書くこと。
(ロ) 胎位異常は常盤位の場合臀位、足位、膝位等を区別する必要はない。頭位以外の胎位はすべて「死産の原因」欄に記入のこと。
(ハ) 畸形児は脳水腫、無脳児、半脳児等と書くこと。
(ニ) 「早産」「仮死」「発育不良」等は原因としてなるべく書かないこと。
(六) 「胎児側原因」には、胎児及びその附属物(胎盤、卵膜、臍帯羊水)の異常疾患に原因するものをすべて含む(従つて早期破水も胎児側原因とみなす。)、但し、胎盤早期剥離のみは妊娠中毒症に属するから母体側原因に入れる。
(七) (二六)「証明書」は、医師、産婆の両者証明し得る立場にあるときは、成る可く医師これを証明すること。
(八) 死産児男なるときは、(一七)「死産児の男女別」欄の男を線にて囲み他の「女」「不詳」を線にて抹消すること。(一八)「分娩場所」及び(二五)証明者住所の都道府県郡市区町村等(二一)「単胎」「多胎」(二二)「自然」「人工妊娠中絶」及び「機械的」「薬剤的」「両者併用」「其の他」(二六)「医師」「産婆」「其の他」等もすべて之に準ずること。
(九) 死産の主要原因を次に例示する(イ)(ロ)(ハ)分類又は之に相当する分類程度のものを書くこと。
(一) 母体側原因
一 妊娠中毒症
(イ)子癇、(ロ)胎盤早期剥離、(ハ)妊娠腎、(ニ)悪阻、(ホ)妊娠浮腫、(ヘ)妊娠蛋白尿、(ト)妊娠高血圧
二 慢性全身性疾患
(一)各種慢性伝染病殊に、(イ)梅毒、(ロ)肺結核、(ハ)結核性腹膜炎、(ニ)肋膜炎
(二)各種慢性疾患殊に、(イ)糖尿病、(ロ)脚気、(ハ)腎炎(ニ)腎孟炎
三 急性全身性疾患
(一)各種急性伝染病、(イ)腸チフス、(ロ)デング熱、(ハ)猩紅熱、(ニ)流行性感冒、(ホ)肺炎、(ヘ)マラリヤ
(二)各種急性疾患(イ)急性虫垂炎、(ロ)腸閉塞症、(ハ)各種中毒
四 性器異常疾患―(イ)癒着性子宮後屈症、(ロ)子宮筋腫、(ハ)子宮発育不全、(ニ)子宮頚管裂傷、(ホ)卵巣嚢腫、(ヘ)狭骨盤、(ト)子宮破裂、(チ)子宮奇形
五 外力及び外来刺戟―(イ)転倒、(ロ)打撲、(ハ)乗車、(ニ)過労
六 分娩時の異常―一陣痛異常―(イ)微弱陣痛、(ロ)過強陣痛
七 其の他(イ)高年初産、(ロ)習慣性流死産
(二)胎児側原因
一 胎児の畸形発育異常―(イ)脳水腫、(ロ)無脳児、(ハ)胎児腹水腫
二 胎盤の異常―(イ)前置胎盤
三 卵膜及び破水の異常―(イ)早期破水(胞状奇胎にして胎児を認め得ないときは届出の要はない。胎児を認めるときは、胞状奇胎が原因となる。)
四 臍帯の異常―(イ)臍帯纏絡、(ロ)臍帯下垂、(ハ)臍帯脱出、(ニ)臍帯結節、(ホ)臍帯過度捻転
五 羊水の異常―(イ)羊水過多症、(ロ)羊水過少症
六 多胎妊娠―(イ)双胎、(ロ)品胎
七 胎位異常―(イ)骨盤位、(ロ)横位
八 胎勢異常―(イ)前頭位、(ロ)顔面位、(ハ)前額位
九 廻旋異常―(イ)低在横定位、(ロ)後方後頭位
一〇 成熟異常―(イ)過熟児(但し、未熟児、早産児等とは成る可く書かないこと。)
一一 其の他―(イ)浸軟児、(ロ)胎児子宮内死亡
特別留意事項
施行の実情にかんがみ特に左の点に注意すること。
(一) 死産届(九)「同じ母による児の数」には必ず今回の死産児を加算記入し、(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)の各別数を明記すること。
(二) 死産届(一五)(母との続柄)は届出人の、死産児の母に対する続柄につき注意すること。(死産児の母の夫が届出人のときは夫と記入のこと。)
(三) 死産証書(二二)「分娩発来の自然人工別」は人工妊娠中絶か否かを記入するのである。
(四) 特に帝王切開手術の際は、(二二)「分娩発来の自然人工別」欄の人工妊娠中絶(機械的、薬剤的、両併用その他)の次の空白に帝王切開と書くこと。帝王切開以外の重要な産科手続も之に準ずること。
(五) 死産証書(二四)「妊娠分娩中の前項以外の合併症」は、ごく軽度の合併症のみを記し、胎位異常其の他死産原因として多少の意義を推定されるものはすべて死産の原因に記入すること。人工妊娠中絶の適応は必ず「死産の原因」の方に記入すること。
(六) 死胎検案書は、胎児に家督相続の手続をしたものが死産したときに出すものであつて(戸籍法第一二八条)実際にはごく稀にしか必要のないものである。
死産後に医師又は産婆の赴いたときでも死産証書を出すのであつて、死胎検案書を出すのではない。
(七) 死産立会証書は濫発されないよう故意又は怠慢によつて医師又は産婆の死産証書を求めず、死産立会証書を出すことのないように指導すること。
(八) 死産届の記入に当つては、医師、産婆が指導するよう指導すること。