添付一覧
○農業者年金基金法等の一部改正に伴う留意事項について
(平成八年三月八日)
(年発第七七九号・8構改B第一三八号)
(農業者年金基金理事長あて厚生省年金・農林水産省構造改善局長連名通知)
農業者年金基金法の一部を改正する法律(平成七年法律第百三号。以下「改正法」という。)が第百三十二回国会において成立し、平成八年四月一日付けで施行されることとなり、また、農業者年金基金法施行令等の一部を改正する政令(平成七年政令第三百二十三号)及び農業者年金基金法施行規則の一部を改正する省令(平成七年厚生省令、農林水産省令第二号)等が同日付けで施行されることとなったので、左記事項にご留意の上、農業者年金事業等の適正かつ円滑な実施に努められたい。
また、これに伴い、「後継者移譲の相手方の要件改正について」(昭和五十四年九月二十八日付け年発第二、〇五二号、五四構改B第一、六七九号厚生省年金局長、農林水産省構造改善局長通達)は、平成八年三月三十一日をもって廃止することとしたので、併せて了知されたい。
なお、業務委託機関に対してもこの旨周知徹底されたい。
記
第一 改正の趣旨
農業者年金制度は、昭和四十六年に発足して以来、専業的農業者の老後生活の安定とともに、適期の経営移譲を通じて農業経営の近代化と農地保有の合理化の促進に寄与してきた。しかしながら、近年、新規就農者の減少等を背景に被保険者数が減少する一方、受給権者数は増加し、受給権者数が被保険者数を上回る状況となっている。
また、農業・農村を取りまく情勢が変化する中で、本年金についても、効率的かつ安定的な経営体の育成など農業構造の改善を一層促進するため、その機能の強化が求められている。
このため、本年金の財政基盤の長期安定を図るための措置を講ずるとともに、農業に専従する女性の地位の明確化、若い農業者の確保、担い手の農業者への農地の集積の促進等の観点から、被保険者の資格、経営移譲年金の支給要件の改善等を目的として、農業者年金基金法(昭和四十五年法律第七十八号。以下「法」という。)等の一部改正が行われたものである。
第二 農業に専従する女性の加入の途の拡大
1 趣旨
夫とともに農業に専従している女性については、一農家につき経営の主宰者は一人とするこれまでの考え方や、一般的に女性は農地等の権利名義を有していないという実態から、農業者年金へ加入できる場合が限られていた。しかし、農業生産における女性の役割は大きくなっており、農業専従者に占める女性の割合は過半を超え、特に、近年では、夫とともに農業経営を担って、実質的に経営者と呼べるような女性が増えてきている。
このような女性について農業者年金への加入を認めることは、老後生活の安定のみならず、家族農業経営における女性の地位及び役割が明確化され近代的な農業経営の育成に資するとともに、経営規模の拡大が促進されるほか、後継者及びその配偶者の確保など、農業構造の改善に寄与するものと考えられる。
このため、今回の改正では、農業者年金の被保険者等とともに農業経営を担っている配偶者について、農地の権利名義を有しない場合も含めて、加入の途を拡大することとしたものである。
2 被保険者資格
(1) 農地等の権利名義を有しない配偶者の場合(権利名義を有する農地等の面積が三〇アール(北海道(農業者年金基金法施行令(昭和四十五年政令第二百六十号。以下「令」という。)第二条に規定する北海道の区域をいう。以下同じ。)の区域内にあっては一ヘクタール、沖縄(農業者年金基金法施行規則(昭和四十五年厚生省、農林省第二号。以下「規則」という。)第三十五条の二十二第二号に規定する沖縄をいう。以下同じ。)の区域にあっては二〇アール。以下同じ。)に満たない場合又は三〇アール以上五〇アール未満(北海道の区域内にあっては一ヘクタール以上二ヘクタール未満、沖縄の区域にあっては二〇アール以上五〇アール未満)の農地等の権利名義を有する配偶者であって、その事業規模が規則第四条の基準に適合しない場合を含む。)には、次の要件を満たせば、任意加入資格を得ることができる(法第二十三条第一項第二号、令第四条、第四条の二)。
① 農業者年金の被保険者又は短期被用者年金被保険者(以下「被保険者等」という。)の配偶者であって、農地等につき耕作又は養畜の事業を行う者(以下「耕作等の事業を行う者」という。)であること。
② 当該被保険者等とその配偶者の有する経営農地等(権利名義に基づき耕作又は養畜の事業を行う農地等をいう。以下同じ。)の面積の合計が一ヘクタール(北海道の区域内にあっては四ヘクタール)以上であること。
③ 農業に常時従事すること。
④ 国民年金の第一号被保険者であって、原則として六〇歳までに保険料納付済期間等二〇年を満たすことのできる者であること。
(2) 耕作等の事業を行う者であるかどうかについては、夫婦間で、次に掲げる事項を含んだ取決め(以下「家族経営協定」という。)を締結し、これに従って当該事業を行っているかどうかで判断することとされた(令第四条の三)。
① その事業から生ずる収益が夫婦ともに帰属すること。
② その事業の廃止又は縮小については、夫婦の合意により決定すること。
③ その他農業経営に関する基本的な事項について夫婦の合意により決定すること。
この場合において、家族経営協定は書面で定めるとともに、事業から生ずる収益については夫婦それぞれの金融機関の口座に配分されることを要するが、収益配分の具体的内容については、当事者間で自由に定めてよいこととするので留意されたい。
(3) なお、権利名義を有する農地等の面積が三〇アール以上ある配偶者の場合には、当該農地等につき耕作等の事業を行う者であることが確認されることを条件に、従来の要件を満たせば加入できることとなる。
この場合、農業者年金に加入した後に農地等の権利名義を喪失するなど法第二十三条第一項第二号の資格に該当することとなった配偶者については、その者の申出により当該資格により加入した被保険者とみなされることとなった(法第二十四条の二。)したがって、当該申出をした者は、法第四十二条の二に規定する経営移譲の方法をとることが可能となる。
(4) 法第二十三条第一項第二号の資格により被保険者となった者についての資格喪失要件は、次のとおりとされた(法第二十五条第九号)。
① 農地等につき耕作又は養蓄の事業を行う者でなくなったとき。
② その配偶者が農地等につき耕作又は養畜の事業を廃止したとき(農業生産法人の構成員として加入した者については、その資格を喪失したとき)。
したがって、加入後に夫婦が離婚し、又は家族経営協定が破棄されるなどして、配偶者が耕作等の事業を行う者であると言えなくなった場合には、資格を喪失することとなる。
3 経営移譲
(1) 法第二十三条第一項第二号の資格により被保険者となった者(法第二十四条の二の申出をした者を含む。)であって農地等の権利名義を有しない配偶者(権利名義を有する農地等の面積が三〇アールに満たない配偶者を含む。以下「特定経営移譲配偶者」という。)が経営移譲年金を受給するための経営移譲の要件は、農地等の権利名義を有する特定経営移譲者(特定経営移譲配偶者の配偶者をいう。以下同じ。)と特定経営移譲配偶者とが、両者の合意に基づいて、後継者又は第三者に対して経営農地等の権利を処分して農業経営を廃止又は縮小することとされた(法第四十二条の二)。
この場合の夫婦の経営農地等の面積の合計は、基準日において六〇アール(北海道の区域内にあっては二ヘクタール、沖縄の区域内にあっては四〇アール。以下同じ。)以上あることが必要である(令条十一条の二)。
なお、両者の合意に基づかないで経営移譲を行った場合には、農地等の権利名義を有する特定経営移譲者についても経営移譲年金を受給することができなくなるので留意されたい。
(2) 法第二十三条第一項第二号の資格により被保険者となった者(法第二十四条の二の申出をした者を含む。)であっても、加入後に農地等を取得するなどして、三〇アール以上の農地の権利名義を有することとなった場合は、法第四十二条の規定に従い経営移譲を行うこととなる。この場合は、夫婦がそれぞれ別の相手に経営移譲を行うことは可能であるが、直系卑属の別々の者に移譲するなどその経営移譲が農業経営の細分化につながることのないよう適切に指導されたい。
(3) 法第四十二条の二の規定により経営移譲した受給権者については、農地等の権利名義を有しない者であっても、譲受後継者の農業経営の継続保証について責任があると考えられるため、そのいずれかの者が譲受後継者に対して使用収益権を設定した農地等(以下「特定処分対象農地等」という。)につき支給停止要件に該当する者となったときは、両者とも経営移譲年金の支給が停止されることとされた(法第四十六条第二項第四号)。
なお、若年支給停止及び農業経営の再開による支給停止については、それぞれ当該事由に該当する者についてのみ支給停止となるので留意されたい。
4 給付と負担
給付については、夫婦それぞれが受給権を有することとなり、個々の保険料納付済期間に応じた額が支給される。また、保険料についてもそれぞれ一人分の額を負担することとなる。
5 経過措置
四〇歳を超えた者は原則として農業者年金に加入できないが、配偶者については、これまで加入の意思があっても加入の途が閉ざされていたという事情にかんがみ、経過的に加入できる特例が設けられた(改正法附則第三条)。
具体的には、改正法の施行日(平成八年四月一日)において四〇歳を超える配偶者について、六〇歳到達までに保険料納付済期間等二〇年を満たすために不足する期間又は被保険者等の被保険者期間のうち被保険者等とともに耕作若しくは養畜の事業に従事していた期間(改正法施行日の前日までの期間に限る。)のうちいずれか短い期間を一〇年を限度として特例配偶者期間として保険料納付済期間等にカラ期間通算できることとされた。これにより、前記の従事期間が一〇年以上ある場合は、五五歳を超えない者まで加入が可能となる。
第三 若い農業者の確保
1 後継者の加入要件の改善
後継者の加入要件について、他出して他産業に従事していた後継者も含めて農業者年金への加入を促進するため、「耕作又は養畜の事業に従事していた期間が三年以上あること」という農業従事要件が撤廃された(法第二十三条第一項第四号)。
2 第三者移譲の相手方の拡大
(1) 新規参入者
農業の担い手の確保の観点から、新たに農地等につき耕作又は養畜の事業を行おうとする農外からの新規参入者を適格な第三者移譲の相手方として位置づけることによって、新規就農の際の農地取得が円滑に進むようにされた(法第四十二条第一項第二号イ)。
この場合、適格な相手方となるためには、経営移譲を受けることによって三〇アール以上の農地等の権利名義を取得する六〇歳未満の者であって、通算三年以上又は引き続き一年以上の農業従事期間を有するものという要件を満たす必要がある(令第七条の二)。
(2) 経営農地等が三〇アール以上となる者
新規参入者が経営移譲の相手方に位置づけられたことに関連して、経営移譲の時点では経営農地等の面積が三〇アール未満で、経営移譲を受けることにより三〇アール以上となる耕作等の事業を行う者についても経営移譲の相手方として位置付けられた(令第八条第一号)。
(3) 農業生産法人の構成員
農業経営の近代化を図る観点から推進されている経営体の法人化を支援するため、農業生産法人の構成員についても、次の要件を満たす場合には、適格な第三者移譲の相手方として位置付けることとされた(令第八条第二号、第三号)。
① 農業生産法人の構成員たる六〇歳未満の者(常時従事者であり、かつ、当該法人の構成員一人当たりの経営農地等の面積と当該構成員が自ら権利名義を有する経営農地等(当該構成員が経営移譲を受けることにより、権利名義を取得することとなる農地等を含む。)の合計面積の総合計が五〇アール(北海道の区域内にあっては二ヘクタール。以下同じ。)以上となる場合に限る。)
② 経営移譲を受けることにより新たに農業生産法人の構成員となる六〇歳未満の者(①の要件を満たす者に限る。)
(4) 特定譲受者の追加
今回、第三者移譲の相手方に追加された者のうち、次の者については、加算付経営移譲年金が支給される経営移譲の相手方である特定譲受者として位置付けることとされた(令第十一条の六、令第十一条の七)。
① 農外からの新規参入者及び新たに農業生産法人の構成員となる者等であって、経営移譲を受けた後、農業者年金に加入することが確実と認められる者
② 給与制の農業生産法人の構成員のうち、農業に常時従事する四〇歳未満の者
なお、合算対象期間(法第二十二条第二項第二号から第七号までに掲げる期間及びその者が当該農地等についての所有権若しくは使用収益権又は当該農業生産法人に対する持分を取得する日の属する月から六〇歳に達する日の属する月の前月までの期間を合算した期間をいう。)が二〇年に満たない者等については、政策的に加算付き経営移譲年金を支給する意味が乏しいことから、特定譲受者から除外することとされたので留意されたい。
3 後継者移譲の要件の改善
(1) 農業後継者の確保が重要な政策課題となっている中で、意欲と能力のある後継者に対する円滑な経営移譲を図るため、後継者移譲の要件が緩和された。具体的には、現行の農業従事要件が、在宅後継者の場合に「引き続き三年以上」、還流後継者(経営移譲者の世帯員でなくなった後再びその世帯員となった者をいう。)の場合に「通算三年以上かつ引き続き六月以上」となっていたものを、いずれの場合も「通算三年以上又は引き続き一年以上」とするとともに、還流後継者の場合に付加されていた「国民年金の第一号被保険者であること」等の要件が廃止された(令第九条)。
(2) 現行の後継者移譲は、経営移譲者の直系卑属のうちの一人の者に農地等の権利を処分することが要件となっていたが、家族経営協定の普及等により、後継者への経営移譲を機に、その配偶者にも農地等の権利名義を持たせる場合も生じてくると考えられるため、後継者移譲の相手方として、後継者の配偶者も位置付けることとした(法第四十二条第一項第二号ロ)。具体的には、六〇歳未満の者であって、通算三年以上又は引き続き一年以上の農業従事期間を有する配偶者を対象とする(令第九条の二)。
この場合において、後継者とその配偶者のいずれか一方又はその両方が相手方となることができるので留意されたい。
第四 担い手農業者への農地等の集積の促進
1 経営移譲のやり直しを行った場合の加算付経営移譲年金の支給
(1) 担い手農業者への農地等の集積を促進する観点から、兼業後継者に使用収益権の設定により経営移譲した受給権者が、農地等の返還を受けて、農業者年金の被保険者等の特定譲受者に対して経営移譲のやり直しを行った場合には、その時点から年金額を加算付経営移譲年金の額に改定して支給することとされた(法第四十四条第四項)。
この場合の経営移譲のやり直しは、当初の経営移譲と同様に、適格な第三者移譲又は分割経営移譲のいずれかの方法で行う必要がある(令第十一条の八、令第十一条の九)。
(2) なお、この経営移譲のやり直しを使用収益権の設定により行った者については、当該使用収益権の設定に係る農地等の返還を受けて特定譲受者以外の者に農地等の権利を処分した場合には、経営移譲年金の加算額部分が支給停止となるので留意されたい(法第四十六条第四項)。
2 分割経営移譲の面積要件の緩和
経営規模が零細な中山間地域等の実態に即した農地等の集積を促進するため、後継者と第三者に分割して経営移譲を行う場合の第三者への処分対象農地等の面積要件について、現行「二分の一以上かつ五〇アール以上」のうち「五〇アール以上」の要件を緩和し「三〇アール以上」とすることとした(令第九条の四)。
3 離農給付金支給業務の改善
(1) 従来、離農給付金は、兼業農業者等農業者年金の被保険者でない者に対して支給されていたが、農業者年金の被保険者であって保険料納付済期間等が二〇年に満たない者についても、当該被保険者が所有していた農地等の担い手農業者への集積を誘導する必要があることから、これらの者が自作地を経営移譲して離農した場合にも離農給付金を支給することとされた(法附則第十一条第一項)。
この場合、引き続き五年以上耕作又は養畜の事業を行っているか又は従事している者であり、かつ、過去に離農給付金の支給を受けたことがない者であることが必要であり、経営移譲後に任意継続加入の申出をしている者又は当該申出により農業者年金の被保険者となっている者には、離農給付金を支給しないこととされている(令附則第四条の二、第四条の三)。
なお、被保険者が離農給付金を受給する場合には、農業者年金を脱退することとなるので、脱退一時金も併せて支給されることとなる。また、離農給付金は経営を廃止することに着目して給付されるものであり、夫婦ともに農業者年金の被保険者であっても一個の経営と認められる場合は、両者に支給されることはないので留意されたい。
(2) 支給対象者の拡大に伴い、離農給付金の支給事業の政策目的を明確にするため、離農給付金の支給対象者の年齢を七〇歳から六五歳に引き下げることとされた(令附則第四条第一号)。
なお、離農給付金支給に係る経営移譲の相手方については、従来どおり、個人にあっては農業者年金の被保険者に限られるので留意されたい(令附則第五条の二)。
第五 経営移譲年金の給付内容の改善
1 死亡した被保険者の経営を承継して加入した配偶者に対する加算措置
(1) 死亡した被保険者の経営を承継した四〇歳を超える配偶者については、これまでも特定配偶者期間を活用して農業者年金へ加入する途が開かれていたが、六〇歳までの加入期間が短いため、年金額が必ずしも十分なものとならないという課題があった。
このため、今回の改正により、当該配偶者の選択によって、死亡一時金の支給を選択しなかった場合は将来の経営移譲年金の額が加算される仕組みが設けられた。具体的には、当該配偶者の保険料納付済期間に特定配偶者期間の三分の一を加算した期間により計算した年金額を受給できることとなる(法第四十四条第三項、第五十六条の二)。
(2) この加算措置は、改正法施行日以後に死亡した被保険者の配偶者について適用し、施行日前に死亡した被保険者の配偶者については、適用されないので留意されたい(改正法附則第六条第三項)。
2 障害の状態となった者に対する経営移譲年金の特例支給
従来、障害の状態となった者であっても、保険料納付済期間等が二〇年に満たないと経営移譲年金は支給されないこととなっていたが、今回の改正により、保険料納付済期間等が一五年以上二〇年未満で一定の障害の状態にある者が経営移譲した場合には、特例的に経営移譲年金を支給することとされた(法第四十一条第二項)。この場合の障害の状態は、令別表に掲げる状態に該当する必要がある(令第六条の三)。
なお、特例支給の経営移譲年金の裁定に当たっては、保険料納付済期間等が一五年以上になった時点と障害の状態となった時点との先後は問わないこととしている。
また、この特例措置により経営移譲年金を受給している者が六〇歳未満である場合には、法第四十六条第一項ただし書により若年停止の例外となるが、途中で障害の状態でなくなったときには、六〇歳に達するまで若年停止となるので留意されたい。
3 経営移譲年金の支給停止要件の改善
(1) 趣旨
経営移譲年金の支給停止制度は、特定処分対象農地等については所有権が親に留保されており、経営移譲後において当該特定処分対象農地等が親に返還されて転用されるなど当初の目的である農地保有の合理化に反する事態が生ずることが懸念されたことから、このような事態の発生を防止するために設けられたものである。
しかし、改正前の法の規定では、「農地等の一部の返還を受けた場合」が支給停止事由である「農地保有の合理化の見地から見て不適当と認められるもの」の代表例となっているため、ごく小面積の農地等の返還であっても、土地収用の対象となった場合等一定の例外事由に該当する場合を除き、経営移譲年金の支給が停止されていた。
このため、今回の改正においては、農地等の一部の返還という形態にとらわれることなく、農地保有の合理化の見地から見て不適当と認められるかどうかで支給停止を判断するよう法の規定を改め、政省令で定める支給停止の例外事由の範囲を拡大するとともに、従来の特定処分対象農地等の返還に係る事前届出制を廃止することとした。
また、特定処分対象農地等の使用収益権の移転又は設定があったことにより、譲受後継者に対して当該農地等の全部又は一部について使用及び収益をさせないこととなった場合についても同様に支給停止要件の改善を行った(法第四十六条第二項第三号、令第十二条の二等)。
さらに、特定処分対象農地等に係る支給停止要件の改善に併せて、経営移譲年金の加算部分の支給停止要件についても所要の改善措置を講じた(令第十二条の三等)。
(2) 特定処分対象農地等の返還に係る支給停止の例外事由
① 農地等の利用集積に資する処分
近年の農業を取り巻く厳しい状況に対応して効率的かつ安定的な農業経営体を育成するため、担い手への農地等の集積を加速的に進めることが農政上の重要課題となっていることから、周辺地域の農地等の利用の集積を促進する観点から譲受後継者よりも効率的な農地等の利用が可能となる特定譲受者である第三者に対して農地等の一部の権利の移転等を行う場合を支給停止の例外事由に追加した。
この場合、「周辺地域における農地等の利用の集積を促進する」と認められる場合は、次の事業の対象となったこととされている(規則第三十五条の十九)。
ア 農業経営基盤強化促進法(昭和五十五年法律第六十五号)に基づく利用権設定等促進事業
イ 特定農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律(平成五年法律第七十二号。以下「特定農山村法」という。)に基づく農林地所有権移転等促進事業
② 農業用施設の範囲の拡大
ア 従来、農業用施設の範囲は農業生産に直接関係する施設に限定されていたが、農産物の加工・販売等による付加価値の向上等に取り組む動きが強まっていることから、農業経営の改善や地域農業の振興に資すると考えられる次の施設を追加することとした(規則第三十五条の四)。
(ア) 農産物処理加工施設、農産物販売施設その他これに類似した施設
(イ) 農業生産資材製造施設その他これに類似した施設
(ウ) 家畜を診療するための施設
(エ) 廃棄された農産物又は廃棄された農業生産資材の処理の用に供する施設
イ 農業用施設の設置者については、近年、地方公共団体や農業協同組合に代わって業務を行う第三セクターや協同会社が増加してきたことにかんがみ、農業の振興に資する施設を適正に整備することが可能と考えられる次に掲げる法人等を追加することとした(規則第三十五条の五)。
(ア) 農業の振興を目的とする民法第三十四条の法人で農業者等がその構成員の過半を占めている等一定の要件に該当するもの
(イ) 農業の振興に資する事業を営む合名会社、合資会社、有限会社及び株式会社で農業者等が出資者の過半を占めている等一定の要件に該当するもの
(ウ) 農業の振興に資する目的を有する法人格を有しない団体で代表者の定めがあることその他の要件に該当するもの
③ 農村地域の活性化に資する施設
近年の農村地域では、農業所得の伸び悩みや生活環境の立ち遅れにより、地域の過疎化・高齢化が進行しており、地域全体の農業構造の改善を図っていくためには、農業の振興を図ることはもとより、都市との交流の促進や他産業の導入による就業機会の拡大、生活環境の整備等を図ることにより、総合的に地域を活性化していくことが必要となっている。
このため、特定処分対象農地等を次のような施設の用に供する場合についても支給停止とならないよう措置することとした(令条十二条の二第一号チ及びリ並びに第二号、規則第三十五条の二十六~第三十五条の二十九)。
ア 農業体験施設、市民農園整備促進法(平成二年法律第四十四号)に基づく市民農園及び特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律(平成元年法律第五十八号)に基づく特定農地貸付けがされる農地(これらの施設に附帯して設置される管理又は運営上必要な施設を含む。)
イ 後継者住宅及び合併処理浄化槽その他の生活関連施設
ウ 公民館その他の集会施設、公園、広場、集落道、下水処理のための施設その他の公共の用に供する施設
エ 就業機会の増大に寄与する次の施設
(ア) 工場、流通業務施設及び商業施設
(イ) 都市等との地域間交流を図るために設置される教育文化施設、スポーツ又はレクリエーション施設、休養施設及び宿泊施設
この場合、これらの施設は、農業用施設に比べて農業振興との関連性は薄くなることから、それぞれの施設ごとに一定の要件を設けて、これを満たす場合に「農地保有の合理化に反しない」として認めることとなっていることに留意されたい。具体的には、前記ア~ウの施設の設置者は農業用施設を設置できる者に限られ、かつ、イの施設について譲受後継者に対して権利の移転等を行う場合には、その規模は特定処分対象農地等の面積の二割以内に限ることとされている。また、エの施設については、農村地域工業等導入促進法(昭和四十六年法律第百十二号)に基づく農村地域工業等導入計画、特定農山村法に基づく農林業等活性化基盤整備計画又は農業振興地域の整備に関する法律(昭和四十四年法律第五十八号)に基づく農業振興地域整備計画を達成するために市町村が定める土地利用調整計画に従って整備される必要がある(規則第三十五条の二十四、第三十五条の二十五第二号、第三十五条の三十)。
④ 災害による返還
災害により特定処分対象農地等が著しく被害を受けて復旧が困難となった場合や住宅が被災して代替住宅を特定処分対象農地等に建設する場合には、受給権者への返還がやむを得ないと考えられることから、今回の改正により、次のような場合を例外事由として追加することとした(規則第三十五条の三第四号、第五号ニ、第八号ニ、第九号)。
ア 災害により耕作又は養畜の事業を行うことが著しく困難となった特定処分対象農地等を返還する場合
イ 一団の特定処分対象農地等の一部が災害により耕作又は養畜の事業を行うことが著しく困難となった場合で、残余農地等のうち効率的に耕作又は養畜の事業を行うことが著しく困難となった部分を返還する場合
ウ 受給権者の住宅が被災してその代替住宅の建設用地とする場合
エ 非常災害の応急対策又は復旧のための鉄道、ガス等のライフライン、応急仮設住宅棟等の施設の敷地に供する場合
なお、災害を受けた農地等や住宅が災害復旧事業等により一年以内に原状回復されることが見込まれる場合には、例外事由に該当しないので留意されたい。
⑤ その他の事由
前記以外に、農地保有の合理化の見地から見て不適当とは言えない事由として次のものを追加することとされた。
ア 土地収用法その他の法律による収用又は使用の対象となる事業(以下「土地収用該当事業」という。)に供することとなる土地の所有者等に対して、その代替地として特定処分対象農地等の一部を提供する場合(規則第三十五条の三第六号)。
イ 受給権者の住宅が土地収用該当事業に準ずるものとして主務大臣が定める事業(以下「主務大臣指定事業」という。)の用に供される土地となった場合として、従来の地方住宅供給公社等が行う五〇戸未満の住宅経営に加え、地方公共団体、森林組合等が林道を設置する場合(規則第三十五条の三第七号)。
ウ 農作物の生産活動の調整又は土砂の崩壊の防備その他の国土保全を目的として植林を行う場合(規則第三十五条の三第十号)。
エ 主務大臣指定事業等のための資材置場、砂利採取法に基づく砂利の採取、試験研究その他の特別の目的に供するために一時的に転用する場合(規則第三十五条の三第十一号)。
(3) 特定処分対象農地等の使用収益権の移転等に係る支給停止の例外事由
特定処分対象農地等の使用収益権の移転又は設定があったことにより、譲受後継者に対して当該農地等の全部又は一部について使用及び収益をさせないこととなった場合についても、返還の場合と同様の支給停止となるが、今回の改正により、返還に係る例外事由が拡大されたことに伴い、使用収益権の移転等に係る例外事由についても、これに準じて改善措置を講じることとされた(規則第三十五条の三十一)。
(4) 加算額部分の支給停止要件の改善
今回の経営移譲年金の支給停止要件の改正の趣旨にかんがみ、返還された農地等を特定譲受者に対して農地等として再処分することが不可能な場合であって、基本額部分の支給が停止されないときには加算額部分の支給も停止しないこととされた(規則第三十五条の三十七、第三十五条の四十、第三十五条の四十三、第三十五条の四十九)。
また、農業者年金基金及び農地保有合理化法人に対して存続期間一〇年以上の使用収益権の設定により経営移譲した農地等については、その後に当該法人が行った使用収益権の移転等の相手方及び当該使用収益権の設定期間が一〇年未満の場合であっても加算額部分を支給停止としないこととされた(規則第三十五条の四十第一項第十四号)。
第六 その他の改正事項
1 市街化区域内農地を有する農業者の取扱いの変更
(1) 平成三年の生産緑地法(昭和四十九年法律第六十八号)及び租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)の改正により、平成三年一月一日において三大都市圏の特定市にある生産緑地地区内の農地等以外の市街化区域内の農地等(以下「特定農地等」という。)については、相続税の納税猶予制度の対象外となるなど他の市街化区域内の農地等と取扱いが異なることとなったことを踏まえ、次のとおり特定農地等を有する農業者の取扱いが変更された。
① 経営農地等のうち特定農地等以外の農地等の面積が五〇アールに満たない者は当然加入としない(法第二十二条第一項)。これにより当然加入から除外された者(その農地等のすべてが特定農地等である者を除く。)について任意加入として位置付ける(法第二十三条第一項第五号)。
② 特定農地等以外の農地等につき所有権等に基づいて行う耕作又は養蓄の事業を廃止したときは資格を喪失するものとする(法第二十五条第八号)。
③ 特定農地等以外の農地等の面積が五〇アールに満たない者は当然加入から除外されたことに伴い、承認脱退の対象からも除外する(法第二十七条第一項)。
④ 特定農地等以外の農地等の面積が五〇アール以上あって当然加入した被保険者であっても、その後特定農地等以外の農地等の面積が五〇アールに満たなくなった者は任意脱退できるものとする(法第二十八条第一項第一号)。
⑤ 加算の要件に該当する経営移譲の要件として、当該経営移譲に係る農地等のうち特定農地等を除いた残余の農地等の面積の合計が三〇アール(法第四十二条の二に規定する経営移譲の場合には六〇アール)以上であることを追加する(法第四十四条第二項、令第十一条の四)。
(2) 前記の取扱いの変更(③及び④を除く。)については、改正法施行日(平成八年四月一日)以後に農業者年金被保険者となった者に適用し、施行日前に農業者年金の被保険者であった者については、適用されないので留意されたい(改正法附則第四条、第六条第二項)。
また、前記⑤については、最初の加入時に保有していた特定農地等以外の農地等が、加入後の都市計画の変更等やむを得ない事由により特定農地等となった場合には、適用しないので留意されたい(法第四十四条第二項、令第十一条の三)。
2 農林漁業団体役員期間等のカラ期間の確定措置
保険料納付済期間等が二〇年未満の者が、六五歳を過ぎても農林漁業団体の役員等を続けている場合について、六五歳に達する日の前日に農林漁業団体役員期間等のカラ期間が確定するよう措置し、経営移譲年金の支給要件たる保険料納付済期間等に算入することとした(法第四十一条第三項(第四十七条第二項において準用))。
3 農地等の売買等業務における売渡し等の対象者の拡大
第三者移譲の相手方が拡大されたことに伴い、新たに第三者移譲の相手方とされた新規参入者、売渡し等を受けることにより経営農地等が三〇アール以上となる者、農業生産法人の構成員等を農地等売買等業務の売渡し等の対象者に追加した(農業者年金基金の農地等の買入れ及び売渡し等に関する省令(昭和四十五年農林省令第六十二号。以下「売買省令」という。)第四条。)
4 資金の貸付け業務の対象の拡大
特定譲受者への農地等の集積を促進するため、基金の行う資金の貸付けの対象者として、法第四十四条第四項の規定により経営移譲のやり直しをする受給権者から農地等を取得しようとする者が追加された(法第八十三条第一項)。
また、新たに第三者移譲の相手方に位置づけられた新規参入者、経営移譲を受けることにより経営農地等が三〇アール以上となる者、農業生産法人の構成員等のうち、次の要件を満たす者について資金の貸付け対象者に追加された(売買省令第六条)。
(1) 耕作又は養畜の事業に常時従事する者であること。
(2) 基金から貸付けを受けた資金により農地等についての所有権を取得する日以後に農業者年金の被保険者の資格を取得することが確実と認められること。