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○抗生物質の使用基準等の改正について

(昭和三七年九月二五日)

(保険発第九四号)

(各都道府県保険課長・各関係官庁団体あて厚生省保険局医療課長通知)

今般、「抗生物質の使用基準」、「副腎皮質ホルモン、副腎皮質刺戟ホルモン及び性腺刺戟ホルモンの使用基準」及び「歯科領域における抗生物質の使用基準」が昭和三十七年九月二十四日保発第四二号保険局長通達をもつて全面改正されるとともに、性病等の治療方針、治療基準及び治療方法(昭和三十二年四月厚生省告示第百二十五号)の一部改正が、昭和三十七年九月二十五日厚生省告示第三百二十五号をもつて告示され、本年十月一日から施行されることとなり、同時に、保険医及び保険薬剤師の使用医薬品の購入価格(昭和三十五年五月厚生省告示第百四十一号)及び慢性疾患並びに特定の薬剤、治療材料等及びその価格(昭和三十三年六月厚生省告示第百七十九号)の一部改正が、それぞれ昭和三十七年九月二十五日厚生省告示第三百二十六号及び同第三百二十七号をもつて告示され、同じく本年十月一日から施行されることとなつたので、左記事項について十分留意のうえ、これが運用について遺憾のないように努められたい。

第一 改正の経緯

抗生物質の使用基準、副腎皮質ホルモン、副腎皮質刺戟ホルモン及び性腺刺戟ホルモンの使用基準(以下「副腎皮質ホルモン等の使用基準」という。)及び歯科領域における抗生物質の使用基準は、昭和三十二年四月に全面改正又は制定されて以来既に五年有余を経過したが、昭和三十七年一月に日本医学会から改正の要望がなされ、皆保険下における国民医療の向上という立場から、その間における医学、薬学の進歩を保険医療に採択することが現下の急務と考えられるに至つたので、今回、これらの使用基準の全面改正を行ない、来る十月一日から実施することになつたものであること。

第二 改正の概要と留意事項

1 三使用基準とも従来の各使用基準の全面改正の形式をとつたこと。

2 三使用基準の改正要点は別紙のとおりであるが、三者ともに従来設けられていた「使用製剤」の項を削除し、保険医及び保険薬剤師の使用医薬品(昭和三十五年五月厚生省告示第百三十九号)に収載されている医薬品は、これらの使用基準の示すところにより使用できるように改められたこと。

3 改正後の三使用基準の内容は、既に提案されている改正意見とは、その細部において若干相違があるが、これらの点については、それぞれ関係学会等との意見調整を経て、了解が成立しているものであること。

4 三使用基準とともに、各論の記述に先だち、冒頭に「治療(使用)方針」として一般原則が記されているが、ここに記されている事項は、各使用基準の全般に適用されるものであるから、従来、ややもすればこのことが等閑に付されている事実もあることにかんがみこの点に十分留意のうえ、各使用基準の運用の適正を期されたいこと。とくに抗生物質の使用基準の改正については、次の点に留意されたいこと。

(1) 抗生物質及び関係薬剤の使用順序の表を削除し、またマクロライド系薬剤、テトラサイクリン系薬剤及びクロラムフェニコールについては、その使用条件を廃止したが、抗生物質の選択にあたつては、「治療方針」の五及び保険医療の一般原則に照らし、効果的かつ経済的な治療方針により行なうべきものであること。

(2) 二種以上の抗生物質の配合剤については、フラジオマイシン・バシトラシン合剤以外は、本基準中に、その個々の配合剤について記していないが、「保険医及び保険薬剤師の使用医薬品」に収載されているものについては「治療方針」の六により使用できるものであること。なお、これらの使用量等については、新たに薬価基準に収載された医療品等の使用についての従来の通知を参考にされたいこと。

5 今回改正された使用基準と他の治療指針との関連は、次のとおりであること。

(1) 抗生物質の使用基準と性病の治療指針との関係

今回改正された同使用基準の末尾に(附)として経過措置が記されているが、これによる具体的な取扱いは、次のとおりであること。

ア 性病の治療指針中「エリスロマイシン」、「ロイコマイシン」とあるのは「マクロライド系薬剤」と読み替えて取り扱つて差し支えないこと。

イ 淋病の治療において、性病の治療指針に掲げられている薬剤による治療が無効、副作用その他の理由によつて行なうことができない場合にはカナマイシンを使用することができること。

ウ そけいリンパ肉芽腫症の治療において、テトラサイクリン又はクロラムフェニコールの代りにマクロライド系薬剤を使用することができること。

(2) 副腎皮質ホルモン等の使用基準と結核の治療指針との関係

今次改正により、肺結核で症状重篤な場合、結核性胸腹膜炎等が適応症として追加されたが、これらについては結核の治療指針の改正をまたないでも、本使用基準により使用して差し支えないものであること。

6 三使用基準の改正に伴い、関係告示の改正が次のとおり行なわれたこと。

(1) 性病等の治療方針、治療基準及び治療方法(昭和三十二年四月厚生省告示第百二十五号)の一部改正

九月二十五日厚生省告示第三百二十五号をもつて告示され十月一日から施行されることとなつたので、保険医療機関及び保険医療養担当規則に掲げる「抗生物質製剤による治療」「副腎皮質ホルモン、副腎皮質刺戟ホルモン及び性腺刺戟ホルモンによる治療」及び「歯科診療における抗生物質製剤による治療」については、十月一日以降改正後の各使用基準によるべきこととなつたこと。

(2) 保険医及び保険薬剤師の使用医薬品の購入価格(昭和三十五年五月厚生省告示第百四十一号)の一部改正

改正後の三使用基準を実施するのに必要な限度において新たに保険診療に採用する薬剤の品目とその価格を収載するため、前記告示の一部改正が九月二十五日厚生省告示第三百二十六号をもつて告示され、十月一日から施行されることとなつたこと。

(3) 慢性疾患並びに特定の薬剤、治療材料等及びその価格(昭和三十三年六月厚生省告示第百七十九号)の一部改正

三使用基準の改正と薬価基準における新薬剤の追加収載に伴い、診療報酬点数表(甲)及び歯科診療報酬点数表に定める特定薬剤を追加するため、前記告示の一部改正が行なわれたが、告示年月日、施行年月はともに前記(1)及び(2)と同様であること。(ただし、告示番号は厚生省告示第三百二十七号)

なお、別表八については、掲載品目が増加してきたことにかんがみ、抗生物質製剤、副腎皮質ホルモン配合剤等については、一括した用語を用いて掲載することとしたこと。また、同表一のかつこ書中「注射剤」とあるのは、筋注用、静注用等の注射に用いるあらゆる剤種を含むが、「軟膏」については、一般の外用軟膏を指し、眼科用、耳鼻科用等特定用途の剤型のものは含まれないものであること。

第三 三使用基準の改正に伴う診療報酬算定上の準用措置

1 削除(昭42・11・17保険発第122号により)

2 歯科診療報酬点数表における準用

歯科用複方ロイコマイシン液を使用した場合は、点科用クロラムフエニコール液を使用した場合に準ずるものとすること。

第四 その他の事項

1 今回の三使用基準の改正に伴ない、従来保険診療の対象外として取り扱われてきた半陰陽、類官官症、不妊症、月経異常であつて、保険医において診療の必要があると認められたものは、身体的苦痛の有無にかかわらず、今後療養の給付の対象とすること。

なお、昭和二十四年十月十日保険発第二九三号、昭和二十六年九月十五日保険発第二二七号、昭和三十四年五月二十七日保険発第七九号、昭和三十四年十二月八日保険発第一八五号等の通知中、本件に抵触する部分は以後廃止するものであること。

2 歯科用フラジオマイシン貼布剤は、歯科領域における抗生物質の使用基準第三適応症並びに標準的使用法及び量の項のうち、四、抜歯創(抜歯後の疼痛症を含む。)五、智歯周囲炎、六、歯齦炎、口内炎(真菌症は十を参照)及び十二手術(手術後の処置の場合に限る。)について使用するものとすること。

なお、抜歯創に対する使用は、貼布剤一枚を標準としその他の適応に際しては必要の限度において使用するものとすること。

別紙

第一 抗生物質の使用基準の改正要点

1 全面的に改正したが、とくに記載の形式を改めたものは、次のとおりである。

(1) 使用製剤の項を廃し、使用製剤は薬価基準収載をもつてこれに代えることとした。

(2) 適応症、使用法等が共通する同系列の薬剤は一括記載した。

例 ア ペニシリン、バイシリン、レオシリンを一括してペニシリン系薬剤とした。

イ エリスロマイシン、ロイコマイシン、オレアンドマイシンを一括してマクロライド系薬剤(エリスロマイシン群抗生物質)とした。

(3) 二種以上の抗生物質の配合剤を個々に掲げることを省略し、配合剤の使用に関する一般原則を治療方針に追加した。(第二治療方針の六)

2 治療方針に関し、「抗生物質及び関係薬剤の使用順序」の表を削除し、悪性腫瘍に対する抗生物質の新規収載に伴い、その使用に関する一般方針を追加した。(第二治療方針の七)

3 新規に収載した抗生物質の種類及びその主な適応症は、次のとおりである。

(1) ノボビオシン

グラム陽性球菌及び変形菌感染症、ジフテリア

(2) カナマイシン(従来は結核の治療指針によつて結核にのみ使用)

ブドウ球菌、肺炎球菌、淋菌、大腸菌、緑膿菌、変形菌等による感染症、百日咳、細菌性赤痢等でペニシリンG類似薬剤、ストレプトマイシン、マクロライド系薬剤、テトラサイクリン系薬剤等が無効又は耐性若しくは副作用の著しい場合

(3) ポリミキシン B

緑濃菌感染症、細菌性赤痢で同上の場合

(4) パロモマイシン

細菌性赤痢、アメーバ赤痢、サルモネラ症で同上の場合

(5) フラジオマイシン(従来はバシトラシンとの合剤のみ収載されていたが、これを単独に収載した。)

細菌性赤痢で同上の場合(経口投与)及び表在性化膿性疾患及び尿路感染症(外用)

(6) ミカマイシン

グラム陽性菌感染症で、他の抗生物質が無効又は耐性若しくは副作用の著しい場合(外用)

(7) バリオチン

白癬、黄癬(外用のみ)

(8) ナイスタチン

カンジダ症(内服及び外用)

(9) グリセオフルビン

爪及び頭部の白癬、黄癬、汎発性白癬(内服)

(10) ザイルコマイシン

悪性腫瘍又はこれに準ずる疾患

(11) マイトマイシン

同 右

(12) カルチノフイリン

同 右

(13) クロモマイシン

同 右

以上のほかに、サイクロセリンを新規に収載したが、その適応症は従来どおり結核のみである。また、マクロライド系薬剤としてオレアンドマイシンが新たに加わつたが、オレアンドマイシンはエリスロマイシンに準じて既に使用を認めていたものである。

4 既収載のものについても、その新しい製剤を追加した。そのうちとくにペニシリン系薬剤のジメトキシフェルペニシリン(筋肉内及び静脈内注射)及びメチルフェニルイソキサゾリルペニシリン(内服及び筋肉内注射)について、他の抗生物質に耐性のブドウ球菌感染症に対してのみ使用することとした。

5 既収載のものの適応症、使用法及び量に関する記載についても字句を訂正するとともに、その内容が現状に適しないものはこれを改め、かつ、適応症を一部追加した。また、マクロライド系薬剤(エリスロマイシン郡抗生物質)、テトラサイクリン系薬剤、クロラムフェニコールについて従来設けられていた使用条件(サルファ剤、ペニシリン、ストレプトマイシンが無効又は耐性若しくは副作用の著しい場合に限る。)を削除した。

第二 副腎皮質ホルモン等の使用基準の改正要点

1 全面的に改正したこと及び使用製剤の項を廃したことについては、抗生物質の使用基準におけると同様である。

2 適応症、使用方法、標準的使用量等を各科領域別、各疾病別に表示することとした。

3 内容としては、各科領域にわたる適応症の拡大、使用方法の追加、使用量の改正が主である。

すなわち、一、二を例示すれば、内科領域において、症状重篤な肺結核、結核性胸腹膜炎、悪性腫瘍の末期、白血病等の血液病、悪急性腎炎等が、外科領域では大手術のシヨツク防止、悪性腫瘍の再発転移等、耳鼻科領域では、中耳炎、メニエル病、手術創等が適応症に追加された。使用方法では胸腹膜炎に対す胸腹腔内注入、腱鞘炎等に対する腱鞘内、腱周囲注射、眼科疾患に対する全身投与法等が追加された。

性腺刺戟ホルモンの使用についても同様な整理が行なわれているが、皮膚●(ソウ)痒症、尋常性●(ザ)瘡は今回適応症から除かれた。

4 副腎皮質ホルモン剤として今回新たに保険医等の使用医薬品に加えられたのは、ベーターメサゾン、パラメサゾン等である。

第三 歯科領域における抗生物質の使用基準の改正要点

1 今回の改正による治療方針、標準的使用法及び量等は「抗生物質の使用基準」に掲げる内容と同様であるが、抗腫瘍性抗生物質の使用については、同使用基準を準用することとした。

2 新規に収載した抗生物質の種類及びその病原体別の主な適応症を参考として掲げれば次のとおりである。

(1) オレアンドマイシン

マクロライド系薬剤として新たに加わつたが、エリスロマイシンに準じて使用

(2) カナマイシン

ブドウ球菌、肺炎球菌、緑膿菌等による感染症等で、サルフア剤及び他の抗生物質(ペニシリンG類似薬剤、ストレプトマイシン、マクロライド系薬剤、テトラサイクリン系薬剤等)が無効又は耐性若しくは副作用の著しい場合

(3) ノボビオシン

グラム陽性球菌又は変形菌感染症、ジフテリア

(4) コリスチン

グラム陰性桿菌又は変形菌感染症

(5) ポリミキシンB

緑膿菌感染症

(6) オーレオスリシン

真菌感染症

(7) ナイスタチン

カンジダ症

(8) フラジオマイシン

グラム陰性桿菌感染症

(9) バシトラシン

ブドウ球菌又は連鎖球菌感染症

(10) グラミジンJ

ブドウ球菌又は連鎖球菌感染症