添付一覧
○歯科領域における抗生物質の使用基準
(昭和三七年九月二四日)
(保発第四二号)
(各都道府県知事あて厚生省保険局長通知)
目次
第一 抗生物質の種類
第二 治療方針
第三 適応症並びに標準的使用法及び量
第一 抗生物質の種類
1 ペニシリン(PC)系薬剤
2 ストレプトマイシン(SM)附マイシリン(MS)
3 テトラサイクリン(TC)、クロルテトラサイクリン(CTC)、オキシテトラサイクリン(OTC)、デメチルクロルテトラサイクリン(DMCT)、メタサイクリン(MOTC)、テトラサイクリンメチレンリジン(MLTC)
4 クロラムフエニコール(CP)
5 マクロライド系薬剤〔エリスロマイシン(EM)、ロイコマイシン(LM)、オレアンドマイシン(OM)、スピラマイシン(SPM)〕
6 カナマイシン(KM)
7 ノボビオシン(NB)
8 コリスチン
9 ポリミキシン-B(PMX-B)
10 オーレオスリシン(ATRN)
11 トリコマイシン(TRM)
12 ナイスタチン(NYS)
13 フラジオマイシン(FRM)附フラジオマイシン・バシトラシン合剤(FRM・BTRC)、フラジオマイシン・グラミシジン合剤(FRM・CRMN-J)
14 バシトラシン(BTRC)
15 グラミシジン-J(GRMN-J)
16 アムホテリシンB(AMPH)
17 リンコマイシン(LCM)
18 合成セフアロスポリンC系薬剤
第二 治療方針
1 抗生物質療法を行なうにあたつては、まず対象となる疾病の診断を臨床的に確定するばかりでなく、診療上必要な場合には細菌学的診断を行なう。
2 抗生物質療法においては、特にすみやかに診断に基づく早期治療を行なう必要がある。
3 抗生物質療法を行なうに際しては、安静療法、食餌療法等の一般的療法をおこたらず、また手術療法、血清療法等他の有効な療法も併用し、対症療法については、その必要性を認めた場合に行なう。
4 抗生物質の使用に際しては、耐性菌の出現、抗生物質に対する過敏性の獲得を考慮し、その乱用をつつしみ、常に副作用の発現に注意し、アレルギー反応、特にアナフイラキシーシヨツクに対しては適切な防止策を講ずるとともに、反応が起きた場合、ただちに適切な措置を講ずることができる準備をしておくことが必要である。
5 抗生物質の選択にあたつては、その疾病に最も有効な薬剤の使用を第一条件とする。副作用に十分留意するとともに、同一効果をもたらす薬剤間の選択にあたつては、経済的考慮を払う。
6 抗生物質相互並びに他の化学療法剤との併用は、併用により病原体の耐性出現を防止することができる場合、明らかに著しい治療効果を期待することができる場合、副作用を軽減することができる場合、又は一種をもつてその目的を達成することが困難な場合とする。また、これらの配合剤の使用についても同様とし、使用法及び使用量はその配合剤の組成に応じた適切なものとする。
7 抗腫瘍性抗生物質の効果は普遍的には期待し難いから、手術療法、放射線療法等と総合的に考慮しつつ使用するものとし、臨床効果の乏しいときは慢然と継続せず、他の薬剤への転換を考慮する。また、使用に際しては常に薬剤による副作用及びその防止に留意し、必要に応じて患者の血液検査、肝機能検査等を行ない、副作用の著しいときは、ただちに当該薬剤の投与を中止する。
第三 適応症並びに標準的使用法及び量
使用量は疾病の種類、症状、年令等に応じて加減する必要があるが、次に掲げる全身療法の使用量は、特にことわりのない限り成人の場合の標準量とする。
なお、抗生物質療法を行なうにあたつて、次に掲げる基準により難い場合は、医科領域の「抗生物質の使用基準」を準用する。
1 歯髄疾患及び感染根管
(1) ぺニシリン
ペニシリンの溶液又は懸濁液一回量五、〇〇〇~一〇、〇〇〇単位を含むものを用いる。
(2) ストレプトマイシン
ア マイシリン
ストレプトマイシン量にして一回量五mgを含むものを用いる。
イ マイシリンデンタルポイント
ペニシリン一、〇〇〇単位とストレプトマイシン一mg以上を含むものを用いる。
ウ ペニシリン・ストレプトマイシン合剤
ペニシリンカリウム一〇〇万単位と塩酸ストレプトマイシン塩化カルシウム一、〇〇〇mgを滅菌落花生油二〇mlに混和したもの又はペニシリン一〇〇万単位、ストレプトマイシン一、〇〇〇mgに他の抗生物質(パシトラシン、クロラムフエニコール、ナイスタチン等)や抗真菌剤(カブリール酸ソーダ)を加えプロピレングリコール又はシリコン油で煉和した懸濁液又は糊剤をストレプトマイシン量にして一回量五mgを用いる。
(3) テトラサイクリン系薬剤
プロピレングリコール糊剤一回量五mgを含むものを用いる。
(4) クロラムフエニコール、ロイコマイシン
ア プロピレングリコール糊剤
一回量五mgを含むものを用いる。
イ 根管治療用液
一回量五mgを含むものを用いる。
(5) マクロライド系薬剤、カナマイシン、フラジオマイシン及びバシトラシン溶液、糊剤又は軟膏として一回量五mgを含むものを用いる。
(6) オーレオスリシン、トリコマイシン及びナイスタチン
溶液、糊剤又は軟膏として一回量五mgを含むものを用いる。
2 急性根端性化膿性歯根膜炎・急性辺縁性化膿性歯根膜炎(急性化膿性根端性支持組織炎・急性化膿性歯頚性支持組織炎)
(1) 局所療法
可溶性ペニシリン一〇万単位を塩酸リドカイン液一mlに溶解し、一回量〇・五~一mlを局所に注射する。
(2) 全身療法
必要に応じ、急性顎炎の項に準じて行なう。
3 歯槽膿漏
(1) ペニシリン軟膏
1/3顎一回約〇・五gを用いる。
(2) テトラサイクリン系薬剤及びクロラムフエニコール軟膏一g中テトラサイクリン剤又はクロラムフエニコール三〇mg以上を含むものを1/3顎一回約〇・五gを使用する。
(3) テトラサイクリン・コーチゾン合剤
毎日又は隔日に一顎一回〇・三gを盲嚢に用いる。
(4) テトラサイクリン・プレステロン合剤1/3顎一回約〇・五gを使用する。
(5) ロイコマイシン・フラジオマイシン・プレドニゾロン合剤一顎一回約〇・三gを用いる。
(6) マクロライド系薬剤、ポリミキシン-B、オーレオスリシン、トリコマイシン、ナイスタチン、フラジオマイシン、バシトラシン、グラミシジン-Jなどを軟膏として1/3顎一回約〇・五gを用いる。
4 抜歯創(抜歯後の疼痛症を含む。)
各種の歯科用円錐、末、軟膏、含嗽剤又は歯科用貼布剤を使用するが、使用に際しては耐性菌の増加、過敏症等を考慮する必要がある。
5 智歯周囲炎
(1) 局所療法
ア 各種糊剤、軟膏、含嗽剤又は歯科用貼布剤を盲嚢内に用いる。
イ 局所注射
可溶性ぺニシリン一〇万単位を塩酸リドカイン一~二mlに溶解して〇・五~一mlを局所に用いる。
ウ 歯冠周囲膿瘍を形成したものは切開排膿後、歯科用円錐を挿入する。
(2) 全身療法
必要に応じ急性顎炎の項に準じて行なう。
6 歯齦炎、口内炎(真菌症は10を参照)
(1) 局所療法
ア 各種糊剤、軟膏、含嗽剤又は歯科用貼布剤を局所に使用する。
イ 各種トローチ
一日量六~九個を口腔内に使用する。
(2) 全身療法
必要に応じ急性顎炎の項に準じて行なう。
7 急性顎炎
(1) ペニシリン
ア 全身療法
(ア)筋肉注射
懸濁水性ペニシリン若しくはマイシン一回量三〇~六〇万単位を一日一~二回注射するか、又は可溶性ペニシリン一回量一〇~二〇万単位を三~四時間毎に注射する。ただしジベンジルエチレンジアミンジペニシリンG(バイシリン、BC)、の注射間隔は、その持続効力よりみて、三日に一回とする。ペニシリンGその他の抗生物質耐性ブドウ球菌感染症の場合には、ジメトキシフエニルペニシリン(DMP-PC)一、〇〇〇mgを四~六時間毎に、又はメチルフエニルイソキサゾリールペニシリン(MPI-PC)一回二五〇~五〇〇mgを六時間毎に注射する。
(イ) 静脈内注射
急を要する場合に限り、可溶性PC一回三~一〇万単位を二~五時間毎に注射する。ペニシリンGその他の抗生物質耐性ブドウ球菌感染症の場合には、ジメトキシフエニルペニシリン一、〇〇〇mgを六時間毎に注射する。小児にあつては、一日量体重一kgにつき五〇~一〇〇mgとする。
(ウ) 内服
普通内服用PC、フェノキシメチルペニシリン(ペニシリンV、PC-V)及びフェノキシエチルペニシリン(PE-PC)は、一回二〇~四〇万単位を四~六時間毎に与える。ペニシリンGその他の抗生物質耐性ブドウ球菌感染症の場合には、メチルフェニルイソキサゾリールペニシリン(MPI-PC)一回二五〇~五〇〇mgを六時間毎に与える
附 アミノベンジルペニシリン(AB-PC)
他の抗生物質が無効と判断されるか又は副作用の著しい場合に使用する。
(ア) 内服
一回二五〇~五〇〇mgを六時間毎に与える。
(イ) 筋肉注射
症状重篤その他の理由によつて経口投与の困難な場合に限り行なう。一回二五〇~五〇〇mgを六時間毎に注射する。
イ 局所療法
(ア) 可溶性ペニシリン一〇~三〇万単位を塩酸リドカイン液一~二mlに溶解し、一日一回局所に注射する。
(イ) 膿瘍を形成したものは、膿汁吸引後、一〇万単位を塩酸リドカイン液一~三mlに溶解し、〇・五~三mlを局所に注入する。
(2) テトラサイクリン系薬剤及びクロラムフェニコール
ア テトラサイクリン系薬剤
(ア) 内服
体重一kgにつき二五mg、一日量一、〇〇〇~二、〇〇〇mgを四~六回に分割投与する。小児の場合、体重一kgにつき二五~五〇mgを用いる。効果が認められない場合は増量する。
(イ) 筋肉注射
症状重篤その他の理由によつて、経口投与が困難な場合に限り行なう。一日量三〇〇~六〇〇mgを分割注射する。ピロリジノメチルテトラサイクリンは、一日量三〇〇~六〇〇mgを注射する。
(ウ) 静脈注射
症状重篤その他の理由によつて、経口投与が困難な場合に限り行なう。一日量五〇〇~一、〇〇○mgを二~四回に分割注射し、又は点滴注射する。
ただし、ピロリジノメチルテトラサイクリンは、一日一回二五〇mgを静脈内に注射し、又は点滴注射する。
イ クロラムフェニコール
(ア) 内服
一日量体重一kgにつき五〇mg、一日二、〇〇〇~三、〇〇〇mgを四~六回に分割投与する。小児の場合、一日量体重一kgにつき五〇~一〇〇mgを三~六回に分割投与する。
(イ) 節肉注射
症状重篤又はその他の理由によつて、経口投与が困難な場合に限り行なう。その量は、一回一、〇〇〇mg、一日一~二回とする。小児の場合にあつては、一日量体重一kgにつき五〇mgとする。
(ウ) 静脈注射
症状重篤その他の理由によつて、経口投与が困難な場合に限り行なう。一日量五〇〇~一、〇〇〇mgを二~四回に分割注射し、又は点滴注射する。
(3) マクロライド系薬剤
ア 内服(錠)
一回量二〇〇~三〇〇mg(小児の場合一日量体重一kgにつき二〇~三〇mg)を四~六時間毎に分割投与する。
イ 筋肉注射(エリスロマイシンのみ)
症状重篤又はその他の理由によつて、経口投与が困難な場合に限り行なう。一回量一〇〇~二〇〇mgを一日二~三回注射する。小児の場合一回量体重一kgにつき六~八mgを一日三~四回注射する。
ウ 静脈注射
症状重篤又はその他の理由によつて、経口投与が困難な場合に限り行なう。一回量二〇〇~三〇〇mgを一日二~三回注射する。また、一回量一、〇〇〇~二、〇〇〇mgを二四時間にわたり点滴静注する。
(3)の2 リンコマイシン(LCM)
ア 内服
成人は一日量一・五~二・〇gを六~八時間ごとに分割投与する。小児は一日量体重一kgにつき三〇~六〇mgを六~八時間ごとに分割投与する。
イ 筋肉注射、静脈注射
症状重篤その他の理由によつて経口投与の困難な場合に限り行なう。
(ア) 筋肉注射
成人は一日量〇・六~一・八gを一二~二四時間ごとに分割注射する。小児は一日量体重一kgにつき、一〇~三〇mgを一二~二四時間ごとに分割注射する。
(イ) 静脈注射
成人は一日量一・二~二・四gを八~一二時間ごとに静脈注射する。小児は一日量体重一kgにつき、一〇~三〇mgを八~一二時間ごとに静脈注射する。静脈注射法はLCM注射液を五%ブドウ糖液又は生理食塩液二〇~五〇〇mlに加え、静脈注射又は点滴静注する。
(3)の3 合成セフアロスポリンC系薬剤
他の抗生物質が無効と判断されるか若しくは副作用の著しい場合、又は症状重篤その他の理由により、経口投与困難な場合に使用する。
成人は一日量一、〇〇〇mg(力価)、小児は一日量体重一kgにつき二〇~四〇mgをそれぞれ二回に分割し、筋肉内或いは静脈内に注射する。
(4) カナマイシン
サルファ剤及び他の抗生物質(PC-G類似薬剤、SM、マクロライド系薬剤、TC系薬剤等)が無効又は耐性若しくは副作用の著しい場合に限る。重大な副作用として、第八脳神経障害の発現に注意する。腎機能障害のある患者には、特に注意を要する。
筋肉注射
一回量一、〇〇〇mgを一日一~二回注射する。小児の場合は、一日量体重一kgにつき三〇~五〇mgを一~二回に分けて注射する。
(5) ノボビオシン
一日量一、〇〇〇~二、〇〇〇mg(小児の場合、体重一kgにつき二〇~五〇mg)を六~一二時間毎に分割投与する。筋肉注射及び静脈注射は、症状重篤その他の理由によつて経口投与の困難な場合に限り、一日量〇・五~一・五gを、小児では一日量体重一kgにつき一五~五〇mgを一~三回に分割使用する。
(3) コリスチン
筋肉又は皮下注射
一回量体重一kgにつき二万単位を一日二~三回注射する。
8 顎の骨折
(1) 局所療法
各種トローチを口内炎の項に準じて使用する。
(2) 全身療法
急性顎炎の項に準じて行なう。
9 顎放線菌症
(1) 全身療法
ペニシリン六〇~一二〇万単位を一日一~二回筋注し、又は一回三〇〇万単位の大量を四日毎に筋注する。
(2) 局所療法
可溶性ペニシリン一〇~三〇万単位を塩酸リドカイン液一~三mlに溶解し一日一回局所に注射する。
10 真菌性疾患(主として口腔カンジタ症)
(1) 全身療法
ア トリコマイシン
一日量五~二〇万単位を六~八時間毎に五~一〇日間内服する。
イ ナイスタチン
一日量一五〇~三〇〇万単位を六~八時間毎に分服する。乳幼児には懸濁用ナイスタチンを用い、一日量三〇~八〇万単位を六~八時間毎に分服する。
ウ アムホテリシンB(AMPH)
AMPH五〇mg(力価)に対して五%ブドウ糖注射液一〇mlを加え、この溶解液を更にブドウ糖注射液で五〇〇ml以上に希釈(0.1mg/ml以下の濃度)して使用する。投与開始日は、体重一kgにつきAMPH〇・二五mg(力価)、次回からは症状を観察しながら漸増し、一日量体重一kgにつき通常〇・五~一・〇mg(力価)の用量で通常おおむね六時間にわたり緩徐に点滴静注する。なお、一日量体重一kgにつき一・五mg(力価)の隔日投与を行なうこともある。一日量体重一kgにつき一・五mg(力価)以上は投与しない。
(2) 局所療法
ア トリコマイシン、オーレオスリシン
軟膏を局所に塗擦する。
イ ナイスタチン
成人には内服錠を砕いて、乳幼児には懸濁用を用い、牛乳、シロップ、蜂蜜等にまぜて口中に含ませてから服用する。舌上に滴下するのもよい。
11 血液疾患
歯齦出血又は壊疽の際の感染防止のため、必要と認める抗生物質を全身又は局所に使用する。使用法及び使用量については、既述の各項目を準用する。
12 手術
術前、術中又は術後に、必要と認める抗生物質を全身又は局所に使用する。使用法及び使用量については、既述の各項目を準用する。