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○高血圧の治療指針

(昭和三六年一〇月二七日)

(保発第七三号)

(各都道府県知事あて厚生省保険局長通知)

現行「社会保険における高血圧の治療指針」(昭和三十年八月三日保発第四五号厚生省保険局長通達)を廃止し、別紙のとおり定める。

まえがき

この治療方針は主として本態性高血圧を臨床家が如何に治療するかの大綱を述べるものであるが、治療に先だち、高血圧をきたす疾患は大部分本態性高血圧症であるが、その他に次のようなものもあることを念頭におく必要がある。即ち

(一) 腎の器質的病変によるもの(急性および慢性糸球体腎炎・腎盂腎炎・多発性嚢腫腎・腎水腫・アミロイド腎・糖尿病性糸球体硬化症・主要腎動脈の閉塞および形態異常等)

(二) 血管系の病変によるもの(大動脈絞窄・結節性動脈周囲炎・閉塞 性血栓血管炎・動脈硬化等)

(三) 内分泌疾患によるもの(Cushing症候群およびその他下垂体機能亢進・クローム親和細胞腫およびその他の副腎腫瘍・バセドー病等)

(四) 妊娠中毒症によるもの

(五) 脳神経系の器質的病変によるもの(脳幹灰白質の腫瘍・炎症・脳圧亢進をきたす疾患等)

以上の鑑別に対しては、疑わしい症例には静脈内腎孟撮影、精密な腎機能検査、レジチン(Regitine)試験、ヒスタミン(Histamine)試験および血管造影術等を必要とすることがある。

本症の軽重と経過は個々の症例に対する数多くの臨床検査の結果を総合して判定せらるべきであるが、本症における症患の進行とは、主として動脈系統の硬化の進行程度と、それに由来する障害を意味する。身体各部の動脈・細動脈の硬化の程度を正確に知ることは容易ではないが、その一手段として眼底検査を行うことは極めて重要であり、本症の軽重と進行程度を区別するうえに欠くことのできないものである。

眼底所見をもつてする高血圧の分類には次の如きものがある。

第I度…眼底 変化がないかまたは動脈の軽微な狭小を認めるのみ。

血圧 屡々安静により正常値まで下る。

尿  通常所見なし。

第Ⅱ度…眼底 動脈硬化がみられ、交叉現象があるが、網膜炎の所見はない。

血圧 安静により下降するが、正常範囲までは下らない。

尿  屡々軽微の蛋白尿、ときに円柱か見られる。

第Ⅲ度…眼底 動脈硬化の他に、白斑・出血等を伴う網膜炎の所見がある。

血圧 安静をとるも下降しにくい。

尿  蛋白・円柱・屡々赤血球がある。腎機能は低下している。

第Ⅳ度…眼底 乳頭浮腫を伴う網膜炎がある。

血圧 著しく高くかつ固定的である。

尿  蛋白・円柱・屡々赤血球があり、腎機能は急速に低下に向う。

悪性高血圧の臨床診断は乳頭浮腫を伴う蛋白尿性網膜炎あるもの、即ち上掲第Ⅳ度の高血圧に対して下されるが、腎機能が急速に悪化して尿毒症に向う場合もまたもとより悪性である。また高血圧の経過中に現われる激しい頭痛・悪心・嘔吐・拡張期血圧の持続的上昇(一三〇mmHg以上)・高血圧性脳性(一過性の意識障害・てんかん様発作・一過性黒内障)等が見られるときは、疾患が既に悪性期に転入しつつあることを疑わしめる。なお悪性高血圧は年若く発病した症例に比較的多く、五五才過ぎて悪性転化することは稀である。ただし悪性高血圧は本態性高血圧全体の五~一〇%を占めるにすぎず、かつその経過が短いため、実際これを診る機会は比較的少い。

高血圧の血行力学を知ることは本症の一般経過を理解し、治療対策を考慮するうえに必要である。

動脈硬化並びに合併症のない本態性高血圧では、必博出量・循環血液量・血液粘稠度は正常であり、初期の患者では動脈の弾力性は同年代の者の正常範囲内にある。血圧上昇の起る機序は細動脈壁の緊張亢進に由来する末梢血管抵抗の増大によるものである。

初期の本態性高血圧患者では細動脈の狭窄は、全身細動脈の機能的の攣縮に基因するが、血圧亢進が持続するときは細動脈硬化を促進し、これがさらに末梢抵抗増加の一部の原因として働く。この細動脈硬化は腎・脾・膵・肝・脳の順に従つて著明に見られる。一万また持続的の血圧亢進はより大きな動脈の硬化をも促進する。かくて疾患の経過と共に大動脈・冠状動脈・脳動脈等の硬化が進行する。その際高コレステロール血症は動脈硬化を促進する一つの因子と目されているが、身体各部における動脈硬化の程度は個々の症例において著しい差があり、またそれは血圧亢進の持続年数とも必ずしも平行しないことに留意すべきである。

心臓の仕事量は収縮期血圧にほぼ比例して増加するから、高血圧が持続するに従い左室の心筋肥大をきたす。この肥大が高度になると冠循環の血液供給はこれに伴わなくなる。又高血圧者の心臓は高い能率で働くために心筋の余力が減少する。更に高血圧者は冠状動脈硬化を起し易い。これらの事実は高血圧の経過中に心筋障害・狭心症・心筋梗塞・心不全を起す原因となる。

脳動脈も持続する血圧亢進によつて硬化をきたし易い血管の一つであるが動脈壁の構造が他部血管より薄いことと終末動脈であることは古くから知られている。如何なる機序による脳血管の破綻をきたすかについては広汎な研究がなされているが、血圧亢進による脳血管の器質的変化が前提となることはほぼ疑いない。とくに内包領域の動脈枝は壁が薄く、直角に分枝するために内圧による影響を受けること多く、傷害をきたし易いとせられる。

腎の細動脈硬化は他臓器に比し最も早くかつ高度に進行するのを常とする。これが腎機能を徐々に低下せしめ、後には腎機能不全をきたす。悪性高血圧を含め本態性高血圧の約一〇%が腎機能不全の結果死亡する。

腎の血管抵抗の増加は腎硬化を促進せしめるのみならず、動脈血圧の上昇に対し原因的の役割をはたす。即ち腎血流量の減少は昇圧作用をひき起す物質を血中に遊出せしめ、血圧を益々高からしめかつ疾患を進行せしめる原因になる。

良性高血圧の予後は症例により長短様々であるが、統計的にみれば動脈血圧が高いほど予後が悪い。また発病年令が若いものは高令になつて発病したものに比し予後が悪い傾向が見られる。

合併症ある高血圧は合併症のない高血圧に比し明らかに余命が短かい。合併症は多くの場合脳・心・腎の血管硬化または血管障害による症状のうちの何れかであり、死因もまたこの順である。

治療の一般方針

本症は一旦発病すれば、その後にたとえ殆んど常態に復したと見えることがあつても、一生の問題として考えなければならぬ。従つて治療上の考慮ならびに療法の体系は生涯に向つて持続的でなければならない。当面の症状を緩和し、あるいは一時的の降圧をはかることをもつて、満足するような態度は戒めるべきであり、患者にもこの点を十分認識せしめるよう指導することが肝要である。

即ち、一旦本症が診断せられたならば、たとえ患者が自他覚的に良況にあつても、定期的に血圧ならびに脳・心・腎等の状態につき必要な検査を反復し、患者の生活の実情を把握し、生活の各般に対する指示が常に守られているかどうかを絶えず確かめることが望ましい。

とにかく、本症治療には一方医師の絶えざる努力とともに、他方患者の強い忍耐と意志とを前提とする。これには患者およびその家族の深い理解と医師および患者相互の密接な協力とを必要とする。

良性高血圧の療法は精神療法を含む一般療法ならびに食餌療法が基礎となる。もしこの様な療法をもつてしても血圧の動揺が著しく、かつ血圧に対する不安・焦燥・不眠などのある場合には、精神療法の一助として、あるいは症状改善の目的をもつて鎮静剤類の投与を試みる。その他の療法は各症例に応じて取捨すべきであつて、この際患者の年令・合併症の有無・心および腎機能・眼底所見・血圧値ならびにその動揺性・発病よりの経過年数等が療法選択の参考になる。

現在問題となつている降圧剤使用の意義については後にのべるが、本来高血圧性疾患の防止またはその発生を遅からしめることを目的とするものであるから長期連用を原則とする。従つてすべての症例にこれを用いるべきではなく、適当の選択を必要とすることはもとよりである。

降圧剤ことにその新薬については降圧作用の強力なものと温和なものがあつて一概にこれを論ずることはできないが、疾患の進行阻止を目的とするものであるから、進行の傾向顕著な症例は適当な降圧剤を必要とするが、進行の緩慢な症例では必ずしもこれを必要としない。

この際疾患の進行程度に特別の注意を払わなければならない。既に動脈系の硬化が著しく進行している症例では降圧剤を用いても血圧が下降すること少く、屡々危険を伴う。その理由は硬化した動脈は拡張性を失つているからである。従つて脳・冠・腎の動脈の硬化が最も高度な場合は降圧剤によつて血圧を下げれば、それに従つてその臓器の血流量が減じ、危険を招くことになる。これに反し動脈硬化の軽度な場合には、降圧剤に比較的よく応ずる傾向があり、危険も少い。年令若く、病発後の年月短くて血圧上昇著しく、進行の傾向著明なものほど降圧剤の適応に数えられ、高年で長期の高血圧症例では血圧高くとも動脈硬化著しいものほど、降圧剤の使用に際し慎重でなければならない。単に血圧値そのものが高いからというのみで強力な降圧剤を使用することは避けねばならない。動脈硬化の程度は眼底・胸部レ線像・心電図・尿変化・腎機能等(あるいは設備を有するところでは脳・冠・肝・腎の血流量測定)を検査することによつておおよそ察知される。

物理療法、対症療法は個々の症例において、必要に応じこれを行うものであつて、必ずしも高血圧一般に採用すべきものではない。物理療法については各論でのべるが、対症療法は合併症あるいは著しい動脈系統の硬化があつて、降圧処置が望ましくない症例において、血圧以外の主訴に対して行うことがある。

第一章 一般的療法

一 意義ならびに役割

本症における一般療法は(一)精神療法、(二)就業と安静の程度、(三)食餌嗜好品、(四)便通・睡眠およびその他生活の全般に及ぶ指導を含む。

この際念頭に置かるべきは血圧亢進を助長する諸条件である。即ち持続的の精神的緊張、過食とくに食塩の大量摂取・多飲・過労・寒冷等は、特に遺伝負荷ある場合に発病を早からしめ、また既に血圧上昇をきたした患者に対しては血圧亢進を助長する有力な因子になるものである。従つて個々の症例についてその生活の細部にわたつて懇切に指導し、治療に逆行することのないよう注意する必要がある。

一般に高血圧の治療は長期にわたるものであるから、治療上の指示は患者個人の現実に適合するよう工夫されねばならぬ。即ち治療のための種々の制約や要請は、それが実行可能で守り易いということを十分考慮したうえで決めるべきである。これがために患者の職業・業務の内容・経済状態・家庭における責任・住居の状態・性格・知能・習慣・趣味・嗜好品等を知悉することに務め、それらの個々の条件を治療の方針に反映させることが望ましい。

二 精神療法(精神的指導)

患者の不安・恐怖・精神的不安定・精神的緊張及び過労等は本症に対し悪影響があり、精神的指導はこれらを極力避けしめるよう努めるにある。

患者は屡々神経症状を呈し、その多くは合併症とくに卒中の発生にたいし過度の心配を抱いたりまた血圧の推移に過大の関心をもつものであるからこれらの是正が大切である。即ち本症は十年~数十年というきわめて長期間脳性合併症をきたすことなく持続し、その間適当な注意の下に日常生活がほとんど障害せられることなく保たれることが決して少くないことを教え、また経過中血圧の値に多かれ少かれ動揺があることはむしろ当然で、これに対し一喜一憂するのは不利であることを説き、安心して治療方針を守るよう指導すベきである。逆にまた無頓着な、あるいは無暴な患者に対しては、本症が種々の悪影響や不適当な生活によつて悪化進行し、また重要臓器に重篤な変化を招来し生活機能が高度に侵されうることを十分意識させるよう努めることが必要である。

なお頭痛・心悸亢進その他の自覚症状は患者に焦燥を起させ精神不安を増大するものであるから、鎮静剤投与等により症状の軽減を図ることは、精神療法を有利にすすめるうえに軽視できない。いずれにせよ医師は精神的指導を行なうにあたつて、患者の精神上の問題の所在および機能を察知することに努め、それらの解決に向つてよき協力者とならねばならない。

三 就業と安静

疾患の軽重により必要な安静の度は大いに異なる。これを明確に程度を分類して規定することは困難であり、また必ずしも個々の場合に適合しないが、合併症のない高血圧については大体次のような基準を設けることができよう。

(一) 軽症では強度の肉体労働や過度の心労は制限し、なるべく規則的な温和な生活を営むようすすめるがよい。日常生活はほぼ普通に行わせるが、夕刻以後は安静をとらせ、できれば毎食後三〇分~一時間休息をとらせる。多忙な家事や混雑した場所への外出、繁雑な交際等は避けさせる。

(二) 中等症ではなるべく責任や義務を伴う職務や家事を離れさせる。坐居で行う自由で軽微な仕事は差支えないが、毎食後約一時間および夕刻以後は安静を守らせる。居室はなるべく階下とし階段の上昇を制限し、寝室は便所に近く選ぶか又は男子ならば夜間便器を使用させる。外出はできるだけ制限する。日常生活は温和を第一とし、ことに不安・焦燥・興奮・怒り等の原因を除くことに努めなければならない。来客も少なくすることが望ましい。

(三) 重症(悪性高血圧を含む)では高度の安静を命ずる。患者をして従来の職務や家庭内の煩事に関知することを極力避けさせるよう配慮する。温和な慰安を除いてすべての刺激を遠ざける。症状によつて臥床安静ないし絶対安静を命ずる。

(四) 合併症を有する高血圧については後にのべる。

四 食餌及び嗜好品

特殊食餌療法については次章でのべるが、一般に食餌は淡白な食餌を可とする。肥満症を有する患者にたいしては低カロリー、低脂肪食により脱脂を図る。肥満した患者において体重減少を来たすことは、血圧を低下し心臓の負担を軽減する点で有利であるが、肥満していない患者にたいしては低カロリー食の必要はない。しかしこの場合にも高カロリー・高脂肪・高蛋白食は避けるべきである。三食中の中の一食を野菜食とし、あるいは一週の中に一日の野菜日を設ける等は有利である。間食は果物がよい。水分の摂取は浮腫傾向のある場合を除いて特に制限する必要はないが、いかなる場合にも過量の水分摂取は避けるべきである。調味料として問題になるのは食塩であるが、低ナトリウム食(後述)または浮腫ある場合の食餌療法のような特定の目的を有する場合を除いても、一般に食塩の使用はなるべく節減することが望ましい。しかし前記のような場合以外はとくに量を定めて制限するほどの必要はない。バターや食用油は多量に使用するのでなければ差支えない。

香辛料その他の刺激物は腎障害の明らかでない場合にも一般に避けることが望ましい。中等症以上では禁ずる。

茶、コーヒー、紅茶、ココア、清涼飲料水等は過度にわたらなければ差支えない。酒類および煙草はなるべく節せしめ、重症では原則として禁止する。

五 その他

(一) 入浴 軽症以下では普通に行つて差支えないが、なるべくぬるい湯を選ぶ。重症では、心・腎・脳の状態により入浴を全く禁じなければならぬこともある。

(二) 便通 本症のあらゆる時期を通じ便通をととのえることはきわめて大切である。便通は次にのべる睡眠とともに、間接的であるが本症にたいし軽視できない影響を与えるので、検診時毎につねにその状態を患者から聴取して対策を講ずる。便通をよくするためには早朝冷たい牛乳を飲ませるとか、野菜・果実を多くとるとか、あるいは軽症ならば適度の運動を行う等生理的な方法によるのが望ましい。しかし本症患者における便秘は多くの場合はなはだ頑固で緩下剤の使用を余儀なくせられることが多い。また便の回数ばかりでなく硬さに注意し、排便に長時間を、あるいは怒責を要しない程度に加減するのがよい。脳血管変化の想像せられる場合は殊にそうである。

(三) 睡眠 睡眠障害は本症に対して有害であるから、極力良好かつ十分ならしめるよう努める。適当な精神療法により不安・焦燥を除くと共に、睡眠を妨げないよう環境に注意を払う。軽症においては適度の運動が睡眠を良好ならしめるのに効果がある。それらの方法によつても睡眠を良好ならしめることが困難な場合、また中等症・重症で睡眠障害がある場合は、適宜睡眠剤を用いるもやむを得ない。

(四) 娯楽・旅行等

適当な慰安についてはむしろ積極的に考慮する必要がある。娯楽の種類については個人の趣味もあり、またそれに臨む態度も各人各様であつて一様にはいえないが、一般に興奮しやすいもの、刺激性に富むもの、対抗的のもの、長時間を要するもの、不良な環境で行われるもの等を避けて、時間や相手に拘束されず、かつ静かで落着いた性質のものを選ぶ方が望ましい。したがつて読書・ラジオ・絵画・園芸・盆栽・散歩等は好ましい娯楽であるといえる。しかし軽症患者では碁・将棋・マージヤン等でも勝負に拘泥せず疲れない程度に行うならば差支えないし、また観劇・観映・音楽会・展覧会等も劇場や会場の設備がよく、混雑しなければ、症状に応じ一定の制限の下に許容して差支えない。要するに、場合によりまた個人により内容を考慮して選択すべきであるが、不利な影響を危惧せられるような娯楽はもつと好適な娯楽に転ずるよう指導することも必要である。

旅行は、殊に混雑を予想せられる場合は避ける方がよい。中等症以上では長途の旅行を制限し、または禁止するが、やむを得ない場合はなるべく好適な時期と交通機関とを選ぶようすすめる。

悪道路の長途の自動車旅行や航空機の利用も避けるのが安全である。

第二章 食餌療法

一 食餌カロリーの調整

全カロリー量が必要カロリー量を越さないように、体重を測りながら調整する。

心身過労と過食は血圧を固定又は悪化せしめる重要な原因である。特に肥満した高血圧症患者には、米飯一杯(又は軽く二杯)、蛋白質常量(体重一kgにつき一~〇・七g)、脂肪制限の如き食餌とし、多量の野菜と中等量の果物で空腹感を満たすのがよい。

許容しうる程度の運動によつては体重減少は余り期待されないから、体重減少のためには主眼を減食におく方が有効である。

二 米飯・果実療法

米飯・果実・果汁・白糖・麦芽糖を材料とし、食塩を全然使用せず、蛋白質二〇g、脂肪五g、食塩〇・二g以下、総カロリーは二・〇〇〇以上とする食餌を与える。

この食餌が高血圧に有効のことがあるのは厳重減塩食及び半飢餓療法であると批判されているが食餌療法の一つの型として用いる価値がある。この厳重な食餌療法は調理法の点で工夫して行えば重症例の治療上有利なことがある。

三 渇飢餓療法

果汁を一日六〇〇ccだけで四~七日つづけ、その間硫苦で腸内容を排泄する。その後ジヤガイモの粥・野菜・オートミル・果物を与え食塩と水を制限する。次には蛋白質脂肪をも含んだ減塩食を与える。この方法はやや重症の高血圧または悪性高血圧に実施して効果をみることがある。

四 減塩食療法

減塩食は高血圧に対し鎮静剤と共に最もしばしば効果をあげうる療法である。食餌中の食塩の多いことが高血圧の発病を早め、あるいは悪化の原因となりうることは臨床的にも実験的にも認められている。又食塩のうちでもNaイオンに意味があることも同様に承認されている。

食塩の制限または禁止は高血圧の血圧降下に有効であつて、減塩食には二通りある。即ち厳重な減塩として一日食塩〇・二g以下のものと、中等度の減塩即ち一日二~五gにとどめるものの二種類である。

我が国民は平常一日一二~二四gの比較的多量の食塩を摂取するので一日○・二g以下に制限することは困難であるが、日常生活の指導において食塩を五g以下にすることは容易である。

(一) 厳重減塩食

米飯・ジヤガイモ・砂糖・無塩牛乳・人造無塩バター等により〇・二g以下の食塩を与えることは特別な調理所のある病院か栄養研究所でなくては実施が困難である。しかし実施しうる場合には本食餌を七日~一四日間実施し、次に一四日ほどの中等減塩食の期間をはさみ、その後再び厳重減塩食とする療法をくりかえす。

本法は食餌がまずいので長続きせず全身倦怠・疲労感を訴えるようになる欠点があるが、患者が理解して実施すれば、副作用が少く確実な方法である。

本法により時々血圧を下げるのは血圧が高い数値に固定されるのを防ぎ、また心不全や眼底変化の招来を遅くし、これを防止するのを目的とする。即ち血圧調節機構が高い血圧値に慣れるのを防ぎ、正常値附近に調節させる能力を保存せんとするものである。

厳重減塩食及び中等度減塩食が高血圧のすべてに有効とは言えない。有効率は二五~四三%といわれる。しかし重症例を含むすべての高血圧症例の約四〇%に有効であるから、先ず定石として行うべき療法である。

(二) 陽イオン交換樹脂(Cation Exchange Resin)

陽イオン交換樹脂(レジン)を内服すれば、Naをレジンに吸着して体外に排泄し、食餌中に食塩が含まれていても体内にNが吸収されぬので厳重減塩食と同じ効果をもたらすことができる。

減塩食は有効ではあるがその欠点として(一)調理が家庭でも普通の病院でも困難であり、計算分析に手数を要する。(二)減塩食(〇・二g以下)を行うと食欲がなくだるくなり食餌の楽しみがなく、長続きがしない。

そこで食餌として三~五gの食塩を与え食思を保存し食物の楽しみを与え同時に一日四五~六〇gの陽イオン交換樹脂を三回に分つて食後に内服させるときは、一日〇・二~〇・五gの食塩を含む食餌と同じ効果をうることができる。

ただし、レジンを使う時にはアチドージス、陽イオン欠乏症候群等の副作用をきたすことがあるから、注意を要する。

第三章 薬物療法

一 概説

高血圧の治療に用いられる薬剤は、大別すれば次の通りである。

(1) 鎮静剤類

(2) 降圧剤類

(3) その他の薬剤

(一) 鎮静剤類

従来広く用いられてきたものであり、高血圧の精神療法の補助としても、あるいは対症療法の一手段としての意義をもつものであつて、症例によつては鎮静剤の投与のみによつて症状の改善がみられると共に、ある程度の血圧下降が認められることも少なくない。一般的にいつて初期の血圧動揺の著しい症例では鎮静剤の投与によつて血圧下降をみる場合も多いが、進行した固定的の高血圧ではほとんど降圧効果はみられない。それ故に鎮静剤は特に精神不安のある症例または精神的因子によつて血圧が動揺し易い症例に対して投与されるべきであり、また降圧剤を用いる前に精神的の鎮静によつていかに血圧が下がるかを見定めるために用いられる。この目的にはフエノバルビタール一日〇・〇五~○・一gを用いるのが一般的である。

(二) 降圧剤

降圧剤としては各種のものが存在するが、高血圧の真の原因がまた確定的でない今日、いずれの降圧剤の使用も原因療法ではなく、一種の対症療法である。

元来高血圧は極めて長期にわたる疾患であるために、その治療のために降圧剤を用いるとすれば、特別な例外を除いて長期間連用を原則とする。この目的のために今日の降圧剤は、そのほとんどのものが経口投与が可能で作用持続時間が比較的長く、また血圧下降以外の副作用が少ないことを条件として研究された結果によるものである。従つて実地使用に当つては例外的薬剤を除いて、または例外的場合を除いて、経口投与の形で与えるのを原則とする。注射の形式で降圧剤を与えるのは、高血圧性脳症の発作時、悪性高血圧ことに症状の劇烈な場合、脳出血その他の原因で経口投与が不可能であるか、あるいは特に速かに血圧を下げることを必要とする場合等である。また一部の合併症のある高血圧には合併症の治療の目的で注射の形式の降圧剤を用いることがある。

(三) その他の薬剤

高血圧の治療にあたつて用いられることのあるその他の薬剤は、高血圧に伴つて起こり易い動脈硬化の予防ないし治療に用いられる薬剤と、合併症に対して対症療法の目的で用いられる薬剤である。これらのものについては後に記す。

二 降圧剤の分類とその特徴

降圧剤の分類とその作用機序ならびに用法・用量を別表に掲げる。

三 各降圧剤の特性と使用上の注意

(一) ラウオルフイア・セルベンチーナ(Rauwolfia Serpentina)剤

インド産蛇木であるRauwolfia Serpentinaの根皮より抽出したアルカロイドで、混合アルカロイドとしてはレセルピンの他数種の降圧性アルカロイドを含む製剤と、純粋にレセルピンあるいはその他の単一アルカロイドを抽出した製剤とがある。その作用は大脳皮質下中枢の鎮静作用であり、主として間脳の自律神経中枢細胞内にセロトニンに置き代つて侵入することがその鎮静をきたす理由と考えられている。すなわち、血圧調節の上位中枢を鎮静させ、その結果として血圧下降をきたすことが主な作用機序であるとされている。

本剤の特徴は、投与を開始しても直ちに血圧下降をきたさず、体内に薬剤が蓄積するに従つて血圧下降をきたし、また薬剤の投与を中止しても急激に血圧が上昇することなく漸次その作用が減少することにある。

使用量は別表のように症例に応じて加減すべきであるが通常使用量は混合アルカロイド一日四mgレセルピン一日〇・五mgを二分して朝夕に与える。ただし、一日一回の投与とし、あるいは一日三回に分ち与えることもある。この使用量を投与した場合、投与開始後約一~二週間で血圧が最大下降に達し、耐薬性の上昇なく、同じ量を投与することによつて長く降圧効果が保たれ、投与を中止してもなおしばらくは効果が持続し、その後約二週間を経て次第に血圧が旧値に復する。

従つて高血圧の様な慢性疾患で長期連用を必要とする場合、薬剤の服用が患者の事情により不規則になつても急激に血圧の動揺をきたすことのないのが著しい利点である。

本剤の適応はかなり広く初期の動揺性のある高血圧から、進行した固定的の高血圧迄広範囲に及ぶ。さらに臓器の血行障害が顕著に見られる症例に本剤を投与しても危険な副作用を招くことはない。禁忌は殆んどなく、血圧下降を不可とする場合のみである。

副作用として数えられるものは少なく、今日迄約七年間の臨床観察において連続投与例においても臓器障害を起こしたものはない。ただし投与開始後一~二週の間に鼻づまり、顔面のほてる感じおよび徐脈のみられることが少なくない。この徐脈も高血圧の治療にはかえつて有利に働く場合が多い。なお一部症例は、本剤の投与によつて精神の抑うつが見られ、また男性の患者では性欲の減退が起こる場合もある。

(二) ベラトラム(Veratrum)製剤

Veratrum Virideから抽出したアルカロイドで、その混合アルカロイドをAlka―vervirと呼ぶ。その作用は主として延髄の血管運動神経中枢に抑制的に働き、また頚動脈洞神経に働いて血管を拡張し血圧を下げる。しかし同時に副交感神経刺激作用があつて、これが副作用となり得る。本剤の特徴は耐薬性の上昇をきたさないことであり、降圧作用は経口投与の場合四五~一五〇分後に現われ、一~七時間持続する。筋注では降圧は直ちに現われ、六〇~九〇分で最高に達するが、持続は経口投与の場合より短かい。

本剤の利点は投与法が簡易であり、かつ生命に関わるような危険がないことである。多少の個人差もあるが当初は混合アルカロイド一日二~六mgを四回に分けて投与し、四~一〇mgを維持量とする。

欠点はときに不快な副作用を伴うことである。すなわち副作用は悪心・嘔吐・胸部絞扼感及び胸部の焼ける感じをきたすことが少なくない。その他下痢・四肢の灼熱感・顔面蒼白・まれに虚脱をきたすが、死にいたるほどのものは起らない。これらの副作用は使用量を適宜加減することによつて調整することができる。

(三) ヒドラジノフタラジン(Hydrainophthalazine,Hydralazine)

a ヒドラジン

中枢性に作用し、交感神経遮断の作用を示すが、一部は末梢遮断作用もあり、アドレナリン・ノルアドレナリン・ハイパーテンシン・フエレンタシン等に対し拮抗的に働く作用がみられる。微弱ではあるが副交感神経遮断作用もある。本剤の特徴は経口投与によつてほとんど完全に吸収されて降圧作用をきたし、かつ腎及び冠血流量を増大させることである。かなり強い遮断剤に属し、重症な高血圧に用いられるが、耐薬性の上昇が著しく、十分な降圧作用が得られない場合もある。

副作用としては頭痛・関節痛・悪心・嘔吐・食欲不振・顔面発赤・頻脈・起立性低血圧(立ちくらみ)・まれに紅斑性狼瘡・血清蛋白の異常・肝機能障害・肝および脾腫があげられる。これらの副作用のうち悪心・嘔吐・起立性低血圧等は薬量を適当に加減して血圧とにらみ合わせて維持量に到達させることによつて多くは防ぎ得るが、本剤によつて起こる頻脈は心臓の負担を増大させそのために冠状動脈不全のある症例ではときに心臓の合併症を誘発することもあるから、注意を要する。頭痛や関節痛には抗ヒスタミン剤を用いる。

本剤の作用に対しては、かなり著しい個人差があり、維持量もまた必ずしも一定ではないが、一日六〇〇mg以上を年余に亘り継続投与すると貧血ならびに紅斑性狼瘡を惹起することがあるから、注意を要する。

投与法は経口的に初回一日量五〇mg前後を三~四回に分ち与え、毎日血圧を測定し、血圧下降が十分でないときには漸次増量して適当な血圧値を保たせる様に投薬量を決定する。投薬開始後三~四週間までは耐薬性が増大するから、次第に投薬量を増加して三~四週間後に維持量に移るが、維持量は一日二〇〇~六〇〇mgである。しかしながら長期連用の際の副作用の発生を防止する意味で維持量を三〇〇mgまでにとどめるがよい。本剤は維持量に達した後もさらに耐薬性が上昇して降圧作用が見られなくなる場合もあるが、この様な例症では後にしるす併用療法によつて適当な降圧を保たせるようにする。

適応は悪性および重症高血圧で、血圧下降を必要とする場合であり、早期の悪性高血圧ならびに動脈硬化の著しくない眼底kw-Ⅲの高血圧等が代表的な適応である。しかし眼底kw-Ⅰまたはkw-Ⅱの高血圧でも血圧の上昇著しく進行の傾向顕著な症例は本剤または他の強力な降圧剤の適応に入る。

禁忌は高度の、腎冠の動脈硬化ある場合である。

(四) 自律神経遮断剤

a へキサメトニウム (Hexamethonium)塩(C6)

本剤は最初に現われた自律神経節遮断剤で、強い降圧作用を有する。本剤は腸からの吸収率が低く、そのために、もし便秘が現われると過量な薬剤が吸収されて、著しい低血圧におちいる危険がある。従つて本剤投与上の注意は、便秘したならば、経口投与を中止し、もし著しい便秘が起つたならばワゴスチグミン、その他の副交感神経刺激剤を与え、便通を整える必要がある。

経口投与法は初回一日量二〇〇~四〇〇mgを三~四回に分ち与える。耐性の上昇に従い毎日血圧を測定しつつ漸次増量して二~三週間後に維持量に達せしめるが、維持量は一日二・〇g前後である。時として維持量が一日三gを越えてはじめて十分な血圧下降が見られることもあるが、かかる際も一日三g迄にとどめた方が良い。本剤においては個人差が著しいことは一般自律神経節遮断剤と同じである。維持量に達したならば、週一回血圧を測定し、投薬量を僅かに調整することによつて血圧値を比較的低く保たせることができる。

b ペントリニウム(Pentolinium)、(C5)

ヘキサメトニウムよりも吸収率が高く、かつ降圧力が強いために、これに代るものとして合成されたものである。その作用機序ならびに降圧効果および副作用等は他の自律神経節遮断剤と全く同様であるが、吸収率が比較的高いために使用量が少くてすむ。

経口投与の場合初回一日約二〇~四〇mgを四回にわけて与え、ヘキサメトニウムと同じく毎日血圧を測定しながら少量ずつ増量して三~四週間後に維持量に達せしめる。維持量の平均は一日約二〇〇mg前後である。本剤はヘキサメトニウムよりも腸からの吸収率が高いために便秘等によつて著しい低血圧をきたす危険は比較的少いが、なお吸収率が完全でないために便秘が続く場合に同一量を連用すると、血圧下降のために危険を招くこともある。

適応および禁忌はヘキサメトニウムと全く同じである。

c メカミラミン(Mecamilamine)

本剤は吸収率が極めて高く、かつ降圧力の強い自律神経節遮断剤として研究合成されたものである。降圧作用機序および副作用等はヘキサメトニウムおよびぺントリニウムとほとんど同じであるが、降圧力が一層強いために投与量は著しく少量である。すなわち、初回投与量二・五mgを一日一~二回投与し、約三週間後に維持量に達せしめるが、維持量は五・〇~四五mgである。本剤もまた著しい個人差があり、症例によつては悪心・嘔吐・便秘等の副作用がへキサメトニウムおよびペントリニウムに比して著しい場合もあるが、使用量が少くてすむ利点がある。

d ペントメチルピペリジン(Pentomethylpiperidine)

本剤もヘキサメトニウムおよびペントリニウムに比し降圧力が強く、かつ腸からの吸収率もほとんど完全に近いことを特徴とする自律神経節遮断剤である。

作用機序ならびに副作用は前記のものとほぼ同一であるが、やはり個人差が著しく、その使用量は個々の症例によつて一定ではない。

一般に経口投与する場合には初回一日量二・五mgを四回に分ち与え、毎日血圧を測定しながら観察し、降圧作用が十分でないときは、一日一・〇~二・〇mgずつ漸次増加して維持量に達せしめるが、維持量は一日五・〇~一五mg多くは六・〇~七・〇mgである。

e カンヒジニウム(Camphidinium)化合物

本剤は交感神経節遮断作用を有するが、比較的少量の経口投与で優れた降圧作用を現わし、降圧効果が徐々に現われ、降圧持続時間が長いことを特徴とする。

また節遮断剤に毎常みられる耐薬性の上昇が、本剤には殆んどみられないことは実地治療の上で極めて便利な特性と云えよう。

一般に一回一〇mg一日二回の投与で降圧効果が得られるが、固定型の高血圧で血圧が下りにくいときは、一回二〇~三〇mg、一日二回の投与をすることもある。食前または食後二時間に投与するのがよい。本剤は他の自律神経遮断剤と同じくラウオルフイヤ剤と共に与えれば、より効果的である。セルペンチンおよびレセルピンと併用することは副作用を少なくし、降圧効果を増強する。

f ブレチリウムトシレート(Bretyliumtosylate)

交感神経末梢を遮断する作用がある。遮断部位が末梢であることが、本剤の特徴であつて、従つて中枢に作用するラウオルフイヤ剤あるいは節遮断剤と併用することも降圧効果を高める上に有効である。

単独使用する場合は一日量一五〇mgを二~三回に分ち経口投与し、一回五〇mg前後を漸増して二~三週後に維持量に達する。維持量の平均は一日六〇〇mg前後である。他剤と併用の場合もこれに準ずる。

g グアネチジン(Guanethidine)

交感神経末梢に作用し、ノルアドレナリンの生産ないし分泌を抑制する。

強力な降圧剤であり、重症高血圧で降圧を必要とする場合を主な適応とするが、一般に併用療法の一剤として用いることが多い。

初回一日一〇mgを二~三回に分ち経口投与し、約五mgずつ血圧値に応じて漸増し希望する血圧に達せしめる。維持量の平均は一日二〇~三〇mgである。

(五) ベンゾチアジアジン(Benzothiadiazine)系およびその他の降圧剤

この系列に属する薬剤は元来尿細管におけるNa,K,Clの再吸収を抑制することにより利尿をもたらす薬剤であるが、これとともに著明な血圧下降作用があるために、最も有力な降圧剤として広く応用せられるに至つたものである。

本系列に属する薬剤の降圧作用の機序については充分明らかでないが、通常量を経口投与した場合の利尿作用の持続は薬剤の種類によつて異なるが六~四八時間に及ぶこと、および降圧作用は直ちに現われるのではなく、数日の後徐々に血圧が下り、一~二週の後に最大下降に達すること、ならびに耐薬性の上昇は今日までの観察ではみられないことは、本系列に属する薬剤の特徴であるとともに長所である。また高血圧に対しこれを用いた場合、症例により、また薬剤の種類により食欲不振、発疹等の副作用をみることもあるが、危険な副作用は殆んどみられない。但し大量を長期に亘つて連用すれば低カリウム血症を来たす危険もあることを念頭におく必要がある。

使用法と使用量は各薬剤によつて異なるため、一覧表を参照し、個々の症例に対し病状に応じて加減すべきものであるが、一般に降圧を目的とする場合は利尿を目的とする場合とは多少用法用量が異なり、場合によつては一日一回午前中に投与する方法によつても充分降圧効果が得られる。このような投与法では別に KClの投与を行なわなくても低カリウム血症を来たすことはない。但し午前午後の二回投与する必要のある場合もあり、また一日三回投与することも必ずしも不合理ではない。

この系列に属する薬剤は使用量に著しい差があるが、利尿の型あるいは降圧効果において対応する量を用いた場合には大差はみられない。一般にラウオルフイヤ剤その他の降圧剤と併用するのがよいが、本系列に属するもの相互の併用を行なうことは意味がない。

(六) 血管拡張剤について

一般に自律神経節遮断剤の作用は末梢血管抵抗を減少させることによつて、降圧効果をきたすものであるが、ここに血管拡張剤として分類するのは自律神経節遮断剤に属さず、作用機序は各々異なるが結局は末梢血管の拡張を惹起することによつて血圧下降をきたす薬剤である。

a ジヒドロエルゴツト・アルカロイド

自律神経中枢の鎮静により血圧下降をきたすが末梢作用もある。ジヒドロエルゴツト・アルカロイドに属する三種の化合物の合剤の注射液を一日〇・五~一・〇cc(〇・一五~〇・三mg)を連日または隔日に皮下または筋肉内注射するが舌下錠を用いることもある。本剤は血圧を急速に下げることが必要な場合に適している。

b 硝酸および亜硝酸塩類

古くから用いられた多くの降圧剤の主薬をなすものであつて、大量投与をすれば末梢血管を拡張させる作用がある。通常の薬用量では高血圧患者の血圧ならびに症状に対し著しい影響は見られないが、本剤は冠状動脈の拡張作用があるために、冠状動脈硬化に基く症状がある場合に治療の一手段として用い得る。亜硝酸ソーダの他にペンタエリスリトールテトラニトレートの製剤がある。

c キサンチン(Xanthine)誘導体

キサンチン誘導体のうちジウレチンカルシウムは末梢血管拡張、ことに冠状動脈および腎動脈を拡張する作用があるので、これらの合併症を持つた高血圧に適する。その他の高血圧に対しては、降圧効果が近来の降圧剤に比してそれ程強くないので、一般に用いられることは少ない。

d アセチルコリンおよびグルタミルコリン(Glutamylcholine)

アセチルコリンは末梢血管拡張剤として四肢の動脈硬化にもとづく合併症のある場合に用いられる。グルタミルコリンも血圧下降作用があるといわれる。

e 臓器製剤

膵臓からの抽出製剤であるカリクレイン(Kalikrein)はことに冠状動脈と四肢の末梢血管を拡張させる作用があり、降圧剤としても用いられる薬剤である。本剤は注射の形式で用いるのを原則とし、毎日または隔日に一〇~四〇単位を使用する。

四 降圧剤の併用療法

二~三の降圧剤を併用することは、各々の降圧剤のもつ副作用を少なくし、降圧効果を高める上に有利である場合が少なくない。しかしながら特殊な症例を除けば、最初から併用療法を行なうべきではない。これを必要とする場合には適当な薬剤の組合わせを選ぶベきである。

一般に単独投与を以つては降圧効果が充分に得られない症例で、病態の進行を抑制する上に血圧を適当に低く保たせることが必要な症例が併用療法の適応に入る。もとより高血圧の病態の進行は高い動脈内圧によつてもたらされる結果であるから、治療の根本方針は常に比較的低い血圧あるいは正常血圧を保たせることによつて病態の進行を阻止させようとすることにあることは既述の通りである。従つて研究者によつては極めて広い範囲の症例に対し、併用療法を行なうべきであると提案するものもあるが、一面強力に血圧を下げることが不利と危険を招くおそれある症例もあり、また遮断剤の耐性上昇の結果、長期療法を困難にする場合も少なくないことを念頭におくべきである。

一般に自律神経節遮断剤はその単独投与よりも併用療法の方が有利である。また塩類利尿剤をもつて高血圧の治療を行なおうとする場合も、併用療法の方が降圧効果が著しい。

降圧剤の組合わせ

近代的の各種の降圧剤の発見以来、既に一〇年を経過せんとする今日において、必然的とも言える傾向は、二~三の降圧剤の併用療法である。その併用の型式と方法については、必ずしも一定のものを提示し難いが、多くはRauwolfia剤の単独投与をまず試み、それのみでは不充分の場合に、症例に応じ他の降圧剤を加えることは、治療上の危険を少なからしめ、また降圧剤の効果をよりよく把握しうる点において合理的の方法とも云えよう。但し当初から併用療法を行なうことも、今日では必ずしも不合理であるとは云い得ない。

降圧剤の組合わせには次のようなものがあるが、必ずしもこれにとらわれる必要はない。

降圧剤の併用療法一覧表

(一) ラウオルフイヤ剤+ベラトラム剤

(二) ラウオルフイヤ剤+ヒドラジノフタラジン

(三) ラウオルフイヤ剤+自律神経遮断剤

(四) 自律神経遮断剤+ヒドラジノフタラジン

(五) ラウオルフイヤ剤+ヒドラジノフタラジン十自律神経遮断剤

(六) ラウオルフイヤ剤+ベンゾチアジアジン

(七) ラウオルフイヤ剤+自律神経遮断剤+ベンゾチアジアジン

なお動脈硬化性合併症を有する高血圧に前記降圧剤とともに臓器製剤または亜硝酸製剤、あるいはキサンチン誘導体(テオブロミン剤、アミノフイリン製剤等)、ニコチン酸製剤等を併用することがある。

〔註一〕前記の他に、なお降圧剤の組合わせがありうる。

〔註二〕前記(二)(三)(四)(五)(七)の組合わせは悪性高血圧または重症高血圧で特に血圧を下げることを必要とする場合に用いられる。〔註三〕一般的には温和で危険の少い降圧剤から用い始め、必要により他の降圧剤を追加する方法を行なうことが多い。

〔註四〕ベンゾチアジアジンとは一覧表中のこの系統の何れか一つの薬剤を意味する。

なお動脈硬化性合併症を有する高血圧に前記降圧剤とともに臓器製剤または亜硝酸製剤、あるいはキサンチン誘導体製剤(テオブロミン・アミノフイリン等)、ニコチン酸製剤等を併用することがある。

五 その他の薬剤

以下のべるものは高血圧に伴い易い異常に対し、症例によつては用い得る薬剤である。

a 著しい精神的不安・不眠・頭痛その他の自覚症状のある症例に対し、クロルプロマジン(Chlorpromazine)・メプロバメート(Meprobamate)その他のトランキライザーを使用することがある。

b また特に高コレステロール血症を有する症例に対しては抗脂血剤を用いることもある。

c 眼底出血や皮下出血があり、あるいは毛細血管壁が脆弱化している症例には、ルチン剤・アドレノクローム・ビタミンC・ビタミンK・ビタミンP等を使用することがある。

d 婦人の更年期障害に伴う高血圧には卵胞ホルモンを用いることがある。

第四章 物理療法

一 超短波・ジアテルミー・レ線間脳射・陰イオン吸入。これらは一時的に血圧下降をきたし得る場合もあるが、十分な治療効果は期待出来ない。

二 転地および温泉療法。心不全のない例には屡々有効である。これは温浴自身よりも精神的・肉体的安静の得られる点が重要なものと思われる。

三 瀉血。大量瀉血でない限り、一時的にも十分な血圧下降は期待せられず、又直ちに旧に復する関係上、みだりに行うべきでなく、急を要する場合に限るべきである。従つて血圧が単に二〇〇mmHgを越すとの理由のみで頻々と瀉血をするが如きは害あつて益のないことである。しかし劇烈な頭痛、高血圧性脳症の場合には有効である。又高血圧性心不全による心臓性喘息にも有効であるが、この場合には強心剤、モルヒネの使用が先決である。

第五章 合併症についての対策

一 腎機能不全の対策

高血圧は末期には殆んど全例尿蛋白陽性となるが、尿毒症の形に進むものは本邦人では比較的稀である。高血圧性腎機能不全を恢復せしめ得る薬剤は無く、従つて残つた機能を更に障害せぬ様努力すべきである。そのためには腎炎に対すると同様に蛋白、食塩の摂取を制限する。飲水量は多すぎぬ限り患者の望む儘でよい。蛋白、食塩の制限は多くの場合長期に亘つて行う要があるため、尿毒症の危険のない限り極端な制限を続ける要はなく、蛋白質一日五〇g以下、食塩二~五g程度が良い。刺激物の使用は勿論禁忌である。

尿毒症乃至その危険の生じた時は絶対安静にし、食餌は蛋白質を極度に(体重一kg〇・五g以下)制限し、米飯・穀類製品・馬鈴薯・野菜・果物・糖類・牛乳(三合以上は不可)・バター・植物性油等・植物性食品を主として尿量は一・五~二・になるよう十分な水分を与える。悪心・嘔吐のため食物乃至水分の摂取困難な場合には滋養灌腸、点滴注入、Infusion等による。

食塩の制限はさほど厳重である必要はなく、利尿の認められる限り、一日二~五g投与して差支えなく、ときに大腿皮下に食塩注射を行う。又カリウム欠乏の顕著な時には毎日二~四gのKCIを投与するがよい。アチドージスに対しては重曹水の静注、注腸を行なう。痙攣に対しては高張葡萄糖液の注射、ペントバルビタールソーダの静注が行われ、舌を噛まぬ様にする注意が必要である。悪心、嘔吐に対しては氷片を与え、或は硫酸アトロピン(一日三回〇・五mg)塩酸コカイン (一日数回〇・〇一~〇・〇二g)、ロートエキス、アネステジン(一日一・〇~一・五g)等を与える。高張葡萄糖液のよく奏効することもある。又アミタールン-ダの注腸を行なうこともある。興奮状態に対しては臭素剤、アダリン、ルミナール、抱水クロラール、モルヒネ、コディン、パントポン等の鎮静剤、麻酔剤を経口、注腸、あるいは注射によつて投与する。二〇〇~四〇〇ccの瀉血を必要に応じて、一~二日の間隔を以つて繰返すこともあるが、これは循環系の負担を軽減する以外に著しい効果はない。

二 高血圧性心疾患の療法

高血圧では前述の如く、心不全をきたす場合と冠状動脈硬化の結果狭心症、心筋梗塞をきたす場合がある。

高血圧性心不全に対しては一般心不全と何等変るところはない。高血圧性心不全は通常徐々に発達するために、歩行時に呼吸困難、動悸、更に軽度の浮腫を訴える頃に安静を保つと強心剤を使用することなく消退せしめ得る。又この期を過ぎると夜間心臓性喘息を訴えて来るが、発作そのものにはモルヒネの使用が最も有効で、ビタカンフアー五~一〇ccをブドウ糖と共に静注する事もある。ストロフアンチン、ヂゴキシン等の併用も良いが、先にジギタリス剤の使用せられている時には注意を要する。初期には夜間心臓性喘息をきたすが、日中は軽度の動悸、息切れを訴えるのみでさして苦痛がないため安静を守り難いから十分な注意が肝要である。薬剤としてはジギタリス剤が有効で、その使用法は通常の心不全と何等変りない。なお利尿剤としては水銀利尿剤、キサンチン剤が好んで用いられる。腎機能不全の顕著な場合は水銀利尿剤は禁忌である。

狭心症発作には亜硝酸アミルの吸入、ニトログリセリンの服用がよい。間歇時にはジウカルチン、ルミナール、塩酸パパベリンの内服、アミノフイリンの静注(屡々ストロフアンチンと併用)その他の各種冠拡張剤が用いられる。

心筋梗塞の発作に対してはモルヒネ剤の注射、酸素吸入、ストロフアンチンの如き強心剤を使用し、シヨツクに対してはノルアドレナリン等を使用する。心室性頻博症に対しては大量のキニヂン剤、硫酸マグネシウム静注を行なう。

三 高血圧性脳症に対する療法

高血圧性脳症に対しては二〇〇~三〇〇ccの瀉血が行なわれ、腰椎穿刺のよく奏効することもある。但し液の排除は徐々に行うべきで、もし速やかに排除すればかえつて頭痛を劇烈にする。なお五〇%ブドウ糖液静注も脳圧を軽減せしめるために屡々用いられるが、二次的に脳圧を上昇することがあるため、高張蔗糖液、マニトール液の静注がこれに代つて行われる。即ち二五%マニトール液二〇〇~六〇〇ccを緩徐に静注し、第二日も一〇〇ccを二~三回繰返して静注する。本療法は尿細管障害をきたす危険があり、長く使用することは禁忌とされている。又食塩の少い大量のアルブミンの静注も行われている。痙攣の予防、頭痛、悪心のあるときに一〇%硫酸マグネシウム液を緩徐に静注するのもよい。必要あらば二時間乃至一時間毎に投与する。又小児には五〇%硫酸マグネシウム三〇~六○cc、大人では六〇~一〇〇ccを、四~五時間毎に注腸してもよい。硫酸マグネシウムのため呼吸抑制が見られるときにはCaCl2、グルコン酸カルシウムの静注により直ちに除去できる。頭痛、悪心等には塩酸パパベリン、アミノフィリンの静注もよい。

間歇時には塩酸パパベリンを単独或はフエノバルビタールと共に投与し、アミノフイリン等のキサンチン剤の静注を行い、食餌は牛乳、野菜食を主とする。

四 脳出血の対策

一旦脳出血発作が起れば直ち抑臥せしめ、枕は少し高くし、頚部静脈が屈曲して血液の還流循環が妨げられることのないよう肩の下に座蒲団を入れ、頭を上体と一緒に高くする。又頚部や胸部を包む衣類もひろめ、若し衣類が除き難いときには鋏み切る。その他は全く対症的に行うほかない。

脳出血の発生機序が明らかでないため、脳出血の予防を如何にすべきかは判然としない。ルチンが使用せられているが、如何ほどの効果があるか疑問であり、ルチンを使用しているが故に摂生をないがしろにする如きは誤りである。

ただ血圧亢進が高度なほど脳卒中が多いため、高血圧者においては異常な頭痛、眩暈、軽度の言語障害、運動障害をきたしたときには安静を守るべきである。

第六章 悪性高血圧の治療

悪性高血圧の診断については一般的事項でのべたが、この病名を附せられるのは本態性高血圧の七~一〇%程度を占めるにすぎないことを注意する必要がある。臨床的に悪性高血圧患者を診る機会はこの%より遥かに少い。その理由は悪性高血圧は生命の予後が短いからである。単に血圧が著しく高く、治療に対する抵抗か強い、あるいは重篤な合併症を有することをもつて悪性の診断を下すことは慎まねばならない。

悪性高血圧は治療困難ではあるが、症例によつてはある程度の治療を施すことができる。

一般にこの診断が附せられたならば、ある程度の症状改善が見られるまでは絶対安静を必要とする。この目的のために入院加療することは合理的である。

食餌は原則として厳重減塩食とする。蛋白摂取量は症例によつて必ずしも一定の限界を決められないが、一口五〇g以下、通常二〇~三〇gにする。もし血中残余窒素が八〇mg%を越えるならば更に蛋白摂取量を減少する。

その後の治療方針は早期から悪性症状を現わした症例と、良性高血圧の末期に悪性症状を現わしたものとでは大いに異る。

早期から悪性症状を発し、頭痛、悪心、嘔吐をきたし、蛋白尿性網膜炎がありながら、尿毒症状はなく、血中残余窒素も著しく高くはないものには、腎血流量を増大せしめ強力な降圧作用ある薬剤の投与によつて症状改善が見られることが少くない。少くも眼底所見は改善され、血圧はある程度まで下り、自覚症状も消失することがある。ただしこの場合も投薬を中止すると急激に血圧が上昇して死を招くことか多いので継続投与を要する。かかる症例に対する降圧剤の長期投与こよりどの程度まで生命を延長し得るかは今後の観察をまつ他ない。

一方悪性高血圧といつても、厳重減塩食と絶対安静により自然軽快をきたすこともあるから或期間は一般療法を試みてから降圧剤を使用すべきであろう。

良性高血圧の末期に悪性化したものは、既に尿毒症を伴つているか、または早晩尿毒症状が現われる。この場合には慢性腎炎の末期と同じく、尿毒症状の発現を遅らせることに全力が注がれる。かかる症例では腎の硬化が著しい筈であるから、血圧を強力に降下せしめる処置は危険である。心の機能に絶えず注意を払い、尿量減少があれば時機を失することなく強心剤の使用を必要とする。

別表

降圧剤一覧表

種類

薬剤名

作用

用法及び用量

備考

ラウオルフイヤ・セルペンチーナ剤

アルサーオキシロン

Alseroxylon

(混合アルカロイド)

主として間脳の自律神経中枢の鎮静

病態により異るが平均1日量約4~10mgを経口投与する。注射は特殊の場合に用いる。

(記事参照)

経口投与は1日量を1回に与えてもよく、また2~3回に分ち与えてもよい。

レセルピン

Reserpin

病態により異るが平均1日量約0.2~1.0mgを経口投与する。注射は特殊の場合に用いる。

レセルピジン

Reserpidine

レシナミン

Rescinamine

セルペンチン

Serpentine

通常2~6mgを1日2~3回に分ち経口投与する。

10―メトキシデセルピジン

10―Methox-ydeserpidine

他のラウオルフイア剤でうつ症状を呈した場合にも使用しうる。通常20~60mgを1日2~3回に分ち経口投与する。

他のラウオルフイア剤でうつ症状を呈した場合に使用しうる。

ベラトラム剤

アルカベルビール

Alkavervir

(VeratrumVirideの総アルカロイド)

頚動脈洞神経(血圧反射受容体)に作用して血管を拡張し血圧を下げる。

初回1日量4~6mgを3回に分ち経口投与し、多くは1日6~10mgを維持量とする。

急を要するときは注射薬を用いることもある。

 

ヒドラジノフタラジン

ヒドララジン

Hydrazinop-hthalazine

(Hydrala-zine)

中枢性の交感神経遮断作用があるが、抗アドレナリン作用もある。

初回1日量50mg前後を3~4回に分ち経口投与し漸増して3~4週間後に維持量(平均200~600mg)に達する。注射法もある。

 

自律神経遮断剤

ヘキサメトニウム

Hexamethonium(C6)

 

初回1回量200~400mgを3~4回に分ち経口投与し、漸増して3~4週間後に維持量(平均1日2g前後)に達する。注射法もある。

 

 

ペントリニウム

Pentolinium(C5)

主として交感神経節において興奮伝達を遮断するが、薬剤によつては軽微な副交感神経節遮断作用を伴う。

初回1日量20~40mgを3~4回に分ち経口投与し、漸増して3~4週間後に維持量(平均1日200mg前後)に達する。注射法もある。

 

メカミラミン

Mecamyla-mine

初回1日量5mg前後を朝夕2回に分ち経口投与し、漸増して平均維持量25mg(平均1日5~45mg)に達する。

ペンピジン

Pentomethy-lpiperidine

(Pempidine)

初回1日量2.5mgを3~4回に分ち経口投与し、漸増して維持量(平均1日5~15mg)に達する。

カンヒジニウム化合物

Camphidin-ium化合物

1日量20~60mgを2~3回に分ち経口投与する。投与量を漸増する必要はない。

ブレチリウムトシレート

Bretyliumtosylate

交感神経末梢を抑制する。

初回1日150mgを2~3回に分ち経口投与し、必要により1日50mgずつ増量して維持量(平均600mg)に達する。

 

グアネチジン

Guanet-hidine

交感神経末梢に作用し、ノルアドレナリンの生産ないし分泌を抑制する。

初回1日量10mgから始め、5mgずつ増量して希望する血圧に達せしめる。その後維持量(平均1日20~30mg)を持続する。

 

ベンゾチアジアジン系その他の降圧剤

クロロチアジト

Chlorothia-zide

尿細管におけるNa、K、Clの再吸収を抑制し、Naの排泄を促進する結果として細動脈壁の緊張を低下せしめ、血圧下降をきたす。

各薬剤は単位重量の表わすNa排泄促進作用に著しい強弱があるが、作用の型はほぼ同じである。

1日1回500mgを午前に内服せしめる。症例によつては1日1000~2000mgを午前、午後の2回に分ち与える。

併用療法その他の都合により所要量を1日3回に分ち与える場合もあるが、1日量が左記1日1回投与法の量以下では降圧効果を期待し難い。

ヒドロクロロチアジド

Hydrochlo-rothiazide

1日1回50mgを午前に内服せしめる。症例によつては、1日100mgを午前、午後の2回に分ち与える。

ベンチルヒドロクロロチアジド

Bentylhydr-ochlorothi-azide

1日4~6mgを経口投与する。

ベンゾチアジド

Benzothia-zede

1日50mg~150mg普通75mgを内服せしめる。他の降圧剤(レセルピン等)と併用により特有の増強作用あり。

トリクロルメチアジド

Trichlorme-thiazide

1日1回2~4mgを午前に内服せしめる。症例によつては、1日8mgを午前、午後の2回に分ち与える。

チクロベンチアジド

Tyclopnth-iazide

1日1回0.25mg~0.5mgを内服せしめる。症例によつて0.7~1.0mgを2~3回に分ち与える。

5クロロ―2・4ジスルフアミルトルエン

5Chloro―2・4disulfa-miltoluene

1日50~100mgを朝食後1回投与する。症例により1日150~200mgを午前、午後の2回に分ち経口投与する。

クロルベンゾールスルフホンアミド

Chlorbenzo-lsulfonamide

1日100~200mgを1~2回に分ち内服せしめる。その後いずれも半量を維持量として与える。年齢症状に応じて増減する。

クロルタリドン

Chlortha-lidone

1日1回50mgを午前に内服せしめる。症例によつては、1日100~200mgを午前、午後の2回に分ち与える。

ヒドロフルメチアジド

Hydroflume-thiazide

1日1回25~50mgを午前に服用せしめる。症例によつては1日100mgを午前、午後の2回に分ち与える。

ベンドロフルメチアジド

Bendroflumethiazide

1日1回2.5~5.0mgを午前に内服せしめる。症例により1日5.0~15.0mgを午前、午後に分ち与える。

(ペンゾチアジアジン系その他の降圧剤)

クロレキソロン

Clorexolone

 

1日1回10~30mgを午前に内服せしめる。症例により1日50mgを午前、午後の2回に分けて与える。

 

その他

ジヒドロエルゴツトアルカロイド

ジヒドロエルゴコルニン

Dihydroerg-ocornine

ジヒドロエルゴクリスチン

Dihydroerg-ocristine

ジヒドロエルゴクリプチン

Dihydroerg-ocryptine

自律神経中枢の鎮静によるが、末梢の抗アドレナリン作用もある。

左記3剤の合剤の注射液1日0.5~1.0cc(0.15~0.3mg)を連日または隔日に皮下または筋肉内注射する。

舌下錠による治療法もある。

亜硝酸製剤

亜硝酸ナトリウム

Sodiumnitrite

主に血管運動神経の中枢に作用し、末梢血管を拡張せしめる。

血管拡張作用の他に自律神経遮断作用もある。

1日量0.06gを水溶液として3回に分ち経口投与する。

 

ペンタエリスリトールテトラニトレート

Pentaerythr-itoltetrani-trate

1日量9~18mgを3回に分ち経口投与する。

 

臓器製剤

カリクレイン

Kallikrein

末梢血管壁に作用して、拡張せしめる。

1月10~40単位を連日または隔日に皮下注射する。

他にほぼ同種の膵臓抽出剤がある。

キサンチン誘導体

ジウレチンカルシユウム

Diuretin-calcium

軽微な血圧下降作用と冠状動脈拡張作用がある。

1日量1~2gを3回に分ち経口投与する。

 

コリン誘導体

グルタミルコリン

Glutamylch-oline

作用機能はなお充分明らかではない。

通常1日量8~12mgを3回に分ち経口投与、症状により適宜増量する。