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○健康保険法第六十八条の規定の解釈について

(昭和二五年六月一〇日)

(厚生大臣あて財団法人平和協会駒沢病院長・右代理人照会

健康保険法上診療報酬債権は左記理由に依り、同法第六十八条中の保険給付を受ける権利と看做すべきものと解するに付御省の御見解を御伺致します。

理由

健康保険法(以下「法」と称する。)に於て被保険者の疾病又は負傷に関して「療養」なる現物給付と、この現物給付をなすること困難な特別の場合に療養費の給付(金銭給付)をなすことを規定して居るが(法第四十四条)、此の金銭給付を受ける権利は、これを譲渡し、又は差押うるを得ないことは言うまでもないが、現物給付(療養)を担当する保険医が保険者に対して有する診療報酬債権も現物給付と表裏一体をなし、該債権も亦譲渡及差押を禁止されるものと解する。

若し、診療報酬が現物給付と離れて譲渡及び差押えされ得るとすれば、診療報酬が保険医の診療の財源であるだけに、患者は自己が信頼して選定した保険医の診療を受けられない場合を生じ、法第六十八条の大半の意義を失うことになるのである。殊に斯く解さなければ、前記特別の場合の療養費債権が、譲渡及び差押を禁止されて居るのと権衡を得ないことになるのである。

且つ、保険医の診療報酬債権も均しく法第四章保険給付中に規定して居る所より見るも斯く解するが正当である。而して、保険給付の受給権者は、独り被保険者に限らず、被保険者死亡の場合の埋葬料に就いては、被保険者に依り生計を維持する者で、埋葬を行う者も受給権者となるのであり(法第四十九条)、殊に被扶養者が保険医若くは保険薬剤師等に就き療養を受けた場合に於て、其の家族療養費を当該保険医、保険薬剤師等に直接支払うことを得るものとし(法第五十九条ノ二第三項)、保険医が受給権者と看做されて居るのであつて、保険医のこの受給権は被保険者の受給権とこれ又表裏一体をなして居るものとしてのみ理解し得るものであつて、前記現物給付の場合の診療報酬債権についても全く同一理論に拠るのである。

(昭和二五年六月一三日 保文発第一三三一号)

(広川捨吉あて 厚生省保険局長回答)

六月十日付をもつて標記の件について御照会になつたが、左記によつて御了知ありたい。

健康保険法第六十八条に規定する「保険給付ヲ受クル権利ハ之ヲ譲渡シ又ハ差押フルコトヲ得ス」とは、被保険者又は被扶養者の保険事故について、被保険者が保険者から受ける保険給付を譲渡又は差押うることを得ずというものであつて、保険医等が療養の給付をなした場合において、保険者からその診療報酬の支払を受けることは、本法にいわゆる保険給付として受けるものと、直ちに解釈されないところであるが、その趣旨とするところは、被保険者に対し、保険給付を確保することにあることは、明白である。従つて、貴見の如き解釈の下に、基金を通してなす診療報酬の支払は、その他の保険給付と同様に、条理上差押又は譲渡の対象とならないものと考える。