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○覚せい剤の慢性中毒患者に対する保険給付について
(昭和二九年九月二二日)
(保険発第二三二号の二各都道府県民生部(局)保険課(部)長あて厚生省健康保険課長通知)
標記の件に関して千葉県保険課長より別紙甲のとおり照会があつたので別紙乙のとおり回答したから通知する。
なお、貴管下健康保険組合に対しても、この旨周知徹底方お取り計らい願いたい。
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〔別紙甲号〕
(昭和二九年七月一七日 保第七八五号)
(厚生省健康保険課長あて 千葉県民生部保険課長照会)
覚せい剤の取締り及び覚せい剤の慢性中毒患者に対する措置等については、青少年の不良化防止ないしは防犯的立場から、国における一連のヒロポン対策として強力に推進されている現情でありますが、健康保険におけるこれら覚せい剤の慢性中毒患者に対する保険給付については、健康保険法第六十条に規定する「自己ノ故意ノ犯罪行為ニ因リ又ハ故意ニ事故ヲ生ゼシメタル」ものとして、概ね保険給付の絶対的制限理由に該当するものでありますから、慎重にその発病原因の調査を必要とし、いやしくも、これらの制限理由に該当する原因により慢性中毒患者となつた者に対しては、本県においては、善良な多数被保険者の利益を擁護する観点から、厳正に保険給付の制限を図る方針で取扱つている次第であります。
覚せい剤の使用等に関しては、覚せい剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)第十九条の規定により、一定の施用機関等が使用する場合の外任意に使用することが禁止され、これに違反して使用した場合には、同法に定める犯罪行為として処罰されることになつているばかりでなく、覚せい剤の慢性中毒患者の発病原因を調査した結果によれば、その大部分が故意に保険事故を生ぜしめたものと認められる実情でありますが、さきに精神衛生法の一部を改正する法律(昭和二十九年六月法律第百七十九号)が施行され、これら覚せい剤の慢性中毒患者についても、一般精神障害者と同様な法的保護がなされることとなり、国としてもヒロポン対策の一環として、従来よりさらにこれが対策の推進をみた実情にもありますので、社会的立法としての健康保険法においても、これら覚せい剤中毒患者に対する保険給付の取扱いの影響が極めて重要な問題となつている実情に鑑み、これが全国的取扱いの具体的方針について何分のお示しを得たく照会いたします。
おつて本県については、財団法人復光会の経営にかかる総武病院において、全国的に初めて覚せい剤の慢性中毒患者の療養施設として診療が開始されてから、これら患者の発病原因等について詳細な報告を徴するとともに、これが具体的な保険給付の実施について検討を進めて来た次第でありますが、一応最近迄に報告を徴した発病原因等については、別紙の通り報告を受けておりますから、参考迄に申添えます。
〔別紙乙号〕
(昭和二九年九月二二日 保険発第二三二号)
(千葉県民生部保険課長あて 厚生省健康保険課長回答)
七月十七日付保第七八五号をもつて照会のあつた標記について左記のとおり回答する。
記
先般公布された精神衛生法の一部を改正する法律(昭和二十九年六月十四日法律第百七十九号)は、覚せい剤、麻薬若しくはあへん(以下「覚せい剤等」という。)が青少年等の心身を害しつつある現状にかんがみ、これらの慢性中毒患者の医療及び保護等に関する措置を新たに定めたものであるが、健康保険の被保険者又はその被扶養者の覚せい剤等による慢性中毒症に対する保険給付は、今後左記により取り扱うこととされたい。
1 覚せい剤取締法等の故意の違反による犯罪者であつて、判決の確定した者に対しては、健康保険法(以下「法」という。)第六十条の規定により保険給付の全部を支給しないものであること。
2 覚せい剤等による慢性中毒症につき、はじめてその療養を受ける者(前号に該当する者を除く。)に対しては、法第六十一条に規定する著しき不行跡に該当する者として傷病手当金の支給のみを行わず療養の給付又は家族療養費の支給を行うものであること。ただし、慢性中毒患者となつた事由が、特に宥恕すべきものであると認められる被保険者については、保険給付の全部を支給することを妨げれないものであること。
3 前号に該当する覚せい剤等の慢性中毒患者(前号但書に該当する者を除く。)であつて、再び覚せい剤等による慢性中毒症について診療を受けたときは、保険給付の全部を支給しないものであること。
4 覚せい剤等の慢性中毒者に対する精神衛生法の規定による公費負担については、従来の精神障害者に対する取扱と同一であり、従つて、法第六十二条第二項の規定の適用については、保険給付が先行するものであること。
5 日雇労働者健康保険及び船員保険の被保険者及びその被扶養者についても、右と同様の取扱を行うものであること。
なお、日雇労働者健康保険の被保険者が第二号に該当する場合においては、事実上傷病手当金の支給制限が行われないこととなり、結果的には保険給付の全部が支給されることとなるため、第三号の適用については、第二号但書の事由に該当することの有無によつて、行うものであること。