添付一覧
○労働者災害補償保険法による休業補償費と健康保険法による傷病手当金との併給について
(昭和三三年七月八日)
(保険発第九五号の二各都道府県民生部(局)保険課(部)長・社会保険出張所長あて厚生省保険局健康保険課長通知)
標記について別紙甲のとおり照会があり、別紙乙のとおり回答したので通知する。
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(別紙甲)
労働者災害補償保険法に基く休業補償と健康保険法に基く傷病手当金の併給について
(昭和三二年三月一五日 保険給第一〇一号)
(厚生省保険局健康保険課長あて 佐賀県厚生部保険課長照会)
労働者災害補償保険法に基き休業補償を受給している被保険者が他病(業務外)を併発し健康保険法に基く療養の給付を受けその傷病についても労務不能の場合傷病手当金の併給が出来るか否か。現行法に依れば調整規定がないので併給も可能かとも思料されるが、昭和三十一年三月発行(三五頁)の「社会保険」の質問に対する回答欄に依れば、主たる疾病に基き何れからか支給される旨記載されている。最近、近県に於て両法の併給は可能である旨の解釈が文書に依つて炭労支部あて通知された関係上、当県に於ても各関係者より本件の取扱についての照会に接しているので右の関係について具体的に御教示賜りたく照会致します。
(別紙乙)
労働者災害補償保険法による休業補償費と健康保険法による傷病手当金との併給について
(昭和三三年七月八日 保険発第九五号)
(佐賀県厚生部保険課長あて 厚生省保険局健康保険課長回答)
昭和三十二年三月十五日保険給第一〇一号をもつて照会のあつた標記については、問題の性質上内閣法制局の意見を求めたところ(別紙1)、別紙のとおりの回答があり(別紙2)、したがつて労働者災害補償保険法による休業補償費を受給している健康保険の被保険者が、業務外の事由による傷病によつても労務不能となつた場合には、休業補償費の額が傷病手当金の額に達しないときにおけるその部分にかかわるものを除き、傷病手当金は支給されないものと解するのが妥当であるので回答する。
別紙1
労働者災害補償保険法による休業補償費と健康保険法による傷病手当金との併給について
(昭和三三年一二月二四日 厚生省発保第二〇六号)
(法政局次長あて 厚生事務次官照会)
労働者災害補償保険法による休業補償費を受給している健康保険の被保険者が、業務外の事由による疾病を併発し、その疾病についても労務不能の状態になつたとき、健康保険法による傷病手当金を併給すべきか否かについて疑義がありますので、貴見をお伺いします。
当方としては、左の理由により併給すべきでないと考えます。
1 保険事故は二つであつても、保障対象は同一人についての労務不能に起因する収入の杜絶又は減少という一つの実態であり、両制度はともに生活の保障を行うことを目的とするものであるから、一方の給付により、その目的が達せられること。
2 併給するとすれば、受給者は傷病手当金として一日につき、標準報酬日額の百分の六十、休業補償費として一日につき平均賃金の百分の六十を併せ受けることとなり、就労している場合の所得を上廻ることとなるので公平に反し、また、傷病手当金の支給額を標準報酬日額の百分の六十としていることの趣旨を喪失せしめること。
別紙2
労働者災害補償保険法による休業補償費と健康保険法による傷病手当金との併給について
(昭和三三年六月七日 法政局一発第一三号)
(厚生事務次官あて 法政局次長回答)
昭和三十二年十二月二十四日付厚生省発保第二○六号をもつて照会にかかる標記の件に関し、次のとおり意見を回答する。
1 問 題
健康保険の被保険者で、現に労働者災害補償保険法(以下単に「労災保険法」という。)による休業補償費の支給を受けている労働者が、業務上の事由による疾病又は負傷による療養をなお必要とする期間中に、業務外の事由による疾病又は負傷(以下単に「業務外の疾病」という。)を併発し、これに関する療養のためにも労務に服することができないものと認められうるような状況になつた場合には、右の者に対して健康保険法第四十五条の規定による傷病手当金を支給すべきものと解すべきであるか。
2 意見及び理由
健康保険法は、その第四十五条において健康保険の被保険者が業務外の疾病に関する療養のために労務に服することができない場合には一定額の傷病手当金を支給する旨を定めており(同法第一条参照)、お示しのように現に労災保険法による休業補償費の支給を受けている者についてこのような事由が生じた場合に傷病手当金の支給を制限し、又は否認する旨の別段の規定を設けていない。そこで、健康保険法に規定する傷病手当金は、お示しのように現に労災保険法による休業補償費の支給を受けている者に対してもこれを支給すべきものと解するほかないのではないか、との疑問が生ずる。いうまでもなく、健康保険法に規定する傷病手当金は、健康保険の被保険者に対する保険給付の一種であつて、被保険者は、同法所定の要件のもとにその支給を受けるべき権利を有するのであるから、このような保険給付について、明文の規定によらないで、みだりにその支給を制限し、又は否認することが許されないことは、当然の事理といわなければなるまい。しかしながら、このことから直ちにお示しの場合には傷病手当金を支給するほかはないものと解するのは、速断のそしりをまぬかれない。なぜかというと、お示しのような場合に、労災保険法による休業補償費のほかに、さらに傷病手当金をも支給することは、健康保険法において設けられた傷病手当金制度の本旨と相いれるものであるかどうか、この点に検討の余地が残されているからである。
健康保険法に規定する傷病手当金制度は、被保険者が業務外の疾病に関する療養のために労務に服することができなくなり、かつ、そのために報酬を受けることができない場合に(同法第五十八条参照)、当該被保険者に対してその標準報酬日額の百分の六十相当額を支給することによつて、その者の生活の保障をはかることをその本旨とするものであることは、改めていうまでもない。一方、労災保険法に規定する休業補償費は、当該労働者に対して労働基準法第七十六条第一項に規定する休業補償を行うべき場合、すなわち当該労働者が業務上の負傷又は疾病に関する療養のため労働することができないために賃金を受けない場合に支給される保険給付であつて(労災保険法第十二条第一項第二号及び同条第二項並びに労働基準法第七十五条及び第七十六条参照)、その制度の本旨が当該労働者の報酬喪失の事態に対処してその生活の保障をはかるにあることは、いうをまたない。すなわち、健康保険法に規定する傷病手当金及び労災保険法に規定する休業補償費は、当該疾病又は負傷が業務上の事由によるものであるか業務外の事由によるものであるかの相違こそあれ、いずれも、療養のために働けなくなつた労働者の報酬喪失の事態に着目して、当該労働者の生活保障をはかるために支給される点では、その法的機能を全く同じくするものと認められる。
かようにみてくると、お示しの場合のように、働けなくなつたことによる報酬の喪失という状態そのものが全く同一である場合に、当該労働者に対して労災保険法による休業補償費を支給することは、その額が傷病手当金の額に達しない場合におけるその部分の関係を除けば(健康保険法第五十八条等参照)、これに健康保険法による傷病手当金を支給すると同一の法的機能を果し、制度の社会的目的を達成したものといわなければならない。すでに、健康保険法による傷病手当金を支給すると同一の法的機能が果され、制度の社会的目的が達成されているにもかかわらず、重ねて、傷病手当金を支給することは、健康保険法の制度的本旨に照らし、その趣旨とするところではないと考えるのが至当であろう。
以上に述べたところにより、お示しのような場合には、たとえ明文の規定はないにせよ、労災保険法による休業補償費の額が傷病手当金の額に達しない場合におけるその部分にかかわるものを除き、健康保険法第四十五条に規定する傷病手当金は支給されないものと解するのが相当である。