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○保険医監査に伴う補綴物撤去行為に対する犯罪の成立に関する疑義について
(昭和二七年三月一二日)
(二七保険第三九六号)
(厚生省保険局医療課長あて福岡県民生部保険課長照会)
さきに保険医監査を実施した際、被監査医の診療の適否を調査する為患者に装置せる金冠を当課技官に於て撤去して、その内部を検査せる事実に対し、社会保険医療協議会に於て一委員より別紙甲号のとおり発言がありました。これに対しては当方としては乙号のとおりの見解をもつておりますが、尚疑義がありますので、何分の御指示願いたく此段照会致します。
(別紙甲号)
医療協議会に於ける発言
歯科補綴物は、身体の一部と解せられる。依つて、之を撤去する行為は刑法第二百四条「人ノ身体ヲ傷害シタル者ハ十年以下ノ懲役又ハ五〇〇円以下ノ罰金若クハ科料ニ処ス」の規定に該当するものと認められるが如何
(別紙乙号)(解釈)
刑法上の犯罪を構成するには、違法性がその前提要件と解せられるが、当課技官が為したる行為は刑法第三十五条により「法令又ハ正当ノ業務ニ因リ為シタル行為ハ之ヲ罰セス」の規定に該当し、違法性を閑却するものであつて犯罪は成立しない。即ち、健康保険法第九条には、「行政庁ハ必要アリト認ムルトキハ被保険者ノ異動及報酬並ニ保険給付ノ決定ニ関シ当該官吏員ヲシテ被保険者又ハ被保険者タリシ者ノ勤務場所ニ就キ関係者ニ対シ質問ヲ為シ又ハ帳簿書類其ノ他ノ検査ヲ為サシムルコトヲ得」と規定され、明らかに検査を行う権利が附与されており、技官の行為は、保険医指導監査の目的を達成する過程において金属冠その他架工歯の撤去を行わなければ、その真偽が確め得ない場合の正当の業務により為した行為であり、且つ、被保険者の同意を得て行つたものであると共に、補綴物件に撤去後再び補填するので毫も法に抵触するものではない。
(昭和二七年六月四日 保文発第三二三〇号)
(福岡県民生部保険課長あて 厚生省保険局健康保険課長)(回答)
昭和二十七年三月十二日二七保険第三九六号を以て伺出にかかる標記の件については、次のとおりお答えする。
保険医監査実施の際、被監査医の保険診療の適否を調査するため患者に装置した金冠を患者の同意を得て監査技官が撤去し、再び補填した場合における当該技官の行為は、刑法第三十八条第一項の「罪ヲ犯ス意ナキ行為」であり、国家事業としての健康保険の運営上必要とせられる保険医指導監査の目的を達成する過程において、金属冠その他の加工歯の撤去を行わなければ保険診療の適否を確め得ない場合の行為であつて、これは刑法第三十五条の「法令又ハ正当ノ業務ニ因リ為シタル行為」に該当するものと考えられる。また、患者に装置した金冠を撤去し、再び補填する行為は、人の身体に対して生理的の毀損を加えるものでなく、身体としての完全性を害するものとも考えられないから、刑法上の傷害の行為に該当しない従つて御来照にかかる技官の行為に対し、刑法上の傷害罪を適用する余地は全くないものと考えられる。