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○通勤災害の取扱いについて

(昭和四八年一二月一日)

(保険発第一〇五号・庁保険発第二四号)

(各都道府県民生主管部(局)保険課(部)長あて厚生省保険局・社会保険庁医療保険部健康保険課長連名通知)

通勤災害が労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)の保険事故とされたことに伴い、健康保険法及び日雇労働者健康保険法の一部改正が行われたことについては、昭和四十八年十月二日庁文発第二、一六三号で通知されたところであるが、健康保険及び日雇労働者健康保険(以下「健康保険等」という。)における通勤災害の取扱いについては、次の事項に留意するほか、関係機関との連絡を密にし、円滑に行われるよう配慮されたい。

なお、これに伴い健康保険被保険者証及び日雇労働者健康保険受給資格者票の注意事項に関し健康保険法施行規則及び日雇労働者健康保険法施行規則の一部改正が別添〔略〕のとおり公布される予定である。

さらに、健康保険組合についても、同様の取扱いとなるので、その指導方お願いする。

おつて、通勤災害の健康保険等における取扱いに関し、事業主、被保険者等に対し、その周知を図られたい。

1 通勤災害の範囲については、別添通知(昭和四十八年十一月二十二日基発第六四四号)によりそれが示されているものであること。

2 健康保険法第五十九条の七又は日雇労働者健康保険法第十八条第一項の規定により、通勤災害として給付しないものとするのは、当該事故が通勤災害の範囲に該当するものであるほか、当該被保険者が使用される事業所につき労災保険が適用され又は適用されるべき場合であること。

なお、当該事業所につき労災保険が適用されるべきであるにもかかわらず、その適用が行われていない場合に、その間に発生した通勤災害については、遡つて労災保険から給付されるものであること。

さらに、労災保険の任意適用事業所(労災保険法の一部を改正する法律(昭和四十四年法律第八十三号)附則第十二条)に使用される被保険者に係る通勤災害については、それが、労災保険の保険関係の成立の日前に発生したものであるときは、健康保険等で給付するものであること。ただし、事業主の申請により、保険関係成立の日から労災保険の通勤災害の給付が行われる場合は、この限りでない。

3 健康保険等の傷病手当金等現金給付の支給申請につき、その申請に係る傷病が通勤災害に該当するものと考えられるときは、労災保険に対してその支給申請を行うよう被保険者を指導し、その結果をまつて所要の措置を講ずること。

4 レセプト点検調査により通勤災害と考えられるものの取扱いについては関係機関と協議中であるので、おつて通知するものであること。

別添

労働者災害補償保険法の一部を改正する法律等の施行について

(昭和四八年一一月二二日 基発第六四四号)

(各都道府県労働基準局長あて 労働省労働基準局長通知)

労働者災害補償保険法の一部を改正する法律(昭和四十八年法律第八十五号)、労働者災害補償保険法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令(昭和四十八年政令第三百二十二号)、労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令(昭和四十八年労働省令第三十五号)、及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(昭和四十八年労働省令第三十六号)並びに関係告示(昭和四十八年労働省告示第六十八号、第六十九号及び第七十号)が、本年十二月一日から施行され、通勤災害保護制度が同日から発足することとなつた。新制度の大綱については、昭和四十八年十一月二十二日付け労働省発基第一〇五号により、労働事務次官から通達されたところであるが、同制度に係る事務取扱いについては、左記事項を了知の上、特に制度発足の当初においては、局署職員が一体となつて一日も早く制度の運営を軌道に乗せるべく、格段の努力を払い、業務運営に遺憾なきを期されたい。

(注)法令の略称は、次のとおりである。

改正法  労働者災害補償保険法の一部を改正する法律

新法  改正法による改正後の労働者災害補償保険法

旧法  改正法による改正前の労働者災害補償保険法

新整備法   改正法による改正後の失業保険法及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律

改正省令   労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令

新規則  改正省令による改正後の労働者災害補償保険法施行規則

新整備省令  改正規則による改正後の失業保険法及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律の施行に伴う労働省令の整備等に関する省令

第一 労災保険の目的の改正

今次の制度改正により、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)の目的として、労働者の通勤災害についても保険給付及び保険施設を行うことが加えられた(新法第一条)。新法第一条においては、従来の「災害補償」を行うという文言に代えて、「保険給付」を行うという表現に改められているが、これは、本来事業主に災害補償責任のない通勤災害についても「災害補償」を行うというのは適切でないので、「保険給付」を行うというより一般的な表現を用いたものであつて、業務災害に関する保険給付は従来のとおり「災害補償」として行われるものである。このことは、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第八十四条の規定に今回何らの変更がなされなかつたことからも明らかである。

第二 保険給付関係

旧法においては、保険給付及び保険施設について第三章としてまとめて規定されていたものが、新法においては、保険給付については第三章として、保険施設については第三章の二として、それぞれ規定されることとなつた。さらに、第三章は、「第一節 通則」、「第二節 業務災害に関する保険給付」及び「第三節 通勤災害に関する保険給付」の三節に分かれて規定されることとなつた。

1 通則関係

第一節には、業務災害に関する保険給付及び通勤災害に関する保険給付の双方に適用される通則的規定が置かれた(新法第七条から第十二条の七まで)。

(1) 業務災害及び通勤災害

新法第七条第一項の規定は、労災保険から業務災害及び通勤災害に関して保険給付が行われるものであること並びに業務災害及び通勤災害の定義を定めたものである。業務災害の認定に関する取扱いは従来のとおりであるが、通勤災害の認定については、新たに発足した労働者の通勤災害保護制度の運営上の重要な問題であるので、別紙「通勤災害の範囲について」により慎重に行うこととされたい。

なお、通勤災害の認定についても、全国を通じて統一的に行う必要があるので、各都道府県労働基準局において、別紙「通勤災害の範囲について」によつては、通勤災害に該当するか否かの認定の困難な事案については、当分の間、事案毎に本省あてりん伺することとされたい。

(2) 給付基礎日額

通勤災害に関する保険給付に係る給付基礎日額も、業務災害の場合と同様であり、原則として、労働基準法第十二条の平均賃金に相当する額を用いるものとされている(新法第八条)。新法第八条の規定は、旧法第十二条の二の規定について、当該平均賃金の算定事由の発生した日を明確に定めるための改正が行われたものである。

(3) その他の通則規定

新法第九条から第十二条の七までの規定は、旧法第十二条の三から第十二条の六まで及び第十九条から第二十二条の二まで(第十九条の三を除く。)の規定に相当するもので、これらの規定について所要の整理が行われたものである。

2 業務災害に関する保険給付関係

業務災害に関する保険給付については、第三章第二節として新法第十二条の八から第二十条までに規定されることとなつたが、これらの規定に相当する旧法の規定について所要の整理が行われたほかは、従来と変りがない。

3 通勤災害に関する保険給付関係

通勤災害に関する保険給付については、第三章第三節として、新法第二十一条から第二十二条の七までに規定されているところである。

(1) 保険給付の種類等

通勤災害に関する保険給付は、新法第二十一条に規定されているとおり、療養給付、休業給付、障害給付、遺族給付、葬祭給付及び長期傷病給付の六種類で、これらの給付は、それぞれ業務災害に関する療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料及び長期傷病補償給付と同一内容であり、その支給事由、受給権者、他の社会保険による給付との調整等も業務災害の場合と同様である(新法第二十二条から第二十二条の六まで)。

(2) 保険給付の請求

通勤災害に関する保険給付の請求手続については、業務災害に関する保険給付の場合と基本的には同様であるが、通勤災害の性格上、請求書の記載事項等について必要な限度において差異が設けられている。たとえば、通勤災害に関する保険給付の請求書には、業務災害の場合の記載事項に加えて、次の事項を記載しなければならないこととされている(新規則第十八条の五第一項等)。

(1) 災害の発生の時刻及び場所

(2) 就業の場所並びに災害が出勤の際に生じたものである場合には就業開始の予定の時刻、災害が退勤の際に生じたものである場合には就業終了の時刻及び就業の場所を離れた時刻

(3) 通常の通勤の経路及び方法

(4) 住居又は就業の場所から災害の発生の場所に至つた経路、方法、所要時間その他の状況

なお、(2)については必ず、(1)及び(3)に掲げる事項については、事業主が知り得た場合に、その証明を受けなければならないこととされている(新規則第十八条の五第二項等)。

第三 保険施設関係

保険施設については、新法においては、第三章の二として独立の一章が設けられたほか、第二十三条の規定が改正されて、外科後処置に関する施設等は、業務災害についてと同様に、通勤災害についても行われることとなつた。なお、第二十三条の二に定められている災害予防に関する保険施設は、通勤災害については行われない。

第四 費用の負担関係

1 保険料の徴収について

通勤災害に関する保険給付等に要する費用にあてるための財源は、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号)の規定による労働保険料に含めて徴収されるものであり、これに伴い同法及び関係政省令について所要の改正が行われたが、これらに関しては、別途、昭和四十八年十一月二十二日付け労働省発労徴第八五号基発第六四五号により通達されているところである。

2 事業主からの費用徴収

通勤災害に関する事業主からの費用徴収は、保険料の滞納中に生じた事故についてのみ行われる。また、この場合における費用徴収の限度額は、業務災害の場合と同様である(新法第二十五条第一項)。

なお、通勤災害の場合には、事業主の故意又は重大な過失による事故について費用徴収を行わないのは、通勤災害は事業主の支配下において生ずるものではなく、事業主に災害予防義務が課されていないためである。

3 労働者の一部負担

通勤災害に関する療養給付を受ける労働者は、二〇〇円(日雇労働者健康保険の被保険者は、五〇円)の一部負担金を納付しなければならないこととされているが、(1)第三者行為災害を被つた者、(2)療養開始後三日以内に死亡した者及び(3)転医した者の場合は、この限りでないとされている(新法第二十五条第二項、新規則第四十四条の二第一項及び第二項)。また、この一部負担金は、当該労働者に支払うべき療養給付たる療養の費用又は休業給付の額からこれに相当する額を控除することによつて徴収することができることとされている(新法第二十五条第三項、新規則第四十四条の二第三項)。

なお、一部負担金の徴収手続等は、事業主からの徴収金の場合と同様とされているところである(新法第二十五条第四項)。

第五 特別加入関係

特別加入者については、その実態の特性等に鑑み、通勤災害に関する保険給付は、行われないものである(新法第二十八条及び第二十九条)。

第六 不服申立て及び訴訟関係

新法第三十八条は、旧法においては、労働保険の保険料の徴収等に関する法律中の規定の準用について各徴収金に関する条項ごとに規定されていたものを、まとめて規定したものである。

第七 雑則関係

保険給付についての時効に関する規定その他第六章(雑則)の規定は、通勤災害に関する場合も、業務災害に関する場合と同様に適用される。

新法第四十五条は、旧法第四十五条の規定を改め、戸籍に関する証明は、市町村等の条例で定めた場合には、無料とすることができることとしたものである。

新法第四十七条の規定は、通勤災害の多くは第三者行為災害であるため、保険給付の原因である事故を発生させた第三者に対しても、行政庁が必要な報告、届出、文書その他の物件の提出を命ずることができることとしたものである。なお、この場合の第三者については、他の関係者と異なり行政庁への出頭を命ずることはできないものである。

第八 暫定措置及び特例措置

年金たる保険給付の額についてのスライド制の適用、遺族に対する前払一時金の支給及び五五歳以上六〇歳未満の遺族に係る年金に関する特例は、いずれも、通勤災害に関する保険給付についても、業務災害の場合と同様、実施されることとされている(改正法附則第三条から第五条まで)。

また、通勤災害についても、業務災害の場合と同様、保険給付の特例が設けられており、この場合にも、労働保険料のほか、特別保険料を徴収することとしている(新整備法第十八条の二、第十九条等及び新整備則第七条から第九条まで)。

第九 新法の適用

新法は、昭和四十八年十二月一日以後に発生した事故に起因する通勤災害に関して適用される(改正法附則第二条)。したがつて、たとえ同日以後に支給事由が生ずるものであつても、同日前に発生した事故に起因する通勤災害については、新法に基づく保険給付は行われないこととなる。

〔別紙〕

通勤災害の範囲について

通勤災害については、労災保険法第七条第一項第二号において「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」をいうものと定義されている。

また、通勤については、同条第二項及び第三項において次のとおり定義されている。

「前項第二号の通勤とは、労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。

労働者が、前項の往復の経路を逸脱し、又は同項の往復を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項の往復は、第一項第二号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により行なうための最少限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。」

前に述べた定義について、具体的に説明すると次のとおりである。

1 「通勤による」の意義

「通勤による」とは通勤と相当因果関係のあること、つまり、通勤に通常伴う危険が具体化したことをいう。

(1) 具体的には、通勤の途中において、自動車にひかれた場合、電車が急停車したため転倒して受傷した場合、駅の階段から転落した場合、歩行中にビルの建設現場から落下してきた物体により負傷した場合、転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかつた場合等、一般に通勤中に発生した災害は通勤によるものと認められる。

(2) しかし、自殺の場合、その他被災者の故意によつて生じた災害、通勤の途中で怨恨をもつてけんかをしかけて負傷した場合などは、通勤をしていることが原因となつて災害が発生したものではないので、通勤災害とは認められない。

2 「就業に関し」の意義

「就業に関し」とは、往復行為が業務に就くため又は業務を終えたことにより行われるものであることを必要とする趣旨を示すものである。つまり、通勤と認められるには、往復行為が業務と密接な関連をもつて行われることを要することを示すものである。

(1) ここで、まず、労働者が、被災当日において業務に従事することになつていたか否か、又は現実に業務に従事したか否かが、問題となる。

この場合に所定の就業日に所定の就業場所で所定の作業を行うことが業務であることはいうまでもない。また、事業主の命によつて物品を届けに行く場合にも、これが業務となる。また、このような本来の業務でなくとも、全職員について参加が命じられ、これに参加すると出勤扱いとされるような会社主催の行事に参加する場合等は業務と認められる。さらに、事業主の命をうけて得意先を接待し、あるいは、得意先との打合せに出席するような場合も、業務となる。逆に、このような事情のない場合、たとえば、休日に会社の運動施設を利用しに行く場合はもとより会社主催ではあるが参加するか否かが労働者の任意とされているような行事に参加するような場合には、業務とならない。ただし、そのような会社のレクリエーション行事であつても、厚生課員が仕事としてその行事の運営にあたる場合には当然業務となる。また、事業主の命によつて労働者が拘束されないような同僚の懇親会、同僚の送別会への参加等も、業務とはならない。

さらに、労働者が労働組合大会に出席するような場合は、労働組合に雇用されていると認められる専従役職員については就業との関連性が認められるのは当然であるが、一般の組合員については就業との関連性は認められない。

(2)(イ) 次にいわゆる出勤の場合の就業との関連性についてであるが、所定の就業日に所定の就業開始時刻を目途に住居を出て就業の場所へ向う場合は、寝すごしによる遅刻、あるいはラッシュを避けるための早出等、時刻的に若干の前後があつても就業との関連性があることはもちろんである。他方、運動部の練習に参加する等の自的で、例えば、午後の遅番の出勤者であるにもかかわらず、朝から住居を出る等、所定の就業開始時刻とかけ離れた時刻に会社に行く場合には、当該行為は、むしろ当該業務以外の目的のために行われるものと考えられるので、就業との関連性はないと認められる。

なお、日々雇用される労働者については、継続して同一の事業に就業しているような場合は、就業することが確実であり、その際のいわゆる出勤は、就業との関連性が認められるし、また、公共職業安定所等でその日の紹介を受けた後に、紹介先へ向う場合で、その事業で就業することが見込まれるときも、就業との関連性を認めることができる。しかし、公共職業安定所等でその日の紹介を受けるために住居から公共職業安定所等まで行く行為は、未だ就業できるかどうか確実でない段階であり、職業紹介を受けるための行為であつて、就業のための出勤行為であるとはいえない。

(ロ) 次にいわゆる退勤の場合であるが、この場合にも、終業後ただちに住居へ向う場合は就業に関するものであることについては、問題がない。このことは、日々雇用される労働者の場合でも同様である。

また、所定の就業時間終了前に早退をするような場合であつても、その日の業務を終了して帰るものと考えられるので、就業との関連性を認められる。

なお、通勤は一日について一回のみしか認められないものではないので、昼休み等就業の時間の間に相当の間隔があつて帰宅するような場合には、昼休みについていえば、午前中の業務を終了して帰り、午後の業務に就くために出勤するものと考えられるので、その往復行為は就業との関連性を認められる。

また、業務の終了後、事業場施設内で、囲碁、麻雀、サークル活動、労働組合の会合に出席をした後に帰宅するような場合には、社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間となるような場合を除き、就業との関連性を認めてもさしつかえない。

3 「住居」の意義

「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをさすものである。したがつて、就業の必要性があつて、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くに単身でアパートを借りたり、下宿をしてそこから通勤しているような場合は、そこが住居である。さらに通常は家族のいる所から出勤するが、別のアパート等を借りていて、早出や長時間の残業の場合には当該アパートに泊り、そこから通勤するような場合には、当該家族の住居とアパートの双方が住居と認められる。また、長時間の残業や、早出出勤等の勤務上の事情や、交通ストライキ等交通事情、台風などの自然現象等の不可抗力的な事情により、一時的に通常の住居以外の場所に宿泊するような場合には、やむを得ない事情で就業のために一時的に居住の場所を移していると認められるので、当該場所を住居と認めてさしつかえない。

逆に、友人宅で麻雀をし、翌朝そこから直接出勤する場合等は、就業の拠点となつているものではないので、住居とは認められない。

4 「就業の場所」の意義

「就業の場所」とは、業務を開始し、又は終了する場所をいう。業務の意義については2の(1)についてのべたところであるが、具体的な就業の場所には、本来の業務を行う場所のほか、物品を得意先に届けてその届け先から直接帰宅する場合の物品の届け先、全員参加で出勤扱いとなる会社主催の運動会の会場等がこれにあたることとなる。

なお、外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数か所の用務先を受け持つて自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所であり、最後の用務先が、業務終了の場所と認められる。

5 「合理的な経路及び方法」の意義

「合理的な経路及び方法」とは、当該住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいうものである。

(1) これをとくに経路に限つていえば、乗車定期券に表示され、あるいは、会社に届出ているような鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等が合理的な経路となることはいうまでもない。また、タクシー等を利用する場合に、通常利用することが考えられる経路が二、三あるような場合には、その経路は、いずれも合理的な経路となる。また、経路の道路工事、デモ行進等当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸切の車庫を経由して通る経路等通勤のためにやむを得ずとることとなる経路は合理的な経路となる。さらに、他に子供を監護する者がいない共稼労働者などが託児所、親せき等に子供をあずけるためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然、就業のためにとらざるを得ない経路であるので、合理的な経路となるものと認められる。

逆に、前にのべたところから明らかなように、特段の合理的な理由もなく著しく遠まわりとなるような経路をとる場合には、これは合理的な経路とは認められないことはいうまでもない。また、経路は、手段とあわせて合理的なものであることを要し、鉄道線路、鉄橋、トンネル等を歩行して通る場合は、合理的な経路とはならない。

(2) 次に合理的な方法についてであるが、鉄道、バス等の公共交通機関を利用し、自動車、自転車等を本来の用法に従つて使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法は、当該労働者が平常用いているか否かにかかわらず一般に合理的な方法と認められる。しかし、たとえば、免許を一度も取得したことのないような者が自動車を運転する場合、自動車、自転車等を泥酔して運転するような場合には、合理的な方法と認められないこととなる。なお、軽い飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、免許証更新忘れによる無免許運転の場合等は、必らずしも、合理性を欠くものとして取扱う必要はないが、この場合において、諸般の事情を勘案し、給付の支給制限が行われることがあることは当然である。

6 「業務の性質を有するもの」の意義

「業務の性質を有するもの」とは、以上にのべた2から5までの要件をみたす往復行為ではあるが、当該往復行為による災害が業務災害と解されるものをいう。

具体例としては、従来からの取扱いどおり、事業主の提供する専用交通機関を利用してする通勤、突発的事故等により緊急用務のため、休日又は休暇中に呼出しを受け予定外に緊急出勤する場合がこれにあたる。

7 「逸脱」、「中断」及び「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により行うための最少限度のもの」の意義

(1) 「逸脱」とは、通勤の途中において就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、「中断」とは、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいう。逸脱、中断の具体例をあげれば、通勤の途中で麻雀を行う場合、映画館に入る場合、バー、キャバレー等で飲酒する場合、デートのため長時間にわたつてベンチで話しこんだり、経路からはずれる場合がこれに該当する。

しかし、労働者が通勤の途中において、経路の近くにある公衆便所を使用する場合、帰途に経路の近くにある公園で短時間休息する場合や、経路上の店でタバコ、雑誌等を購入する場合、駅構内でジュースの立飲みをする場合、経路上の店で渇をいやすため極く短時間、お茶、ビール等を飲む場合、経路上で商売している大道の手相見、人相見に立寄つて極く短時間手相や人相をみてもらう場合等のように労働者が通常通勤の途中で行うようなささいな行為を行う場合には、逸脱、中断として取扱う必要はない。ただし、飲み屋やビヤホール等において、長時間にわたつて腰をおちつけるに至った場合や、経路からはずれ又は門戸をかまえた観相家のところで、長時間にわたり、手相、人相等をみてもらう場合等は、逸脱、中断に該当する。

(2) 通勤の途中において、労働者が逸脱、中断をする場合には、その後は就業に関してする行為というよりも、むしろ、逸脱又は中断の目的に関してする行為と考えられるので、その後は一切通勤とは認められないのであるが、これについては、通勤の実態を考慮して法律で例外が設けられ、通勤途中で日用品の購入その他日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により最少限度の範囲で行う場合には、当該逸脱又は中断の間を除き、合理的な経路に復した後は通勤と認められることとされている。「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為」の具体例としては、帰途で惣菜等を購入する場合、独身労働者が食堂に食事に立ち寄る場合、クリーニング店に立ち寄る場合、通勤の途次に病院、診療所で治療を受ける場合、選挙の投票に寄る場合等がこれに該当する。

なお、「やむを得ない事由により行うため」とは、日常生活の必要から通勤の途中で行う必要のあることをいい、「最少限度のもの」とは、当該逸脱又は中断の原因となった行為の目的達成のために必要とする最少限度の時間、距離等をいうものである。