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○未帰還者留守家族等援護法の施行について(依命通達)

(昭和二八年八月二二日)

(厚生省援総第五四四号)

(各都道府県知事あて厚生事務次官通知)

「未帰還者留守家族等援護法」(以下「法」という。)は、昭和二十八年八月一日、これに伴う同法施行令(政令第二百十一号。以下「施行令」という。)は、八月二十四日それぞれ公布され、同法施行規則(以下「施行規則」という。)も近く公布されることとなつたが、この法律は、未帰還者が置かれている特別の状態にかんがみ、国の責任において、その留守家族に手当を支給し、又は未帰還者が帰還した場合において必要な療養の給付を行う等の措置をとることによつて、未帰還者留守家族等を援護することを目的とするものであつて、この法律運用の適否が各方面に及ぼす影響は少なからぬものがあり、特に引揚問題解決の上に重大な意義を有するものと思料されるので、この法律の施行に伴う諸般の事務の整備を行うことは勿論、広く本法の普及徹底を図り、特に左記事項に十分留意し、この法律の所期する目的を達成するよう努められたく、命によつて通知する。

第一 法制定の趣旨

1 従来未帰還者のうち、もとの陸海軍に属していた者でまだ復員していない者(以下「未復員者」という。)に対しては「未復員者給与法」が適用され、又ソビエト社会主義共和国連邦(以下「ソ連邦」という。)及び樺太、千島、北緯三八度以北の朝鮮、関東洲、満洲又は中国本土(以下「中共その他の地域」という。)にある一般未帰還者であつて「ソ連邦の地域内の未復員者と同様の実情にある者」すなわち特別未帰還者に対しては「特別未帰還者給与法」が適用され、本人に対する俸給及び扶養手当が一定の親族に支払われており、又旧外地職員等未帰還職員に対しては、「一般職の職員の給与に関する法律」の規定に基く人事院規則九-九が適用され、一定の親族に対して俸給及び扶養手当が支払われていた。しかしながら、終戦後すでに相当の年月を経過した今日においては、このような俸給支給の建前は極めて不自然な姿となつているのみならず、種々不都合も生じているので、今般従来の法律を廃止又は改正し、留守家族そのものを直接対象とし、より実情に即した援護を行わんとするものであること。

(以下この通知において「未復員者給与法」及び「特別未帰還者給与法」を「旧法」といい、「一般職の職員の給与に関する法律」を「公務員給与法」という。)

2 従来「旧法」の適用を受けなかつた「中共その他の地域」内の未帰還者についても、生存資料があり、且つ、自己の意に反し帰還できないものについては、その留守家族を斉しく援護するようこれが援護対象の拡大を図つたこと。

3 復活した軍人恩給に関連して改訂増額された戦傷病者戦没者遺族等援護法の遺族年金の額との均衡を図り、この際、留守家族手当の額も従前の給与の額より増額したこと。

4 留守家族に関する諸般の問題の窮極の解決は、生存未帰還者については、その帰還を促進し、状況不明者については、その実情を明らかにすることであつて、法においては、この問題の解決のために、国は、その責任において努力すべきことを明定したこと。

5 未帰還者が帰還した場合における援護については、おおむね旧法に準ずる措置を規定したこと。

第二 一般的事項

1 この法の実施に当つては、未帰還者の留守家族、なかんずく、この法によつて新たに援護を受けることとなつた留守家族に対しては、法の趣旨の徹底を図り、要すれば、広報活動に意を用い、法の所期する目的の達成に遺憾なきを期すること。

2 この法においては、旧法又は従前の公務員給与法に基いて援護を受けていた者であつて、この法の制定に伴い援護を受けることができなくなつたものについては、概ねその実績を保障することとし、これがため相当複雑な経過規定が設けられているが、これらの規定の十分な理解により、個々の留守家族等に対しては、援護の内容又は取扱手続の異動について相談に応じ、適切な指導を行つて、いやしくも援護の実施に過誤遺漏のないよう留意すること。

3 未帰還者留守家族等の援護については、この法による援護をもつて足れりとすることなく、あまねく国民の援護思想を高揚し、物心両面からの援護に万遺憾なきを期すること。

第三 未帰還者に関する事項

1 法において「未帰還者」とは、次のような者であつて、日本の国籍を有するものであること。

イ 未復員者については、もとの陸海軍から俸給、給料又はこれに相当する給与を受けていたものであつて、旧法における未復員者と全然同様であり、従つて、その者の海外における残留地域については制限はないこと。但し、日本の国籍を有しない朝鮮籍又は台湾籍の従前の未復員者は、この法においては除かれることとなつたが、その者に係る援護については当分の間、他の一般の未復員者と同様の援護をする旨の経過措置をとつたこと。

ロ 未復員者以外の者にあつては、昭和二十年八月九日以後、ソ連邦又は「中共その他の地域」の特定地域にあることを前提とし、その者がこれらの地域内において昭和二十年八月九日以後生存していたと認めるに足りる資料があるものであり、又、昭和二十年九月二日以後一度も本邦にいたことがなく、且つ、帰還しないことが自発的意思に基くことを認めるに足りる資料のない者であること。

右の生存していたと認めるに足りる資料とは、昭和二十年八月九日以後において、未帰還者の生存に関し、その事実を明らかにすることのできる本人又は本人以外の者からの通信、又は既帰還者の証言をいうこと。

従つてこれらの資料の全然ない無資料者(外務省から都道府県知事に対して指示されている「未引揚邦人調査計画」に示す動態資料のないもの。)は、この法において未帰還者に該当しないものであるからこれが取扱に特に留意し、疑義のあるものについては、必ず引揚援護庁に協議した後処理すること。

ハ 日本国との平和条約第十一条に掲げる裁判により拘禁されている者は、旧法において特別未帰還者とみなされていたものであるが、この法においても未帰還者とみなしたこと。但し、日本の国籍を有しない者の取扱については、前記イの但書の措置をとつたこと。

第四 留守家族に関する事項

1 法においていう「留守家族」とは、未帰還者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある夫又は妻を含む。)、子、父母、孫及び祖父母(それぞれ国籍の有無は問わないものであること。)であつて、本邦に住所又は居所を有するものをいうこと。なお、今日未帰還者のおかれている特殊事情から、留守家族は、未帰還者が死亡している場合に、その事実を相当長年月を経過した後において知ることが通例であるので、かかる実情にある留守家族の援護に遺憾のないようするため、法においては、特に「その死亡の日にさかのぼつて、留守家族でなかつたものとして取り扱われることのない」旨を規定していること。

2 旧法又は従前の公務員給与法において未帰還者の扶養親族となつていた一親等の姻族及び兄弟姉妹等は、法においては留守家族とならないことになつたが、これらの者については従前の実績を保障する等所要の経過措置をとつたこと。

第五 留守家族手当に関する事項

1 留守家族手当の支給は、これを受けようとする者の申請に基いて行うことを原則とすること。従つて申請をまつて始めて支給される建前のものであり、法の不知による援護に遺漏の生ずることのないよう都道府県知事においては、法の周知に遺憾のないよう留意すること。

2 留守家族手当の支給を受けることができる留守家族は、未帰還者が帰還しているとすれば、主として未帰還者の収入によつて生計を維持していると認められる第四の1に述べた範囲の者であつて、且つ、法に定める一定の条件(旧法における扶養手当支給条件と概ね同様の条件である。)に該当するものであること。しかして留守家族手当は、これらのものの先順位の者に支給するものであること。

3 留守家族手当の支給に当つては、申請者が先順位者であるか否かについて申請書類をよく調査して、過誤のないようすること。同順位者が数人ある場合には、被選定人を選定して、留守家族手当の申請をなし、又、その支給を受けることとしているが、これは、申請及び支給の手続を簡易にするために設けた規定であるから、被選定人によらないで請求することは、なるべく避けるようにすること。

4 留守家族手当の支給は申請のあつた日の翌月から開始することを原則とすること。しかしながら、当該手当の支給を受けていた先順位の者から次順位者に転給する場合の申請に限り、その特殊事情を考慮し、転給事由の生じた日の翌月から開始することとしたこと。

5 留守家族手当の支給は法第十一条第一項各号の一に該当する日の属する月で終ることとしているが、未帰還者のおかれている特殊事情からして、次のように取り扱われるものであること。

イ 留守家族手当の支給を受けている留守家族は、未帰還者が死亡したものと確認するに足りる既帰還者のもたらした遺骨、遺品、又は現認書若しくは証言等死亡に関する確実な資料を得た場合又は未帰還者が帰還したこと、又は自発的意思により残留していることを知るに至つた場合には、施行規則で届出の義務を免除する場合を除き、遅滞なく(概ね一か月以内とする。)その旨都道府県知事に届け出なければならないこと。

ロ 未帰還者が自発的意思に基いて残留しているかどうかの認定は、特に慎重を要するので、この事務は、特に厚生大臣が行うこととし、本人の残留していることが真に自発的意思に基くことが確認される場合に限り行うものであること。

ハ 留守家族が未帰還者の帰還の事実を知ることにつき、善意無過失であつて、前記イの期限内に届出を行つた場合においては、留守家族の事情を考慮し、本人の帰還した日以後、その事実を知つた日までに、すでに支給された留守家族手当は返還させないことができるようにしたこと。

ニ 留守家族が、前記イ及びロに述べた未帰還者の死亡資料又は自発的残留の認定により、留守家族手当の支給を打ち切られる以前に、それらの資料を得又は事実を知つていた場合には、この間にすでに支給した当該手当は、留守家族において届出の義務を怠つたことにより生じた過給である場合もあり得るので、かかる場合には返還させることができるようにしたこと。

6 この法施行後三年を経過した昭和三十一年八月一日以後においては、過去七年以内、即ち昭和二十四年八月一日以後の間において、確実な生存資料のない未帰還者の留守家族には、留守家族手当は支給しないこととしたこと。なお、その後に至つて右の資料を得たならば、更めて支給を開始することとなるので、都道府県知事は留守家族をして常に新たな資料を得たならばその旨速やかに届け出させるよう指導して、留守家族の援護に遺憾のないようされたいこと。

第六 留守家族手当と恩給法との調整に関する事項

今般恩給法の一部を改正する法律(昭和二十八年法律第百五十五号)に基いて未帰還公務員の留守家族が本人に代つて普通恩給を代理請求ができる制度が設けられたので、かかる場合の留守家族に対して支給される留守家族手当と普通恩給との重複支給を避けるために留守家族手当は普通恩給の支給額の限度において支給しない旨の調整規定が設けられたこと。又留守家族手当受給者が及して普通恩給の裁定を受けた場合には、及期間中にすでに支給された留守家族手当は、当該期間中に支給されるべき普通恩給の内払とみなす旨の経過規定が設けられているが、この場合において行う調整は、本来留守家族手当は留守家族援護の見地から一定の者に支給されるものであり、普通恩給は未帰還者本人が一定期間公務員として在職したことに基因して支給される給与であつて、且つ、それぞれの受給者が必ずしも合一しない場合があるので、この間に生ずることあるべき不都合を避けるため、特に施行令第三条において調整方法が定められたこと。都道府県知事においては、留守家族手当の支給に当つては、普通恩給受給の有無及び恩給支給につき十分な調査をなし、過誤払の生じないよう留意すること。

第七 遺骨埋葬経費、遺骨引取経費及び障害一時金に関する事項

遺骨埋葬経費、遺骨引取経費又は障害一時金の支給は、ともにこれを受けようとする者の申請に基いて行うものであつて、これらの規定の内容は旧法のそれと概ね同様であるが、ただ遺骨引取経費について、その支給額が四〇〇円増額され、且つ、未復員者以外の未帰還者のうち旧特別未帰還者に相当する者につきその者の遺骨(この場合の遺骨は実骨に限る。)の引取が行われる場合にも支給することとなつたこと。

第八 療養の給付及び療養費の支給に関する事項

1 療養の給付又は療養費の支給は、これを受けることができる者の申請に基いて行うものであり、これが規定の内容は、旧法において定められていたところと概ね同様であるが、次のような場合に限り、療養の給付等を受けている者から療養の実費の一部に相当する一部負担金を徴収する規定を設けたこと。

(イ) すなわち、旧法中、旧未復員者給与法の一部を改正する法律(昭和二十三年法律第二百七十七号。以下「旧法中改正法」という。)の施行前、恩給法に基いて増加恩給等の支給を受けた者は、旧法中改正法の適用を受けられないのを原則としたが、この法においては、第二十七条第二項において再給付の禁止の例外規定として、今後においても右と同様な事情のもとに療養の給付等を必要とする場合において、厚生大臣が特に必要と認める場合に限り、これを行うことのできる旨の規定を設けたのであること。

(ロ) 右に述べたような特例療養を今後行う場合において、その者が指定医療機関に収容され、療養の給付を受ける場合には、当該機関に収容中の実費の一部に相当する額として、食費に相当する額を、その者が受ける増加恩給等の支給額から、施行令第一条に定めるところにより、一部負担金として徴収することを規定していること。

2 よつて、今後療養の給付等を受けんとする者の申請書を受理する際は、その者が増加恩給等の支給を受ける権利を有するものであるか否かを調査のうえ行うものであること。なお、一部負担金の徴収額については、別途厚生省告示をもつて定めるものであること。

第九 権限又は事務の委任に関する事項

法に定める厚生大臣の権限及び権限に属する事務は、施行令第二条の定めるところにより、次のように委任されるものであること。

1 留守家族手当及び特別手当等の支給に関する事務は、厚生大臣が行う建前であるが、旧法及び公務員給与法の実施の経緯にかんがみ、これらの事務の処理の円滑迅速を期し、また留守家族等の便宜をも考え、都道府県知事又は行政機関の長等に左に掲げる区分によつて委任することとしたこと。

イ 未帰還公務員(未復員者たる未帰還公務員を除く。)の留守家族等に対する留守家族手当及び特別手当等の支給に関する権限は、原則として行政機関の長等

ロ 未復員者並びに未帰還公務員以外の未帰還者の留守家族に対する留守家族手当及び特別手当の支給に関する権限は、都道府県知事

未復員者たる未帰還公務員に関する留守家族手当及び特別手当の支給については、原則として都道府県知事が行うが、例外として、法附則第十七項の規定により留守家族手当に加給される額及び特別手当のうち旧法の俸給又は扶養手当に相当する分以外の分については、従前の所属庁において行うこととなるので、都道府県においては、所属庁との連絡に遺漏のないようにすること。

2 遺骨埋葬経費及び遺骨引取経費の支給に関する権限(当時未帰還者がソ連邦の地域内の未復員者と同様の実情にある者であつたかどうかの認定に関する権限を除く。)、指定医療機関に対する診療報酬の支払並びに療養費及び障害一時金の支給に関する事務及び法第二十二条及び法第二十三条に規定する権限は、都道府県知事に委任することとしたこと。

第一〇 その他

本籍が北緯二九度以南の南西諸島にある者に対するこの法の適用については、別途通知するものであること。