添付一覧
○戦傷病者戦没者遺族等援護法施行事務研修会における連絡事項
(昭和五〇年一〇月)
(援護局援護課・審査課)
「事実上の父母」に係る請求書類の整備について
戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律(昭和四十一年法律第百八号)による「事実上の父母」に係る請求手続については、援発第八六六号(昭和四十一年八月二十三日援護局長通達)等によつているところであるが、最近進達される「事実上の父母」に係る請求書類についてみるに、諸申立書の記載が簡略であるため死亡者と請求者等との生活状況の実態が把握できないもの、挙証資料が十分でないもの又は提出すべき書類が不足しているもの等の案件が比較的多く見受けられるので、従来からの連絡事項等をも合せ、今般改めて次のとおり連絡するから、これら「事実上の父母」に係る請求書類の整備について遺憾のないよう配意願いたい。
なお、「事実上の父母」に係る事案については、複雑なところから進達を急ぐあまり不備のままでも一応進達しておきたいとしているのではないかと思われる事案もあるようであるが、このような事は、かえつて裁定を遅延させ、請求者に迷惑がかかることにもなりかねないので、当局からの指示をまつまでもなく補備すべき事項があるときは、県の段階においてすみやかに措置されたく、念のため申し添える。
1 「事実上の父母」について
(1) 従来遺族援護法においては、死亡者の父母として同法の適用を受けることができる者は、死亡者の死亡当時における法律上の父母と規定されていることから、たとえ実態上は法律上の父母となんら変わりがない場合であつても法律上死亡者との間に親子関係が形成されていないときは、遺族として処遇を受けることができなかつたものであるが、改正法によりこれらの者のうち死亡者の死亡の当時父母と同視できるもの(事実上の父母)については、遺族援護法上これを死亡者の遺族とみなして処遇することとしたものである。
(2) しかして、「事実上の父母」とは、要約すれば、法律上で実親とはいえないが、実態としては、その死亡者との間に物心両面にわたり実の親の場合と同様な関係(親子として双方の意識、生計関係及び将来における扶養の期待感等)があつた者ということができる。
2 「事実上の父母」であつたことを立証する資料について
(1) 請求者が死亡者の死亡当時において死亡者の父又は母と同視すべき状況にあつたと認めるかどうかは、もつぱら援護審査会の議決いかんによつているところであるが、請求者又は死亡者に係る次のような書類は、その判断をするうえに極めて有力な資料となるものであるから、個々の事例により、どれが最も有力な資料となるものであるかどうかを十分検討のうえ、当該資料(一の資料で死亡者と請求者との間に実の親子の場合と同様な関係にあつたと確認できるものであるときは当該資料)をできる限り提出するよう指導すること。
ア 学校に保管されている当時の記録
イ 市町村長等において保管する当時の世帯台帳、家族台帳、主要食料配給台帳等
ウ 市町村長、地方法務局、家庭裁判所等において保管する戸籍関係書類又は家事審判等に関する記録
エ 当時発行の保険証書等
オ 通信文書、当時の日誌、写真類
カ 死亡した者が勤務していた会社、団体等が保管している身上調書等
キ 市町村長において保管している当時の兵事記録等
ク 市町村長において保管している寄留法、住民登録法関係書類
ケ 死亡した者又は死亡した者の直系血族等の遺言書等
コ 所属部隊等からの死亡通知書等又は葬祭等に関する記録
サ その他前記に掲げる書類に準ずるもの
(2) 戦地等から請求者(事実上の父母)にあてた書簡等の物証は、その内容によつては、それのみをもつてただちに「事実上の父母」であると認めうる重要な証拠ともなるので、前記(1)に掲げた資料等申立ての事実の裏付、ひいては「事実上の父母」たるの推測資料となるものは極力とりそろえるよう留意すること。
(3) 提出された物証については、いつ頃のものか(例えば写真の撮影時期等)、どのような内容のものか(例えば手紙の中の「○○村の姉又は○○のおばさん」とは誰のことか、写真にうつつている人物は誰々か等)等についても点検(要すれば補備)しておく必要があり、又手紙、学籍簿等について現物を提出することができないときは、なるべく写真、コピー等とする着意が必要である。
なお、これらの物証の出所が明らかでないものがあるので、その出所を明らかにさせること。(例えば、学籍簿から転記したものであるといいながら、その証明がないもの等である。)
(4) 「事実上の父母」たるの推測資料として、死亡者の兄弟姉妹等の証明書等が提出される場合があるが、当該証明書等の内容のいかんによつては、援護審査会においても重要視されるので、形式にとらわれることなく、死亡者と請求者(事実上の父母)との生活関係等につき、具体的に証明等させること。
(5) 物証がないと申立てている場合であつても、他に有力な証拠がなく、これらの物証を欠いては「事実上の父母」と認められる公算が少ないようなときは、親族、知人等でこれらを所持しているものがないかどうかについても調査する等の配意が必要である。
3 履歴申立書の記載事項等について
(1) 死亡者が軍人軍属として勤務についた日又は準軍属となつた日を明らかにする必要があるため、死亡者の履歴申立書を提出することになつているので、提出洩れのないようにさせること。
(2) 履歴申立書は、死亡者と請求者との生計関係及び身分関係を判断するうえで、重要な資料ともなるので、軍人については入隊(応召)時から、軍属についてはなるべく採用時から、準軍属については準軍属となつた時から、それぞれ死亡者の死亡当時までその所属した部隊の名称、勤務地、事変地、戦地への出発(帰着)時期、退職後の就業状況等をできる限り詳細に記載させること。
なお、この場合、請求者(事実上の父母)が、死亡者の父又は母と事実婚関係に入つた後、死亡者が間もなく入隊等をしているようなときは、当該入隊等の日を特に明らかにさせること。
(3) 軍人軍属の履歴申立書については、当該申立書の記載事項を都道府県保有の兵籍(陸軍)、履歴原表(海軍)等と照合確認し、その結果訂正すべき箇所があるときは補備すること。なお、この場合、なるべく兵籍等の写しを請求書に添付するのが望ましい。
4 事実上の父母と死亡者との生計関係申立書(様式第5号)の記載事項等について
(1) 「死亡者の入隊、徴用等の当時における家族関係」の欄に記載された家族については、戸籍書類と照合し、当該家族と戸籍上の家族との間に相違があるときは、補正させること。
(2) 「死亡者と生計関係を有するに至つたときから……生活状況等の詳細」の欄の記載については、次の点に留意すること。
ア 当該欄には、死亡者と請求者との関係のみではなく家族全般の状況(死亡者と同居の有無、死亡者の就学状況、死亡者等と請求者との生活関係(親子意識)、他の親族の状況、職業の移り変り等当該家族全員の動き等を含む。)等について年月を追つて記載させること(当該欄で書ききれない場合は、継紙又は別紙とすること。)。
なお、冒頭において述べたとおり、最近まで進達された事案のなかには当該欄の記載が簡略なものが多いので、当該欄には、おおむね別表1の区分に応じ、当該区分の状況について詳細に記載するよう指導すること。
イ 請求者等が次のような場合に該当するものであるときは、その事情等についても当該欄に記載させること。
(ア) 死亡者の父又は母が生別している場合は、その事情(子があるときは、当該子の身柄の動きを含む。)及び離別後の両者の住所等について
(イ) 死亡者の入隊前、同人が請求者(事実上の父母)と別居していた期間がある場合は、別居の理由のほか死亡者が、いつから、いつまで、どこで、どのような生活(職業等を含む。)をしていたか、またその間における請求者(事実上の父母)との生活関係(盆、正月等には帰宅したことがあるかどうか、またどこから入隊したのか等を含む。)等の態様について
(ウ) 死亡者が復員後死亡している場合には、同人の復員後における生活状況(職業、住所等を含む。)及び請求者(事実上の父母)との生活関係等の態様について
(エ) 請求者(事実上の父母)が死亡者の父又は母と内縁関係中、当該死亡者の父又は母の本籍(住所)以外の地に分家又は転籍等をしている場合は、その事情について
(3) 「死亡公報の受領者、葬祭を行つた者の氏名(続柄)及び死亡者の墓地等」の欄の「死亡公報の受領者」については、請求者(事実上の父母)からの提出書類では明らかでない場合は、都道府県が保有する資料により死亡者の入隊当時の留守担当者(死亡者との続柄を含む。)、死亡公報及び遺骨の伝達先等について調査し、その結果を申立書に注記(朱書)し、又は附箋をもつて明らかにし、事情によつてはこれらの資料の写しを請求書に添付すること。また同欄中「死亡者の墓地」については、単に「○○○寺」と記載するだけではなく、死亡者の生家の寺か養家の寺か等について記載させること。また死亡者の墓碑が建立されている場合は、いつ、誰が建立したのか、現在葬祭を行つているのは誰か等についても記載させること。
なお、墓碑の刻文の内容いかんによつては、「事実上の父母」たるの推測資料となることがあるので留意すること。
5 死亡者の父又は母の配偶者であつたことについての申立書(様式第5号)の記載事項等について
(1) 「死亡者の父又は母と婚姻する直前の請求者の家族状況」の欄の(注)記の事項は詳細に記載させること。
(2) 「死亡者の父又は母との婚姻の状況等」の欄の「結婚式を挙げた時期」の欄は、請求者(事実上の父母)が死亡者の父又は母と結婚式を挙げたことがある場合、その年月日を記載させること。また同欄中「同居を始めた時期」の欄は、請求者が死亡者の父又は母の配偶者として現実に同居生活を始めた年月日を記載させることとし、この場合その裏付資料として、できる限り婚姻届(昭二一・九・二五司法省令第八十一号による改正後のもの)、住民票、戸籍の附票又は学籍簿(就学時の住所、保護者氏名、家族構成等を確認できるもので、就学中の成績状況は必要がない。)の写しを提出するよう指導すること。
なお、「同居を始めた時期」について、申立てとこれらの資料との間に相違があるとき、例えば、申立てでは、死亡者の入隊前に同居している(子の出生はない。)ことになつているが、一方住民票では死亡者の入隊後に同居していることになつているような場合は、これらの事情につき十分説明させ、極力その裏付資料をそろえさせること。
(3) 「婚姻した当時の相手方の家庭状況等」の欄は、同居、別居の別、資産、資力等生計維持の態様について記載させること。
(4) 「婚姻してから現在に至るまでの状況」の欄の記載内容については、「事実上の父母と死亡者との生計関係についての申立書(様式第5号)」の「死亡者と生計関係……生活状況等」の欄に詳細に記載することとなるので、当該欄には、請求者(事実上の父母)が死亡者の父又は母と結婚してからの概要を記載させること。
(5) 「死亡者の死亡まで婚姻届をしなかつた理由」の欄は、当該婚姻届をしなかつた理由を詳細に記載させること。
6 事実上の養父又は養母であつたことについての申立書(様式第4号)の記載事項について
(1) 「養子とした時期」の欄は、請求者が現実に死亡者を事実上養子とした年月日を記載させること。
(2) 「養子とした理由」の欄は、死亡者を養子にしなければならなかつた理由、例えば、請求者側に子がないので、他家の子又は縁続きの子を養子にした等のように記載させること。
なお、当該欄の記載が十分でないため、縁組の実態を推定しかねるものがあるので、留意すること。
(3) 「死亡者を養子としてから死亡者が死亡するまでの住所地、生活状況等」の欄の記載内容については、「事実上の父母と死亡者との生計関係についての申立書」の「死亡者と生計関係を有するに至つたときから……生活状況等」の欄に詳細に記載することとなるので、当該欄には、請求者が死亡者を養子としてからの生活状況等の概要を記載させること。
(4) 「死亡者の死亡まで、縁組の届出をしなかつた理由」の欄は、法律上の要件(養子縁組の届出をしなかつたことにつき相当の理由があると認められるもの)でもあるので、その理由を詳細に記載させること。
7 戸籍書類等について
戸籍書類等については、特に次のようなものが洩れやすいので、提出洩れのないよう留意すること。
(1) 「事実上の継父母」については、死亡者の父又は母との事実上の婚姻前の身上事項も確認できる戸籍の謄本(子の出生の有無、当該事実婚が重婚となるかどうか等を審査する必要があるため。)
(2) 「事実上の養父母」については、死亡者の出生時以降の父母についての身上事項の異動及び死亡者が養子となつた時期以降の「事実上の養父母」についての身上事項の異動を確認できる戸籍の謄本
(3) 死亡者又は請求者が分家、転籍等により戸籍に異動があつた場合、当該分家、転籍等前又はその後の身上事項の異動を確認できる戸籍の謄本
(4) 請求者の属する世帯全員の住民票の謄本
8 直系血族に関する書類について
(1) 直系血族として、養子について及び前婚時の出生子について洩れのないよう記載させること。
(2) 援発第六八二号(昭三三・六・二七引揚援護局長通知)で定めた直系血族に関する申立書(様式第4号)、直系血族の生活状況等に関する申立書(様式第5号……昭三三・一〇・二〇援護第二六六号通知による訂正後のもの)及び所得税額証明書(給与所得者についてはなるべく源泉徴収票)を提出させること。
なお、昭和四十二年十月一日以後請求のもので、これらの書類の提出がなく、扶養することができる直系血族がないと推定できる積極資料がないものについては、昭和四十二年改正法(法律第五十八号)による請求として取扱うことがあるので、この点明らかにさせること。
9 請求書類等についての点検等について
請求書類の点検、整備(請求者への補備の指示、都道府県の確認又は奥書証明等を含む。)にあたつては、個々の事例ごとにその証明(立証)すべき重点はどこにあるのか、その重点に対し適当な証明がなされているかについて特に留意する必要がある。
なお、具体的には、次のような着意が必要である。(手引P一〇九参照)
(1) 諸申立書を通じ、その記載事項に洩れはないか、又その内容に具体性があるか。
(2) 申立内容について、申立事項との間又は既存資料(戸籍書類、住民票、兵籍、婚姻届書等)との間に矛盾はないか。
(3) 申立内容に説明不足な点、不自然な点又は要求の目的にそわない点などはないか。
(4) 「事実上の父母とみるうえで消極材料となりうる事項について十分な説明がなされているか。
(5) 「事実上の養父母」については、提出された請求書類により、当該「事実上の養父母」に係る問題点(援護審査会においても論点となる。)を、別表2のように整理してみる等の配意が望ましい。(整理してみることによつて、当該案件について、なにが不足しているのか、どの点を補備したらよいのか、またその案件は、単なる育ての親で「事実上の養父母」と認められる公算がない等の一応の目安がつくものと考える。)
10 その他
都道府県は、「事実上の父母」に係る請求書類を受け付けた場合は、前記によりその内容を点検し、必要があると認めたときは、市町村を通じ又は自ら担当職員をして出向調査を行う等により請求者(事実上の父母)と死亡者との生計関係等を十分確認する配意が望ましい。
なお、前記の出向調査等を行つた場合は、その調査事項をなるべく調書としてこれを請求書に添付しておくよう留意すること。
別紙1
区分 |
死亡者家の家族状況(その後の異動を含む。) (「事実上の養父母」については、養家の家族状況) |
死亡者家の住所地(生活の本拠)及び家族の職業(その後異動を含む。) (「事実上の養父母」については養家の住所地等) |
死亡者家の生活状況等 (「事実上の養父母」については養家の生活状況等) |
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① 死亡者の出生当時から小学校入学まで |
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(大 年 月 日 |
死亡者の父又は母死亡) |
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(大 年 月 日 |
請求者、死亡者の父又は母と結婚) |
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(大 年 月 日 |
請求者、死亡者を養子とする) |
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② 死亡者が小学校に入学してから卒業まで |
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( |
〃 |
) |
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③ 死亡者が小学校を卒業してから入隊等のときまで |
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( |
〃 |
) |
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④ 死亡者死亡後から現在まで (請求者の現在の状況) |
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請求者は現在、どこで、誰と、どのように生活をしている。 |
別表2
養子縁組についての双方の条件 |
親子関係存在の推測資料 |
養子縁組の届出をしなかつた理由 |
生計関係 |
その他 |
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養親としての意識 |
養子としての意識 |
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○養親に子がない。 ○死亡者は同一戸籍の実弟(養親と28歳違い。) |
○死亡者を家督相続人に指定している。 ○準扶助料請求書に「事実上の父子」とある。 |
○戦地からの手紙に「兄様、姉様」とある。 |
○相続人に指定すればよいと誤解した。 |
○養親と農業に従事同一生計にあつた。 |
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○養親には長男(大9.7生)がある。 ○死亡者は、本家(○□家)の跡取り(実父は昭13.4実母は昭16.12死亡している。) |
○学籍簿に「縁故者(○郎氏ノ妻ハ叔母ニアタル)」、「父母死亡、○中○郎宅ニ寄宿」とある。 |
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○死亡者9歳のときから生計をともにしていた。 |
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○養親には全盲の子1人がいる。 ○死亡者は8人兄弟、男の4人目 |
○死亡者を養親の家籍に入籍している。 ○小学校の学籍簿に「後見人」とある。 ○死亡者の死亡後その実弟を養子にしている。 ○昭27年養親として弔慰金請求 |
○戦地からの便りの宛名「御両親様」とある。 |
○単に入籍しておけばよいと誤解していた。 |
○養子として以来農業に従事した。 |
○山林、家屋を死亡者名儀に書き換えている。 |
○養親には実子がなく、花子を養女にしている。 ○死亡者は、○○家の跡取り |
○墓碑に「婿養子ト迎ヒ」とある。 |
○戦地から内妻宛の手紙に「父母上には…」とある。 |
○死亡者は、○○家の相続人であり、旧戸籍法に規制されていた。 |
○養子として以来、入隊まで農業に従事した。 |
○養女の婿養子として迎え養親の事実上の養子とした。 |