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○労働争議中の労働者等に対する生活保護法の適用について

(昭和四三年四月二六日)

(社保第一一一号)

(各都道府県知事あて厚生省社会局長通知)

労働争議中の労働者に対する生活保護法(以下「法」という。)の適用については、従前より必要に応じて個別に通知してきたところであるが、使用者から解雇された労働者であつてその解雇を不当として労働委員会又は裁判所において、係争中のもの(以下「係争中の労働者」という。)に対する法の適用についても、これらの通知の趣旨に即して取り扱われるべきものであるが、今般これらの労働者に対する取り扱い方針をとりまとめるとともに、関連する留意事項をあわせて示すこととしたので、了知のうえ、管下実施機関の指導に遺漏のないよう配意されたい。なお、従前の関係通知写等を添付するので参考とされたい。

1 生活保護適用の要否の判定について

(1) 生活保護制度と労働基本権保障のための諸制度とは一応別個の理念に基づくものであるから、労働争議中の労働者又は係争中の労働者(以下「労働争議中の労働者等」という。)に対する生活保護の適用についても、法による保護の要件をみたしているか否かの判定を行なうにあたつては、あくまでも法により考察するものであること。

なお、この結果保護の要件を欠く者に対して保護の開始申請を却下し、又は保護を停廃止したとしても、これによつてその者の労働基本権が侵害されるとは解されないこと。(別添3昭和三十七年二月七日社発第六六号通知のうち「照会第二点について」参照)

(2) 労働争議中の労働者等に係る生活保護の開始の申請があつた場合、その者が保護の要件を欠くと認められるときにおいても、法の目的にかんがみ、ただちに申請を却下することなく、法の原理を説明し、内職その他により収入をあげるよう指導し、また、生活困窮状態が長期にわたることが予想される場合は、公共職業安定所を通じて適当な職業のあつせんをうける等により、その能力の活用を図るよう指導し、かかる措置を講じてもなお能力を活用しないと認められるときに、はじめて申請を却下することが適当であること。(別添2 昭和二十四年四月二十日社発第七○九号通知のうち記の1別添3 昭和三十七年二月七日社発第六六号通知のうち「照会第一点について」等参照)

なお、申請を却下した結果他の世帯員の困窮状態が著しいため、真に必要と認められる場合には、世帯分離してさしつかえないこと。(別添3 昭和三十七年二月七日社発第六六号通知のうち「照会第三点について」参照)

2 法第四条第一項の要件適合の判定について

保護適用の要否の判定を行なうに際し、法第四条第一項の要件に適合するか否かの判定については、とくに次の点に留意すること。

(1) 争議行為を行なうこと及び労働委員会又は裁判所において係争すること自体は、法第四条第一項にいう能力を活用することとは解されないこと。

(2) 労働争議中の労働者等は、一般の求職者に比較して就労の機会が少ないこともあると思われるが、当該労働者が誠実に求職活動を行なつていると認められる間は、実際に就労していなくても、能力を活用しているものと解されること。ただし、当該求職活動を行なつている期間であつても、内職その他により収入をあげることが可能である場合は、これに従事することがあわせて必要となるものであること。

なお、具体的な判定は、個別に、本人の能力、求人状況等を勘案して行なうべきものであり、この場合、求職活動を行なうに際して、ことさらに、本人が労働争議中又は係争中であることを強調する等、故意に求人者をして雇用を断念させようとしたときは、誠実な求職活動とは認められないものであること。

(3) 係争中の労働者については、(1)及び(2)のほか、次の点に留意すること。

ア 係争中の労働者に対しても、失業保険金、厚生年金等が支給される取扱いとなつているからその受給を指示すること。

イ 係争中の労働者に対しては、退職金の受領を指示すること。なお、当該労働者が退職金を受領した場合であつても、その受領がやむを得ない事由によるものであつて解雇について異議をとどめていることが認められるときは、解雇を承認したこととはならないとするのが、判例等の示すところであるから、必要がある場合は、この旨を当該労働者に説明すること。(別添4参照)

3 過去の未払い賃金が支払われた場合の法第六十三条の適用について

解雇に関する労働争議又は係争が解決したこと等のため過去の未払い賃金の支払いを受けた労働者が、被保護者である場合(賃金未払期間において一時被保護者であつた場合を含む。)は、当該賃金は、法第六十三条にいう資力と認められるものであり、同条に基づき費用の返還を命じ得るものであること。裁判所の仮処分によつて賃金等の支払いが行なわれたときも同様であること。この場合において、保護の開始前の期間に係る賃金は、保護開始時における資力と、保護受給中の期間に係る賃金は、保護受給中における資力と解されること。

なお、1の(2)のなお書の取扱いにより世帯分離して世帯員のみに保護を適用した場合であつても、世帯主が前記未払い賃金の支払いを受けたときは、その賃金は当該世帯に係る資力とみるべきものであり、前記と同様に費用の返還を命じ得るものであること。

別添1

生活保護法の適用に関する件

(昭和二四年二月二五日 社発第三二四号)

(各都道府県知事あて厚生省社会局長通知)

経済界の最近の事業不振による各会社、工場等に於ての給料の遅払又は未払の続出と、官公庁職員に対する俸給の年末調整による手取金の過少の為、各地方に於て生活困窮を理由に勤労者の生活保護法による生活扶助の適用を申出る向が漸増する傾向にあり、中には、これが適用について感情的に尖鋭化したまま集団的に地方公共団体に直接強く要望する動きが少くないように思料される。

これが対策については、貴職においても諸般の情勢を充分考慮の上適切な措置を採つておられるものと存ずるが、この様な要求に対する本法の適用については、概ね左記方針により、あくまで法の厳正なる実施を確保し、かりそめにも一時を糊塗するような便宜的手段により、その施行を誤ることのないよう厳に留意され度、又この旨関係機関にも十分周知徹底するよう取計われたい。

なお、参考の為別紙東京都、埼玉県に起つた実例を送付する。

1 給料の遅払又は未払は、失業の如く収入源の枯渇ではなく、当然近い将来に支払われることが予定されるものであるから、このような場合においては、会社、工場等の経営主に対する給料の支払請求をなすべき債権を担保として金銭借入をなす等の一時的窮状を打開する方途が可能であり又それについての凡ゆる努力をすべきものであつて、直ちに、これを以つて本法にいう保護を要する状態にある者とは言い難いものである。

2 現実に本人の手取金が少く、他に処分する物も既に手離し、真に収入を挙げるべき余地がなく最低生活の維持ができないと認められるときには、本法の適用を受けることは一般生活困窮者の場合と何等異るものではないことは勿論であり、この場合の保護の開始にあたつては、個々の世帯について(民生委員の調書を経て)最低生活費の認定を厳格に行い、支給額を決定すべきものであるから、これらの者に対し、集団的な取り扱いを行い、一率に一定額の支給をなす等の措置は絶対にしないよう厳に留意すること。

3 削除

4 なお、これらの者は、現に生活扶助を受けている者と異つて、生活能力の旺盛なものであるから、生活費の不足分は何等かの余暇を得て臨時収入を挙げ得る道を講ずれば充足し得るものと考えられるので、経営主その他関係機関と充分協議の上積極的打開策の考究に極力努めること。

更にかくの如き生活不安が継続化するものとすれば、公共職業安定所を通じて他の適当な会社、工場その他の職業を斡旋する等の積極的転換策を講ずること。

実例〔省略)

別添2

会社工場等争議の場合の生活保護法適用に関する件

(昭和二四年四月二○日 社発第七○九号)

(各都道府県知事あて厚生省社会局長通知)

標記の件に関し、別紙甲号愛知県知事の照会に対して、別紙乙号の通り回答したから了知ありたい。

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〔別紙甲号〕

会社工場等の争議の場合の生活保護法適用について

(昭和二四年四月七日 社発第二二一号)

(厚生省社会局長あて愛知県知事照会)

標記の件に関し疑義があるので至急何分の御指示を願いたい。

1 争議の発生に起因して社発第三二四号社会局長通知左記の2に準ずる事情に立ち至つた場合、生活保護法を適用すべきか否か。

2 前項に関し争議発生の原因の如何により取扱を別にすべきか否か。

(1) 待遇改善等労働者側の要求に起因して争議発生の場合如何に取り扱うか。

(2) 工場閉鎖、従業員の整理等使用者側の処置に起因した争議発生の場合、如何に取り扱うか。

(3) 給料の遅払、未払の為、社発第三二四号社会局長通知左記の2により保護を開始したるところ、その後これが解決に関連し争議発生したる場合、如何に取り扱うか。

3 従来より生活扶助を受けている者が争議に加つた場合、如何に取り扱うか。

〔別紙乙号〕

会社工場争議の場合の生活保護法適用に関する件

(昭和二四年四月二○日 社発第七○九号)

(愛知県知事あて厚生省社会局長回答)

四月七日社会第二二一号をもつて照会の標記の件については、左記了知のうえ、これが取り扱いに遺憾のないように致されたい。

1 本法の趣旨からして争議行為による場合であつても、生活の保護を要する状態に立ち至れば、これに本法を適用してはならないということはいえないが、然し、この場合本人は勤労能力もあり、勤労意志もあるものであるから、内職その他により収入を挙げ得る道を講じ得る筈であり、それでも、なお、生活に困窮するときは、社発第三二四号通知左記の4により積極的転換策を講じさせ、真に止むを得ない状態になれば同通知左記の2により取り扱うものであること。

2 従つて照会2の件については、争議発生の原因により取扱を別にすべきものでないから前項の取扱によられたいこと。

3 従来より生活扶助を受けている者であつても本人は勤労能力及び勤労意志もあり、その取扱については、照会1の場合と何等異るものでないから、争議行為により生活に困窮したという理由のみで生活扶助費をただ漫然と引上げることのないよう留意すること。

別添3

労働組合役職員が行なつた生活保護法による保護の申請の取扱について

(昭和三七年二月七日 社発第六六号)

(山口県知事あて厚生省社会局長回答)

昭和三十六年十二月七日社第一六一○号をもつて照会のあつた標記について次のとおり解答する。

照会第一点について

労働組合の役職員として労働運動に従事しているために稼動収入が少ない者は、能力の活用をはかつているとはいえず、生活保護法第四条第一項の要件を欠くから、同条第三項に該当する場合を除き、開始申請を却下すべきものであるが、法の目的にかんがみ、ただちに決定を行なうことなく、法の原理を説明し、通常の勤労を行なうよう指導したうえ、これによつてもなお能力を活用しないと認められるときにはじめて却下するのが適当である。

照会第二点について

生活保護制度は、生活に困窮する国民に対し平等に最低限度の生活を保障するものであり、他方憲法によつて保障される勤労者の団結権等いわゆる労働三権は、経済上の弱者である勤労者に使用者と対等の立場に立つて交渉することができるようにしようとするものであつて、両者は一応別個の理念に基づくものである。

したがつて法による保護の要件を満しているか否かの判断を下すにあたつてはあくまでも法により考察すべきであつて、本件のごとき者につき、保護の要件を欠くとして開始申請を却下し、又は保護を停廃止したとしても、これをもつて労働権の侵害ということはできない。

次に不当労働行為は、使用者対勤労者の関係においてのみ問題となるものであるから、第三者たる保護の実施機関と勤労者との間には何ら問題は生じない。保護の実施機関が同時に使用する者を代表する者である場合においても、その者は別個の関係において別個の職務を行なうにすぎず事情は変らない。

照会第三点について

申請を却下した結果他の世帯員の困窮状態が著しいため真に必要と認められる場合には分離して差しつかえないと解する。

(照会)

労働組合役職員からの保護申請に対する取扱いについて

(昭和三六年一二月七日 社発第一六一○号)

(厚生省社会局長あて山口県知事照会)

生活保護法による保護の実施上、左記のとおり疑義がありますので、その取扱いについてお示し願います。

〔前文省略〕

(1) 労働運動に従事しているために稼動収入が減少したことは、法第四条にいう能力の活用をはかつていないものと考えられるが、組合役員をやめておおむね通常の就労日数まで就労するよう指示し、これに従わないときは、保護の要件を欠くものとして保護申請を却下して差しつかえないか。

(2) この場合、その役員を辞退して就労するよう指導し、保護申請を却下し又は保護廃止をすることと、憲法上の権利侵害や労働組合法にいう不当労働行為との関係についてはいかん。

(3) 労働争議の場合の取扱いと同様に解して本人を世帯分離して真にやむを得ない場合は、その世帯員のみを保護して差しつかえないか。

別添4

解雇に対する異議を留保しつつ退職金を受領した場合は解雇の承認にならないとする判例

1 昭和二十五年四月十一日東京地裁決定(解雇不承認の意志を明示しつつ受領した場合)

〔決定理由〕抄

「依願退職届を出したり、解雇予告手当、退職金等を受領した場合には、解雇を承認しない旨明確にその意志を表示する等その他の方法により、解雇の効力を明らかに争う旨の反証のない限り、解雇を承認したと認めるほかはない。

(1) 依願退職願を提出せず、解雇の効力を争う旨を明らかにして退職金を受領した申請人○○

(2) 依願退職願を提出し退職金を受領したが、当初より解雇の効力を争い、入院療養費にあてるため、同年十二月二日にいたりこれを受領したと認められる申請人××(なお同申請人は解雇予告手当を受領していない。)

(3) 退職金をとるため、依願退職願を提出したがその際、解雇を承認するものではないことを附記したところ、受理を拒否され、改めて通常の退職届を提出したと認められる申請人△△ については、いずれも解雇を承認する意志がなかつたものと認められる。

2 昭和二十七年七月二十九日東京地裁判決(解雇の不当を争う旨留保して受領した場合)

〔判決理由〕抄

「一般に解雇の意志表示を受けた労働者が使用者に対し進んで退職を申出で、退職金を受領した場合は特段の事情のない限り当該解雇について争をやめる旨同意したものと推認せられるのであるが、その際右解雇者がなお解雇の不当を争う旨の留保を附して形式的に右手続をなし、使用者も右留保を承認した場合は、その労働者が解雇の当否を争い、労働委員会等にその救済を求める権利は未だ失われないことはもちろんである。」

3 昭和二十六年十一月十日東京地裁判決(従業員としての仮の地位を定める仮処分申請後の受領)

〔判決要旨〕抄

「債権者らが、債務者の主張するように予告手当並びに退職金を受領したことは当事者間に争のないところであるが、解雇の承認は、解雇の意志表示によつて生じた係争を終了させる旨の意志表示、乃至は雇傭契約の合意解約の意志表示で、当事者間の契約と解すべきものであり、予告手当退職金の受領が暗黙に右意志表示のなされたことを推定せしめる場合のあることは、これを否定し得ないが、債権者らが退職金等を受領したのは、いずれも本件仮処分申請後のことであることは当事者間に争のないところであつて、右解雇の効力を争つている時のことであるから、他に右意志表示を暗黙になしたことをうかがうに足る事情の疎明のない限り、右退職金の受領のみをもつて、解雇を承認したものと推定することはできないものと言わねばならない。」(昭和二十五年五月十一日大阪地裁判決同趣旨)

4 昭和二十五年五月二十二日仙台地裁判決(生活費として受領する旨留保して受領した場合)

〔判決理由〕抄

「申請人C、同Dが昭和二十四年十月十四日以降失業保険金を受領し、同年十一月下旬被申請会社が供託した退職金を受領したことは当事者間に争がなく、被申請会社は、右のような行為は暗黙に解雇を承認した行為であると主張するけれども、申請人本人C訊問の結果によれば、右申請人三名は被申請会社に対し生活費として受領する旨の意志表示をしていることが疎明される。失業保険金も右と同様の趣旨と考えられるから、この点に関する被申請会社の主張は採用できない。」