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○覚せい・・剤の検出法について

(昭和二九年一一月二四日)

(薬発第三六五号)

(各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知)

せい・・剤の検出法については従来種々の方法が行われ、しかもその大部分は試験室において多量の検体を要するものであつたので、その簡易化を企図していたところ、今般別添1のとおり国立衛生試験所長より報告があつた。この検出法は、別添2の携帯用覚せい剤検出セットを利用すれば、随所で簡易にかつ精確に試験し得るので、今後当該セットを薬務主管課、地方衛生研究所、保健所等に備えて、関係当局の行う覚せい・・剤事犯の取締特に密造、密売等に対して、薬事監視員が技術面において積極的に協力し得るよう措置されたい。

別添1

医薬品試験研究報告について

(昭和二九年五月二九日 験発第五八六号)

(薬務局長あて国立衛生試験所長通知)

標記に関し覚せい・・アミン剤の検出試験について研究調査を行つた処別紙の如き結果を得たので参考試料として報告する。

せい・・剤の検出法

せい・・剤として使用されているものは、プロパミン (1-pheny1-2-aminopropane) メチルプロパミン (1-pheny1-2-methylaminopropane) であるが最近エフエドリン(ephedrine) をそれらの覚せい・・剤に混和した製剤がでてきたのでそれらの検出法が必要となつた。次にそれらの検出法を整理し有用なものを挙げてみる。

一般に横行している覚せい・・剤は純末の場合より散剤、錠剤特にアンプル剤が多いのでなるべく微量でしかも正確に判断できる方法が望ましく、それには次の方法によるのがよい。

(1)はプロパミン、(2)はメチルプロパミン、(3)はエフエドリンに殆んど特異的且つ鋭敏な検出法であるからまづこれらの検出法を行い、プロパミン、メチルプロパミン及びエフエドリンの鑑別に供する。試料が余分にあるときは(4)のプロパミン、メチルプロパミン及びエフエドリンに共通な方法、プロパミン、メチルプロパミンの反応等を行うのもよいが、これら(4)の方法は(1)(2)(3)の方法等程特異性、鋭敏性がないので参考程度の価値しない点を留意する必要がある。

(1) プロパミンの検出法(文献1)(国立衛試法)

検液(注1)一~二滴に五%ニトロプルシツドナトリウム溶液一滴、アセトン一滴及び重炭酸ナトリユウム粉末二○~三○mgを加え六○度で三○秒間加温する。試料がプロパミンであると検体量に応じ直ちに又は一~二分後に赤紫色~紅紫色(注2)を呈する。

プロパミン硫酸塩確認限度:五○γ

(注1)

Ⅰ 注射液の場合はそのまま試料とする。

Ⅱ 散、錠剤の場合は水にとかし、炭酸ナトリウム、アルカリ性としてエーテル抽出し、そのエーテルエキスについて試験する。

Ⅲ 純末の場合はその微量に水一滴を加えて試料とする。

(注2)

Ⅰ この方法は脂肪族一級アミンの呈色反応(文献1)で他の脂肪族一級アミン及びアミノ酸も同様に呈色するから注意を要する。

Ⅱ メチルプロパミン、エフエドリンは淡橙色を呈する。

(2) メチルプロパミンの検出法(文献2)(青木法)

検液(注3)一~二滴に二○%炭酸ナトリウム溶液一滴、五○%アセトアルデヒド溶液一滴及び一%ニトロプルシツドナトリウム溶液一滴を加える。試料がメチルプロパミンであると検体量に応じ、直ちに又は数分以内に青~青藍色(注4)を呈する。

メチルプロパミン塩酸塩確認限度‥一○γ

(注3)

Ⅰ 注射液の場合はそのまま試料とする。

Ⅱ 散、錠剤の場合はその粉末としたもの少量をそのまま試料とするか、水に溶かし、炭酸ナトリウム、アルカリ性としてエーテル抽出し、そのエーテルエキスについて試験する。

Ⅲ 純末の場合は、その微量に水一滴を加えて試験する。

(注4)

Ⅰ この方法は脂肪族二級アミンの呈色反応(文献3)で他の脂肪族二級アミンも同様に呈色するから注意を要する。

Ⅱ プロパミン、エフエドリンは赤褐色~紅紫色を呈する。エフエドリンは脂肪族二級アミンであるがアルカミンの構造をとるため呈色(青~青藍色)しない。

エメチン、ホルデニンは青色を呈する。

(3) エフエドリンの検出法(文献1)(国立衛試法)

検液(注5)一~二滴に一%ニンヒドリンアルコール溶液二滴、ビリジン一滴を加え沸騰水溶中で最大濃色が得られるまで加熱する。試料がエフエドリンであれば紫色(注6)を呈する。

(注5)

メチルプロパミンの項(注1)に準ずる。

(注6)

Ⅰ この方法はアミノ酸の呈色反応で、一般のアミノ酸も呈色するから注意を要する。

Ⅱ プロパミン、メチルプロパミンは淡褐黄色~褐色を呈する。エピレナミンは紫色を呈する。

(4) その他の検出法

1 次亜臭素酸ナトリウム―ピリジン法(文献1)(国立衛試法)検液一滴(七○~一○○○γの試料を含有)次亜臭素酸ナトリウム試液(注7)一滴、ピリジン二滴を加えて小火焔で加熱する。プロパミン、メチルプロパミン及びエフエドリンは赤色~紅色(注8)を呈する。

(注7)

水酸化ナトリウム一・一gを水四○ccに溶かし、これに臭素一gを加えて溶かし、必要ならば濾過する。

(注8)

この反応はアミノエチル基の反応なのでアンチピリン、アミノピリン、フエノバルビタール等のアミン類が呈色するから注意を要する。

2 コバルト・ロダニド法(文献4)(青木法)

検体溶液五ccに規定炭酸ナトリウム溶液一cc及びクロロホルム六ccを加えて五分間振りまぜ、クロロホルム層を濾過し、これにコバルト・ロダニド試液(注9)一ccを加え一分間振りまぜると青色(注10)を呈する。○・○三~○・二%濃度でも呈色する。

(注9)

塩化コバルト(又は硝酸塩・硫酸塩)二四gとロダンアンモン三五gを水に溶かして一○○ccとする。

(注10)

ジアルキルアミノ基の反応(文献4)なのでプロパミン、メチルプロパミン、エフエドリンに限らず、抗ヒスタミン、局所麻酔剤の多くが同様に呈色するから注意を要する。

3 赤血塩―ニトロプルシツドナトリウム法(文献1)(国立衛試法)

試料の小量又はその二滴に五%赤血塩溶液一滴、五%ニトロプルシツドナトリウム溶液一滴及び二視定炭酸ナトリウム溶液二滴を加え小試験管の底部が水面に少し侵る程度に試験管を水溶につけて、ときどき振りまぜながら八○度で六○~九○秒間加熱後、塩酸六滴、一%塩酸フエニルヒドラチン溶液一滴を加え、再び八○度で一五秒加熱し、その瀘液の呈色を見る。試料がメチルプロパミンであれば橙色~赤色(注11)を呈する。

メチルプロパミン塩酸塩確認限度 一五○γ

(注11)

この方法はメチルプロパミンのNメチル基をホルムアルデヒドとして検出する方法である。アミノピリンがやや類似の呈色を行うから注意を要する。

ニトロ化法(文献5)(岡崎法)

試料○・五mgを試験管にとり硝石○・一g、濃硫酸一○滴を加え水溶上一○分間加熱し、冷後、水三○ccで稀釈しアンモニアアルカリ性としてクロロホルムで抽出し、クロロホルム留出残渣をアセトン二ccにとかし、一○%水酸化ナトリウム溶液一~二滴を加えると紅紫色を呈し、約七分後、美麗な紫色に変ずる。二五γでも十分呈色する。

(注12)

Ⅰ この方法はフエニル核の呈色反応であるから覚せい・・剤に特有の反応ではないので注意を要する。

Ⅱ 覚せい・・アミン類の呈色を示す。次の( )内の最初は直後の呈色・次のものは数分後の呈色を示す。

プロパミン(紅紫→紫色)、メチルプロパミン(無色→帯、黒紫~紫)エフエドリン(紅紫→紅紫色)、エピレナミン(淡黄→淡黄色)

◎参考文献

(文献1) 長沢、大熊‥日本薬学会東京昭和二十九年四月会講演、薬学雑誌七四巻 No.7に掲載予定

(文献2) 青木、岩山‥薬学研究23,273 (1951)

(文献3) Feigl u Anger : MiKrochim Acta 1, 138(1937)

(文献4) 青木、岩山‥薬剤部長年報12,97(1953)

(文献5) 岡崎‥シオノギ8,No.12,10(1953)

別添2 省略