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○毒物及び劇物取締法施行上の疑義について
(昭和三六年八月四日)
(三六衛薬衛発第三四一号)
(厚生省薬務局薬事課長あて東京都衛生局薬務部長照会)
毒物及び劇物取締法施行上つぎのことについて疑義を生じたので貴見を伺いたく照会します。
記
一 製造の委託
(1) 毒物劇物の小分け、粉砕などの作業を甲が乙に委託し、甲が乙に現物を支給し、乙はその作業についての手数料を受けている場合には毒物劇物製造業登録は甲、乙いずれが受けるべきであるか。(甲、乙間の契約の内容は別紙一(略)のとおりであり請負契約と考えられる。)
なお、法第三条第一項の規定からは、毒物劇物の製造を他の者に委託することを禁止しているとは考えられないが、もし受託者乙が登録を受けなければならないとした場合には、乙には現物の所有権がなく従つて販売または授与の目的で毒物劇物を製造する行為には該当しないものと解せられ、法の適用外と考えられるがどうか。
なお、本件は主として駅の周辺の貨車引込線のある場所に設備を有する液体仲継と称する業態があり、各製造業者からタンク車で送られてくる硫酸、硝酸等を製造業者の指図書により小分けしているものである。
(2) また、毒物劇物製造業者乙が同登録を受けている甲から毒物劇物の製造の依頼を受け、乙が小分けした毒物劇物に依頼者甲のレツテルを貼つて甲に販売した場合に、甲、乙両者の違反適用条項はどうか。
なお、本件は主として試薬業者間において慣習的に行なわれているものである。
二 毒物劇物の保管、運搬の委任
(1) 毒物劇物営業者が毒物劇物の保管、運搬を倉庫業者、通運事業者に委託した場合、その寄託倉庫、運搬器具を当該毒劇物営業者の設備と見作して処理すべきであるか、または法第二十二条の規定により倉庫業者等について法第十一条、第十二条第一項および第三項ならびに第十七条の規定を準用して指導、取締りを行なうべきであるか。
(2) なお、保税倉庫、保税上屋に保税のため保管されている毒物劇物については取り締りができないものであるかどうか。
三 毒物劇物輸入業者で事業管理人を設置しない場合
輸入した毒物劇物を他に販売する場合その容器または被包に法所定の表示を行なうことは毒物劇物輸入業者の義務規定と解せられており、また事業管理人は毒物劇物の取り扱いに関する実務を管理するために設置されるものであり、その実務には毒物劇物の保管、陳列、運搬のみならず、表示を行なうことも含まれると解せられるので、輸入業者で事業管理人を設置しなくとも良い場合は石油精製業者であつて自己使用のため四エチル鉛、四メチル鉛のみを輸入するときを除いてはないものと考えられるがどうか。
四 毒物劇物の廃棄
(1) 毒物劇物の廃棄の方法については政令で技術上の基準が定められており、この基準に従わなくては毒物劇物を廃棄してはならない旨法第十五条の乙に規定されているが、廃棄する場合の毒物劇物は法第二条に規定する別表第一、第二に掲げる毒物劇物と同意義に解してよろしいか。
(2) なお、このように解すると含有製剤、化合物そのものが毒物劇物に該当する物の廃棄にあたつて、他の物を混ぜて含有する物とした場合には本質は毒物劇物であつても別表第一、第二に掲げる毒物劇物に該当しない物となり、そのまゝ廃棄しても法の適用がないものと解せられるので、保健衛生上危害の防止に万全を期し難いと思われるがどうか。
例えば鍍金業者のメツキ槽にあるシアン化ナトリウムの水溶液は製剤とは解せないので、毒物には該当せず、そのまゝ廃棄しても法第十五条の二の規定の適用がないと考えられる。
五 容器および被包の表示
(1) 薬事法においては直接の容器または直接の被包に表示するよう定められており、毒物及び劇物取締法においては容器および被包に表示するよう定められているが、容器、被包の解釈および表示の方法が異なるものであるかどうか。
(2) なお、毒物及び劇物取締法では外箱、包装資材も容器、被包と見做されるものであるかどうか。
例えばホリドール乳剤はビン入りが十本ずつダンボールの箱に入れてあり、このダンボールの箱を五個あつめて木箱に納められて販売されているが、どこまでを容器、被包と解すべきであるか。
六 業務上毒物劇物を取り扱う場合
法第二十二条の規定によれば業務上毒物劇物を取り扱う者については法文上毒物劇物の品目すべてについて、法第十一条の規定が準用されると解しえないこともないが、厚生省令で品目を限定した主旨からみて当該品目についてのみ法第十一条の規定が準用されるものと解することが適当と思われるがどうか。
なお、貴職から昭和二十八年七月十四日付薬事第二五二号をもつて神奈川県衛生部長あての回答によれば、毒物劇物取締法第十一条第一項の規定は、毒物劇物営業者および法第二十二条の規定により厚生省令で定める毒物または劇物を業務上取り扱う者がおよそ毒物または劇物を取り扱う場合は、総べて適用あるものであるとされているが、例えば塩酸、硫酸等を業務上取り扱つていた者がたまたま厚生省令で定める毒物劇物を取り扱つたため、塩酸等についても法第十一条の規制が及んでくるとすれば取締りの均衡が失さるとともに、従来法第二十二条の準用者として取り締りの対象にあたつた者が厚生省令で定める品目を取り扱わなくなつたため取り扱つていた塩酸等が法第十一条の規制から除かれるとすると取り締りの一貫性が失なわれると考えられるがどうか。
七 百貨店における毒物劇物の取り扱い。
百貨店では薬品売場、写真売場、園芸用品売場で毒物劇物を販売しているが、百貨店法その他一般的な店舗の概念からみて、百貨店については一つの店舗として登録の対象とすることが適当と考えられるがどうか。
なお、もし各階層または各売場ごとに登録を受ける必要があるとした場合、例えば一階または一つの売場で違反行為があつて行政処分を行なつても、他の階層または他の売場でそのまま営業を続けることができるので、処分の実効が薄いと考えられるがどうか。
八 毒物劇物製造業登録について
(1) 毒物劇物製造業者が毒物劇物を製造する作業場をとりこわし、同製造所内の同一場所または同製造所内の他の場所に作業場を新設した場合、新規の登録を必要とするか。
(2) また、同一製剤(例えばエンドリン等)で医薬品と農薬を製造する場合、医薬品の製造設備を利用して農薬である毒物劇物を製造することは支障ないか。
九 毒物劇物の成分、含量の表示
(1) ネスラー試薬等のように配合成分が判明しているが、製造後に内容が化学変化し、製品の成分が不明なため成分、含量の表示が困難なものがあるが、このような場合如何に表示すべきか。
(2) 尿素ホルマリン接着剤等においてはホルムアルデヒドが遊離の状態で存在するため不安定で含量が不定な場合があるが、このような場合如何に表示すべきか。
(3) その物の含量と表示されている含量の差が大きい場合に法第十二条第二項第二号の規定に違反するものとして措置できるか。
例えばメタノール六五%と記載されているが、その物の含量が九五%であつたような場合である。
(4) 化合物そのものが毒物劇物に該当する場合、水分、挾雑物があり、一○○%の物は存在しないわけであるが、これについて一○○%含有と表示することは良いか。
(5) 成分を化学記号で表示することは良いか。また比重を含量のかわりに記載することは良いか。
(6) 硝酸、硫酸等のカメに表示したラベルはすぐはがれて了い、不適当な場合があるが、これに代えて荷札で表示することはどうか。
(7) クラフト紙、ポリエチレン袋、石油罐の地色、麻袋の生地を白地と見做し、直接毒物または劇物の文字を赤色で表示した場合適法な表示と認められるか。
十 事業管理人の設置について
(1) 同一の製造所、店舗において事業管理人を二人設置することは支障ないか。
(2) また事業管理人を設置していた毒物劇物販売業者が現物を取り扱わなくなつたため、事業管理人を設置しなくなつたときは如何にすべきであるか。
十一 ピクリン酸及びその塩類の取り扱いについて
別表第二の四一に劇物として「ピクリン酸及びその塩類。但し、爆発薬を除く。」が指定されており、火薬類取締法ではピクリン酸等ニトロ基を三以上含むニトロ化合物であつて、その物自体がその自然的条件において直ちに爆発の用途に供せらるべき可能性があると客観的に認められるものは、同法第二条第二号ホに規定する「爆発の用途に供せられる物」と解されており、またこの場合においてそのニトロ化合物の製造、販売等取り扱いをなす者の主観的意志が爆発の用途に供することにあるが、その他の用途に供するにあるかは問わないとのことである。(別添二(略)参照)
従つてピクリン酸及びその塩類で、試薬として製造、販売されているオンス瓶等についても火薬類取締法の適用があることになり劇物に該当しないと解せられるがどうか。
(昭和三六年一○月一九日 薬収第七五一号)
(東京都知事あて厚生省薬務局長回答)
昭和三十六年八月四日付三六衛薬衛発第三四一号をもつて照会のあつた標記の件について、左記のとおり回答する。
記
一 毒物及び劇物取締法(以下「法」という。)第三条第一項の「販売又は授与の目的で製造する」とは、「業として製造する」と同意義に解すべきであるので、毒物又は劇物の小分け等の行為もそれが業とすると認められる場合であれば、毒物又は劇物の製造業の登録を必要とする。したがつて、照会一の(1)については、甲及び乙の双方が毒物又は劇物を業として製造する場合であれば、甲及び乙のいずれについても毒物又は劇物の製造業の登録を必要とする。
二 照会一の(2)については、別途通知する。
三 照会二の(1)については、法第二十二条の規定に基づいて処理すべきである。
四 照会二の(2)については、保税倉庫又は保税上屋に保税のため保管されている毒物又は劇物が毒物及び劇物取締法施行規則第十八条に規定する物であれば、法第二十二条第一項において準用する第十七条第一項の規定により、立入検査等を行なうことができるものと解すべきである。
五 照会三については、毒物又は劇物の容器及び被包に法所定の表示を行なうことは、当然、毒物又は劇物の取扱いに関する実務である。
なお、石油精製業者たる輸入業者が四エチル鉛又は四メチル鉛を自己使用のため輸入する場合であつても、法第十二条第一項の規定に基づき当該四エチル鉛又は四メチル鉛の容器及び被包に「医薬用外毒物」の文字を表示しなければならず、したがつて事業管理人を置かなければならない。
六 照会四の(1)については、法第十五条の二で規定する毒物又は劇物とは、同法別表第一及び第二に掲げる毒物又は劇物を指すものと解する。
七 照会四の(2)については、社会通念上「含有する製剤」として取り扱うべき物であれば、毒物又は劇物である。
なお、例示に係る物は、シアン化合物を含有する製剤であるので毒物に該当する。
八 照会五の(1)については、毒物及び劇物取締法上の表示に関する規定は、薬事法上のそれと異なるものである。
九 照会五の(2)については、例示に係る物はいずれも毒物又は劇物の容器又は被包と解される。
十 照会六については、貴見のとおりに解する。
十一 照会七については、各売場ごとに毒物又は劇物の販売業の登録を必要とする。
なお、行政処分の効力は、その者に係る登録のすべてについて及ぼし得る。
十二 照会八の(1)については、毒物又は劇物を製造する作業場は当該製造所の最重要部分であつて、作業場の全面改築は当該製造所の同一性を失わしめるものと解されるので、新規の登録を必要とする。
十三 照会八の(2)については、保健衛生上支障がないと認められる範囲内において製造設備の併用を認めることはさしつかえない。
十四 照会九の(1)については、当該製剤について毒物又は劇物の成分及びその含量を表示すべきである。
十五 照会九の(2)については、当該毒物又は劇物の成分の含量が変化する場合には、通常予想されるその範囲を表示してさしつかえない。
十六 照会九の(3)については、当該毒物又は劇物の成分の含量の表示がその物について通常認められる誤差の範囲をこえる場合であれば、違反行為として措置できる。
十七 照会九の(4)については、当該毒物又は劇物の成分の含量を正確に表示すべきである。
なお、当該毒物又は劇物の成分の含量の表示が通常認められる誤差の範囲内である場合には、正確な表示として取り扱つてさしつかえない。
十八 照会九の(5)については、当該毒物又は劇物の成分及びその含量を化学記号及び比重で表示することは認められない。
十九 照会九の(6)については、当該表示の方法が毒物又は劇物の取扱い上より適切であると認められる場合には、これを認めてさしつかえない。
二十 照会九の(7)については、法第十二条第一項の規定の趣旨に基づき、当該生地の地色を白色とみなして、取り扱つて支障がないか否かについて、具体的にその物について判断すべきである。
二十一 照会十の(1)については、同一の製造所等に事業管理人を二人以上おくことは、責任の明確を欠く結果となるので適当でない。
二十二 照会十の(2)については、毒物又は劇物を直接取り扱わない場合には、事業管理人をおかなくてもさしつかえない。
二十三 照会十一については、法別表第二第四十一号に規定する爆発薬とは、爆発の用途に供されることが目的とされているものの意であり、したがつて、爆発の用途に供されることが目的とされていない試薬等は、毒物及び劇物取締法の適用を除外されるものではない。