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○新医薬制度の実施について

(昭和三一年三月一三日)

(薬発第九四号)

(各都道府県知事あて厚生省医務・薬務局長連名通知)

本年四月一日から、医師法、歯科医師法及び薬事法の一部を改正する法律が施行され、新医薬制度がいよいよ実施されることとなった。本制度の実施についてはかねて通知しているところもあり、既に万般の準備をしていることと思われるが、更に左記の点に御留意のうえ、本制度実施の際はその実を十分あげ得るよう何分の御配意を煩わしたい。

なお、新医薬制度の実施に伴い関係厚生省令の一部が近く改正される見込であり、また、左記事項のほか、処方せんの記載等に関する事項については、更に関係方面と折衝のうえ決定することとなるので、いずれも近く通知する予定であるから申し添える。

一 処方せんの交付について

1 医師又は歯科医師が処方せんの交付をさけるために、患者に対し処方せんを必要としない旨を申し出るよう事実上強制若しくは誘導したり、又はこれに類する表示等をなすことのないように指導されたいこと。

2 患者の疾病に対し単に診断のみの目的で投薬する場合又は処置として薬剤を施用する場合は、処方せんを交付する必要はないものであること。

3 入院患者については、通常診断治療全般について入院した病院又は診療所で行われることを承諾し、薬剤の調剤もその病院又は診療所で行って貰う意思を有するものと推定されるので、特に患者又はその看護に当る者の申出がない限り、処方せんを交付する必要はないものと認められること。

4 改正後の医師法第二十二条ただし書各号列記及び改正後の歯科医師法第二十一条ただし書各号列記に規定する場合の具体的事例については、おおむね次のとおりと思料されること。

イ 第一号について

医師が患者に投薬する場合において、その投薬行為自体に心理的効果を求める場合、すなわちいわゆる暗示療法を行う場合のことであって、対象となる疾病を例示すれば、神経症(神経衰弱、ヒステリー、不眠神経症、強迫神経症、不安神経症等を含む。)、薬品嗜癖等である。

なお、このほか、他の疾病に附随して神経症症状が現われる場合、例えば、結核性疾病、卒中後の麻痺等のごとく非常に長期の慢性疾病の場合において、患者がその経過又は症状の消長に敏感である場合に、その影響の下に心因性の神経症そのものが加わるか又はこれと類似の神経症症状を呈する場合も含まれる。

ロ 第二号について

処方せんを交付することが「診療について不安を与える場合」とは、的確な積極的療法が決定していない疾病について対症療法又は非特異的投薬を続けるとき、患者が通俗的投薬しか受けていないと考えて医師の診療に不信を抱き、そのため治療に困難を表すような場合であり、又「疾病の予後について患者に不安を与える場合」とは、癌、肉腫、白血病等のように当該疾病の予後が不良とされる疾病又は再生不能性貧血、血友病のように殆んど治癒の見込が少いとされる疾病にかかっている場合が典型的な例である。

ハ 第三号について

心不全の患者に対してジギタリスを投薬する場合のように、有効量と中毒量との差が極めて僅かである医薬品を中毒の発現が予想される用量に達するまで短い間隔で反覆投与する場合等がある。そのほか急性肺炎又は急性化膿炎のような急性感染性疾病に対する化学療法剤のように薬剤を衝撃的又は継続的に投与する場合で、中毒又は副作用の発現が予想される時期に至った以後において、その都度患者の状態を判断しなければ、薬剤の要否又は用量を決定できない場合も含まれる。

ニ 第四号について

診断又は治療方法がまだ決定していない期間において、とりあえず対症療法として、又いわゆるさぐりを入れながら薬剤を投与する場合において、患者が処方せんの内容から医師の診療に対して疑惑や不安を抱き、そのため以後の治療を困難にするような場合である。

ホ 第五号について

例えば、狭心症と診断された患者又は烈しい苦痛を訴える患者等が薬局へ行き又は帰宅する途中で発作が起ったときの用心に亜硝酸アミル又は鎮痛剤等を持たせて帰えす場合のように、患者の病状又は疾病の性質からみて、診療終了後短時間の間に病状が変化し、至急に服薬させる必要が起るおそれがあるにもかかわらず、薬剤師から薬剤を受ける時間的余裕がない場合等があげられる。

ヘ 第六号について

患者が、自分の病状に対して無自覚のまま、一人が病院、診療所へ診療を求めに来た場合であって、診断の結果直ちに安静を要する病状であることが判明したような場合が典型的な例である。

5 院内処方について

病院又は診療所で診療中の患者に対し、その病院又は診療所の調剤所で薬剤師が調剤を行う場合であって患者又はその看護に当る者に処方せんを交付しない場合においては、その処方せんには医師法施行規則第二十一条又は歯科医師法第二十条に規定する記載事項をすべて網羅する必要はないが、患者の氏名、年齢、薬名分量、用法、用量及び医師の氏名を記載した文書を当該薬剤師に交付するよう指導されたいこと。

6 医薬品の単位について

処方せんに記載する医薬品の分量、用量の単位については、普通の散剤は瓦、液剤は立方糎のみについて略省できるものとし、その他の単位については、誤解をさけるために必ず明記するよう指導されたいこと。

二 薬局における調剤について

1 薬局を管理する薬剤師の責務について

薬局を管理する薬剤師は、当該薬局の構造設備、医薬品その他調剤等薬事を行うに必要な物品の管理について一切の責任を負うものであり、更に、他に薬剤師その他の従業員が勤務している場合には、これらの者に対する指導監督についても、その責務を負わねばならないものである。薬局における調剤は、今後増大するものと予想されるので、薬局を管理する薬剤師に対しては、その責務の重大なることを銘記し、薬局における医薬品の調剤等に関し遺憾なきを期するよう強力に指導するとともに、いわゆる名儀貸の如き行為のないよう厳重に監督されたいこと。

2 薬局に勤務する薬剤師の責務について

薬局に勤務する薬剤師は、当該薬局内で自己の調剤した医薬品について全責任を負わねばならないものであり、医師、歯科医師又は獣医師の交付する処方せんの記載通りに調剤を行うべきことはいうまでもなく、調剤を求められたときが処方せんに記載されている使用期間を経過しているか否かを確めた後調剤を行う等、処方せん又は指示書等の文書の点検確認についても十分留意せしめられたいこと。

3 調剤応需の態勢の整備について

新医薬制度の実施に当って、本制度の円滑なる実施を期するためには、薬局において、医師、歯科医師又は、獣医師の処方に常時応ずることができるよう医薬品を整備しおくことはいうまでもなく、近隣の医師等と連絡のうえ、医師等の通常処方する医薬品の確保に努力せしめること。又稀にしか処分されない医薬品については、近隣の薬局で協議のうえ、当該医薬品を取り扱う薬局をあらかじめ定めておく等、万全の措置を講ぜしめること。

夜間においても薬剤師の勤務する薬局については、患者の求めに応じ昼間夜間を問わず何時でも調剤できるよう配意せしめるとともに、殊に夜間も調剤を行う旨の標識、呼鈴、小窓の設備等夜間における患者の便宜を図る設備を整備するよう留意せしめること。

なお、夜間薬剤師の勤務しない薬局における薬剤師の宿直並びに定休日等については、なるべく一定地区の薬局において輪番制をとる等の方法により、調剤に支障を来たすことのないよう指導されたいこと。

三 その他の事項について

1 処方せんの保存義務について

薬剤師の処方せんの保存については、従来徹底していなかったように見受けられるので、特に強力に指導され、患者に返戻することなく、調剤のときから二年間は必ず保存するよう励行せしめられたいこと。

なお、同一処方せんについて二回以上調剤を行った場合には、当該処方せんについては、最後に調剤を行ったときから二年間保存しなければならない点注意せしめられたいこと。

2 麻薬小売業者の免許取得について

新医薬制度が実施された場合には、麻薬を薬局において調剤する場合も相当多くなるものと予想されるので、麻薬小売業者の免許を取得していない薬局開設者に対しては免許取得の手続をとるよう指導されたいこと。