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○ペニシリン製剤による副作用の防止について

(昭和三一年八月二八日)

(医発第七四三号)

(各都道府県知事あて厚生省医務・薬務局長連名通知)

近時ペニシリン製剤による副作用の事例が報告され、その使用について不安を惹起しているが、ペニシリン製剤は疾病の治療に際して顕著な効果をもち、かつ価格が比較的低廉である点からみて国民保健衛生上重要な医薬品であり、今後とも十分評価されるべきものである。しかしながら、これらペニシリン製剤による副作用の防止については、目下各方面において調査研究がなされており、今後さらに慎重な研究にまたなければならない実状であるが、ペニシリン製剤による副作用を防止するとともに、ペニシリン製剤に対する無用の不安により正当な医療の機会を失することのないようにするため、とりあえず左記第一により医師及び歯科医師の参考に資するよう取り計らうとともに、左記第二により医薬品製造業者等に対して指導されたい。

第一 医師及び歯科医師に対する注意事項

1 使用前の注意

患者に対してペニシリン製剤を使用しようとする場合は、次のような注意を払うことが望ましい。

一 当該患者に関するペニシリン製剤の使用歴特に当該患者(又はその血族)に関するペニシリン副作用又はアレルギー性疾患の既往歴の有無について問診を行うこと。

二 前項の問診の結果ペニシリン副作用を起すおそれがあり、他の治療法を用いることが適当と思われる場合は、それによること。

備考

ペニシリン副作用の既往歴又はアレルギー性疾患の既往歴があると思われる患者に対してペニシリン製剤を使用する場合、当該患者が現に副作用を起す状態にあるかどうかを調べる方法については、いまだ学説の一致をみるに至っていない。なお、現在行われている方法としては、単刺法、乱刺法、乱切法、皮内注射、貼布等の方法があるが、このうち皮内注射による反応検査は、これによりショック死を来した事例もあるので慎重を要する。

2 使用上の注意

一 あらかじめ応急処置の準備をしておく。

二 ペニシリン製剤使用後、一五分乃至三〇分間患者の安静を保つ必要がある。

なお、使用前も一五分間程度患者の安静を保つことが望ましい。

三 ペニシリン製剤使用後、血圧降下、便意、喘鳴、脈搏異常、顔面紅潮、口内異常感、くしゃみ、胸内苦悶、耳鳴、尿意等の症状が現われた場合は、直ちに応急処置をとることが必要である。

四 前項の応急処置としては、通常のショックに対する場合に準ずるがおおむね次のような処置が考えられる。

イ 患者の絶対安静を保つ。

ロ 血圧降下の症状に対しては、直ちに強心昇圧剤を投与する。例えば、エピレナミン塩溶液又はノルエピレナミン塩溶液〇・五ccの皮下又は筋肉注射を行い、静脈注射が可能である場合は適当量のノルエピレナミン塩溶液又はフェニレフリン塩溶液を加えた五パーセントブドウ糖液五〇〇ccを血圧の状態を観察しつつ、滴数を調節して点滴注射をする。

ハ 呼吸麻痺の症状に対しては、適宜呼吸刺戟剤例えばジブチルジモルホリニルカルボキシアミノエタン製剤、アミノコルジン、安息香酸ナトリウムカフェインの投与、時として酸素吸入、気管切開等の処置を行う。

ニ 急激な症状が一応おさまった場合は、必要に応じ輸血若しくは輸液を行い、又は抗ヒスタミン剤、コルチゾン塩、ヒドロコルチゾン塩、副腎皮質刺戟ホルモン(A・C・T・H)、塩酸ペチジン(オペリジン)等を投与する。

ホ 患者を移動又は運搬する際は、特に注意する。

(前記諸薬品名については、別紙を参考とすること。)

第二 医薬品製造業者等に対する指導事項

1 製造業者に対し、今後製造するペニシリン製剤の表示書に次の注意事項を記載す るよう指導すること。

一 本人又は血族に気管支喘息、薬疹、じんま疹等アレルギー疾患の既往歴のある者は、注意して使用すること。

二 本剤を使用して、ペニシリンアレルギー症状例えばじんま疹等の発疹、かぶれ、その他異常のあるときは、特に注意すること。

三 ペニシリン過敏性の者のうちには、極めて稀にペニシリンショックをおこす者があるので、本剤の使用中又は直後、不快感、口内異常感、喘鳴(のどがぜいぜいする)、便意、耳鳴等の症状が現われた場合、安静にして、直ちに応急処置を必要とすること。

四 本剤を使用した際、前記のような副作用のあった者は、以後、ペニシリン治療を受ける際はその旨を医師に申し出ること。

五 なお、本剤の濫用を避けること。

2 薬事法第四十四条第七号の規定が遵守されるよう厳に指導すること。

参考

一 エピレナミン塩

当該製剤名 日本薬局方 塩酸エピレナミン注射液

(市販名……ボスミン注射液、塩化アドレナリン注射液)

二 ノルエピレナミン塩

当該製剤名 塩酸ノルエピレナミン注射液

(市販名……ノルアドレナリン)

三 フェニレフリン製剤

当該製剤名 フェニレフリン塩酸塩

(市販名……ネオシネジンコーワ注、ネオシネジンコーワ注2号、オノフィリン)

四 ジブチルジモルホリニルカルボキシアミノエタン

(市販名……テラプチク筋注、テラプチク静注、アトムリン注)

五 アミノコルジン

当該製剤名 日本薬局方 アミノコルジン注射液

(市販名……キオシン注射液、レホルミン、コルニジン、ニケタマイド、コラミン注射液)

六 安息香酸ナトリウムカフェイン(アンナカ)

当該製剤名 日本薬局方 安息香酸ナトリウムカフェイン、日本薬局方 安息香酸ナトリウムカスフェイン注射液

七 コルチゾン塩

当該製剤名 国民医薬品集 酢酸コルチゾン錠

(市販名……シエロソン錠、コートン錠、コーチゾン錠、コルタードレン錠)

当該製剤名 国民医薬品集 酢酸コルチゾン水性懸濁注射液

(市販名……コーチゾンアセテート注射液、シエロソン注、注射用コートン)

八 ヒドロコルチゾン塩

当該製剤名 国民医薬品集 酢酸ヒドロコルチゾン錠

(市販名……ハイドロコートン錠、コーテフ錠、シエロソンF錠)

当該製剤名 国民医薬品集 酢酸コルチゾン水性懸濁注射液

(市販名……コルタードレン注、シエロソンF、ハイドロコートン食塩水懸濁液)

九 副腎皮質刺戟ホルモン(A・C・T・H)

(市販名……コルチコトロピンレオ、アクサー、アクス)

一〇 塩酸ペチジン(オペリジン)

当該製剤名 国民医薬品集 塩酸ペチジン(オペリジン)

(市販名……オピスタン、ネオモヒン)

注 ここに記載した当該製剤の製品名は、あく迄も、参考資料としてであって、該当せる全製品を揚げたのではない。