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○所謂医師の応招義務について

(昭和三〇年七月二六日)

(三○医第九〇八号)

(厚生省医務課長あて長野県衛生部長照会)

最近県下に別紙のような事件が発生しましたが、このことについて次のとおり疑義がありますので何分の御回答を願いたく報告をかねてお伺いします。

1 別紙に掲げた各医師の不応招理由は医師法第十九条に定める正当な理由と認められるかどうか。

2 正当な理由と認められないときはどんな措置をとられるか。

(別紙)

医師不応招事件の概要

1 日時 昭和三十年七月十四日午後十時半頃

2 場所 長野県下高井郡木島平村内山部落

3 概況

木島平村内山部落(役場から山道二キロ余)農 小林直任妻 良(三六歳)は十四日夜午後十時半就寝直後急にうわ・・言をいい苦悶をはじめ意識不明となり、シャックリ頻回(日頃寝言をいう)したので夫は頭を冷したり水を飲ませたりしたが容態が急変を告げる気配なので直ちに夫の弟庄三が自転車にて里におり村内全医師四名飯山市の医師三名へそれぞれ往診を依頼したがいずれも断られた。その中の最後に依頼した飯山市日赤飯山病院では連れてくれば診察してあげましょうとのことに村内にある岳北依染病舎の自動車を借りて「良」さんを迎えに行った時は既に死亡していたのでやむなく自動車は引返し役場近くの伊東医師に死亡診断書を依頼したが断られた。よって仕方なく村の駐在へこの旨申出た。駐在より本署に連絡があり、更に翌十五日午前九時半頃中野警察署次席から当所(中野保健所)へ右の大要電話連絡があったので当日当所からも一名現地へ実地調査せしめた、その結果の概要を医務課に報告したものである。十五日午前八時中野警察署では刈間部長が現地に赴き野沢温泉村斉藤医師の出張を乞い検死の結果死因は「心臓マヒ」と診定され死亡した時間は十四日午後十一時半頃と推定されている。

各医師の診療を拒んだ理由は次の通りであります。

(1) 診療を拒んだ医師

イ A医師(住所地略図(略)以下同じ)   │  参考

午後十一時三十分頃弟が来訪腹をいた │ 日頃病弱である。

がっておるからすぐ来てくれと依頼され │ 当村所在伝染病舎の

たが、疲れておるからといったらすぐか │ 担当医であって当時

える。当日外来患者一五人、往診九人  │ 急患の赤痢が七名入

麻疹の後の患者に朝は六時より晩は十時 │ 院中である。

半頃まで往診し非常に疲れておった。  │

患者宅まで約二粁           │

ロ B医師                │

午後十一時半頃暑気あたりらしいので │ 医師自身が暑気あた

来てくれといって来たが、自身も暑気あ │ りにて吐気がある。

たりで疲れておるからとことわる。   │

十一日より十三日まで学童の身体検査を │道程約二粁

一時から四時まで平均五○―六○人やっ │

ており具合が悪くて一旦休み四時頃から │

往診一○軒、十四日は外来四○人、往診 │

八人                 │

ハ C医師                │

午後十二時頃往診を乞いに来たが大変 │道程三粁

疲れているし体の具合が悪いからとかえ │

す。外来二三名、往診六人       │

異状天候にて身体も具合が悪く暑気あた │

り気味であった。           │

ニ 上木島診療所D医師          │

当時就寝一時間位であり電話は閉めき │道程四粁

った室にあり知らなかったが応答がない │

からとその侭にせず近所(二○―三○米) │

に役場農協があるから、急患だからと呼 │

出してほしかった。          │

ホ E医師                │

午後十二時半すぎ頃電話あり患者がも │老齢六三歳

のをいわなくなったから来てくれと簡単 │道程約三粁

にいってきたが、車故障にて修理に出し │

ておるからといったら電話が切れた。  │

この辺は老齢なるを知っており遠方は馬 │

か車を持ってきている。        │

外来二五人、往診ナシ         │

ヘ F医師                │

徹夜にて肝臓癌のところへ十一日から │道程六粁

毎日往診しており非常に疲れておった。 │

当日外来五○人、往診八人       │

村内の医師が行ってくれると思った。  │

ト 飯山日赤              │

午前一時頃往診の電話があったが前に │道程六粁

癌の手術をやり非常に疲れておったので │

来ていただければと返事をする。    │

日赤としても入院患者六名あり原則とし │

て当直医の往診をひかえている。    │

(2) 検死をした医師の診断

イ 死亡月日 昭和三十年七月十四日午後十一時三十分

ロ 死亡原因 急性心臓麻痺 三○分

慢性腎炎過労 三か月

ハ その他の身体状況

心筋変性を合併していたと思われる。

(昭和三○年八月一二日 医収第七五五号)

(長野県衛生部長あて厚生省医務局医務課長回答)

昭和三十年七月二十六日三○医第九○八号をもって照会のあった標記の件について、左記の通り回答する。

1 医師法第十九条にいう「正当な事由」のある場合とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、患者の再三の求めにもかかわらず、単に軽度の疲労の程度をもってこれを拒絶することは、第十九条の義務違反を構成する。然しながら、以上の事実認定は慎重に行われるべきであるから、御照会の事例が正当な事由か否かについては、更に具体的な状況をみなければ、判定困難である。

2 医師が第十九条の義務違反を行った場合には罰則の適用はないが、医師法第七条にいう「医師としての品位を損するような行為のあったとき」にあたるから、義務違反を反覆するが如き場合において同条の規定により医師免許の取消又は停止を命ずる場合もありうる。