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○プライマリーケアーを含む臨床研修の実施について

(昭和五三年三月二四日)

(医発第三〇五号)

(各臨床研修指定病院長あて厚生省医務局長通知)

医師の臨床研修については、かねてから種々御配慮を煩わしているところであります。

臨床研修の運用に関しては、さきに医師研修審議会から昭和四十八年十二月に建議書及び昭和五十年十月に意見書が提出されており、この中で、臨床研修においてプライマリーケアーを修得させることの必要性が述べられているところでありますが、今般、さらにプライマリーケアーの普及充実を図るため、「プライマリーケアーを修得させるための方策」に関する意見書が別添のとおり厚生大臣あてに提出されましたので御参照のうえ、今後の臨床研修の運用にあたって十分参考とされるようお願いします。

このたびの意見書では、幅広い臨床能力をもつ医師の育成のため、臨床研修の中でプライマリーケアーを修得させるための具体的な方策が示されておりますが、これらの方策の実施にあたっては、保健医療に対するニード、病院の機能等地域医療の実態に即し個別具体的な検討を加えられ、より効果的な臨床研修が実施されるよう格別の御協力をお願いします。

別添

意見書

医師研修審議会においては、昭和四十八年十二月七日の建議書及び昭和五十年十月二十四日の意見書により、臨床研修においては将来いずれの診療科を専攻する者も、研修期間の前期のうちに関連する診療科を広くローテイトしプライマリーケアーの基本的知識技能を広く修得することができるような研修計画をたてること必要であるとの意見を具申したところであるが、さらにこのたびプライマリーケアーを修得させるための方策を別紙のとおりとりまとめたので、ここに意見を具申する。

昭和五十三年三月二日

医師研修審議会会長

厚生大臣殿

別紙

プライマリーケアーを修得させるための方策

(目次)

1 目的

2 諸条件の整備

3 研修目標

4 研修方式

5 研修の評価

6 その他

1 目的

(1) プライマリーケアーを修得させるための臨床研修の目的をするところは、患者やその家族の健康上の問題解決のための幅広い知識と臨床能力を持ち、問題を最も効果的に処理するとともに生活指導のできる臨床医をつくることにあるが、これをさらに具体的に述べると ①最も普通にみられる病気や外傷などの事故の処置ができること ②救急の初期診療ができること ③適切な時期にしかも安全に専門の医師にケースを送りとどけることができることであり、さらに ④病気の予防の措置や指導ならびに生活管理を主とする慢性疾患又は身体に障害を有する者に対し、心身両面の指導ができる臨床医をつくることである。

(2) 我が国においてプライマリーケアーの意味に用いられている言葉としては「一次医療」、「基本医療」、「初期医療」、「前線医療」などがあるが、いずれもプライマリーケアーの意味することを完全に表わしているものとはいえない。したがって、ここではあえて日本語訳を用いることを避け、単に「プライマリーケアー」として表現するにとどめた。

2 諸条件の整備

(1) 先ず最初に、プライマリーケアーを修得させるための研修を行うことについて、病院設置者、病院管理者をはじめ、各診療科の研修指導責任者及び個々の指導医の共通の理解と認識が必要である。

また、研修委員会(又は教育委員会)が設置されており、この委員会が総括的な計画立案及び評価ができるように十分機能し得ることが必要である。

(2) 研修医自身に十分な目的意識をもたせる意味において、研修医の応募要領に当該病院の臨床研修の中にプライマリーケアーに関する研修を含むことを明記しておくことが必要である。

3 研修目標

(1) 研修計画を立案するにあたっては、先ず研修すべき領域とレベルについて具体的な研修目標を作成する必要がある。これは地域の保健医療に対するニード、病院の有している機能、研修医のニード等を勘案して病院独自の研修の範囲を定め(別添参考資料「臨床研修に含まれるべきプライマリーケアーを中心とした研修目標」参照)、これに基づき具体的な研修カリキュラムを作成することが望ましい。

(2) また、研修目標はすべての指導医及びすべての研修医に周知されていることが必要である。

4 研修方法

(1) 臨床研修においては、将来いずれの診療科を専攻しようとする者も、一定のまたは関連する診療科を広くローテイトすることがプライマリーケアーの修得のためには必要であるが、このほか ①救急診療部門 ②外来診療部門 ③総合診療部門でそれぞれ一定期間研修することも必要である。

(2) 以上のほか、従来から研修方法として活用されている ①カンファレンス ②C・P・C ③抄読会を利用することも考えられる。

5 研修の評価

(1) プライマリーケアーの研修をより効果あらしめるためには、研修期間の中途及び終了時に適切な評価を行うことが必要である。

(2) 研修の評価は、単に研修医個人の成績を追求することを目的とするものではなく、所期の研修目標が正しく達成されているかどうかを判断するとともに、研修過程をチェックすることにより、その後の研修計画をより有効に修正することを期待しているものである。

このため、研修医自身が自ら評価する機会を配慮することが必要である。

6 その他

以上のように、臨床研修の中で行うべきプライマリーケアーについて述べてきたところであるが、これらについてさらに一層の理解を深めるために参考資料として「プライマリーケアーを中心とした研修の具体的実施方法」及び「ローテイト方式による研修カリキュラムのモデル」をとりまとめたので、臨床研修病院がその実情に即した研修計画を立てる場合の参考とされたい。

参考資料1

プライマリーケアーを中心とした研修の具体的実施方法

1 諸条件の整備

プライマリーケアーを中心とした臨床研修を実施するためには、次のような体制を整えておくことが必要であろう。

1―1 プライマリーケアーを中心とした臨床研修を実施することを病院及び指導医が共通に理解すること。

1―2 研修委員会あるいは教育委員会が、総括的な計画立案及び評価ができるように機能しうること。

1―3 臨床研修に関連する院内各職種のメンバーが、前記委員会の計画や評価に協力すること。

1―4 応募要領にプライマリーケアーを含む臨床研修を実施することを明記し、これを望む研修医を受け入れること。

2 研修計画の立案

研修計画を立案するには、次のようなプロセスが必要であろう。

2―1 研修医が研修期間中に達成すべき研修目標を作成する。

2―2 研修目標の達成を可能ならしめる具体的な研修プランを組む。

2―3 研修をより効果的にするために、研修途次及び終了時に実施すべき評価法を用意する。

2―4 評価の結果を計画修正にフィードバックさせる。

3 研修目標の作成

研修目標の作成には、次の諸点を配慮する必要があろう。

3―1 別添資料の「卒後臨床研修に含まれるべきプライマリーケアーを中心とした研修目標」を参照し、地域の保健、医療に対するニード、病院の有している機能、研修医のニードなどを勘案して、病院独自の研修の範囲を決定する。

3―2 各研修領域毎に研修目標を具体的に記述する。

3―3 研修目標の中には、知識の領域(解釈できる、計画できる、決定できる、問題を解決できるというような)、技能の領域(診察できる、処置ができる、測定できるというような)及び態度の領域(……の態度を身につける、……の習慣を身につけるというような)の三つの領域を含める。

3―4 研修目標は全指導医と全研修医に了解されている必要がある。

4 研修方法

研修方法としては次のようなものが考えられる。これらの方法を適切に組み合せて行うことが望ましい。この際、どの場で、どの研修目標を達成するかが明確に指示されていることが必要である。

4―1 ローテイト方式

4―1―1 いずれの科に進む者も、一定期間一定科のローテイト研修を行う。

4―1―2 将来進む科を考慮したローテイト研修を行う。

4―2 救急診療部門(救急センター、救急室等)において一定期間研修する。

この施設は場合によっては院外のものを活用することも考えられる。

4―3 総合診療部門(総合病棟)において一定期間研修する。

このような診療部門はまだ一般的ではないが、もし設置されている場合はここでの研修は極めて有効であろう。

4―4 外来診療部門(総合外来または初診外来)において一定期間研修する。

外来診療部門で研修する場合は、指導医による定期的チェックが必要となろう。研修医が初診をとった患者を再来時指導医がチェックするとか、定期的な外来症例カンファレンスを行うことが考えられる。

4―5 以上のほか、研修方法として従来から利用され、今後とも有用であると考えられる方法は次のようなものであろう。

症例カンファレンス(単独診療科のカンファレンスのみならず、総合的なカンファレンスが望ましい。)、病理組織カンファレンス、C・P・C、抄読会(ジャーナルクラブ)、小講義(クルズス……講義と討論を含む。)、視聴覚教材を用いた学習、読書その他の自己学習

5 研修の評価

臨床研修を効果的に実施するためには、研修途次及び終了時に適切な評価を行う必要がある。評価方法としては次のようなものが挙げられるであろう。

5―1 客観試験やシミュレーションテストによる知識、理解、問題解決領域の評価。

5―2 日常の診療やカンファレンスでの研修医の行動の観察記録、問題解決力、問診能力、診療手技、各種治療的手技、救急蘇生手技、患者との信頼関係、患者の心理的社会的背景への配慮、チーム医療における協調、学習態度などをチェックリストか評定尺度を用いて随時評価すれば、この結果を研修指導上の参考とすることができる。

5―3 研修医の受持症例、実施した手技などについて自己評価させて定期的に報告させれば、その後の研修計画をより有効に修正することができる。

5―4 以上のような評価の結果を踏まえて、年々研修計画を改善していく必要がある。

(別添資料)

卒後臨床研修に含まれるべきプライマリーケアーを中心とした研修目標

将来、いずれの診療科を専攻しようとする者も、すべての研修医は、広い領域にわたる患者の問題の初期的処置ができるようになるために、次の諸目標に到達することが期待される。

(1) 各科にわたる基本的な診療についての知識と応用力と技能を身につける。これには以下の諸項目が含まれる。

(1―1) 問診を含む、患者・家族との正しいコミュニケーションの能力。

(1―2) 全身の診察法(内科的診察法の他に、検眼鏡・耳鏡・鼻鏡検査、直腸診・外傷の診察、小児の診察、妊婦の診察などを含む。)の実施と主要な所見の把握。

(1―3) 必要に応じて臨床検査(検尿、検便、血算、出血時間測定、血液型検査、血中尿素窒素・血糖の簡便検査、心電図等を含む。)を実施し、解釈できる能力。

(1―4) 基本的な臨床検査法(1―3に列挙したものの他、血清生化学、血清免疫学、細菌学的検査、薬剤感受性検査、髄液検査、肝・腎・肺機能検査、脳波検査、各部位の単純X線・主要造影法X線検査などを含む。)の適切な指示と解釈の能力。

(1―5) 臨床検査または治療のための各種の採血法(静脈血、動脈血)、採尿法(導尿法を含む。)、注射法(皮内・皮下・筋肉・静脈注射、点滴、静脈確保法を含む。)、穿刺法(腰椎・胸腔・腹腔穿刺を含む。)の適応決定と実施

(1―6) 基本的な内科的治療法(輸血・輸液法、一般的な薬剤の処方・投与法、一般的な食餌療法などを含む。)の適応決定と実施。

(1―7) 簡単な外科的治療法(簡単な切開・摘出・止血・縫合法、包帯・副木・ギブス法を含む。)の適応決定と実施。

(1―8) 基本的麻酔法の実施と副作用に対する処置。

(1―9) 手術前・手術後の患者管理能力。

(1―10) 正常分娩介助の知識。(と技能)

(1―11) 末期患者の適切な管理能力(人間的・心理学的理解のうえにたった治療、家族への配慮、死後の法的処置を含む。)

(1―12) 通常よくみられる病気や外傷をもつ患者に対して、以上の各能力を総合的に適用し、単独で処置できる問題解決力。

(2) 広い領域の緊急な病気または外傷をもつ患者の初期診療に対する臨床的能力を身につける。これには以下の諸項目が含まれる。

(2―1) まずバイタルサインを正しく把握し、生命維持に必要な処置を的確に行う能力。(一次救急蘇生法としては、人工呼吸・体外心マッサージ・気管内挿管・気管切開・除細動および対ショック療法が含まれる。)

(2―2) 問診・全身の診察を、迅速かつ効率的に行う能力。

(2―3) 問診・全身の診察によって得られた情報をもとにして、迅速に判断を下し、初期診療計画をたて、それを実施できる能力。

(2―4) その後の状況の変化に応じて、計画をよりよいものに改善できる能力。

(2―5) 患者のケアのうえで必要な注意を、看護婦に適切に指示する能力。

(2―6) 患者の診療を、専門的医師または二次・三次医療機関の手に委ねるべき状況を的確に判断する能力。

(2―7) 患者を転送する必要がある場合、転送上の注意を指示する能力。

(2―8) 情報や診療内容を正確に記録でき、他の医師・医療機関の手に委ねるときには、これらの情報を適切に申し送る能力。

(注) 前記の初期診療能力が求められる救急の範囲としては、次のものがあげられる。

1意識障害 2脳血管障害 3心筋梗塞・急性心不全 4急性呼吸不全 5急性腎不全・尿閉 6急性感染症 7急性中毒症 8急性腹症 9急性出血性疾患 10創傷 11四肢の外傷 12頭部外傷 13脊椎・脊髄外傷 14胸部外傷 15腹部外傷 16熱傷 17産科救急 18婦人科救急 19急性眼疾患と外傷 20耳鼻咽喉領域の救急 21小児救急(発熱・発疹・下痢・嘔吐・腹痛・咳・呼吸困難・痙攣・異物事故・薬物誤飲および新生児救急を含む。)

(3) 患者の問題を心理的・社会的にもとらえて正しく解決する能力とともに患者および家族とのよりよい人間関係を確立しようとする態度を身につける。

(4) チーム医療における医師および他の医療メンバーと協調する習慣を身につける。

参考資料2

ローテイト方式による研修カリキュラムのモデル

――川崎市立川崎病院――

1 研修目標・内容

(1) 専門領域にかかわらず、すべての医師に求められる各科における基礎的診断・治療及び教育のための技能を修得する。

(2) 患者の問題を医学的のみならず、心理的・社会的にとらえ正しい人間関係のもとに、患者及び家族の社会復帰、健康保持を最終目標として、医師としてのあらゆる努力をしようとする態度を身につける。

(3) 専門領域にかかわらず、すべての医師に求められる各科における初期診療を行うための臨床的技能を修得する。

ア 緊急患者のバイタルサインを正しく把握し、まず生命維持に必要な処置を的確に行い、かつ記録できる。

イ 緊急患者の問診、診察を迅速・確実に行い、かつ記録できる。

ウ 得られた情報をもとに初期診断・初期治療の計画をたて、それを実施又は医療メンバーに指示できる。

エ 緊急患者を他の専門医師又は医療機関に移管する必要性を遅滞なく判断し、その実施及び転送上の注意を指示できる。

オ 患者が死亡した時の諸措置を行うことができる。

(4) 他の医師及び医療メンバーと協調して診療を行うための習慣を身につける。

2 指導医

指導は各科部科長の責任において、各科のレジデント委員が主として行う。

3 研修記録

指導医・研修医とも別紙の学習目標を常に所持し各項目の修了の確認を行う。

4 評価

各カリキュラム項目毎に研修医自身及び指導医が評価を記入する。

A:平均レベルより秀れている。

B:平均レベルである。

C:平均レベルより劣る。

D:改めてこの項の研修を行う必要がある。

5 剖検

順番制で五件を終る迄病理より呼出す。配属科での主たる勤務に重大な支障のない限り剖検を優先する。

研修医が診療に関与していた患者の剖検は優先する。五件のうち一件は肉眼的所見のレポートを提出する。

6 気管切開

順番制で三件を経験する迄耳鼻咽喉科より呼出す。一例のレポートを提出する。

7 緊急コール

研修医の学習に適した緊急及び頻度の少ない症例が発生した時、全館放送で緊急コールを行う。配属科で研修中においても優先して現場に急行する。

8 一般当直(内科・外科・小児科)

指定した当直表に従って各当直医の指導の下に行う。各当直別に一例の症例報告を提出する。当直にあたっていない期間は配属科において当直する。(含む産科当直)

9 研修期間

研修期間は別に定める日程表による。

(注) この研修カリキュラムは、現在川崎市立川崎病院で実施されている臨床研修の前期(一年)のものであり、後期の研修は各研修医の専門領域の研修を実施することとしている。

なお、このカリキュラムは一つの例示であって、各研修病院では地域の保健医療に対するニード、病院の有している機能等に差異があるので、この点を勘案して研修病院独自のカリキュラムを作成することが望ましい