添付一覧
○麻しんの予防接種の実施について
(昭和五三年八月八日)
(衛情第二七号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省公衆衛生局保健情報課長通知)
標記については、本日厚生省公衆衛生局長から通知されたところであるが、麻しんの予防接種の具体的な実施に当たつては、左記の事項を御了知の上、貴管下市町村長の指導に遺憾なきを期されるよう願いたい。
なお、「麻しんワクチンの実用化に伴う注意事項について」(昭和四十一年十二月十二日衛防第六二号厚生省公衆衛生局防疫課長通知)は、廃止する。
記
1 接種年齢
政令に定める定期の期間は、生後一二月から生後七二月に至る期間であるが、麻しんの流行状況等を考慮し、生後一八月から生後三六月の間に接種することが望ましいものであること。
2 接種方式
麻しんの予防接種は、接種後の発熱等が比較的多いので、接種前の健康状態のは握はもとより接種後の保健指導等についても一層注意を払わなければならないことにかんがみ、麻しんの定期予防接種は個別接種で実施するものであること。なお、麻しんの予防接種を個別接種で行うに当たつては、「予防接種の実施について」(昭和五十一年九月十四日衛発第七二六号公衆衛生局長通知)の別紙「予防接種実施要領」に示された共通的事項のほか、「麻しん予防接種実施上の注意」(別添1)に従うものとすること。
3 その他
麻疹ワクチン研究協議会の作成した「乾燥弱毒生麻しんワクチン使用の手引き」(別添2)が公表されているので参考とされたいこと。
別添1
麻しん予防接種実施上の注意
1 接種対象者に対する通知
接種対象者に対する通知は、予防接種の場所が複数になること、接種期間が相当長期にわたること、接種後の副反応が比較的多く現れること等のため、個別接種に協力する医師名及びその場所、接種日時、禁忌事項その他必要事項が十分周知されるようとくに配慮すること。
なお、通知に当たっては、毎月通知を出す等一時期に接種が集中しないよう配慮すること。
2 接種を担当する医師と接種の場所
麻しんの予防接種は、市町村長の要請に応じて個別接種に協力する旨を承諾した医師により、当該医師に係る医療機関で接種(個別接種)すること。
なお、前記医療機関における接種を実施しがたい場合においては、市町村、地域医師会等により運営される施設であつて、かつ、麻しんの予防接種を実施するのに適した施設も個別接種を実施するのに適した機関とみなすものとすること。
3 問診票
問診票には、接種前三月以内にガンマーグロブリンの投与を受けたかどうかの記入欄を設けるとともに、別記様式を参考として麻しんの個別接種問診票を作成すること。
4 接種時の注意
(1) 予診に当たつては、問診票を用いた問診のほか、原則として視診、聴打診等を行うこと。
(2) けいれんの症状を呈したことのある者はとくに注意する必要のあること。
(3) 2にいう施設において接種を実施する場合は、麻しんの予防接種についての健康教育、接種時の副反応に対する緊急措置、接種後の保健指導及び接種後の副反応が生じた場合の適切な措置が実施できるようあらかじめ配慮すること。また、実施計画の作成に当たつては、予診の時間が十分とれるよう配慮すること。
(4) 予防接種を受けた者、又はその保護者に対しては、予防接種実施要領に定められている事項のほか、とくに接種後五日ないし一四日の間(主に七日ないし一二日の間)に一日ないし三日の間だるさ、不機嫌、発熱、発しん等を呈することのある旨知らせるとともに、健康状態を十分に注意して観察し、必要に応じて医師等に連絡するよう指導しておくこと。
別記
別添2
乾燥弱毒生麻しんワクチン使用の手引き
(一九七八・七改訂)
(麻疹ワクチン研究協議会 社団法人細菌製剤協会)
序(この手引きの目的)
本書は、わが国で現在行われている乾燥弱毒生麻しんワクチンを使用する場合に用いられる手引きとしてつくられたものである。
わが国の麻しんワクチンは、千九百六十六年十一月初めて不活化ワクチン(Kワクチン)と生ワクチン(Lワクチン)の二種類のワクチンの使用が許可された。この場合、麻しんワクチンは任意接種の形で、その使用が許可されたので、それが誤りなく一般に使用されるためにその使用の指針となる手引きをつくることが一般医家からも強く要望され、本協議会もまた、その必要性を痛感し、使用許可に際して特に「麻しんワクチンの手引き」を作製して一般に公表した(千九百六十六年十一月、日本医事新報、№二二二一号)。
この手引きについては、先ず千九百六十八年十一月にはKワクチンに起因する異型麻しんの発生に対処して行政当局が行なつたKワクチンの基準改正に際して、その内容の一部が改正された。ついで、わが国で千九百七十年KL二種の麻しんワクチンの併用が高度弱毒生麻しんワクチン(FLワクチン)の単独使用にきりかえられるに及んで、千九百七十一年四月には従来の手引きにかえて新しく「高度弱毒生麻しんワクチンの手引き」がつくられた。以来今日までこの手引きがFLワクチンの任意接種に際して一般に使用されて充分にその目的を果して来たといえよう。
ところで、千九百七十六年六月、厚生省当局によつて予防接種法の一部改正が行われ、その結果、麻しんが新しく予防接種の対象疾病の一つとしてとりあげられ、千九百七十八年十月以降、麻しんワクチンは従来の任意接種にかえて定期的接種の方式で一般に使用されることとなつた。
定期接種で使用される麻しんワクチンは、千九百七十年以来わが国で行われている高度弱毒生麻しんワクチンであつて、その使用方法は特に従来と変るところはないが、本協議会では今後は高度弱毒生麻しんワクチンを単に弱毒生麻しんワクチンと呼称するとともに、従来の手引きの内容について定期接種の運用に適合して、その一部を書き改めて、ここに新しい手引きとして本書を上梓した。
麻しんワクチンの定期接種の施行には、既に厚生省行政当局より施行令の改正や、その実施要領が告示されているし、使用ワクチンについては、それぞれ使用書が添付されていて、その施行の誤りなきことが期されている。しかしながら、本手引きがこれら実施要領や、使用書きと併せて活用されれば、麻しんワクチンの定期接種はより一層円滑に行われるであろうことは疑いなきことであろう。本書の上梓の目的もまたそこにあることを附言して本書の上梓の序文としたい。
千九百七十八年七月
麻疹ワクチン研究協議会
会長 宍戸亮
使用の実際
1 ワクチンの製造法、外観、保存法
(1) 製造法
高度に弱毒化したことが確かめられている麻しんウイルス株を組織培養法で培養してつくり、遠心沈殿法、ろ過法などで培養細胞を除去してワクチン原液とし、更に安定剤を加えてウイルス浮遊液とし、この浮遊液について規定された各種試験を行なつた後、凍結乾燥してワクチンとする。
注1) 現在わが国で高度弱毒株としてワクチン製造が認められているものは、微研-CAM株(阪大微研)、Schwarz株(武田薬品)及びAIK-C株(北研)の三株である。ワクチン製造のためのウイルス培養には、ニワトリ胎児(胚)初代培養細胞が用いられている。
注2) ワクチン中のウイルスが出来るだけ安定して生存出来るよう、かつ、人体に無害なものとして一定量のゲラチン、ヒト血清アルブミン、アミノ酸類、糖などが用いられている。
(2) 外観
乾燥状態では微黄白色の無形固体で、バイアル又はアンプル中に存在し、添付された溶解液(日本薬局方注射用蒸溜水)でとかすと、すみやかに溶解して微黄赤色透明な溶液となる。
(3) 保存方法
乾燥状態のものは光の当たらない状態で五℃以下で保存する。有効期間は一年である。
麻しんウイルスは比較的不安定であるから、一度溶かしたワクチンはすみやかに使用することが望ましい。溶かしたまま、長く室温に放置しないようにする。溶かしたワクチンをすぐ使用しないときは、短時間ならば五℃以下の冷室に保存してもよいが、二四時間以上おいたものは使用しない。
使用後のワクチン容器は煮沸滅菌してからすてる。使用ずみの注射器も必ず煮沸滅菌してからもとの場所にもどす。
2 ワクチンの使用方法
(1) 接種対象及び接種年齢
定期接種は生後一二~七二月の間に行うが、生後一八~三六月の間に接種することが望ましい。
注3) わが国の麻しんは千九百七十六年現在では四歳までに大部分の小児が感染してしまうので、その前に予防接種を終了しておく必要がある。
一般に幼若乳幼児はワクチンの副作用にまぎらわしい偶発疾患が多いため予防接種はさけたい事情もあり、一方、麻しんの場合、母親よりの移行抗体によつて、一二月以下ではワクチンを接種しても、その免疫が不充分な場合がある。従つてわが国の現状では一八~三六月の間での接種が最も望ましい。しかし、明らかに麻しん感染の危険がある場合、一八月以前に接種しても差しつかえないが、この場合、一二月以前に接種した場合には(任意接種)、一八月以降にもう一度追加接種(定期接種)する必要がある。
(2) 接種時期
七~八月の夏期を避けて一年を通して接種する
注4) 本ワクチンは接種された小児の一部に一定の臨床反応を示すので(後述)、被接種者は健康状態にあることが一番のぞましい。夏季は小児の発熱し易い時期であるのでこれを避ける。また、麻しんの流行期(わが国では五~六月が最盛期である)に接種してもかまわないが、自然麻しんの同時感染がワクチンの臨床反応ととり違えられることがあるので注意する(同時感染で特に症状が重篤になることはない)。
(3) 接種量
○・五ml皮下に一回接種する。年齢によつて接種量を変える必要はない。
(4) 臨床反応
麻しんに対して免疫のない健康児に本ワクチンを接種すると、接種後七~一二日を中心にして五~一四日後に二〇~五〇%程度に三七・五℃以上、数%に三八・五℃以上の発熱をみ、その中一〇~二〇%の軽度の麻しん様発疹を伴うことがある。発熱時には咳、鼻汁が出て、食慾が減退するものもある。
これらの症状はいずれも一~三日で消失する。なお、このような症状があつても、ワクチンウイルスが他の感受性のあるものに伝播する恐れはない。
ワクチンをうけたものは、上述の症状のある時期は、激しい運動や外出、入浴などを避け、安静を保つて回復をまてばよい。一般にこの時期に特別の治療を必要としない。必要な解熱剤の使用は医師の指示による。
また、まれには熱性けいれんをおこすことがあり、きわめてまれに(一〇〇万接種あたり一人以下)脳炎の発生が報告されている。
3 ワクチン接種時の注意と禁忌について
(1) 接種時の注意
本ワクチンを行う前にあらかじめ被接種者又はその保護者から健康状態をきくと共に、予診に当つては、質問表(所定)を用いた問診のほか、原則として視診聴打診を行つて被接種者の健康状態をしらべ、次に述べる一般禁忌事項に該当しない場合にのみ接種を行う。この場合けいれんの症状を呈したことのある者には特に注意する。
また、接種前三月以内にガンマグロブリンの投与をうけたものは、ワクチンの効果が得られないおそれがあるので、接種を延期する。
なお、本ワクチン接種一月以内はツベルクリン反応が弱くなることがある。
接種を行う場合、予め被接種者又は保護者に対して、特に接種後五~一四日の間(主として七~一二日間)に、だるさ、不機嫌、発熱、発疹等を呈することのある旨(臨床反応参照)を知らせておく。
(2) 禁忌
次のいずれかに該当すると認められた場合接種を行つてはならない。
但し、被接種者が麻しんに感染するおそれがあり、かつ本ワクチンの接種により著しい障害をきたすおそれがないと認められた場合は接種を行うことができる。
1) 発熱している者又は著しい栄養障害者。
2) 心臓血管系疾患、腎臓疾患又は肝臓疾患にかかつている者で、当該疾患が急性期若くは増悪期又は活動期にあるもの。
3) 接種しようとする接種液の成分によりアレルギーを呈するおそれがあることが明らかな者。
4) 接種しようとする接種液により異常な副反応を呈したことがあることが明らかな者。
5) 接種前一年以内にけいれんの症状を呈したことがあることが明らかな者。
6) 妊娠していることが明らかな者。
7) 前記各号(1~6)のほか、他の生ワクチン(痘そう、ポリオ、風しんワクチン等)を接種した後、一月を経過していない者。
8) その他予防接種を行うことが不適当な状態にある者。
注5) 現行の麻しんワクチンは、ニワトリ胎児(胚)初代培養細胞でつくられているので、鶏卵、鶏肉に対してアレルギーを呈することが明らかなものが禁忌に該当するかが問題になるが、米国では、今までに鶏卵、鶏肉に対して異常体質が原因で本ワクチン接種後の異常反応を認めた報告はないという理由で、特に禁忌にする必要はないとしている。わが国でも今までにその例はない。
注6) ここで問題になるのは、ワクチン製造中に使用することが許可されている各種の抗生物質(カナマイシン、エリスロマイシン、ロイコロイシンなど-ワクチン製品に明記)に対する副反応である。ワクチン中に含まれる抗生物質の量はきわめて微量であるが、該当する抗生物質に過敏性を呈したことがあるものは注意を要する。
注7) 免疫不全状態にあるものは一般に生ワクチンの反応が強くなる恐れがあり、麻しんワクチンの場合もその禁忌の対象になる。基礎疾患として白血病その他の悪性腫瘍、明らかな先天性免疫不全症、また、ステロイド大量療法等をうけて免疫機能に異常をきたしているおそれのある患者等がこれに該当する。
4 ワクチンの効果
本ワクチンは一回の接種によつて終生の免疫ができる。
注8) 本ワクチンの免疫効果については、諸外国の成績及びわが国の成績でも、既に一〇年以上の追跡調査で自然麻しんとほぼ同様の免疫が成立することが証明されている。今までにワクチン接種者で麻しん罹患例は、接種されたワクチンの力価が充分でなかつた場合、被接種者が移行抗体を保有していて(一二月以下)ワクチン接種による免疫が充分成立しなかつた場合などで報告されているので、ワクチンの保存や接種年齢、ガンマグロブリン投与の既往歴等に注意が肝要である。
注9) 米国の報告では弱毒生麻しんワクチン接種は自然麻しんに比して亜急性硬化性全脳炎の発生する危険率は五分の一~一〇分の一とされている。