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○ホームレスの自立の支援等に関する基本方針
(令和五年七月三十一日)
(/厚生労働省/国土交通省/告示第一号)
ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(平成十四年法律第百五号)第八条第一項の規定に基づき、ホームレスの自立の支援等に関する基本方針を次のように定め、ホームレスの自立の支援等に関する基本方針(平成三十年厚生労働省・国土交通省告示第二号)は廃止する。
ホームレスの自立の支援等に関する基本方針
目次
第1 はじめに
第2 ホームレスに関する現状
1 ホームレスの現状
2 ホームレス自立支援施策の現状
第3 ホームレス自立支援施策の推進
1 基本的な考え方
2 各課題に対する取組方針
3 ホームレス数が少ない地方公共団体の各課題に対する取組方針
4 総合的かつ効果的な推進体制等
5 本基本方針のフォローアップ及び見直し
第4 都道府県等が策定する実施計画の作成指針
1 手続についての指針
2 実施計画に盛り込むべき施策についての指針
3 その他
第1 はじめに
ホームレスの自立の支援等に関する総合的な施策の推進は、平成14年8月に成立し、平成29年6月に期限が10年間延長されたホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(平成14年法律第105号。以下「法」という。)に基づき実施している。法においては、ホームレスの自立の支援等に関する施策の目標を明示するとともに、国の責務として当該目標に関する総合的な施策の策定及び実施を、地方公共団体の責務として当該目標に関する当該地方公共団体の実情に応じた施策の策定及び実施を位置付けている。国においては、ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)を踏まえ、平成15年7月、20年7月、25年7月及び30年7月にホームレスの自立の支援等に関する基本方針を策定してきた。地方公共団体においては、この基本方針等に即して、必要に応じ、ホームレスに関する問題の実情に応じた施策を実施するための計画(以下「実施計画」という。)を策定しホームレスの自立の支援等を行ってきたところである。
こうした中、路上等におけるホームレスの数については、これまでのホームレスの自立の支援等に関する総合的な施策の推進等により、大幅に減少してきている。一方で、令和3年11月に実施したホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)によれば、ホームレスの高齢化や路上(野宿)生活期間の長期化が一層進んでいる傾向にあることが認められるとともに、定まった住居を喪失し簡易宿泊所や終夜営業の店舗等で寝泊まりする等の不安定な居住環境にあり、路上と屋根のある場所とを行き来している層の存在も見受けられる。
また、平成27年4月に、生活保護に至る前の自立支援策の強化を図るため、生活困窮者に対する包括的かつ早期の支援を実施することを目的とする生活困窮者自立支援法(平成25年法律第105号。以下「困窮者支援法」という。)が施行された。
ホームレスの自立に必要な就業の機会の確保等の総合的な支援については、引き続き法に基づき実施することとした上で、ホームレス自立支援施策のうち福祉の観点から、困窮者支援法第3条第2項に規定する生活困窮者自立相談支援事業(以下「自立相談支援事業」という。)、同条第3項に規定する生活困窮者住居確保給付金(以下「住居確保給付金」という。)の支給、同条第6項に規定する生活困窮者居住支援事業(以下「居住支援事業」という。)等を実施している。
困窮者支援法は、生活保護法(昭和25年法律第144号)に基づく生活保護の受給者以外に対して包括的かつ早期の支援を提供するものであることから、ホームレスやホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者(以下「ホームレス等」という。)も含めて広くその対象となるものである。生活保護が必要な者には、確実に生活保護を適用しつつ、生活保護の受給により居住場所等の確保に至るまでの間、又は就労等による自立や地域において日常生活が継続可能となるまでの間は、居住支援事業による支援をはじめとした、就労や心身の状況、地域社会からの孤立の状況などに応じた包括的かつ早期の支援が必要である。
本基本方針は、法第8条第1項の規定に基づき、高齢化や路上(野宿)生活期間の長期化等のホームレスの状況の変化、ホームレス自立支援施策の実施状況等を踏まえつつ、困窮者支援法等に基づく支援が、今後もよりその効果を発揮するために、ホームレスの自立の支援等に関する国としての基本的な方針を国民、地方公共団体及び関係団体に対し明示するものである。また、地方公共団体において実施計画を策定する際の指針を示すこと等により、ホームレスの自立の支援等に関する施策が総合的かつ計画的に実施され、もってホームレス等の自立を積極的に促すとともに、ホームレスとなることを防止するための生活上の支援を推進し、地域社会におけるホームレス等に関する問題の解決が図られることを目指すものである。
第2 ホームレスに関する現状
1 ホームレスの現状
国は全国のホームレスの数及び生活実態を把握するため、地方公共団体の協力を得て、ホームレスの数については、平成15年より年1回、全ての市町村(特別区を含む。以下同じ。)を対象にした概数調査(以下単に「概数調査」という。)を、生活実態については、平成15年、19年、24年、28年及び令和3年の概ね5年ごとに、抽出による全国調査(以下「生活実態調査」という。)を、それぞれ実施している。
(1) ホームレスの数
ホームレスの数については、令和5年1月時点で3,065人(令和5年概数調査)となっており、平成15年1月時点の25,296人(平成15年概数調査)と比べて、22,231人(87.9%)減少している。ホームレスの数を都道府県別にみると、大阪府で888人(平成15年概数調査においては7,757人)、次いで東京都で661人(同6,361人)となっており、この両都府で全国の約半数を占めている。さらに、市区町村別では、全1,741市区町村のうち234市区町村でホームレスが確認され、このうち、ホームレスの数が500人以上であったのは1自治体(平成30年概数調査においては1自治体)、100人以上であったのは4自治体(同7自治体)であるのに対し、10人未満であったのは189自治体(同228自治体)と、全体の約5分の4を占めている。
(2) ホームレスの生活実態
ホームレスの生活実態については、令和3年生活実態調査として、東京都特別区、政令指定都市及び令和3年概数調査において20人以上のホームレスが確認された市において、全体で約1,300人を対象に個別面接調査を行った。
① 年齢
ホームレスの平均年齢は63.6歳(平成28年生活実態調査では、調査客体数が異なるものの、61.5歳)であり、年齢分布については65歳以上が54.4%(同42.8%)となっており、ホームレスの高齢化がより一層進んでいる。
② 路上(野宿)生活の状況
(ア) 寝場所については、定まっている者が79.5%であり、このうち、「公園」が最も多く27.4%、次いで「河川」が24.8%となっている。これを路上(野宿)生活期間別にみると、路上(野宿)生活期間が長いほど一定の場所に定まっている割合が高くなる傾向にある。また、具体的な寝場所としては、公園が全般的に多いが、1年以上の者では河川の割合が高くなる傾向にある。
(イ) 路上(野宿)生活期間については、3年未満が31.7%であるのに対し、5年以上は59.1%(10年以上は40.0%)となっている。これを年齢階層別にみると、年齢が上がるに伴い路上(野宿)生活期間が長くなる傾向にあり、65歳以上では10年以上の者が49.4%となっている。
今回の調査における路上(野宿)生活の継続状況については、ずっと路上(野宿)生活をしていた者の割合が64.4%となっている一方で、路上と屋根のある場所との行き来を繰り返している層も一定数存在していることが見受けられる。
(ウ) 仕事の状況については、全体の48.9%が仕事をしており、その内容は「廃品回収」が66.4%を占めている。仕事による平均的な収入月額については、5万円以上10万円未満が30.7%と最も多く、次いで3万円以上5万円未満が27.5%となっており、平均収入月額は約5.8万円となっている。これを年齢階層別にみると、65歳以上の者であっても49.9%が収入のある仕事をしている。年齢が上がるに伴い路上(野宿)生活期間が長くなる傾向の背景には、このように、路上等で仕事をし、一定の収入を得ながら生活ができていること、一定の場所に決まって起居していることで生活が一定程度安定していること等もあるものと考えられる。
③ 路上(野宿)生活までのいきさつ
路上(野宿)生活の直前の職業については、建設業関係の仕事が36.3%、製造業関係の仕事が12.9%を占めており、雇用形態は、「常勤職員・従業員(正社員)」が45.8%と大きな割合を占め、「臨時・パート・アルバイト」が23.2%、「日雇」が20.7%となっている。
また、路上(野宿)生活となった理由としては、「仕事が減った」が24.5%、「倒産・失業」が22.9%、「人間関係がうまくいかなくて、仕事を辞めた」が18.9%となっている。これを年齢階層別にみると、若年層(45歳未満の者をいう。以下同じ。)においては、仕事関係以外の理由として「家庭関係の悪化」が16.4%(全年齢階層では7.9%)、「家族との離別・死別」が9.8%(全年齢階層では8.5%)とやや高くなっており、家庭内の人間関係等の多様な問題が重なり合っていることが特徴としてあげられる。
④ 健康状態
現在の健康状態については、「あまりよくない・よくない」と答えた者が34.9%であり、このうち治療等を受けていない者が63.5%となっている。具体的な自覚症状については、「歯が悪い」が25.7%、「腰痛」が24.8%となっている。また、「よく眠れない日が続いた」が16.2%、「2週間以上毎日のように落ち込んでいた時期があった」が6.6%となっており、うつ病等の精神疾患を有すると考えられる者も一定程度みられた。
⑤ 福祉制度等の利用状況
(ア) 福祉制度の利用状況については、巡回相談員に会ったことがあり相談をしたことがある者は29.5%、会ったことはあるが相談したことはない者は49.4%となっている。
また、緊急的な一時宿泊場所である生活困窮者一時宿泊施設(以下「シェルター」という。)や一時生活支援を知っており利用したことがある者は21.9%であり、知っているが利用したことがない者は47.3%となっている。また、生活困窮者・ホームレス自立支援センター(以下「自立支援センター」という。)を知っており利用したことがある者は13.3%であり、知っているが利用したことがない者は55.5%となっている。なお、路上生活期間が短いほど、また、30歳以上では年齢階層が低いほど、これらの福祉制度を利用したことがある者の割合は高くなる傾向がある。
また、過去に、自立支援センターの利用経験がある者の退所理由をみると、就労退所が19.0%(「会社の寮、住み込み等による就労退所」及び「アパートを確保しての就労退所」がそれぞれ9.5%)、生活保護の適用による入院、居宅の確保による退所が14.9%となっている。
さらに、就労退所した後に再び路上(野宿)生活に戻った理由については、「仕事の契約期間が満了した」、「周囲とのトラブルや仕事になじめない」など、多面的な要因により路上に戻っている。
(イ) 民間支援団体による支援の利用経験については、「炊きだし」が最も多く49.1%を占め、次いで「巡回・見守り」が37.3%となっており、その情報入手経路は、「口コミ」が最も多く41.0%となっている。
⑥ 今後希望する生活について
今後希望する生活としては、「今のままでいい(路上(野宿)生活)」が最も多く40.9%となっており、次いで「アパートに住み、就職して自活したい」が17.5%、「アパートで福祉の支援を受けながら、軽い仕事をみつけたい」が12.0%となっている。
年齢層が低いほど「アパートに住み、就職して自活したい」の割合が高くなる傾向があるが、年齢層が高いほど「今のままでいい(路上(野宿)生活)」の割合が高くなる傾向にあり、65歳以上の者ではその割合は50.5%となっている。また、路上(野宿)生活期間別でみると、路上生活が長くなるほど「今のままでいい(路上(野宿)生活)」と回答する者の割合が高くなる傾向にあり、3年以上の者ではその割合は52.5%となっている。
「今のままでいい(路上(野宿)生活)」とする理由については、「今の場所になじんでいる」が29.0%、「アルミ缶、雑誌集め等の仕事があるので暮らしていける」が24.5%となっている。
また、自立支援センターやシェルターの利用経験がある者は、住居と仕事を確保し自立を希望する割合が高い傾向にあるのに対し、利用経験がない者は、現在の路上(野宿)生活を維持することを希望する傾向が高い。
⑦ 生活歴
家族との連絡状況については、家族・親族がいる者は67.4%を占めているものの、このうち、令和2年11月から令和3年10月までの1年間に家族・親族との連絡が途絶えている者は78.9%となっている。
また、公的年金の保険料を納付していたことがある者は62.2%であり、金融機関等に借金がある者は13.2%であった。
⑧ 行政や民間団体への要望及び意見
行政や民間団体への要望及び意見としては、住居関連が30.8%と最も多く、次いでその他の生活関連が22.5%となっている。
⑨ 新型コロナウイルス感染症の影響
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により路上(野宿)生活を行うようになった割合は調査対象(令和3年生活実態調査において路上(野宿)生活期間が3年未満の者に限る。)の6.3%であった。このうち、43.2%は仕事が減ったことが、21.6%は倒産や失業が原因となっていた。
2 ホームレス自立支援施策の現状
ホームレス自立支援施策については、公共職業安定所による職業相談や求人開拓、自立相談支援機関(自立相談支援事業を実施する者をいう。以下同じ。)や居住支援事業を実施する事業者による就労支援や健康相談、保健所等の関係機関と連携した医療の確保、生活保護法による保護等の一般施策を実施している。このほか、特にホームレス等を対象とした施策として、就労の観点からは、一定期間試行的に民間企業において雇用するトライアル雇用事業、地方公共団体や民間団体等から構成される協議会を活用して就業の機会の確保を図るホームレス就業支援事業及び技能の習得や資格の取得等を目的とした日雇労働者等技能講習事業を実施している。
第3 ホームレス自立支援施策の推進
1 基本的な考え方
(1) 最近のホームレスに関する傾向・動向
ホームレスになった要因としては、倒産・失業等の仕事に起因するものや、病気やけが、人間関係、家庭内の問題等様々なものが複合的に重なり合っており、また、年齢層によってもその傾向は異なっている。この点、令和3年生活実態調査においては、平成28年生活実態調査と同様に、ホームレスの高齢化や路上(野宿)生活期間の長期化の傾向がより一層顕著となるとともに、路上(野宿)生活を脱却した後、再び路上(野宿)生活に戻ってしまうホームレスの存在や、若年層については、路上と終夜営業の店舗等の屋根のある場所との行き来の中で、路上(野宿)生活の期間が短期間になりやすいといった傾向が確認されたところである。
(2) 総合的なホームレス自立支援施策の推進
このようなホームレスの実態を十分に踏まえるとともに、今日の産業構造や雇用環境等の社会情勢の変化を捉えながら、総合的かつきめ細かなホームレス自立支援施策を講ずる必要がある。
特に、ホームレス自立支援施策は、ホームレスの就労の状況、心身の状況、地域社会からの孤立の状況等に応じ、自らの意思で安定した生活を営めるように支援することが基本であり、このためには、就業の機会や生活の基盤となる安定した居住の場所が確保され、地域で自立した日常生活が継続可能となる環境づくりが重要である。
そのほか、保健医療の確保、生活に関する相談及び指導等の総合的な自立支援施策を講ずる必要がある。
また、ホームレスに加え、路上と終夜営業の店舗や知人宅等の屋根のある場所とを行き来する不安定な居住の状況にある者についても、困窮者支援法に基づく施策等により確実に支援する必要がある。
(3) 地方公共団体におけるホームレス自立支援施策の推進
地域ごとのホームレスの数の違い等、ホームレス問題は地方公共団体ごとにその状況が大きく異なっており、このような地域の状況を踏まえた施策の推進が必要である。具体的には、ホームレスが多い地方公共団体においては、2の取組方針に掲げる施策のうち地域の実情に応じて必要なものを積極的かつ総合的に実施し、また、ホームレスが少ない地方公共団体においては、2の取組方針を参考としつつ、3の取組方針を踏まえ、広域的な施策の実施や既存施策の活用等により対応する。国は、2の取組方針に掲げる施策に積極的に取り組むとともに、地域の実情を踏まえつつ、ホームレスが少ない地方公共団体も積極的にホームレス自立支援施策に取り組めるよう、その事業の推進に努める。
(4) 困窮者支援法等によるホームレス自立支援施策の更なる推進
困窮者支援法は、ホームレス等も含む生活困窮者を対象に、全ての福祉事務所設置自治体が必ず実施することとされている自立相談支援事業を中心として、生活保護法、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(平成19年法律第112号。以下「住宅セーフティネット法」という。)等に基づく関連制度と連携し包括的な支援を恒久的に提供するものである。
平成29年6月に法が延長された趣旨に鑑み、今後もホームレス自立支援施策に着実に取り組む観点から、各地域のホームレス等の実情を踏まえ、居住支援事業にも積極的に取り組むとともに、住宅セーフティネット法第51条に規定する住宅確保要配慮者居住支援協議会(以下「居住支援協議会」という。)を活用した関係者間の連携を図ることによって、これまで以上に効果を発揮することが求められる。
(5) 各事業を提供する施設の概要
① 自立支援センター
自立支援センターは、法の趣旨に基づき、自立に向けた意欲を喚起させるとともに、職業相談等を行うことにより、就労による自立を支援することを目的とした施設である。困窮者支援法に基づき、ホームレスを含め生活困窮者を広く対象とした上で、生活困窮者の相談に応じ、助言等を行うとともに、個々人の状態にあった計画を作成し、自立相談支援事業と居住支援事業とを一体的に提供することを目的として運営されるものである。
② シェルター
シェルターは、法の趣旨に基づき、緊急一時的な宿泊場所を提供する施設である。困窮者支援法に基づき、一定の住居を持たない生活困窮者に対し、緊急一時的な宿泊場所として、施設を設置又は旅館やアパート等の一室を借り上げて供与する形で、居住支援事業のうち困窮者支援法第3条第6項第1号に掲げる事業(以下「シェルター事業」という。)を提供することを目的として運営されるものである。
2 各課題に対する取組方針
(1) ホームレスの就業の機会の確保(法第8条第2項第1号関係)
ホームレスの就業による自立を図るためには、ホームレス自らの意思による自立を基本として、ホームレスの個々の就労の状況、心身の状況、地域社会からの孤立の状況等に応じた就業ニーズや職業能力を踏まえ、就業の機会の確保を図ることや、安定した雇用の場の確保に努めることなどが重要である。
このため、就業による自立の意思があるホームレスに対して、国及び地方公共団体は、以下のとおり、ホームレスの自立の支援等を行っている民間団体と連携しつつ、求人の確保や職業相談の実施、職業能力開発の支援等を行うとともに、地域の実情に応じた施策を講じていくことが必要である。
① ホームレスの雇用の促進を図るためには、ホームレスに関する問題について事業主等の理解を深める必要があり、事業主等に対する啓発活動を行う。
② ホームレスの就業の機会を確保するためには、ホームレスの個々の就業ニーズや職業能力に応じた求人開拓や求人情報の収集等が重要であることから、ホームレスの就職に結びつく可能性の高い職種の求人開拓や求人情報等を収集するとともに、民間団体とも連携を図り、それらの情報についてホームレスへの提供に努める。
③ ホームレスの就業ニーズを的確に捉えることができるように、自立支援センター等において、年齢や路上(野宿)生活期間等の特性を踏まえ、キャリアコンサルティングやきめ細かな職業相談等を実施する。
また、ホームレスの就職後の職場への定着を図るため、民間団体との連携を進め、必要に応じて、職場定着指導等の援助を行う。
④ ホームレスの早期就職の実現や雇用機会の創出を図るため、事業所での一定期間のトライアル雇用事業の実施により、ホームレスの新たな職場への円滑な適応を促進する。
⑤ ホームレスの就業の機会を確保するためには、地方公共団体や地域の民間団体等が相互に密接な連携を図りつつ対策を講じていくことが重要であることから、これらの団体等で構成される協議会において、ホームレス就業支援事業として、就業支援、就業機会確保支援、職場体験講習、就職支援セミナー等を総合的に実施する。
⑥ ホームレスの就業の可能性を高めるためには、求人側のニーズやホームレスの就業ニーズ等に応じた職業能力の開発及び向上を図ることが重要であることから、技能の習得や資格の取得等により就業機会を増大させ、安定雇用に資することを目的とした技能講習や職業訓練の実施により、ホームレスの職業能力の開発及び向上を図る。
⑦ 直ちに常用雇用による自立が困難なホームレスに対しては、国及び地方公共団体とNPO、社会福祉法人、消費生活協同組合、労働者協同組合等の民間団体が連携しながら、段階的に就労支援を行うことが重要である。例えば、困窮者支援法第3条第4項に規定する生活困窮者就労準備支援事業(以下「就労準備支援事業」という。)を通じて、社会生活に必要な生活習慣を身につけるための支援を含め、一般就労のための準備としての基礎能力の形成に向けた支援を計画的かつ一貫して行うとともに、困窮者支援法第16条第1項に規定する生活困窮者就労訓練事業(以下「就労訓練事業」という。)の利用を促し、一般就労をする前にまずは柔軟な働き方をする必要がある者に対して、就労の機会を提供し、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等を行う。
(2) 安定した居住の場所の確保(法第8条第2項第1号関係)
ホームレス自立支援施策は、ホームレスの就労の状況、心身の状況、地域社会からの孤立の状況等に応じ、自らの意思で自立して生活できるように支援することが基本であり、(5)①に掲げるホームレス自立支援事業を通じた就労機会の確保等に努めるとともに、安定した居住の場所を確保するための入居の支援等が必要である。
このため、国、地方公共団体及び住宅セーフティネット法第40条に規定する住宅確保要配慮者居住支援法人(以下「居住支援法人」という。)等の民間団体等が連携した上で、以下のとおり、地域の実情を踏まえつつ、公営住宅及び民間賃貸住宅を通じた施策を講ずることが重要である。
① 高齢層の単身者が多いホームレスの実態に鑑み、ホームレス自立支援事業等を通じて就労機会を確保するとともに、地域の住宅事情等を踏まえつつ、公営住宅の事業主体である地方公共団体において、優先入居の制度の活用等に配慮する。入居に当たっては、保証人や緊急時の連絡先が確保されないことにより、公営住宅への入居に支障が生じることがないよう配慮する。また、地方公共団体において、居住支援協議会の枠組みも活用しつつ、福祉部局と住宅部局との連携を強化する。
② ホームレス等が、地域における低廉な家賃の民間賃貸住宅に関する情報や、民間賃貸住宅への入居に際して必要となる保証人が確保されない場合において民間の保証会社等に関する情報等を得られるよう、居住支援協議会の設立の促進等を通じ、民間賃貸住宅に関わる団体や事業者と自立支援センター、その他福祉部局との連携を推進する。
③ ホームレス等のうち、生活困窮者自立支援法施行規則(平成27年厚生労働省令第16号)に定める住居確保給付金の対象者要件に該当する者に対しては、必要に応じて居住支援事業による支援を提供しつつ、速やかに住居確保給付金の支給を行う。また、路上(野宿)生活になることを防止する観点から、離職等により住居を失うおそれのある生活困窮者に対しても、同様に速やかな支給を行うよう努める。
④ シェルター等を利用していた者や、居住に困難を抱える者であって、地域社会から孤立した状態にある者が日常生活を営むためには、一定期間、訪問による見守りや生活支援等が必要である。このため、困窮者支援法第3条第6項第2号に規定する事業(以下「地域居住支援事業」という。)や居住支援法人等による入居相談・援助や生活支援等、住居の確保と地域生活の継続に必要な支援を実施する。
あわせて、地域居住支援事業については、居住支援事業のうちシェルター事業の実施を前提としていたが、令和5年10月より単独での実施を可能とする運用見直しを行ったところであり、引き続き居住支援の強化を図る。
(3) 保健及び医療の確保(法第8条第2項第1号関係)
ホームレスに対する保健医療の確保については、個々のホームレスのニーズに応じた健康相談や保健指導等による健康対策、結核検診等の医療対策を推進していくとともに、ホームレスの衛生状況を改善していく必要がある。このため、都道府県と市町村が連携し、ホームレスの健康状態の把握や清潔な衛生状態の保持に努めるとともに、疾病の予防、検査、治療等を包括的に行うことができる保健医療及び福祉の連携・協力体制を強化することが重要である。
また、ホームレスの高齢化や路上(野宿)生活期間の長期化に伴い、一定程度存在する健康状態の良くない者が、必要な医療サービスを受けることができるよう、路上やシェルター等において、保健師、看護師、精神保健福祉士等の保健医療職による医療的視点に基づいたきめ細かな相談や支援を実施する。
さらに、ホームレスについては、野宿という過酷な生活により結核を発症する者も少なくない。結核のり患率の高い地域等、特に対策を必要とする地域において、保健所や医療機関、福祉事務所、自立相談支援機関、居住支援事業を実施する事業者等が密接な連携を図り、以下のような効果的な対策を行うことが必要である。
① 自立相談支援機関は、ホームレスの健康対策の推進を図るため、窓口や巡回による相談を通じて、保健所等と連携を図りながら医療機関への受診につなげる。
② シェルター事業を実施する事業者は、健康相談等を行うとともに、必要に応じ、保健所等の関係機関と連携し、ホームレスに対し、健康相談等の医療的な支援を行う。
③ 保健所等は、結核にり患しているホームレスに対し、服薬や医療の中断等の不完全な治療による結核再発や薬剤耐性化を防ぐため、訪問による対面服薬指導等を実施する。
④ ホームレスに対する医療の確保を図るため、医師法(昭和23年法律第201号)第19条第1項及び歯科医師法(昭和23年法律第202号)第19条第1項に規定する医師及び歯科医師の診療に応ずる義務について改めて周知に努め、また、無料低額診療事業(社会福祉法(昭和26年法律第45号)第2条第3項第9号に規定する事業をいう。以下同じ。)を行う施設の積極的な活用を図るとともに、病気等により急迫した状態にある者及び要保護者が医療機関に緊急搬送された場合については、生活保護の適用を行う。
(4) 生活に関する相談及び指導(法第8条第2項第1号関係)
ホームレスに対する生活相談や生活指導を効果的に進めるためには、個々のホームレスのニーズに応じた対応が必要であり、このようなニーズに的確に応えられるよう、以下のような関係機関の相互連携を強化した総合的な相談体制の確立が必要である。
① 福祉事務所及び自立相談支援機関を中心として、各種相談支援機関、救護施設(生活保護法第38条第2項に規定する救護施設をいう。)等の社会福祉施設が相互に連携して総合的な相談及び指導体制を確立する。
その際、それぞれの相談機能に応じて必要な人材を確保するとともに、研修等により職員の資質向上を図る。
② ホームレスは、路上(野宿)生活により健康状態が良くないケースが多く、身体面はもちろん、精神面においても対応が必要な場合がある。このため、健康相談として、身体面のケアだけでなく、特にホームレスに対する心のケアについても精神保健福祉センターや保健所等と連携して行う。また、巡回相談の実施に当たっては、必要に応じて精神科医や保健師等の専門職の活用を検討する。
③ 各地方公共団体は、NPO、ボランティア団体等の民間団体をはじめ、民生委員、社会福祉協議会、社会福祉士会及び地域住民との連携による積極的な相談事業を実施し、具体的な相談内容や当該ホームレスの状況に応じて、福祉事務所、自立相談支援機関及び公共職業安定所等の関係機関への相談につなげる。
また、洪水等の災害時においては、特にホームレスに被害が及ぶおそれがあることから、平時から、公共の用に供する施設を管理する者との連携を図る。
④ 自立相談支援機関等の相談を受けた機関は、生活相談だけでなく、相談結果に応じて、シェルターの利用案内、自立支援センターへの入所指導、その他福祉及び保健医療施策の活用に関する助言、多重債務問題等の専門的な知識が必要な事例に関して相談対応等を実施する日本司法支援センター(総合法律支援法(平成16年法律第74号)第13条の日本司法支援センターをいう。以下「法テラス」という。)、困窮者支援法第3条第5項に規定する生活困窮者家計改善支援事業を実施する機関等の紹介等、具体的な指導を行うとともに、関係機関に対し連絡を行う。
(5) ホームレス自立支援事業その他のホームレスの個々の事情に対応した自立を総合的に支援する事業(法第8条第2項第2号関係)
① ホームレス自立支援事業
ホームレス自立支援事業は、自立相談支援事業、居住支援事業等を一体的に実施し、ホームレスに対し、宿所及び食事の提供、健康診断、生活に関する相談及び指導等を行い、自立に向けた意欲を喚起させるとともに、職業相談等を行うことにより、ホームレスの就労による自立を支援することを目的としており、以下のような支援を行う必要がある。
(ア) 自立支援センターの入所者に対し、宿所及び食事の提供など、日常生活に必要なサービスを提供するとともに、定期的な健康診断を行う等必要な保健医療の確保を行う。
(イ) 個々のホームレスの状況に応じた自立支援計画の策定等を行い、また、公共職業安定所との密接な連携の下で職業相談を行う等、積極的な就労支援を行う。
(ウ) 必要に応じて、社会生活に必要な生活習慣を身につけ、一般就労に向けた準備を整えることができるよう、就労準備支援事業を行う。このほか、住民登録、職業あっせん、求人開拓等の就労支援、住居に係る保証人の確保、住宅情報の提供その他自立阻害要因を取り除くための指導援助を行う。
(エ) 自立支援センターの退所者、特にアパート確保による就労退所者に対しては、再度路上生活になることを防ぐため、個々の状況に応じた多面的なアフターケアに十分配慮するとともに、就労による退所後においても、必要に応じて自立支援センターで実施している研修等を利用できるよう配慮する。
また、自立支援センターの利用期間中に就労できなかった者に対する必要な支援の実施にも努めるとともに、シェルター等を利用していた者や、居住に困難を抱える者であって、地域社会から孤立した状態にあるものが日常生活を営むためには、一定期間、訪問による見守り、生活支援等が必要である。このため、地域居住支援事業や居住支援法人等による入居相談・援助や生活支援等、住居の確保と地域生活の継続に必要な支援を実施する。
(オ) ホームレス自立支援事業については、市町村だけでなく、都道府県も実施主体としていることから、広域的な事業の展開を図る。また、事業運営については、社会福祉法人への委託を行うなど、民間団体の活用を図る。
(カ) 国は、ホームレスの自立支援としての効果や利用者への処遇の確保に十分配慮しつつ、地方公共団体が取り組みやすいような事業の推進に努める。
(キ) 自立支援センター等の設置に当たっては、地域住民の理解を得ることが必要であり、地域住民との調整に十分配慮するとともに、既存の公共施設や民間賃貸住宅等の社会資源を有効に活用することを検討する。
② 個々の事情に対応した自立を総合的に支援する事業
ホームレスになった要因としては、倒産・失業等の仕事に起因するものや、病気やけが、人間関係、家庭内の問題等様々なものが複合的に重なり合っており、また、社会生活への不適応、借金による生活破たん、アルコール依存症等の個人的要因も付加されて複雑な問題を抱えているケースも多い。このため、ホームレスの個人的要因を十分に把握しながら、ホームレス等の状況や年齢に応じ、以下のような効果的な支援を実施する必要がある。その際、その特性により、社会的な偏見や差別を受け、弱い立場に置かれやすい者に対しては、特に配慮を行うものとする。
(ア) 就労する意欲はあるが仕事が無く失業状態にある者については、就業の機会の確保が必要であり、職業相談、求人開拓等の既存施策を進めるなど、各種の就業対策を実施する。また、直ちに常用雇用による自立が困難なホームレス等に対しては、地方公共団体においてNPO等と連携しながら、就労準備支援事業や就労訓練事業の利用機会の提供や、多種多様な職種の開拓等に関する情報収集及び情報提供等を行う。
さらに、自立支援センターの入所者に対しては、職業相談等により就労による自立を図りながら、それ以外の者に対しては、自立相談支援機関による相談支援により雇用関連施策と福祉関連施策の有機的な連携を図りながら、きめ細かな自立支援を実施する。
(イ) 医療や介護、福祉等の援助が必要な者については、福祉事務所における各種相談事業等の積極的な活用や、必要に応じた介護保険サービス等の提供を行うとともに、無料低額診療事業を行う施設の積極的な活用等の対応の強化を図る。このうち、疾病や高齢により自立能力に乏しい者に対しては、医療機関や高齢者施設等の社会福祉施設への入所等の施策を活用することによる対応を図る。
(ウ) 路上(野宿)生活期間が長期間に及んでいる者に対しては、粘り強い相談活動を通じ信頼関係の構築を図り、必要な支援が利用できるよう努める。
なお、一度ホームレスになり、その期間が長期化した場合、脱却が難しくなるという実態があることを考慮して、できる限り路上(野宿)生活の初期の段階で、巡回相談により自立支援につながるように努めることが必要である。また、ホームレスの高齢化や路上(野宿)生活期間の長期化に伴い、一定程度存在する健康状態の良くない者が、必要な医療サービスを受けることができるよう、路上やシェルター等において、保健師、看護師、精神保健福祉士等の保健医療職による医療的視点に基づいたきめ細かな相談や支援を積極的に実施する。
(エ) 若年層のホームレスに対する支援については、近年の雇用環境の変化を受けて、直ちに一般就労が難しい者に対しては、就労訓練事業の利用を促すとともに、NPO等と連携しながら、就労訓練事業の場の推進・充実を図る。
(オ) 女性のホームレス等に対しては、性別に配慮したきめ細かな自立支援を行う。また、必要に応じて、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(令和4年法律第52号)第9条第1項に規定する女性相談支援センターや同法第12条第1項に規定する女性自立支援施設等の関係施設とも十分連携する。
(カ) 性的マイノリティのホームレス等に対しては、相談支援を行う中で、個々の事情について配慮を行うものとする。
(キ) 配偶者等からの暴力により、ホームレスとなることを余儀なくされた者については、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)第3条第1項に規定する配偶者暴力相談支援センター等の関係機関と連携し、当面の一時的な居住の場所の確保や相談支援等の必要な支援を行う。
(ク) 債務や滞納等を抱えているホームレス等については、家計の視点からの専門的な情報提供や助言、債務整理等に関する支援(法テラスへの同行支援等)等を行う。
(ケ) 上記以外にも、ホームレス等は様々な個人的要因が複合的に絡み合った問題を抱えているため、個々のケースごとに関係機関との密接な連携の下、柔軟に対応する。
(6) ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者が多数存在する地域を中心として行われるこれらの者に対する生活上の支援(法第8条第2項第3号関係)
ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者としては、一般的には、現に失業状態にある者や日雇労働等の不安定な就労関係にある者であって、定まった住居を失い、簡易宿泊所や終夜営業店舗に寝泊まりする等の不安定な居住環境にある者が想定される。
これらの者に対しては、ホームレスに対する支援と同様に、生活歴・人物像を把握し、性格・特性の理解に努め、それに応じた丁寧な相談の上、就業の機会の確保や雇用の安定化を図ることが必要であり、また、居住支援事業による当面の一時的な居住の場所の確保や安定した住居の確保のための相談支援など、路上(野宿)生活にならないような施策を実施することが必要である。
① ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者が多数存在する地域において、それらの者がホームレスとならないよう、国及び地方公共団体は相互の連携を図り、年齢や路上(野宿)生活期間等の特性を踏まえ、キャリアコンサルティングやきめ細かな職業相談等の充実強化によって、就業機会の確保や雇用の安定化を図る。
② ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者の就業の可能性を高めるため、技能講習により、技術革新に対応した新たな技能や複合的な技能を付与する。
また、再就職の実現や雇用機会の創出を図るため、事業所での一定期間のトライアル雇用事業を実施するほか、就業機会の確保を図るため、ホームレス就業支援事業を実施する。
③ 雇用機会の減少に伴う収入の減少により、簡易宿泊所等での生活が困難な者が路上(野宿)生活になることもあるため、シェルター事業等による当面の一時的な居住の場所の確保を図る。
④ ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者に対しても、自立相談支援機関等と関係団体が連携しながら、丁寧な巡回相談支援等を実施するとともに、ホームレス就業支援事業等による相談支援を実施することにより、具体的な相談内容に応じて福祉事務所や公共職業安定所等の関係機関への相談につなげ、路上(野宿)生活になることのないように配慮する。
⑤ ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者に対して、路上(野宿)生活になることのないよう、地域居住支援事業や居住支援法人等による入居相談・援助や生活支援等、住居の確保と地域生活の継続に必要な支援を実施する。
(7) ホームレスに対し緊急に行うべき援助及び生活保護法による保護の実施(法第8条第2項第4号関係)
① ホームレスに対し緊急に行うべき援助
ホームレスの中には、長期の路上(野宿)生活により、栄養状態や健康状態が良くない者が存在し、このような者に対しては、医療機関への入院等の対応を緊急に講ずることが必要となってくる。
(ア) 病気等により急迫した状態にある者及び要保護者が医療機関に緊急搬送された場合について、生活保護による適切な保護に努める。
福祉事務所は、治療後再び路上(野宿)生活に戻ることのないよう、関係機関と連携して、自立を総合的に支援する。
(イ) 居所が緊急に必要なホームレスに対しては、シェルター事業による支援を行うとともに、日常生活支援住居施設(生活保護法第30条第1項ただし書に規定するものをいう。以下同じ。)、無料低額宿泊事業(社会福祉法第2条第3項第8号に規定する事業をいう。以下同じ。)を行う施設等を活用して適切な支援を行う。
(ウ) 福祉事務所、自立相談支援機関及び各種機関における各種相談事業を通じて、緊急的な援助を必要としているホームレスの早期発見に努めるとともに、発見した場合には、関係機関等に速やかに連絡する等、早急かつ適切な対応を講ずる。
② 生活保護法による保護の実施
ホームレスに対する生活保護の適用については、一般の者と同様であり、単にホームレスであることをもって当然に保護の対象となるものではなく、また、居住の場所がないことや稼働能力があることのみをもって保護の要件に欠けるということはない。このような点を踏まえ、資産、稼働能力や他の諸施策等あらゆるものを活用してもなお最低限度の生活が維持できない者について、最低限度の生活を保障するとともに、自立に向けて必要な保護を実施する。
この際、福祉事務所においては、以下の点に留意し、ホームレスの状況に応じた保護を実施する。
(ア) ホームレスの抱える問題(精神的・身体的状況、日常生活管理能力、金銭管理能力、稼働能力等)を十分に把握した上で、自立に向けての指導援助の必要性を考慮し、適切な保護を実施する。
(イ) ホームレスの状況(日常生活管理能力、金銭管理能力等)からみて、直ちに居宅生活を送ることが困難な者については、保護施設や、日常生活支援住居施設、無料低額宿泊事業を行う施設等において保護を行う。この場合、関係機関と連携を図り、居宅生活へ円滑に移行するための支援体制を十分に確保し、就業の機会の確保、療養指導、家計管理等の必要な支援を行う。
(ウ) 居宅生活を送ることが可能であると認められる者については、当該者の状況に応じ必要な保護を行う。この場合、関係機関と連携して、再びホームレスとなることを防止し居宅生活を継続するための支援や、居宅における自立した日常生活の実現に向けた就業の機会の確保等の必要な支援を行う。
(8) ホームレスの人権の擁護(法第8条第2項第4号関係)
基本的人権の尊重は、日本国憲法の柱であり、民主主義国家の基本でもある。ホームレスの人権の擁護については、ホームレス及び近隣住民の双方の人権に配慮しつつ、以下の取組により推進することが必要である。
① ホームレスに対する偏見や差別的意識を解消し、人権尊重思想の普及高揚を図るための啓発広報活動を実施する。
② 人権相談等を通じて、ホームレスに関し、通行人からの暴力、近隣住民からの嫌がらせ等の事案を認知した場合には、関係機関と連携・協力して当該事案に即した適切な解決を図る。
③ シェルター事業等の実施により、ホームレスが利用する施設において、利用者の人権の尊重と尊厳の確保に十分配慮するよう努める。
(9) 地域における生活環境の改善(法第8条第2項第4号関係)
都市公園その他の公共の用に供する施設を管理する者は、当該施設をホームレスが起居の場所とすることによりその適正な利用が妨げられているときは、ホームレスの人権にも配慮しながら、当該施設の適正な利用を確保するため、福祉部局等と連絡調整し、ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ、以下の措置を講ずることにより、地域における生活環境の改善を図ることが重要である。
① 当該施設内の巡視、物件の撤去指導等を適宜行う。
② ①のほか、必要と認める場合には、法令の規定に基づき、監督処分等の措置をとる。
また、洪水等の災害時においては、特にホームレスに被害が及ぶおそれがあることから、福祉部局等と連絡調整し、配慮して対応する。
(10) 地域における安全の確保(法第8条第2項第4号関係)
地域における安全の確保及びホームレスの被害防止を図るためには、警察が国、地方公共団体等の関係機関との緊密な連携の下に、ホームレスの人権に配慮し、かつ、地域社会の理解と協力を得つつ、以下のとおり地域安全活動、指導・取締り等を実施していくことが重要である。
① パトロール活動の強化により、地域住民等の不安感の除去とホームレス自身に対する襲撃等の事件・事故の防止活動を推進する。
② 地域住民等に不安や危害を与える事案、ホームレス同士による暴行事件等については、速やかに指導・取締り等の措置を講ずるとともに警戒活動を強化して再発防止に努める。
③ 緊急に保護を必要と認められる者については、警察官職務執行法(昭和23年法律第136号)等に基づき、一時的に保護し、その都度、関係機関に引き継ぐなど、適切な保護活動を推進する。
(11) ホームレスの自立の支援等を行う民間団体との連携(法第8条第2項第5号関係)
ホームレスの自立を支援する上では、ホームレスの生活実態を把握しており、ホームレスに最も身近な地域のNPO、ボランティア団体、民生委員、社会福祉協議会、社会福祉士会、社会福祉法人、居住支援法人等との以下のような連携が不可欠である。特にNPO及びボランティア団体は、ホームレスに対する生活支援活動等を通じ、ホームレスとの面識もあり、個々の事情に対応したきめ細かな支援活動において重要な役割を果たすことが期待される。
① 地方公共団体は、ホームレスと身近に接することの多い、民間団体等との定期的な情報交換や意見交換を行う。
また、行政、民間団体、地域住民等で構成する協議会を設け、ホームレスに関する各種の問題点について議論し、具体的な対策を講じる。
② 地方公共団体は、民間団体等に対して実施計画や施策についての情報提供を行うほか、団体間の調整、団体からの要望に対して行政担当者や専門家による協議を行うなど、各種の支援を行う。
③ また、ホームレスに対し、地方公共団体が行う施策について、これらの民間団体に運営委託を行うなど、その能力の積極的な活用を図る。
(12) (1)から(11)までのほか、ホームレスの自立の支援等に関する基本的な事項(法第8条第2項第6号関係)
① 近年、単身世帯の増加や家族形態の変化を含めた社会変容に伴い、失業や病気など、生活に何らかの影響を与える出来事をきっかけに困窮状態に至る危険性をはらんでいる状態にある者の存在が指摘されている。
ホームレス問題についても、失業等に直面した場合に、こうした社会変容に伴う社会的孤立や自尊感情の低下、健康意識の希薄さ等の要因から路上(野宿)生活に至る点は、共通する課題として捉える必要がある。
このようなホームレス問題の解決を図るためには、ホームレスの自立を直接支援する施策を実施するとともに、路上(野宿)生活を脱却したホームレスが再度路上(野宿)生活になることを防止し、新たなホームレスを生まない地域社会づくりを推進する必要がある。このため、社会福祉法第106条の4第2項に規定する重層的支援体制整備事業の実施等を通じて、住宅部局とも連携しながら、属性を問わない相談支援、参加支援及び地域づくりに向けた包括的な支援を一体的に行うことにより、居住に関する課題にも対応する。
② 若年層の中には、不安定な就労を繰り返し、路上(野宿)生活になる者も少なからずいる。これらの者は、勤労の意義を十分に理解していないこと、キャリア形成に対する意識が低いことなど、様々な要因により、そのような状況に至っていると考えられる。学校教育の段階では、多様なキャリア形成に共通して必要な能力や態度の育成を通じ、とりわけ勤労観や職業観を自ら形成・確立できるよう、各学校段階を通じた体系的なキャリア教育を推進する。
3 ホームレス数が少ない地方公共団体の各課題に対する取組方針
ホームレス数が少ない地方公共団体においても、失業、離職、減収、疾病で働けなくなったこと、家族関係の悪化等によりホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者への支援のニーズは存在するため、ホームレスに対するきめ細かな施策を実施することにより、ホームレスの増加を防止することが重要である。具体的には、地域に根ざしたきめ細かな施策を必要とするホームレス施策は、本来、市町村が中心となって実施すべきであるが、市町村単位でホームレスがほとんどいない場合には、広域市町村圏や都道府県が中心となって、施策を展開することも必要であり、特に、施設の活用については、広域的な視野に立った活用や、既存の公共施設や民間賃貸住宅等の社会資源の活用を検討することが必要である。
4 総合的かつ効果的な推進体制等
(1) 国の役割と連携
国は、ホームレスの自立支援施策に関する制度や施策の企画立案を行う。また、効果的な施策の展開のための調査研究、ホームレス問題やそれに対する各種の施策についての地域住民に対する普及啓発、関係者に対する研修等を行う。
さらに、地方公共団体や関係団体におけるホームレスの自立支援に関する取組を支援するため、各種の情報提供を積極的に行うとともに、財政上の措置その他必要な措置を講ずるよう努める。
(2) 地方公共団体の役割と連携
都道府県は、本基本方針に即して、市町村におけるホームレス自立支援施策が効果的かつ効率的に実施されるための課題について検討した上で、必要に応じてホームレス自立支援施策に関する実施計画を策定し、それに基づき、地域の実情に応じて計画的に施策を実施する。
その際、広域的な観点から、市町村が実施する各種施策が円滑に進むよう、市町村間の調整への支援、市町村における実施計画の策定や各種施策の取組に資する情報提供を行う等の支援を行うとともに、必要に応じて、自らが中心となって施策を実施する。
市町村は、本基本方針や都道府県の策定した実施計画に即して、必要に応じてホームレスの自立支援施策に関する実施計画を策定し、それに基づき、地域の実情に応じて計画的に施策を実施する。
その際、ホームレスに対する各種相談や自立支援事業等の福祉施策を自ら実施するだけでなく、就労施策や住宅施策等も含めた、ホームレスの状況に応じた個別的かつ総合的な施策を実施するとともに、このような施策の取組状況等について積極的に情報提供を行う。
なお、実施計画を策定しない又は策定過程にある地方公共団体においても、積極的にホームレスの自立支援に向けた施策を実施する。
また、地方公共団体においてホームレスの自立支援に関する事業を実施する際には、関係団体と十分連携しつつ、その能力の積極的な活用を図る。
(3) 関係団体の役割と連携
ホームレス等の生活実態を把握し、ホームレス等にとって最も身近な存在であるNPO、ボランティア団体、社会福祉協議会、社会福祉法人、居住支援法人等の民間団体は、ホームレス等に対する支援活動において重要な役割を担うとともに、地方公共団体が行うホームレス等に対する施策に関し、事業の全部又は一部の委託を受けるなど、行政の施策においても重要な役割を担っている。
その際、民間団体は、自らが有する既存の施設や知識、人材等を積極的に活用して事業を行うよう努めるとともに、地方公共団体が自ら実施する事業についても積極的に協力を行うよう努めるものとする。
5 本基本方針のフォローアップ及び見直し
本基本方針については、以下のとおり見直しをすることとする。
(1) 本基本方針の適用期間は、この告示の告示の日から起算して5年間とする。ただし、当該期間中に法が失効した場合には、法の失効する日までとし、このほか特別の事情がある場合には、この限りではない。
(2) 本基本方針の見直しに当たっては、適用期間の満了前に本基本方針に定めた施策についての政策評価等を行うとともに公表することとする。
なお、この政策評価等を行う場合には、ホームレスの数、路上(野宿)生活の期間、仕事や収入の状況、健康状態、福祉制度の利用状況等について、再度実態調査を行い、この調査結果に基づき行うとともに、地方公共団体や民間団体が実施した調査等の結果も参考とするものとする。ただし、特別の事情がある場合には、この限りではない。
(3) 本基本方針の見直しに当たっては、必要に応じて地方公共団体の意見を聴取するとともに、行政手続法(平成5年法律第88号)による意見公募手続(パブリックコメント)を通じて、有識者や民間団体を含め、広く国民の意見を聴取するものとする。
第4 都道府県等が策定する実施計画の作成指針
法第9条第1項又は第2項の規定に基づき、地方公共団体が実施計画を策定する場合には、福祉や雇用、住宅、保健医療等の関係部局が連携し、次に掲げる指針を踏まえ策定するものとする。また、実施計画を策定した都道府県の区域内の市町村が実施計画を策定する場合には、この指針のほかに、都道府県の実施計画も踏まえ策定するものとする。
1 手続についての指針
(1) 実施計画の期間
実施計画の計画期間は、都道府県が策定し、公表した日から起算して5年間とする。ただし、当該期間中に法が失効した場合には法の失効する日までとし、このほか特別の事情がある場合には、この限りではない。
(2) 実施計画策定前の手続
① 現状や問題点の把握
実施計画の策定に当たっては、ホームレスの実態に関する全国調査における当該地域のデータ等によりホームレスの数や生活実態の把握を行うとともに、関係機関や関係団体と連携しながら、ホームレスの自立支援に関する施策の実施状況について把握し、これに基づきホームレスに関する問題点を把握する。
② 基本目標
①の現状や問題点の把握に基づいて、実施計画の基本的な目標を明確にする。
③ 関係者等からの意見聴取
実施計画の策定に当たっては、当該地域のホームレスの自立の支援等を行う民間団体など、ホームレス自立支援施策関係者からの意見を幅広く聴取するとともに、当該地域の住民の意見も聴取する。
(3) 実施計画の評価と次期計画の策定
① 評価
実施計画の計画期間の満了前に、当該地域のホームレスの状況等を客観的に把握するとともに、関係者の意見を聴取すること等により、実施計画に定めた施策の評価を行う。
② 施策評価結果の公表
①の評価により得られた結果は公表する。
③ 次の実施計画の策定
①の評価により得られた結果は、次の実施計画を策定するに当たって参考にする。
2 実施計画に盛り込むべき施策についての指針
実施計画には、第3の2及び3に掲げるホームレス自立支援施策の推進に関する各課題に対する取組方針を参考にしつつ、当該取組方針のうち地方公共団体において実施する必要がある施策や、地方公共団体が独自で実施する施策を記載する。
3 その他
実施計画の策定や実施計画に定めた施策の評価等に当たっては、1(2)③及び1(3)①により、関係者の意見の聴取を行うほか、公共職業安定所、公共職業能力開発施設、都道府県警察等の関係機関とも十分に連携する。
また、都道府県においては、この実施計画の作成指針のほか、区域内の市町村が実施計画を策定するに当たって留意すべき点がある場合には、その内容について、都道府県が策定する実施計画に記載する。
改正文 (令和七年三月二四日/厚生労働省/国土交通省/告示第一号) 抄
令和七年四月一日から適用する。