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○第十四次鉱業労働災害防止計画

(令和五年三月三十一日)

(経済産業省告示第三十四号)

労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第六条及び第百十四条第一項の規定に基づき、第十四次鉱業労働災害防止計画を次のとおり定めたので、同法第八条及び第百十四条第一項の規定に基づき、告示する。

第十四次鉱業労働災害防止計画

鉱山保安は、人命尊重を基本理念とし、鉱山災害の根絶を図ることをその最終目標とするものである。鉱山災害の防止に関しては、昭和二十四年の鉱山保安法(昭和二十四年法律第七十号)施行以来、各般に亘る保安確保対策を積極的に推進してきたところであり、関係者の努力と相まって、鉱山災害の発生件数、度数率及び強度率ともに中長期的には大幅に減少してきた。

現行の鉱山保安法は、鉱山災害発生件数の減少や発生要因の変容等を背景に、国の関与を最小限のものとし、鉱山における保安確保に当たって民間の自主性を主体とする観点から、リスクマネジメントの手法を法体系の中に導入している。具体的には、鉱業権者(租鉱権者を含む。以下同じ。)に対し、保安上の危険の把握(現況調査等の実施)とその結果に応じた措置の立案、実施、評価及び見直し(措置の保安規程への反映)を義務付けるとともに、経営トップが掲げる保安方針の下、PDCA(Plan(計画)―Do(実施)―Check(評価)―Act(改善))サイクルにより、継続的な保安向上につなげるための自主的取組を定着させることにより、各鉱山において自律した保安体制が構築されることを目指している。

このような鉱山の保安に係るマネジメントシステム(以下「鉱山保安マネジメントシステム」という。)が、全ての鉱山において有効に機能することで、継続的な保安の向上につながっていくよう、国は、その導入と有効性向上に向けた自主的取組への支援を重点的に実施してきた。その結果、保安水準が向上し、罹災者を伴う鉱山災害発生件数も減少傾向であったが、近年は下げ止まっている。

また、特に中小規模の鉱山では、鉱山保安マネジメントシステムの本格導入に遅れが見られている。

このような状況を踏まえ、鉱山災害防止において鉱業を他の産業の模範とするべく、国は、鉱山保安マネジメントシステムの導入及び運用の一層の深化を図るための取組を重点的かつ継続的に実施する。また、鉱山関係者は、自主保安の徹底、重大災害等に直結する露天掘採場の残壁対策や坑内の保安対策の推進、粉じん防止対策を含む作業環境の整備等の基盤的な保安対策に万全を期すため、ここに鉱業労働災害防止のための主要な対策に関する事項を示すものとする。

Ⅰ 計画の期間

この計画は、令和五年度を初年度とし、令和九年度を目標年度とする五年間の計画とする。ただし、この計画期間中に特別の事情が生じた場合は、必要に応じ計画の見直しを行うものとする。

Ⅱ 計画の目標

各鉱山においては、鉱山災害を撲滅させることを目指す。

全鉱山における鉱山災害の発生状況として、計画期間の五年間で、次の指標を達成することを目標とする。

指標一:毎年の死亡災害は零とする

指標二:鉱山災害を減少させる観点から、計画期間の五年間の平均で、鉱山災害(休業日数が三日以上のものをいう。)の度数率〇・七〇以下

指標三:重傷災害(死亡災害を除く休業日数が二週間以上の鉱山災害をいう。以下同じ。)を減少させる観点から、計画期間の五年間の平均で、重傷災害の度数率〇・五〇以下

Ⅲ 鉱山災害防止のための主要な対策事項

鉱山災害の撲滅という最終目標を達成するためには、鉱業権者、鉱山労働者を始めとする関係者及び国が一体となり、保安水準の向上に向けた取組を継続的に実施していくことが必要である。このため、国は、鉱山災害防止のために本計画を長期的視点に立って策定し、自ら講ずるべき施策を明らかにするとともに、鉱山災害防止の実施主体である鉱業権者、鉱山労働者を始めとする関係者が取り組むことが求められる事項を、以下に主要な対策事項として示す。

鉱業権者及び鉱山労働者を始めとする関係者は、本計画の内容を理解し、自ら積極的に保安水準の向上に努めることが求められる。

1.鉱山保安マネジメントシステムの導入促進

1.1 鉱山保安マネジメントシステム導入及び運用の深化

鉱山災害を撲滅させるという最終目標を達成するためには、より高い次元の保安の取組が必要であり、鉱業権者、鉱山労働者を始めとする関係者及び国は、引き続き一体となって鉱山保安マネジメントシステムの導入に取り組むとともに、導入が進展している鉱山については、その導入状況を含め、各鉱山の実情に応じたより最適なシステムとなるよう努めるものとする。

このため、鉱業権者は、次の二つの取組を引き続き推進するものとする。

イ リスクアセスメントの充実等

リスクアセスメントの充実と、その結果に応じた措置の立案、実施、評価及び見直しを繰り返し行う取組とを充実させるよう、具体的には、次に掲げる事項の継続的な実施に努めるものとする。

① 潜在的な保安を害する要因を特定するための調査を十分に行い、これらによりもたらされるリスクを分析する。

② それぞれのリスクを評価し、リスクを低減させる措置を検討し実施する。

③ リスク分析及び評価の過程を関係者で共有するとともに、措置を講じた後の残留リスクについても適正に評価及び管理を行う。

ロ マネジメントシステムの充実等

マネジメントシステムの構築、すなわちPDCAサイクルの循環により継続的な保安水準の向上につながる仕組みを構築するとともに、その有効化を図るため、次に掲げる事項の実施に努めるものとする。

① 経営トップは、保安の確保を経営と一体のものとして捉え、保安方針を表明する。

② 保安目標について、達成に至る手段を具体的に立案可能で、達成度合いを客観的に評価可能なものとして設定する。

③ 保安目標達成のための具体的な実施事項とスケジュール等を年間の保安計画として策定する。

④ 保安目標の達成状況及び保安計画の実施状況について評価を行い、問題がある場合は、原因を調査し改善等を実施する。

また、鉱業権者は、鉱山保安マネジメントシステムの導入及び運用の一層の深化を図るため、これらの取組の中核となる人材を育成するとともに、鉱山労働者と一体となって鉱山保安マネジメントシステムの運用に取り組むものとする。

これらの取組の進捗状況について、国及び鉱業権者は、国が作成した自己点検チェックリストにより引き続き毎年適切に評価を行い、必要と認めた場合は、追加の対策を講ずるものとする。

国は、自己点検チェックリストのうち鉱業権者が取り組みにくいものについては、実情に応じてより最適な取組が行われるよう見直しを行い、鉱業権者が取り組みやすいものについては、全ての鉱山で取り組むよう鉱業権者に促すなど、自己点検チェックリストを活用した鉱山保安マネジメントシステムの導入促進に取り組むものとする。

また、鉱業権者が鉱山保安マネジメントシステムの導入及び運用の一層の深化を図るための取組を進め、その規模や操業状況等に即した最適な形で鉱山保安マネジメントシステムを構築し、その有効性を向上させていくことができるよう、国は、労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格等との整合性にも配慮しつつ、これまでの取組実績や、各鉱山における導入事例や運用状況等を踏まえ、必要に応じ鉱山保安マネジメントシステム導入のための手引書を見直すとともに、具体的な実施方法に関する助言や優良事例についての情報提供の充実等を引き続き図るものとする。

1.2 鉱山規模に応じた鉱山保安マネジメントシステムの導入促進

これまで国は、中小規模の鉱山を対象とした鉱山保安マネジメントシステムの構築等のためのガイドブックや、自己点検チェックリストに基づく取組の実施を検討している小規模の鉱山を対象とした簡易的なリスクアセスメントの方法を解説したパンフレット等、情報提供ツールの作成等により、鉱山保安マネジメントシステムの導入促進に取り組んできたが、大規模の鉱山に比べて中小規模の鉱山では導入に遅れが見られる。このため、中小規模の鉱山がその導入に向けた取組を容易に行うことができるよう、国は、これまでの取組の経験等を踏まえつつ、ガイドブック等を一層分かりやすい内容に見直すなど、情報提供ツールを充実させるとともに、各鉱山の状況に応じたきめ細かな助言の一層の充実を図るものとする。

2.自主保安の推進と安全文化の醸成

2.1 自主保安の徹底と保安意識の高揚

鉱業権者は、保安の最高責任者としての自覚を持って、また、鉱山労働者等は、自らも保安確保の一翼を担うものであるとの自覚を持って、次に掲げる点にそれぞれ留意し、自主保安の徹底を図るものとする。

(1) 鉱業権者

鉱業権者は、自ら設定した保安目標を達成するため、必要な人員及び予算を確保するとともに、鉱山労働者の保安意識を高揚させるための活動や、保安に関する知識及び技能の向上を図るための教育等を実施するに当たり、次に掲げる点に留意するものとする。

① 保安管理体制の充実、特に職務範囲、指揮命令系統の明確化及び個々の鉱山労働者の知識、技能等を踏まえた適正な人員配置を図る。

② 保安施設の整備等、保安確保に必要な予算の配分に配慮する。

③ 危険予知活動やヒヤリハット報告活動等、各鉱山の実情に即した保安活動を一層積極的に実施する。

④ 鉱山労働者の職務の種類及び経験年数並びに人間特性等を考慮した保安教育を一層計画的に実施する。特に作業監督者の選任に要する資格の計画的な取得に努める。

⑤ 鉱山災害発生時の被害を最小限にとどめるため、有効な退避訓練及び救護訓練の一層の実施に努める。

⑥ 鉱山災害の発生リスクを請負労働者を含めた鉱山労働者全体で共有するためのコミュニケーション活動を実施する等、鉱山全体での保安管理に努める。

(2) 保安統括者、保安管理者、作業監督者等

保安統括者、保安管理者、作業監督者等は、鉱山における保安管理体制の中核として、それぞれの責任と権限に基づき、常に現場の保安状況を把握し、その職責の十分な遂行に努めるものとする。

(3) 鉱山労働者

鉱山労働者は、保安規程や作業手順書の遵守にとどまらず、保安活動に積極的に参画するとともに、自らの知識や技能、経験をそれらの作成や見直しに反映するように努めるものとする。

(4) 鉱業関係団体

鉱業関係団体は、民間資格制度「保安管理マスター制度」の運用や改善をはじめ、自主的な保安管理体制の強化に向けた取組を実施するものとする。

2.2 鉱山における安全文化と倫理的責任の醸成

鉱山において、組織の全構成員の安全を最優先する企業文化である「安全文化」を醸成し、倫理的責任の下に鉱山の活動が行われるよう、経営トップは、保安方針を表明するとともに鉱山における保安活動を主導し、鉱山に関わる全ての者が保安に関する情報に通じ、保安活動に参画できる環境作りに努めるものとする。

2.3 自主保安の向上に資する人づくりへの取組

鉱業権者は、現場保安力の向上のため、危険体感教育、危険予知の実践教育並びに保安技術及び知識に関する学習の機会を設けるとともに、国が作成し情報提供している鉱山災害事例や再発防止対策に関するガイドブック、鉱山保安情報等を活用し、継続的な保安教育の実施に努めるものとする。

国は、外部専門家を活用し、鉱山労働者等を対象とした保安指導及び研修の実施に努めるものとする。

鉱業関係団体は、鉱業権者のニーズを踏まえ、危険体感教育に関する情報を提供するものとする。

3.個別対策の推進

3.1 死亡災害及び重傷災害の原因究明と再発防止対策の徹底

鉱山災害発生後に改めて行うリスクアセスメントの対応等は、類似の鉱山災害の再発を防ぎ、鉱山災害の撲滅という最終目標を達成する上で重要である。特に死亡災害や重傷災害の発生時にあっては、再びこのような重大災害の発生により鉱山労働者の生命や健康が脅かされることのないよう、鉱業権者は、徹底した原因究明と再発防止に努めるものとする。また、国は、これらの鉱山災害情報を分かりやすく整理及び分析を行い、他の鉱山の鉱山災害対策に活用できるように鉱山災害情報を水平展開する等、情報提供を積極的に行うものとする。

さらに、鉱山災害の多くはヒューマンエラーによるものであり、その要因として、特に「危険軽視・慣れ」が多く挙げられている。鉱業権者は、リスクアセスメントの実施に当たっては、人間特性についても十分に考慮し、機械や設備等の不具合により重傷災害に繋がるリスクを低減させる措置として、本質安全対策並びにフェールセーフ及びフールプルーフを考慮した施設の工学的対策の実施等、ヒューマンエラーが発生したとしても鉱山災害につながらないようにするための対策を引き続き検討するとともに、保安規程や作業手順書の遵守指導等の保安教育の実施や、適正な労務管理等による現場全体の保安水準や保安意識の向上等、ヒューマンエラーの発生を抑制する対策を講ずるものとする。

3.2 発生頻度が高い鉱山災害に係る防止対策の推進

過去五年間に発生した鉱山災害の事由は、「運搬装置のため」、「墜落」及び「転倒」が全体の約六割を占める。発生頻度が高い鉱山災害の半数以上が、「不適切な動作・位置・姿勢」等の人的要因によるものである。このため、鉱業権者は、車両系鉱山機械の昇降時に使用する手摺りや足場、コンベアに設置している接触防止用のさく囲等、不安全な箇所が適切に整備されているか点検して必要に応じ改善を施す等、リスクアセスメントの継続的な見直しを徹底して行うとともに、運搬装置に取り付ける安全装置の積極的な導入や、危険予知活動を一層重視した教育の反復実施等に努めることにより、鉱山災害の着実な減少を図るものとする。

国は、鉱業権者によるこれらの取組が継続的に行われるよう、鉱山災害事例や再発防止対策に関するガイドブック、鉱山保安情報等を活用し、きめ細かな助言や情報提供を行うものとする。特に、運搬装置に取り付ける安全装置や自動運転による運搬装置の無人化への取組等について最新の情報を収集し、情報提供を行うものとする。

3.3 罹災する可能性が高い鉱山労働者に係る防災対策の推進

国は、鉱山労働者のうち経験年数が少ない者や高年齢者が罹災する可能性が高いことから、鉱業関係団体等と連携及び協働し、当該罹災を減少させるために鉱業権者や鉱山労働者が活用できる教育ツール等を作成するとともに、高年齢の鉱山労働者に対し、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(令和二年三月厚生労働省策定)の内容の周知を図るものとする。

また、単独作業に従事している鉱山労働者が罹災する可能性が高いことを踏まえ、鉱業権者は、単独作業対策として、カメラやセンサーにより作業の記録や管理等を行うことにより、鉱山災害の未然防止や原因究明を容易に行うことができる環境の整備に努めるものとする。

3.4 鉱種の違いに応じた鉱山災害に係る防止対策の推進

鉱山災害は、鉱種の違いによって発生状況が異なることから、国は、その発生状況の違いについても情報収集を行い、全国横断的な鉱業関係団体に加えて、地域の鉱業関係団体とも連携しつつ、保安向上のための情報共有や保安教育の機会を設ける等の取組を進めるものとする。

3.5 自然災害に係る防災対策の推進

鉱業権者は、近年激甚化している地震、台風、豪雨等の自然災害の発生に備え、露天採掘切羽、鉱山道路、残壁、沈殿池等を点検し、必要に応じ鉱山労働者等に対し、避難場所の設定及び周知並びに定期的な避難訓練の実施等の防災対策を講ずるものとする。また、自然災害発生後に操業を再開する際には、露天採掘切羽、鉱山道路、残壁、沈殿池等を綿密に点検し、自然災害の発生により生じた被害に起因する二次災害の防止を図るものとする。

4.基盤的な保安対策とデジタル技術の活用等の推進

4.1 基盤的な保安対策

次に掲げる基盤的な保安対策を推進するものとする。

(1) 露天掘採場の残壁対策

鉱業権者は、石灰石鉱山等の露天掘採場における長大残壁について計画的な地質調査、安定解析、計測管理等に努め、適切な露天採掘切羽を設定するとともに、残壁の安定化を図ることにより、鉱山災害の防止に努めるものとする。

(2) 坑内の保安対策

鉱山の坑内構造をその自然条件に対応した合理的なものとすることは、保安の確保、特に重大災害の防止に不可欠である。したがって、鉱業権者は、各鉱山の坑内構造の整備に努めるとともに、鉱山災害発生時の被害を最小限にとどめるため、所要の保安施設の整備や有効な退避訓練及び救護訓練の実施に努めるものとする。また、外国人の研修を実施する鉱山の鉱業権者は、外国人研修生に配慮した鉱山災害防止対策を実施するものとする。

(3) 作業環境の整備

鉱業権者は、粉じんの防止、有害ガス対策、坑内温度調節、坑内照明の改善等、作業環境の整備に積極的に努めるものとする。

特に、粉じん防止対策については、集じん装置の適正配置、効率的な散水の励行、粉じん発生装置の密閉化等、坑内外における作業環境改善対策の一層の推進に努めるものとする。

4.2 デジタル技術の活用等による保安技術の向上

鉱業権者は、ヒューマンエラーが発生し得ることを考慮し、車両系鉱山機械、自動車、コンベア等の鉱山災害の発生頻度が高い運搬装置にデジタル技術を活用した安全装置を取り付ける等、鉱山災害の防止に効果的なハード面の対策を一層推進するように努めるものとする。

国は、デジタル技術を活用した安全装置等、保安の向上に関する最新の情報を積極的に提供することにより、その実地への実装を推進するものとする。

5.中小規模の鉱山における保安確保の推進

国及び鉱業関係団体は、中央労働災害防止協会の支援制度の活用や、地域単位で鉱山関係者が行う保安力向上のための情報交換、大規模の鉱山による保安レベルの底上げのための積極的な取組等が中小規模の鉱山において円滑に行われるよう、きめ細かな対応を行うものとする。

附 則

(施行期日)

1 この告示は、令和五年四月一日から施行する。

(第十三次鉱業労働災害防止計画の廃止)

2 第十三次鉱業労働災害防止計画(平成三十年経済産業省告示第五十六号)は、廃止する。