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○平成二十八年厚生労働省告示第三百十八号(事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針)

(平成二十八年八月十七日)

(厚生労働省告示第三百十八号)

事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針を次のように定め、平成二十八年九月一日から適用する。ただし、この告示の適用の日前に事業譲渡に係る契約が締結された場合におけるその事業譲渡については、なお従前の例による。

第1 趣旨

この指針は、会社等(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第一号の会社その他事業を行う者で、労働者を使用するものをいう。以下同じ。)が、事業譲渡又は同法第五編第二章及び第五章の規定による合併(吸収合併又は新設合併をいう。以下同じ。)を行うに当たり、事業譲渡における労働契約の承継に必要な労働者の承諾の実質性を担保し、併せて、労働者及び使用者との間での納得性を高めること等により、事業譲渡及び合併の円滑な実施及び労働者の保護に資するよう、会社等が留意すべき事項について定めたものである。

第2 事業譲渡に当たって留意すべき事項

1 労働者との手続等に関する事項

(1) 労働契約の承継に関する基本原則

事業譲渡における権利義務の承継の性質は、個別の債権者の同意を必要とするいわゆる特定承継であるため、事業譲渡を行う会社等(以下「譲渡会社等」という。)は、労働契約の承継を予定している労働者(以下「承継予定労働者」という。)と譲渡会社等との間で締結している労働契約を、当該事業を譲り受ける会社等(以下「譲受会社等」という。)に承継させる場合には、承継予定労働者から、個別の承諾(民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百二十五条第一項の規定に基づく承諾をいう。以下同じ。)を得る必要があること。

(2) 承継予定労働者から承諾を得る際に留意すべき事項

承継予定労働者から労働契約の承継の承諾を得るに当たっては、以下のことに留意すべきであること。

イ 承継予定労働者との事前の協議等

譲渡会社等は、承継予定労働者から承諾を得るに当たっては、真意による承諾を得られるよう、承継予定労働者に対し、事業譲渡に関する全体の状況(譲渡会社等及び譲受会社等の債務の履行の見込みに関する事項を含む。)、承継予定労働者が勤務することとなる譲受会社等の概要及び労働条件(従事することを予定する業務の内容及び就業場所その他の就業形態等を含む。)等について十分に説明し、承諾に向けた協議を行うことが適当であること。

特に譲渡会社等が、承継予定労働者の労働契約に関し、その労働条件を変更して譲受会社等に承継させる場合には、承継予定労働者から当該変更についての同意を得る必要があること。

ロ 協議に当たっての代理人の選定

労働者が個別に民法の規定により労働組合をイの協議の全部又は一部に係る代理人として選定した場合は、譲渡会社等は、当該労働組合と誠実に協議をするものとされていること。

ハ 労働組合法上の団体交渉権との関係

事業譲渡に伴う労働者の労働条件等に関する労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)第六条の団体交渉の対象事項については、譲渡会社等は、イの協議が行われていることをもって労働組合による当該事業譲渡に係る適法な団体交渉の申入れを拒否できないものであること。

また、当該対象事項に係る団体交渉の申入れがあった場合には、譲渡会社等は、当該労働組合と誠意をもって交渉に当たらなければならないものとされていること。

ニ 協議開始時期

譲渡会社等は、承継予定労働者から真意による承諾を得るまでに十分な協議ができるよう、時間的余裕をみてイの協議を行うことが適当であること。

ホ 労働者への情報提供に関して留意すべき事項

譲渡会社等が意図的に虚偽の情報を提供すること等により、承継予定労働者から承諾を得た場合には、承継予定労働者によって民法第九十六条第一項の規定に基づく意思表示の取消しがなされ得ること。

(3) 解雇に関して留意すべき事項

承継予定労働者が譲受会社等に当該承継予定労働者の労働契約を承継させることについて承諾をしなかったことのみを理由とする解雇等客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に該当する解雇は、労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十六条の規定に基づき、その権利を濫用したものとして認められないものであることに留意すべきであること。

事業譲渡を理由とする解雇についても、整理解雇に関する判例法理の適用があり、承継予定労働者がそれまで従事していた事業を譲渡することのみを理由とする解雇等客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に該当する解雇は、労働契約法第十六条の規定により、その権利を濫用したものとして認められないものであることに留意すべきであること。

こうした場合には、譲渡会社等は、承継予定労働者を譲渡する事業部門以外の事業部門に配置転換を行う等、当該労働者との雇用関係を維持するための相応の措置を講ずる必要があることに留意すべきであること。

(4) その他の留意すべき事項

譲渡会社等又は譲受会社等は、承継予定労働者の選定を行うに際し、労働組合の組合員に対する不利益な取扱い等の不当労働行為その他の法律に違反する取扱いを行ってはならないこと。

また、事業譲渡時の労働契約の承継の有無や労働条件の変更に関する裁判例においても、労働契約の承継についての黙示の合意の認定、いわゆる法人格否認の法理及びいわゆる公序良俗違反の法理等を用いて、個別の事案に即して、承継から排除された労働者の承継を認める等の救済がなされていることに留意すべきであること。

2 労働組合等との手続等に関する事項

譲渡会社等は、その雇用する労働者の理解と協力を得るため、次の事項に留意すべきであること。

(1) 労働組合等との協議等に関して留意すべき事項

イ 労働組合等との事前の協議等

譲渡会社等は、事業譲渡に当たり、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との協議その他これに準ずる方法によって、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めることが適当であること。

「その他これに準ずる方法」としては、名称のいかんを問わず、労働者の理解と協力を得るために、労使対等の立場に立ち誠意をもって協議が行われることが確保される場において協議することが含まれるものであること。

ロ 対象事項

譲渡会社等がその雇用する労働者の理解と協力を得るよう努める事項としては、事業譲渡を行う背景及び理由、譲渡会社等及び譲受会社等の債務の履行の見込みに関する事項、承継予定労働者の範囲及び労働協約の承継に関する事項等が考えられること。

ハ 労働組合法上の団体交渉権との関係

事業譲渡に伴う労働者の労働条件等に関する労働組合法第六条の団体交渉の対象事項については、譲渡会社等は、イの協議等が行われていることをもって労働組合による当該事業譲渡に係る適法な団体交渉の申入れを拒否できないものであること。

また、当該対象事項に係る団体交渉の申入れがあった場合には、譲渡会社等は、当該労働組合と誠意をもって交渉に当たらなければならないものとされていること。

ニ 開始時期等

イの協議等は、遅くとも1の(2)のイに規定する承継予定労働者との協議の開始までに開始され、その後も必要に応じて適宜行われることが適当であること。

(2) 団体交渉に関して留意すべき事項

労働組合は、使用者との間で団体交渉を行う権利を有するが、団体交渉に応ずべき使用者の判断に当たっては、最高裁判所の判例において、「一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものである」が、雇用主以外の事業主であっても、「その労働者の基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて」使用者に当たると解されていること等これまでの裁判例等の蓄積があることに留意すべきであること。

また、譲受会社等が、団体交渉の申入れの時点から「近接した時期」に譲渡会社等の労働組合の「組合員らを引き続き雇用する可能性が現実的かつ具体的に存する」場合であれば、事業譲渡前であっても労働組合法上の使用者に該当するとされた命令があることにも留意すべきであること。

第3 合併に当たって留意すべき事項

合併における権利義務の承継の性質は、いわゆる包括承継であるため、合併により消滅する会社等との間で締結している労働者の労働契約は、合併後存続する会社等又は合併により設立される会社等に包括的に承継されるものであること。このため、労働契約の内容である労働条件についても、そのまま維持されるものであること。