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○保育分野に係る事業分野別指針

(平成二十八年七月一日)

(厚生労働省告示第二百八十二号)

中小企業等経営強化法(平成十一年法律第十八号)第十二条第一項の規定に基づき、保育分野に係る事業分野別指針を次のように策定したので、同条第五項の規定に基づき告示する。

保育分野に係る事業分野別指針

第1 現状認識

平成27年4月に「子ども・子育て支援新制度」が施行され、政府においては、全ての子ども及び子育て家庭を対象に、保育、幼児教育、地域の子ども・子育て支援の質・量の拡充を図ることとしている。

このうち、保育分野について、市場の動向等の現状について整理すると、以下のとおりである。

1 市場規模の動向

少子高齢化が進む中、女性の就業も進んでおり、これに伴い、保育所等(保育所、特定地域型保育事業及び幼保連携型認定こども園をいう。以下同じ。)の利用率も上昇している。また、保育所等を利用する児童の増加に伴い、保育所等の数も増加傾向にある。

しかし、保育所等の利用ニーズに対して保育所等の整備が追いついていないため、特に都市部を中心に待機児童が生じている。女性の就業が更に進んだことや「子ども・子育て支援新制度」の施行等により、保育所等の利用申込者数が増加した。政府は、待機児童の解消に向け、平成25年4月に「待機児童解消加速化プラン」を発表し、平成25年から28年度までの4年間で約42.8万人分の保育の受け皿を整備した。これに加えて、「希望出生率1.8」の実現に向けて、平成27年11月に一億総活躍国民会議において取りまとめた「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策―成長と分配の好循環の形成に向けて―」では、平成25年度から平成29年度末までの保育の受け皿整備目標を40万人分から50万人分に上積みし、結果として当該5年間で約53.5万人分の保育の受け皿を整備した。さらに、平成29年6月に公表した「子育て安心プラン」に基づき、令和2年度末までにさらに32万人分の保育の受け皿を整備することとしたことに加え、令和2年12月に公表した「新子育て安心プラン」に基づき、令和6年度末までにさらに約14万人分の保育の受け皿を整備することとしている。なお、令和2年4月1日時点の待機児童数は約1万2千人となっている。

2 産業構造・業態の特徴

施設数については、厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(令和2年4月1日)」によれば、令和2年4月1日時点の保育所等(特定地域型保育事業を除く。)の数は約2万9千箇所となっており、特定地域型保育事業を行っている保育施設は約6千9百箇所となっている。また、厚生労働省「平成30年度認可外保育施設の現況取りまとめ」によれば、平成31年3月31日時点の認可外保育施設は、約1万2千箇所となっている。

一方、児童数については、厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(令和2年4月1日)」によれば、令和2年4月1日時点の保育所等(特定地域型保育事業を除く。)の定員(当該保育所等を利用する子ども・子育て支援法(平成24年法律第65号)第19条第1項第2号及び第3号に規定する小学校就学前児童の定員)は約280万人、利用児童数は約259万人である。また、厚生労働省「平成30年度認可外保育施設の現況取りまとめ」によれば、平成31年3月31日時点の認可外保育施設の入所児童数は、約17万人である。

職員については、保育所等における保育は、生涯にわたる人間形成の基礎を培うものであり、専門的知識と技術を持つ保育士が中心となって担っている。令和3年4月1日時点の保育士登録者数は約172万人となっている。また、保育士の処遇改善について、近年の取組状況として、平成27年4月の「子ども・子育て支援新制度」の施行に伴い、処遇改善等加算として3%相当の改善を行った。平成29年度予算においては、全職員一律2%の処遇改善を実施するとともに、努力が評価され、将来に希望が持てるよう、技能・経験に応じたキャリアアップの仕組みを構築し、経験年数が概ね3年以上の職員に対しては、月額5千円、経験年数が概ね7年以上の中堅職員に対しては、月額4万円等の処遇改善を行った。また、「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)に基づき、平成31年4月からは、更に1%(月額3千円相当)の処遇改善を行った。これらの取組等により、平成25年度から令和2年度の8年間において、約14%の処遇改善を実現した。

3 経営の特徴

一 保育事業の経営の特徴

収支面、特に収入面の特徴として一般的に挙げられるのは、公定価格による、収入面の安定性である。公定価格は、公費負担及び利用者負担からなる。

また、保育は、一定期間継続して行うことが多いため、需要変動という観点からも収入の変動が少ないのが特徴的である。

こうした中で、就学前の子どもの成長過程に応じた適切な保育を提供するなど保育の質の向上や多様な保育ニーズに応じた事業展開が重要となる。

二 労働市場の状況

保育分野の全国平均の有効求人倍率は令和3年3月の時点で2.67倍となっており、全産業の1.12倍に比べ高い水準にある。

東京都福祉保健局「平成30年度東京都保育士実態調査報告書」によれば、過去に保育士として就業した者が退職した理由としては、「給料が安い」が29.2%、「仕事量が多い」が27.7%、「労働時間が長い」が24.9%となっている。

第2 経営力向上の実施方法に関する事項

1 支援対象

保育分野における経営力向上のための支援対象は、保育事業において、事業活動に有用な知識又は技能を有する人材の育成、組織の活力の向上による人材の有効活用、財務内容の分析の結果の活用、商品又は役務の需要の動向に関する情報の活用、経営能率の向上のためのデジタル技術の活用、経営資源の組合せその他の経営資源を高度に利用する方法を導入して事業活動を行う取組とする。ただし、中小企業等経営強化法(平成11年法律第18号)第2条第6項に規定する特定事業者等(以下単に「特定事業者等」という。)が事業承継等(同条第10項第9号に掲げるものを除く。)により、他の事業者から取得した又は提供された経営資源を高度に利用する方法を導入して事業活動を行う場合にあっては、事業の継続が困難である他の事業者の事業を継承するもののうち、事業の経営の承継を伴う取組を支援対象とする。

2 経営力向上に係る指標

保育所等における保育は、生涯にわたる人間形成の基礎を培うものであり、必要な職員配置を行うことを通じて、一定以上の質の確保が求められる。併せて、公定価格により収入の大宗が決められていることから、保育分野においては、一概に中小企業等の経営強化に関する基本方針(令和3年厚生労働省・経済産業省告示第1号)第4の2の二のイ及びロの(2)に掲げる労働生産性の向上という指標を用いて経営力の向上の度合いを測ることは適切ではない。

このため、保育事業分野における経営力向上の度合いを測定するための指標としては、職員に関する次の各号に掲げる指標その他の各事業者において設定する客観的に評価可能な指標及びそれらの目標伸び率(伸び率が不要な指標は除く。)を用いることが適当である。

① 平均勤続年数

平均勤続年数とは職員がその企業に雇い入れられてから経営力向上計画(中小企業等経営強化法第17条第1項に規定する経営力向上計画をいう。以下同じ。)に係る認定の申請を行った日までに勤続した年数の平均をいう。

② 離職率

離職率とは経営力向上計画に係る認定の申請を行った年度の前年度の4月1日(以下「基準日」という。)における常用の職員数(期間を定めずに雇われている人数及び1か月以上の期間を定めて雇われている職員数)に対する基準日から1年を経過する日までの離職者数の割合をいう。

第3 経営力向上に関する事項

1 経営力向上の内容に関する事項

一 経営力向上のために実施すべき事項

経営力の向上のためには、事業主が、周囲の環境と自事業所の特徴を把握し、その特徴を活かしてどのような質の高い保育を提供することが適当かを考え、方針を明らかにし、将来的な計画を立てることが重要である。当該計画を達成するため、具体的に実施すべきと考えられる事項は以下のとおりである。

① 保育人材の育成及び評価体制の構築に関する事項

保育所等において、その経営力を向上させるためには、職員のキャリアアップの仕組みを構築するなどの取組を進めることが重要であり、これを踏まえた人材育成と人事管理の仕組みの構築に取り組むことが必要である。具体的には次に掲げる事項とする。

(一) 研修機会の確保

(二) 賃金テーブルの整備

(三) 技能及び経験を考慮した適切な処遇の実施

② 勤務環境の改善に関する事項

保育所等において、保育人材の業務負担の軽減及び職員の健康増進を図ることが重要であり、情報通信技術(ICT)の活用による内部業務の効率化や、保育補助者の雇上げ等に取り組むことにより勤務環境の改善に取り組むことが必要である。具体的には次に掲げる事項とする。

(一) ICTを活用した業務負担の軽減やICTを利用する人材の育成

(二) 保育補助者の雇上げによる保育士の業務の見直し

(三) 短時間正社員制度の推進

(四) 職員の健康増進に資する取組の実施

③ 経営資源の組合せに関する事項

保育の質及び生産性の向上を図るため、現に有する経営資源及び他の事業者から取得した又は提供された経営資源を有効に組み合わせて一体的に活用することが必要である。

④ その他の経営力向上のために実施すべき事項

①から③までのほか、経営力向上のためには、外部の者による評価を受け、その結果に基づき不断の改善を図ることや、財務諸表等を基に収支状況等の分析を行うことが必要である。具体的には次に掲げる事項とする。

(一) 第三者評価の実施

(二) 財務諸表等の適切な整備並びに財務内容の分析及びその結果の活用

(三) 情報公開を進めることによる経営の透明性の向上

二 経営資源を高度に利用する方法として、特に優先すべき事項

経営資源を高度に利用する方法としては、特に、全国的に保育士不足の状況にあり、保育士の確保が容易ではないという状況を踏まえると、質の高い保育の提供を実現するため、保育人材の勤務環境の改善等による離職防止や、研修機会の確保等による保育人材のキャリアアップに優先的に取り組むことが望ましい。

2 経営力向上計画の認定

経営力向上計画について認定を受けようとする事業者にあっては、その経営規模に応じて取り組むことのできる事項に差があると考えられることから、事業者は、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に掲げる事項の数以上の第3の1の一の①(一)から④(三)までに掲げる事項に取り組むこととする。

① 小規模事業者(常時使用する従業員の数がおおむね5人以下である事業者をいう。以下同じ。) いずれか1項目

② 中規模事業者(基本財産又は資本金等の総額が5千万円以下であって、常時使用する従業員の数が5人を越え300人以下である事業者をいう。以下同じ。) いずれか2項目

③ 中堅事業者(小規模事業者及び中規模事業者に該当しない事業者をいう。) いずれか3項目

第4 経営力向上の促進に当たっての配慮事項

1 雇用への配慮

国は、人員削減を目的とした取組を計画認定の対象としない等、雇用の安定に配慮するものとする。また、組織再編行為が従業員等に与える影響が大きいことに鑑み、事業者は事業承継等を行う場合は、利用者に必要な保育の継続的な提供、従業員の雇用の安定等に特に配慮するものとする。

2 計画進捗状況の把握の推奨

国は、経営力向上計画の進捗状況を事業者自ら定期的に把握することを推奨する。

3 外部専門家の活用

国は、経営力向上計画の認定、計画進捗状況の調査、指導・助言に際しては、その事業内容、経営目標が適切か否かを判断するに当たって、必要に応じて事業分野別経営力向上推進機関及び認定経営革新等支援機関その他の専門家の知見を活用する。

4 特定事業者等の規模に応じた計画認定

国は、特定事業者等による幅広い取組を促すため、特定事業者等の規模に応じて柔軟に計画認定を行うものとする。

第5 事業分野別経営力向上推進業務に関する事項

事業分野別経営力向上推進業務を行う者については、以下の要件を満たし、かつ、以下の業務に取り組むための知見や能力を有することを認定事業分野別経営力向上推進機関の要件とする。

1 業務

一 普及啓発及び研修等

二 当該事業分野における経営力向上に関する最新の知見に関する情報の収集、整理及び分析並びに調査研究等

2 要件

一 組織体制について

① 窓口となる拠点を有していること。

② 役員(会長、副会長等)がおり、かつ、常勤職員が2名以上いること。

③ 事業者団体の運営や業界振興に係る定期的な会合を年1回以上開催していること。

二 事業基盤について

① 参加事業者数が20以上であること、参加事業者の名簿及び連絡先を持っていること。

② 自治体からの財政的支援及び会員からの会費収入又は自主事業による収入等、適切な収入基盤を有すること。

③ 決算報告書等、事業基盤の健全性を確認できる書類等を作成していること。

3 認定事業分野別経営力向上推進機関が配慮すべき事項

一 認定事業分野別経営力向上推進機関は、事業分野別経営力向上推進業務の実施に当たって、合理的な理由なく、特定の中小企業を支援対象から外すことのないようにすること。

二 認定事業分野別経営力向上推進機関は、業務上知り得た秘密の保持による信頼の確保を図ること。

改正文 (平成三〇年七月六日厚生労働省告示第二六五号) 抄

産業競争力強化法等の一部を改正する法律の施行の日(平成三十年七月九日)から適用することとしたので、同条第五項の規定に基づき公表する。

改正文 (令和元年七月一二日厚生労働省告示第六一号) 抄

中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律の施行の日(令和元年七月十六日)から適用することとしたので、同条第五項の規定に基づき公表する。

改正文 (令和二年九月三〇日厚生労働省告示第三四二号) 抄

中小企業の事業承継の促進のための中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律の施行の日(令和二年十月一日)から適用することとしたので、同条第五項の規定に基づき公表する。

改正文 (令和三年七月三〇日厚生労働省告示第三〇〇号) 抄

産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律の施行の日(令和三年八月二日)から適用することとしたので、同条第五項の規定に基づき公表する。