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○介護分野に係る事業分野別指針

(平成二十八年七月一日)

(厚生労働省告示第二百八十四号)

中小企業等経営強化法(平成十一年法律第十八号)第十二条第一項の規定に基づき、介護分野に係る事業分野別指針を次のように策定したので、同条第五項の規定に基づき告示する。

介護分野に係る事業分野別指針

第1 基本認識

本指針の対象とする介護事業とは、日本標準産業分類の小分類854「老人福祉・介護事業」に分類される事業であり、介護保険法(平成9年法律第123号)に基づく保険給付又は事業の対象となっている介護サービスを提供する事業以外のサービスも含む。

介護事業に関しては、急速に少子高齢化が進み介護サービスに対するニーズが増加する中で、求められる介護サービスを効率的かつ持続的に提供するため、人材の育成や勤務環境の改善等を通じて質の高い人材を継続的に確保するとともに、介護ロボットや情報通信技術(ICT)等を活用して介護サービスの質と生産性の向上を図るなどの取組が不可欠となっている。

このような我が国の介護事業について、市場規模の動向等の現状について整理すると、以下のとおりである。

1 市場規模の動向

急速に少子高齢化が進む中で、我が国では、平成37年(2025年)にいわゆる「団塊の世代」が全て75歳以上となる超高齢社会を迎える。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年7月推計)出生中位(死亡中位)推計」によれば、現在65歳以上の人口は27%程度であるが、平成37年(2025年)には30%を超え、平成62年(2050年)には40%近くになる見込みである。また、75歳以上の人口は、平成37年(2025年)には約18%になると推計されており、約5人に1人が後期高齢者となる。

要介護認定者数は、「介護保険事業状況報告」(厚生労働省)によれば、介護保険制度が創設された平成12年(2000年)の時点で256万人であったが、平成27年(2015年)には約620万人となっており、この16年間で約2.4倍に増加している。

介護保険給付費も年々増加しており、平成30年度当初予算において約11兆円となっているが、平成37年(2025年)には約15兆円に達すると見込まれている(内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」(平成30年5月))。

介護職員数は平成28年「介護サービス施設・事業所調査」(厚生労働省)によると平成28年度に約190万人であったが、平成30年5月時点における各都道府県の推計によれば、平成37年度(2025年度)には約245万人の介護職員が必要になる見込みである。一方、平成30年度以降に取り組む新たな施策の効果を見込まない現状維持シナリオによる場合、平成37年(2025年)時点の介護職員数は約211万人であり、約34万人の需給ギャップが生じると見込まれている。

2 産業構造・業態の特徴

介護サービスの事業所の数は、平成28年「介護サービス施設・事業所調査」によると、訪問介護が35,013事業所、通所介護が23,038事業所である。通所介護については、定員19人以上の通所介護が23,038事業所であるのに対し、定員19人未満の地域密着型通所介護が21,063事業所であるなど、小規模な事業所の割合が高いことに特徴がある。

介護保険施設及び地域密着型介護老人福祉施設の種類ごとの合計定員は、平成28年「介護サービス施設・事業所調査」によると、介護老人福祉施設が530,280人、介護老人保健施設が370,366人、介護療養型医療施設が59,106人、地域密着型介護老人福祉施設が47,188人である。介護保険施設及び地域密着型介護老人福祉施設の種類ごとの1施設当たりの定員は、平均で、介護老人福祉施設が68.8人、介護老人保健施設が87.3人、介護療養型医療施設が44.6人、地域密着型介護老人福祉施設が25.6人である。

介護保険施設及び地域密着型介護老人福祉施設の種類ごとに定員数の最も多い割合をみると、介護老人福祉施設は「50~59人」が32.2%、介護老人保健施設は「100~109人」が37.9%、介護療養型医療施設は「10~19人」が19.2%、地域密着型介護老人福祉施設は「20人~29人」が91.3%となっており、定員が150人以下の小規模施設が大半を占めている。

なお、訪問介護事業者のうち、要介護認定者向けに公的保険外サービスを提供している事業者は7割程度という調査もあるが、そのうちの7割強は、「利用者の「支給限度基準額」を超えて利用されるサービス」を提供するものである(一般社団法人シルバーサービス振興会「訪問介護サービスにおける「混合介護」の促進に向けた調査研究事業報告書」(平成21年3月))。

3 経営の特徴

一 介護事業の経営の特徴

介護事業の経営の特徴としては、事業収入に占める給与費の割合が概ね6割を超え、この割合は事業規模が小さくなるほど高くなる傾向にあること(平成29年度「介護事業経営実態調査」(厚生労働省))、多くの事業者にとって主たる収入となっている介護報酬は、サービス等に応じた平均的な費用を勘案して国が定めるものであり、サービスの上限価格としての性質を有すること、3年に一度の介護報酬改定による影響を考慮する必要があること等が挙げられる。

二 労働市場の状況

介護分野の有効求人倍率は平成30年3月時点で3.79倍となっており、全産業の1.46倍に比べ高い水準にある。

公益財団法人介護労働安定センター「平成28年度「介護労働実態調査」」によれば、介護労働者の労働条件等に係る不満は、「人手が足りない」が53.2%、「仕事内容のわりに賃金が低い」が41.5%となっている。また、事業所に対する調査においては、従業員が不足していると感じている事業所の割合は62.6%となっており、従業員が不足している理由としては「採用が困難である」が73.1%、採用が困難である原因については「賃金が低い」が57.3%、「仕事がきつい(身体的・精神的)」が49.6%となっている。

第2 経営力向上の実施方法に関する事項

1 支援対象

介護分野における経営力向上のための支援の対象は、介護事業において、事業活動に有用な知識又は技能を有する人材の育成、組織の活力の向上による人材の有効活用、財務内容の分析の結果の活用、商品又は役務の需要の動向に関する情報の活用、経営能率の向上のためのデジタル技術の活用、経営資源の組合せその他の経営資源を高度に利用する方法を導入して事業活動を行う取組とする。ただし、中小企業等経営強化法(平成11年法律第18号)第2条第6項に規定する特定事業者等(以下単に「特定事業者等」という。)が事業承継等(同条第10項第9号に掲げるものを除く。)により、他の事業者から取得した又は提供された経営資源を高度に利用する方法を導入して事業活動を行う場合にあっては、事業の継続が困難である他の事業者の事業を承継するもののうち、事業の経営の承継を伴う取組を支援対象とする。

2 経営力向上に係る指標

介護事業においては、対人サービスとして一定以上の質が求められることから、一概に中小企業等の経営強化に関する基本方針(令和3年厚生労働省、経済産業省告示第1号。以下「基本方針」という。)第4の2の二のイ及びロの(2)に掲げる労働生産性の向上という指標を用いて経営力向上の度合を測ることはできない。

このため、介護分野における経営力向上の度合を測るための指標としては、介護職員に関する、次の各号に掲げる指標、顧客満足度その他の各事業者において設定する客観的に評価可能な指標及びそれらの目標伸び率(伸び率が不要な指標は除く。)を用いることが適当と考えられる。

① 平均勤続年数

平均勤続年数とは介護職員がその企業に雇い入れられてから経営力向上計画(中小企業等経営強化法第17条第1項に規定する経営力向上計画をいう。以下同じ。)に係る認定の申請を行った日までに勤続した年数の平均をいう。

② 入職率

入職率とは経営力向上計画に係る認定の申請を行った日前の直近の9月30日の1年前の日(以下「基準日」という。)における常用の介護職員数(期間を定めずに雇われている人数及び1か月以上の期間を定めて雇われている人数)に対する基準日から1年を経過する日までの入職者数の割合をいう。

③ 離職率

離職率とは基準日における常用の介護職員数(期間を定めずに雇われている人数及び1か月以上の期間を定めて雇われている人数)に対する基準日から1年を経過する日までの離職者数の割合をいう。

第3 経営力向上に関する事項

1 経営力向上の内容に関する事項

経営力向上において実施すべき事項

① 事業活動に有用な知識又は技能を有する人材の育成

介護事業においては、対人サービスを担う介護職員の資質向上、キャリアアップの実現及び専門性の確保が重要である。このため、各職員の専門性を考慮し、それを踏まえた人材育成と人事管理の仕組みの構築に取り組むことが必要である。具体的には次に掲げる事項とする。

(一) 事業所における介護業務の分析及び標準化並びにそれらを踏まえた研修の実施

(二) 他の事業者との連携による研修の共同実施

(三) 賃金テーブルの整備等によるキャリアパス及び人事評価に連動した処遇の実施

② 組織の活力の向上による人材の有効活用

介護事業においては、今後増加が見込まれる介護サービスに対するニーズに応えられるよう、介護職員の確保及び有効活用に取り組むことが重要である。このため、介護職員の職場環境の整備改善等により、介護職員の離職率低下又は意欲の増進その他組織の活力の向上を図り、もって介護職員の能力を有効に活用することが必要である。具体的には次に掲げる事項とする。

(一) 介護職員の健康増進又は職場におけるハラスメント防止に資する取組等の職場環境の整備改善

(二) 人事評価制度の導入による介護職員の適正な評価

③ 財務内容の分析の結果の活用

介護事業においては、事業収益の大部分が介護報酬によって占められているものの、財務内容の分析は、他の事業分野と同様に重要である。このため、財務諸表等を基に収益性等の数値を定量的に分析すること及び人的資源等の経営資源について定性的に分析することが必要である。具体的には次に掲げる事項とする。

(一) 財務諸表等の適切な整備並びに財務内容の分析及びその結果の活用

(二) 活動基準原価計算等の手法による介護職員の業務内容等の分析及びその結果の活用

④ 商品又は役務の需要の動向に関する情報の活用

介護事業においては、利用者と事業者との契約によりサービスを提供することとなるため、他の事業分野と同様に、需要の動向、同業事業者の動向等の情報を収集し、活用することが必要である。また、法令改正や介護報酬改定の動向等の情報を収集し、活用することも必要である。具体的には次に掲げる事項とする。

(一) 同業事業者における事業内容に係る情報の把握及び分析並びにその活用

(二) 事業者の強み、弱み等を分析する手法(いわゆる「SWOT分析」)等による内部環境等の定性的な分析及びその結果の活用

(三) 法令改正や介護報酬改定等の外部環境を網羅的に分析する手法(いわゆる「PEST分析」)、競争要因に着目して業界の構造を分析する手法(いわゆる「ファイブフォース分析」)等による外部環境の定性的な分析及びその結果の活用

⑤ 経営能率の向上のためのデジタル技術の活用

介護事業においては、介護サービスの提供に当たり最低限必要な人員及び設備が、都道府県又は市町村の条例により定められている一方、介護職員の確保が容易ではないという状況にあり、介護事業に投入できる人的資源の幅に制約があることから、経営能率を向上させるためには、情報通信技術(ICT)の活用により、サービスの質及び生産性の向上を図ることが必要である。具体的には次に掲げる事項とする。

(一) 記録の作成、保管等の事務的業務について情報システムの導入(特に、クラウドサービスや会計、人事労務、販売管理等の基幹業務システムの一括導入。(二)において同じ。)による情報共有等の円滑化

(二) 情報システムの導入による業務の定量的な課題分析及びその結果に基づく業務の標準化

⑥ 経営資源の組合せ

サービスの質及び生産性の向上を図るため、現に有する経営資源及び他の事業者から取得した又は提供された経営資源を有効に組み合わせて一体的に活用することが必要である。

⑦ その他の経営資源を高度に利用する方法

①から⑥までのほか、経営資源をその有する潜在力が十分発揮されるように活用するためには、介護ロボットの導入、総務、経理、人事等の部門の共同化、訪問介護における移動時間等の効率化等を実施することが必要である。具体的には次に掲げる事項とする。

(一) 介護ロボットの導入による業務負担の軽減

(二) 中小企業等協同組合(中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号)第3条に規定する中小企業等協同組合をいう。)等の制度を活用した総務、経理、人事等の部門における業務の共同化

(三) 訪問介護において担当地域等を適切に見直すことによる移動時間等の効率化

2 経営力向上計画の認定

経営力向上計画について認定を受けようとする事業者にあっては、その経営規模に応じて取り組むことのできる事項に幅があると考えられることから、事業者は、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める数以上の第3の1の各号に掲げる事項に取り組むこととする。

① 小規模企業(特定事業者等のうち、常時使用する従業員の数がおおむね5人以下であるものをいう。以下同じ。) 1項目

② 中規模企業(特定事業者等のうち、資本金等の総額が5,000万円以下であって、常時使用する従業員の数が5人を超え300人以下であるものをいう。以下同じ。) 2項目

③ 中堅企業(特定事業者等のうち、小規模企業及び中規模企業に該当しないものをいう。) 3項目

3 業界団体に係る事項

介護分野における業界団体においては、特定事業者等が経営力向上の取組を効果的に実施できるよう、その模範となる取組(新たな手法や成功事例等)に係る情報の収集等のほか、地域資源の開発及び活性化を促すための取組を行うことが望まれる。

4 経営力向上に取り組むに当たって配慮すべき事項

特定事業者等が経営力向上に取り組むに当たっては、対人サービスとしての一定以上の質を確保するとともに、人員削減を目的とした取組をしないなど雇用の安定に配慮することが必要である。また、組織再編行為が利用者、従業員等に与える影響が大きいことに鑑み、事業承継等を行う場合にあっては、利用者に必要なサービスの継続的な提供、従業員の雇用の安定等に特に配慮するものとする。

第4 事業分野別経営力向上推進業務に関する事項

中小企業等経営強化法第39条第1項に規定する事業分野別経営力向上推進業務に関する事項については、基本方針第5の4から6までに定めるところによる。

改正文 (平成三〇年七月六日厚生労働省告示第二六四号) 抄

産業競争力強化法等の一部を改正する法律の施行の日(平成三十年七月九日)から適用することとしたので、同条第五項の規定に基づき公表する。

改正文 (令和元年七月一二日厚生労働省告示第六〇号) 抄

中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律の施行の日(令和元年七月十六日)から適用することとしたので、同条第五項の規定に基づき公表する。

改正文 (令和二年九月三〇日厚生労働省告示第三四四号) 抄

中小企業の事業承継の促進のための中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律の施行の日(令和二年十月一日)から適用することとしたので、同条第五項の規定に基づき公表する。

改正文 (令和三年七月三〇日厚生労働省告示第二九九号) 抄

産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律の施行の日(令和三年八月二日)から適用することとしたので、同条第五項の規定に基づき公表する。