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○年齢にかかわりない転職・再就職者の受入れ促進のための指針

(平成三十年三月三十日)

(厚生労働省告示第百五十九号)

年齢にかかわりない転職・再就職者の受入れ促進のための指針を次のように定める。

年齢にかかわりない転職・再就職者の受入れ促進のための指針

はじめに

「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)においては、「単線型の日本のキャリアパスでは、ライフステージに合った仕事の仕方を選択しにくい。これに対し、転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行を確立すれば、労働者が自分に合った働き方を選択して自らキャリアを設計できるようになり、付加価値の高い産業への転職・再就職を通じて国全体の生産性の向上にもつながる。」とされ、「転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行を確立できれば、労働者にとっては自分に合った働き方を選択してキャリアを自ら設計できるようになり、企業にとっては急速に変化するビジネス環境の中で必要な人材を速やかに確保できるようになる。雇用吸収力や付加価値の高い産業への転職・再就職を支援することは、国全体の労働参加率や生産性の向上につながる。」とされている。

職業キャリアが長期化し、働き方のニーズが多様化するとともに、急速な技術革新や産業・事業構造の変化により、転職・再就職はより一般的なものとなっている。特に、近年では、企業の中途採用ニーズが高まる一方、労働者においても、自らの経験・能力を活かし、成長産業等への転職・再就職を通じてキャリアアップ・キャリアチェンジを図りたいというニーズが高まってきており、企業・労働者双方において、中途採用、転職・再就職への要望が強まっている。

転職・再就職については、新規学卒後の適職選択過程、出産・育児、老親介護等、職業キャリアにおける一連の時間軸の中で、様々な場面での発生が想定される。しかしながら、我が国では、いわゆる日本的雇用システム(とりわけ新卒一括採用と内部労働市場を通じた中核人材の育成)の中で、年齢が上がるにつれて転職・再就職のハードルが高くなりやすい傾向が見られる。

年齢にかかわりなく転職・再就職しやすい環境を整備し、労働者と企業のマッチングが円滑に行われることは、労働者の能力の有効な発揮とともに、企業ひいては我が国の生産性の向上にも大きく寄与することが期待される。

本指針は、こうした観点に立ち、年齢にかかわりない転職・再就職者の受入れ促進のため、企業及び国が取り組むことが望ましい基本となるべき事項を示すものである。

第1 労働市場の現状と見通し

1 転職・再就職者に係る労働市場の現状

我が国の労働市場においては、転職・再就職者が入職者の約6割を占めており、近年では、転職・再就職者が増加傾向にある。厚生労働省「雇用動向調査」をみると、平成28年時点で、年間約768万人いる入職者のうち、転職入職者は約478万人であり、そのうち、いわゆる正社員と思われる「一般労働者かつ雇用期間の定めのない者」の転職入職者は約194万人と、転職・再就職をする者の割合は現状でも少なくない。また、転職入職者数の推移をみると、平成13年には約385万人であったが、平成28年には約478万人にまで増加している。

同調査において、年齢別に転職入職率をみると、年齢が高くなるにつれて低下する傾向にあり、34歳以下の若年層において比較的高く、35歳以上の年齢層において低い現状にある。

また、総務省「労働力調査」において、年齢別に転職を希望する者(転職希望者)と実際に転職をした者(転職者)の状況をみると、25~34歳における転職希望者に対する転職者の割合は39.3%、55~64歳における割合は46.2%であるが、35~44歳では29.7%、45~54歳では29.8%に止まり、転職希望者に対して、実際の転職者が少ない現状が見てとれる。

2 労働市場の今後の見込み

今後、ICT・AI・IoT等の更なる進展により、産業・事業構造の変化が見込まれ、こうした変化への対応として、自身の能力を活かすための転職ニーズが更に高まると考えられる。また、人生100年時代を迎え、労働者一人ひとりの職業キャリアが長期化していく中で、ライフステージに合った仕事を選択するための転職・再就職に対するニーズも高まっていくものと考えられる。

労働者は、こうした変化に対応するため、専門性を継続的に向上させるとともに、能力発揮の土台となる職務遂行能力(専門性以外の仕事のやり方、人との関わり方、適応の仕方等、業種・職種にかかわらず共通して発揮される能力をいう。以下同じ。)を向上させることが益々重要と考えられる。

第2 年齢にかかわりない転職・再就職者の受入れ促進に係る課題

第1の1で述べたように、年齢が高くなるにつれて転職入職率が低下する傾向にあるが、一度でも中高年齢者の中途採用経験がある企業は、採用に積極的になる傾向にある。また、転職後の活躍度合いは、転職による業種・職種の変化にかかわらずほぼ同様の傾向にあり、むしろ、転職後における企業の中途採用者に対する定着・活躍のサポートが重要であると考えられる。

さらに転職・再就職に係る課題として、「賃金」や「賃金以外の労働条件」が主な離職の理由となっており、多くの転職希望者が賃金の上昇や労働条件の改善を望んでいる一方で、年齢が上がるにつれて転職後の賃金が上がりにくい現状がある。

その他、転職・再就職に係る事項として、自社の社員が取引先やグループ企業へ転職することを一律に禁止する内規等を持つ企業が存在すること等が挙げられる。

第3 目指すべき方向性

年齢にかかわりない転職・再就職者の受入れ促進のためには、企業が人物・能力本位の採用という観点に立ち、中途採用者に期待する職業能力等を明確にした上で、求められる専門性や業種・職種にかかわらず共通して発揮される職務遂行能力について適正な評価に努めることが望まれる。また、個別契約等を利用した柔軟で公平な処遇決定を行い、早期定着支援に努めることが重要となる。

さらに、専門職比率と労働生産性には相関関係が認められることから、企業が専門職のウェイトを高めていくことにより、生産性向上が期待されるとともに、処遇を維持しながらの円滑な転職に資することが期待される。

国は、転職・再就職者の選考・採用に関する適切な情報発信、企業の前向きな取組に対する支援、好事例等の普及促進、各職種の賃金・働き方・職務遂行能力を含む職業能力等の見える化及び職業能力開発等の施策を充実させていくことが求められる。

企業・労働者双方のニーズに応えられるような選考・採用機会が拡大し、職業キャリアの各場面におけるマッチングの精度が向上すれば、企業は、高度な専門性や多様な経験をもつ人材の迅速な確保により、生産性の向上や、企業内におけるイノベーション創出を通じた成長が可能となる。また、労働者は、産業・事業構造の急激な変化や、一人ひとりのライフスタイルやライフステージに対応し、多様で良質な就業機会を得ることができるようになる。

第4 年齢にかかわりない転職・再就職者の受入れ促進のための方策

企業が、転職・再就職者の受入れ促進のため、取り組むことが望ましいと考えられる基本となるべき事項及び国が年齢にかかわりない円滑な転職・再就職を支援するために取り組む基本となるべき事項は以下のとおりとする。

1 企業の取組

一 募集・採用に関する取組

イ 必要とする職業能力等の明確化及び職場情報等の積極的な提供

○ 必要な人材の早期採用に向け、自社の現状や目指している方向性等を踏まえ、必要とする専門性等の職業能力の水準、範囲等を明確に整理した上で募集・採用活動を行う。また、中途採用者が担当する業務を具体的な職務内容(タスク)にまで分解することもマッチングに効果的と考えられる。

○ 中途採用者と企業のマッチング及びその後の定着を図る観点から、賃金等の労働条件や職務内容に限らず、期待する役割、職場情報、企業文化等の情報提供に積極的に取り組む。

ロ 職務経験により培われる職務遂行能力の適正な評価

○ 転職者が転職先の企業において活躍するためには、専門性に加えて、その土台となる業種・職種にかかわらず共通して発揮される職務遂行能力が重要である。こうした職務遂行能力は職務経験により培われるものであり、豊富な職務経験を持つ労働者の企業・業種横断的な活躍が期待される。選考・採用に当たっては、こうした職務遂行能力についても適正に評価するよう努める。

ハ 元の業種・職種にかかわらない採用

○ 業種・職種にかかわらず共通して発揮される職務遂行能力に着目することにより、多様な経験や職業能力をもった人材の確保が可能となることから、元の業種・職種にかかわらない募集・採用に努める。

ニ 必要とする職業能力等を持つ人材の柔軟な採用

○ 自社から転職(退職)した者等、社内・社外双方の経験を有している人材を積極的に評価し、再入社を可能とする制度を検討する。

○ 既に他の企業等において就労しており、自社において副業・兼業としての就労を希望する人材を中途採用する場合は、就業時間や健康確保、当該人材について労務提供上の支障や企業秘密の漏洩等がないか確認することに留意する。

二 入社後の活躍支援に関する取組

イ 公平かつ柔軟な処遇

○ 中途採用者の賃金決定において、外部労働市場における賃金相場に加え、社内の賃金水準や個別事情も加味し、必要に応じて個別に労働契約を結ぶなどにより、公平な処遇を柔軟に決定する。また、昇進・配置等の各処遇についても公平に行う。

ロ 早期定着に向けた支援

○ 即戦力として中途採用する場合も含め、中途採用者が企業に適応し能力を十分に発揮し続けられるよう、入社時における導入教育や社内人的ネットワーク形成の支援等、早期定着支援を積極的に行う。

ハ 平素からの従業員に求める役割の明確化及び職業能力の継続的な把握

○ 中途採用者を含む自社の従業員が能力を十分に発揮し続けられるよう、従業員に求める役割の明確化や職業能力の把握に平素から継続的に取り組む。

三 専門性等を有する従業員の活躍促進に関する取組

イ 専門性の高い従業員の活躍機会の拡大

○ 従業員の継続的な学び直しを通じた専門性の向上を図るため、従業員の学び直しに関する費用面・時間面の負担軽減に努める。

○ 専門性を有する従業員を適正に評価・処遇し、プロフェッショナルな人材の育成・活用に努める。

○ 高度に専門的な業務を切り出し、専門職等のウェイトを高めることを検討する。

ロ 従業員の主体的(自律的)・継続的なキャリア形成の促進

○ 早い段階から従業員に自身のキャリア形成を考えさせる機会や、自身の職業能力を把握させる機会を提供する。

○ 社内公募制度を導入するなど、従業員の主体的(自律的)なキャリア形成の意向にも配慮した人事管理を行う。

○ 他企業への出向や他部門への異動の経験を積極的にキャリアパスに組み込むなど、職場環境や職務内容の変化に柔軟に対応し活躍できる人材の育成に努める。

○ 転職者本人とかかわりのない取引先等への転職を禁止する競業避止義務については、長期・広範なものとならないよう、合理的な範囲のものとする。

2 国の取組

一 転職・再就職者の受入れ促進のための機運の醸成、情報発信等の取組

イ 転職・再就職者の受入れ促進のための機運の醸成

○ 本指針の周知を図るため、経済団体等への要請を積極的に行うなど、官民を挙げて中途採用拡大の機運を醸成する。

ロ 転職市場に関する情報発信、職場情報の見える化の促進

○ 転職は新規学卒時等の企業と労働者のミスマッチの是正や、産業・事業構造が劇的に変化する社会におけるキャリア形成の手段の一つであること、転職市場が拡大していることなど転職市場における動向について、正確な情報発信を積極的に行う。

○ 職場情報や雇用管理の状況等が優良な企業の認定・表彰に関する情報(ユースエール、えるぼし、くるみん、なでしこ銘柄認定企業等)の紹介など、総合的な情報提供を積極的に進める。

○ 企業に対して、中途採用の成功事例等や中途採用者の円滑な職場定着・活躍のためのポイントを周知する。

二 円滑な転職・再就職、中途採用の促進に関する取組

イ 一人ひとりのニーズに応じたマッチングの推進

○ ハローワークや公益財団法人産業雇用安定センターを通じて、労働者一人ひとりのニーズに応じたマッチングを推進する。

ロ 労働者の専門性や職務遂行能力等の見える化

○ 円滑な転職や合理的な処遇決定に向けて、各職種の賃金・働き方・職務遂行能力を含む職業能力等の見える化を推進する。

○ 企業におけるセルフ・キャリアドックの導入やジョブ・カードの活用等により、労働者の主体的、継続的なキャリア形成を促進・支援する。

ハ 中高年齢者等の中途採用拡大に取り組む企業に対する助成等

○ 中高年齢者等の採用に取り組む企業に対する助成金等を活用し支援する。

三 職業能力開発の促進に関する取組

○ 個人が各ライフステージにおいて、実効性のある学び直しを行うことができるよう、公的職業訓練や教育訓練給付による支援を行うとともに、学び手が自分の環境やライフスタイルに合った学習方法を選択できる受講環境の整備を促進する。